連載小説
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再会、腕示し
「失礼します。
ここに見学に来た竜風椿と言う者ですが・・」
「あ!そこの方、危ないですからどいて下さい!」
入って早々、かけられる言葉はそれか。
苦笑いしつつ、突っ込んでくる竜状態のラーシュをかわす。
ラーシュはそのまま曲がると、扉に体当たりしつつ外に飛び出していった。
「ギュオアアァァアッ!!」

「ああ・・あっちは元闘技場・・広いからまた大変だぁ・・」
追いかけてきた兵士達は咆哮を聞いて項垂れていた。
しかし、しっかりしているものも中にはいて、俺の方を向くと
「あ、見学者の方ですか?
すいません、今このような状況でして・・隊長でしたらあちらに・・」
と言って階段の方を指してくれた。

「あ、これはどうもご丁寧に・・」
それに応対しているとまたもや外から声が聞こえる。
「グオゥアアアァアアッ!」
「だ、誰か来てくれぇぇ!手に負えんぞぉぉ!」
これは、のんびりと挨拶をしてる場合じゃないかもな・・
そう思っていると

「お前達、何をこの程度で疲れているかッ!」
いきなり後ろから、怒鳴り声が響いた。
ギョッとしていると、兵士たちが何やら慌て始める。
「も、申し訳ありません隊長!
中々に手強くて・・しかも何やら興奮しているようで・・」
振り向くと其処には、リザードマンが居た。
「・・興奮だと?おい、もっとその件を詳しく聞かせろ。」
「はっ、顔がほのかに赤くなり、先程のような咆哮が多くなっています」
「・・お前たち」
俺が、付いて行けずに立っている間にも話は進んでいく。

「もう下がって良いぞ。」「・・はっ?」
・・?・・どういうことだろうか。
兵士たちと同じく疑問符を浮かべていると外からまた声が聞こえてくる。

「ギャゥ・・?ギャァァ・・!」
「や、やった・・やっと大人しくさせられた・・」
それが聞こえると、同時に目の前の状況も変わる。
「聞いた通りだ・・さぁ、速くいつもの場所に戻りなさい。」
「は・・はっ。了解しました・・」
兵士たちは言葉を聞くと戻って行った。
それに対して隊長と呼ばれていたリザードマンはこちらに向き直ると
「これから、ラーシュの元へと向かう。
竜風、椿と言っただろうか?あなたには、少しついてきて欲しい。」
いきなりそんなことを言った。
「え、いや、そりゃそれを見に来たんだし構わないですけど・・
隊長なんですよね、そっちの仕事は・・」
すると、ふっ、と笑ってこう言う。

「実際にはここの隊長では無い。
本国の騎士団の隊長で、ここの隊長に呼ばれて来ただけさ。
そういうのは報告書以外には無い。
その報告書も、先程書き終えてしまったのでな。
正直暇なのだ、だからついてきてくれ。」
そして、笑みを浮かべ
「・・竜風椿という名は、ラーシュから良く聞かされているよ。
この所、話すことと言えばそれだった位なのでな。」
こう言った後歩き出した。
憶えてくれて、いたんだなと心の中で呟き、俺もその後について行く。


「・・椿?椿か!?椿なんだな!!ああ、会いたかった!
何年振りだろう、しかし大きくなったなあ!」
入ると待っていたのは、人状態の彼女の熱すぎるほどの抱擁だった。
俺は割と背が高い方だと思うが、ラーシュはその上を行く。
という事は、抱き締められると胸の上に顔が丁度突っ込むことになる。
だから・・
「むっ・・!?ラーシュ、ちょ、ちょっと苦しい・・!」
こんなことになる。
その苦しさは見ている者たちには分からないもので・・

「ち・・あのやろ・・」「うらやま・・いや、けしからん・・!」
だのと言われてるのが聞こえる。
しかし、こちらは苦しい。
いや、柔らかいが!嬉しくないわけは無いが!
と、そこに助け船が入る。
「ラーシュ、嬉しいのは分かるが説明をしなくては事情がわからんだろう。」
「む、ああそうだな。」
そういって俺を解放した後、そのままの笑顔で言った。
「お前が来ると、朱連さんから連絡が有ったんだ。」
父さんも連絡は入れておいてくれたのか。
そう思っていると、間髪いれずにリザードマンが苦笑と共に説明する。

「まぁそれで気分が高揚して暴れていたのだがな?
まったく、後で皆に謝っておけよ。」
それと・・と、今度はこちらに向き直り言う。
「お前の実力を測ってくれとも言われている。
そこでだ・・剣士としての力は私が測ろう。
だが・・ふふ、ラーシュとも一戦交えてやってくれないか?」
「良いけど・・どういう事ですか?」
「そこは本人から聞いた方が良いかもな。」
すると今度はラーシュが話に入ってくる。

「私はワイバーンだ。
同属のドラゴンほどではないにしろ、私にも矜持やら誇りがある。
有り得ぬ話だとは思うが、もし椿がそこらの戦士と同じように
私に圧倒されるだけであったならば、私もお前の認識を改める必要が出る。
だから、このような方法を取らせてもらうという訳だ。」
「なるほど、乗られるからには強い者が良いってことだ。」
「そうなる、まぁお前がどれほど強くなったか見たくもあるしな。
というか、正直そっちが本命だ。」

そう言うことならば異存は無い、と伝えると
「分かった、ではまず私からだな。」
言って隊長のリザードマンが剣を構え斬りかかってくる。
「私は、ザリー。いざ、勝負!」
ザリーの剣を手で受けようとする・・が、
そこは魔物と人間、力の差は瞭然だ。
そう判断し無理せず避けつつ、呟く。
「リザードマンという種族は、もし負けたら求婚をすると聞くが・・」
すると、聞こえていたようで
「自惚れるなよ?私にも夫ぐらいいる!」
剣を切り返してくる。

「それを聞いて安心した・・全力を持って相手させてもらおう!」
左手は刀に、右手は剣を抜く。
しかし刀は未だ左手で抜かれてはいない。
「剣と刀・・不思議な組み合わせだ・・だが!」
中段で突っ込んでくるザリーに右手の剣を振りかざす。
「甘い!」
するとこちらから見て右に距離を取り剣をかわされた。
そのまま、彼女は切りかかろうとする。
しかし、俺にとっては想定内の事だった。
「甘いだと・・?」
外した剣を地面に突き刺し、左手で刀を抜く。
そのまましっかりと剣を握り支えにして
突っ込んでくるザリーに回転切りをかます。
またもや受け流されるが・・

「くっ!?やるな、だが・・」
「まだだッ、逃がすか!」
回転切りの勢いそのままに、引き抜いておいた剣で彼女の剣を弾く。
瞬間、掴みかかってくる彼女の手。
正直面食らったが、ねじ伏せられそうになりながらも
地面すれすれで足に力を込めて、背負い投げの形を取る。
最後に、倒れた彼女の首筋に刀を突きつけた。
「勝負あったな、ザリーさん。」
対して彼女は、いきなり笑い出した後、しかし真剣な顔になった。
「ははは、ラーシュが期待するだけのことはある。
だが・・あくまで私は前座に過ぎん。」
「分かってますよ、俺はラーシュに力を示さないといけない。」
そう、あくまで先程のは準備運動に過ぎないのだ。
厳しい顔をしていると、ザリーからあるものを渡された。
「これを渡しておく・・魔界銀製の剣だ・・
魔力を込めてあるから、勝負を決めるときに使うと良い。」
「ありがとうございます。」

俺がラーシュに振り向くと、そこには翼を広げ
臨戦態勢に入った飛竜状態の彼女が居た。
準備は万端とばかりに、口元からはチラチラと炎まで出ている。
「ラーシュ、待ちくたびれたか?」
「いや・・闘いを見せられては興奮せずには居られなくてな。」
「分かった・・じゃ・・」
構えを取って、準備が出来た事を伝える。

「良いのか?私に先手を与えて・・!」
次の瞬間、ラーシュは空中で一回後ろに下がり力を溜めた後
凄まじい速度での蹴りを放ってきた。
その衝撃で、軽く地面が抉れたのが分かる。
咄嗟に回避行動を取るが、地面から衝撃が伝わりよろけてしまう。
「だから言ったじゃないか・・だが!」
そこに容赦なく、炎が放たれた。
その射線を目で追うと俺と彼女の周りを囲むように放たれたのが分かる。
「これで逃げ場は無いぞ・・!終わりだ、椿!」
確かにこのままでは勝機は無い・・かくなる上は・・!
覚悟を決め突っ込んでくるラーシュを納刀して待つ。

「諦めたか!期待はずれにも程がある!」
半身をずらし、ギリギリで突進をかわす。
風に体を引っ張られるが・・
「期待か・・応えてやるよ!」
逆にその風に乗り、彼女の背に着地する。
しかし、その程度で勝たせてくれるほど彼女も甘くは無い。
今度は、角度をつけてアクロバティックな変則飛行をしてきた。
「うおっ!?」
必死で彼女の背に掴まり、振り落とされないようにする。

「おお、まだ耐えるか!
ほかの奴らはこれだけで吐くものもいたというのに!」
一瞬彼女の動きが緩まる。
俺は何か嫌な予感がして、その首に足を絡めしがみついた。
程無くしてその嫌な予感は的中した。
グルグルとラーシュは回転し上昇し始めたのだ。
おかしくなりそうなほどスピードをつけ天に昇り今度は・・
「このまま、地面に叩きつけてやる!
ふふ、安心しろ!死なぬようにはしてやるさ!」
ほぼ垂直に急降下し始めた!

くっ・・何か・・何か無いのか!
そこでふと先程もらいうけた剣を思い出す。
これならば・・!
そう思い、もう地面が見えてきたかと言うあたりで剣を抜き斬りつける。
しかし、揺れるラーシュの上ではまともに当たらず手から離れてしまった。
放たれたそれは、彼女には当たらず地面に転がってしまう。
「それが足掻きか!?残念だったな!」
遂に振り落とされ、地面に投げ出された。
「ぐぅあっ!?」
咄嗟に受け身は取ったものの、衝撃は消せずゴロゴロと転がった。
体中、特に受け身を取った左腕に激痛が走る。
この痛みではもう、まともに立つのも精いっぱいだろう。
転がっているとラーシュが降りてくる。

「よく頑張ったな・・さぁ、口付ければ私の勝ちだ・・」
咬み付くことを言っているのだろう。
と、ここでふと右手の辺りに転がっている剣に気がつく。
これは・・そうだ、先程・・
じわじわと近付いてくるラーシュを感じながら、最後の足掻きを思いつく。
それにはもっと、ラーシュが近付いてこなければならない。
「その傷ではろくに動けもせんだろう・・」
もっとだ・・もっと近づけ・・!
そう思う間にも、彼女の牙が顔の上に来る。
「さぁ!これで私の勝ちだ!」
そういって、顔を下げてくる彼女。
「今しかない!」

最後の力を振り絞り彼女の下を潜り抜けその首筋に
「この瞬間を待っていたんだーっ!」
渾身の力を込め剣を押しつけ、斬った。
続けて胸、心臓の辺りも斬る。
「う・・!?ぅ・・!力が・・!」
どうやら上手く行ってくれたらしい。
次の瞬間、ラーシュが倒れこんでくる。
なんとかその範囲から出て、倒れた彼女の鼻先に
「俺の・・勝ちだな・・ラー・・シュ・・」
剣を突き付ける。

直後俺の意識は、落ちかけた。
激痛のせいか、疲労のせいか、はたまたその両方か・・
それは分からないが、ラーシュの口元が笑ったのは何となくわかった。
くっそ・・まだ少し余力残ってたのかよ・・
そう思った次に彼女の鱗を感じつつ今度こそ俺の意識は落ちた。

・・続く。
13/08/10 20:48更新 / GARU
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■作者メッセージ
戦闘描写難しいよ・・
どうすればいいんだろう。

それはそうと、楽しんでいただければ幸いです。

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