読切小説
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紳士終了のお知らせ

「お疲れ様でしたー」
「はぁいお疲れ様ー。気を付けて帰ってねー」
「はいー」

 園長に一礼してから、扉を閉める。
 今日も無事に仕事を終えた。

「ふいー」

 保育園に勤め始めて半年。
 初めのころは元気すぎる子どもたちに手を焼いたものだが、やっとこさ子どもの相手をするのも馴れて、心身ともに余裕が出てきた。

 が、余裕が出てくると、むくむくとわいてくるものがある。

「……今日も可愛かったな……」

 子どもたちの姿を思い出して、でへりと笑みがこぼれる。
 だってほら、ちっちゃな子どもが後ろについてくるんですよ?

「せんせーあそぼー♪」

 とか言ってしがみついてきたり、
 お昼寝の時間には、

「せんせーいっしょにねよー」
「せんせーはわたしといっしょにねるのー!」

 とか、

「せんせーすきー♪」

 って抱きついてきたりとか!!
 もうワタクシ股間のグングニルが エ レ ク チ オ ン ! !

 ええそうですとも。
 ロリコンですとも。
 俺はロリコンですとも。
 Yes! I’m just ガチロリ!!
 幼女と戯れるために保育士になったんだもの。
 女の子可愛いよハァハァ。
 しかしだ。
 俺は幼女には触らない(性的な意味で)。
 幼女とは眺めて愛でるもの!! お手を触れてはなりませぬ!!
 それが紳士協定と言うものである!!

 イエスロリータ! ノータッチ!

 ワタクシロリータコンプレックスですけれども、ペドフィリアではなくてよ。
 我こそは紳士である。
 数多の先人や同志たちを見習い、決して手は出さない。
 俺が、俺たちが紳士だ!

 ふぅ。

 大きく息を吐いて、ついつい白熱した紳士の思考を冷ます。
 最近は寒くなって来たし、さっさと帰ろう。
 自転車を漕ぎ漕ぎしつつ、夕飯はどうしようか考える。
 ほかほかな弁当屋さんで買って帰るかぁ。
 道の端にあった大きな何かを回避して、

「――――ぅぉおおおっ!?」

 急ブレーキ。
 なんだいまの。
 地面を蹴ってバックして、さっき避けた大きな何かをよくよく見る。
 それはまるで子どものような。

「おいいいいいい!?」

 慌てて自転車から飛び降りて、それに駆け寄る。
 間違いなく子ども。しかも幼じげふんげふん十歳くらいの小さな女の子だった。

「ちょ、ちょちょちょ!? 大丈夫!? 大丈夫かもしもしー!?」

 えええとこういうときはどうするんだっけそうだほっぺたをぺちぺち叩いて起きてるかどうかを確認するんだっけぺちぺちうわぁほっぺたぷにぷにで柔らかくてきもちいいいい

「じゃなくて!!」

 意識をしっかり持て他でもない自分が!!
 道端で幼女が倒れてるとかギャルゲかラブコメでしか見たことが無いようなシチュエーションでテンションが舞い上がっている。
「落ち着け俺よ。クールになるのだ。Be Kool」

 深呼吸。吸って、吐いて、ひっひっふー。

「も、もしもーし、大丈夫かー?」

 落ち着いて、少女のほっぺたをぺちぺちと叩く。

「……うぅん……」

 小さなうめき声。可愛い声だなぁ。じゃなくて。
 いかんマジで落ち着け。
 起きてる様子はない。頭を打っているのかもしれない。
 こういうときは……

1.自分の部屋に連れていく
2.とりあえず人気の無い所に連れていく
3.今のうちに色々と触っておく

 うーん、1かな。

「いやいやいやいや! 救急車だから!?」

 さっきから思考がおかしい。
 これは良くない。早々に救急車を呼んで任せてしまった方が良い感じ。
 ちょっと残念だけれども!
 ポケットから携帯電話を取り出して119をプッ――

「んん〜〜〜」

 ――シュするよりも先に女の子が体を起こした。

「あ、わ、大丈夫?」
「んー……眠いー……」

 ぐしぐしと眼を擦りながらゆらゆらと揺れている女の子。眠いって、君ねぇ。

「だからって道の真ん中で寝るもんじゃないと思うけど」
「うー……ふあぁぁぁ……」

 不満そうに唸って、大きく欠伸。そこで俺と眼があって女の子はぱちりと眼を開いた。
 そして、くりっと小さく首を傾げて、

「お兄ちゃん、だぁれ?」
「げふぅ」

 クリティカルヒット!!

 心の臓を打ち抜かれたような衝撃が全身をかけぬけた!
 やばい。可愛い。かわゆい。死んでしまう。萌え死してしまう。
 全身から溢れ出そうになった何かを必死に押さえつつ、精神よ落ち着け!!
 いやぁやばかった。非常にやばかった。
 かわういようじょがにぱっと笑って小首を傾げて「お兄ちゃん」て。
 殺す気か!!
 なんとか平静を取り繕って笑顔を向けた。

「ええと、通りすがりのおにーさんなんだけど……。お名前は?」
「フィリアっていいます!」

 フィリア。日本人の名前じゃないな。外国人か? にしては日本語がお上手。まさかDQNネーム!?
 いや、名前のことはいいや。もっと大事な事があるし。

「ええと、フィリアちゃんはどうしてこんなところで寝てたの?」
「眠たくなったから!」

 元気な返事をありがとう!

「そっかぁ、眠たくなったから寝てたんだぁ。でも外で寝るのはすごく危ないから、もうやっちゃだめだよ」
「んー、わかった!」

 素直でよろしい。
 腕を引っ張って立たせてあげて、頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑った。カワユス。

「さて、もう暗いから早くおうちに帰りなさい。お母さんが心配してるよ?」
「んー……」

 俺が言うと、フィリアちゃんはうつむいてしまった。

「おうち、帰りたくない……」
「え。何で?」
「帰りたくない」

 そう言って、フィリアちゃんは俺の服の裾を掴んで黙りこんでしまう。ぎゅーっと掴んでいる姿は不謹慎だが可愛い。

「うーむ」

 どうしたものか。
 なにやらただ事じゃない様子のフィリアちゃん。このままタダで俺を帰らせてはくれなさそう。

「あっ」

 不意に、ぱっと彼女が顔を上げた。その顔には満面の笑み。

「お兄ちゃんといっしょがいい!」

 What?

「フィリア、お兄ちゃんのおうちに行きたいなぁ〜」

 いやいやいやいやないないないない。
 落ち着け。やまだかつてない異常事態になんだかいろんな所が妙な事に。
 ええと、こういうときは……

1.連れていく
2.連れていく
3.もう今ここで

 うーん、1かな。

「いやいやいやいやないないないない」

 さっきから選択肢3は自重してくだしあ!!

「……だめ?」

 くりっと首を傾げて、少しだけ眉を寄せて、フィリアちゃんがうわあああああああああそれは反則うううううううううううおおおおおおおおおああああああああ!!!

 しかしだ!

 ここは断固として拒否をしなければならない!!
 紳士として! いえす、あいあむじぇんとるまん!!

「……だめ……?」
「イインダヨー!!」

 ジワリと涙を浮かべたフィリアちゃんに、俺は陥落した――。


  +  +  +


「おじゃましまーす♪」
「……はは……ただまー……」

 ああ、結局アパートまで連れて帰ってきてしまった……。
 良くないことであるのは分かっているのだけれど、泣く幼女には勝てない。
 もし問題になった時には裁判にも勝てないけど。
 まずい、マジで人生が終わる一歩手前なのかもしれん。
 ぱちりと部屋の電気を付けると、ぱたぱたと嬉しそうにフィリアちゃんが入っていく。
 うーむ、さっきまでは薄暗い外だったからよく分からなかったけれども、明るい所に来たらよく見える。

 この子、相当可愛いぞ。

 肩まで伸ばされたふわふわの金髪に、青く透き通った眼、雪のように白い肌。
 子どもらしく愛らしい丸顔はころころと表情を変えて、この世の全てを魅了している。
 臙脂色のジャケットと若草色のミニスカート、白黒ストライプのオーバーニーソックスが萌え死ぬほど似合っている。
 ロリコンでなくても変な気になってしまうのではないだろうか。
 それほど、フィリアちゃんは可愛かった。
 そしてそれと同時に身の危険。
 俺が理性を保てるかどうか……!!

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「HAHA、何でもナイヨ。大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ」
「変なお兄ちゃん」

 フィリアちゃんはくすくすと笑いながら俺のベッドに腰掛ける。
 ひゃあ! 太ももの奥にちらちらと見える白いものはなんですか!!

 A.布。

 そう、アレは布なんだ! 布だから興奮なんてしません。そう、アレは布なのです。
 アレは布。あはれ布。ぱんちゅじゃにゃいよアレは布なのです。

「あ、そうだ」
「なにぬねの!?」

 何を言っているんだ俺は。

「な、なにかな?」

 なんとか意味のある言葉を絞り出す。
 フィリアちゃんはにこにこと笑みを浮かべている。

「わたし、お兄ちゃんのお名前聞いてない」
「え、ああ。そういえばそうだね」

 こんなことになるとは思わなかったから名乗ってないや。

「えーっと、俺は田井猛(たい たける)。たけるで良いよ」
「んー」

 俺が名乗ると、彼女は何かを考えるように首を傾げる。

「んーっとね」

 フィリアちゃんが、もじもじと、照れるようにはにかみながら言った。

「たけるお兄ちゃんって、呼んでいい?」





 おれは しんでしまった。





「わぁ! たけるお兄ちゃん、鼻血出てるよ!?」

 はっ! 生きてる!?

 慌てて鼻の下をぬぐうと、べっとりと血が。
 ぺろ……これは……萌血!
 萌えという強い感情が限界突破した時に、全身に漲ったソウルが血と言う形で鼻から零れ落ちる。それが……萌血!
 まさか自分が萌血を流すことになるとは夢にも思わなかった。
 俺はもう……このまま朽ちても未練はない……!

「たけるお兄ちゃん……大丈夫?」
「HAHA、大丈夫さ。君と出会えたこの奇跡に感謝していた所だよ」

 萌血噴出と同時にちょっぴりエレクチオンしちったなんて死んでも言えない。
 ティッシュ数枚で顔をぬぐい、一枚丸めて鼻に詰め込む。

「たけるお兄ちゃん、面白い顔!」

 うっせ。
 フィリアちゃんが笑っているが、いかに幼女とはいえ顔が面白いと言われてもあんまり嬉しくない。
 心が狭いと言ってくれるな、だって私は小市民。
 とりあえず、萌血のついた手を洗って、

「ご飯にしよっか」
「うん!」

 帰り道で買ってきた弁当を卓袱台に並べるのだった。


  +  +  +


「ふぁぁ〜……うみゅぅ……」

 フィリアちゃんが、口に手を当てて大きくあくびする。
 子供らしく、お腹がいっぱいになって眠くなったのだろう。
 まあ、時間も既に十時前だし、小さな子どもならば普通寝ている時間帯である。

「眠い?」
「……ねむくないよぉ……ふぁぁ……」

 目をこすりこすり、あくびをしながら言われても説得力がありませぬ。

「ん〜……たけるお兄ちゃーん」

 寝ぼけ眼でフィリアちゃんがこちらへ寄ってくる。
 そして俺の首に抱きついて、

「……ねむいー」

 ひぎゃああああああああああ近いちかいチカイ誓いよおおおおお!?

 やべーフィリアちゃんすげーいーにおいがするなんかこうミルクみたいなはちみつみたいなすごいあまいにおいがはちみつミルクスーハースーハークンカクンカ
 おおおお落ち着けクールになれ。俺が、俺たちがお兄ちゃんだ!

「HAHAHA、ほら、ベッド使っていいから」

 よし、なんとか平静を装えたぞ!

「でもー、たけるお兄ちゃんはどこで寝るのー?」
「布団がもうワンセットあるから」

 しかしアレだ。子どもって温かい。抱いて寝たらとても気持ち良く寝れるだろうなぁ。そのまま二度と眼が覚めない気さえする。

「えー……お兄ちゃんと一緒に寝るぅ……」

 こらこら、我がまま言っちゃあダメ。

「フィリアちゃんマジカワユスハァハァ俺の股間のロンギヌスがフルボルテージで竜撃砲発射寸前なんだがゲイボルグはダメだな語感が悪いウホッでアッーになっちゃうマジゲイ掘る具」

「えっ」
「あばばばばばばばばば何でも無いなんでもないナンデモナイヨ!!」

 ふおおおおおおおおお心境と口に出す方を間違えたああああああああああ!!
 フィリアちゃんはキョトンとしていて何を言ったのか分かってない様子。

「たけるお兄ちゃん、こかんのろんぎぬすがふるぼるてーじって、なぁに?」
「よーしお兄さんお布団敷いちゃうぞー」

 フィリアちゃんの危険な問いかけを華麗にスルーして、彼女を抱きかかえたまま布団を敷く。
 どう見ても全力のごまかしです本当にありがとうございました。
 でも答えるわけにもいかないシね!!!

「ほほほほーらフィリアちゃん、寝んねしようねえええええ」

 フィリアちゃんをベッドの上に横たえる。彼女はとても不満そうな顔で、俺の首から手を放してくれない。

「うー……お兄ちゃんと一緒がいい……」
「俺はちょっとやることがあるから」

 寝る前に一度抜いておかないとマジでやばいことになりかねない。トイレでやろうそうしよう。

「うー……」

 俺が言うと、フィリアちゃんはしぶしぶと手を放してくれた。やれやれ一息。

「……お兄ちゃん、あのね」

 と、彼女は眠そうな目を少しだけ細めて小さく笑った。

「ん、なに?」

 聞くと、ちょいちょいと俺を呼ぶ仕草。何事かと顔を近づけると、

「おやすみの……ちゅ」

 ちゅ


(省略されました。全てを読むにはバッフォイバッフォイと書きこんで下さい)


  +  +  +


「ば、バッフォイバッフォイ!!!」

 はっ!?

 辺りを見回す。明かりの無い真っ暗闇。しかし何故か判る、自室の雰囲気。
 お、俺は気絶していたのか?
 くそっ、なんと言うことだ。あのぷにぷにのまろやか唇を堪能できずに気絶してしまうなんて紳士の名折れ……じゃなくて。
 フィリアちゃんのおやすみのちゅーに頭がフットーしてフリーズしてしまったようだ。
 フットーなのにフリーズとはこれいかに。
 なんだか今日一日で、今まで越えられなかった壁を何度も越えてしまっている気がする……。
 それもこれもフィリアちゃんが即死級の必殺技を繰り出してくるのが悪い。
 あ、いけね。フィリアちゃんは悪くない。
 可愛いは正義。可愛いは絶対正義。美しいは罪だけど、可愛いは正義。マジ正義。
 フィリアちゃんは悪くない。悪いのはお兄さんですマジサーセン。

 暗闇の中にぼんやり浮かぶ時計を睨みつけて、現在時刻を把握する。
 二時。午後二時って言うのはまずあり得ないだろうから(暗いし)、午前二時。
 ええと、確かさっき十時前だったから、俺は四時間も気絶してたのか!
 なんと言う破壊力。フィリアちゃん恐るべし。
 部屋は暗闇。フィリアちゃんも既に寝てしまったのだろう。ベッドの上の小さな山は、じっと動かない。
 俺もさっさと寝るか。布団をかぶって眼をつぶる。


   くちゅ


 …………?


 ぐちゅ  ぬちゃ

「……んっ……」

 コレハイッタイ、ナンノオト?

 くちゅくちゅという、粘性の高い液体をかき混ぜるような音と、

「……ふっ……んんっ……」

 押し殺された、女の子の熱い吐息――否、喘ぎ声。


 カノジョハイッタイ、ナニヲシテイルノ?


 わからない。わからない。わかりたくない。
 心の中で、そんなはずないと言い聞かせる。
 そう、そんなはずがないのだ。
 そんな、まさか、こんな小さな女の子が、
 生理も来てなさそうな女の子が、
 二次性徴も迎えて無いような女の子が、
 その行為の意味も知らなさそうな女の子が!!


 お、オナニーしてるとか……。


「ふぁっ」
「っ!!」

 ここここれは悪い夢ですね本当にありがとうございました。
 こんなに心臓に悪い夢はさっさと別の夢に切り替えるのがステキです。
 さあ寝よう早く寝よう今すぐ寝よう!!
 眼をつぶって息をひそめる。喘ぎ声も水音も聞こえない聞こえない。

「……ふふっ」

 …………?

 フィリアちゃんが笑ったように聞こえた。何かあったのだろうか。じっと耳を澄ます。


「 お に い ち ゃ ん 」


「――――ひっ!?」

 唐突に、本当に唐突に自分のことを呼ばれて、思わず声を上げてしまった。
 すぐ後ろに、フィリアちゃんが座っている。見えないけど、分かる。寝ている俺を見下ろしている。
 そっと、背中に小さな手が添えられた。そして、触れられたシャツがじんわりと湿り気を帯びていく。

「ねぇ、おにいちゃん」

 ぞっとするほど艶っぽい声で、耳元でささやかれる。

「聞いてたでしょ?」
「な……なにを?」

「わたしの、えっちな音」

 どくんと、心臓の跳ねる音が聞こえた。
 大蛇に巻かれてしまったような恐怖を覚える。あの愛らしい女の子が、得体のしれない生き物に変わってしまったような。それなのに、彼女の小さくて柔らかい手の感触と、甘い香り、そして妖艶さに興奮もしている。
 背筋を走る悪寒と、下半身に渦巻く熱が思考を真っ白に焼いていく。
 俺の返事を待たず、フィリアちゃんは続けた。

「おにいちゃん、わたしのこと、好き?」
「う、うん……好きだよ」

 彼女の問いに恐る恐る答える。好き。それは間違いない。今はなんか少し怖いけど。
 俺の答えに、フィリアちゃんはくすりと小さく笑ったようだった。

「よかった。わたしも、たけるお兄ちゃんのこと好きだよ」

 ざわりと、鳥肌が立つ。何故かはわからない。なにか、取り返しのつかない事を、してしまったような。

「ね、好き同士なんだから、してもいいよね?」

 なにを? と聞く前に、俺の体は彼女の方を向けられる。
 息を飲む。フィリアちゃんは裸だった。

「お兄ちゃん、えっちなこと、しよ?」

 一糸纏わぬ姿で、窓越しの月を背負った小さな女の子。
 にっこりと、愛らしい笑みを浮かべたフィリアちゃんが、何故か禍々しく見えて。


   魔女。


 そんな言葉が脳裏をよぎる。
 間違いない。この子は魔女だ。俺は魔女の罠にかかってしまったのだ。
 笑う彼女が、俺の頬を撫でる。

「だいじょうぶ、こわくないよ」

 その言葉に答えるように、俺は体を起こした。
 フィリアちゃんは笑みを深める。

                ダメだ。

 頬を撫でる彼女の手に、俺の手を重ねて。

                それ以上いけない。

 彼女の手の甲に、誓いの口づけを――――

                紳士協定を思い出せ。

 ――紳士協定を思い出せ。


 最後の理性が防壁を築いていく。
 紳士。倫理。法律。子ども。幸せ。未来。
 シンシンノミハッタツナジドウヘノインコウハ
            カレラノセイジョウナハッタツヲソガイスルカノウセイガ――
 思い出せ。紳士協定は、誰のための、何のための協定か――
 他でもない、女の子を守るための協定――

 フィリアちゃんを傷付けたくない。
 フィリアちゃんが好きだから。

 止まった。思い留まった。
 俺は魔女の誘惑を振り切った。
 俺は本能に打ち勝ったのだ――――

「優しいね、お兄ちゃん」

 フィリアちゃんは、重ねた俺の手を取って、自分の頬に触れさせた。
 柔らかい、白い頬。
 俺に言い聞かせるように、彼女は口を開く。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

 ちゅ

 口に、キスを、されてしまった。

 それだけで、俺のなけなしの理性は、完全に溶かされてしまった。
 そして、魔女は俺の耳元で囁いた。

「わたしは、合法だから」


 ――――ああ


 ――――合法なら、いいよね


 俺は、自分からフィリアちゃんに唇を重ねた――――



  +  +  +


 夢でした☆

「おいィィィィ!?」

 ウソだろ!? なんかもういろいろと投げ捨てたのに!?
 そんな悲しい夢があるわけが!!

「たけるお兄ちゃん」
「ファオッ!?」

 呼びかけられて我に返ると、フィリアちゃんが俺のお腹の上に乗っかっていた。

 全裸で。

「おはよう、お兄ちゃん」
「お、おはよう、フィリアちゃん」

 にっこり笑顔で挨拶されたら、返さずにはいられない。
 そして気づく。俺も裸だった。

「おおう……」

 やっぱり夢じゃなかったんだ。夢じゃなかったんだ……。
 うーん、嬉しいような、悲しいような。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ、いや」

 声をかけられてフィリアちゃんの方を見る。全裸だった。アカン。

「うん、いや、うん。アレだ。フィリアちゃん、まずは服を着よう。そうしよう」

「えー、裸の方がいいよーぅ。お兄ちゃんの気持ちがいっぱい伝わるもん」
「お洋服着て下さいオナシャス」
「ぶー」

 しぶしぶと服を着ていくフィリアちゃん。俺も服を着た。

「ん〜〜〜〜」

 ブラウスのボタンを留めるのに苦戦しているようだ。ちくしょう可愛すぎる。

「お兄ちゃん……」
「いいよ、いいよ……! お兄ちゃんがボタン留めてあげるからね!」

 ブラウス越しに柔らかくて白い肌が! ちいさなポッチが透けて見えて……!

「……フィリアちゃん、シャツも着ようね……」
「はぁい」
 ブラウスを一度脱がして、肌シャツを着せて、再びブラウス。
 スカートは自分ではけるようだ。しかし、

「フィリアちゃんぱんつはこう」
「ぶー」

 わざとか。わざとなんだな。ちくしょうクソ可愛い小悪魔め……!
 するすると白いぱんつをはいて、いやそんなスカートがめくれるかめくれないかの位置でスローとかしなくていいからさ。

「お洋服を着ました!」
「はい、よく出来ました」

 準備が整ったので、俺は正座をして姿勢を正す。

「フィリアちゃん、ちょっとそこに座ってください」
「ん? うん」

 そう言って俺の膝の上に座るフィリアちゃん。

「いや、うん、いや、えっと……まあいいや」

 彼女を後ろから抱き抱えて、話しをする。

「……フィリアちゃんって、結局何なの?」
「んー? フィリアはフィリアだよ?」
「……そういうの、いいからさ」

 今さらながら、フィリアちゃんが普通じゃない存在なのは、わかった。
 ただの子どもじゃない。性に聡い子ども、では済まされない。
 あとあざとい。あざといかわいい。

「うーん……。うん、たけるお兄ちゃんには、ちゃんと言うね」

 彼女は、膝の上から器用に俺の方を見上げた。

「わたしね、魔女なの」
「……魔女」
「うん。男の人に、えっちなことをする、魔女」

 マジで魔女だった。

「だからね、フィリアは、合法ロリなんだよ?」
「マジッすか」
「マジだよ!」

 わぁい合法ロリだーフィリアちゃんに対する淫行は許されたー。

「それでその……目的? とかってあるのかな。俺は見事に釣られちゃったわけだけど」
「目的? 目的はねー、この世界に、ロリコンのお兄ちゃんをたくさん増やすことなの」
「……俺は、そのうちの、一人?」
「うん!」
「あー……」

「あ、違うよ? わたしの相手はたけるお兄ちゃんだけだよ?」

「えっ」
「ロリコンお兄ちゃんを増やすのは、わたしの目的って言うか、わたしたちの目的なの」
「わたし……たち?」
「うん! サバトって言う、ロリっ娘の教団があるのね。わたしは、その一員なの」
「ほ、ほぉ……」
「だからね、たけるお兄ちゃんに、わたしのお兄ちゃんになってほしいなって」
「ああ、うん、それはいいんだけど」
「ホント!? やったあ! お兄ちゃん大好き!」
「えっと、それで、その……」
「??」
「……え、それだけ、なの? 俺がフィリアちゃんのお兄ちゃんになるだけ?」
「うん! えへへ、うれしいなぁ。たけるお兄ちゃん優しいから……」


「あ、でも」


「たくさん、えっちしてほしいな☆」


 おしまい
20/08/15 18:33更新 / お茶くみ魔人

■作者メッセージ
じんぶつしょうかい
田井猛(たいたける):ガチロリコン紳士。理性頑張った。幼女には勝てなかった。保育士一年生。
フィリア:あざと可愛い魔女。あのあざとさが、天然なのか、計算なのかは本人しか知らない。合法。これ大事。


3年前に書きあがっていたのに放置してあった作品を発掘してしまったので投稿。
なんで放置してたんだろう……。

どうでもいいけどカテゴリに「コメディ」が欲しいと思う今日この頃。
あとエロありと微エロの境界って難しいよねって。

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