連載小説
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生還→視線
その後、あっけ無いほど治療は成功。皆の予想通り、望は男の姿のまま目を覚ました。
泣きつく望の母親と、拳骨を落とす望の父親。俺は呆れた顔で言った。

『だから言っただろ?「前向いて歩かないと危ないぞ」って』
その時、泣くのを必死に我慢していたのは俺だけの秘密だ。



2週間後
『インキュバスになったって聞いたけど、見た目は全然かわらんのな』
『そうかな・・・?』
『ああ。もっとこう、角とか尻尾とか羽とか生えるのかと・・・』
『それじゃ、サキュバスだよ』
『それもそうか』
その日もいつも通りバスケ部のメンバーと部活に励んでいた。インキュバスとなったことは教師からクラスに伝わり、望の口から部活のメンバーにも報告した。しかし、こちらも予想通り「ふーん」程度でそれ以上は何も無かった。魔物娘もインキュバスも当たり前の世代である俺たちには、大して重要なことでもなかったからだ。望のじいちゃんばあちゃんは腰を抜かすほど驚いたらしいが・・・。

しかし・・・
俺には、いや、俺にだけは影響があった。
元々、中性的だった望はインキュバスとなったことでより美的になった。2次成長期特有の吹き出物も無い白くてキレイな肌に、無駄毛の1本も生えない手や足。それらはバスケのユニフォームでは殆ど隠されず、丸見えである。運動していると赤みの刺す頬に、息が上がって口からは「はぁはぁ」と荒い息を吐く様を見ていると良からぬ妄想をしてしまう。



『なー、インキュバスって魔物娘にモテるんだよな?』
望との1on1が終わり、休憩している時に疑問を投げかけてみる。
『んー?そうらしいけど、全く声掛けられないな。・・・嫌味か?』
どうやらモテていないらしい。・・・なるほど、そうかそうか。
『人間の女からは?』
『・・・死ねよ』
人間の女にもモテないらしい。ふむ、ならば本題を・・・
『じゃあさ、


・・・人間の男からは?』


『・・・・・・・・・・・・・・は?』
あれ、自然な流れで聞けたと思ったんだけど・・・外したか・・・?
『い、いや、何となくだぞ?単なる好奇心だぞ?』
必死になっているのがバレ無いように取り繕う。
『そんな必死にならなくても・・・んー、そうだなー・・・』
人差し指を顎に当てながら考える仕草さえも絵になる姿に、ついつい目が離せなくなってしまう。
『そう言えば・・・』
『・・・そう言えば?』
そこまで言うと、望はおもむろに顔を近付け俺にしか聞こえない声で呟く。


『最近、やたら視線を感じるんだよ』
『・・・何?』
視線だと・・・?授業中や昼飯時、部活の時も下校時も望と一緒だが不審な人物に心当たりはなかった。しかし、人間よりも優れた能力を持つ魔物になった望が言うのだから気のせいではないだろう。
『心当たりは・・・?』
俺も顔を寄せ、真剣な顔で望に聞いてみる。すると望はすっと顔を離し、さっきとは逆におもむろに立ち上がるとニヤッと笑ってある人物を指差した。










『お前』










『・・・・・・・は?』
今度は俺が素っ頓狂な声を上げる。
『いや、最近さー・・・四六時中、誠司の視線を感じるんだよな。さっき1on1してる時も足やら手やら首元やらずっと見てただろ』

望から顔を逸らせず、声も出なかった

『え、いや、そりゃ、見るだろ・・・?1on1なんだから・・・?それにバスケの時は眼鏡外しているから良く見えないんだよ・・・』
やっと出た言葉は少し震えていた。
『ふーん・・・そうだな、1on1なら見るのも仕方ないか。変なこと言って悪かったな!練習の続きやろうぜ?』
そう言うと望は悪戯が成功したような顔をして、座ったままの俺に手を差し出した。
『な、なんだ・・・冗談かよ!』
望の手を握り、立ち上がろうと前かがみになった俺の目の前には、ユニフォームの襟が垂れて胸が丸見えの望がいた。
『(うおっ!ち、ちくっ・・・!!!!)』
『ん?』
固まった俺に望が首を傾げる。
『な、なんでもない!(やばいやばいみるなみるな)』
急いで目を逸らし、バッと立ち上がる。
『さ、さあ、練習に戻ろうぜ!(てか、男相手に何を意識してんだ!本当に変態か俺は!)』
望から逃げるように離れてコートに戻った俺には、望の問いかけは聞こえなかった。


















『・・・なあ、誠司。お前、今ドコ見てた?』
13/12/19 21:44更新 / みな犬
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