私を拾ったのはちょっと変な人間でした
温かさと柔らかさと匂いとが私を眠りに誘い、このままずっとずっとこうしていたいと身体をぎゅっと縮こませる。
生まれて初めて味わう安らぎに心も身体も油断しきって、もし今、外敵に襲われたら逃げることもできず食べられてしまうだろう。
前はそれなりに強く獰猛だった私から“牙”を抜き去ってしまったのは、優しくて恥ずかしがり屋で世話焼きな人。
ずっとこうしていたいと思う私の頭を撫で、私の顔を見ながら自分は眠気と戦っていることだろう。
一緒に寝たいと思う私。
このまま膝を借りて、頭を撫でていてほしいと思う私。
きっとそんなことを言えば「甘えるな」と言いながら、取り合えず後者の幸せを続けてくれるだろう。
『ん〜、ごしゅじーん・・・』
そんな葛藤に頭を悩ませていると、ついつい声に出してその人を呼んでしまった。
その人は眠い目を擦りながら何事かと尋ねてくるが、明確な答えを出すことのできない私は、「んー」と唸りながらご主人の膝に顔をより深く埋める。
こうすると温かさも柔らかさも匂いもより強く近く感じることができて、さっきまでの二者択一が一気に後者に傾き始める。
『ごしゅじーん、いつまでこうしててくれますか?』
顔は埋めたまま、その人の耳にだけ聞こえる大きさの声でお伺いを立てる。
顔を上げないのはその人の顔を見ないため。
恥ずかしがり屋なその人と顔を合わせると、きっと素直になってくれないから敢えてこうしている。
『・・・あと、10分。膝、痺れるから』
きっと今、すごく恥ずかしそうな顔をしているに違いない。
見たい、すごーく見たい!
でも、見たらきっと照れて怒って膝枕を取り上げられてしまう。
『うぇ〜、10分なんて短いですよぉ。今日はお勤めないんでしょ?だったら、30分くらい・・・』
やさしいその人はこうやって我儘な態度で甘えても、最初は嫌がる素振りを見せつつ、最終的には許してくれる。
『・・・じゃ、きっかり30分だからな』
ほら、やっぱり。
そう言いつつ、30分過ぎても続けてくれるくせに。
すっかり怠け者になってしまった私を、その人は今までと変わらず世話してくれる。
住む場所も食事も身体を清めるところも。
「俺はお前の飼い主だからな」
恥ずかしそうにそう言った横顔にちゅうしてやりたかったのに、右手で頭を押さえられてできなかった。
だから、夜一緒に寝ている時にいっぱいちゅうしてやった。
むず痒そうな顔で反応を見せるけれど、覆いかぶさるように上になっている私はその人の顔が右を向けば左の頬に、左を向けば右の頬に触れる。
普段から朝早くに家を出て夜遅くまでお勤めをしているご主人は、こんなことをされても起きる素振りを見せない。
口付ける位置をだんだんと下に移していく。
頬から顎、顎から首筋、首筋から鎖骨。
触れるだけだった行為も少しずつ変化して、舌先でちろちろと舐めて味と感触を楽しみ、鎖骨の位置に来る頃にはしゃぶり付くように夢中になっていた。
息も乱れ、身体の昂ぶりに一旦口を離すと、そこは私の唾液に濡れててらてらとしていた。
ふと、横を見ると開いたカーテンの隙間から大きなまん丸お月様が私たちを見下ろしていた。
『あの夜と同じ・・・』
その夜も夜行性であるムカデは与えられた食事を貪り尽くし、取り敢えずの満腹感に浸っていた。
しかし、次の瞬間に感じた何かの気配に反応すると隠れ家としている穴の中に頭から突っ込み、途中でUターンして今度は頭だけを覗かせる。
欠けてしまった触角で気配の先を探ると、女が月の光に照らされてこちらを見ていた。
正確にはムカデには目も向けず、その目の前で寝ているこの部屋の主の事を見つめていた。
女は空に浮かぶ月と同じ色の髪を靡かせながら宙を進み、音もなく同じ空間に侵入してくる。
『女の匂いもしないし、ちょっとだけ補給させてもらおうかしら・・・』
銀髪の女はそう言うと、部屋の主である男の首元に手を添えると目を閉じて顔を近づける。
しかし、すぐに動きを止めると目を開け、無言のまま後ろを振り返る。
その目線の先には長方形の透明な箱。
女が気にしたのはこの箱自体ではなく、その箱の中からがさごそと音を立てる存在であった。
足先は宙に浮いたまま、音も立てずにスーっと移動する女は箱の前まで来ると蓋であるものをゆっくりと外す。
箱の中には一匹の虫がいた。
女は躊躇なく手を伸ばすとその虫を手で掴み、目線の位置まで持ってくるとじっくりと観察する。
当のムカデは自身を掴む手に顎肢を突き立て、毒を流し込もうとする。
しかし、見えない膜のようなものに阻まれて何度やっても顎肢は刺さらず、女も全く気に留めている様子はなかった。
『ふ〜ん・・・そうなんだ』
しばらくムカデを観察していた女はそう呟くと、嬉しそうな顔でムカデを握っているのとは反対の手を翳し、聞き取れないような声でボソボソと言葉を紡ぐ。
最初に翳した女の手が光り始め、次にムカデの身体が光り始めた。
ムカデは自分の身体が急激に熱を持ち始めたことにのた打ち回り、必死で女の手から逃れようとする。
そんなムカデに気付いた女はふと笑みを浮かべると、ムカデを傷つけないように細心の注意を払いながら逃げられないように握る手に力をこめた。
どれくらいそうしていただろうか、女は一息吐くと手に持ったムカデをゆっくりと開放する。
ムカデはちょろちょろとした動きで隣の部屋の暗闇へ逃げると、その場を何とも言えない静寂が満たした。
しかし次の瞬間、暗闇の中から黒い髪を垂らした女が少しだけ顔を覗かせる。
『こんにちは。・・・こんばんは、かしら?』
銀髪の女は優しく笑うと手を伸ばし、顔を覗かせる黒髪の女に手招きする。
黒髪の女は暗闇から歩み出ると月の光りに照らされながら、銀髪の女の目の前に姿を現す。
『私の言葉、分かるわよね?』
銀髪の女の問いかけに、黒髪の女は力強く頷いた。
『なら、良かった。と言っても、私もこの世界についてはちょっとしか勉強してないから大した知識はあげられなかったけど』
「あとは自分で勉強しなさい」と続けた女の言葉を聞いているのかいないのか、黒髪の女は隣で起きている異常事態にも全く起きることなく寝ている部屋の主を見つめる。
『あなたの事も見させてもらったわ。この人に拾われたんでしょ?』
黒髪の女はその問いかけに答えることなく、寝ている男へゆっくりと手を伸ばす。
触れた男の髪は女の指に触れると形を変え、指の隙間を通り抜けてしまった。
『あー、お邪魔みたいね・・・』
にこにこと笑いながら男の髪を撫でる女を見ていた銀髪の女は息を吐くと、さっさと出て行こうとする。
内心、「あわよくば補給のために少しだけ混ざれたら・・・」と思った女だったが、黒髪の女が「さっさと出て行け」と言わんばかりに尾の先でバシバシと叩いてきたので諦めることにした。
『あ、私の知識を分けてあげたから解っているとは思うけど、この世界を変えるのにまだ時間かかるから、しばらくは外を出歩かないようにね』
そう言って後ろを振り向いた女の目に映ったのは、長い身体を男の身体に巻きつけ狭い寝具の中で「はぁはぁ」と息を乱す黒髪の女の姿だった。
『あの時は驚きましたけど、こうやってご主人と一緒に居られるんだから、あの人には感謝ですねぇ・・・』
そして次の日の朝、目を覚ましたご主人に事情を説明し、今日に至る。
それ以降、世界には少しずつ変化が現れ、飼っていたペットや大事にしていた道具、お話の中の存在が姿を変えて現れた。
あるものは友に、ある者は恋人に、ある者は親子に、ある者は夫婦に。
私たちの関係はどうだろう。
ご主人は私の事をペットだと言い、自分の事を飼い主だと言う。
その言葉は嬉しくもあり、物足りなくもあり、こうやって夜になると身体を疼きが襲う。
元々、夜行性だったからなのか、昼間よりも夜の方が頭も働き活動的になるが、ご主人は逆に寝てしまう。
だからこそ、こうやってしたいことを遠慮なくできるのだが、本当はご主人にも一緒になってしてもらいたい。
目の前の月はあの夜よりも大きく明るく、すぐそこに、手を伸ばせば届く距離にあると錯覚してしまうほど力強く見えた。
いつもならここまですれば多少満足して私も一緒に寝てしまうのだが、今夜は違った。
身体の火照りが収まらない。
私は「ふぅ」っと小さく息を吐くと、意を決して下の方へ移動する。
じゃれ付いてもちゅうまでしかしてくれない、むしろそれすら怒られてしまうから、私にとっても初めての体験。
銀髪の女の人に知識を分けてもらったから、もちろん行為そのものは知っているが緊張することに変わりない。
布団の中を移動しながらご主人の臍の辺りまで来ると、そっと履いている服を下にずらす。
口元、鼻先に雄の匂いが漂い、布団の中という密閉された空間にあっという間に充満していく。
『あ、あぅ・・・』
無意識に涎が垂れ、ご主人のそれにかかってしまった。
『っ・・・い、いま、綺麗にしますから・・・』
そんな免罪符を盾に、涎とは全く無関係の根元から舌を這わすと、上の方にゆっくりと舐め上げていく。
寝ているご主人の足がびくりと反応しているのを感じながら何度も何度も舐めあげる。
最初の「綺麗にする」という言葉とは正反対に、ご主人のそこは私の唾液でずぶ濡れになってしまった。
『ご主人、余計に汚してしまいました・・・こ、今度こそ、綺麗にします・・・』
寝ているご主人に聞こえるはずもない謝罪の言葉を口にした私は、そのまま大きく口を開くと、すっかり大きくなってしまったそれを飲み込んでいく。
舌を絡め、頬の肉でしごき、喉を締め付けて絞り取る。
じゅぽじゅぽと音を立てて、一心不乱にそこを捕食する。
いつの間にか、ご主人の息も「はぁはぁ」と荒くなり、足にも力が篭もり始めた。
先端から滲む液体を舌で舐め取り口の中で味わい、唾液とともに嚥下する。
もっともっとと貪欲になっていく気持ちを抑えることなどできるはずもなく、息をすることも忘れて喉にぶつけるほどに深く飲み込んだ瞬間、ご主人の身体が一際大きく震えた。
どくりどくりと精が噴き出し、食道を通ってお腹の中に溜まっていく。
口の中を舌で嘗め回し、残っている僅かな精もかき集めて飲み干す。
疼いていたお腹が少しだけ収まり、さっきとは逆に布団の中を上に移動してご主人の顔を見つめる。
ご主人も薄っすらと汗をかき、「はぁはぁ」と荒い呼吸を繰り返していた。
汗の滲んだ胸元に興奮が蘇り、無意識に口が引き寄せられていく。
優しく口付け、舌で汗の味を堪能し、そして・・・
顎肢を突き立てた。
『うぁっ!』
それにはさすがにご主人も目を覚ました様で、定まらない視線で私を見つめていたが、ようやく異様な雰囲気に気付く。
『お前、何、したんだ?』
少しの怯えを含んだ瞳を向けられると、ぞくりと背筋が震えたのが解った。
『ごしゅじ〜ん・・・』
自分の問いかけに答えない私を不安の表情で見つめ、薄く口を開けたまま動けないで居るご主人に愛おしさが込み上げる。
ゆっくりと顔を近づけても逃げることも止めることもせず、ついに口と口が触れ合った。
ご主人の口の中に舌を差込み、ご主人の舌を吸い取ると自分の口の中に招き入れる。
そして、少し苦しそうな顔をしているご主人の表情を楽しみながら唇で舌を扱く。
しばらくそれを繰り返し、ご主人の口の中に私の唾液を流し込む。
ご主人は困惑した表情のまま、それでも素直にごくりと嚥下してくれた。
安心した私は「いい子ですね」と褒めて、そんなご主人の頭を優しく撫でた。
しばらく大人しくしていたご主人だったが、意を決したように身体を起こすと、震える手で私の手を握り胸の前まで持ってくる。
『大丈夫、俺はお前の事嫌ったりしないから。大丈夫だから、な』
そして、そう言って私の目元を指でなぞった。
『・・・え・・』
そして指先に光る雫を見つけた瞬間に、私は自分が泣いていることに気付いた。
『心配すんな、あと・・・無理すんな』
ご主人はそう言って笑うと、私の頭をくしゃくしゃに撫でてぎゅっと抱きしめると一緒に布団に倒れこむ。
『あうー、ご主人・・・』
『たく、似合わないキャラ作りまでして何するかと思えば・・・』
ぐすぐすと鼻まで鳴らして泣き始めた私を笑いながら「よしよし」と頭を撫でて、やっぱりご主人は私のことを甘やかしてくれる。
そうやってしばらく構ってもらうとだんだんと落ち着いてきて、そして恥ずかしくなってきた。
『ご主人、・・・いつから起きてたんですか?』
『・・・鎖骨をむしゃぶられた辺り・・・』
恐る恐るお伺いを立てると、ご主人も恥ずかしそうに目を逸らしながらポツリとそう答えた。
殆ど最初からじゃないですか!
『ちょ、ご主人!な、何で寝た振りなんてしてたんですか!』
『しょ、しょうがないだろ!口にしたら怒ろうと待機してたら、お前が・・・その、下に・・・』
あまりの恥ずかしさにさっきまでの雰囲気も消し飛ぶ勢いで問い詰める私と、負けじと反論するご主人だったが、途中で口ごもると黙り込んでしまった。
お互いにお互いを非難の眼差しで見つめていたが、どちらともなく「はぁぁぁぁ」と長いため息を吐くが、すぐに「ぷっ」と噴きだして笑い始める。
『ご主人のせいで、私の一世一代の覚悟が台無しですよぉ、もぉ・・・』
『何言ってんだよ。そっちこそ、妖しい雰囲気まで出してキャラ作ってたくせに』
お互いに罵り合い、じゃれ付き、そして見つめ合って口付けを交わす。
『ご主人、だいすきです・・・』
『・・・おう、知ってる』
お互い横向きになって向き合い、手を繋いで言葉を交わす。
肌が重なっているわけでもないのに温かさが伝わり、心地よくゆったりした空気を感じる。
『俺も、好きだぞ・・・』
『・・・はい、知ってました』
やっと聞くことのできたその言葉。
そうであろう、そうあってほしいという願いとは別に、本人の口から本人の意思で告げられた想い。
私はにやけてしまう顔を止めることができず、だらしない顔をしているのだろう。
ご主人は「アホ面すんな」なんて言いながら、また私の頭を撫でてくれた。
『あのー、ご主人?ところで、・・・コレどうします?』
さっきから若干腰の引けていたご主人に気付いていた私は目にも留まらぬ速さでそれを手で握りこむと、ぐりぐりと先端を刺激する。
ご主人は「しまった」と言いたそうな顔をして私の目を見ると、「好きにしろ」と投げやりに答えた。
『では、こうなってしまったのも私の毒のせいですし?責任を持たないといけないですよね、ね?』
そう言って握りこんだ手の中でびくびくと脈動するソレをごしごしと扱きあげる。
ご主人の身体には大百足である私の毒が回り、そうとう敏感になっているはず。
むしろ、今までよく冷静に私の相手をしてくれていたなぁと感心しつつ、これって大事にされてるのかなぁと、またにやけてしまった。
『さ、ご主人。・・・私の身体を使ってください』
そう言って握っていた手を離すと両手を広げ、ご主人を迎え入れるように仰向けになる。
ご主人はごくりと喉を鳴らすとゆっくり身体を起こし、ムカデの身体を跨ぐ様にして私の上になる。
張り詰めたソレを私の臍の下の穴へと宛がうと、そのままの状態で再度私に向き直ると顔を真っ赤にする。
『お、俺・・経験ないから、あんまり期待するなよ』
何を言うかと思えばそんなこと。
ご主人に女性経験ないのは匂いで知ってます。
だって、他の女の人の匂いが全然しないんですもん。
それに・・・
『もぉ、何言ってるんですかぁ?私もご主人が初めてですよぉ』
二人して初めて同士なんだからうまくできないかもしれない。
でも、そしたらもう一回、また今度すればいいじゃないですか。
そしたら楽しみも二倍ってもんです!
『お、おう・・・そっか』
私の言葉に嬉しそうな顔をしたご主人。
「嬉しそうな理由はどっちなのかな?」なんて考えながら、その瞬間を今か今かと待ちわびる。
『んじゃ、するぞ』
『はい・・・』
ご主人の腰が私の身体に向かって突き出されると、くちゅりという音とともに先端が潜り込んでくる。
まるで巣穴に潜り込む私みたいだなぁなんて考えていると、潜り込んだ先でぷちりぷちりと膜を引き裂く僅かな痛みを感じる。
『だ、だいじょぶ、か?痛くない・・か?』
『ん・・平気、です・・・』
二人とも普段とは比べられないくらい真剣な顔で相手の様子を探りあう。
そしてようやく全てが収まり、腹と腹が密着した。
二人して赤くなった顔を見合わせてすぐに目を逸らす。
しかし、すぐにまた見つめ合って笑いあう。
『よく我慢したな』
ご主人はそう言って、また私の頭を撫でてくれる。
別に心配するほど我慢はしていなかったが、せっかく頭を撫でてくれているのでそのまま何も言わないことにした。
『それより、ご主人ご主人・・・』
そう言って手でおいでおいですると、ご主人は疑いもせず私の方に顔を近づけてくれる。
その隙を見逃さず、両手でご主人の顔を捕まえると一気に引き寄せ口付けをする。
ご主人は驚いた様子で目を見開いたが、私の表情を確認すると諦めたように口を薄く開いて好きにさせてくれた。
先ほどと同じように舌を吸い出して招き入れると、今度は口の中で舌を絡めあう。
ぐちゃぐちゃと唾液を掻きまわす音が暗い部屋の中に響き、入れたままになっている下半身の事も忘れてその行為に夢中になる。
ただ、先ほどとは違い上と下が逆になっていたため唾液は全て私の口の中に溜まっていた。
一旦口を離すのと同時に口の中のそれを嚥下した瞬間、私の身体を衝撃が走り、食道を通り胃に落ちた唾液が身体の中から犯してきた。
『あ、あぅ・・ごしゅ、ごしゅじん・・・』
呂律が回らず、身体中が痙攣して臍の下に突き刺さっているご主人の一部を締め付ける。
最初こそ私の異変を心配したご主人だったが、下半身から伝わる快感に理性をそぎ落とされ、無意識に抽挿を始める。
ただでさえ身体の中から快感に犯されているというのに、それに加えて生殖器から与えられる感覚に反応して私に芽生えた魔物としての本能が顔を覗かせた。
『がぷり』
まずは尾の先。
『がぷり』
次は首元の顎肢。
『がぷり』
最後は口で。
私の身体を使ってくれるご主人にもっと喜んでもらえるように、ずっとずっと一緒に居られるように、片時も離れてしまわないように思いのたけを籠めて毒を送る。
『お、おい!馬鹿、もうっ噛むな・・・!』
ご主人の制止も全く耳に届かない私は、「ご主人、ご主人」とうわ言のように繰り返し、口で首の顎肢で尾の先で何度も何度も噛みつき毒を流した。
想いは収まらず、
昂ぶりは留まらず、
自制は利かず。
ただ只管に目の前の主を求め続けた。
感謝と愛情と誓いと服従を籠めて。
生まれて初めて味わう安らぎに心も身体も油断しきって、もし今、外敵に襲われたら逃げることもできず食べられてしまうだろう。
前はそれなりに強く獰猛だった私から“牙”を抜き去ってしまったのは、優しくて恥ずかしがり屋で世話焼きな人。
ずっとこうしていたいと思う私の頭を撫で、私の顔を見ながら自分は眠気と戦っていることだろう。
一緒に寝たいと思う私。
このまま膝を借りて、頭を撫でていてほしいと思う私。
きっとそんなことを言えば「甘えるな」と言いながら、取り合えず後者の幸せを続けてくれるだろう。
『ん〜、ごしゅじーん・・・』
そんな葛藤に頭を悩ませていると、ついつい声に出してその人を呼んでしまった。
その人は眠い目を擦りながら何事かと尋ねてくるが、明確な答えを出すことのできない私は、「んー」と唸りながらご主人の膝に顔をより深く埋める。
こうすると温かさも柔らかさも匂いもより強く近く感じることができて、さっきまでの二者択一が一気に後者に傾き始める。
『ごしゅじーん、いつまでこうしててくれますか?』
顔は埋めたまま、その人の耳にだけ聞こえる大きさの声でお伺いを立てる。
顔を上げないのはその人の顔を見ないため。
恥ずかしがり屋なその人と顔を合わせると、きっと素直になってくれないから敢えてこうしている。
『・・・あと、10分。膝、痺れるから』
きっと今、すごく恥ずかしそうな顔をしているに違いない。
見たい、すごーく見たい!
でも、見たらきっと照れて怒って膝枕を取り上げられてしまう。
『うぇ〜、10分なんて短いですよぉ。今日はお勤めないんでしょ?だったら、30分くらい・・・』
やさしいその人はこうやって我儘な態度で甘えても、最初は嫌がる素振りを見せつつ、最終的には許してくれる。
『・・・じゃ、きっかり30分だからな』
ほら、やっぱり。
そう言いつつ、30分過ぎても続けてくれるくせに。
すっかり怠け者になってしまった私を、その人は今までと変わらず世話してくれる。
住む場所も食事も身体を清めるところも。
「俺はお前の飼い主だからな」
恥ずかしそうにそう言った横顔にちゅうしてやりたかったのに、右手で頭を押さえられてできなかった。
だから、夜一緒に寝ている時にいっぱいちゅうしてやった。
むず痒そうな顔で反応を見せるけれど、覆いかぶさるように上になっている私はその人の顔が右を向けば左の頬に、左を向けば右の頬に触れる。
普段から朝早くに家を出て夜遅くまでお勤めをしているご主人は、こんなことをされても起きる素振りを見せない。
口付ける位置をだんだんと下に移していく。
頬から顎、顎から首筋、首筋から鎖骨。
触れるだけだった行為も少しずつ変化して、舌先でちろちろと舐めて味と感触を楽しみ、鎖骨の位置に来る頃にはしゃぶり付くように夢中になっていた。
息も乱れ、身体の昂ぶりに一旦口を離すと、そこは私の唾液に濡れててらてらとしていた。
ふと、横を見ると開いたカーテンの隙間から大きなまん丸お月様が私たちを見下ろしていた。
『あの夜と同じ・・・』
その夜も夜行性であるムカデは与えられた食事を貪り尽くし、取り敢えずの満腹感に浸っていた。
しかし、次の瞬間に感じた何かの気配に反応すると隠れ家としている穴の中に頭から突っ込み、途中でUターンして今度は頭だけを覗かせる。
欠けてしまった触角で気配の先を探ると、女が月の光に照らされてこちらを見ていた。
正確にはムカデには目も向けず、その目の前で寝ているこの部屋の主の事を見つめていた。
女は空に浮かぶ月と同じ色の髪を靡かせながら宙を進み、音もなく同じ空間に侵入してくる。
『女の匂いもしないし、ちょっとだけ補給させてもらおうかしら・・・』
銀髪の女はそう言うと、部屋の主である男の首元に手を添えると目を閉じて顔を近づける。
しかし、すぐに動きを止めると目を開け、無言のまま後ろを振り返る。
その目線の先には長方形の透明な箱。
女が気にしたのはこの箱自体ではなく、その箱の中からがさごそと音を立てる存在であった。
足先は宙に浮いたまま、音も立てずにスーっと移動する女は箱の前まで来ると蓋であるものをゆっくりと外す。
箱の中には一匹の虫がいた。
女は躊躇なく手を伸ばすとその虫を手で掴み、目線の位置まで持ってくるとじっくりと観察する。
当のムカデは自身を掴む手に顎肢を突き立て、毒を流し込もうとする。
しかし、見えない膜のようなものに阻まれて何度やっても顎肢は刺さらず、女も全く気に留めている様子はなかった。
『ふ〜ん・・・そうなんだ』
しばらくムカデを観察していた女はそう呟くと、嬉しそうな顔でムカデを握っているのとは反対の手を翳し、聞き取れないような声でボソボソと言葉を紡ぐ。
最初に翳した女の手が光り始め、次にムカデの身体が光り始めた。
ムカデは自分の身体が急激に熱を持ち始めたことにのた打ち回り、必死で女の手から逃れようとする。
そんなムカデに気付いた女はふと笑みを浮かべると、ムカデを傷つけないように細心の注意を払いながら逃げられないように握る手に力をこめた。
どれくらいそうしていただろうか、女は一息吐くと手に持ったムカデをゆっくりと開放する。
ムカデはちょろちょろとした動きで隣の部屋の暗闇へ逃げると、その場を何とも言えない静寂が満たした。
しかし次の瞬間、暗闇の中から黒い髪を垂らした女が少しだけ顔を覗かせる。
『こんにちは。・・・こんばんは、かしら?』
銀髪の女は優しく笑うと手を伸ばし、顔を覗かせる黒髪の女に手招きする。
黒髪の女は暗闇から歩み出ると月の光りに照らされながら、銀髪の女の目の前に姿を現す。
『私の言葉、分かるわよね?』
銀髪の女の問いかけに、黒髪の女は力強く頷いた。
『なら、良かった。と言っても、私もこの世界についてはちょっとしか勉強してないから大した知識はあげられなかったけど』
「あとは自分で勉強しなさい」と続けた女の言葉を聞いているのかいないのか、黒髪の女は隣で起きている異常事態にも全く起きることなく寝ている部屋の主を見つめる。
『あなたの事も見させてもらったわ。この人に拾われたんでしょ?』
黒髪の女はその問いかけに答えることなく、寝ている男へゆっくりと手を伸ばす。
触れた男の髪は女の指に触れると形を変え、指の隙間を通り抜けてしまった。
『あー、お邪魔みたいね・・・』
にこにこと笑いながら男の髪を撫でる女を見ていた銀髪の女は息を吐くと、さっさと出て行こうとする。
内心、「あわよくば補給のために少しだけ混ざれたら・・・」と思った女だったが、黒髪の女が「さっさと出て行け」と言わんばかりに尾の先でバシバシと叩いてきたので諦めることにした。
『あ、私の知識を分けてあげたから解っているとは思うけど、この世界を変えるのにまだ時間かかるから、しばらくは外を出歩かないようにね』
そう言って後ろを振り向いた女の目に映ったのは、長い身体を男の身体に巻きつけ狭い寝具の中で「はぁはぁ」と息を乱す黒髪の女の姿だった。
『あの時は驚きましたけど、こうやってご主人と一緒に居られるんだから、あの人には感謝ですねぇ・・・』
そして次の日の朝、目を覚ましたご主人に事情を説明し、今日に至る。
それ以降、世界には少しずつ変化が現れ、飼っていたペットや大事にしていた道具、お話の中の存在が姿を変えて現れた。
あるものは友に、ある者は恋人に、ある者は親子に、ある者は夫婦に。
私たちの関係はどうだろう。
ご主人は私の事をペットだと言い、自分の事を飼い主だと言う。
その言葉は嬉しくもあり、物足りなくもあり、こうやって夜になると身体を疼きが襲う。
元々、夜行性だったからなのか、昼間よりも夜の方が頭も働き活動的になるが、ご主人は逆に寝てしまう。
だからこそ、こうやってしたいことを遠慮なくできるのだが、本当はご主人にも一緒になってしてもらいたい。
目の前の月はあの夜よりも大きく明るく、すぐそこに、手を伸ばせば届く距離にあると錯覚してしまうほど力強く見えた。
いつもならここまですれば多少満足して私も一緒に寝てしまうのだが、今夜は違った。
身体の火照りが収まらない。
私は「ふぅ」っと小さく息を吐くと、意を決して下の方へ移動する。
じゃれ付いてもちゅうまでしかしてくれない、むしろそれすら怒られてしまうから、私にとっても初めての体験。
銀髪の女の人に知識を分けてもらったから、もちろん行為そのものは知っているが緊張することに変わりない。
布団の中を移動しながらご主人の臍の辺りまで来ると、そっと履いている服を下にずらす。
口元、鼻先に雄の匂いが漂い、布団の中という密閉された空間にあっという間に充満していく。
『あ、あぅ・・・』
無意識に涎が垂れ、ご主人のそれにかかってしまった。
『っ・・・い、いま、綺麗にしますから・・・』
そんな免罪符を盾に、涎とは全く無関係の根元から舌を這わすと、上の方にゆっくりと舐め上げていく。
寝ているご主人の足がびくりと反応しているのを感じながら何度も何度も舐めあげる。
最初の「綺麗にする」という言葉とは正反対に、ご主人のそこは私の唾液でずぶ濡れになってしまった。
『ご主人、余計に汚してしまいました・・・こ、今度こそ、綺麗にします・・・』
寝ているご主人に聞こえるはずもない謝罪の言葉を口にした私は、そのまま大きく口を開くと、すっかり大きくなってしまったそれを飲み込んでいく。
舌を絡め、頬の肉でしごき、喉を締め付けて絞り取る。
じゅぽじゅぽと音を立てて、一心不乱にそこを捕食する。
いつの間にか、ご主人の息も「はぁはぁ」と荒くなり、足にも力が篭もり始めた。
先端から滲む液体を舌で舐め取り口の中で味わい、唾液とともに嚥下する。
もっともっとと貪欲になっていく気持ちを抑えることなどできるはずもなく、息をすることも忘れて喉にぶつけるほどに深く飲み込んだ瞬間、ご主人の身体が一際大きく震えた。
どくりどくりと精が噴き出し、食道を通ってお腹の中に溜まっていく。
口の中を舌で嘗め回し、残っている僅かな精もかき集めて飲み干す。
疼いていたお腹が少しだけ収まり、さっきとは逆に布団の中を上に移動してご主人の顔を見つめる。
ご主人も薄っすらと汗をかき、「はぁはぁ」と荒い呼吸を繰り返していた。
汗の滲んだ胸元に興奮が蘇り、無意識に口が引き寄せられていく。
優しく口付け、舌で汗の味を堪能し、そして・・・
顎肢を突き立てた。
『うぁっ!』
それにはさすがにご主人も目を覚ました様で、定まらない視線で私を見つめていたが、ようやく異様な雰囲気に気付く。
『お前、何、したんだ?』
少しの怯えを含んだ瞳を向けられると、ぞくりと背筋が震えたのが解った。
『ごしゅじ〜ん・・・』
自分の問いかけに答えない私を不安の表情で見つめ、薄く口を開けたまま動けないで居るご主人に愛おしさが込み上げる。
ゆっくりと顔を近づけても逃げることも止めることもせず、ついに口と口が触れ合った。
ご主人の口の中に舌を差込み、ご主人の舌を吸い取ると自分の口の中に招き入れる。
そして、少し苦しそうな顔をしているご主人の表情を楽しみながら唇で舌を扱く。
しばらくそれを繰り返し、ご主人の口の中に私の唾液を流し込む。
ご主人は困惑した表情のまま、それでも素直にごくりと嚥下してくれた。
安心した私は「いい子ですね」と褒めて、そんなご主人の頭を優しく撫でた。
しばらく大人しくしていたご主人だったが、意を決したように身体を起こすと、震える手で私の手を握り胸の前まで持ってくる。
『大丈夫、俺はお前の事嫌ったりしないから。大丈夫だから、な』
そして、そう言って私の目元を指でなぞった。
『・・・え・・』
そして指先に光る雫を見つけた瞬間に、私は自分が泣いていることに気付いた。
『心配すんな、あと・・・無理すんな』
ご主人はそう言って笑うと、私の頭をくしゃくしゃに撫でてぎゅっと抱きしめると一緒に布団に倒れこむ。
『あうー、ご主人・・・』
『たく、似合わないキャラ作りまでして何するかと思えば・・・』
ぐすぐすと鼻まで鳴らして泣き始めた私を笑いながら「よしよし」と頭を撫でて、やっぱりご主人は私のことを甘やかしてくれる。
そうやってしばらく構ってもらうとだんだんと落ち着いてきて、そして恥ずかしくなってきた。
『ご主人、・・・いつから起きてたんですか?』
『・・・鎖骨をむしゃぶられた辺り・・・』
恐る恐るお伺いを立てると、ご主人も恥ずかしそうに目を逸らしながらポツリとそう答えた。
殆ど最初からじゃないですか!
『ちょ、ご主人!な、何で寝た振りなんてしてたんですか!』
『しょ、しょうがないだろ!口にしたら怒ろうと待機してたら、お前が・・・その、下に・・・』
あまりの恥ずかしさにさっきまでの雰囲気も消し飛ぶ勢いで問い詰める私と、負けじと反論するご主人だったが、途中で口ごもると黙り込んでしまった。
お互いにお互いを非難の眼差しで見つめていたが、どちらともなく「はぁぁぁぁ」と長いため息を吐くが、すぐに「ぷっ」と噴きだして笑い始める。
『ご主人のせいで、私の一世一代の覚悟が台無しですよぉ、もぉ・・・』
『何言ってんだよ。そっちこそ、妖しい雰囲気まで出してキャラ作ってたくせに』
お互いに罵り合い、じゃれ付き、そして見つめ合って口付けを交わす。
『ご主人、だいすきです・・・』
『・・・おう、知ってる』
お互い横向きになって向き合い、手を繋いで言葉を交わす。
肌が重なっているわけでもないのに温かさが伝わり、心地よくゆったりした空気を感じる。
『俺も、好きだぞ・・・』
『・・・はい、知ってました』
やっと聞くことのできたその言葉。
そうであろう、そうあってほしいという願いとは別に、本人の口から本人の意思で告げられた想い。
私はにやけてしまう顔を止めることができず、だらしない顔をしているのだろう。
ご主人は「アホ面すんな」なんて言いながら、また私の頭を撫でてくれた。
『あのー、ご主人?ところで、・・・コレどうします?』
さっきから若干腰の引けていたご主人に気付いていた私は目にも留まらぬ速さでそれを手で握りこむと、ぐりぐりと先端を刺激する。
ご主人は「しまった」と言いたそうな顔をして私の目を見ると、「好きにしろ」と投げやりに答えた。
『では、こうなってしまったのも私の毒のせいですし?責任を持たないといけないですよね、ね?』
そう言って握りこんだ手の中でびくびくと脈動するソレをごしごしと扱きあげる。
ご主人の身体には大百足である私の毒が回り、そうとう敏感になっているはず。
むしろ、今までよく冷静に私の相手をしてくれていたなぁと感心しつつ、これって大事にされてるのかなぁと、またにやけてしまった。
『さ、ご主人。・・・私の身体を使ってください』
そう言って握っていた手を離すと両手を広げ、ご主人を迎え入れるように仰向けになる。
ご主人はごくりと喉を鳴らすとゆっくり身体を起こし、ムカデの身体を跨ぐ様にして私の上になる。
張り詰めたソレを私の臍の下の穴へと宛がうと、そのままの状態で再度私に向き直ると顔を真っ赤にする。
『お、俺・・経験ないから、あんまり期待するなよ』
何を言うかと思えばそんなこと。
ご主人に女性経験ないのは匂いで知ってます。
だって、他の女の人の匂いが全然しないんですもん。
それに・・・
『もぉ、何言ってるんですかぁ?私もご主人が初めてですよぉ』
二人して初めて同士なんだからうまくできないかもしれない。
でも、そしたらもう一回、また今度すればいいじゃないですか。
そしたら楽しみも二倍ってもんです!
『お、おう・・・そっか』
私の言葉に嬉しそうな顔をしたご主人。
「嬉しそうな理由はどっちなのかな?」なんて考えながら、その瞬間を今か今かと待ちわびる。
『んじゃ、するぞ』
『はい・・・』
ご主人の腰が私の身体に向かって突き出されると、くちゅりという音とともに先端が潜り込んでくる。
まるで巣穴に潜り込む私みたいだなぁなんて考えていると、潜り込んだ先でぷちりぷちりと膜を引き裂く僅かな痛みを感じる。
『だ、だいじょぶ、か?痛くない・・か?』
『ん・・平気、です・・・』
二人とも普段とは比べられないくらい真剣な顔で相手の様子を探りあう。
そしてようやく全てが収まり、腹と腹が密着した。
二人して赤くなった顔を見合わせてすぐに目を逸らす。
しかし、すぐにまた見つめ合って笑いあう。
『よく我慢したな』
ご主人はそう言って、また私の頭を撫でてくれる。
別に心配するほど我慢はしていなかったが、せっかく頭を撫でてくれているのでそのまま何も言わないことにした。
『それより、ご主人ご主人・・・』
そう言って手でおいでおいですると、ご主人は疑いもせず私の方に顔を近づけてくれる。
その隙を見逃さず、両手でご主人の顔を捕まえると一気に引き寄せ口付けをする。
ご主人は驚いた様子で目を見開いたが、私の表情を確認すると諦めたように口を薄く開いて好きにさせてくれた。
先ほどと同じように舌を吸い出して招き入れると、今度は口の中で舌を絡めあう。
ぐちゃぐちゃと唾液を掻きまわす音が暗い部屋の中に響き、入れたままになっている下半身の事も忘れてその行為に夢中になる。
ただ、先ほどとは違い上と下が逆になっていたため唾液は全て私の口の中に溜まっていた。
一旦口を離すのと同時に口の中のそれを嚥下した瞬間、私の身体を衝撃が走り、食道を通り胃に落ちた唾液が身体の中から犯してきた。
『あ、あぅ・・ごしゅ、ごしゅじん・・・』
呂律が回らず、身体中が痙攣して臍の下に突き刺さっているご主人の一部を締め付ける。
最初こそ私の異変を心配したご主人だったが、下半身から伝わる快感に理性をそぎ落とされ、無意識に抽挿を始める。
ただでさえ身体の中から快感に犯されているというのに、それに加えて生殖器から与えられる感覚に反応して私に芽生えた魔物としての本能が顔を覗かせた。
『がぷり』
まずは尾の先。
『がぷり』
次は首元の顎肢。
『がぷり』
最後は口で。
私の身体を使ってくれるご主人にもっと喜んでもらえるように、ずっとずっと一緒に居られるように、片時も離れてしまわないように思いのたけを籠めて毒を送る。
『お、おい!馬鹿、もうっ噛むな・・・!』
ご主人の制止も全く耳に届かない私は、「ご主人、ご主人」とうわ言のように繰り返し、口で首の顎肢で尾の先で何度も何度も噛みつき毒を流した。
想いは収まらず、
昂ぶりは留まらず、
自制は利かず。
ただ只管に目の前の主を求め続けた。
感謝と愛情と誓いと服従を籠めて。
14/12/20 19:25更新 / みな犬