連載小説
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その耳に入ったのは
突然、様子の可笑しくなった翡翠に声を掛けると、力なく顔を寄せるように腕を添えてきた。
「何か、言いたい事があるのだろうか?」そう思った俺は翡翠の顔に自身の顔を近づける。
しかし、その先に待っていたのは、先ほど自分が目の前の百足にした行為だった。
驚きに頭が真っ白になっていると、翡翠の舌が私の口の中に入ってきた。
あまり活発ではないものの、ゆっくりゆっくりと舌を絡め唾液を啜る。

「こくり」と翡翠の喉が下がり、俺の唾液を嚥下したのが分かった。
その瞬間に、再び翡翠の体が痙攣し、視線が覚束なくなる。
体中が弛緩し、顔は赤みを帯びている。

まさか、これは・・・
そう思った俺は自分を抑えることが出来ず、先ほどよりも激しく舌を絡ませる。
翡翠が離れてしまわないように体を寄せ、口の中を犯す。
翡翠の舌はとても柔らかく、唾液の滑りがとても淫らで、癖になるほどだった。
体を寄せているからか、二つの胸も俺の体に当たり、ふわふわとした柔らかな感触が伝わる。
我慢することもなく、「目のやり場に困る」と手渡した着物の前を開き、胸を揉む。

「柔らかい・・・」

生まれて初めて触った女の胸の感触。
正確には自分が乳飲み子の時に母の胸は触っていたと思うが、記憶にあるわけもない俺にとっては、これが始めてだった。
形や大きさ、柔らかさを確かめるように優しく何度も揉み解す。
そうしても翡翠は抵抗などせず、眉を寄せ目を閉じて受け入れてくれる。

「これではどちらが捕食者か分からないな」と思いながら、それでも少しでも満たされるように、思いが伝わるように行為を続ける。
すると、指先に濡れた感触がして目をやると、見慣れぬ色をした粘液が糸を引いていた。
よく見ると、翡翠の体に浮かんでいる刺青のようなものから滲み出していた。
それが何か分からないが、翡翠の体から出ているものであるという事実が、「それを口にしたい」という欲求に変わったのは一瞬だった。
恐れもせず口にすると、最初に感じたのは僅かな苦味。しかし、すぐに体に馴染むと、後に残ったのは甘さだった。


『・・・うっ!ぐうっ!』


しかし、すぐに体を異常が襲う。どうやらこれは百足の毒だったらしい。
体が熱く、焼けるほどに熱が高まり、体中に力が入る。
目の前が涙で滲むと同時に、翡翠が顔を寄せ、先ほどと同じ様に舌を絡めてきた。
どうやら、俺の中から毒を吸い出そうとしているらしい。
確かに、自分の毒が効くわけもないだろうが、世話をかけてしまったなとふら付く頭で考えた。

しかし、吸い出した毒を嚥下した翡翠は今まで以上に悶え苦しむと、背を限界まで反らせると、一気に弛緩した。
抱き寄せていた体は汗が滲んでいるようで、しっとりとしている。
そして感じる滾り。体から、力が滾る。
百足の毒を取り込んだ苦しみは気付くとなくなっており、代わりに感じたのは活力だった。
そう言えば、百足を煎じて食すと強力な精力剤になると聞いたことがあったが、まさかこれほどとは。

しかし、当の百足本人はその毒に犯され痙攣している。
だが、見ている限り苦しんでいると言うよりは強すぎる快感に体が追いついていないと言う方が正しいようだ。
その証拠に、目は涙が浮かんではいるが頬は赤く上気し、感嘆の熱い息を吐く。そして右手で体をなぞると、びくびくと反応し、背を仰け反らせる。
自分の動作一つでこうも反応を見せてくれる翡翠を前にして、愛おしさと共に、もっともっと乱れさせたいという欲求が支配してくる。

毒腺から滲む毒を指で掬うと、目の前の百足に見せ付ける。
すると翡翠は弱弱しく頭を振り、その行為を否定する。
どうやら、俺が何をしようとしているのかを理解したようだ。

『翡翠は、俺と口付けするのは嫌いか?』

わざとらしく悲しい顔と声色で問い掛けると、翡翠は驚いた顔を向けてくる。
そしてまた、弱弱しく頭を振り、その言葉を否定する。

『そうか。では、こちらを向いて、口を開けるのだぞ?』
そう命じると、これから自分の身に起きる事が分かっている翡翠は怯えた瞳を向けるが、すぐに目を閉じ、少しだけ口を開く。

『いい子だ』
そう言って、指で掬った毒を自分の口に含むと舌で味わい、目の前で言い付け通り待っている百足の口の中へ流し込む。

『・・・・っ!!!!』

すると先ほど同じ様に体が跳ね、快感に悶える。

愛おしい。
目の前の百足が愛おしくて堪らない。
その後も何度か同じ様に毒を口に含んでは、翡翠に飲ませた。
途中からは指で掬うのも焦れったくなり、直接口でその毒腺を舐める。
そうすれば直接口から飲ませた時ほどではないが、びくびくと反応を見せる。
舐める箇所が首元から肩口へと段々下がり、二の腕から手首へ、胸から脇腹へ、そして、一番濃い色の毒が溢れ出す場所へ。



本来、自分のものである筈の毒に体を侵され、私は混乱していた。
それに気付いたはずの小吉は止めることはなく、むしろその意味を理解しているのか、何度も何度も唇を重ねてくる。
これ以上は駄目だと首を振ると「俺と口付けするのは嫌いか?」と聞いてくる。
先ほどまでのやり取りでそんな事は分かりきっている筈なのに、なぜそんな悲しい顔と声で聞いてくるのか。

「いやじゃない・・・いやなはずない・・・」

そう伝えたくて首を振って否定する。
すると嬉しそうな顔を向けて、私に命令してくる。


「人間を従わせることはあっても、人間に従うことなどありえない」


以前ならそう答えられた筈なのに、今は目の前の人間に逆らうことが出来ない。
これから自分を襲うとてつもない感覚に怯えながら、恐る恐る口を開く。
するとすぐに小吉の唇が重なり、舌が差し込まれる。
その舌は私の毒と小吉の唾液に塗れており、全てを流し込んでくる。

「こくり・・・」


『・・・・っ!!!!』


次いで襲う感覚。
体の真ん中を貫くこの感覚に、私は抵抗することが出来ない。
何度も毒と唾液を流し込まれ、全てを嚥下する。
ついには直接体の毒腺を舐められ、そこからも小吉の唾液が染み込んでくる。
体が自分のものでなくなったようなその感覚に頭は思考を止め、目の前の人間から与えられるものだけを受け入れる。

小吉の動きが止まった。
ようやく終わったのかと薄っすらと目を開けると、人の体と百足の体の境目を凝視していた。
そこには他の毒腺よりも、より色濃く粘ついた液体を噴出す「穴」があった。
当たり前の様に小吉は舌を伸ばそうとする。

「これ以上されたら・・・死んでしまう!」

そう思った私は力の入らない手で小吉の頭を掴み、それから先の行為を止める。
すると小吉は私の顔を見て、先ほどと同じ顔と声で「嫌か?」と聞いた。

「卑怯だ!この男は卑怯だ・・・」
そんな事を聞かれてそうだと言える筈もない。
小吉の頭を掴む私の手から力が抜けるのを感じた小吉は、それを質問への否定と受け取り、ゆっくりゆっくり舌を近づける。

『・・・っ!!!・・っっ!!!!!』

小吉の舌でそこを舐められた瞬間に、頭が破裂したのかと思うほどの衝撃。
粘液の触れ合う音とそれを啜られる音。
衝撃に必死に耐えるように手に力が篭る。
気付けば、私の二本の腕はそこに小吉の顔を押し付けるような格好になっていた。

終わることのない行為に体に力が篭る。
しかし、それとは別に体の奥から得体の知れない何かが溜まっていく。
何とかそれを散らそうと思っても、繰り返される小吉の舌の動きにそれは無慈悲にも高まるだけ。
そして、今までで一番強い力でそこを吸われた瞬間にそれは訪れた。



翡翠の体の臍の下にある「穴」。
本能として、それが男にない女にだけあるものだと理解した。
毒は止め処なく溢れ、淫らに誘う。
一度は翡翠の腕に止められたが、先ほどと同じ様に尋ねると、俺の頭を掴む腕の力が抜けていく。
こんなにも純粋で素直で従順な百足に俺は我慢することなど出来なかった。

毒の溢れるそこを自分の舌で舐め、啜り、体の中へ取り込んでいく。
漲る活力と欲望に際限はなく、長く長くその行為を続けた。
今では翡翠自らその行為を強請る様に、俺の顔をそこに押し付けている。
そうやって舐め続けていると翡翠の体が小さく震え始める。
恐らく終わりが近いのだろう。

知識としては知っているが、本当に自分に出来るのか自信はないが、目の前の百足を快感に溺れさせたいという欲に従う。
溢れる毒を啜り、自分の唾液を塗りつけ、穴の中に舌を突っ込む。
そうすると震えは強く小刻みになっていき、どくりと溢れた特別に濃い毒を思い切り啜った。


『・・・・・・ぁっ!!!!!!』

地鳴りかと思うくらいに思うくらいに体を震わせ、腹から下の百足の体がもんどり打つ。
更には目はひっくり返って白目を向き、折れてしまうのではないかと言うくらい背を仰け反らす。
たった今まで舐めていた穴からも毒が溢れ出し、地面に滴り落ちてしまうほどだ。
どうやら、無事に至る事が出来たようだなと安心する。


ちょっと待て。
今・・・
『翡翠・・・お前、声が・・・』



『・・・しょっ、きち・・・さま・・・』



翡翠が声を出した。
翡翠が言葉を話した。
翡翠が、俺の名を呼んだ。

嬉しい。
名を呼んでもらえたことが。両親や佐助、ゆきも何度となく呼んではくれた。
だが、自分の愛するものに名を呼んでもらうと言うのはこんなにも嬉しいのか。
翡翠の言葉を認め、「そうだ」と肯定する。
俺は翡翠に「お前の声は綺麗だな」と言うことしか出来なかった。





人間よりも遥かに勝る力を持つこの私を、目の前の人間は表情一つ、声色一つで御す。
逆らうことの出来ない力関係を見せ付けられ、蟲としての本能からか、目の前の男は自分よりも圧倒的に上の者だという意識が刷り込まれていく。
逆らえない。
この男は、私の支配者だ。

今までの感覚を全て一瞬に凝縮したような濃い、濃すぎる感覚に私の意識は飛んでしまう。
衝撃に体が仰け反り、肺に空気が溜まる。
腹が瞬間的に収縮し、肺の空気が喉を通り抜ける。

『・・・・・・ぁっ!!!!!!』

音が聞こえた。
自分の頭の中に。
それは今まで聞いたことのない音だった。
纏まらない意識の中で、その音の出所はどこだろうかと考えていると驚いた顔の小吉が口を動かした。

「翡翠・・・お前、声が・・・」

声?
今の音が声と言うものか?
何とも不思議な感覚だ。
自分の頭の中で音が響いているような、不思議な感覚。

『・・・しょっ、きち・・・さま・・・』

半ば無意識に名を呼んでいた。
目の前の人間の名を。
私を唯一支配することの出来る男の名を。

小吉様は目に涙を浮かべ、「ああ、そうだ。小吉だ。俺の名は小吉と言うんだ」と話しかけてくる。
『はぃ・・・存じ、上げ、てっ、おります・・・』
途切れ途切れだが、それでも精一杯聞こえるように私は言葉を続ける。
小吉様はそんな私の体を抱きしめると小さな声で「お前の声は綺麗だな」と言ってくれた。

「きれい?」
人ではない、醜い蟲の体を持つ私の声がきれい?
例え今だけであったとしても、嘘だったとしても、その言葉が嬉しい。
心が満たされる思いと、それとは別の顔に血が集まる時と同じ感覚が沸き起こり顔を伏せてしまう。

『・・・・・・・?』

目の前には小吉様の体。
その体の一部、正確には先ほどまで小吉様の舌で舐められていた私の体と同じ部分が膨らんでいた。

『・・・?』

なんだろう、とても「美味しそうな匂い」がする。
触覚が揺れる。目線がそこから外せない。
私がそうやっていると、それに気付いた小吉様自らの手でそこを隠してしまう。
隠してしまう程に「大事なもの」なのか・・・

『・・・・・・・』

少しだけ、ほんの少しだけ腹が立った。
さっきまで散々人の体を好きにしていた癖に、そんな私からも隠してしまうほど「大事なもの」があるという事実。
ちょっとだけ力を込めた目で小吉様の目を見ると、ぎくりとした顔をしてその手がそろそろと退く。

私は途端に上機嫌になり、体を動かすと、小吉様が私から隠された「大事なもの」の目の前に来た。
何だろう。
触覚で探るも服のせいか良く分からない。
手で触ると硬く、熱を持っていることが分かった。

『・・・・?』

いくら手で触っても正体は分からず、ただ「大事なもの」からは「美味しそうな匂い」がするだけだった。
これは何かの食料であろうか?
いいかげん考えるのも飽きた私は小吉様の着ている服を摺り下ろす。


『!!!!!!!!』


目の前には何と言って良いのか分からない「何か」が、小吉様の体から生えていた。
自分の体を見る限り同じようなものは見当たらない。
それ以外にも小吉様と私の体では違う部分が多々あるが、それは種族の違いだと理解していた。
小吉様の体から生えているそれを手で握ると驚くほどに熱を持っているのが分かった。摩るように触ると硬く、血が通い脈打っているのが分かった。
そして、肉の先端からじわりと透明の液体が滲んできた。

「これは何でしょう?」
小吉様に伺おうと顔を上げると、とても辛そう顔をしている小吉様と目が合った。
すると「これ以上は駄目だ」と仰り、私の手を退かそうと手を伸ばす。
これは・・・
この光景には見覚えがあった。
先ほど、私の体の同じ場所を舐めようとした時と全く同じだ。
それならばと、私は小吉様がそうしたように「悲しそうな顔」と「悲しそうな声」で聞いた。



『嫌ですか?』



翡翠の痴態に反応した愚息に気付いた翡翠から隠すように手で覆うも、初めて会ったあの夜と同じ様に睨まれると体から血の気が引く。
翡翠にそんな気がないことは分かりきっているが、こればっかりは逆らうことが出来ない。
その部位に興味津々と言った様子の翡翠は手で触り、触角で探り、ついには匂いまで嗅いでくる。
恥ずかしさのあまり止めさせたかったが、先ほどのあの目が頭に浮かび行動には移せない。

とうとう着ている服まで摺り下げられ、俺の愚息が外気に晒される。
季節は秋から冬へと移り、ひんやりとした巣穴の空気とは正反対な熱い手に掴まれると、とてつもない快感が沸き上がる。
それを我慢できるわけもなく、腹のそこから沸き上がる吐精感。それに先んじて透明の先走りが滲み出てしまった。

これ以上はまずいと思い、翡翠の脅しにも屈しないと心に誓い、行為を止めるべく手を伸ばそうとする俺に掛けられた声。


『嫌ですか?』


「してやられた!」と思った。
どうやら翡翠は先ほどまでの俺の行為を、俺の意図も理解した上で受け入れてくれていたらしい。
まさか、こんな形でいっぱい喰われされるとは。
「これでお相子だぞ」と言おうと口を開きかけたが、行為を強制した回数は俺の方が圧倒的に多いことを思い出して口を閉じた。
伸ばしかけた手を翡翠の頭に乗せ、髪を撫でてやる。
『嫌じゃないさ。嫌なわけないだろう』
その言葉を聞いた翡翠はこれ以上にない嬉しそうな顔をして、俺の愚息を一気に頬張った。

熱い。
只管に熱い。
翡翠の口の中はまるで煮立った風呂の様に熱く、その肉は柔らかかった。
そして舌や頬の肉、唇など全てを使って刺激を加えてくる。頬の肉に擦りつけ、舌で抉り、唇で吸う。
恐らく、初めてである筈のその行為の錬度は高く、同じく初めてである俺をいとも簡単に限界まで押し上げる。
翡翠の口の中は翡翠の唾液と俺の先走りで溢れているだろうが、口を離す事はなく、口の端から垂らしながら夢中になって貪っている。
その元々の肉食性を遺憾なく発揮し、目の前の肉を喰らい尽くすが如く様はまさに人ではないことを証明していた。

『ひっ、すい!そろそろ・・・離せっ!』
自分の限界が近いことを感じ、愚息を口から放すよう命令する。
しかし翡翠がそれを離すことはなく、より深く根元まで飲み込んでいく。
その行為を見せ付ける様に俺の方へ顔を向け、俺の下腹部へ自らの顔を押し付ける。
すると愚息の先端に何かぶつかるような感覚が走り、翡翠に目を凝らすと、喉の辺りが抽送する動きに合わせて盛り上がっていた。

「自分の体の一部が目の前にいる女の喉奥まで犯している」
それはとてつもない肉体的な快感で、途中で止めることの出来ない精神的な快感だった。
『ではっ!え、遠慮なくっ、出させて、もらうからなっ!』
そこまで言って俺は自分の腕を動かすと翡翠の頭に添えると、前後に動かす。
翡翠は両腕を俺の腰の後ろに回すとそれ以上離れることがないように、交差させる。


『ぐっ!・・・出るっ!!!』


吐精する瞬間に合わせ、翡翠の頭を思い切り引き寄せ、愚息を喉の奥に押し込む。
翡翠は自身の腕に力を込め、俺以上の力で愚息を飲み込もうとする。
どくりどくり音が聞こえそうなほどの吐精が続き、その度に翡翠の喉が上下に動き、吐き出されたものを嚥下しているのが分かる。
長い長い行為が終わり、俺は手の力を緩める。
翡翠もゆっくりと顔を離しはするが、口を窄めて愚息の中に残っているものを全て残さず吸い出すと、一際大きい音を立てて「ごくり」と見せ付ける様に嚥下した。




私の問いに一瞬だけ困った顔をされた小吉様でしたが、すぐに私の望む言葉を返してくれました。
目の前に存在を主張する肉の棒から、何とも例えようのない「美味しそう」な匂いがする。
噛り付いて咀嚼したいが、そんな事をすれば小吉様を傷つけてしまう。歯を立てないように優しく口に含み、舌で撫でる。
先ほど、先から滲み出した液体が舌に絡まり味を伝える。
少しだけ汗のような塩気を感じるが、嫌悪感を感じることはなく、むしろもっともっと味わいたくなる。
噛り付けない代わりに唇で、咀嚼できない代わりに頬肉で、小吉様の体の一部を堪能する。
口の中全てを使って味わうが、満足する事が出来ず、蟲の本能からか目の前のそれ以外が見えなくなる。

すると小吉様は苦しそうな声を上げながら「離せ」と命じてくる。
しかし、先ほど私の体を弄った時も決して止めてはくれなかった事を私は覚えている。

「大丈夫、大丈夫です。私が最後まで気持ち良くして差し上げます」

そんな一方的な、本来であれば私の身も心も支配するお方の命に背くなど許される事ではないが、続ける事が小吉様のためだと言う思いから決して止めることはしない。
口だけの食事では満足できなくなった私は、その肉の棒を体の中に収めるべく飲み込んでいく。
美味しい。
これを味わってしまっては、もう家畜や獣など襲う気など起きない。
いっその事、胃の中に収めてしまいたいが、この肉の棒は小吉様の体から生えているためそれは叶わない。
それならばと、もっともっと喉の奥まで誘う。喉に小吉様の体の一部がぶつかる感覚に、気の高ぶりを憶える。

すると小吉様の手が私の頭を掴み、前後に動かす。
小吉様から拒絶されることがなくなった事を理解した私は、両腕を小吉様の腰に回し決して離れることがない様に堅く繋ぐ。
「好き」な男に自分の体が支配されている事実が私の心を満たしていく。
喉奥に突き刺さる肉の棒から滲む液体の味が一層と濃くなった気がした。
私の体と同じ様に、小吉様の体からも「毒」が出るのであろうか?そんな疑問が頭に浮かび、もしそうなら小吉様がそうしたように私も体の中に収めたいと思った。
上から呻き声が聞こえたのと同時に頭を掴む小吉様の手に力が篭り、私の頭を今まで以上に引き寄せ肉の棒を押し込んでくる。
私もより強く交差させている腕に力を入れ、小吉様の体に密着する。

瞬間。
喉奥に収まっていた肉の棒から熱湯が噴き出され、食道に叩き付けられる。
『!!!!!!!』
衝撃に体が震えたが、それ以上に感じたのは「濃厚な」肉の味。
いや、正確には「肉」ではないが、肉しか食べたことのない私は他の味で例えることが出来ない。
それは異様な粘りを持つ、液体というよりも固体に近い物で、食道をゆっくり滑り落ち、胃に収まる。
どくりどくりと次から次に噴き出す肉の味を何度も何度も嚥下し、味わう。
この「味」と「食感」は、忘れられない・・・

「ぜひ、明日もご馳走していただこう」

そんな事を考えていると、ご馳走がなくなった様で噴き出す感覚はなくなってしまった。
残念に思いつつ、唇で最後まで搾り出して目の前の主に見せ付ける様に最後の一口を完食した。
14/03/23 00:40更新 / みな犬
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