連載小説
[TOP][目次]
その先に待つものは
照れた顔を浮かべている小吉様が、その手で私の頭を撫でる。
一緒に触覚を撫でられ、少しこそばゆさを感じるがそれ以上に心地良かった
そして未だに衰えていない肉の棒と、濃い毒を滴らせている私の穴。
小吉様の上に乗り上がり、それを摺り合わせる。
これが本来はどういう意味を持つ行為なのか小吉様の目を見れば分かった。

これは人が「子」を成す行為。

いくら腹から上が人間と同じに見えても、私と小吉様は根本から何もかも違う。
行為だけ同じでも、子が出来るわけがない。そもそも百足は交尾を必要とせずに子を成す。
この先に待つ物が無意味であったとしても、それでも望まずにはいられない。

「子がほしい。小吉様との、子が」

そう思うと居ても立ってもいられず、隙間を埋めるように体を抱きしめる。
小吉様もそれに答えるように私の背へ手を回し、引き寄せてくれる。
小吉様は私の耳元に口を寄せると、小さな声で「続けても良いか?」と聞いてきた。
それはそれまでの「悲しそうな」声ではなく、本当の意味で私の意志を確認するものだった。

私も抱きしめる腕に力を込め、「どうか、続けてください」と答えた。
その言葉を聞いた小吉様は私の体を浮かせると、肉の棒を穴の入り口に合わせる。
ぬちゃりと厭らしい音を立て、飲み込むように小吉様を導く。
入り口の大きさから言って、私の穴は肉の棒よりもだいぶ小さく感じたが本当に入るのだろうかと少しだけ怖くなった。

『では、入れるぞ』
小吉様はそう言って私の腰を自らの体に引き寄せる。
『はっ・・あっ・・・』
ぬるりと滑る様に先が進入する感覚に声が漏れる。
ずぶずぶと私の体の中を進んでいた肉の棒が途中で止まり、何かに詰まっている感覚が私にも分かった。
『・・・・・?』
私にはそれが何か分からず、小吉様の顔を見て首を傾げる。
『これは、女が初めて男を受け入れる証だ』
小吉様は少しだけ顔を赤くしてそう教えてくれた。
『はぃ・・私は、小吉様が初めての番です・・・』

そう、私は何百年と生きてきたが番を持って子を成したことはなかった。
だから、百足としても女としても小吉様が初めての番だった。
小吉様は私の言葉に更に顔を赤くしたが、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
『初めての番か・・・では、俺はお主と夫婦になれるのだな』
そう言って笑みを向けた小吉様が優しい声で「続けるぞ」と言うと、私の腰を更に引く。

『くぅっ・・!ひ・・ぃっ・・・』

狭い穴を抉じ開け、肉の棒が進むと微かな痛みが走るが、それ以上により深いところで小吉様と繋がっているという事実が私を満たしていく。
「痛むか」という小吉様の心遣いに頭を振り、大丈夫だから続けてほしいと懇願する。

「もっと深く。私の体の一番深いところで繋がりたい」

『あっ!・・・はぁっ!』

ぬちっと音を立て、私の腹と小吉様の腹が触れ合う。
少し百足の体が邪魔ではあったが、そんな事はすぐに忘れるくらいの感覚が体を襲う。
全て収まった。
下を見た私の目に入ったのは、隙間なくくっ付いた私と小吉様の体だった。
そして膨らむ満足感。体も心も両方を満たし、そして包み込む。


『翡翠っ、お主も気持ち良いか?』
歯を食いしばり辛そうな顔をする小吉様が私にそう投げかける。
『き、きもちっ・・いい?』
私には分からない感覚。
「きもちいい」とは何だ?この体と心が満たされる感覚のことか?
「好き」とは別なのだろうか?

『俺は、この上なく気持ち良いぞ?体も心も満たされ・・幸せで、堪らないっ!』
ああ、この満たされる感覚。
これが「きもちいい」か。
分かる、分かります。
私も、「気持ち良い」

『はいっ!私も・・気持ち良い、ですっ!』
私の答えを聞いた小吉様は小さな声で「良かった」と言って私の腰を撫でる。
それだけでも満たされるが、さっきの満たされた「瞬間」が忘れられずもう一度味わうべく腰を上げる。
小吉様が伺うような顔で私を見ている。
その、少し怯えたような顔が私の背筋にぞくっとしたものを走らせる。

『あ、はあああ・・・!』
肉の棒がずるずると私の体内を引きずられ抜かれていく。
先の括れているところまで引きずり出すと、その括れて細くなっている部分が引っかかってこれ以上抜けてしまうのを拒む。
それがこれ以上は離れたくないという意思表示の様に見えて、愛おしさが溢れる。
そして、それを安心させるように一気に腰を落とし再び奥まで飲み込む。

『あああああああ!!!!』
ぱんという肉のぶつかる音と、ずちゃりという粘着質な音が巣穴に響く。
小吉様も「くっ!」と声を上げ、歯を食いしばる。
きっとあの液体を噴き出すのを我慢しているんだと分かった。


『がぶり・・・』

目の前にある体に欲求を抑えられず、顎肢を突き立ててしまう。
小吉様は小さく呻き声を上げるが、止めさせる事も振り払うこともせず受け入れてくれる。

好きな相手に顎肢を突き立て、傷をつける。
してはいけないことだが、百足の本能がその思考を鈍らせる。
しかし一度では収まらず、二度三度と立て続けに突き立て、そして毒を流し込む。
そうすると私の体に突き刺さっている小吉様の肉の棒はより力強さをましていく。

『ひぃっ!大きく・・!』
何度も「あの瞬間」を味わうべく抽送を繰り返す私に合わせて、小吉様も腰を上下させる。
ぐちゃりぐちゃりと音を立てながら奥まで貫かれ、深いところを突かれる。
腰が動き、声が出る。声と言っても意味を持つ言葉は出ず、鼻にかかった声だった。
下からは最初より随分太くなった肉の棒に突き上げられ、小吉様の手で胸の肉を揉みしだかれ、あの感覚が登ってきた。
小吉様も苦しそうな顔をしながら私の顔を見て、意思を問う。

『このまま、中に・・・』

私がそこまで答えると、胸を触っていた手を私の腰に動かす。
小吉様が腰を思い切り突き上げるのと同時に、私の腰を引き下ろす。
腰から頭の先まで柱を打ち込まれたような衝撃を感じながら、私の穴から大量の毒が溢れる感覚がした。
それとは別に、小吉様の毒を流し込まれる感覚も。
色々な感覚に飲まれ、私の体は糸が切れたように脱力して小吉様の体に倒れこむ。





その晩は翡翠とたくさんの言葉を交わした。

お互いの生まれ、育ち。
大した人生ではなかったが、そんな俺の話でも翡翠は目を輝かせて聞いてくれた。
俺が生まれてすぐに死んだという母の話、一年前に亡くした父の話。
村での生活や日々の仕事。

そして、佐助とゆきのこと。

翡翠は熱心に俺の話を聞いてくれた。時に笑い、時に頷き、時に困惑し。
横槍を入れることなく、ただ話を聞いてくれた。




『次は翡翠の話を聞かせてくれるか?』

そう言った俺に翡翠は少し考える顔をすると、「蟲の話を聞いても楽しんではいただけないのではないでしょうか」と悲しそうに言った。
それでも聞きたいと食い下がる俺に漸く折れた翡翠の口から、少しずつ語られる話。
怪物と呼ばれる存在として生を受けた自分。
親兄弟ともすぐに別れ、ずっと自分一人で生きていたこと。
体も大きく力も強く、しかし誰からも頼られることもなく必要とされることもない。
ただ自分のために、自分が生き残るためだけに他の命を奪い、場所を移り、そんな時間だけが何十年何百年と続いたと。
この地には食料を求めた結果、たまたま辿り着いたと言った。
村人に怪しまれないように最低限の家畜にだけ手を出していたことも教えてくれた。

そして、初めて会ったあの晩。

「実は、人を殺めたことも喰ったこともないのです」
そんな翡翠が少しだけ、ほんの少しだけ笑った顔を見せた。

「喰うに値しない」
そんな理由からではあったが、やはり目の前の百足は怪物でも化け物でもなかったのだと確信した。
そんな翡翠を引き寄せ、抱きしめる。
翡翠も体を寄せ、安らかな息づかいが聞こえる。


『これからは俺と共に生きよう』


翡翠は俺の言葉に頷くと、「はい」と答えてくれた。

翌日、陽も高くなってから漸く二人して目が覚めると、顔を見合わせて真っ赤になりながら「おはよう」と言った。
森で狩りをして一緒に食事を作り、また体を重ねる。
仕事もせず、ただ俺と翡翠のしたいことだけをする生活。
我ながら自堕落だなと思いはしたが、目の前の百足が楽しそうに笑っているのを見ると「まあ、いいか」と思った。
そんな生活が三日ほど続いたある日。
喋ることにもすっかり慣れた翡翠が、神妙な顔で「話がある」と言ってきた。

『子が、できたようです』

最初は翡翠の言葉が理解できなかった。
真剣な顔で俺のことを見つめ、俺の手を臍の下に持ってきてもう一度言った。

『小吉様の子を、・・・身篭りました』



『それは、まことか・・・?』

信じられない告白に顔が引きつる。
そんな俺の顔を見ていられなくなったのか、翡翠は下を向き小さな声で「はい」とだけ答えた。
確かに腹から上は人と同じ体つきではあるが、中身まで一緒だとは思わなかった。

『・・・翡翠よ』

俺に名を呼ばれても翡翠は顔を上げてはくれない。

『顔を上げてはくれぬか?』

何も答えることなく弱弱しく首を振り、顔を上げることを拒否する。

『そうか。・・・では、仕方ないな』

俺は一歩踏み出す。続けて、もう一歩。
地面を蹴る音に体を震わせ、目をきつく瞑っている。



『俺の子を身篭ってくれて、ありがとう』
俺は翡翠の体を抱きしめる。ゆっくり翡翠の体から力が抜けていく。

『俺はお主と一緒に居られるのなら、人間である俺との子は出来ずともいいとさえ思っていた』
翡翠の体が、震え始め嗚咽を漏らす。

『しかし、これからは俺とお主と、俺たち二人の子で本当に家族になれるんだな』
翡翠は震える手を俺の背に回すと体を押し付け、「共に生きよう」と言った夜と同じ小さな声で「はい」と答えてくれた。

しばらくそうやって体を震わせる翡翠の背を摩っていると、ふとした疑問が浮かぶ。
『なぜ子が出来たと分かったのだ?』
初めて体を重ねてからまだ三日しか経っていない。当たり前だが、腹も全く膨れていない。
しばらく考えていた翡翠だったが、少し困った顔をしながら「きっと蟲の本能ですね」と答えた。
理由にはなっていなかったが、翡翠本人がそう言うのであれば本当なのだろう。
それに何よりも子が出来たことが嬉しかった俺は、そのことを否定しようとは思えなかった。


そして、以前から考えていた一つのことを決心する。
『では、次は俺の話を聞いてくれるか?』
それまでの空気とは違い、先ほどの翡翠同様に真剣な顔になった俺に翡翠は首を傾げる。


『村の者に、お主への誤解を解こうと・・『いけませんっ!!!』


しかし、俺の言葉は翡翠の言葉で打ち消され、最後まで口にすることは出来なかった。
『いけません!そんな必要はございません!』
今まで見たこともない必死な顔をしている翡翠。
『何故だ?』
理由を聞く前から「はい、そうですか」と言うわけにはいかない。

『・・・姿形が変わっても、私は大百足。人を殺し、その肉を喰う「怪物」です』

『お主は怪物とは違う!』

『違いません!!!・・・村の人間にとっては、違わないのです・・・』
俺の否定の言葉も受け入れず、翡翠は聞いたこともない大きな声で自分の事を「人を喰う怪物」だと言う。
自分は人を殺したことも喰ったこともないのに、それでも「違わない」と。


『ましてや、私がこの地へ居着いたせいで妹を失った方は決して認めてはくれないでしょう。
今まで一緒にいた家族を失い、家族と思っていた友人にその「元凶」を受け入れろと言われて納得できる筈がありません』
そう言う翡翠は下を向き、涙を流し体を震わせていた。
自分が殺したわけでもないのに、自分のせいだと自身を責め、譲りはしない。

『俺は、愛する者にいつまでもそんな思いをさせたくない。生まれてくる子には、この巣穴と森だけではなく多くの物を見せてやりたい。

・・・だから、約束する。必ず、必ず俺は戻ってくる。村の者に・・・佐助に拒絶されることになったとしても、必ず俺は戻ってくる』

『・・・・・・・・・・』
翡翠は俺の言葉を聞き、何も言わず涙を流す。
心配してくれているのだろう。
俺の身を。
そして、自分のために好きな男が危険な目に遭うかもしれないのを止めたいのだろう。
だからこそ・・・

『俺のことを信じて、待っていてくれないだろうか』

翡翠は涙で濡れた顔を上げ、俺の顔を見る。
しかし、俺の意思が固いことを悟ると困った顔を向けて一言、「あの夜と同じ顔ですね」と言った。



「村人の誤解を解く」
その言葉は決して認めることが出来ない筈だった。
どんな手を使ってでも止めさせる、それこそこの百足の体を使ってでも。
しかし小吉様はあの夜と、百足の体で締め上げられ力の差を見せ付けられても「噛めるものなら噛んでみろ」と決して引き下がらなかったあの夜と同じ顔をしていた。
揺らぐことのないその瞳に負けた私は、諦めの言葉を零す。
小吉様は何のことか分からないようで、首を傾げていた。

その後、いつものように昼の食事を一緒に取り、小吉様は一人で村へ向かわれた。
そして、帰ってくることはなかった。
13/12/26 23:34更新 / みな犬
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33