Even if you do, you're my mother.
少し、私の母について話そうか。私を育ててくれた義母の方だ。
名をスカーレット・ドラグノフ、旧世代の魔王がいた時代から生存している真紅のドラゴン。またの名を旧魔王の喧嘩友達、破壊と殲滅の龍神、他にはレッドサイクロンなんて呼ばれ方もしていたような・・・いや、私の勘違いかもしれない。とにかく滅法強い人だ、私に戦い方を教えてくれた時には「手加減してやる」と人型だったが結局、母との模擬戦で私が取れたのは一本だけ、それも母が死にたがっていた時にだ。
修行の様子を教えて欲しい?そうだな、君たちが思い描く地獄の修行を考えてくれ、・・・よし、考えたな?
そんなものは天国だ!!
驚かしてしまってすまない、だがまあ至極当然の結果だろう。少し考えてみれば分かるはずだ、たかだか剣をかじった程度の十の子供と力が全てだった時代で頂点に君臨していたドラゴンだ、強さのレベルが違うなんて言い方ではあまりに生ぬるい。ただひたすらに戦い方を教わった、全ては私の大切なものを奪い去ったあの男に復讐する為、そんな生き方は何も生まないと母には何度も注意されたが、それでも、一心に剣を振るう私の姿を見てついに母は観念して私に戦い方を教えてくれたよ。
それから先は地獄のような日々を過ごした、生きる為に強くなるのでは無く、強くなる為に生きる、そんな手段と目的がすり替わったような毎日を送った。
魔力と体力でどうしても劣ってしまう私の為に母はある秘策を授けてくれた、古くから続くドラゴンのその力の一部を私の身体に取り込む事だ。
具体的に言うとその血を飲んだ。
ああ、そんなあからさまに嫌そうな顔をしないでくれ、話しているこっちの気が滅入る。このことで母には大分痛い思いをさせてしまったな、「愛娘の為ならこのくらいどうってことは無い」なんて言っていたが、そんな事は無かったはずだ。事実、若干母の魔力は丸くなっていたしな。
そのおかげもあってか、10年もたてばどうにかこうにか母と渡り合えるようになった、それでも大幅に手加減されていた事には変わりないがな。
旅立ちの日、私はようやく母から一本とる事が出来た、とらして貰ったという方が正しいだろうな。
そして母は、私にとんでもない事を言い放った。
「我を殺せ。」
訳が分からない、どうして母がそんな事を言うのか私には訳が分からなかった。
だから聞いた、何故、どういう理由で私にあなたを殺せなどという事を言うのか。
ゆっくりと、実にゆっくりとは母語ってくれたよ。あの日の、十年前の真実を。
「シルヴィア、君が我と出会ったのは君はあの日が初めてだと思っているかもしれない。だけど、それは違う、我は君が生まれたその時に既に君と出会っている。“英雄”という言葉の意味を知っているか、その種が持つべき器の大きさを遙かに凌駕して生まれて来る命の事だ。我の性質は既に知っているな、宝を集める性質、そして、君のような“英雄”はまさしく宝そのものだった。君を一目見て我は思った、この小さな命を神の手先になどしてたまるかと、“勇者”になど絶対にさせぬと。それから我は古き友人のつてをたどり、君のいた村に魔王軍から幾人か優秀なものを送って貰った。その一人が君の友人であり、君の師である、セレスティア・アージェンタイトその人だ。彼女らの手も借りて君が生まれた事を教団に伝わらないように隠そうとした。君はあの日になるまで教団の人間と直接出会ったことが無いだろう?彼らが来る時はいつも屋根裏に隠されていたはずだ、君は子供心に不思議に思っていたかもしれないが全ては君の自由を守る為だ、許してくれとは言わないが理解して欲しい。だがそれでも、これだけ手を尽くしても、十年しか持たなかった。そうまでして手駒の欲しい神に我は久しく怒りを覚えたよ。後は大方君の見てきたとおりだ、我が報告を受けて村に着いた時には全て手遅れだった。君の父も、君の母も、君と親しかった友人も、深い絆で結ばれた君の師も、全て、我が見殺しにしたようなものだ。」
そこまで言うと母は一息ついて私を見つめた。
「だから殺せ、我を。君の大切なもの全てを奪った我を殺せ。そしてこれが、君が奪う最初で最後の人の命だ。」
そして目をつぶる、私に殺されるなら本望だとでも言いたげな表情を浮かべて。
無理だ、そんなこと出来るはずが無い、私は手に持っていた剣を落とした。洞窟に響く金属音が静まった頃、思いの丈を母に伝わるように、心を込めて口を開いた。
「何を話されたのか、もう忘れてしまいました。」
そして、続ける。
「あなたは私を育ててくれた。叱ってもくれた。寒い日は懐の中にも入れてくれた。何をしようが、あなたは私のお母さんです・・・違いますか?」
そこから先は、心が勝手に口を動かした。
「だから、殺してくれなんて言わないで下さい。私は二度も母親を失いたくなんてないですから。」
そこから先は、大変だったな。気丈だと思っていた母の涙腺が決壊して私に抱きついて泣き始めたものだから、どちらが娘でどちらが母親なのか分からない程だった。
その後、旅支度を整え、泣き止んだばかりで目元が真っ赤になっている母に若干後ろ髪を引かれる思い残しながら私は洞窟を後にした。
「行ってきます、母さん。」
その一言を残して。
名をスカーレット・ドラグノフ、旧世代の魔王がいた時代から生存している真紅のドラゴン。またの名を旧魔王の喧嘩友達、破壊と殲滅の龍神、他にはレッドサイクロンなんて呼ばれ方もしていたような・・・いや、私の勘違いかもしれない。とにかく滅法強い人だ、私に戦い方を教えてくれた時には「手加減してやる」と人型だったが結局、母との模擬戦で私が取れたのは一本だけ、それも母が死にたがっていた時にだ。
修行の様子を教えて欲しい?そうだな、君たちが思い描く地獄の修行を考えてくれ、・・・よし、考えたな?
そんなものは天国だ!!
驚かしてしまってすまない、だがまあ至極当然の結果だろう。少し考えてみれば分かるはずだ、たかだか剣をかじった程度の十の子供と力が全てだった時代で頂点に君臨していたドラゴンだ、強さのレベルが違うなんて言い方ではあまりに生ぬるい。ただひたすらに戦い方を教わった、全ては私の大切なものを奪い去ったあの男に復讐する為、そんな生き方は何も生まないと母には何度も注意されたが、それでも、一心に剣を振るう私の姿を見てついに母は観念して私に戦い方を教えてくれたよ。
それから先は地獄のような日々を過ごした、生きる為に強くなるのでは無く、強くなる為に生きる、そんな手段と目的がすり替わったような毎日を送った。
魔力と体力でどうしても劣ってしまう私の為に母はある秘策を授けてくれた、古くから続くドラゴンのその力の一部を私の身体に取り込む事だ。
具体的に言うとその血を飲んだ。
ああ、そんなあからさまに嫌そうな顔をしないでくれ、話しているこっちの気が滅入る。このことで母には大分痛い思いをさせてしまったな、「愛娘の為ならこのくらいどうってことは無い」なんて言っていたが、そんな事は無かったはずだ。事実、若干母の魔力は丸くなっていたしな。
そのおかげもあってか、10年もたてばどうにかこうにか母と渡り合えるようになった、それでも大幅に手加減されていた事には変わりないがな。
旅立ちの日、私はようやく母から一本とる事が出来た、とらして貰ったという方が正しいだろうな。
そして母は、私にとんでもない事を言い放った。
「我を殺せ。」
訳が分からない、どうして母がそんな事を言うのか私には訳が分からなかった。
だから聞いた、何故、どういう理由で私にあなたを殺せなどという事を言うのか。
ゆっくりと、実にゆっくりとは母語ってくれたよ。あの日の、十年前の真実を。
「シルヴィア、君が我と出会ったのは君はあの日が初めてだと思っているかもしれない。だけど、それは違う、我は君が生まれたその時に既に君と出会っている。“英雄”という言葉の意味を知っているか、その種が持つべき器の大きさを遙かに凌駕して生まれて来る命の事だ。我の性質は既に知っているな、宝を集める性質、そして、君のような“英雄”はまさしく宝そのものだった。君を一目見て我は思った、この小さな命を神の手先になどしてたまるかと、“勇者”になど絶対にさせぬと。それから我は古き友人のつてをたどり、君のいた村に魔王軍から幾人か優秀なものを送って貰った。その一人が君の友人であり、君の師である、セレスティア・アージェンタイトその人だ。彼女らの手も借りて君が生まれた事を教団に伝わらないように隠そうとした。君はあの日になるまで教団の人間と直接出会ったことが無いだろう?彼らが来る時はいつも屋根裏に隠されていたはずだ、君は子供心に不思議に思っていたかもしれないが全ては君の自由を守る為だ、許してくれとは言わないが理解して欲しい。だがそれでも、これだけ手を尽くしても、十年しか持たなかった。そうまでして手駒の欲しい神に我は久しく怒りを覚えたよ。後は大方君の見てきたとおりだ、我が報告を受けて村に着いた時には全て手遅れだった。君の父も、君の母も、君と親しかった友人も、深い絆で結ばれた君の師も、全て、我が見殺しにしたようなものだ。」
そこまで言うと母は一息ついて私を見つめた。
「だから殺せ、我を。君の大切なもの全てを奪った我を殺せ。そしてこれが、君が奪う最初で最後の人の命だ。」
そして目をつぶる、私に殺されるなら本望だとでも言いたげな表情を浮かべて。
無理だ、そんなこと出来るはずが無い、私は手に持っていた剣を落とした。洞窟に響く金属音が静まった頃、思いの丈を母に伝わるように、心を込めて口を開いた。
「何を話されたのか、もう忘れてしまいました。」
そして、続ける。
「あなたは私を育ててくれた。叱ってもくれた。寒い日は懐の中にも入れてくれた。何をしようが、あなたは私のお母さんです・・・違いますか?」
そこから先は、心が勝手に口を動かした。
「だから、殺してくれなんて言わないで下さい。私は二度も母親を失いたくなんてないですから。」
そこから先は、大変だったな。気丈だと思っていた母の涙腺が決壊して私に抱きついて泣き始めたものだから、どちらが娘でどちらが母親なのか分からない程だった。
その後、旅支度を整え、泣き止んだばかりで目元が真っ赤になっている母に若干後ろ髪を引かれる思い残しながら私は洞窟を後にした。
「行ってきます、母さん。」
その一言を残して。
11/11/14 21:53更新 / おいちゃん
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