連載小説
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第一話
「フフ、ついに来ましたよ、ジパング。古くから魔物と人とが共存する汚らわしい国、既に手遅れかもしれませんが浄化しておくに越したことはないでしょう。フフフ、楽しみですね。」
くすんだ黒髪、細い糸目の気味の悪い男は港に降り立つなり不気味なことを口走る。

「母上、あのおじさん気味悪いよ。」
「こら、見ちゃいけません。」

おや、誰かがボクのことを噂しているみたいですね。大方、神に遣わされたボクの事を崇めたたえて…なんだ、メデューサですか汚らわしい、ジパングの浄化はここから始めるとしましょうか。

気味の悪い男はメデューサの親子に近づいていく、
剣を手に取り、
勢い良く振り上げて、

さあ、汚らわしい魔物。今ボクが神の名のもとに浄化して差し上げましょう。

しかし、振り上げた剣が下りることはなく、

誰です?ボクの浄化を止める不届き者は?

「止めときな坊主、同じジパング人のよしみで忠告しといてやるが、女子供に手ぇ掛けるやつぁ、他人より先に地獄に堕ちるぜ?まあ、おめぇさんが構わねぇって言うんなら俺はこの手を離すつもりだが、おめぇさんがやろうとしてたことは粋な男のやることじゃぁねぇよ。」

ジパング人?ボクは日本人ですよ、何を言っているのやら。
しかし、中々に腕が立つ男のようですね。フフ、ボク程でもないようですが。
ここでこの男もろとも浄化するのは簡単ですが後々動きづらくなっても困りますしね、ここは退いておきましょう。

「そうですか、ボクとしても無用な争いは避けたいとこですし、ここは退かせてもらいましょう。」
「おめぇさん、後で必ず後悔するぞ。」
ボクの浄化を止めた不届きな男はそう捨て台詞を吐きました。
はて?神の意志のままに魔物を浄化するボクが一体どうして後悔するのでしょう?
ボクには解りそうにありません。
取り敢えずボクはジパングにある教団の施設へと向かうことにしました。



「おめぇさん達、怪我ぁねぇか?」
「凪さん、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいものか。」
「礼なんかいらねぇよ、おめぇさん達の笑顔がありゃぁそれだけで十分だ。」
最近になって大陸から移住してくる娘さん、魔物娘というらしい、が急に増えてきた。もともと人ならざるものとの付き合いが多かったこの国ではすぐに受け入れられた。
この奥さんと娘さんは俺の住んでる長屋に最近旦那と一緒に越してきた新顔だ。
ここの旦那さんってのがまた変わった男でな、喪でもねぇってのに年中見たこともない黒い服を着てやがるんだ。
いや、一本筋の通った良い男なんだけどな、引っ越し祝いに酒を持っていったときには「俺はまだ飲んじゃいけないから」なんて言うんだ、もう元服してるだろうに妙な話だろう?

「ですが、助けてもらったからにはお礼をしなければいけませんし、困りましたね、手持ちの銭では足りそうにありません。…そうだ!身体でお礼をさせていただくというのはどうでしょう?」
そう言うと彼女は俺の方へにじり寄って来る、娘は娘のほうで何か考え事をしていて上の空なんだが、お願いだから変な事言い出さないでくれよ。
「だから!礼なんかいらねぇって言ってるだろうが!」
俺は彼女の肩を掴んでその進行を止める、
「まったく、お涼の奴にみられた日にはどうなることやら。」

突如、凪の首に白い糸のようなものが巻きつく、凪の背後から現れた和服の美人ははその糸で首を締め上げつつ詰問する。
「あら、誰に見られたら困るのかしら?凪、詳しく説明してごらんなさい。」
「お涼さんじゃありませんか、お店の方はよろしいんですか?」
お涼、と呼ばれた彼女はアラクネである、女郎蜘蛛ではない。
彼女は大陸からとの交流がまだ未発達だった時代に単身ジパングを訪れ、「ジパングの着物に魅せられた、作り方を教えて欲しい」と江戸で一番有名な呉服店へ志願し、現在では呉服店を営んでいる。
ちなみに凪の着ている羽織袴は彼女からの貰い物であるのだが、凪が大陸の魔物娘の慣習を知らないことと、彼女が一般的なアラクネよりも奥手であるためにお互い嫌いではないのだけれどどこか行き詰まった関係である。
恋仲とは生物である、熱を帯びねば痛い目に会い、時期が過ぎれば腐ってしまう。
なんと扱いの難しいものであるか。

お涼は首に巻きつけた糸を更にきつく締め上げる、凪の首筋の血管が顕になってきているがそれには気づかない。
「よろしくなんかないわよ、この馬鹿がどこかで油売ってるんじゃないかと思って来てみたら案の定、品物を納めたらすぐに戻ってくるようにとあれ程言ったのに貴方にはまたお仕置きが必要かしら?それとも、貴方はお仕置きされたくてたまらない変態さんなのかしら?凪、抵抗してくれたって構わないのよ?その方がお仕置きしがいがあるじゃない?ねえ、聞こえてるの?聞こえてるなら返事の一つや二つしてくれたっていいじゃない。」
「凪さん、口から泡吹いてますよ?」
そう言うメデューサの言葉通り、彼の顔は青ざめ、口から泡を吹き、四肢は力なく垂れ下がっている、首から糸が伸びている様はまるであやつり人形のようだ。
「あら、もっと抵抗してくれても良かったのに、意外と情けないのね。あなたも私の凪にちょっかい出してないで早く家に帰って旦那さんに甘えてきたらどうなの?」
「ええ甘えてきますとも、甘えるを通り越してまぐわってきますとも、それじゃあごきげんよう奥手で甘え下手で意中の彼と一緒に寝た事もないお涼さん。」
そうしてメデューサの親子はその蛇身をズルズルと引きずりながら帰っていく。
途中、娘のほうが突然我に帰り「おじちゃんありがとう!」と礼を述べたがあの蛇女が凪を誘惑していたところしか知らないお涼には何の事だかわからない。
「凪、一体何があったの?」
無論、口から泡を吹いて気絶している彼が答えるはずもなく。
「しょうがない、家に帰って聞いてみましょう。」
お涼は人化を解く、人の姿のままで大の男を運ぶのは少々面倒だ。
生来の姿に戻ったお涼はその背に気絶している凪をひょいと乗せ江戸の町を歩いて行く。

彼と彼女をつなぐ糸が海を越えるものになるのはもう少し後の話。
勿論、当人達が知るよしもないのだが。
11/07/09 06:55更新 / おいちゃん
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■作者メッセージ
勇者を救うプロジェクトのつもりが主人公の過去話になっていたでござる。
どうも、平成生まれの昭和育ち、おいちゃんです。
あらすじでお気づきの方もおられるかもしれませんが、今回も仕事人テイストが全開でございます。
おいちゃんが仕事にかけられる日も近い?

それでは、ご意見、ご感想、ご質問の方お待ちしております。

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