連載小説
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第二話
「ふむ、事前に貰った地図ではこのあたりに教団の施設があるはずなのですが…それらしきものはどこにもありませんね?」
港を出てから一刻ほど、資料の示す目的地へ到達したはずの男だったが目の前にあるのは大きな屋敷の裏口、教団のシンボルとなり得る印はどこにも見当たらず、右を見ても左を見ても異世界からきた男には何の変化も見受けられない。
「やはり町のことは町の人に聞くのが良いのでしょうか?このままここでうろついていてもしょうがないですし、いったん表通りの方へ出てみましょう。」
そう決意して歩き出した男の手を何者かが掴む、突然の出来事に反応が遅れた男はその手の導く方へとされるがままに引っ張られる。
男の手にしていた地図がはらりと手から落ちる。
忘れ去られた地図を残して、裏通りに静寂が戻る。



「凪、一体何をしてきたって言うの?」
所変わってここは凪の住んでいる長屋、気を失っていた・・・もとい、お涼が絞め上げて気絶させた凪を現場から近いここへ連れてきて今に至る。
「ったく、おめえは肝心な所を見てねえのかよ。」
お涼の奴はいつもこんな感じだ。種族柄、行動力があるのは良いことだが重要なことを見落としたまま動き出すため何かと裏目に出ることが多い。
こいつがジパングに来たときだってそうだ、「着物の作り方を学びたい」と言って着の身着のまま転がり込んできやがった。
まったく、俺が口をきいてやらなかったら今頃その辺でのたれ死んではずだ。
最も今はすっかり立場が逆転して尻に敷かれっぱなしの毎日だが。
「別に大した事はしてねえよ。何か妙に気味の悪い男があの親子に手え掛けようとしてたもんだからな、ちょいと止めに入ったってだけのことだ。」
「そう。それであの蛇女は私の凪を・・・ちょっと絞めてくる。」
お涼は立ち上がり戸口の方へ向かう、殺気と嫉妬と怨念が混じったドス黒い何かが彼女を取り巻いている。
それでも俺は臆せずお涼の腕をとり。
「やめとけ、聞こえてるんだろ? ありゃあ、旦那さんとよろしくやってる最中だ。それにな、あそこの坊主怒らせると怖えんだから、ほら・・・前にあったろ?」

少しばかり前のこと、魔物の嬢ちゃん達を上手い話で誘って遊女に仕立て上げる店があり、そこに坊主の娘さんが連れて行かれたことがあってだな、詳しいことは面倒だから省くが・・・単身乗り込んでいって娘さんを助け出したんだ。
驚いたなんてもんじゃねえぜ、丁度俺らが裏の仕事で乗り込もうとしたときに店に居た娘っこを満身創痍になりながらも全員引き連れて出てくるんだからよ。
どうしてそこまでするんだ?って診療所に連れて行った後に聞いたらよ、「目の前に困ってる人が居るんだ、助けるのが当然だろ?」なんて聞き返してきやがった。
あれが英雄って奴なんだろうな、俺なんかとはえらい違いだ。

「冗談よ、本気にしないでって。それよりさ、気になることがあるんだけど、メドゥーサって石化能力を持ってるからわざわざ助けに入る必要はなかったがするんだけど。」
確かにそうだ。
彼女たちの目にはいとも簡単に相手を無力化させるだけの力がある。
仕掛けてなかったか、もしくは掛からなかったか。
こればっかりは考えた所で埒があくような物じゃねえ、当人に問いただし・・・って今は無理か。
どこかで時間を・・・そうだ、梅の奴が旅から帰ってきた所じゃねえか。
今度は俺が立ち上がり、戸口へ向かう。

「ちょっくら梅のとこ行って来るぜ、ついでに当人達にも話を聞いてくっからよ。」
「凪、あの・・・さ、その・・・」
お涼が胸の前で指で遊んでいる、この仕草が出たって事は・・・あれか。
「いつもの、だろ?分かったよ。いつも通り、五つ半でいいか?」
「その、ごめんね。私がしたいだけなのにいつもいつも付き合わせちゃってさ。」
「いいんだよ。女のわがままを黙って聞いてやるのが男ってもんだ、あの坊主の受け売りだけどな。」
それにな、お前は知らねえかもしれねえが俺は結構救われてるんだぜ、少なくともそんなお前を好きでいられるくらいには。
俺は草履を履き、外に出る。
まずいな、格好つけたのは良いがあの様子だと明日一日動けそうにないぞ。



「梅ー、いるかー?」
俺は診療所の戸口を開け、居るであろう主人に呼びかける。
「凪さん、もういらしたんですか?せっかちな人は嫌われるから気いつけなあかんよ。」
気だるそうに奥から出てきたのは稲荷で名を梅安と言う。
ただ、誰一人としてその名を呼ばず梅先生、梅先生と呼ぶものだから遠方から来る患者の中には本名が梅であると信じ込んでる人もいるとかいないとか。
本業は鍼灸医なのだが、知識に貪欲な彼女はありとあらゆる医術に手を出し、今ではここで治らぬ病ならあきらめろとまで言われるほどである。
風の噂には草津の湯でも治らない恋の病まで治ってしまうのだとか。
「それで、いきなり訪ねといて用件は何ですか? くだらない用件だったら帰ってもらいますよ。私だって長旅で疲れてるんですから。」
「メドゥーサの石化を回避する方法を教えて欲しい。それと、精力剤をくれ。」
「ちょいとお待ちなさいな、今持ってきますから。」
俺は壁にもたれかかる、直立不動で人待ちだとか四半刻も耐えられれば良い方だ。
実際、梅が戻ってきたのは四半刻を過ぎてからだったが。

「お待たせ、まずは石化を回避する方法だけど一つは護符か何かを持つこと、石化だけ回避したいのであればそこまで強力なものを持つ必要はないわね。もう一つは神仏の加護を受けること、そうね教団の掲げてる主神サマの加護でも受ければ確実じゃないかしら?あとは、例外的だけど体質によるものかな?こればっかりはどうしようもないわね。で、説明しておいて難だけどあんたまた何かしでかしたの?」
平然を装い俺は言う。
「別に、どうもしてねえよ。ちょっとした好奇心の戯れだ。」
梅、何もおめえまで俺と一緒に来る必要はねえよ。
地獄に行くのは、俺一人で十分だ。

「それと、これが精力剤。今までのより強力になってるから注意してね?」
そう言って梅は液体の入った小瓶を渡す。
渡された小瓶の中身を一気に飲み干し、
まあ、宵の頃には効いてくるだろう。
「それ、言い忘れてたけど即効性よ?」
「は?」
素っ頓狂な声を上げる、情けない顔をしてると思うが仕方ないだろう。
「半刻もすれば効果が出てくると思うけど、飲んでしまったものはどうしようもないわね。」
お天道様はまだ頭上を通り過ぎたばかりだ、約束の五つ半までどれだけあると思ってやがる。

「あと、こんなものを拾ったんだけど見てくれない?」
梅は俺に紙切れを渡す。
「こりゃあ、浜戸屋の裏口を示した地図じゃねえか。別におかしな所は・・・」
あった。地図で示された浜戸屋の裏口、その場所に理由はよく分からねえが教団の印が入っている。
「梅、こいつをどこで拾った?」
紙切れをひらつかせながら梅に尋ねる。
「どこも何も、浜戸屋の裏口、その場所だよ。」
「臭えな。」
「でしょ。ねえ凪、これは仕事になるかもしれないよ。」
「さあな、今の段階では何とも言えねえ。」
「これは私の方で探り入れとくよ、何かあったら教えるから待っといて。」
梅、おめえ楽しんでねえか?俺らのやってることはどこまで行こうと悪党と何も変らねえんだ。そこんとこ忘れてるといつか痛い目見るぞ。

その後俺は、効き始めた精力剤による性欲を五つ半まで持て余すことになった。
11/08/11 11:45更新 / おいちゃん
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■作者メッセージ
皆さん覚えておいででしょうか?おいちゃんです。
え?貴様などアウト・オブ・眼中?
ごめんなさい。全てはおいちゃんの遅筆スキルに問題があります。

さて次回、お涼さんとの濡れ場です。
苛められるのが好きでない方はブラウザの戻るボタンを16連射してください。

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