盗賊団襲来。
「なぁなぁ、次の村って何時着くんだ・・・?もうかれこれ一週間、人里というものを見てないぞー。」
エフィが不満そうにそう愚痴る。
ココドルド村から出て、丘陵地帯を抜けてからというもの一人も人に出会っていない。
地図にあるはずの村も廃墟と化している始末だ。
代わりに出てくるのは魔物だけ。
今日もスライムやゴブリンを5体ほど倒している。
「おかしいなぁ。予定ならもう少しで町が・・・。あ、あったあった。」
前方に町が見える。
おそらく地図に書いてあるヴェルキスという町だろう。
もうここまで来たのかと少し驚いた。
「おい、何でもいいから早く行こう。ワタシの水筒、もう空っぽなんだ。」
駆け足で町へ向かう俺達。
町へつくと大きな門が出迎えてくれた。
更に門番として2人の武装した人間が立っている。
まあ、今は何でもいい。それよりも早くどこかで飯を食おう。
そう思い、俺達は門番の横を通り過ぎようとした。
しかし、門番は手に持った槍をお互いに交差させる。
「止まれ」という合図なのだろう。
「何者だ?何の用でこの町に来た?」
「何者って・・・見ての通りの旅人だ。補給以外の目的があるように見えるのか?」
「魔物を連れて?」
「ああ、そうだ。」
「ふむ。」
片方の門番が顎に手をやり俺達を見た。
やがて槍を持ち直し俺たちに「入れ」とうながす。
「まあ、いいだろう。言っとくがこの村では魔物はあまり歓迎されない。」
「何故だ?」
「理由は二つ。この町には教会の聖堂がある事と、もう一つは最近ここら一帯で魔物の盗賊団が出ているからだ。」
「盗賊団?」
「気になるんだったら酒場へでも行って来い。俺たちよりくわしい情報が手に入るだろう。」
町に入った俺達は食事ができるところを探す。
どこかいい場所はないか。
そういえば門番が酒場とか言ってたな。
酒場なら飯も食えるだろう。
「すみませ〜ん。」
近くを歩いていたおばさんに話しかける。
「酒場ってどこですか?」
「ああ、山の鉄鋼亭のことだね。そこならこの通りの突き当たりにあるわよ。ん・・・?」
おばさんは怪訝な目つきでエフィを見る。
やっぱり魔物は歓迎されてないようだ。
ひとつひとつの仕草でわかる。
「貴方、魔物なんか連れてるの?」
「ええ、まあ・・・。」
「気をつけなさいよ。魔物は野蛮だからね。」
小声でそう話すおばさんに少しムカッときた。
そんな俺の気持ちを察したのか、エフィは俺の肩を叩く。
エフィもおそらく辛いのだ。
俺達は足早におばさんから離れる。
それと同時に周囲の人間から向けられる冷たい視線。
魔物の何がいけないって言うんだ・・・。
ようやく俺達は酒場『山の鉄鋼亭』につく。
中に入るとアルコールの臭いと酒を飲んでいる人間の喧騒が突き抜けた。
「いらっしゃい。」
俺達は人の間を抜け、カウンター席に腰掛ける。
そしておいしそうな料理を4、5品注文した。
「おや、そこの嬢ちゃん。魔物だね。」
「ああ。」
「お嬢ちゃんはお酒かい?それとも他のにするかい?」
店のマスターはエフィに普通に接する。
俺達はそのことに目を丸くした。
「マスターは差別しないのか?」
「ああ。私はこの町の出身じゃないからね。私の町は魔物と共存していてね、小さい頃からいっぱい魔物は見てきたよ。」
人の良い笑みを浮かべるマスター。
少し気分が晴れる。
やはりこういう人もいるんだよな。
エフィも柔らかい笑みになる。
「ほら、エビピラフとシーフードリゾットだよ。あと、これサービスだ。」
そう言って料理とビールが注がれたコップを置かれた。
人の優しさって暖かいものだと実感する。
「マスター、俺が女だったらあんたに惚れてるよ。」
「そうかい。でも、私は妻一筋なんでね。」
くそぅ・・・、非のうち所のない良い男じゃねえか。
この人になら抱かれてもいい。
「よし、マスター。今日はここでお腹いっぱい食べてくぞ。な、エフィ。」
「ええ。たくさん食べるから覚悟してよ。」
「うちのコックもヤワじゃないからね。負けないよ。」
マスターとの会話が弾みながら、食事が進む。
色んな話を聞かせてくれた。
マスターの若い頃のこと、最近の客のこと。
彼は盗賊団の話もしてくれた。
なんでも盗賊団の首領はミノタウルスで、こいつが強いらしい。
既に村を2、3個つぶしていると教えてくれた。
また料理がうまいからつい長居してしまう。
自慢するだけのことはある。
ここのコックはかなり料理が上手い。
素人の俺でもわかるほどに。
おそらくこんなに気持ちよく酔ったのは生まれて初めてだ。
この店、絶対にまた来よう。
そんな事考えていると・・・。
「よお、兄ちゃん。彼女連れでこんな所に来たのか?」
一人のヒゲ面の酔っ払いが絡んでくる。
こういうのは面倒くさいから、相手にしないのが一番だな・・・。
アイコンタクトでエフィに「相手にするな」と伝える。
「オルドさん、酔いすぎだよ。」
「全然飲んでないよ、マスター。ひくっ。」
嘘をつけ。顔が真っ赤だぞ。
心の中でそう毒づく。
男はそうして俺の隣の席にドカッと座った。
それからこのうるさい男の相手をさせられる。
頑張って笑顔を作り、早く退散してくれることを願った。
「・・・ん?」
ふと男がエフィに目をつける。
「こいつ!!魔物じゃねえか!?」
男の大声で酒場中がシンと静まった。
いっきに周囲の冷たい視線が俺達に集まる。
下卑た笑いを浮かべ、男はエフィに擦り寄った。
「そういえばお前等魔物ってやつぁ、男の精を餌にしてるんだよなぁ。ゲヘヘヘ、どうだ?俺のモノから搾り取ってみねえか?」
「お前の精など死んでもいらん。」
股間を突き出すオヤジを極力相手しないよう、エフィは目を合わせない。
男はそれでも彼女にモノを押し当て続ける。
ズボンの上からとはいえ、あれほど不快なものはないだろう。
あろうことか男は押し当てるだけ足りなくなり、エフィの上半身に擦り付け始めた。
「くっ!?いい加減にし・・・っ!?」
「ふごぉっ!?」
彼女が立ち上がり殴りかかろうとする前に、俺が後ろからオヤジの頭を蹴り飛ばした。
すぐに男の身体は横に倒れる。
「いっててて・・・。」
「ごめんな、俺の足長すぎるから当たってしまったぜ。」
「何だ、お前。馬鹿じゃねえのか?魔物なんかかばいやがって!!」
「はっ、本当にタチの悪い酔っ払いだな!!」
「なんだと!?小生意気なクソガキめ!!死なすぞ!?」
俺めがけて大振りの蹴りをする。
そんなのあたるはずない。
普通に横に回避した。
・・・が。
「っ!!?」
蹴りとは違う衝撃が俺の即頭部に来る。
後ろから椅子で殴られたようだ。
くそっ、卑怯な奴等だ。
「おお!!ボルワ!!」
「親方!!大丈夫ですかい!?お前らもこっち来て親方の手伝いしろ!?ほら、へぶっ!!」
「卑怯者!!カイ、大丈夫か!?」
「ああ、助かった。」
ボルワと呼ばれた人物を殴り飛ばすエフィ。
その様子を見てテーブルに座っていた男達がゾロゾロ立ち上がる。
どうやら他にも仲間がいたようだ。
イスで殴った人物以外に更に3人増えた。
これで形勢は2対5。
数では不利だが、こちらの方が実戦経験は上だ。
負けるはずがない。
「表へ出ろぉ!!ほえ面かかせてやる!!」
「望むところだ!!」
そして、次の日。
俺達は盗賊団退治で町の近くの平原に来ていた。
あの後、店の外で派手な大喧嘩をした俺達。
無論、そこらへんの少し腕っぷしの強い奴等など負けるはずもない。
全員ノックアウトしたのは良かったのだが・・・。
自警団がやってきて、責任を全て俺達二人になすりつけられてしまった。
納得の行かない俺は異議を申し立てた。
理由を説明をしろ、と。
ごちゃごちゃと言葉を並べていたが言いたいことはすぐわかった。
『エフィが魔物だから、エフィが悪い。』
というなんとも不条理なことだった。
それからは自警団と口論。
結果、盗賊団の討伐をすれば罪状は免除という訳のわからないことになってしまった。
更に報償金もつけると言っていたが、金はどうでも良かった。
くそ、ふざけんじゃねぇよ・・・。
俺は苛立ちのあまり、小石を思い切り蹴る。
「ごめんな、カイ。こんなことにつき合わせて。」
「気にするな。先に手を出したのは俺だ。」
しょんぼりするエフィの頭をポンポンと軽く叩いてやる。
「しかし、盗賊団とか言うのはどこにいるんだ?」
辺りをキョロキョロ見回してみる。
すると前方から土煙を上げて何かが駆けてくるのが見えた。
目をこらして見るとその正体がすぐわかった。
地響きを立てて走ってくるミノタウロスと、どこかで盗んできたと思われる馬車に乗った4匹のオークが俺達の方へ向かってきていた。
「おおおおおおお!!男だ、男だ!!」
「おやびん!!次の獲物はあいつらにしましょう!!」
ミノタウロスが俺の前で立ち止まると、オーク達は馬車を降りてキレイに横一列に整列する。
巨大な斧を誇らしげに持ち上げると、それだけでオーク達から歓声が上がった。
何がしたいんだ、こいつら。
「やい、そこのお前!!このお方が誰か知っているのか!?」
「知ってるさ。ここらへんを荒らしまわっている盗賊団のボス、ミノタウロスのスエン=グランブルだろ?」
「おおおやびん!!こいつ、おやびんの事を知ってますぜ!!」
「さすがおやびん!!もうおやびんの勇名は人間達にも知られているようですぜ!!」
「はっはっは!!さすがだろ!?」
「さすがおやびん!!」
「おやびん最高!!」
何だこの残念な芸人みたいな奴等は・・・。
もっとこう悪役って感じのを想像していたんだが。
これじゃ張り合いもなくなってしまう。
「さあ、知っているなら話がはやい!!お前等の身に付けているものと持っているもの、全て置いていけ!!あと、お前もついでに頂いていくぞ!!」
ビシッと半身以上ある斧を俺に向ける。
エフィといいコイツといい、魔物は武器で人を指差すのか?
「じゃ、エフィ。オークを頼む。」
「了解。」
ミノタウロスは大きくその巨斧を振り下ろす。
さすがパワーは尋常じゃない。
いとも簡単に地面がえぐれ、斧が突き刺さった。
「はっはっはっ!!どうだぁ、この私のパワーは!?」
「確かにすごい。だけど読むのは容易い。」
俺はメチャクチャな軌道を描く斧を冷静に避けながら、一撃ずつ正確に剣撃を浴びせていく。
「くっ、このっ!!はぁっ!!」
俺の攻撃は当たるのに自分の攻撃があたらないことに苛立っているのか、ただ力任せに斧を振り回し始めた。
こうなればもう勝負は決まったようなもの。
次の瞬間、俺はその巨大な武器を弾き飛ばし彼女を倒す。
そして尻もちをついた彼女の前に剣を突きつけた。
「オーク!!助けてくれぇ!!」
どうにもならなくなったミノタウロスはオークに助けを求める。
が、しかし・・・。
「ダメです、おやび〜ん。」
「こいつ強いぃ・・・。」
「何だもう終わりか?」
全員エフィにノックアウトされていた。
最後の希望も崩れ去る。
「た、頼む・・・。殺さないでぇ・・・。」
泣きそうな顔で命乞いを始めるミノタウロス。
「命まではとらない。だけど、一つ約束してくれ。」
「する!!何でもする!!」
「もうここら辺で二度と暴れないことだ。」
「わかった、約束する!!もうここの人間から略奪なんかしない!!」
「よし、なら武器を置いてさっさとどっかへ行け。」
「う、うわぁーーーーーーん!!!」
自分の斧を捨てて、一目散に逃げていく。
それに乗じてオーク達も逃げ出した。
「やれやれ・・・。ん・・・?」
ふと見るとオークが一匹そこにいた。
最初は取り残されたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。
不審に思い、話しかけてみる。
「ひっ、殺さないで・・・。」
「いや、お前は逃げないのか?」
「こ、腰が抜けて立てないの・・・。」
「ほら、背負ってやるからこっちへ来い。」
彼女の身体を背負ってやると思ったよりも軽くて、少し驚く。
そして不安そうな声で
「おやびん達、どこ言ったのかなぁ・・・。」
とつぶやいた。
「お前はこの後、どうする?あいつらを探すのか?」
「アタイ、一人じゃ何もできないし・・・。そうだ、お前・・・じゃなかった。貴方がアタイの新しいおやびんになってくれませんか?」
「は?」
「お願いします。アタイ一人じゃ・・・えぐっ。」
泣きそうになるオーク。
俺はあわてて首を縦に振り、仲間になることを許可した。
彼女の顔が満面の笑みになる。
「あ、申し遅れました。アタイはテテス、テテス=コルモットと言います。これからよろしくお願いしますね、おやびん。」
「おやびんはやめてくれ。」
「では、なんとお呼びしたら・・・。」
「カイでいいよ。」
「わかりました。カイさんこれからお世話になりますが、どうかよろしくお願いします。」
こうして新しくオークのテテスが仲間に加わった。
エフィが不満そうにそう愚痴る。
ココドルド村から出て、丘陵地帯を抜けてからというもの一人も人に出会っていない。
地図にあるはずの村も廃墟と化している始末だ。
代わりに出てくるのは魔物だけ。
今日もスライムやゴブリンを5体ほど倒している。
「おかしいなぁ。予定ならもう少しで町が・・・。あ、あったあった。」
前方に町が見える。
おそらく地図に書いてあるヴェルキスという町だろう。
もうここまで来たのかと少し驚いた。
「おい、何でもいいから早く行こう。ワタシの水筒、もう空っぽなんだ。」
駆け足で町へ向かう俺達。
町へつくと大きな門が出迎えてくれた。
更に門番として2人の武装した人間が立っている。
まあ、今は何でもいい。それよりも早くどこかで飯を食おう。
そう思い、俺達は門番の横を通り過ぎようとした。
しかし、門番は手に持った槍をお互いに交差させる。
「止まれ」という合図なのだろう。
「何者だ?何の用でこの町に来た?」
「何者って・・・見ての通りの旅人だ。補給以外の目的があるように見えるのか?」
「魔物を連れて?」
「ああ、そうだ。」
「ふむ。」
片方の門番が顎に手をやり俺達を見た。
やがて槍を持ち直し俺たちに「入れ」とうながす。
「まあ、いいだろう。言っとくがこの村では魔物はあまり歓迎されない。」
「何故だ?」
「理由は二つ。この町には教会の聖堂がある事と、もう一つは最近ここら一帯で魔物の盗賊団が出ているからだ。」
「盗賊団?」
「気になるんだったら酒場へでも行って来い。俺たちよりくわしい情報が手に入るだろう。」
町に入った俺達は食事ができるところを探す。
どこかいい場所はないか。
そういえば門番が酒場とか言ってたな。
酒場なら飯も食えるだろう。
「すみませ〜ん。」
近くを歩いていたおばさんに話しかける。
「酒場ってどこですか?」
「ああ、山の鉄鋼亭のことだね。そこならこの通りの突き当たりにあるわよ。ん・・・?」
おばさんは怪訝な目つきでエフィを見る。
やっぱり魔物は歓迎されてないようだ。
ひとつひとつの仕草でわかる。
「貴方、魔物なんか連れてるの?」
「ええ、まあ・・・。」
「気をつけなさいよ。魔物は野蛮だからね。」
小声でそう話すおばさんに少しムカッときた。
そんな俺の気持ちを察したのか、エフィは俺の肩を叩く。
エフィもおそらく辛いのだ。
俺達は足早におばさんから離れる。
それと同時に周囲の人間から向けられる冷たい視線。
魔物の何がいけないって言うんだ・・・。
ようやく俺達は酒場『山の鉄鋼亭』につく。
中に入るとアルコールの臭いと酒を飲んでいる人間の喧騒が突き抜けた。
「いらっしゃい。」
俺達は人の間を抜け、カウンター席に腰掛ける。
そしておいしそうな料理を4、5品注文した。
「おや、そこの嬢ちゃん。魔物だね。」
「ああ。」
「お嬢ちゃんはお酒かい?それとも他のにするかい?」
店のマスターはエフィに普通に接する。
俺達はそのことに目を丸くした。
「マスターは差別しないのか?」
「ああ。私はこの町の出身じゃないからね。私の町は魔物と共存していてね、小さい頃からいっぱい魔物は見てきたよ。」
人の良い笑みを浮かべるマスター。
少し気分が晴れる。
やはりこういう人もいるんだよな。
エフィも柔らかい笑みになる。
「ほら、エビピラフとシーフードリゾットだよ。あと、これサービスだ。」
そう言って料理とビールが注がれたコップを置かれた。
人の優しさって暖かいものだと実感する。
「マスター、俺が女だったらあんたに惚れてるよ。」
「そうかい。でも、私は妻一筋なんでね。」
くそぅ・・・、非のうち所のない良い男じゃねえか。
この人になら抱かれてもいい。
「よし、マスター。今日はここでお腹いっぱい食べてくぞ。な、エフィ。」
「ええ。たくさん食べるから覚悟してよ。」
「うちのコックもヤワじゃないからね。負けないよ。」
マスターとの会話が弾みながら、食事が進む。
色んな話を聞かせてくれた。
マスターの若い頃のこと、最近の客のこと。
彼は盗賊団の話もしてくれた。
なんでも盗賊団の首領はミノタウルスで、こいつが強いらしい。
既に村を2、3個つぶしていると教えてくれた。
また料理がうまいからつい長居してしまう。
自慢するだけのことはある。
ここのコックはかなり料理が上手い。
素人の俺でもわかるほどに。
おそらくこんなに気持ちよく酔ったのは生まれて初めてだ。
この店、絶対にまた来よう。
そんな事考えていると・・・。
「よお、兄ちゃん。彼女連れでこんな所に来たのか?」
一人のヒゲ面の酔っ払いが絡んでくる。
こういうのは面倒くさいから、相手にしないのが一番だな・・・。
アイコンタクトでエフィに「相手にするな」と伝える。
「オルドさん、酔いすぎだよ。」
「全然飲んでないよ、マスター。ひくっ。」
嘘をつけ。顔が真っ赤だぞ。
心の中でそう毒づく。
男はそうして俺の隣の席にドカッと座った。
それからこのうるさい男の相手をさせられる。
頑張って笑顔を作り、早く退散してくれることを願った。
「・・・ん?」
ふと男がエフィに目をつける。
「こいつ!!魔物じゃねえか!?」
男の大声で酒場中がシンと静まった。
いっきに周囲の冷たい視線が俺達に集まる。
下卑た笑いを浮かべ、男はエフィに擦り寄った。
「そういえばお前等魔物ってやつぁ、男の精を餌にしてるんだよなぁ。ゲヘヘヘ、どうだ?俺のモノから搾り取ってみねえか?」
「お前の精など死んでもいらん。」
股間を突き出すオヤジを極力相手しないよう、エフィは目を合わせない。
男はそれでも彼女にモノを押し当て続ける。
ズボンの上からとはいえ、あれほど不快なものはないだろう。
あろうことか男は押し当てるだけ足りなくなり、エフィの上半身に擦り付け始めた。
「くっ!?いい加減にし・・・っ!?」
「ふごぉっ!?」
彼女が立ち上がり殴りかかろうとする前に、俺が後ろからオヤジの頭を蹴り飛ばした。
すぐに男の身体は横に倒れる。
「いっててて・・・。」
「ごめんな、俺の足長すぎるから当たってしまったぜ。」
「何だ、お前。馬鹿じゃねえのか?魔物なんかかばいやがって!!」
「はっ、本当にタチの悪い酔っ払いだな!!」
「なんだと!?小生意気なクソガキめ!!死なすぞ!?」
俺めがけて大振りの蹴りをする。
そんなのあたるはずない。
普通に横に回避した。
・・・が。
「っ!!?」
蹴りとは違う衝撃が俺の即頭部に来る。
後ろから椅子で殴られたようだ。
くそっ、卑怯な奴等だ。
「おお!!ボルワ!!」
「親方!!大丈夫ですかい!?お前らもこっち来て親方の手伝いしろ!?ほら、へぶっ!!」
「卑怯者!!カイ、大丈夫か!?」
「ああ、助かった。」
ボルワと呼ばれた人物を殴り飛ばすエフィ。
その様子を見てテーブルに座っていた男達がゾロゾロ立ち上がる。
どうやら他にも仲間がいたようだ。
イスで殴った人物以外に更に3人増えた。
これで形勢は2対5。
数では不利だが、こちらの方が実戦経験は上だ。
負けるはずがない。
「表へ出ろぉ!!ほえ面かかせてやる!!」
「望むところだ!!」
そして、次の日。
俺達は盗賊団退治で町の近くの平原に来ていた。
あの後、店の外で派手な大喧嘩をした俺達。
無論、そこらへんの少し腕っぷしの強い奴等など負けるはずもない。
全員ノックアウトしたのは良かったのだが・・・。
自警団がやってきて、責任を全て俺達二人になすりつけられてしまった。
納得の行かない俺は異議を申し立てた。
理由を説明をしろ、と。
ごちゃごちゃと言葉を並べていたが言いたいことはすぐわかった。
『エフィが魔物だから、エフィが悪い。』
というなんとも不条理なことだった。
それからは自警団と口論。
結果、盗賊団の討伐をすれば罪状は免除という訳のわからないことになってしまった。
更に報償金もつけると言っていたが、金はどうでも良かった。
くそ、ふざけんじゃねぇよ・・・。
俺は苛立ちのあまり、小石を思い切り蹴る。
「ごめんな、カイ。こんなことにつき合わせて。」
「気にするな。先に手を出したのは俺だ。」
しょんぼりするエフィの頭をポンポンと軽く叩いてやる。
「しかし、盗賊団とか言うのはどこにいるんだ?」
辺りをキョロキョロ見回してみる。
すると前方から土煙を上げて何かが駆けてくるのが見えた。
目をこらして見るとその正体がすぐわかった。
地響きを立てて走ってくるミノタウロスと、どこかで盗んできたと思われる馬車に乗った4匹のオークが俺達の方へ向かってきていた。
「おおおおおおお!!男だ、男だ!!」
「おやびん!!次の獲物はあいつらにしましょう!!」
ミノタウロスが俺の前で立ち止まると、オーク達は馬車を降りてキレイに横一列に整列する。
巨大な斧を誇らしげに持ち上げると、それだけでオーク達から歓声が上がった。
何がしたいんだ、こいつら。
「やい、そこのお前!!このお方が誰か知っているのか!?」
「知ってるさ。ここらへんを荒らしまわっている盗賊団のボス、ミノタウロスのスエン=グランブルだろ?」
「おおおやびん!!こいつ、おやびんの事を知ってますぜ!!」
「さすがおやびん!!もうおやびんの勇名は人間達にも知られているようですぜ!!」
「はっはっは!!さすがだろ!?」
「さすがおやびん!!」
「おやびん最高!!」
何だこの残念な芸人みたいな奴等は・・・。
もっとこう悪役って感じのを想像していたんだが。
これじゃ張り合いもなくなってしまう。
「さあ、知っているなら話がはやい!!お前等の身に付けているものと持っているもの、全て置いていけ!!あと、お前もついでに頂いていくぞ!!」
ビシッと半身以上ある斧を俺に向ける。
エフィといいコイツといい、魔物は武器で人を指差すのか?
「じゃ、エフィ。オークを頼む。」
「了解。」
ミノタウロスは大きくその巨斧を振り下ろす。
さすがパワーは尋常じゃない。
いとも簡単に地面がえぐれ、斧が突き刺さった。
「はっはっはっ!!どうだぁ、この私のパワーは!?」
「確かにすごい。だけど読むのは容易い。」
俺はメチャクチャな軌道を描く斧を冷静に避けながら、一撃ずつ正確に剣撃を浴びせていく。
「くっ、このっ!!はぁっ!!」
俺の攻撃は当たるのに自分の攻撃があたらないことに苛立っているのか、ただ力任せに斧を振り回し始めた。
こうなればもう勝負は決まったようなもの。
次の瞬間、俺はその巨大な武器を弾き飛ばし彼女を倒す。
そして尻もちをついた彼女の前に剣を突きつけた。
「オーク!!助けてくれぇ!!」
どうにもならなくなったミノタウロスはオークに助けを求める。
が、しかし・・・。
「ダメです、おやび〜ん。」
「こいつ強いぃ・・・。」
「何だもう終わりか?」
全員エフィにノックアウトされていた。
最後の希望も崩れ去る。
「た、頼む・・・。殺さないでぇ・・・。」
泣きそうな顔で命乞いを始めるミノタウロス。
「命まではとらない。だけど、一つ約束してくれ。」
「する!!何でもする!!」
「もうここら辺で二度と暴れないことだ。」
「わかった、約束する!!もうここの人間から略奪なんかしない!!」
「よし、なら武器を置いてさっさとどっかへ行け。」
「う、うわぁーーーーーーん!!!」
自分の斧を捨てて、一目散に逃げていく。
それに乗じてオーク達も逃げ出した。
「やれやれ・・・。ん・・・?」
ふと見るとオークが一匹そこにいた。
最初は取り残されたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。
不審に思い、話しかけてみる。
「ひっ、殺さないで・・・。」
「いや、お前は逃げないのか?」
「こ、腰が抜けて立てないの・・・。」
「ほら、背負ってやるからこっちへ来い。」
彼女の身体を背負ってやると思ったよりも軽くて、少し驚く。
そして不安そうな声で
「おやびん達、どこ言ったのかなぁ・・・。」
とつぶやいた。
「お前はこの後、どうする?あいつらを探すのか?」
「アタイ、一人じゃ何もできないし・・・。そうだ、お前・・・じゃなかった。貴方がアタイの新しいおやびんになってくれませんか?」
「は?」
「お願いします。アタイ一人じゃ・・・えぐっ。」
泣きそうになるオーク。
俺はあわてて首を縦に振り、仲間になることを許可した。
彼女の顔が満面の笑みになる。
「あ、申し遅れました。アタイはテテス、テテス=コルモットと言います。これからよろしくお願いしますね、おやびん。」
「おやびんはやめてくれ。」
「では、なんとお呼びしたら・・・。」
「カイでいいよ。」
「わかりました。カイさんこれからお世話になりますが、どうかよろしくお願いします。」
こうして新しくオークのテテスが仲間に加わった。
11/06/11 01:06更新 / アカフネ
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