わたしたちの記念日
凱が元親族との決別をしてから、一週間が経った日曜日――
風星学園の特別クラス学生寮の寮長室に、龍堂信隆・紗裕美夫妻はいた。
二人は先の瑞姫にまつわるトラブルで会社とパート先を追い出された後、エルノールの計らいで学園の職員として再就職し、今は特別クラスの寮長・寮母として働いている。
丁度、かつての寮母が密かに交際していた男性との結婚が決まり、寿退職して図鑑世界で暮らすこととなったため、渡りに船とばかりに夫妻を職員兼住み込みで雇用したのだ。
義理の父母となる二人を無碍にするわけにいかなかったのが、エルノールの本音だろう。
晴れた昼下がり。
寮生たちの食事の時間も終わった頃、インターホンが鳴り響く。
「はーい」
『お母さん、瑞姫です。お兄さんも一緒だよ』
「丁度手が空いてるから、入っていいわよ。あなたー！ 瑞姫と凱君よー！」
疑いも無しに入れたのはいいのだが、訪れたのは瑞姫と凱……だけではなかった。
エルノールを筆頭に朱鷺子、亜莉亜、マルガレーテ、ロロティアも顔を揃えていたからだ。
「あらあらぁ……、学園長までお越しになるなんて……」
「我ら一同、御父上、御母上に御挨拶に伺わねば、と思いましてのう」
寮長室ではすし詰めになってしまうため、食堂に移っての話になった。
非常に丁寧な呼び方をされて困惑する夫妻だが、その答えを瑞姫が明かす。
「お父さん、お母さん。わたし、もう16だから、お兄さんとの婚姻届出すけど……、お兄さん、学園長や一緒に来たみんなとも、結婚することになったの」
娘の言葉に唖然とする両親。
まさか娘のみならず、学園長も含めた五人と結婚することになるのをここで聞かされるのだから、無理もない話だろう。
瑞姫は言葉を続ける。
「お兄さんは魔物化した影響で、ここにいるみんなとも関係を持つことになってしまったの。でもね、わたしはお兄さんと一緒に歩めることがうれしいし、お兄さんが受けてきた傷を、みんなで癒していきたいの」
事態をようやく把握し始めた紗裕美は、努めて冷静に返す。
「言いたいことは、その、何となく分かったわ。それでもね、こんなにたくさんの方々と一度に結婚なんて、ありえないから……ね？」
「御心配は無用。このような書類もあるんじゃ」
エルノールが見せたのは、複数の魔物娘と結婚する男性のために作られた、特製の婚姻届。
配偶者となる魔物娘が十人まで書ける仕様となっている。
人間界では特例の制度として、二年前にようやく認められたのだ。
もっとも、そこに至るまでには人権団体や弁護士団体、保守派議員を中心とした者たちによる反対・抗議運動、妨害活動が相次いでいたのだが。
「瑞姫は兄上にとって、無くてはならぬ大事な伴侶。なれど、兄上にはわしらを引き寄せる何かを持ってしまっておるのじゃ。でなければ、ここまでにはなりますまい」
龍堂夫妻は互いに顔を見つつ押し黙るが、瑞姫が畳み掛けるように声を出す。
「わたしはまだ16。悔しいけど、まだ子供なの。それに、まもなく夫になるお兄さんを、わたし一人が支えられるとは限らない。お兄さんは心に傷を負いすぎてるの。お父さんとお母さんが考えてる以上に……この人の傷は……深かったの……」
さめざめと泣く娘の姿に、夫妻はかける言葉を見つけられない。
「でも……それでも、わたしは……、おにい、さん、と……、大切な……仲間と、一緒に、あるいて、いく」
泣きながら決意を語る瑞姫に、助け船を出したのは朱鷺子だった。
「その……、おじさま……、おばさま……。ボクたちが、大事な未来の夫を……支えるから。瑞姫ちゃんは、ボクたちの大事な……大事な、仲間だから」
「確か、三日月さん、だったね。瑞姫の話にいつも出てくるよ。娘の友達になってくれて、本当にありがとう。これからも、瑞姫の友達でいてくれたら嬉しいよ」
朱鷺子の精一杯の言葉に、信隆が感謝の言葉を伝え、朱鷺子もその言葉に、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「この子たちの無事と幸せが、私どもの一番の願いです。学園長を始めとしたみなさん、どうか子供たちのこと、よろしく頼みます」
信隆はエルノールらに向かって深々と頭を下げ、沙裕美もそれに続く。
「承知いたした。我ら五人、家族となって愛する夫と大事な仲間を支え、歩んで行きまする」
エルノールが平坦な胸を張ってどんっと叩くと、周りから笑い声が漏れる。
「な、何じゃぁっ！ 何がおかしいんじゃ！」
「うふふ、エルノールさまのお陰で、緊張が和らいだんです。ふふふ」
「説得力が無いわ、ロロ！」
「エル、その微笑ましい仕草ですわよ。うふふ♪」
「レーテまで！」
やいのやいのと騒ぐ魔物娘たちを、凱は苦笑交じりで見つめ、こっそりと安堵の吐息を漏らす。
けれど、それは泣き止んだ瑞姫にあっさりと見破られ、亜莉亜の参戦も許した。
「お兄さんっ。だめでしょ、そんな気持ちじゃ。わたしたちが、こうしてあいさつに来た意味がなくなっちゃうよ」
「凱くんもー、これで安心しちゃだめですよー？ 凱くんにはー、家庭を守る義務と責任がー、生まれるですよー？」
信隆と沙裕美は、そんな雰囲気の中で魔物娘用婚姻届に同意のサインをし、印鑑をつくと、凱に婚姻届を差し出して告げる。
「できたぞ、凱。みんなと仲良く、支え合える家庭を作り、守るんだぞ。鬼灯先生が今言ったように、この書類を出した瞬間から、お前には家庭と家族を守る責任と義務が生まれる。それを忘れるな」
「凱君。瑞姫を任せられるのは、あなたしかいないわ。そして、あなたには素晴らしいお友達、ううん、仲間がいるのよ。彼女たちを裏切っちゃだめ。そんなことしたら――」
沙裕美が突如立ち上がるや否や、凱の胸ぐらを掴んで睨みつけながら、噛み付くような声で告げる。
「――私たちがあなたを殺すから！」
「……はい……、父さん、母さん」
やり取りを見た瑞姫が声をかける。
「じゃあ、お父さん、お母さん。わたしたちはこれで。お兄さんも、みんなも、ほら」
瑞姫に手を引かれながら、凱たちは特別クラス学生寮を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝九時、七人は近くの役所に来ていた。
「整理券取ってくる」
「うん」
「ちょっと……、ドキドキ……する」
「いざ自分のことになると、そうですわね」
「あたしにも遂に春がきたですよー！」
「ああ……本当に、私と旦那さまが……」
「わしも緊張するわい」
六人の魔物娘の声を背に受けた凱は、整理券を引き抜くと、戸籍住民課住民記録係の窓口用紙を記入していく。
月曜の朝だというのに人であふれ、七人は自販機で買ったジュースを飲みながら、およそ30分ほど待っていた。
そうして、凱が取った整理券の番号がモニターに表示され、彼は所定の窓口に向かう。
「書類提出ですね？」
「こちらでお願いします」
「あ、魔物娘さん用の婚姻届ですね。わかりました」
職員は手慣れた所作で書類を動かし、判をついていく。
「はい、よろしいですよ」
「それと、離婚届不受理申出も出しときたいんだけど」
「はい。では、この用紙に記入してもらいますので、お時間は大丈夫ですか？」
「……大丈夫」
「ではこちらに、お名前と住所、生年月日、電話番号の記入をお願いします」
職員の指示に従いつつ、凱はせっせと書類を記入していき、提出を終える。
「手続きはこれで大丈夫です。お疲れ様でした」
職員の素っ気ない社交辞令を受けて窓口を離れる凱だったが、不特定多数の人間を相手にするのだから、文句を言われないだけありがたいとも感じていた。
「あ、終わったのね？」
瑞姫の声に迎えられた凱が無言でうなずくと、他の五人も引き連れ、悠々とした足取りで風星学園への帰路を行く。
家長として、家庭と家族を守る義務と責任――それがこれから、凱が新たに背負わなければならない重責。
きっとそれは単純な復讐よりも遥かに重く、困難な道のりとなるであろう。
そうでなくても魔に魅入られた彼に逃れる術は無いが、人間に蔑まれ続けた凱にとって、人間社会は寄る辺のない世界でしかないのも事実だ。
風星学園とエルノール・サバトが今の家であり、瑞姫たち魔物娘は自分を支えてくれる大切な存在――それが今の凱にも、はっきりとした事実として認識されていた。
数年前まで、魔物娘をも憎き敵と認識していたのは確かである。
けれど、今を作るきっかけが瑞姫の存在であり、サバトであり、彼の妻となることを誓ってくれた魔物娘たちであった。
運命の皮肉なのか、それとも導きだったのか――
今の凱に、それを判断することは出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食後、後片付けを終えた凱は、驚くべき光景を目にする。
「……みんなしてその恰好は何だ？」
「え？ どうかしたの？」
妻となった魔物娘六人が風星学園の制服に身を包んだ姿に凱は思わずツッコミを入れるが、きょとんとした顔で軽々と流す瑞姫の返答に頭を抱える。
在校生である瑞姫と卒業したばかりの朱鷺子はともかく、教師である亜莉亜ばかりか、学園長であるエルノールまでもが、自分たちのサイズに合わせて特注した制服を着ているのだから、ツッコミを入れないのが無理な話だ。
しかも、全員のスカートがブラウスの裾に近いくらいの短さで、座れば否が応でもブラウスの裾どころか、下着が見えてしまうのは明らか。
「は、初めて、着ましたけど……、なんか、足がスースーして馴染めません」
言ったのはロロティアだ。
彼女も一応は学校制服に身を包むときはあるが、流石にマイクロミニのスカートは初めてだったようだ。顔がいまだに赤く、頻りにモジモジしている。
「ほら、ロロだってこう言ってるじゃねえかよ」
「ロロは慣れておらんのじゃ、大目に見てやらんか」
「そうだよガイ……。これから――」
「だめですよー、朱鷺子ちゃん。今言っちゃだめなんですよー」
「そうですわね。この寮の主様にはわたくしたちがこうしている理由を、教えるわけにはいきませんものね」
「そう、お兄さんは、何も聞いちゃダメ」
凱の指摘を、ロロティア以外の五人が反論して抑え込む。
ということは、この後に必ず何かがある――と凱は思うしかない。
「それに、教えてほしいの。ね？ わかるでしょ？」
「……」
瑞姫の言葉に、凱も薄々察したものの、あえて声には出さなかった。
すると――
〈お兄さん、黙ってたってダメ。わかってるんでしょ？ ね？ 先生♪〉
――降伏勧告にも近い言い回しで、瑞姫が念話で凱に語りかける。
「……み、みんな、この後は、その、授業やるけど……大丈夫、か？」
「「「「「「はい♪」」」」」」
躊躇う凱の言葉に、六人は笑顔満点の返事で返す。
そうして、彼女たちは凱の腕を引いたり、背中を押したりして地下基地に連れていく。
エルノールの先導で行き着いた先は、今まで使っていたのとは違う部屋である。そこは凱の自室のものよりも遥かに広く、部屋の半分を占拠する大きさを持った巨大ベッドが置かれた寝室だった。
「ククク、わしが秘かに作り上げたんじゃ。皆でこうしてセックスするには、このくらいでも足りんくらいじゃがな」
すると妻となった魔物娘六人は一斉に凱から離れ、制服のままベッドへと上がり、腰を下ろす。
「ほら……、来て、お兄さん。ううん、今は……せ・ん・せ・い♥」
「ほらぁ……。ガイの……好きなもので……合わせたんだよ？ ボク、スリップって……あんまり……」
「そう言いながら一生懸命選んでたのは、トキコじゃありませんこと？」
「……ボ……ボク、は……」
「あ、あたしは……は、早く（性的）指導してほしいですよー」
「旦那さまぁ……♥ 今夜は先生と生徒の愛し方を……、教えてください♥」
「新婚初夜は可愛い生徒と、あんなことやこんなことをするんじゃろう？ ほれほれ、より取り見取りじゃぞ♥」
それぞれがわざとらしく脚を組みなおすと、ミニスリップであろう下着の裾がスカートから見え隠れしていた。
瑞姫の指示であろうことは嫌でも分かる。
凱がゆっくりとベッドに座ると、瑞姫が先陣切って彼に抱きつき、激しい口づけを交わす。後れを取ってはなるまいと、今度は朱鷺子が自慢の巨乳を愛する夫の背中にムニュムニュと押しつけて放さない。
「みーずーきーちゃーんー？ あたしたちが近づけないですよー」
「この姿を見せた以上、旦那さまには、覚悟していただかないとなりませんからね？ さあ、朱鷺子さまも」
亜莉亜とロロティアがそう言って、瑞姫と朱鷺子を凱から引き剥がそうとする。
だがそこで、凱は瑞姫の尻を思わず、むにむにと揉みしだく。
「いやぁ〜ん♥」
嬉しそうにあえぎながら身をよじる瑞姫の姿に、ロロティアは少し嫉妬を覚えてしまう。
「旦那さま、じゃなくて先生！ 私にも！」
そこの声に応えるように、ロロティアの胸に凱の手が這い、鷲掴みと勘違いされるような柔らかい掴み方でブレザージャケットの上から胸を揉みしだく。
「あ、あ、やぁぁ♥ そ、そんな、せん、せい……ぁはぁん♥」
上着の裏地とブラウスとミニスリップによる三重の刺激がロロティアの乳首を直撃し、さらには乳首が勃起して余計に擦れてしまい、彼女はたちまち甘くとろけた吐息をこぼす。
「あっ、やぁん♥ せんせいったらぁ♥ だめですよぉー♥」
亜莉亜はほとんど立っているような体勢だったため、女陰を下着越しに弄られる。
凱自身は意識していなかったが、的確に刺激していたので亜莉亜は凱にしがみつきながら絶頂を迎えてしまう。
「わ、わしにもせ――んぉおぉぉうぅ！ しょ、しょこ、弱いんじゃぁぁぁぁ♥ ひょぇ！ しょこもじゃと!? あっ、あっ、あひぇぇぇぇぇ♥」
エルノールも亜莉亜と同じ体勢でやってきたので下着越しに女陰を責められ、おまけに菊穴を指で愛撫されてしまい、とろけた顔で愛液を噴射させてしまった。
「あ、先生、ダメぇ♥ 擦れちゃいますわぁ〜♥」
マルガレーテはロロティアと同じ責め方をされたが、マルガレーテは朱鷺子と張り合う巨乳の持ち主。ロロティアとは違う感触が凱の手に伝わってくる。
当然それでは終わる訳も無く、六者六様に責めて責められを繰り返し、先生と六人の「夜の」生徒は甘い快楽に溺れまくるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
凱はエルノールに呼ばれて学園長室にやって来た。
学園が午後の授業に入った時である。
「兄上。お主は今日から、我がエルノール・サバトの特別顧問とする。本来は昨日言うべきじゃったが、あんなに気持ちいい事をしたのじゃから、後回しにしてしもうたわ」
カラカラとエルノールは笑うが、対する凱は少し申し訳なさそうな面持ちになっていた。
「責めとるんではない。わしは兄上を特別顧問にする事をすでに決めてたんじゃ。任命するのが昨日だろうと今日だろうと関係無いわい」
しかし、大変な報せが後日届くことになろうとは、知る由も無い二人であった――
風星学園の特別クラス学生寮の寮長室に、龍堂信隆・紗裕美夫妻はいた。
二人は先の瑞姫にまつわるトラブルで会社とパート先を追い出された後、エルノールの計らいで学園の職員として再就職し、今は特別クラスの寮長・寮母として働いている。
丁度、かつての寮母が密かに交際していた男性との結婚が決まり、寿退職して図鑑世界で暮らすこととなったため、渡りに船とばかりに夫妻を職員兼住み込みで雇用したのだ。
義理の父母となる二人を無碍にするわけにいかなかったのが、エルノールの本音だろう。
晴れた昼下がり。
寮生たちの食事の時間も終わった頃、インターホンが鳴り響く。
「はーい」
『お母さん、瑞姫です。お兄さんも一緒だよ』
「丁度手が空いてるから、入っていいわよ。あなたー！ 瑞姫と凱君よー！」
疑いも無しに入れたのはいいのだが、訪れたのは瑞姫と凱……だけではなかった。
エルノールを筆頭に朱鷺子、亜莉亜、マルガレーテ、ロロティアも顔を揃えていたからだ。
「あらあらぁ……、学園長までお越しになるなんて……」
「我ら一同、御父上、御母上に御挨拶に伺わねば、と思いましてのう」
寮長室ではすし詰めになってしまうため、食堂に移っての話になった。
非常に丁寧な呼び方をされて困惑する夫妻だが、その答えを瑞姫が明かす。
「お父さん、お母さん。わたし、もう16だから、お兄さんとの婚姻届出すけど……、お兄さん、学園長や一緒に来たみんなとも、結婚することになったの」
娘の言葉に唖然とする両親。
まさか娘のみならず、学園長も含めた五人と結婚することになるのをここで聞かされるのだから、無理もない話だろう。
瑞姫は言葉を続ける。
「お兄さんは魔物化した影響で、ここにいるみんなとも関係を持つことになってしまったの。でもね、わたしはお兄さんと一緒に歩めることがうれしいし、お兄さんが受けてきた傷を、みんなで癒していきたいの」
事態をようやく把握し始めた紗裕美は、努めて冷静に返す。
「言いたいことは、その、何となく分かったわ。それでもね、こんなにたくさんの方々と一度に結婚なんて、ありえないから……ね？」
「御心配は無用。このような書類もあるんじゃ」
エルノールが見せたのは、複数の魔物娘と結婚する男性のために作られた、特製の婚姻届。
配偶者となる魔物娘が十人まで書ける仕様となっている。
人間界では特例の制度として、二年前にようやく認められたのだ。
もっとも、そこに至るまでには人権団体や弁護士団体、保守派議員を中心とした者たちによる反対・抗議運動、妨害活動が相次いでいたのだが。
「瑞姫は兄上にとって、無くてはならぬ大事な伴侶。なれど、兄上にはわしらを引き寄せる何かを持ってしまっておるのじゃ。でなければ、ここまでにはなりますまい」
龍堂夫妻は互いに顔を見つつ押し黙るが、瑞姫が畳み掛けるように声を出す。
「わたしはまだ16。悔しいけど、まだ子供なの。それに、まもなく夫になるお兄さんを、わたし一人が支えられるとは限らない。お兄さんは心に傷を負いすぎてるの。お父さんとお母さんが考えてる以上に……この人の傷は……深かったの……」
さめざめと泣く娘の姿に、夫妻はかける言葉を見つけられない。
「でも……それでも、わたしは……、おにい、さん、と……、大切な……仲間と、一緒に、あるいて、いく」
泣きながら決意を語る瑞姫に、助け船を出したのは朱鷺子だった。
「その……、おじさま……、おばさま……。ボクたちが、大事な未来の夫を……支えるから。瑞姫ちゃんは、ボクたちの大事な……大事な、仲間だから」
「確か、三日月さん、だったね。瑞姫の話にいつも出てくるよ。娘の友達になってくれて、本当にありがとう。これからも、瑞姫の友達でいてくれたら嬉しいよ」
朱鷺子の精一杯の言葉に、信隆が感謝の言葉を伝え、朱鷺子もその言葉に、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「この子たちの無事と幸せが、私どもの一番の願いです。学園長を始めとしたみなさん、どうか子供たちのこと、よろしく頼みます」
信隆はエルノールらに向かって深々と頭を下げ、沙裕美もそれに続く。
「承知いたした。我ら五人、家族となって愛する夫と大事な仲間を支え、歩んで行きまする」
エルノールが平坦な胸を張ってどんっと叩くと、周りから笑い声が漏れる。
「な、何じゃぁっ！ 何がおかしいんじゃ！」
「うふふ、エルノールさまのお陰で、緊張が和らいだんです。ふふふ」
「説得力が無いわ、ロロ！」
「エル、その微笑ましい仕草ですわよ。うふふ♪」
「レーテまで！」
やいのやいのと騒ぐ魔物娘たちを、凱は苦笑交じりで見つめ、こっそりと安堵の吐息を漏らす。
けれど、それは泣き止んだ瑞姫にあっさりと見破られ、亜莉亜の参戦も許した。
「お兄さんっ。だめでしょ、そんな気持ちじゃ。わたしたちが、こうしてあいさつに来た意味がなくなっちゃうよ」
「凱くんもー、これで安心しちゃだめですよー？ 凱くんにはー、家庭を守る義務と責任がー、生まれるですよー？」
信隆と沙裕美は、そんな雰囲気の中で魔物娘用婚姻届に同意のサインをし、印鑑をつくと、凱に婚姻届を差し出して告げる。
「できたぞ、凱。みんなと仲良く、支え合える家庭を作り、守るんだぞ。鬼灯先生が今言ったように、この書類を出した瞬間から、お前には家庭と家族を守る責任と義務が生まれる。それを忘れるな」
「凱君。瑞姫を任せられるのは、あなたしかいないわ。そして、あなたには素晴らしいお友達、ううん、仲間がいるのよ。彼女たちを裏切っちゃだめ。そんなことしたら――」
沙裕美が突如立ち上がるや否や、凱の胸ぐらを掴んで睨みつけながら、噛み付くような声で告げる。
「――私たちがあなたを殺すから！」
「……はい……、父さん、母さん」
やり取りを見た瑞姫が声をかける。
「じゃあ、お父さん、お母さん。わたしたちはこれで。お兄さんも、みんなも、ほら」
瑞姫に手を引かれながら、凱たちは特別クラス学生寮を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝九時、七人は近くの役所に来ていた。
「整理券取ってくる」
「うん」
「ちょっと……、ドキドキ……する」
「いざ自分のことになると、そうですわね」
「あたしにも遂に春がきたですよー！」
「ああ……本当に、私と旦那さまが……」
「わしも緊張するわい」
六人の魔物娘の声を背に受けた凱は、整理券を引き抜くと、戸籍住民課住民記録係の窓口用紙を記入していく。
月曜の朝だというのに人であふれ、七人は自販機で買ったジュースを飲みながら、およそ30分ほど待っていた。
そうして、凱が取った整理券の番号がモニターに表示され、彼は所定の窓口に向かう。
「書類提出ですね？」
「こちらでお願いします」
「あ、魔物娘さん用の婚姻届ですね。わかりました」
職員は手慣れた所作で書類を動かし、判をついていく。
「はい、よろしいですよ」
「それと、離婚届不受理申出も出しときたいんだけど」
「はい。では、この用紙に記入してもらいますので、お時間は大丈夫ですか？」
「……大丈夫」
「ではこちらに、お名前と住所、生年月日、電話番号の記入をお願いします」
職員の指示に従いつつ、凱はせっせと書類を記入していき、提出を終える。
「手続きはこれで大丈夫です。お疲れ様でした」
職員の素っ気ない社交辞令を受けて窓口を離れる凱だったが、不特定多数の人間を相手にするのだから、文句を言われないだけありがたいとも感じていた。
「あ、終わったのね？」
瑞姫の声に迎えられた凱が無言でうなずくと、他の五人も引き連れ、悠々とした足取りで風星学園への帰路を行く。
家長として、家庭と家族を守る義務と責任――それがこれから、凱が新たに背負わなければならない重責。
きっとそれは単純な復讐よりも遥かに重く、困難な道のりとなるであろう。
そうでなくても魔に魅入られた彼に逃れる術は無いが、人間に蔑まれ続けた凱にとって、人間社会は寄る辺のない世界でしかないのも事実だ。
風星学園とエルノール・サバトが今の家であり、瑞姫たち魔物娘は自分を支えてくれる大切な存在――それが今の凱にも、はっきりとした事実として認識されていた。
数年前まで、魔物娘をも憎き敵と認識していたのは確かである。
けれど、今を作るきっかけが瑞姫の存在であり、サバトであり、彼の妻となることを誓ってくれた魔物娘たちであった。
運命の皮肉なのか、それとも導きだったのか――
今の凱に、それを判断することは出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食後、後片付けを終えた凱は、驚くべき光景を目にする。
「……みんなしてその恰好は何だ？」
「え？ どうかしたの？」
妻となった魔物娘六人が風星学園の制服に身を包んだ姿に凱は思わずツッコミを入れるが、きょとんとした顔で軽々と流す瑞姫の返答に頭を抱える。
在校生である瑞姫と卒業したばかりの朱鷺子はともかく、教師である亜莉亜ばかりか、学園長であるエルノールまでもが、自分たちのサイズに合わせて特注した制服を着ているのだから、ツッコミを入れないのが無理な話だ。
しかも、全員のスカートがブラウスの裾に近いくらいの短さで、座れば否が応でもブラウスの裾どころか、下着が見えてしまうのは明らか。
「は、初めて、着ましたけど……、なんか、足がスースーして馴染めません」
言ったのはロロティアだ。
彼女も一応は学校制服に身を包むときはあるが、流石にマイクロミニのスカートは初めてだったようだ。顔がいまだに赤く、頻りにモジモジしている。
「ほら、ロロだってこう言ってるじゃねえかよ」
「ロロは慣れておらんのじゃ、大目に見てやらんか」
「そうだよガイ……。これから――」
「だめですよー、朱鷺子ちゃん。今言っちゃだめなんですよー」
「そうですわね。この寮の主様にはわたくしたちがこうしている理由を、教えるわけにはいきませんものね」
「そう、お兄さんは、何も聞いちゃダメ」
凱の指摘を、ロロティア以外の五人が反論して抑え込む。
ということは、この後に必ず何かがある――と凱は思うしかない。
「それに、教えてほしいの。ね？ わかるでしょ？」
「……」
瑞姫の言葉に、凱も薄々察したものの、あえて声には出さなかった。
すると――
〈お兄さん、黙ってたってダメ。わかってるんでしょ？ ね？ 先生♪〉
――降伏勧告にも近い言い回しで、瑞姫が念話で凱に語りかける。
「……み、みんな、この後は、その、授業やるけど……大丈夫、か？」
「「「「「「はい♪」」」」」」
躊躇う凱の言葉に、六人は笑顔満点の返事で返す。
そうして、彼女たちは凱の腕を引いたり、背中を押したりして地下基地に連れていく。
エルノールの先導で行き着いた先は、今まで使っていたのとは違う部屋である。そこは凱の自室のものよりも遥かに広く、部屋の半分を占拠する大きさを持った巨大ベッドが置かれた寝室だった。
「ククク、わしが秘かに作り上げたんじゃ。皆でこうしてセックスするには、このくらいでも足りんくらいじゃがな」
すると妻となった魔物娘六人は一斉に凱から離れ、制服のままベッドへと上がり、腰を下ろす。
「ほら……、来て、お兄さん。ううん、今は……せ・ん・せ・い♥」
「ほらぁ……。ガイの……好きなもので……合わせたんだよ？ ボク、スリップって……あんまり……」
「そう言いながら一生懸命選んでたのは、トキコじゃありませんこと？」
「……ボ……ボク、は……」
「あ、あたしは……は、早く（性的）指導してほしいですよー」
「旦那さまぁ……♥ 今夜は先生と生徒の愛し方を……、教えてください♥」
「新婚初夜は可愛い生徒と、あんなことやこんなことをするんじゃろう？ ほれほれ、より取り見取りじゃぞ♥」
それぞれがわざとらしく脚を組みなおすと、ミニスリップであろう下着の裾がスカートから見え隠れしていた。
瑞姫の指示であろうことは嫌でも分かる。
凱がゆっくりとベッドに座ると、瑞姫が先陣切って彼に抱きつき、激しい口づけを交わす。後れを取ってはなるまいと、今度は朱鷺子が自慢の巨乳を愛する夫の背中にムニュムニュと押しつけて放さない。
「みーずーきーちゃーんー？ あたしたちが近づけないですよー」
「この姿を見せた以上、旦那さまには、覚悟していただかないとなりませんからね？ さあ、朱鷺子さまも」
亜莉亜とロロティアがそう言って、瑞姫と朱鷺子を凱から引き剥がそうとする。
だがそこで、凱は瑞姫の尻を思わず、むにむにと揉みしだく。
「いやぁ〜ん♥」
嬉しそうにあえぎながら身をよじる瑞姫の姿に、ロロティアは少し嫉妬を覚えてしまう。
「旦那さま、じゃなくて先生！ 私にも！」
そこの声に応えるように、ロロティアの胸に凱の手が這い、鷲掴みと勘違いされるような柔らかい掴み方でブレザージャケットの上から胸を揉みしだく。
「あ、あ、やぁぁ♥ そ、そんな、せん、せい……ぁはぁん♥」
上着の裏地とブラウスとミニスリップによる三重の刺激がロロティアの乳首を直撃し、さらには乳首が勃起して余計に擦れてしまい、彼女はたちまち甘くとろけた吐息をこぼす。
「あっ、やぁん♥ せんせいったらぁ♥ だめですよぉー♥」
亜莉亜はほとんど立っているような体勢だったため、女陰を下着越しに弄られる。
凱自身は意識していなかったが、的確に刺激していたので亜莉亜は凱にしがみつきながら絶頂を迎えてしまう。
「わ、わしにもせ――んぉおぉぉうぅ！ しょ、しょこ、弱いんじゃぁぁぁぁ♥ ひょぇ！ しょこもじゃと!? あっ、あっ、あひぇぇぇぇぇ♥」
エルノールも亜莉亜と同じ体勢でやってきたので下着越しに女陰を責められ、おまけに菊穴を指で愛撫されてしまい、とろけた顔で愛液を噴射させてしまった。
「あ、先生、ダメぇ♥ 擦れちゃいますわぁ〜♥」
マルガレーテはロロティアと同じ責め方をされたが、マルガレーテは朱鷺子と張り合う巨乳の持ち主。ロロティアとは違う感触が凱の手に伝わってくる。
当然それでは終わる訳も無く、六者六様に責めて責められを繰り返し、先生と六人の「夜の」生徒は甘い快楽に溺れまくるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
凱はエルノールに呼ばれて学園長室にやって来た。
学園が午後の授業に入った時である。
「兄上。お主は今日から、我がエルノール・サバトの特別顧問とする。本来は昨日言うべきじゃったが、あんなに気持ちいい事をしたのじゃから、後回しにしてしもうたわ」
カラカラとエルノールは笑うが、対する凱は少し申し訳なさそうな面持ちになっていた。
「責めとるんではない。わしは兄上を特別顧問にする事をすでに決めてたんじゃ。任命するのが昨日だろうと今日だろうと関係無いわい」
しかし、大変な報せが後日届くことになろうとは、知る由も無い二人であった――
20/03/28 00:16更新 / rakshasa
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