連載小説
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サバト入信は愛の交わりを添えて
義両親に心配顔をされた凱は、仔細を話す為に彼らと共に居間へ移動した。
そこで凱は話し始める。

「まずは……、これを」

こう切り出して差し出したのは、凱がエルノールから預かった手紙であった。
封を切られて出てきた手紙にはこう書かれていた――

***

ご両親殿

 ご息女の件で至急お伝えしなければならない為、このような形となりました事をお詫び致します。
 貴方がたのご息女は魔物娘の中でも希少種とも言える、ドラゴンと言う種族へと変わりました。
 病院での一件がありますので、ご息女の事は周囲の耳に入っているでしょう。

 既に当学園に「竜の娘を引き取り、婚姻させる」と有力者達が殺到して来ております。
 この手紙が届く頃には、そちらもご息女の事で散々な事となっている筈です。

 そこで誠に勝手ではありますが、
 学園長としての権限を行使し、ご息女とご子息を当学園で預かり、居住させる事と致しました。
 その為の施設を現在、改装している為、春休みが明けてからとなります。

 お子様達の幸せを願うが故の独断である事、何卒ご容赦下さい。

 また、貴方がたにもこれ以上の被害が及ばぬよう、関係各所へ働きかけております。
 どうか今暫く、ご辛抱頂けたら幸いです。

 風星学園 学園長 エルノール

***

信隆も観念したように凱に話し出した。

「実はな、凱。私にもこの手紙と同じような話が来てるんだ。取引先や今の上司……人間の上司だ。「君の娘はうちの息子の嫁に迎えるのが相応しい。婚約者気取りのゴミを捨てろ」と……」

悔しさを滲ませる父の顔を凱は黙って見つめている。

「無論断った。私も魔物娘達が経営する会社に出向する身だし、彼女達の特性も聞いていたしな。だが、それで引き下がる連中じゃ無かったよ。お前の事を引き合いに出し、それでも断るなら今後の取引を取りやめる、とか会社にクビにする、とも脅された」

凱の目に黒い怒りの炎が燃え上がる。
自分だけが不幸になるならまだ割り切れる。
だが、ただ歳を重ねただけの身勝手な連中が瑞姫を奪おうとし、あまつさえ両親の生活も脅かしているのだから。
彼は重々しく告げる。

「この事を学園長に報告します」
「そんな! 止めるんだ! 下手に動けば余計に動きを悟られるぞ!」

義父の言葉を無視しつつ、凱は電話をかける。
相手は無論、エルノール。
彼女が凱に直通の番号を教えていたのである。

『もしもし、龍堂君か?』
「はい、学園長。結論から言います。状況は思った以上に悪くなってます」
『後手に回ってしもうたか。じゃが、手はいくらでもある。盗聴されているとの連絡が入っとるから、お主らはそのまま待て。わしが今からそちらに向かう』
「……分かりました」

電話を切った凱に、今度は紗裕美が懇願する。

「あんな姿になっても、瑞姫は大事な娘。凱君、娘を、瑞姫を守ってね…!」

この言葉に黙って頷いた時、紫黒の光を帯びた魔法陣が中空に浮かび上がり、エルノールが姿を表わす。

「学園長……!」
「皆そのままにしてくれ」

何時に無い威厳と迫力を持って、エルノールは凱達を制止しつつ、魔法の詠唱を始める。
その瞬間、機械の破裂音と遠くからの悲鳴が居間に響き渡って来た。
破裂した機械は盗聴器だった。

「……ここまでやるとは。これは急いだ方がいいじゃろうな」

彼女はサバト風星支部の構成員を各所に展開させ、有力者達に雇われた探偵やストーカーを一網打尽にしたのだ。
エルノールは本題を切り出す。

「この家はもう危険じゃ。必要な荷物と貴重品を持って、今すぐ風星学園に移動して貰う」
「しかし学園長、家財は?」
「心配要らん。我が支部で運び出す」

有無を言わさぬ、ドスの利いた口調が凱達に選択の余地を与えなかった。
こうして、龍堂家は風星学園に転移され、空室が増えた特別クラスの学生寮に一時身を潜める事となった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

潜伏を強いられる急展開となった翌日は生憎の雨模様となっていた。
仕事を終えた凱は「エルノールに話がある」と側近の魔女に言伝を頼み、返事を待っていた。
この時、エルノールは龍堂家に対する脅迫があった事への対策をすべく、関係各所を奔走していたのだ。
加えて千奈の失踪も重なっており、対応に追われていた。

数時間後の夜の事、側近の魔女から電話が入る。

『エルノール様が戻りました。学園長室に来るようにとの事です』

この言葉を受けて即座に身支度を整え、学園長室の前にやってきた。
凱は深呼吸して、学園長室の扉を叩く。

『誰じゃ』
「龍堂です」
『待っておった。入れ』
「失礼します」

入るや否や、エルノールが待ってましたとばかりに椅子から降り、応接用ソファーに促す。
凱が座ると同時にエルノールもソファーに腰掛け、話を切り出した。

「サバトの者から聞いたが、話とは何じゃ、龍堂君」
「……サバトに、入ろうと思ってるんです」
「何と……」

ストレートな返答にエルノールは面を食らう。
返事を全くしていなかった彼が、急に自分から入りたいと言ってくるのだ。
疑ってかかるのが、きっと当然の反応だろう。
だがエルノールも、凱と瑞姫をサバトに引き入れるのが当初からの目的であった。
凱の心境の変化を聞いておきたい、と彼女は思う。

「急にどうしたんじゃ?」
「力が必要なんです」
「力、とな?」
「……はい。独りでやれる事に限界が出ます。情報を得る力も……必要ですし……」

力が必要と言った割にいささかハッキリ言葉を出さない凱の様子に、エルノールの勘が引っ掛かった。

「龍堂君、力だけでは無いじゃろ? お主の本当の気持ちはどうなんじゃ?」

彼女の言葉が凱の心に揺さぶりをかける。
しばしの沈黙が室内に漂った後、凱の言葉が沈黙を破る。

「瑞姫がサバトに入ろうとしている事は知ってました。だから、自分なりに彼女を守る義務があると思うんです…」
「……」
「ようやく手に出来た家族を脅かす、この人間社会を許す事は出来ない。それに妻を守る事は、妻のいる場所も守る事……、ではダメですか?」
「お主らしいのう……」
「……え?」

苦笑と微笑みが入り混じる表情をしながら告げるエルノールに、凱は少々戸惑う。

「お主は《学園(ここ)》で働くようになってから、見違えたように凛々しく見えるのじゃ。力を得て、考えが変わったか?」
「この本に……出会い、その技を得ました。そして何となく感じました。学園長は俺の過去や瑞姫との関係を全て知っていて学園に呼んだ、と……」

そう言いながら、件の古書をバッグから出して、差し出す。

「これは……、わし等が魔物娘となる少し前に著された武術書のようじゃな。よく見つけたのう」
「二年ちょっと前、夏休みに入る直前の点検をしていた時に図書室で見つけた物です」
「そうか。それでそれだけの力を持つに至った訳か。確かにお主が酷いいじめに遭った事は知っておった。瑞姫との関係もな……」

一度言葉を切ったエルノールが再び言葉を切り出す。

「自覚して無いじゃろうが、お主は一度引き受けた事を最後までやり通しておった。その姿勢が瑞姫だけじゃなく、どうやら特定の者を惹き付けるみたいじゃのう」
「……学園長?」
「フフフ、お主には元々サバトに入って貰おうと色々と計画を練っておったのじゃがな。無駄骨になった、いや、喜ばしい誤算と言うべきじゃのう」
「何故……」
「種明かししよう。お主と瑞姫をこの学園に呼んだのは、本当はわしでは無い」
「え? それは一体?」
「王魔界にあるサバトの創始者にして魔界本部の長。通称、初代様じゃ」
「!!!!」

意外な者からの招聘を受けていた事に凱は驚き、言葉を失う。
そんな彼の様子に構う事無く、エルノールは続ける。

「初代様はお主と瑞姫をいたく気に入られてな。いずれはサバトの一員に……と、用務員として雇うのと諸費用免除をわしに命じた……と言う訳じゃ」
「そう……だったんですか……」
「あまり驚いておらんな。じゃが、それと同じくらいの目的がある。それはお主が持っておる黒宝玉の確保じゃ」
「…っ!!」
「あれは元々、初代様が作り上げた【魔道具】と呼ばれる物の一つじゃ。黒宝玉はあらゆる言語を理解する知識を与える力を持っておる」
「それでこの書が読めたのか……」

凱は二年前の夏に起こった出来事を思い起こす。
突如、ひとりでに飛来してきた父の形見が脳に直接語りかけるように言語を流し込んで来た、あの日を…。

「あれはどう言う訳か意思を持ってしまい、持ち主を選ぶようになってしもうた。それで初代様の下から姿を消した。まさかお主の父が持っておったとはな」
「父もあの宝玉の事は最期まで分からなかったみたいでした……。他の奴らにはただの黒ずんだ水晶球にしか見えて無かったらしくて……」

凱の話に、ふむ、と考え込むエルノールだったが……――

「わしの推測じゃが……、お主が生まれ、いずれ黒宝玉を受け継ぐのを待っておったのかも知れんのう」

彼女の発言の刹那、大鏡が唸りを上げる。
初代が呼んでいるのだ。

「む!? 初代様からの連絡じゃ! 暫時待っておれ」

即座に呪文を詠唱すると、漆黒の体毛を持つバフォメットの姿が映し出される。
その姿を映像とはいえ、初めて目の当たりにする凱。
彼の目に映るのはサバトを作り上げた事以上に、幼い容姿からは考えられない強大な魔力と威厳に満ちた姿だった。

『ほほう。面白い事になっておるようじゃな、エルノール』
「は……、ははっ」

かしずく様子に凱は流石に戸惑う。

『初めてお目にかかるのう、龍堂凱。わしがサバト魔界本部の長じゃ。こ奴のように初代と呼ぶ者もおるがのう』

ニヤニヤとした表情を浮かべながら自己紹介する、初代と呼ばれたバフォメット。
対する凱は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている。

『ククク。どうやらわしの力を鏡越しで感じておるようじゃな。黒宝玉がわしの下から消え、貴様のような者を選ぶとは意外であったわ』

動けない凱をからかいながら、初代は続ける。

『さて、エルノールよ。この男が斯様な時間にいるとはどういう事か、聞かせて貰おうではないか』

重く厳しい口調がエルノールの体を突き刺す。

「はっ。実はこの者がサバトに入る旨を告げに参ったのです」
『ほう。それは何とも興味深いのう』
「こちらとしてもいささか想定外ではありましたが、喜ばしい誤算でした」
『それは重畳じゃな。して、そちの考えはどうなのじゃ?』
「言われるまでもありませぬ。この者を我が風星支部に迎え入れまする」
『うむ。ならば、わしからそちに改めて提案しよう。エルノールよ、そちはそこなる男、龍堂凱と婚姻せよ』

初代の言葉にエルノールと凱は面食らった表情となる。

『その男、そちの兄上になるには十分な素質を備えておる。然るべき物を与えれば、更なる力を発揮出来よう』
「し……、しかし初代様! いささか急ではありませぬか!?」

だが、初代は見透かしたかのようにエルノールへ鎌をかけ始める。

『わしがそちの心を知らぬとでも思ったか?』
「な……、何を……!?」
『そちがその男の事を話す時の嬉しそうな顔。呼び方が変わった事。流石のわしでも分かるわ』
「そっ! それは、その……」
『クハハハ。そこまで顔を真っ赤にするとはな。そちは思った以上に分かりやすいのう』
「初代様っ! 鎌をかけるとは酷いですぞ! それにこの者には許嫁がおる事は知っておる筈!」
『済まぬ済まぬ。じゃがな、そちの気持ちも大事にしたいと思うておる。その許嫁と同じ目線で向き合い、同じ立場に立つ事も時には大事じゃ。わしが以前言うた事を覚えておるか?』
「我ら魔物娘の禁忌である寝取りになると言うたではありませぬか!」
『確かに寝取り・寝取られは魔物娘最大の禁忌じゃ。じゃが、それは当人に訊いてみる方が一番じゃぞ?』

初代は顎をしゃくって、後ろを見るよう促す。
エルノールと凱が何事かと振り返る。
二人の目に飛び込んだのは凱を追って来たであろう瑞姫の姿だ。
初代は羨ましそうに呟く。

『いじらしいのう。好いた《男(おのこ)》を追ってくるとは。エルノールよ、あの娘を入れてやれ』
「はい……」

窓を開けた途端に瑞姫は飛び込み、凱に抱きつき、翼腕と尻尾も巻きつける。
彼女の体は雨で濡れていたが、凱は気にせず受け止めていた。

「お兄さん……! 酷いよ、わたしに黙って!」
「これ。瑞姫よ、離れぬか」

嗜めるようにエルノールが瑞姫を凱から引き離す。

『これはこれは。何とも見事なものじゃな。腕が付いた翼を持つドラゴンは初めて見るわい』

鏡からの声に瑞姫は驚き、慌てて凱の背中に隠れる。

『初めてお目にかかるのう、龍堂瑞姫。わしがサバトの長じゃ』

瑞姫は体を震わせながら、必死に凱にしがみつく。
凱も彼女の怯えを肌で感じ取っていた。

『兄妹揃って、彼我の力の差を見抜くとは……、流石じゃな』

含み笑いをする初代は尚も続ける。

『瑞姫よ、率直に問う。我が弟子エルノールをお前の婚約者と婚姻させる。異存はあるか?』

瑞姫は無言のまま俯き、長い沈黙が学園長室を支配する。
竜としての力が未熟な事を自覚せざるを得なかったし、サバトの力を借りると言う考えは凱と共通していた。
彼女は迷った末に凱の前に進み出て、答えを出す。

「ならば……、わたしからも条件があります……!」
『ほほう、言うてみよ』
「わたしも学園長も、妻として順位や優劣をつけない事。……同じ立場である事を望みます!」

震え上がる気持ちを必死に抑えながら、瑞姫は初代に意見する。
その様子に、何故か初代は満足げだった。

『クハハハ! 面白い娘だな。良かろう! エルノールよ!』
「はっ!」
『そちはこれより、この男を番いとせよ。但し……、婚儀を挙げる時は瑞姫と共に行うのじゃ。抜け駆けなどという愚かな真似はするで無いぞ。やった場合には……『アレ』をやるからな!』
「ヒィィッ! わ、分かりました! 努々(ゆめゆめ)気を付けまするっ!」

『アレ』という言葉に震え上がるエルノールは狼狽しつつも平伏して従う。

『今宵は面白い物が見れて満足じゃ。では、わしはこれでお暇しよう。後は三人で話し合うが良い』

言うが早いか、初代の姿が大鏡から消えると、少しの間、雨音が夜の学園長室を支配する。
その静寂を破って動いたのはエルノールだ。
彼女は凱の横に行くと、彼の手を獣のように大きな手でギュッと握って、目を潤ませながら告げた。

「本当はな……、わしもお主の事が好きだったんじゃ……。瑞姫が羨ましいと思っておった。わしを……、このサバトを……どうか守ってくれ。頼む……!」
「はい。サバトを……この力で」

こうして凱は瑞姫と共にエルノールが率いるサバト風星支部のメンバーとなった。
エルノールも初代自らが立ち会って定めた婚約者を得た立場になった。
それ故に既にお手付き状態と認識されたのか、大きな混乱……と言うかブーイングは特に起こらず、事はあっさりと済んだ。

その後、エルノールは凱から渡された古書から薙刀術をあっという間に身に付け、専用の薙刀を拵える事となる。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その二日後の夜――

凱は風星支部の個室に呼ばれた。
そこはエルノールが支部で活動する際の部屋。
ベッドも衣装棚も完備した、彼女の城とも言うべき場所でもあった。

その個室に呼ばれた目的はただ一つしか無い。
スリップを纏っただけのエルノールの姿が凱の目の前にあれば、尚の事。

「フフ、瑞姫からちょっとだけ聞いてのう。あの娘、普段からスリップを着てるそうではないか。じゃから今宵はそれを真似てみたのじゃ」

得意気にくるりと回ると、スリップの裾がふわりと浮き、下半身が露出する。
何と、彼女はスリップ以外の下着を身に着けていなかったのだ……!
凱もこれには半歩後退りしてしまうが、あっさりとエルノールにバレ、機嫌を損ねてしまう事になる。

「む……? 何じゃ、サバトに入り、わしを妻に迎えると言うに後退りしおって。なれば、この体の魅力、身をもって味わわせてくれよう」
「そ、そんなつもりは……」
「ならばどう言うつもりじゃ」
「その、穿いてないのを見て、少し恥ずかしくなっただけで……」

本音か言い訳かもつかない弁明にエルノールは微笑を浮かべる。

「何じゃ、そんな事か。確かに今宵のわしはスリップ以外、何も身に着けておらん」

あっさりと答える彼女に、凱は心の中を無理矢理納得させている。

「さあ、今宵はわしとの伽じゃ。そこのベッドに横になるが良いぞ、あ・に・う・え♪」

サバトの者に「おにいちゃん」と呼ばれる事、これすなわち、夫を得たのと同義。
ましてバフォメット直々に呼ばれる事は、サバトに属する者にとって大変な栄誉。

言われるがままにベッドに上がり、横たわる凱。
が、許嫁以外の者に体を許すと言う事には抵抗がまだ拭えないのは事実だ。
しかもベッドは格別の広さを持つキングサイズ。

「もうここまでくれば、する事は一つしか無いぞ?」

そう言いながら一気に迫って来たエルノールに、凱は組み敷かれてしまう。
魔物娘の中にあってリリムやドラゴンなどと並ぶ最高位の力を持つだけあって、小柄な外見にはそぐわない剛力は体格の差をものともしない。
淫靡な笑みを浮かべると、彼女の唇が凱の唇と重なった。

「んちゅ……んはっ、んん……」

エルノールはそのままディープキスに持ちこみ、凱の舌を絡ませていく。
その舌は生暖かくて、どこか懐かしく感じる味が彼女の口中に広がる。

凱も彼女の舌にほんのりとした甘さを感じる。
それは瑞姫ととてもよく似て、されど微妙に違う感じのする… ―― そんな感覚だ。

「んうぅ……、ぷはぁ……、……なかなか、巧いではないか」

この言葉に凱はただ、エルノールの目を見つめる事しか出来なかった。
互いの目がまっすぐに見つめ合う状況にエルノールは、微かに震える。

「これが……、これが雄を得ると言う事なのか……!」

微かな震えは興奮だった。
言い表せない程の情欲が彼女の体に沸き上がり、駆け巡る。
それは嫌でもエルノールの性欲を掻き立て、今度は凱の体を舐め回し始めた。
緊張で汗ばんでいる彼の体を、エルノールは丹念に舐め上げて行く。

「ククク、兄上の体、なかなかの美味ではないか。瑞姫め、これほどの雄を得ておるとは……」

ねっとりとナメクジが這うような舌使いが凱の抵抗感を融かしていく。
おまけにエルノールは狙いすましたように、彼の乳首を愛おしく舐め回していた。
身をよじらせて抵抗しようとする凱だったが、その快感で震え上がるのみだった。

「ん? 此処が弱いのか? ならばこうしてくれようか。うりうり……、レロレロ♪」

その途方も無い甘美な刺激は下半身にある牙を否応なくそそり立たせていた。

「おお……、これが瑞姫を雌にした兄上のイチモツか。雄の匂いが物凄くて、頭が蕩けそうじゃ♪」

甘い息を漏らし、まじまじと肉棒を見つめると美味しそうに男性器を頬張り始める。

「んっ、ふぅっ、んむっ、んむふぅ……」

鼻声を出しながら、じゅぼじゅぼと下品な音を立てながらしゃぶり出す。
舌が陰茎に張り付き、雁首を舐め回し、鈴口を刺激していく。
ますます固くなる肉棒と発せられる雄の匂いが、エルノールの五感を刺激し、女陰を濡らす。

これ以上なくガチガチになった肉棒の感触に、愛液が一層溢れる。

「んぷぁ……。なかなかの凶器じゃのう。こんなに凄いので犯されると思うと……、はぁ…、我慢なんて出来んぞ!」

言ってすぐに、エルノールは肉棒に再びむしゃぶりつく。
蛇のように舌を這わせ、いきなり喉深くまで咥えこむとたっぷりと唾液を塗し、尖った舌先が鈴口をちろちろと舐め上げていく。

「んっ……んっ、ちゅぱっ……んぱっ……んぅうっ、ちゅぶ……ぢゅるぅっ……」

口内から溢れる唾液は瞬く間に剛直を覆い、エルノールの口中を満たす。

「くぷっ……くぼっ……んぱっ、れろぉおっ……ぢゅぱっ……んんっ」

厚い唇でカリ首をキュっと締めたまま、出し入れを繰り返す。
その間も舌は口内で動き回っている。
亀頭を撫でるようにねっとりと動いたかと思えば、裏筋やカリ首の溝を這い回り、凱に快楽以外のものを与えない。

「くぅあ……ぅ……っ! っっ……!」
「じゅぷ、ん……ふぅ……れろぉ〜♪」

射精を堪えようと必死に耐える凱。
しかしエルノールの巧みな愛撫が、その努力を押し潰す。

「んちゅ……好きな時に、出して……良いんじゃぞ?」

とどめを刺そうと一気に根元まで咥え、口をすぼめて頭を上下させる。

「ぐ……ぅあっ!」

凱は無意識にエルノールの頭を押さえつけ、彼女の喉奥に白濁を注ぎ込む。
彼女は一瞬だけ苦しそうな顔を見せたが、すぐに蕩けた表情で吐き出された精を飲み込んでいく。
ゆっくりと、味わうように。

「んむぅっ……、んくっ、ごくっ……。んはあぁ……」

零してなるものか、と精液を飲み干したエルノール。
その表情は恍惚そのもの。

「凄いぞ……。濃くて……粘っこくて、臭くて……。瑞姫と交わったお陰かのう、とてつもなく美味じゃ」

劣情の塊を幸せそうに味わう姿は、まるで甘い菓子を食べてるのかと錯覚してしまう。
そのくらいエルノールの言動は自然過ぎた。

「今度はお主の精を……たっぷりと、こ・こ・に、注いで貰うぞ?」

エルノールは蜜を滴らせた女性器を、くぱぁと音を立てながら押し広げる。
ラビアに流れ出てくる愛液が妖しい程の照りを放ち、ひくひくと微かに震えている。

「エル……っ!」
「あぁん♪」

凱は暴れ狂う本能に支配され、幼くも熟れた果実に手を出した。
エルノールに覆い被さり、その割れ目に熱を帯びた肉棒をあてがう。
すると彼女は、潤んだ瞳で己の秘部に擦り付けられている肉棒を物欲しそうに見つめている。

「入れる、よ……?」
「早く……、きてぇ……ん、あ、はぁあんっ!」

先を少し挿入すると、あまりの狭さと締まりに押し戻されそうになる。
それに逆らいながら奥まで入れていくと――

「ぬぅ……ぅ!」

快楽がビリビリと、電流のようにエルノールの体を駆け巡ると同時に処女膜が破られた。
膣内の壁が蠢きながら肉棒を絡め取り、歯を食いしばっても耐え難い刺激が二人の体に襲いかかる。

「あぁ……きてるぅ……! 奥まで届いてりゅぅっ!」
「あぐぅ……っ! いきなり……動いたら……おあぁっ!」

動く事もままならない程の快楽に対し、凱は必死に射精を堪えようと足掻き始める。
水音で部屋を埋めるほど激しく腰を振って、感覚を紛らわせようとしていた。

エルノールもその姿勢に対抗したのか、追従するかのように激しく腰を動かし始める。
魔物、それもバフォメットの女性器は魔物娘の中でも「極上の名器」とまで呼ばしめる、恐るべきもの。
性経験の浅い凱ではそれほど耐えられるものではない。

膣壁の締まりが急に強くなり、搾られる感覚が凱の体内を駆け巡る。
程無く、彼の視界で白い火花が散った瞬間、一瞬の硬直を合図に大量の精が迸る。

ドクンッ! ズピュッ! ドクドク……ッ!

凱はあっけなくエルノールの子宮に精をぶちまけてしまう。

「あんっ! んうぅ……、……もう出してしもうたのか……♪」

肉棒を抜くと、ドロドロとした白濁が女性器から零れ出る。
エルノールは何やら魔法を唱えると精液の流出が止まった。
精液の流出を堰き止めていたのだ。

「え?! ちょっと……!?」
「あはぁ……兄上の精液はたまらんのう…♪ 熱くて粘っこいぞ?」

恍惚な表情で膣内射精を受け止めたエルノールは、凱の傍に体を預ける。
凱は思わず彼女を抱き、頭を撫でさする。

「お主とわしはこれで夫婦じゃ。瑞姫も入れれば最高ランクの魔物娘を一度に二人も妻に迎えるんじゃ。お主は果報者じゃぞ?」
「……」
「打ち止めとは言わせんぞ……と思うたが、これからは何時でも出来る。急ぐ事も無かろうて」
「学園長……」

この呼び方にエルノールは思わず頬を膨らまして、むくれる。

「さっき、わしを名前で呼んだじゃろう? わしの事はエルで良いのじゃ」
「でも、普段は……」

凱も必死に弁明しようとするが、言いかけて止める。

「普段、か。人が大勢いる場所じゃからな。難しいじゃろうが、これからは夫婦となるんじゃ。慣れて貰うぞ♪」

まるで小動物が擦り寄るように、エルノールはたっぷりと凱に甘え出す。
その後、まる一日を交尾に費やす二人。

春休みの一日はこうして過ぎて行くのだった――
19/01/01 19:30更新 / rakshasa
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■作者メッセージ
――と言う訳で、サバトの正式加入と二人目とのエロシーンの回でした。
上手くエロが出来たか未だに良く分からない……orz

ドラゴンにバフォメット……、更に彼を待つ者は――と言う事で次回に続きます。

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