遅過ぎた転校生
警察との争いから、あっという間に二年の月日が流れた。
その間、何処からも攻撃や脅迫が無かったのが却って不気味過ぎる程、平穏な日々だった。
そんな日々を経て朱鷺子は六年生、瑞姫は四年生にそれぞれ進級し、クラスメイト達との二度の出会いと別れを通して友情を育んでいた。
季節も秋となり、朱鷺子達六年生は卒業を控え、魔物娘としての適性診断と移住先を決める時期に差し掛かっる。彼女達はその結果に一喜一憂しつつも、早い者では王魔界や万魔殿へ行く事を決めていた。
しかし、行き先に誰も選ばなかったのが「不思議の国」だ。支配者であるハートの女王の意向が強く働くと聞いて、朱鷺子以外の六年生達が敬遠したせいである。
その朱鷺子は「人虎としての適性が最も高い」との判定を受け、とても珍しがられた。
もっとも、彼女自身は不思議の国はおろか魔界に対しても特に関心を持っておらず、それほど執着は見せていない。
そんな六年生らのやり取りが終わり、間もなく冬に差し掛かろうとした秋の終わり――「それ」はやって来た。
ある日の事、少々多めの荷物を肩と背中に担いだ少女が学園の門をくぐった。
寮母に出迎えられた彼女は割り当てられた部屋に入り、荷物を邪魔にならない場所に置くとすぐに制服に着替える。
だが、その制服は前の高校で着用した物だ。
亜莉亜は転校生となる少女の出迎えを済ませ、彼女を教室の前で待たせる。
かつての瑞姫がそうだったように。
「はーい、みなさーん。今日から新しい子が入るですー。入ってくるですよー」
亜莉亜の声に応じて現われた少女に、生徒全員が動揺を隠せない。
特別クラスに来る事自体が間違いであるかのように。
その一番の特徴は制服が学園の物では無く他校の、しかもそれなりに有名な女子高の物だった事だ。
更に言うなら少女にしては背がやや高く、それに見合うかのように豊満な体つきをしていた。
「自己紹介、お願いするですよー」
「結城千奈(ゆうき・ちな)です。短い期間ですが、どうぞよろしくお願いします」
千奈と名乗った少女は挨拶の後に深々と礼をする。
短い期間と言ったのには訳があった。
彼女は18歳、それも本来は高等部に入っていてもおかしくない。
しかし卒業まで半年も無い状態で、それも父親の急な転勤によって転校を余儀なくされたのだ。
この町から新幹線でさえ一時間はかかる遠方となれば、学生寮が無い限り下宿住まいか自主退学、あるいは転校のいずれかを選ばされる。
追い打ちをかけるように通っていた女子高は校則が厳しく、下宿や寮に入るのに厳しい審査が必要だった。
加えてアルバイトは一切禁止であった為、仮に下宿や入寮の申請が通っても生活費を自力で稼ぐ事も出来ず、仕送りも学費の支払いに殆ど取られ、残金は雀の涙ほどにしかならない計算となったそうだ。
《学園長(エルノール)》が同日の放課後、教師陣と凱に話した事は二つ。
一つは、彼女の父は家族の為にやむを得ず転勤を受け入れたとの事。リストラ候補だった為、断ればその時点で即解雇だったという。
もう一つは、急過ぎる上に卒業間近の状態だった為、既に近隣全ての高校から受け入れを拒否されていた。
風星学園が最後の頼みの綱だったとの事で、制服の仕立ても時期的に無理だった。
更にエルノールは何を思ったか、彼女を特別クラスに編入させた。
多分、卒業まで僅かしか無い少女をこのままにするのは惜しいと同情したのかも知れないが、学園長の考えを推し量る事など凱達には出来かねる事だろう。
余りにも突発的かつまずあり得ないであろう状況。
人間社会における理不尽の一端を如実に表しているとも言える。
けれどそれは闇に葬られる。
事例の少な過ぎるものにいちいち気にかけないのが人間社会というものだから。
まして卒業まで半年を切った時期での父の突然の転勤である。
そんな状況で仮に入寮の審査が通る頃には卒業しているのがオチであろう。
エルノールが後に調べたところによると、千奈は交友関係に恵まれていた。
友達が少なさそうな子と優先的に絡もうとする為か、友人の幅は広くは無いものの、以前の学校でも朱鷺子と同じような他人と関わろうとしない者へ率先して絡んでいったのだという。
千奈と友達になろうとする子も多数いた上に、彼女自身もそれを断ったりしない性質ゆえに友人は意外と多かったのだ。
転校を惜しまれ、入寮の申請を早めるよう友人達による嘆願請求も起きた。
だが、学校側は「規則に例外は許されない」としてこれを一蹴。
そればかりか、学校側は嘆願請求を起こした生徒達を保護者も呼び付けた上で停学や退学を臭わせつつ、口頭による厳重注意という事実上の執行猶予に処した。
この為、千奈は責任を取る形で転校を受け入れたという。
とはいえ――
「携帯で連絡取れるから」
「LINEとかでおしゃべりもする」
「そのうちにでも元居た場所へ旅行ついでとかで遊びに行きたい」
――とは思っていたらしく、転校当初も風星学園の事を友人達に言っていたとの事で、悲観的に捉えてはいなかったらしい。
一時限目の授業を終わると、早速、千奈の周りには人が集まっていた。
制服が余程珍しかったのか当初は好奇心から近付く者ばかりであったが、それを気にも留めず受け入れる彼女の姿勢から、話しかけてきた者はたちまち打ち解けていった。
その中で千奈に興味すら示さなかったのが瑞姫と朱鷺子である。
瑞姫は友達を多く持つ事で気が休まらなくなると考えており、友達と言えるクラスメイトは少ない。
朱鷺子は相も変わらずダウナー系女子であり、瑞姫以外の生徒に関わる事を面倒臭がっており、二年前のティーパーティー騒動で関わった生徒達からは「ああいう子だから」と一定の理解はされている。
けれどその半分が二年の間で卒業してしまい、朱鷺子の人となりを知る者も今では瑞姫と後から編入・入学してきた者も含めて七人だけだ。
「朱鷺子さん」
「……ん? 瑞姫ちゃん? ……どしたの?」
瑞姫の呼び掛けに対し、だるそうに返事する朱鷺子。
傍から見れば、「面倒な子と、その彼女にわざわざ声を掛ける変な子」といった印象だろう。
「亜莉亜先生とアルマ先生から、この後の機材準備を手伝って欲しい、って言伝があって……」
「……先生が? ……何で、ボクに?」
「そこまではわたしも……。わたしも一緒に来るように言われてるんです」
「……確か、この後は……家庭科の授業、だったよね?」
「はい。それでわたし達なんだと思います」
「……ふーん。……それじゃ、職員室、行こっか」
朱鷺子は身体をのっそりと起こして立ち上がると、瑞姫と共に教室を出て行った。
だが、この二人の様子を密かに気にしていたのが千奈であった。
自分から関わろうとしない、それこそ身内だけの関わりに、彼女は悲しい気分にさせられていた。
それゆえに決意する。
《朱鷺子(あの子)》と必ず友達になろう――と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の昼休み――
凱は学生食堂にいた。
だが一般利用者としてでは無く、厨房の職員としてだ。
瑞姫を含んだ一部の生徒達からの嘆願と亜莉亜ら特別クラス教師陣の推薦があり、「食堂の厨房に入れ」との辞令を学園長から受けたからだ。
ティーパーティーをきっかけに本格的な話題となり、「用務員さんの手料理を食べたい」との生徒からの要望を聞いた亜莉亜らが学園長に打診し、学園長もゴーサインを出したのだ。
遡る事、二年前の出来事である。
特にショウガとニンニクを調味料に加えた豚汁が好評で、これを用いた豚汁定食が何時の間にか一番人気のメニューとなっていた。
他にもカレーや生姜焼き、果てはバターライスにお茶漬けなどいくつかメニューも並ぶ。
凱が厨房に入ってからと言うもの、瑞姫は余程の事が無い限りは弁当を作るのを頼まなくなった。
朱鷺子と友人関係になってからは食堂で一緒の時間を過ごすようになっていたし、朱鷺子も朱鷺子で凱の料理を平日なら毎日食べられる、と楽しみにしていたのだ。
その日その日で二人はメニューを変えつつも、主軸は豚汁定食だったりする訳で。
「……これを食べられるのって……、もう半年も、無いんだなあ……」
「朱鷺子さん……」
溜息交じりで呟いた言葉に対して、瑞姫は思わず反応してしまう。
「……卒業も、あっという間にやってくるだろうし、……卒業したら何してけばいいのかな……って、思っちゃうんだ……」
「わたしも二年後はきっと……、朱鷺子さんと同じ立場になるんですね」
「……今は今、って事で過ごしてくしか無いから。……それに……、ボク達は、友達だし」
「そう、ですね。じゃ、冷めない内に食べちゃいましょ」
二人が食事を始めようとしたその時――
「ここ、大丈夫ですよね?」
明瞭な声が食事を始めようとした二人の動きを遮る。
何事かと同時に声のした方を向くと、特徴と化した制服姿の《女生徒(千奈)》が立っている。
「げっ……。あ……、うん……、いいよ」
「はい、それじゃあ失礼しますね♪」
言うが早いか千奈は朱鷺子の隣に素早く陣取ると、呆気に取られる瑞姫に構う事無く、千奈は朱鷺子を促す。
「早くいただきましょ。折角一緒に食べる食事なんですから、冷めると美味しくなくなりますよ?」
一方的にペースに引き込む千奈の明るさと話し方は、ある意味カリスマと言っても良かったかも知れない。
だが、瑞姫と朱鷺子にとって、千奈の事は「いきなり土足で踏み込んでくる無礼でウザい存在」としか感じられなかった。
断るのも良かっただろうが、下手に断れば既に千奈の側にいるクラスメイトを敵に回す事にもなりかねない。
特別クラスと言う狭過ぎる環境でそのようになれば、余計な対立を起こしてしまう事は必定。
二年前、下らぬ自尊心から起きたティーパーティーでの乱闘の再来となってしまうだけ。
二人はただ黙って食べる以外に回避の方法が思いつかなかった。
黙って食べる二人にいぶかしむ千奈だったが、他の友人たちとの会話にすぐさま夢中になり、二人が食べ終わって席を立った事に気付いたのは、彼女らが学食を出る姿を見た時。
千奈はその間、何と10分も新たに出来た友人達との会話に夢中だったのだ。
慌てた千奈は急いで食事を終えようとするも、一気にかき込んでしまった為に喉を詰まらせてしまう。
水を飲んで落ちつく頃には午後の授業が始まる五分前であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後の授業もひと段落して放課後。
教室の清掃を終えた生徒達が思い思いの行動予定を口にしている。
千奈は話題の中心人物として人が絶えない。
前の学校の事を中心に町や話題の店やファッション等、絶え間無い質問の嵐に対しても千奈は臆せず、全てに答えていた。
だが、それ故に千奈はお喋りに夢中になり過ぎてしまい、少数の動きに気付きもしなかった。
「……瑞姫ちゃん、お茶会はやるの?」
「はい。いつも通りに学食で」
瑞姫と朱鷺子、そしてお茶会に入った仲間達は、我関せずと言わんばかりにさっさと学食に集まり出す。
部活の無い特別クラスの、特別な集まりとでも言うのか。
ティーパーティーでは長いから、と「お茶会」と日本語読みにしただけだが、程無く集まりの名として定着していた。
軽い話に始まり、愚痴や将来の夢を語り合う――お茶会とは二年前に自然と出来た集まりだ。
けれど、仲間の卒業で数を減らしており、現在は八人。
実はこのメンバーが、凱を学食の厨房職員にして欲しいと嘆願した張本人達なのだ。
凱は厨房の奥で、レシピをノートに書き留めている。
書いても書いても新たに出てくるレシピにうんざりする事もあるにはある。
けれど、自分に何かあった時の為、と空いた時間を使っての日課としている内にご飯もの、おかず、デザートの三つに分けたノートは合計で10冊近くになっていた。
「お兄さん。今日も始めるね」
瑞姫は凱を呼び、いつもの集まりが始まる事を告げる。
「今日は何にするんだ?」
「わたし、あったかい紅茶と焼き菓子がいいな」
「すぐは無理だから、それまではホットサンドでいいか?」
「うん! みんなは?」
「……ボク、瑞姫ちゃんと同じで……」
「「「温野菜も欲しい〜〜!」」」
「分かった。紅茶淹れながらホットサンドと温野菜作るから、先にジュースとかでも飲んでて待っててくれな」
ブロッコリー、人参、じゃがいもを取り出し、
適度な大きさに切って行くとそれぞれで炒め、茹で、蒸し、としていく内にあっという間に温野菜サラダが完成する。
並行してパンに様々な具を挟み込んで、ホットサンドメーカーで焼けば、ホットサンドも完成である。
因みにその間、瑞姫達はドリンクバーでジュースやお茶等を飲んでいた。
「温野菜、出来たぞ。ホットサンドもどんどん作るってるからな。あ、これ、温野菜のソースね」
「……ありがと」
朱鷺子が真っ先に皿を受け取りに来た。
その表情には心なしか安らいだ雰囲気が出ている。
ほんの一瞬でも憧れの家族像に近付ける満足感からだろうか。
瑞姫達も和やかな雰囲気で放課後のひとときを楽しんでいる。
凱は思う。
朱鷺子はあと少しで卒業してしまう。同席している数人も同様に。
彼女達の歩く道は彼女達自身が決めるもの…とは言うものの、朱鷺子だけが六年生で唯一、未だに進路を決めていないのだ。
このままでは何処に行くかも決めないまま卒業を迎え、家同然の寮を出なければならず、ホームレス確定になってしまう。
朱鷺子の性格上、早めに手を打たないと不味い事にはなるだろうが、凱自身が口出しする事は出来ない。
過度の贔屓と越権行為になるからだ。
ギリギリまで見守るしかない――凱はそう言い聞かせるしか無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、凱は早朝から学校にいた。
厨房の当番に当たっていた為だ。
寮生が来るタイミングを見計らい、スクランブルエッグやベーコンエッグの準備が進められいる。
一番最初に到着したのは朱鷺子だった。
「……あ、用務員さん。ベーコンエッグに……スクランブルエッグ。……あと、バターロール三個とサラダ…、ん、と……タコさんウィンナー」
「分かった。適当なとこに座って待っててくれ」
「……分かった」
朱鷺子はそう返事すると、受け取りのコーナーに最も近い席に座る。
凱も注文を受けるや否や、手際良くベーコンエッグ、スクランブルエッグ、ウィンナーを焼き上げていき、頼まれたものを次々と皿に乗せていく。
「おーい、出来たよー」
「……今、行く」
朱鷺子が席を立ったその時――
「あ!」
千奈が寮母に連れられて学食にやってきた。
そして朱鷺子の姿を見た途端、寮母の止める間もなく駆け寄って行く。
「おはよう、トキちゃん!」
「?!」
突然の挨拶に加えてこの呼び名。
馴れ馴れし過ぎると感じるのが至極普通の反応だろう。
固まる朱鷺子を無視するかのように―――
「すいませーん! これと同じのをお願いしますー!」
朱鷺子が頼んだのと同じ物をすかさず注文する。
「はいよ。出来たら呼ぶから、そこで待っててくれ」
無愛想な返事をしながらも凱は手を抜く事無く調理を始める。
朱鷺子は皿が乗ったトレーを持ってテーブルに向かった途端、その後ろをしれっとついてくる。
「どこ座るんですかぁ?」
「……何処でも。ボクの、勝手」
「それなら一緒に座りましょ? 昨日みたいな事されたら、友達として困っちゃうんです」
「……言ってる事が分からない」
「私は、あなたの、ト・モ・ダ・チ、なんです」
〈……勝手に決めないで欲しいんだけど。まぁ……、適当に話聞いてたら、居なくなってくれるか〉
これ以上の問答は却って厄介な事態になると察した朱鷺子は黙って座り、食べ始める。
「あああああ! 勝手に食べちゃダメェー!」
「おーい、上がったぞー。取りに来いよー」
「あああああ、もぉーーー!」
凱の声に苛立つ千奈。
渋々席を離れ、頼んだ食事を手に再び朱鷺子の前に座り、話し出す。
「だからトキちゃん。友達なんだから、待つっていう心配りは大事だよ?」
〈適当に……相槌打っておくか。瑞姫ちゃんなら……、こんなに五月蝿くしないのになぁ……〉
「私はね、みんなと、何よりもあなたのような子と友達になりたいの」
友達とはどうあるべきかと滾々と語る千奈――
千奈の言葉を適当に受け流してやり過ごす朱鷺子――
それは全く持って噛み合わない組み合わせ。
彼女らのやり取りを背景にするかのように、寮生達が次々と学食にやってくる。
教師陣も朝食をとる為にやって来ており、千奈の熱弁を見て苦笑するばかりであった。
時間にして延べ15分も友達について熱弁を振るって流石に疲れたのか、千奈の口数は減って行く。
それでも朱鷺子を口説き落とそうとするかのように、食べながら話を続けていた。
「あ、ヤバい、早く準備しなきゃ! じゃあトキちゃん、教室でね」
〈……まぁ、良い事聞いたし、その事に関しては……ありがとう、かな……?〉
軽く溜息をつきつつもようやく席を立った朱鷺子は食器をさっさと回収棚に置くと、寮へ戻って身支度を整え、教室に赴く。
やがて始業時間を迎え、休み時間になる度、千奈は朱鷺子の傍に来ては離れなかった。
朱鷺子に取ってみれば、千奈の様は構ってちゃんのチワワにしか見えなかった事だろう。
そんな一日の授業が終わると、朱鷺子は日課である読書の為、図書室に移動する。
その傍には一日中貼りついていた千奈がいる。
図書室にまでついて来たのだ。
朱鷺子が本を読んでいる傍らで、彼女は勉強に行き詰る状態にいる。
「うぅん……、トキちゃんお願い! ここ教えてっ!」
「ぅん…? 〈……げ、これ高1で普通は習うでしょ〉……ここはこうで――」
「ふむふむ…。えへへ……こうしてると友達みたいだよね」
「……え? 違ってた……の? 〈そうかぁ……友達として接してたクセに、友達以下だt――〉」
「へ!? うぅん、違わないよ!! 私とトキちゃんはずっと友達だよっ!! ただ、友達ってこういう事してると楽しいよねーって話だけで……えっと……」
〈……なんか話、長くなりそうだなぁ……。でも困ってるの見てると、楽しいと言うか……、可愛いと言うか……愛玩動物見てるみたいだなぁ……〉
彼女がもっと早く学園に来ていれば、朱鷺子は本当に千奈を友達として受け入れていたかもしれない。
けれど、それが叶わぬのは運命の皮肉であろう。
二年が経っているとはいえ、理不尽な目に遭い、その傷とて癒えているとは言えない。
自らが友達と認める瑞姫は付かず離れず、必要な時にはいてくれる存在だ。
反面、千奈は良く言えばフレンドリー、悪く言えば人の都合などお構い無しに踏み込んで来る鬱陶しい存在。
そうで無くとも二年前、瑞姫が転校してきた時に全てが決まっていたのかもしれない。
こうして、あっという間に冬休みはやってくる。
朱鷺子にとって学校生活最後の冬休み。
そして凱達は、一つの転機を迎えようとしていた――
その間、何処からも攻撃や脅迫が無かったのが却って不気味過ぎる程、平穏な日々だった。
そんな日々を経て朱鷺子は六年生、瑞姫は四年生にそれぞれ進級し、クラスメイト達との二度の出会いと別れを通して友情を育んでいた。
季節も秋となり、朱鷺子達六年生は卒業を控え、魔物娘としての適性診断と移住先を決める時期に差し掛かっる。彼女達はその結果に一喜一憂しつつも、早い者では王魔界や万魔殿へ行く事を決めていた。
しかし、行き先に誰も選ばなかったのが「不思議の国」だ。支配者であるハートの女王の意向が強く働くと聞いて、朱鷺子以外の六年生達が敬遠したせいである。
その朱鷺子は「人虎としての適性が最も高い」との判定を受け、とても珍しがられた。
もっとも、彼女自身は不思議の国はおろか魔界に対しても特に関心を持っておらず、それほど執着は見せていない。
そんな六年生らのやり取りが終わり、間もなく冬に差し掛かろうとした秋の終わり――「それ」はやって来た。
ある日の事、少々多めの荷物を肩と背中に担いだ少女が学園の門をくぐった。
寮母に出迎えられた彼女は割り当てられた部屋に入り、荷物を邪魔にならない場所に置くとすぐに制服に着替える。
だが、その制服は前の高校で着用した物だ。
亜莉亜は転校生となる少女の出迎えを済ませ、彼女を教室の前で待たせる。
かつての瑞姫がそうだったように。
「はーい、みなさーん。今日から新しい子が入るですー。入ってくるですよー」
亜莉亜の声に応じて現われた少女に、生徒全員が動揺を隠せない。
特別クラスに来る事自体が間違いであるかのように。
その一番の特徴は制服が学園の物では無く他校の、しかもそれなりに有名な女子高の物だった事だ。
更に言うなら少女にしては背がやや高く、それに見合うかのように豊満な体つきをしていた。
「自己紹介、お願いするですよー」
「結城千奈(ゆうき・ちな)です。短い期間ですが、どうぞよろしくお願いします」
千奈と名乗った少女は挨拶の後に深々と礼をする。
短い期間と言ったのには訳があった。
彼女は18歳、それも本来は高等部に入っていてもおかしくない。
しかし卒業まで半年も無い状態で、それも父親の急な転勤によって転校を余儀なくされたのだ。
この町から新幹線でさえ一時間はかかる遠方となれば、学生寮が無い限り下宿住まいか自主退学、あるいは転校のいずれかを選ばされる。
追い打ちをかけるように通っていた女子高は校則が厳しく、下宿や寮に入るのに厳しい審査が必要だった。
加えてアルバイトは一切禁止であった為、仮に下宿や入寮の申請が通っても生活費を自力で稼ぐ事も出来ず、仕送りも学費の支払いに殆ど取られ、残金は雀の涙ほどにしかならない計算となったそうだ。
《学園長(エルノール)》が同日の放課後、教師陣と凱に話した事は二つ。
一つは、彼女の父は家族の為にやむを得ず転勤を受け入れたとの事。リストラ候補だった為、断ればその時点で即解雇だったという。
もう一つは、急過ぎる上に卒業間近の状態だった為、既に近隣全ての高校から受け入れを拒否されていた。
風星学園が最後の頼みの綱だったとの事で、制服の仕立ても時期的に無理だった。
更にエルノールは何を思ったか、彼女を特別クラスに編入させた。
多分、卒業まで僅かしか無い少女をこのままにするのは惜しいと同情したのかも知れないが、学園長の考えを推し量る事など凱達には出来かねる事だろう。
余りにも突発的かつまずあり得ないであろう状況。
人間社会における理不尽の一端を如実に表しているとも言える。
けれどそれは闇に葬られる。
事例の少な過ぎるものにいちいち気にかけないのが人間社会というものだから。
まして卒業まで半年を切った時期での父の突然の転勤である。
そんな状況で仮に入寮の審査が通る頃には卒業しているのがオチであろう。
エルノールが後に調べたところによると、千奈は交友関係に恵まれていた。
友達が少なさそうな子と優先的に絡もうとする為か、友人の幅は広くは無いものの、以前の学校でも朱鷺子と同じような他人と関わろうとしない者へ率先して絡んでいったのだという。
千奈と友達になろうとする子も多数いた上に、彼女自身もそれを断ったりしない性質ゆえに友人は意外と多かったのだ。
転校を惜しまれ、入寮の申請を早めるよう友人達による嘆願請求も起きた。
だが、学校側は「規則に例外は許されない」としてこれを一蹴。
そればかりか、学校側は嘆願請求を起こした生徒達を保護者も呼び付けた上で停学や退学を臭わせつつ、口頭による厳重注意という事実上の執行猶予に処した。
この為、千奈は責任を取る形で転校を受け入れたという。
とはいえ――
「携帯で連絡取れるから」
「LINEとかでおしゃべりもする」
「そのうちにでも元居た場所へ旅行ついでとかで遊びに行きたい」
――とは思っていたらしく、転校当初も風星学園の事を友人達に言っていたとの事で、悲観的に捉えてはいなかったらしい。
一時限目の授業を終わると、早速、千奈の周りには人が集まっていた。
制服が余程珍しかったのか当初は好奇心から近付く者ばかりであったが、それを気にも留めず受け入れる彼女の姿勢から、話しかけてきた者はたちまち打ち解けていった。
その中で千奈に興味すら示さなかったのが瑞姫と朱鷺子である。
瑞姫は友達を多く持つ事で気が休まらなくなると考えており、友達と言えるクラスメイトは少ない。
朱鷺子は相も変わらずダウナー系女子であり、瑞姫以外の生徒に関わる事を面倒臭がっており、二年前のティーパーティー騒動で関わった生徒達からは「ああいう子だから」と一定の理解はされている。
けれどその半分が二年の間で卒業してしまい、朱鷺子の人となりを知る者も今では瑞姫と後から編入・入学してきた者も含めて七人だけだ。
「朱鷺子さん」
「……ん? 瑞姫ちゃん? ……どしたの?」
瑞姫の呼び掛けに対し、だるそうに返事する朱鷺子。
傍から見れば、「面倒な子と、その彼女にわざわざ声を掛ける変な子」といった印象だろう。
「亜莉亜先生とアルマ先生から、この後の機材準備を手伝って欲しい、って言伝があって……」
「……先生が? ……何で、ボクに?」
「そこまではわたしも……。わたしも一緒に来るように言われてるんです」
「……確か、この後は……家庭科の授業、だったよね?」
「はい。それでわたし達なんだと思います」
「……ふーん。……それじゃ、職員室、行こっか」
朱鷺子は身体をのっそりと起こして立ち上がると、瑞姫と共に教室を出て行った。
だが、この二人の様子を密かに気にしていたのが千奈であった。
自分から関わろうとしない、それこそ身内だけの関わりに、彼女は悲しい気分にさせられていた。
それゆえに決意する。
《朱鷺子(あの子)》と必ず友達になろう――と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の昼休み――
凱は学生食堂にいた。
だが一般利用者としてでは無く、厨房の職員としてだ。
瑞姫を含んだ一部の生徒達からの嘆願と亜莉亜ら特別クラス教師陣の推薦があり、「食堂の厨房に入れ」との辞令を学園長から受けたからだ。
ティーパーティーをきっかけに本格的な話題となり、「用務員さんの手料理を食べたい」との生徒からの要望を聞いた亜莉亜らが学園長に打診し、学園長もゴーサインを出したのだ。
遡る事、二年前の出来事である。
特にショウガとニンニクを調味料に加えた豚汁が好評で、これを用いた豚汁定食が何時の間にか一番人気のメニューとなっていた。
他にもカレーや生姜焼き、果てはバターライスにお茶漬けなどいくつかメニューも並ぶ。
凱が厨房に入ってからと言うもの、瑞姫は余程の事が無い限りは弁当を作るのを頼まなくなった。
朱鷺子と友人関係になってからは食堂で一緒の時間を過ごすようになっていたし、朱鷺子も朱鷺子で凱の料理を平日なら毎日食べられる、と楽しみにしていたのだ。
その日その日で二人はメニューを変えつつも、主軸は豚汁定食だったりする訳で。
「……これを食べられるのって……、もう半年も、無いんだなあ……」
「朱鷺子さん……」
溜息交じりで呟いた言葉に対して、瑞姫は思わず反応してしまう。
「……卒業も、あっという間にやってくるだろうし、……卒業したら何してけばいいのかな……って、思っちゃうんだ……」
「わたしも二年後はきっと……、朱鷺子さんと同じ立場になるんですね」
「……今は今、って事で過ごしてくしか無いから。……それに……、ボク達は、友達だし」
「そう、ですね。じゃ、冷めない内に食べちゃいましょ」
二人が食事を始めようとしたその時――
「ここ、大丈夫ですよね?」
明瞭な声が食事を始めようとした二人の動きを遮る。
何事かと同時に声のした方を向くと、特徴と化した制服姿の《女生徒(千奈)》が立っている。
「げっ……。あ……、うん……、いいよ」
「はい、それじゃあ失礼しますね♪」
言うが早いか千奈は朱鷺子の隣に素早く陣取ると、呆気に取られる瑞姫に構う事無く、千奈は朱鷺子を促す。
「早くいただきましょ。折角一緒に食べる食事なんですから、冷めると美味しくなくなりますよ?」
一方的にペースに引き込む千奈の明るさと話し方は、ある意味カリスマと言っても良かったかも知れない。
だが、瑞姫と朱鷺子にとって、千奈の事は「いきなり土足で踏み込んでくる無礼でウザい存在」としか感じられなかった。
断るのも良かっただろうが、下手に断れば既に千奈の側にいるクラスメイトを敵に回す事にもなりかねない。
特別クラスと言う狭過ぎる環境でそのようになれば、余計な対立を起こしてしまう事は必定。
二年前、下らぬ自尊心から起きたティーパーティーでの乱闘の再来となってしまうだけ。
二人はただ黙って食べる以外に回避の方法が思いつかなかった。
黙って食べる二人にいぶかしむ千奈だったが、他の友人たちとの会話にすぐさま夢中になり、二人が食べ終わって席を立った事に気付いたのは、彼女らが学食を出る姿を見た時。
千奈はその間、何と10分も新たに出来た友人達との会話に夢中だったのだ。
慌てた千奈は急いで食事を終えようとするも、一気にかき込んでしまった為に喉を詰まらせてしまう。
水を飲んで落ちつく頃には午後の授業が始まる五分前であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後の授業もひと段落して放課後。
教室の清掃を終えた生徒達が思い思いの行動予定を口にしている。
千奈は話題の中心人物として人が絶えない。
前の学校の事を中心に町や話題の店やファッション等、絶え間無い質問の嵐に対しても千奈は臆せず、全てに答えていた。
だが、それ故に千奈はお喋りに夢中になり過ぎてしまい、少数の動きに気付きもしなかった。
「……瑞姫ちゃん、お茶会はやるの?」
「はい。いつも通りに学食で」
瑞姫と朱鷺子、そしてお茶会に入った仲間達は、我関せずと言わんばかりにさっさと学食に集まり出す。
部活の無い特別クラスの、特別な集まりとでも言うのか。
ティーパーティーでは長いから、と「お茶会」と日本語読みにしただけだが、程無く集まりの名として定着していた。
軽い話に始まり、愚痴や将来の夢を語り合う――お茶会とは二年前に自然と出来た集まりだ。
けれど、仲間の卒業で数を減らしており、現在は八人。
実はこのメンバーが、凱を学食の厨房職員にして欲しいと嘆願した張本人達なのだ。
凱は厨房の奥で、レシピをノートに書き留めている。
書いても書いても新たに出てくるレシピにうんざりする事もあるにはある。
けれど、自分に何かあった時の為、と空いた時間を使っての日課としている内にご飯もの、おかず、デザートの三つに分けたノートは合計で10冊近くになっていた。
「お兄さん。今日も始めるね」
瑞姫は凱を呼び、いつもの集まりが始まる事を告げる。
「今日は何にするんだ?」
「わたし、あったかい紅茶と焼き菓子がいいな」
「すぐは無理だから、それまではホットサンドでいいか?」
「うん! みんなは?」
「……ボク、瑞姫ちゃんと同じで……」
「「「温野菜も欲しい〜〜!」」」
「分かった。紅茶淹れながらホットサンドと温野菜作るから、先にジュースとかでも飲んでて待っててくれな」
ブロッコリー、人参、じゃがいもを取り出し、
適度な大きさに切って行くとそれぞれで炒め、茹で、蒸し、としていく内にあっという間に温野菜サラダが完成する。
並行してパンに様々な具を挟み込んで、ホットサンドメーカーで焼けば、ホットサンドも完成である。
因みにその間、瑞姫達はドリンクバーでジュースやお茶等を飲んでいた。
「温野菜、出来たぞ。ホットサンドもどんどん作るってるからな。あ、これ、温野菜のソースね」
「……ありがと」
朱鷺子が真っ先に皿を受け取りに来た。
その表情には心なしか安らいだ雰囲気が出ている。
ほんの一瞬でも憧れの家族像に近付ける満足感からだろうか。
瑞姫達も和やかな雰囲気で放課後のひとときを楽しんでいる。
凱は思う。
朱鷺子はあと少しで卒業してしまう。同席している数人も同様に。
彼女達の歩く道は彼女達自身が決めるもの…とは言うものの、朱鷺子だけが六年生で唯一、未だに進路を決めていないのだ。
このままでは何処に行くかも決めないまま卒業を迎え、家同然の寮を出なければならず、ホームレス確定になってしまう。
朱鷺子の性格上、早めに手を打たないと不味い事にはなるだろうが、凱自身が口出しする事は出来ない。
過度の贔屓と越権行為になるからだ。
ギリギリまで見守るしかない――凱はそう言い聞かせるしか無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、凱は早朝から学校にいた。
厨房の当番に当たっていた為だ。
寮生が来るタイミングを見計らい、スクランブルエッグやベーコンエッグの準備が進められいる。
一番最初に到着したのは朱鷺子だった。
「……あ、用務員さん。ベーコンエッグに……スクランブルエッグ。……あと、バターロール三個とサラダ…、ん、と……タコさんウィンナー」
「分かった。適当なとこに座って待っててくれ」
「……分かった」
朱鷺子はそう返事すると、受け取りのコーナーに最も近い席に座る。
凱も注文を受けるや否や、手際良くベーコンエッグ、スクランブルエッグ、ウィンナーを焼き上げていき、頼まれたものを次々と皿に乗せていく。
「おーい、出来たよー」
「……今、行く」
朱鷺子が席を立ったその時――
「あ!」
千奈が寮母に連れられて学食にやってきた。
そして朱鷺子の姿を見た途端、寮母の止める間もなく駆け寄って行く。
「おはよう、トキちゃん!」
「?!」
突然の挨拶に加えてこの呼び名。
馴れ馴れし過ぎると感じるのが至極普通の反応だろう。
固まる朱鷺子を無視するかのように―――
「すいませーん! これと同じのをお願いしますー!」
朱鷺子が頼んだのと同じ物をすかさず注文する。
「はいよ。出来たら呼ぶから、そこで待っててくれ」
無愛想な返事をしながらも凱は手を抜く事無く調理を始める。
朱鷺子は皿が乗ったトレーを持ってテーブルに向かった途端、その後ろをしれっとついてくる。
「どこ座るんですかぁ?」
「……何処でも。ボクの、勝手」
「それなら一緒に座りましょ? 昨日みたいな事されたら、友達として困っちゃうんです」
「……言ってる事が分からない」
「私は、あなたの、ト・モ・ダ・チ、なんです」
〈……勝手に決めないで欲しいんだけど。まぁ……、適当に話聞いてたら、居なくなってくれるか〉
これ以上の問答は却って厄介な事態になると察した朱鷺子は黙って座り、食べ始める。
「あああああ! 勝手に食べちゃダメェー!」
「おーい、上がったぞー。取りに来いよー」
「あああああ、もぉーーー!」
凱の声に苛立つ千奈。
渋々席を離れ、頼んだ食事を手に再び朱鷺子の前に座り、話し出す。
「だからトキちゃん。友達なんだから、待つっていう心配りは大事だよ?」
〈適当に……相槌打っておくか。瑞姫ちゃんなら……、こんなに五月蝿くしないのになぁ……〉
「私はね、みんなと、何よりもあなたのような子と友達になりたいの」
友達とはどうあるべきかと滾々と語る千奈――
千奈の言葉を適当に受け流してやり過ごす朱鷺子――
それは全く持って噛み合わない組み合わせ。
彼女らのやり取りを背景にするかのように、寮生達が次々と学食にやってくる。
教師陣も朝食をとる為にやって来ており、千奈の熱弁を見て苦笑するばかりであった。
時間にして延べ15分も友達について熱弁を振るって流石に疲れたのか、千奈の口数は減って行く。
それでも朱鷺子を口説き落とそうとするかのように、食べながら話を続けていた。
「あ、ヤバい、早く準備しなきゃ! じゃあトキちゃん、教室でね」
〈……まぁ、良い事聞いたし、その事に関しては……ありがとう、かな……?〉
軽く溜息をつきつつもようやく席を立った朱鷺子は食器をさっさと回収棚に置くと、寮へ戻って身支度を整え、教室に赴く。
やがて始業時間を迎え、休み時間になる度、千奈は朱鷺子の傍に来ては離れなかった。
朱鷺子に取ってみれば、千奈の様は構ってちゃんのチワワにしか見えなかった事だろう。
そんな一日の授業が終わると、朱鷺子は日課である読書の為、図書室に移動する。
その傍には一日中貼りついていた千奈がいる。
図書室にまでついて来たのだ。
朱鷺子が本を読んでいる傍らで、彼女は勉強に行き詰る状態にいる。
「うぅん……、トキちゃんお願い! ここ教えてっ!」
「ぅん…? 〈……げ、これ高1で普通は習うでしょ〉……ここはこうで――」
「ふむふむ…。えへへ……こうしてると友達みたいだよね」
「……え? 違ってた……の? 〈そうかぁ……友達として接してたクセに、友達以下だt――〉」
「へ!? うぅん、違わないよ!! 私とトキちゃんはずっと友達だよっ!! ただ、友達ってこういう事してると楽しいよねーって話だけで……えっと……」
〈……なんか話、長くなりそうだなぁ……。でも困ってるの見てると、楽しいと言うか……、可愛いと言うか……愛玩動物見てるみたいだなぁ……〉
彼女がもっと早く学園に来ていれば、朱鷺子は本当に千奈を友達として受け入れていたかもしれない。
けれど、それが叶わぬのは運命の皮肉であろう。
二年が経っているとはいえ、理不尽な目に遭い、その傷とて癒えているとは言えない。
自らが友達と認める瑞姫は付かず離れず、必要な時にはいてくれる存在だ。
反面、千奈は良く言えばフレンドリー、悪く言えば人の都合などお構い無しに踏み込んで来る鬱陶しい存在。
そうで無くとも二年前、瑞姫が転校してきた時に全てが決まっていたのかもしれない。
こうして、あっという間に冬休みはやってくる。
朱鷺子にとって学校生活最後の冬休み。
そして凱達は、一つの転機を迎えようとしていた――
19/01/01 18:59更新 / rakshasa
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