連載小説
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 科学の発展は常に危険と隣り合わせであった。

 新しい技術は、時にその行使者に致命的な牙を剥くことがある。

 制御しきれていると思っているテクノロジーが、明日には暴走しているかもしれない。

 科学とは常にそういう危険性をはらんでいるのだ。

 しかし、こちらとてただ黙ってやられているわけではない。

 時代の先駆者たちは、その技術の手綱を握ろうと、常に必死の覚悟で臨んでいる。
 そのためだったら、なんでもやってやるという気概がある。
 逆に言えば、その程度の覚悟がなければ、次代のフロンティアには到底なりえないのだ。

 そして、その覚悟は、時に人柱という形で証明されることだってあるのだから。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「こら! シンジ7号! 逃げるでない! おぬしまで逃げてしもうたら、実験が成り立たないではないか!」
「いいえ! 全力でにげます! これは、ウルさんのためでもあるのです! 男はおおかみなんです! 今のぼくには近づいてはいけません!」
「そうだそうだ!
 頑張れ7号! 僕らは野生の獣じゃなくて、理性の家畜だっていうことを証明するんだ!」
「大変だ3号! 4号がもう限界だ!」
「ハァー! ハァー! アァー! イィー! もう、我慢できなぁい! 激しく前後したいです! ファッ○したい! ネンゴロになりたい!」
「くっ! すぐに4号を取り囲め! 賢者フォーメーションだ!」
「「「アイアイサー!」」」
「ヤメロー! ヤメロー! 男はお呼びじゃない! 僕はホモなんかじゃないんだぁー!」
「僕らだってそうさ! でも、みすみす僕の暴走を見逃すわけにもいかない!」
「すまぬ……すまぬ……」
「じゃあ行くぞ! ぼくの息子、ぞんぶんにしごいたれやぁー!」
「アッー!! …………ふぅ……幼女に手を出すとかありえないだろ。常識的に考えて……」
「あぁー!? こら! シンジ達、やめぬか! 精液は実験のサンプルとして回収すると、そう言うとったじゃろうが!」
「あとでけんにょうみたいにして、てい出しますからかんべんしてやってください! ウルさん!」


 あ、みなさんどうも。
 僕です。
 僕達です。

 さっそく地獄絵図が提供されています。
 見苦しいものをお見せして申し訳ない。

 え? 上の文章だけじゃあ、どういう状況かわからないって?
 えーっと、一言でまとめるとですねぇ……
 『家の中を、7人の僕が逃げ回っている』
 余計意味がわからない?
 僕だってわかりませんよ、こんな状況。

 どうしてこうなってるか、ということを詳しく説明するには、今は少し騒がしすぎるので、落ち着くまでしばらく待ってやってください。

「シンジ1号! お前がマザーブレインなんじゃろうが! トイレになんぞこもっとらんで、さっさとやつらを止めぬか!」
「おことわりです! 集だんレイプは重ざいなんです!
 おい! 僕達! 死ぬ気で賢者モードを死守するんだ! 逃げきれ!」
「「「「「「「合点承知!」」」」」」」

 頑張るんだ、僕ら。
 ウルさんは合法ロリだけど、正直【りーん♪かーん♪】はマズイ。
 レイプは強姦罪! 重罪です!
 ダメゼッタイ!


……………………………………………………………………


「ええい! うまいこと逃げ切りおって!」
「ぐえぇぇぇぇ…… 体が元に戻る感覚がぁ…… 気持ち悪い……」

 甲斐あって、なんとか逃げ切りました。
 最後のほう、2号がウルさんに無理やり拘束魔法をかけられていたので、結構ギリギリでした。

「おえぇぇぇぇ……ウルさん、なんだったんですか! 今の薬は! 元気になる薬ってうそでしょう!」
「おほっ? ワシはそんなこと言ったかのぅ? もしかしたら、薬を間違えてしもうたのかのぅ?」
「うそおっしゃい! いつまでもぼくがむ知だと思うなよー! こないだ作っていた、新がたの分身薬でしょう! 知ってるんですからね!」


 はい、そういうことなんです。
 一服盛られました。

 ウルさんが「どうした、シンジ? 最近疲れ気味じゃのう? どうじゃ? 元気になる薬があるのじゃが、試すかのぅ?」なんて言ってきた時点で、怪しいとは思っていたんですよ。
 でも、ウルさんの演技が完璧で、騙されてしまいましたよ。
 決して、上目使いでこちらを覗き込んでくるウルさんの愛らしさに、断ることができなかったとかじゃないです。
 ないです。
 ないですってば。

「ぼく言いましたよね!? もう、ふしぎな薬を飲ませるのは止めてくださいって! しかも、だんだん、手口がストレートになってきてますよね!?」
「だってぇ……シンジは貴重な人間のサンプルじゃしぃ? ワシの薬は基本的には人体に悪影響はないしぃ? むしろぉ……心が開放的になれるしぃ? ワシはデータをとれて、シンジは元気になれる。イイコトづくめじゃろ?」
「そうですね、元気になりましたね! どことはいいませんが! ウルさんが、そういう薬をせん門に作っているのはもう知っていますけど、むやみにぼくでためさないでください!」


 ウルさんは普段、この家で様々な薬を調合しています。
 僕も、最初の方は医療の発展のために様々な薬を作ってるんだろうな、すごいなぁ、と思っていました。

 ですけど、付き合いが長くなるにつれて、別の事実が発覚してきました。

 ウルさんの調合しているお薬って、専ら夜のお供のお薬が多いんですよね。

 ようするに、媚薬です。
 エロい作品とかに出てくる、投薬された人を強制的に『ヤル気』にさせる、あの媚薬。
 男の夢、媚薬。

 そんなもんを、この見た目小〜中学生の幼女であるウルさんが作ってるんです。
 職業として。
 ライフワークとして。

 やっぱ、魔物ってなんかおかしい。

 そして、その実験対象者として、最近は僕がチョイスされています。

「そもそも……び薬だったら、ただのび薬でいいじゃないですか! なんだって、ふえたりへったり、のびたりちぢんだりしなきゃならんのですか! そろそろせい神てきにげん界に近いです!」

 なんですよねぇ。
 ただの媚薬じゃないのよ、これが。
 ファンタジー世界らしく、ありとあらゆる効能があるのよ。

 おととい飲まされたのは、縮小薬でした。
 棚の隙間に入れるくらい小さくなりました。

 昨日飲まされたのは、拡大薬。
 デッサン間違えたんじゃないかってくらい、でっかくなりました。

 今日飲まされたのは、おそらく分身薬の類でしょう。
 増えるわかめのごとく、服用者が増えます。

 他にも、相手の性感帯がわかる薬とか、被虐薬、嗜虐薬とか試されました。
 しかも、ウルさんの薬棚にはまだ、幼化薬とか、催眠薬とか、時間停止薬とか、鈍感薬、敏感薬、変わり種では”生える”薬なんてものもあるみたいです。

 何が生えるかって?
 そら、ナニが生えるんですよ。
 ハハッ。

「シンジ、夜の営みというものは、この世界ではとても大切なこととされているんじゃ……ゆえに、多彩なニーズというものがあるのじゃ! ワシはそのニーズに対応した媚薬を開発しているにすぎん!」

 おぉい、マジかよ。
 どんだけ、性にオープンなんだチクショウ。
 前の世界なんか、少子化とか離婚の増加が問題にされていたのに。

「そして、ワシは半端な媚薬は作りたくない! ウルスラ・エル・アヴァロンは、自分の作る媚薬に誇りを持っておる! どんな顧客も満足する媚薬を作るのじゃ! ゆえに、どの種族にも抜群の効き目がある媚薬を模索せねばならぬ! だから、シンジにも効く媚薬を試さねばならんのじゃ!」
「おお……もぅ……」


 わけのわからん持論をかかげて、ウルさんがえっへんと胸を張ってえばっている。
 すげえなぁ、張っても平坦だぁ。
 どこがって?
 ハハッ。

 というか、何を作っているか、僕にばれてから、もう一切隠す気なくなりましたね。
 臆面もなく、媚薬媚薬連呼すんなよぉ。
 ピュアボーイやで、僕。

「クフフッ……恥ずかしがってるシンジ、かわいい……♥」
「ん? 今、なにか言いましたか?」
「いや? なにもぉ?」


 なんか言いやがったな。
 いや、もういいや。
 ウルさんが自由奔放な性格なのは、この5か月の付き合いで散々わかってるからね。
 今言いたいのは、そういうことじゃないんです。

「しかし、そうであるならば、ますますこうぎします! なぜなら、ぼくはげん代人! 薬とか、ま力とかに弱いっていうのは、さんざんけんしょうしたじゃないですか! だったら、もっと薬がきかない相手とかにためせばいいじゃないですか!」
「それはぁ? 投薬してみるまでどの薬が効くとか効かないとか、わからんじゃろう? だから万遍なく試さないとなー、と思ってじゃなぁ」
「このままじゃあ、ぼくの体がもちません! あんまりヤクづけにされて、はい人になるのはいやですよ!?」
「なにおぅ!? ワシの薬は安全じゃ! どんなに服用しても、その効果が残ることはない!」


 ガチャ

「あっ、1号。もう終わった?」

「…………」
「…………」


 スタスタスタ……

 ズニュル

「うえぇぇぇ……気持ち悪ぅい………」

 こらー、ウルさーん。
 てへぺろ☆の顔をするんじゃなーい。
 思わず許したくなるから、やめてー。


……………………………………………………………………


「それで……また逃げてきたの?」
「だって……ウルさんが、ま法でむ理やり薬を飲ませようとしてきたから……」
「シンジ……大変そう……」


 湖のほとりで釣り針を垂らしながら、カアラと談笑しています。
 なんか、井戸端会議の主婦みたいです。

 カアラと出会ってから、ウルさんから逃げた時にはここに来るようにしています。
 今では、気軽に愚痴を吐露できる程度の仲には進展しました。

 やっぱし、こういう風に気兼ねなくしゃべれる人がいるというのはいいですね。
 心が軽くなります。

「……シンジ……いっそ、ここに住む?」
「えっ」
「わたしなら……気兼ねしなくても……大丈夫」
「いや……そうじゃなくて……」
「わたし……結構尽くす女……」


 気が重くなった。

 どうして魔物娘ってのは、こう、やたらとべたべたしてくるのだろうか。
 ぼく、気になります。

「カアラ。あんまり人をからかうもんじゃありません」
「からかってないもん……むぅ……」


 カアラがふくれっ面を見せる。
 かわいい。

 じゃなくて。

「ああ……ホントつかれた……」
「シンジ……お疲れ…………あ、そうだ」
「ん?」
「私が……シンジの疲れ……とってあげる」
「ははは、それはうれしいなぁ。何をしてくれるのかなぁ?」


 The、社交辞令。
 正直、そんなに期待はしていないです。
 本当に、いったい何をしてくれるというのか。

「こうする……いい子いい子……」

 カアラに頭をなでなでされる。
 あー、確かにこれはいいわー。
 すんげえ癒されるわー。

「あー……気持ちいいー……」
「シンジ……いっぱい休んで……一緒に……いよ……?」
「ふおぉ……」


 アカン。
 このウィスパーボイス、アカン。
 なんか、彼女の言うことなんでも聞いてしまいそうになる。

「シンジは……いい人……」
「あー……ありがとー」
「シンジは……かっこいい……」
「あー……うれしいわー」
「シンジは……私に優しい……」
「うんー……いくらでもやさしくするよー……」
「シンジは……私の言うこと……なんでも聞く……」
「そうだねー……いくらでも聞く……」


 ん?
 あれ?
 なんかおかしくない?

「シンジ……何にも考えなくていいよ……」
「何にも……考えない……」
「私の言うことだけ……聞いてればいい……」
「カアラの言うことだけ……聞く……」


 あれ、これヤバくね?
 催眠、かかってね?
 なんか本気で前後不覚になってきた。

 難しいことが

 一切

 考えられなく

 なって


 

 


「シンジは……私が好き……」
「ぼくは……カアラがすき……」
「私も……シンジが好き……」
「カアラは……ぼくがすき……」
「シンジは……私と一緒にいる……」
「カアラと……一しょにいる……」
「シンジは……私と結婚する……」
「ぼくは……カアラとけっ……」


 あと一言で、カアラとの婚姻関係が成立しようとしていた、まさにその瞬間!

「ちょぉっと待たんかぁぁぁぁ!!」
「ホァッ!? えっ? 何? なんなの? どうなったの?」
「ひぁっ!?」


 いきなり耳に飛び込んできた、聞きなれた大声!
 その声のおかげで、僕の意識が一気に覚醒した!

「えっ? えっ? あれっ? ウルさん? なんでここにいるんですか?」
「おぬしの身に危険が迫っておったから、転移魔法で駆けつけて来たのじゃよ!」
「きけん? なんできけんがせまってるってわかったんですか?」
「おぬしに危険が迫っているときに、いつでも知らせるという魔法をかけてあるんじゃ! ワシがおぬしのことを放っておくわけないじゃろうが! ちゃんと防護措置を施しておる!」
「はぁ!?」


 マジですか。
 まったくの初耳なんですが。
 とんだセコ○の押し売りもあったもんだよ。

「で!? どこのどいつじゃ!! シンジに手を出そうとした不届きものは!!」
「え? ていうか、待ってください。そもそもきけんがせまってるって……ぼくはカアラにつかれをいやしてもらっていただけで……ん?」


 そういえば、なんだかここ数分の記憶がひどく曖昧だ。
 なんか、妙にふわふわした気持ちになっていたような……

 不審に思ってカアラのほうを見ると、目がめっちゃ泳いでいた。
 そのうえ、妙に挙動不審だ。
 さっきから、両手を合わせて親指同士をくるくると回している。
 カアラさん?

「カアラ? 君、ぼくにへんなことなんて、何もしてないよね?」
「ひょっ!? わ、わたす、わたしは……シンジに……何も……し……して、ない……よ?」


 なんかしやがったな。
 こういうときには伝家の宝刀を使わざるをえない。

「カアラ……ちゃんと言わないと、ぼくカアラのことをきらいになっちゃうかもなー」
「……ごめんなさい……なにかしました……ちょっと魔力を使って……催眠かけました……」
「す直でよろしい」


 ていうか、催眠て。
 カアラのウィスパーボイス、侮りがたし。

「ほぉう? それで? ワシのシンジに手を出して、只で済むと思ってはおらんじゃろうなぁ?」
「ひっ……!? た、たすけて……」


 あーもう、ウルさん激おこだよ。
 怒気がすさまじすぎて、ウルさんの体から魔力放電が起きてるよ。
 カアラがすっかり縮こまっちゃったよ。
 さすがに、止めなきゃまずいよねー。

「ちょ、ちょっと待ってください、ウルさん。カアラに悪気はない……はずなんで、あんまりおこらないでやってください」
「なんじゃと!? おぬしはこいつを庇うのか! なんじゃい! ワシに秘密で、外で女なんぞ囲いよって! こんなちんちくりんのどこがええんじゃ!」


 いや、ウルさんもどっこいどっこいのちんちくりんじゃないですか。
 というか、外で女囲うて。
 ひっどい言いぐさだな。

「わ……わたし……ちんちくりんじゃないもん……シンジを……ちゃんと満足させられるもん……」

 コイツ……!?
 張り合いやがった!?
 ていうか、最後の言葉はどういうことだ。

「はんっ! お前のような寸胴ボディじゃ、到底シンジを満足などさせられんじゃろうなぁ? その点、ワシは恵まれた肉体を持っている! ワシの身体をもってすれば、どんな男でもイチコロじゃ!」
「恵まれた……? ……どこが? あなたも……つるぺた……わたしと……そう変わらない……」


 その通りですね。
 どっちかというと、胸が無い分、ウルさんのほうが寸胴ですね。

「わかっとらんなぁ! お前とワシとでは、身体の質が違うと言うとるんじゃ! バフォメットの肉体とサハギンの身体とでは格が違うのじゃ! どうじゃ! ぐうの音もでまい!」
「身体の相性より……心の相性の方が大事……シンジ……あなたといるとき……疲れてる……わたしといるとき……安らいでいる……どっちのほうがいいか……明らか……」
「ぐうっ!?」


 わぁ。
 ぐうの音が出たー。
 というか、カアラさん、その言い方はこっちに飛び火するからやめて。

「し、シンジ!? お、おぬしはワシといると疲れるのか!? ワシのことが嫌いなのか!? だから最近避けておるのか!? しょ、正直に答えんか!」
「いや、ウルさんのこと、きらいではないですが……」
「でも……一緒に居ると疲れるって……シンジぼやいてた」


 うん、ちょーっと黙っててほしいなー。

「な、なんじゃと!? シンジはこやつにワシの愚痴をこぼしておったのか!? そこまでこやつと仲が良いのか!?」
「仲がいいなんてもんじゃない……友達だもん……一緒に竿を握りあった仲……」
「さ、サオを……!!??」


 そこはかとなく、ミスリードを狙う言葉選びは止めてほしいなー。
 絶対、これ、別のサオを思い浮かべてるよー。

「それに……シンジは……わたしをキズモノに……」
「カアラ」
「ん……シンジ、何?」
「それい上、何か言うときらいになっちゃいそうだなー」
「ご、ごめんなさい! ……もう言いません……」


 まさか伝家の宝刀を二回も使うとは。
 間違いなく、今日は厄日だ。

「し、シンジ!? キズモノってなんじゃ!? ヤったのか!? おぬしはこやつとヤったというのか!? ワシには手を出さんくせにぃ!! このロリコンがぁ!」

 いや、それはあなたに言われたくないです
 まさか、僕に言い寄ってくるロリッ子にロリコンと罵られるとは。
 予想外です。

「ウルさん、ちがいます。そうじゃないです。とにかく、ぼくの話しを聞いてください」


〜ややあって〜


「バカモン! 釣りだったら最初から釣りと言わんか! 紛らわしい言い方しおってからに!」
「勘違いしたほうが……悪い……」
「ぐぬぬ……口の減らぬ小娘め……!」
「……とりあえず、わかってもらえてなによりです……」


 いろいろと説明とか釈明とかして、ウルさんを落ち着けることには成功しました。

「シンジもシンジじゃ! ワシに秘密で、このような小娘との逢瀬を繰り返しておったとは! この裏切り者ー!」
「うーん、ウルさーん? おうせとはちがうよー? カアラはただの友だちですよー?」
「うっさい! そもそも二人っきりで釣りを楽しむなんてひどいぞ! ワシとはそのような楽しげなことなぞしてくれんくせに!」
「ええー……そんなこと言われても……大体、ふだんからウルさんとの実けんに、(不本意ながら)きょう力してるじゃないですか……それじゃだ目なんですか?」
「駄目じゃ! 湖畔で二人っきりで釣りを楽しむなんて、それは完璧にデートじゃぞ! そんなん許せるかー! うらやましいー!」


 あー。
 なんだろう。
 姪っ子にダダこねられてる気分だ。

 そんな、親戚の気持ちになってしまったがために、僕はつい、ぽろっと口を滑らせてしまった。

「じゃあ、ぼくがウルさんとデートすれば、ゆるしてもらえますか?」
「そりゃあ勿論、許すに決まって……ふぇっ!? え? いいの? シンジ、ワシとデート行ってくれるの?」
「え、ええ、まぁ、それでウルさんの気がすむなら……」
「お……お、おお!! それでいいんじゃ! なんじゃ、シンジ、ようわかっとるのぅ! そうじゃ! シンジはワシとデートするのじゃ! それで、この小娘と比べて、どっちが真に心休まるか決めるのじゃ!」


 おい、なんか変な案件くっついたぞ。

「むぅ……! わたし……負けないもん……! シンジは……わたしといたほうが……心休まるから……!」
「おうおう、せいぜい吠えるがよいぞ小娘ぇ! ワシとのデートのほうが、絶っ対に心休まるんじゃからなぁ!」


 なに勝手に火花散らせてんの?
 なんだこの修羅場。
 見てるだけで胃が痛いんだが。

「シンジ……わたしを選ぶ……友達だもん……」
「いーや! 絶対にワシのほうを選ぶのぅ! なんたって同居人じゃしのぅ!」
「わたしのほうが……いい」
「ワシのほうじゃ!」
「わたし……」
「ワシ!」
「「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」」


 僕の明日は……どっちだ!
13/12/22 05:15更新 / ねこなべ
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■作者メッセージ
繋ぎのような回。
デート編への自然な導入、のつもり。

やっぱり、二人の間で揺れ動く男性っていうのはうらやましいですね。
どっちもちっちゃい子ですが。

ちなみに、晋司の異世界セリフは小学三年生程度の漢字までを使用解禁しております。
言うまでもないとは思いますが、言語上達の表現です。
分かりづらくてすまぬぇ……。

次の回は割と早めに投稿できたらいいな。

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