まもむす結婚相談所-好奇心は好気心-
昔々、私達アルラウネは森の中で男を誘う甘い匂いの蜜を出し、そうしてやってきた人と関係を深めて結ばれるのが一般的でしたわ。
けれど時代は現代。人が立ち入ることのできる森はすっかり整備され、昔ながらの生活がしたい魔物娘にとっては少々生き辛い世の中になってしまいました。
「だから昔と違って、今ではアルラウネでも積極的に外に出て移動するのが主流なんですわお母様。一箇所に留まるなんて時代遅れです」
「でも心配です。ジェンナちゃん街に行ったことないでしょ。パパだってきっと許さないと思うし、配達ならいつものハニービーさん達がやってくれるんだから。わざわざジェンナちゃんが行かなくてもいいじゃない」
雨の日は雨粒が中に降り注ぐ、アルラウネにとって気持ち良い家の中、お母様と私はそれぞれの蜜をビンに入れながら話します。
私達家族はハニービーの会社と契約していて、貰ったビンがいっぱいになるまでそれぞれの蜜を入れることで生計を立てています。お母様が結婚してから、お父様の為にお金が要りようになった為始めたとのことでした。要りようになったといっても、生活に困るようになったとかではなく、記念日にプレゼントを買ったり、生活に役立つ品物を買ったりといった用途にお金は使われます。
お母様が結婚した頃、ちょうど近くに新しいハニービーの女王様がやってきたので、渡りに船だったそうです。
その女王様には私もよくお世話になっていて、泣き虫だけど頑張り屋さんというのが私の感じている印象です。何でも元々はただの働き蜂だったそうですが、結婚をしてからいろいろあって女王になれたのだとか。そして女王になれたことでそれまでいた巣を出て、支店として私達の近くに来たようです。
「ちょうどこれもそろそろいっぱいになりますし、絶好の機会だと思います。現代っ子ですもの、私だって外の世界を見てみたいです」
「でも……」
「それに、私もそろそろ年頃なんですから、結婚相手の1人くらい見つけたいですわ。先日女王様がお勧めしてくださった結婚相談所に行こうと考えております」
女王様が旦那様と出会ったきっかけとなった結婚相談所なら、きっと私にも素敵な相手が見つかるはずです。お母様を説得しながらここ数日、私の胸は期待に満ち溢れておりました。
「なにも私1人で行こうというのではありません。ちゃんとお世話をしてくださる方と行きますから」
「う〜ん」
「お母様」
「…………はぁ〜、仕方ないわね。そのかわりちゃんと連絡するのよ」
「はい。ありがとうございます」
こうして私は、初めて森を出て街へ行けることになりました。あぁ、今から胸が高鳴りますわ。
結婚したアルラウネは、旦那様の精を最大の栄養とします。しかし私のような未婚のアルラウネには、普通の植物と同じように新鮮な水と十分な日光が何よりの栄養です。
車椅子のような乗り物にちょこんと佇む私に、お付きのハニービーさんが水を注いでくれます。車椅子に乗っている鉢植えのようになっているこの格好を初めてみた時、おかしくてつい笑ってしまいましたが、今では慣れたものです。
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
「はい。家に帰るまでの間、しっかりとお世話させていただきます」
このハニービーのメイドさんは私と1番長い付き合いです。私としてはお友達になりたいと思っていますが、自分はあくまでメイドとのことで、頑なに一線引いた態度を崩そうとしません。
無事蜜の配達を終えた私は、予定通り結婚相談所に向かうことにしました。
「いらっしゃいませー、まもむす結婚相談所へようこそ〜」
受付に入ると、カウンターの端に置かれたお人形の手を振って、ハーピーの方がにこやかに挨拶してくださいました。その胸元には、首から下げられた指輪が輝いています。
「アルラウネさんとはまたまた、珍しいですね」
「あら、お客様にそんなこと言っていいのですか」
「いや〜、普段森に住んでいる方に街で会うのが珍しくてつい」
「もしかして登録できないのかしら」
「あ、いえいえ、そんなことないですよ。魔物娘ならよっぽどのことがない限りどなたでも登録歓迎です。それではさっそく手続きをしましょうか」
「お願いします」
「ではではこちらへどうぞ〜」
面談室と書かれた部屋に通されると、さっそく渡された用紙に希望を書くことにした。内容は難しいことがわからない子にも対応しているのか、自分で書くようなものではなくアンケートのような形式になっていた。
「背丈は……そうね。別にこだわりはないけれど、抱き合った時見つめあえるくらいがいいでしょうね」
順調に項目を埋めていく。とはいえ理想の男性のイメージが無いので、お父様を参考に考えていきます。
自由に書くことができる欄には、植物のアレルギーについて書いておきました。せっかく相性が良くてもアレルギーだったなんて悲しすぎますからね。命に関わる程でなくても、2人きりなのにくしゃみや鼻水ばかりでは興ざめですもの。
「遅くなりました。私が今回担当させていただくシズです。種族はアヌビスですので、きっちりとしたサポートを保証します」
「よろしくお願いします」
しばらくしてやってきた職員のシズさんと会った私は、さっそく書けた用紙を手渡しました。それを左手で受け取るシズさんの指には、ハーピーの方と同じく指輪が輝いています。
「ふむ、ふむ……なるほど。今まで男性に会う機会がなかったので、イメージし辛いとのことですね」
「はい。普段関わりのあるのは皆女性ばかりだったので」
「あ、それと、後ろに控えている方は別室でなくて平気でしょうか」
「あ、はい。別に聞かれて困ることでもありませんので」
「そうですか。いえ、性癖などは隠しておきたいという方もいるので」
「ご安心ください。ジェンナ様の性癖については把握しております。特にジェンナ様は好奇心が強く、最近ではモググ」
いきなり余計なことを口走りだしたメイドの口を、私は蔦を伸ばして塞いでやりました。いったい何を言い出すのやら。そして何故知っているのでしょう。
「そういうことは自分で説明しますから」
「失礼いたしました」
澄ました顔で無駄にキリッとしているのが癪ですわ。
「それでは、まずプロフィールが書かれた書類をたくさん見ていただいて、興味が湧いた男性に会ってみるというのはどうでしょうか。いきなり会わず、まず書面でワンクッション置いてみましょう」
「わかりましたわ。やり方はそちらにお任せします」
「それでは書類を持ってきますので、少々お待ちください」
ここに来るまで、魔物娘と人間のカップルをよく見かけていました。私の両親と同じように皆幸せそうにしていて、私もあんなふうになりたいと思います。
いったいどんな人が登録しているのでしょう。都会では幼少の頃から誰かしらの魔物娘に目をつけられると聞いたことがありますから、ここに登録しているということは何かしら事情がある人なのでしょう。少し心構えをしておかなければいけないかもしれません。
「そういえばあなたはいいのですか。見たところまだ未婚のようですが」
「はい。私はまだそういう時期ではありませんので。そもそもうちの女王様は旦那様がいますので、女王様の為に夫となる男性を探すということもありませんし」
やっぱり澄ました顔でメイドは答えます。
「お待たせしました。取り敢えず10件ほど持ってきたので、良さそうだと思った人がいれば教えてください」
戻ってきたシズさんからファイルを受け取った私は、パラパラと流し読みするように手際よく中身を見ていきます。
少し不安に思っていたことが的中したかのように、そこに書かれている人たちは癖の強い人が多かったです。特に顕著なのが性癖についてで、エッチ後に催した時にはお掃除フェラのついでにおしっこを飲んで欲しいとか、相手が気絶するくらいイかせた状態で挿入したいとか、私にとっては難易度の高いものばかりです。
こういうことは、お互いある程度仲良くなってからカミングアウトするものではないのでしょうか。それとも結婚するのだから初めに伝えておくものなのでしょうか。私は少し混乱してしまいます。
「皆様何というか……すごいんですわね」
「ジェンナさんは未婚ですから、そう思うのも無理はありません。サキュバスや不思議の国の皆さん程好色な種族ではありませんしね」
けれど……とシズさんは続けます。
「いざ愛する人を前にすると、実際しますよ。そういうこと」
ニッコリと微笑むその顔を見るだけで、本当のことなのだと感じることができてしまいました。
「で、でもやっぱり、まだ私には早すぎると思います。ですからこの人にしてみますわ」
渡された中で1番マシに思えたその人のファイルをシズさんに手渡しました。そこに書かれた名前は「キッカ」とあり、目立って特異な面はない普通の人に感じます。
「キッカさんですね。なるほど、確かに始めに会ってみるには良い人かもしれません。さっそく連絡してみますね」
「よろしくお願いしますわ」
それから私は、しばらくここに通うことになるので会員証を作った後、殆どが幸せなシズさんの結婚生活についてだった雑談をして、相談所を後にして帰宅しました。
一度出てしまえば、それ以降は慣れたものです。あれから何か用事がある際には積極的に森を出ることにした私は、その度に初めて見る景色に心奪われました。
ゆったりと流れる森での時間とは違い、忙しなく動き回る都会の景色は、私の心を刺激します。
相談所だけに頼らず、街に出た時には不意の出会いを期待しています。しかしメイドと2人連れなのが悪いのか、特にこれといった出会いはありませんでした。
そして今日は、待ちに待った初顔合わせの日です。メイドに任せていつもより見栄えをきれいにした私は、期待に膨らむ心のまま相談所に顔を出すのでした。
「あっ、ジェンナさん。お待ちしていましたよ」
いつものハーピーさんに出迎えられると、すぐに面談室に通されます。そしてシズさんに少し待つよう言われると、そこでメイドとは一旦別れることになりました。何でもうっかりメイドの方を好きになられる可能性があるからとのことです。
「お待たせしました。こちらがジェンナさん。そしてキッカさんです」
身だしなみを気にしながら待っていると、男の人を連れてシズさんが戻ってきました。その人は可もなく不可もなく、写真で見たままでした。
「どうも、キッカと言います。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ジェンナと申しますわ」
距離を図るかのように、お互い丁寧に礼をすると、シズさんに促されるままテーブルを挟んで向かい合うよう座った。
「ジェンナさんは普段森に住んでいて、普段は蜜を売って生活しています。一方キッカさんはこの街の工場で働いています」
「そうなんですの。どういった工場なのでしょうか」
「あ、えっと、食品加工の工場ですね。缶詰とか、そういうのです」
こういった相談所では、シズさんのような方が仲介役になってくれるので、初対面同士でも会話に窮することなく進行していきます。今まで大人数と関わることがなかった私としては、大変に心強いです。
会話は仕事の話から普段の生活へと移り、どのような生活習慣を送っているのか、日々の中で大切にしているもの、していきたいものへと変わっていきます。その中で夫婦となった時の齟齬がないように気持ちを歩み寄らせていくのです。
「キッカさんは、随分と規則正しい生活をされているのですね」
「ええまぁ。この仕事も、始まる時間と終わる時間がいつも変わらないからこそ選んだのが大きいですし」
「自分のペースを守って安定した暮らしをしていることは、とても素晴らしいと思いますわ」
「ありがとうございます」
「そんな中一大決心をしてこちらへ登録して、行動力もありますのね」
「いえそんな。実は登録したはいいものの、自分からはそれっきり通うこともなく連絡待ちばかりで」
私の質問に答えるキッカさんの態度からは、優しさが滲み出ていました。落ち着いた雰囲気で、森の穏やかさと同じものを感じます。
時間にして1時間が経ったでしょうか。私はすっかりキッカさんのことを気に入ってしまっておりました。
「話が盛り上がっているところすみません。そろそろ時間ですので、次回の予定を決めてはどうでしょうか」
シズさんに促されて壁の時計を見たキッカさんは、しまったという風な顔を一瞬しました。もしかしたら何か予定があったのかもしれません。
「あ、ごめんなさい。そうですね。ジェンナさんさえ良ければ次回もお会いしたいんですがいいでしょうか」
「私はもちろん構いませんわ。いつにしましょうか。キッカさんに合わせますわ」
「では、次は8日後にしましょう」
「わかりましたわ」
「ごめんなさい、今日はこれで失礼します」と言うと、やはり予定があったのでしょう。キッカさんはそそくさと部屋を後にしてしまいました。
それから1月程月日が過ぎました。数回キッカさんと逢瀬を重ねるうちにわかったことは、会う日が決まって8日後ということです。会う場所は相談所から移り、お互い待ち合わせをして街の中になっています。
しかし憧れていたデートなどは、実はまだ1度もしていません。なぜなら会う時間が決まってキッカさんのお仕事が終わる夜だからです。夜のイルミネーションの中でデートというプランもあったのですが、体力仕事で疲れが少し見えるキッカさんを見るとそんな考えは無くなってしまいます。なのでデートはだいたい決まってディナーをご一緒することが多いです。油ものは避けてヘルシーな食事なら問題なく食べることができますから、行くお店もそういった健康志向の場所になってきます。
元々好奇心の強い私が、もちろんそれだけで済むわけがありません。確かに初めはキッカさんに会うだけで胸が高鳴り興奮が抑えられない程でした。しかしそれだけでは足りない、もっと次へ行きたいという欲が溢れてくるのです。
始めは向かい合っての食事から。次は隣り合って座るお店。次第に距離を縮めて、次はどこまでいけるだろうと考えることは、ここ最近で1番楽しみなことでした。
「ジェンナ様も、すっかり恋する乙女ですね」とメイドに鼻で笑われても気にならない程度には、キッカさんにのめり込んでいます。
お母様は私に気を使って、急に買い始めたアクセサリーやかわいい服を楽しそうに眺める私をお父様に見せないように、私がそうしている間はずっと閉じた花弁の中でお父様とエッチをしていました。
そして私は今日、何度目かになる逢瀬で勝負に出ることにしました。
今日もいつも通りのディナーです。しかしいつもとは違い、お酒を飲むことを目的としたディナーを誘いました。そう、少しお酒の力を借りようと思ったのです。
お酒が加わりキッカさんが大胆になるならそれで良いですし、そうでないのなら私がわざと弱ったフリをしようと考えています。
発情期――というのがアルラウネにあるのかはわかりませんが、とにかく今の私はキッカさんと結ばれたくて仕方がありませんでした。
「お待たせしました、ジェンナさん。それでは行きましょうか」
「ええ。今日もエスコートよろしくお願いしますわね」
車椅子の操作をメイドから譲り受けると、キッカさんはそれを押してお店へ向かった。
多種多様な魔物娘が闊歩する現代では、建物が殆どユニバーサルデザインになっております。なので車椅子でも移動に支障をきたすことはありません。店員さんの対応も慣れたもので、私たちはスムーズに席まで通されましたわ。
「そういえば、ジェンナさんとこうしてお酒を飲むのは初めてですね」
「そうですわね。キッカさん、お酒は強い方なんですの」
「うーん、人並み程度だと思いますよ。特に強いと思ったことはありません」
「そうでしたか。ちなみに私は弱いですわ」
実は魔物娘用に、相手の男性が好む弱り方をするお酒というものがあります。支配欲や征服欲が強い人相手には抵抗できなくなるように。普段消極的なのにお酒を飲むと積極的になるというギャップが好きな人相手には、消極的な魔物娘も強気になるように。全ては恋人や夫婦がもっと淫らに仲良くなることを願って、お酒のプロであるサテュロスが研究に研究を重ねて作ったのだとか。
少しお酒と食事を進めると、キッカさんの目つきが変わったのがわかりました。ただそれを皮切りに性格が変化したのかと言われれば、いいえと言いますわ。いつも通りの穏やかで優しい態度と口調はずっと変わりません。
「ねぇキッカさん。そろそろお店を出て休みませんか」
「え? あ、あぁ、もうそんな時間ですか。そうですね、じゃあ出ましょう」
私に促されるまま、キッカさんはお店を出ます。男性はこういう時見栄をはりたいものとお母様から教わっていたので、私は財布を出して支払う素振りを見せた後、キッカさんの良いようにしてもらってお会計を済ませました。
お店を出ると、ピューと肌寒い風が吹きます。思わず花弁で体を隠して顔だけ出す格好になると、それがおかしかったのかキッカさんに笑われてしまいましたわ。
「もうっ、ホラ行きますわよ。押してくださいまし」
「あはは、わかりました」
昔と比べて自分を律することがマシになった現代では、ラブホテルの数は意外とすくないです。家まで我慢できるなら、何でも自分の好きにして良くて時間を気にしなくていい家に連れ込めばいいだけですからね。なのでラブホテルに入るカップルというのは、どうしても我慢できなくなった人魔か、私たちのようなまだそこまで進展していない2人が多いです。
すんなりとラブホテルに入り決めた部屋に入った私は、なんだかんだ言ってキッカさんもお酒の影響を受けているんだと冷静に考えていました。普段の彼なら絶対にこんなところに来ないからです。
私達が選んだ部屋は、水辺を意識した部屋でした。バスルームはちょっとした小川のような作りになっていて、チョロチョロと上からぬるめのお湯が流れています。下にはきれいな砂利が敷き詰められていて、寝そべるようなプレイ用に脇にはマットが置いてあります。壁には森の風景が映像で映し出されていて、部屋の隅にあるスピーカーからは小鳥のさえずりが小さな音量で流れます。
実際の森とは比べるまでもないですが、これはこれで作りがおもしろくて私は案外気に入ってしまいました。
「ふふふ……キッカさん」
「はい」
「逃しませんわよ」
小川の側に置いてもらった私は立った状態で蔓を伸ばすと、キッカさんの両手脚を巻き付けて宙に浮かせると、そのままこちらへ引き寄せました。
「心配しなくても大丈夫ですわ。優しくしますからね」
お酒の効能だと思います。私は普段より強気になっているのを自覚しました。キッカさんを弄ぶような笑みを浮かべながら、ゆっくり服を脱がせていきます。
時折チラリとキッカさんの表情を伺うと、恥ずかしそうに赤面しているのが見て取れました。その表情がまた愛おしくて、遊ばせていた蔓が無意識に歓喜に震えてしまいます。
今この素敵な男性は私のもの。私だけのものなんです。どうやって愛しましょう。したいことはたくさんあって、アイディアが尽きることがありません。けれど初めては1度きりです。それをどうしましょう。どういうふうにするのが相応しいでしょうか。
「あ……あの、ジェンナさん?」
「え? あ、すみません。つい夢中になってしまいました。今降ろしますね」
気付くと私は、すっかり一糸纏わぬ姿になったキッカさんを、宙ぶらりんにしたままじぃーーーーーーっと見つめていたのでした。
ゆっくりと私に降ろされると、キッカさんは私に歩み寄ってくれました。
「ジェンナさん……いいんですよね」
「もちろんですわ」
初めてだから優しくして、なんて言いません。全部キッカさんの好きなようにしてもらえれば、それが私の幸せですから。
もう少しで唇が触れる。そんな距離まで近付けられた顔に向かって微笑むと、最後の踏ん切りがつかずにそこから動かないキッカさんに向かって私は唇を突き出しました。
「ん…………ふふっ、ついにしてしまいましたわ」
触れ合った唇を離して見つめ合うと、私はわざと艶かしく映るように指先で自分の唇をなぞりました。するとそれを見て興奮してくれたのか、キッカさんのペニスがピクリと跳ね、私の1番大事な部分の入り口に触れたのがわかりました。
キッカさんのペニスは、私のおマンコから溢れる蜜によってすぐにトロトロになっていきます。
スルスル……スルスル……
逃さないように、逃げられないように。ゆっくりなるべく音を立てないように気をつけながら、蔦を這わせてキッカさんの体に巻き付けていきます。
「いいんですのよ。キッカさんのお好きなようにして」
目の前の雌を自分のものにしようとする獰猛な瞳をしたキッカさんの喉が鳴ったのが聞こえた気がします。そんな温厚な普段の姿とはかけ離れた雄の一面に、私は興奮するばかりです。
「いっーーーあっーーーくぅ」
ツププと、本当に何の前触れもなく、私のおマンコにペニスが挿入されました。見開いた目でキッカさんを見れば、その瞳は興奮しすぎて私を見ていないような、焦点が合っていないような印象を受けました。
「あ、ああああっ、気持ちいい」
キッカさんがそのまま一気にペニスを私の膣奥に突き入れるのと同時、彼は両腕で私を抱きしめると、密着して腰を振り始めました。
相手のことなんて考えない、男らしくて荒々しい腰使い。一突きごとにパチュ、パチュと蜜が飛び散る程の激しいエッチ。
「あっ、あぅ、ひぃ、あ、あ、あっ」
さっきまで蔦を使ったり誘惑するような仕草をしたりしてキッカさんを手球に取ろうとしていた私はどこへやら。すっかりもたらされる快楽に逆らえなくなった私は、キッカさんの興奮を煽るように雌らしく喘ぐことしかできません。
そんな中でもいやに冷静な私の部分は、器用に蔓を使って私の服を脱がせていきます。そうして裸になった私に襲いかかったのは、ピンと立った乳首を夢中で口に含むキッカさんの舌使いでした。
「ジェンナさん! ジェンナさん!」
「ひっーーーひゃぅぅ、キッカさんぅぅぅ」
乳首に満足したら次は乳房。そこから徐々に舌を這わせて肩甲骨から首筋へ。余すところなくキッカさんに味わい尽くされていきます。それだけでも何も考えられないくらい気持ち良いのに、下からはずっとおマンコを突かれて、こんなのされたらもうダメです。
「イクっ、もうイクよジェンナさん!」
「あいぃぃ、しゅきなときにぃ、イってくらしゃいぃぃ」
ラストスパートをかけるように、腰の動きがいっそう強くなります。打ち付ける動きから叩きつける動きへ。激しすぎてぶつかり合う腰が赤くなろうが構わない。そんな意思がみえる程強く振られます。
私の体はさっきからずっとイキっぱなしで、電流を流されたように私全体が震えてしまっています。蔓もバタバタ、ビタビタとのたうち回っていて、もしこれが森の中で遠目に見られていたのなら、正体不明の怪物に間違えられてもおかしくない動きをしていました。
「うっ、出るっ!」
「―――――!」
一声はっきりとそう言って腰を突き出したのが合図でした。キッカさんのペニスから、私の子宮口を叩くように勢い良く精液が飛び出してきます。
声にならない叫びを上げながら、私は限界まで体をのけぞらせてその快感に耐えようとしました。けれど耐えられるわけがありません。部屋を破壊するかのような強い威力で、やたらめったら蔓を壁にぶつけます。もしこれがラブホテルじゃなくて普通の家だったなら、とっくに家が崩壊していることでしょう。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ヒィ……ヒィ……」
長い射精が終わった後には、ぐったりと仰向けに倒れた私と、それに覆いかぶさるようにしてうつ伏せになっているキッカさんがいました。
「どう……でしたか。私の体は」
「何というか、その、す、すごかった、です」
「そう。それなら、よかった、です、わ」
「あの、ジェンナさん」
「なんですの?」
「こんなかっこうで言うのもなんですが。その、僕の恋人になってください」
突然の告白に私は目を丸くしました。けれど答えは決まっていますわ。
「ふふっ、本当にこんなかっこうですわね。でも、ええ。こちらこそ、お願いしますわ。私あなたから離れられそうに、ありませんから」
息も絶え絶えになりながら、私はそれを聞いて満足するのと同時に、もうこの人から離れることはできないだろうと確信していました。それ程エッチは気持ちよくて、何より愛情を感じたのです。
一度関係を持ってしまってからは、次に誘うことが容易になりました。キッカさんも私とエッチしたいと思ってくれたようで、次回からのディナーでは、その後にホテルへ行くことが当然になりましたわ。
ある時は私が包み込むように。またある時はキッカさんに組み敷かれて。してみたいエッチは尽きることがなく、私の生活に楽しみがまた一つ増えました。
「ならどうしてそんな浮かない顔をしているのですか」
ある約束の無い日のことです。私がメイドと一緒にお茶をしていると、彼女からそう言われました。最近は街へ出ることが多かったので、森の空気が特においしく感じる中のできごとです。
「彼からもらえる精の質がね。落ちている気がするんですの」
「というと?」
「最初した時は、それはものすごい精だったわ。ホテルを出る時に、従業員さんにもうちょっと静かにって言われる程激しかったもの。けれど回数を重ねるにつれて、ちょっと精が薄いのかなって思えるようになってしまって。いえ、もちろん気持ち良さは変わらないですわ。すごい時は気絶一歩手前までいきますから」
ため息を一つついてお茶を口に含みます。よく晴れた午後の森の中、癒やし効果のある葉を使っているそのお茶をもってしても、私の心は晴れません。
「いろいろね、してるのよ。飽きないようにと思って。けれど質が落ち続けているのですわ」
「彼には相談してみたのですか」
「そんなこと……言えないわ。それじゃまるで彼のせいみたいじゃない」
でも、彼と離れたくないなら、結婚して一緒に生きていきたいなら。そういう問題から目を逸らしちゃいけないのはわかっています。初めて得られた快楽や恋人に舞い上がる時期はそろそろ過ぎているのかもしれません。
「これはともだ……女王様の話なのですが」
「友達の話ってぼかしてあげなさいよ」
「すみません。私友達がいないもので」
「私は!? 他の蜂さん達は!?」
「さぁ、どうでしょうね」
話が逸れてしまったため、コホンとメイドは咳払いをひとつ。
「女王様は私と同じメイドからのスタートだったので、旦那様には献身的に奉仕することを生きがいとしている節がありました。ですから忙しくてセックスもできない日々が続いても、なんの不満も言わず耐えていたんです」
「すごいですわ。よく我慢できますね」
「後から聞いた話ですが、かなり我慢していたそうです。それで、久し振りにセックスできる日に勢い余ってやりすぎてしまい、おかげで旦那様が数日眠ったままだったことがあったそうです」
「数日って、それ大丈夫ですの!?」
「まぁ、半分インキュバスになっていたのでその辺は大丈夫だったようです。ただ皆心配しましたし、業務にも支障が出てしまいましたね」
私に追加のお茶を注ぐメイドは、そこで一旦区切った。
「お互い頑張り屋で我慢する性格だった為に、自分が耐えれば良いと思った結果そういうことが起こったわけです。なのでジェンナ様も、言いたいことはすぐに伝えた方がよろしいかと」
「なるほど……参考になりましたわ」
私はこれから彼とどう接していこうか考えながら、次に会う時を楽しみにしていました。
いつも通りの8日後、私はいつも通りキッカさんと会い、いつも通りディナーを済ませました。彼の様子を覗き見ても、顔色や態度はいつも通りです。
「あの……キッカさん。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか」
「え、あ、はい」
いつも入るホテルのいつもの部屋で、背を向けて服を半分脱いでいた彼に蔓を伸ばすと、正面から向き合わせた。
「もしかして、私に何か不満なところがありますか」
「えっ、どういうことですか」
「その……実は、最近のエッチでキッカさんから貰える精の質が、落ちている気がして。出ている精液の量ではなく、なんと言いますか、濃さと言いますか。男の人も精神的な面で影響が出てくると言いますし、もしや私に至らぬところがあって、それで実は満足していないんじゃなかとか、そういうことを考えてしまって。あの、正直に、お話してくださればと思いまして」
「ジェンナさん……」
私の言葉を受けて、キッカさんは何やら複雑な表情をしていました。どう言おうか迷っているような、そんな顔です。
「うーん……そうですね。じゃあ、えっと」
そんな彼を真っ直ぐに見つめる私に根負けしたようで、やがてキッカさんは頭を掻きながらぽつりぽつりと話始めました。
「薄々気付いていると思うんですけど。僕、毎日目まぐるしく変化することが好きじゃないんです。毎日同じことを繰り返す方が安心するといいますか。だからこうして会うのだって、いつも決まった周期になってますよね」
「ええ」
「気まぐれで登録した結婚相談所から話がきて、ジェンナさんと会ってから、どんどん自分の生活の中に新しいことが入ってきて。始めは物凄く戸惑ったというか、正直に言えば嫌でした」
「もちろんジェンナさんのことは好きです」そう言う彼はけれど、私と目を合わせられずにいます。
「ジェンナさんとのエッチも、その……」
「いいのですよ、正直に言ってくださって」
二人のエッチについて問題があるということは、魔物娘にとって相当ショックなことです。キッカさんもそれがわかっているからこそ、言い淀んでいるのでしょう。ですから私は包み込むような、優しい口調で語りかけます。
「……はい。実はその、毎回違うやり方でするのはあまり好きじゃなくてですね。できるなら、いつも同じやり方でしたいと思ってるんです。こんなこと、マンネリになるからダメだってわかってるし、ジェンナさんはいろいろなエッチがしたい人なんだって知ってるんですけど」
「そうだったのですね」
申し訳なさそうにしょげるキッカさんを目に、ショックでなかったと言えば嘘になります。けれどそれ以上に、本音を話してくれたことが嬉しくもありました。
彼の腕を取って、私の胸にキッカさんの顔を埋めます。そして耳元に唇を寄せると、何度もキスを落としながら囁きます。
「まずはありがとうございます。そんなに考えてくれていたのですね」
「あ……ジェンナさん」
「私もごめんなさい。キッカさんは私の中で、もう無くてはならない程大切な人なのですわ。ですから舞い上がってしまって、つい私のしたいようにばかりしていました」
両手でキッカさんの背中を優しく擦って、包み込むよう優しく囁く度に、彼の体が震えるのがわかりました。下腹部に感じるペニスが、少しずつ立派にそそり勃ってくるのを感じます。
「これからはキッカさんのことをきちんと考えて、もっと愛し合えたらと思います。キッカさんはどうでしょうか」
「僕は……僕も、自分のことばかりじゃなくてジェンナさんのことも考えていけたらと思います」
蔓を使って器用に服を脱がせると、私の愛液と蜜が混ざった粘液で濡らした蔓を彼のペニスに絡ませて、優しくしごきあげました。すると半勃ちだったペニスは一気に膨らみ、すぐ準備万端になります。
「キッカさん、今日はこのまま私に甘えてしまいましょう。その後で、今後のことについてゆっくりと話しあいましょうね」
「ぅぁ……はぃ」
ダラリと力が抜けたキッカさんを受け止めた私は全身を使って彼の体重を感じました。
くちゅくちゅ……ちゅっちゅ……耳を愛撫する音と、ペニスをゆっくり扱く音だけが部屋に響きます。お互いの体は火照り、キッカさんの荒い息が私の胸にかかることで、私の興奮も高まっていきます。
「はぁ……はぁ……ジェンナさん……もう…」
「いいですわ。いらしてください」
上目遣いでねだるキッカさんのかわいいことといったら、筆舌に尽くしがたいです。そんな顔をされては、許すしかありません。
ずぷっ……と、すっかり濡れているお互いの性器が一つになる卑猥な音を響かせて、キッカさんのペニスが私のおマンコに入ってきます。それは感触を確かめるようにゆっくりとした動きで、少しでも気持ち良い感触を逃したくないという二人の気持ちが一つになっているようでした。
緩急をつけたり、違う場所を愛撫したりといった変化をつけない、一定リズムを刻む抽送が繰り返されます。世間一般では変化をつけることが当たり前だと言われている中、私達のエッチは飽きられるものだと見られるでしょう。けれど1番大切なのはお互いを愛する気持ちです。じっくり時間をかけてお互いに高まりあっていくこの興奮は、何にも代えがたいものでしょう。
「ぅん……く……キッ……カ……さぁん」
初めてした時のような勢いに任せたものでもなく、楽しむ為に変化をつけていた日々でもなく、ただ純粋に愛し合うだけの行為がこんなにも気持ち良いなんて。思わずキッカさんの名前を呼びながら、声が漏れてしまいます。
対するキッカさんは、気持ちよすぎて言葉にならないのでしょう。私の体を余すところなく味わおうと、言葉を発することなく一心不乱に腰を振っています。私の喘ぐ声、膣の感触、背中を撫でる腕から、脚に巻かれている蔓まで、その全てを堪能しているはずです。
「ジェンナさん……僕」
「出るのですね。いいですわ。私の1番奥、中へどうぞ」
ぶるるとキッカさんの体が震えると、そのままビクビクと動くペニスから精液が私の膣内へ注がれました。その熱さと勢いがあまりにも気持ちよすぎて眼の前が真っ白になりかけましたが、何とか踏みとどまってキッカさんをキュッと優しく抱きしめます。
得られた精の質は、これまでとは比べ物にならない、とても上質なものでした。量も濃さも多くて、抜かれていないというのに膣から精液が溢れています。
「すごい、こんなに出るなんて」
「ふぅ……はぁぁぁ……今までで、1番ですわね」
蕩けた顔をして、私はキッカさんと見つめ合うと、ゆっくり顔を近付けました。そしてどちらからともなく、同じタイミングで唇を突き出すと、啄むように優しいキスをします。
これから話し合わなければいけないことはたくさんありそうです。けれど二人なら、絶対に乗り越えられる気がしますわ。
「さあキッカさん、今日も予定通り出かけますわよ」
キッカさんに車椅子を押される私は、元気よく家を出ました。キッカさんと出会ってから何度目かの夏になるでしょうか。森の中とはいえ今日も日差しが強いです。
私とキッカさんは、程なくして結婚しましたわ。一定のペースで会っているうちに、お互いにずっと一緒にいたい気持ちが強まっていたので当然の帰結です。
変化が欲しい私と、いつも通りの生活で安心して暮らしていきたいキッカさんが一緒に過ごしていくにあたって、入念に二人で話し会いました。
キッカさんは1月単位で予定を考えていることがわかったので、私はカレンダーを用意して予定を書いておくことにしました。その内容はできるだけ詳細に、夜の営みについても書き込みます。例えば今日は正常位、明日はキッカさんが2回私の膣に射精する日となっております。
予定と違うことも多少ありますが、こうしたことでキッカさんも日々安心して暮らすことができていますので、これは正解だったと言えるでしょう。
キッカさんの中でも、私との予定で出かける時も「特定の場所に行く予定外の日」という認識から「ジェンナと一緒に出かける日」というように変化したようで、自分なりに納得して消化するようになったと言っていました。
お仕事については、キッカさんは勤めていた工場を辞め、私のお手伝いをしてくださっています。これはキッカさんが自分から申し出てくれたことで、私と一緒にいながら同じ生活リズムで過ごせるからとのことでした。
結婚式には両親の他、いつもお世話になっているハニービーの人たちが参列してくださり、とても嬉しかったのを記憶しています。
「今日は私とキッカさんが初めて結ばれた日ですからね。久し振りにあのホテルへ行きたいと思っていますわ」
「あそこですか。わかりました」
サプライズとか、ちょっとしたイタズラとか、そういった変化の無い生活です。しかし私たちの時間は、1つ1つ確実に思い出を重ねていくのですわ。
けれど時代は現代。人が立ち入ることのできる森はすっかり整備され、昔ながらの生活がしたい魔物娘にとっては少々生き辛い世の中になってしまいました。
「だから昔と違って、今ではアルラウネでも積極的に外に出て移動するのが主流なんですわお母様。一箇所に留まるなんて時代遅れです」
「でも心配です。ジェンナちゃん街に行ったことないでしょ。パパだってきっと許さないと思うし、配達ならいつものハニービーさん達がやってくれるんだから。わざわざジェンナちゃんが行かなくてもいいじゃない」
雨の日は雨粒が中に降り注ぐ、アルラウネにとって気持ち良い家の中、お母様と私はそれぞれの蜜をビンに入れながら話します。
私達家族はハニービーの会社と契約していて、貰ったビンがいっぱいになるまでそれぞれの蜜を入れることで生計を立てています。お母様が結婚してから、お父様の為にお金が要りようになった為始めたとのことでした。要りようになったといっても、生活に困るようになったとかではなく、記念日にプレゼントを買ったり、生活に役立つ品物を買ったりといった用途にお金は使われます。
お母様が結婚した頃、ちょうど近くに新しいハニービーの女王様がやってきたので、渡りに船だったそうです。
その女王様には私もよくお世話になっていて、泣き虫だけど頑張り屋さんというのが私の感じている印象です。何でも元々はただの働き蜂だったそうですが、結婚をしてからいろいろあって女王になれたのだとか。そして女王になれたことでそれまでいた巣を出て、支店として私達の近くに来たようです。
「ちょうどこれもそろそろいっぱいになりますし、絶好の機会だと思います。現代っ子ですもの、私だって外の世界を見てみたいです」
「でも……」
「それに、私もそろそろ年頃なんですから、結婚相手の1人くらい見つけたいですわ。先日女王様がお勧めしてくださった結婚相談所に行こうと考えております」
女王様が旦那様と出会ったきっかけとなった結婚相談所なら、きっと私にも素敵な相手が見つかるはずです。お母様を説得しながらここ数日、私の胸は期待に満ち溢れておりました。
「なにも私1人で行こうというのではありません。ちゃんとお世話をしてくださる方と行きますから」
「う〜ん」
「お母様」
「…………はぁ〜、仕方ないわね。そのかわりちゃんと連絡するのよ」
「はい。ありがとうございます」
こうして私は、初めて森を出て街へ行けることになりました。あぁ、今から胸が高鳴りますわ。
結婚したアルラウネは、旦那様の精を最大の栄養とします。しかし私のような未婚のアルラウネには、普通の植物と同じように新鮮な水と十分な日光が何よりの栄養です。
車椅子のような乗り物にちょこんと佇む私に、お付きのハニービーさんが水を注いでくれます。車椅子に乗っている鉢植えのようになっているこの格好を初めてみた時、おかしくてつい笑ってしまいましたが、今では慣れたものです。
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
「はい。家に帰るまでの間、しっかりとお世話させていただきます」
このハニービーのメイドさんは私と1番長い付き合いです。私としてはお友達になりたいと思っていますが、自分はあくまでメイドとのことで、頑なに一線引いた態度を崩そうとしません。
無事蜜の配達を終えた私は、予定通り結婚相談所に向かうことにしました。
「いらっしゃいませー、まもむす結婚相談所へようこそ〜」
受付に入ると、カウンターの端に置かれたお人形の手を振って、ハーピーの方がにこやかに挨拶してくださいました。その胸元には、首から下げられた指輪が輝いています。
「アルラウネさんとはまたまた、珍しいですね」
「あら、お客様にそんなこと言っていいのですか」
「いや〜、普段森に住んでいる方に街で会うのが珍しくてつい」
「もしかして登録できないのかしら」
「あ、いえいえ、そんなことないですよ。魔物娘ならよっぽどのことがない限りどなたでも登録歓迎です。それではさっそく手続きをしましょうか」
「お願いします」
「ではではこちらへどうぞ〜」
面談室と書かれた部屋に通されると、さっそく渡された用紙に希望を書くことにした。内容は難しいことがわからない子にも対応しているのか、自分で書くようなものではなくアンケートのような形式になっていた。
「背丈は……そうね。別にこだわりはないけれど、抱き合った時見つめあえるくらいがいいでしょうね」
順調に項目を埋めていく。とはいえ理想の男性のイメージが無いので、お父様を参考に考えていきます。
自由に書くことができる欄には、植物のアレルギーについて書いておきました。せっかく相性が良くてもアレルギーだったなんて悲しすぎますからね。命に関わる程でなくても、2人きりなのにくしゃみや鼻水ばかりでは興ざめですもの。
「遅くなりました。私が今回担当させていただくシズです。種族はアヌビスですので、きっちりとしたサポートを保証します」
「よろしくお願いします」
しばらくしてやってきた職員のシズさんと会った私は、さっそく書けた用紙を手渡しました。それを左手で受け取るシズさんの指には、ハーピーの方と同じく指輪が輝いています。
「ふむ、ふむ……なるほど。今まで男性に会う機会がなかったので、イメージし辛いとのことですね」
「はい。普段関わりのあるのは皆女性ばかりだったので」
「あ、それと、後ろに控えている方は別室でなくて平気でしょうか」
「あ、はい。別に聞かれて困ることでもありませんので」
「そうですか。いえ、性癖などは隠しておきたいという方もいるので」
「ご安心ください。ジェンナ様の性癖については把握しております。特にジェンナ様は好奇心が強く、最近ではモググ」
いきなり余計なことを口走りだしたメイドの口を、私は蔦を伸ばして塞いでやりました。いったい何を言い出すのやら。そして何故知っているのでしょう。
「そういうことは自分で説明しますから」
「失礼いたしました」
澄ました顔で無駄にキリッとしているのが癪ですわ。
「それでは、まずプロフィールが書かれた書類をたくさん見ていただいて、興味が湧いた男性に会ってみるというのはどうでしょうか。いきなり会わず、まず書面でワンクッション置いてみましょう」
「わかりましたわ。やり方はそちらにお任せします」
「それでは書類を持ってきますので、少々お待ちください」
ここに来るまで、魔物娘と人間のカップルをよく見かけていました。私の両親と同じように皆幸せそうにしていて、私もあんなふうになりたいと思います。
いったいどんな人が登録しているのでしょう。都会では幼少の頃から誰かしらの魔物娘に目をつけられると聞いたことがありますから、ここに登録しているということは何かしら事情がある人なのでしょう。少し心構えをしておかなければいけないかもしれません。
「そういえばあなたはいいのですか。見たところまだ未婚のようですが」
「はい。私はまだそういう時期ではありませんので。そもそもうちの女王様は旦那様がいますので、女王様の為に夫となる男性を探すということもありませんし」
やっぱり澄ました顔でメイドは答えます。
「お待たせしました。取り敢えず10件ほど持ってきたので、良さそうだと思った人がいれば教えてください」
戻ってきたシズさんからファイルを受け取った私は、パラパラと流し読みするように手際よく中身を見ていきます。
少し不安に思っていたことが的中したかのように、そこに書かれている人たちは癖の強い人が多かったです。特に顕著なのが性癖についてで、エッチ後に催した時にはお掃除フェラのついでにおしっこを飲んで欲しいとか、相手が気絶するくらいイかせた状態で挿入したいとか、私にとっては難易度の高いものばかりです。
こういうことは、お互いある程度仲良くなってからカミングアウトするものではないのでしょうか。それとも結婚するのだから初めに伝えておくものなのでしょうか。私は少し混乱してしまいます。
「皆様何というか……すごいんですわね」
「ジェンナさんは未婚ですから、そう思うのも無理はありません。サキュバスや不思議の国の皆さん程好色な種族ではありませんしね」
けれど……とシズさんは続けます。
「いざ愛する人を前にすると、実際しますよ。そういうこと」
ニッコリと微笑むその顔を見るだけで、本当のことなのだと感じることができてしまいました。
「で、でもやっぱり、まだ私には早すぎると思います。ですからこの人にしてみますわ」
渡された中で1番マシに思えたその人のファイルをシズさんに手渡しました。そこに書かれた名前は「キッカ」とあり、目立って特異な面はない普通の人に感じます。
「キッカさんですね。なるほど、確かに始めに会ってみるには良い人かもしれません。さっそく連絡してみますね」
「よろしくお願いしますわ」
それから私は、しばらくここに通うことになるので会員証を作った後、殆どが幸せなシズさんの結婚生活についてだった雑談をして、相談所を後にして帰宅しました。
一度出てしまえば、それ以降は慣れたものです。あれから何か用事がある際には積極的に森を出ることにした私は、その度に初めて見る景色に心奪われました。
ゆったりと流れる森での時間とは違い、忙しなく動き回る都会の景色は、私の心を刺激します。
相談所だけに頼らず、街に出た時には不意の出会いを期待しています。しかしメイドと2人連れなのが悪いのか、特にこれといった出会いはありませんでした。
そして今日は、待ちに待った初顔合わせの日です。メイドに任せていつもより見栄えをきれいにした私は、期待に膨らむ心のまま相談所に顔を出すのでした。
「あっ、ジェンナさん。お待ちしていましたよ」
いつものハーピーさんに出迎えられると、すぐに面談室に通されます。そしてシズさんに少し待つよう言われると、そこでメイドとは一旦別れることになりました。何でもうっかりメイドの方を好きになられる可能性があるからとのことです。
「お待たせしました。こちらがジェンナさん。そしてキッカさんです」
身だしなみを気にしながら待っていると、男の人を連れてシズさんが戻ってきました。その人は可もなく不可もなく、写真で見たままでした。
「どうも、キッカと言います。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ジェンナと申しますわ」
距離を図るかのように、お互い丁寧に礼をすると、シズさんに促されるままテーブルを挟んで向かい合うよう座った。
「ジェンナさんは普段森に住んでいて、普段は蜜を売って生活しています。一方キッカさんはこの街の工場で働いています」
「そうなんですの。どういった工場なのでしょうか」
「あ、えっと、食品加工の工場ですね。缶詰とか、そういうのです」
こういった相談所では、シズさんのような方が仲介役になってくれるので、初対面同士でも会話に窮することなく進行していきます。今まで大人数と関わることがなかった私としては、大変に心強いです。
会話は仕事の話から普段の生活へと移り、どのような生活習慣を送っているのか、日々の中で大切にしているもの、していきたいものへと変わっていきます。その中で夫婦となった時の齟齬がないように気持ちを歩み寄らせていくのです。
「キッカさんは、随分と規則正しい生活をされているのですね」
「ええまぁ。この仕事も、始まる時間と終わる時間がいつも変わらないからこそ選んだのが大きいですし」
「自分のペースを守って安定した暮らしをしていることは、とても素晴らしいと思いますわ」
「ありがとうございます」
「そんな中一大決心をしてこちらへ登録して、行動力もありますのね」
「いえそんな。実は登録したはいいものの、自分からはそれっきり通うこともなく連絡待ちばかりで」
私の質問に答えるキッカさんの態度からは、優しさが滲み出ていました。落ち着いた雰囲気で、森の穏やかさと同じものを感じます。
時間にして1時間が経ったでしょうか。私はすっかりキッカさんのことを気に入ってしまっておりました。
「話が盛り上がっているところすみません。そろそろ時間ですので、次回の予定を決めてはどうでしょうか」
シズさんに促されて壁の時計を見たキッカさんは、しまったという風な顔を一瞬しました。もしかしたら何か予定があったのかもしれません。
「あ、ごめんなさい。そうですね。ジェンナさんさえ良ければ次回もお会いしたいんですがいいでしょうか」
「私はもちろん構いませんわ。いつにしましょうか。キッカさんに合わせますわ」
「では、次は8日後にしましょう」
「わかりましたわ」
「ごめんなさい、今日はこれで失礼します」と言うと、やはり予定があったのでしょう。キッカさんはそそくさと部屋を後にしてしまいました。
それから1月程月日が過ぎました。数回キッカさんと逢瀬を重ねるうちにわかったことは、会う日が決まって8日後ということです。会う場所は相談所から移り、お互い待ち合わせをして街の中になっています。
しかし憧れていたデートなどは、実はまだ1度もしていません。なぜなら会う時間が決まってキッカさんのお仕事が終わる夜だからです。夜のイルミネーションの中でデートというプランもあったのですが、体力仕事で疲れが少し見えるキッカさんを見るとそんな考えは無くなってしまいます。なのでデートはだいたい決まってディナーをご一緒することが多いです。油ものは避けてヘルシーな食事なら問題なく食べることができますから、行くお店もそういった健康志向の場所になってきます。
元々好奇心の強い私が、もちろんそれだけで済むわけがありません。確かに初めはキッカさんに会うだけで胸が高鳴り興奮が抑えられない程でした。しかしそれだけでは足りない、もっと次へ行きたいという欲が溢れてくるのです。
始めは向かい合っての食事から。次は隣り合って座るお店。次第に距離を縮めて、次はどこまでいけるだろうと考えることは、ここ最近で1番楽しみなことでした。
「ジェンナ様も、すっかり恋する乙女ですね」とメイドに鼻で笑われても気にならない程度には、キッカさんにのめり込んでいます。
お母様は私に気を使って、急に買い始めたアクセサリーやかわいい服を楽しそうに眺める私をお父様に見せないように、私がそうしている間はずっと閉じた花弁の中でお父様とエッチをしていました。
そして私は今日、何度目かになる逢瀬で勝負に出ることにしました。
今日もいつも通りのディナーです。しかしいつもとは違い、お酒を飲むことを目的としたディナーを誘いました。そう、少しお酒の力を借りようと思ったのです。
お酒が加わりキッカさんが大胆になるならそれで良いですし、そうでないのなら私がわざと弱ったフリをしようと考えています。
発情期――というのがアルラウネにあるのかはわかりませんが、とにかく今の私はキッカさんと結ばれたくて仕方がありませんでした。
「お待たせしました、ジェンナさん。それでは行きましょうか」
「ええ。今日もエスコートよろしくお願いしますわね」
車椅子の操作をメイドから譲り受けると、キッカさんはそれを押してお店へ向かった。
多種多様な魔物娘が闊歩する現代では、建物が殆どユニバーサルデザインになっております。なので車椅子でも移動に支障をきたすことはありません。店員さんの対応も慣れたもので、私たちはスムーズに席まで通されましたわ。
「そういえば、ジェンナさんとこうしてお酒を飲むのは初めてですね」
「そうですわね。キッカさん、お酒は強い方なんですの」
「うーん、人並み程度だと思いますよ。特に強いと思ったことはありません」
「そうでしたか。ちなみに私は弱いですわ」
実は魔物娘用に、相手の男性が好む弱り方をするお酒というものがあります。支配欲や征服欲が強い人相手には抵抗できなくなるように。普段消極的なのにお酒を飲むと積極的になるというギャップが好きな人相手には、消極的な魔物娘も強気になるように。全ては恋人や夫婦がもっと淫らに仲良くなることを願って、お酒のプロであるサテュロスが研究に研究を重ねて作ったのだとか。
少しお酒と食事を進めると、キッカさんの目つきが変わったのがわかりました。ただそれを皮切りに性格が変化したのかと言われれば、いいえと言いますわ。いつも通りの穏やかで優しい態度と口調はずっと変わりません。
「ねぇキッカさん。そろそろお店を出て休みませんか」
「え? あ、あぁ、もうそんな時間ですか。そうですね、じゃあ出ましょう」
私に促されるまま、キッカさんはお店を出ます。男性はこういう時見栄をはりたいものとお母様から教わっていたので、私は財布を出して支払う素振りを見せた後、キッカさんの良いようにしてもらってお会計を済ませました。
お店を出ると、ピューと肌寒い風が吹きます。思わず花弁で体を隠して顔だけ出す格好になると、それがおかしかったのかキッカさんに笑われてしまいましたわ。
「もうっ、ホラ行きますわよ。押してくださいまし」
「あはは、わかりました」
昔と比べて自分を律することがマシになった現代では、ラブホテルの数は意外とすくないです。家まで我慢できるなら、何でも自分の好きにして良くて時間を気にしなくていい家に連れ込めばいいだけですからね。なのでラブホテルに入るカップルというのは、どうしても我慢できなくなった人魔か、私たちのようなまだそこまで進展していない2人が多いです。
すんなりとラブホテルに入り決めた部屋に入った私は、なんだかんだ言ってキッカさんもお酒の影響を受けているんだと冷静に考えていました。普段の彼なら絶対にこんなところに来ないからです。
私達が選んだ部屋は、水辺を意識した部屋でした。バスルームはちょっとした小川のような作りになっていて、チョロチョロと上からぬるめのお湯が流れています。下にはきれいな砂利が敷き詰められていて、寝そべるようなプレイ用に脇にはマットが置いてあります。壁には森の風景が映像で映し出されていて、部屋の隅にあるスピーカーからは小鳥のさえずりが小さな音量で流れます。
実際の森とは比べるまでもないですが、これはこれで作りがおもしろくて私は案外気に入ってしまいました。
「ふふふ……キッカさん」
「はい」
「逃しませんわよ」
小川の側に置いてもらった私は立った状態で蔓を伸ばすと、キッカさんの両手脚を巻き付けて宙に浮かせると、そのままこちらへ引き寄せました。
「心配しなくても大丈夫ですわ。優しくしますからね」
お酒の効能だと思います。私は普段より強気になっているのを自覚しました。キッカさんを弄ぶような笑みを浮かべながら、ゆっくり服を脱がせていきます。
時折チラリとキッカさんの表情を伺うと、恥ずかしそうに赤面しているのが見て取れました。その表情がまた愛おしくて、遊ばせていた蔓が無意識に歓喜に震えてしまいます。
今この素敵な男性は私のもの。私だけのものなんです。どうやって愛しましょう。したいことはたくさんあって、アイディアが尽きることがありません。けれど初めては1度きりです。それをどうしましょう。どういうふうにするのが相応しいでしょうか。
「あ……あの、ジェンナさん?」
「え? あ、すみません。つい夢中になってしまいました。今降ろしますね」
気付くと私は、すっかり一糸纏わぬ姿になったキッカさんを、宙ぶらりんにしたままじぃーーーーーーっと見つめていたのでした。
ゆっくりと私に降ろされると、キッカさんは私に歩み寄ってくれました。
「ジェンナさん……いいんですよね」
「もちろんですわ」
初めてだから優しくして、なんて言いません。全部キッカさんの好きなようにしてもらえれば、それが私の幸せですから。
もう少しで唇が触れる。そんな距離まで近付けられた顔に向かって微笑むと、最後の踏ん切りがつかずにそこから動かないキッカさんに向かって私は唇を突き出しました。
「ん…………ふふっ、ついにしてしまいましたわ」
触れ合った唇を離して見つめ合うと、私はわざと艶かしく映るように指先で自分の唇をなぞりました。するとそれを見て興奮してくれたのか、キッカさんのペニスがピクリと跳ね、私の1番大事な部分の入り口に触れたのがわかりました。
キッカさんのペニスは、私のおマンコから溢れる蜜によってすぐにトロトロになっていきます。
スルスル……スルスル……
逃さないように、逃げられないように。ゆっくりなるべく音を立てないように気をつけながら、蔦を這わせてキッカさんの体に巻き付けていきます。
「いいんですのよ。キッカさんのお好きなようにして」
目の前の雌を自分のものにしようとする獰猛な瞳をしたキッカさんの喉が鳴ったのが聞こえた気がします。そんな温厚な普段の姿とはかけ離れた雄の一面に、私は興奮するばかりです。
「いっーーーあっーーーくぅ」
ツププと、本当に何の前触れもなく、私のおマンコにペニスが挿入されました。見開いた目でキッカさんを見れば、その瞳は興奮しすぎて私を見ていないような、焦点が合っていないような印象を受けました。
「あ、ああああっ、気持ちいい」
キッカさんがそのまま一気にペニスを私の膣奥に突き入れるのと同時、彼は両腕で私を抱きしめると、密着して腰を振り始めました。
相手のことなんて考えない、男らしくて荒々しい腰使い。一突きごとにパチュ、パチュと蜜が飛び散る程の激しいエッチ。
「あっ、あぅ、ひぃ、あ、あ、あっ」
さっきまで蔦を使ったり誘惑するような仕草をしたりしてキッカさんを手球に取ろうとしていた私はどこへやら。すっかりもたらされる快楽に逆らえなくなった私は、キッカさんの興奮を煽るように雌らしく喘ぐことしかできません。
そんな中でもいやに冷静な私の部分は、器用に蔓を使って私の服を脱がせていきます。そうして裸になった私に襲いかかったのは、ピンと立った乳首を夢中で口に含むキッカさんの舌使いでした。
「ジェンナさん! ジェンナさん!」
「ひっーーーひゃぅぅ、キッカさんぅぅぅ」
乳首に満足したら次は乳房。そこから徐々に舌を這わせて肩甲骨から首筋へ。余すところなくキッカさんに味わい尽くされていきます。それだけでも何も考えられないくらい気持ち良いのに、下からはずっとおマンコを突かれて、こんなのされたらもうダメです。
「イクっ、もうイクよジェンナさん!」
「あいぃぃ、しゅきなときにぃ、イってくらしゃいぃぃ」
ラストスパートをかけるように、腰の動きがいっそう強くなります。打ち付ける動きから叩きつける動きへ。激しすぎてぶつかり合う腰が赤くなろうが構わない。そんな意思がみえる程強く振られます。
私の体はさっきからずっとイキっぱなしで、電流を流されたように私全体が震えてしまっています。蔓もバタバタ、ビタビタとのたうち回っていて、もしこれが森の中で遠目に見られていたのなら、正体不明の怪物に間違えられてもおかしくない動きをしていました。
「うっ、出るっ!」
「―――――!」
一声はっきりとそう言って腰を突き出したのが合図でした。キッカさんのペニスから、私の子宮口を叩くように勢い良く精液が飛び出してきます。
声にならない叫びを上げながら、私は限界まで体をのけぞらせてその快感に耐えようとしました。けれど耐えられるわけがありません。部屋を破壊するかのような強い威力で、やたらめったら蔓を壁にぶつけます。もしこれがラブホテルじゃなくて普通の家だったなら、とっくに家が崩壊していることでしょう。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ヒィ……ヒィ……」
長い射精が終わった後には、ぐったりと仰向けに倒れた私と、それに覆いかぶさるようにしてうつ伏せになっているキッカさんがいました。
「どう……でしたか。私の体は」
「何というか、その、す、すごかった、です」
「そう。それなら、よかった、です、わ」
「あの、ジェンナさん」
「なんですの?」
「こんなかっこうで言うのもなんですが。その、僕の恋人になってください」
突然の告白に私は目を丸くしました。けれど答えは決まっていますわ。
「ふふっ、本当にこんなかっこうですわね。でも、ええ。こちらこそ、お願いしますわ。私あなたから離れられそうに、ありませんから」
息も絶え絶えになりながら、私はそれを聞いて満足するのと同時に、もうこの人から離れることはできないだろうと確信していました。それ程エッチは気持ちよくて、何より愛情を感じたのです。
一度関係を持ってしまってからは、次に誘うことが容易になりました。キッカさんも私とエッチしたいと思ってくれたようで、次回からのディナーでは、その後にホテルへ行くことが当然になりましたわ。
ある時は私が包み込むように。またある時はキッカさんに組み敷かれて。してみたいエッチは尽きることがなく、私の生活に楽しみがまた一つ増えました。
「ならどうしてそんな浮かない顔をしているのですか」
ある約束の無い日のことです。私がメイドと一緒にお茶をしていると、彼女からそう言われました。最近は街へ出ることが多かったので、森の空気が特においしく感じる中のできごとです。
「彼からもらえる精の質がね。落ちている気がするんですの」
「というと?」
「最初した時は、それはものすごい精だったわ。ホテルを出る時に、従業員さんにもうちょっと静かにって言われる程激しかったもの。けれど回数を重ねるにつれて、ちょっと精が薄いのかなって思えるようになってしまって。いえ、もちろん気持ち良さは変わらないですわ。すごい時は気絶一歩手前までいきますから」
ため息を一つついてお茶を口に含みます。よく晴れた午後の森の中、癒やし効果のある葉を使っているそのお茶をもってしても、私の心は晴れません。
「いろいろね、してるのよ。飽きないようにと思って。けれど質が落ち続けているのですわ」
「彼には相談してみたのですか」
「そんなこと……言えないわ。それじゃまるで彼のせいみたいじゃない」
でも、彼と離れたくないなら、結婚して一緒に生きていきたいなら。そういう問題から目を逸らしちゃいけないのはわかっています。初めて得られた快楽や恋人に舞い上がる時期はそろそろ過ぎているのかもしれません。
「これはともだ……女王様の話なのですが」
「友達の話ってぼかしてあげなさいよ」
「すみません。私友達がいないもので」
「私は!? 他の蜂さん達は!?」
「さぁ、どうでしょうね」
話が逸れてしまったため、コホンとメイドは咳払いをひとつ。
「女王様は私と同じメイドからのスタートだったので、旦那様には献身的に奉仕することを生きがいとしている節がありました。ですから忙しくてセックスもできない日々が続いても、なんの不満も言わず耐えていたんです」
「すごいですわ。よく我慢できますね」
「後から聞いた話ですが、かなり我慢していたそうです。それで、久し振りにセックスできる日に勢い余ってやりすぎてしまい、おかげで旦那様が数日眠ったままだったことがあったそうです」
「数日って、それ大丈夫ですの!?」
「まぁ、半分インキュバスになっていたのでその辺は大丈夫だったようです。ただ皆心配しましたし、業務にも支障が出てしまいましたね」
私に追加のお茶を注ぐメイドは、そこで一旦区切った。
「お互い頑張り屋で我慢する性格だった為に、自分が耐えれば良いと思った結果そういうことが起こったわけです。なのでジェンナ様も、言いたいことはすぐに伝えた方がよろしいかと」
「なるほど……参考になりましたわ」
私はこれから彼とどう接していこうか考えながら、次に会う時を楽しみにしていました。
いつも通りの8日後、私はいつも通りキッカさんと会い、いつも通りディナーを済ませました。彼の様子を覗き見ても、顔色や態度はいつも通りです。
「あの……キッカさん。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか」
「え、あ、はい」
いつも入るホテルのいつもの部屋で、背を向けて服を半分脱いでいた彼に蔓を伸ばすと、正面から向き合わせた。
「もしかして、私に何か不満なところがありますか」
「えっ、どういうことですか」
「その……実は、最近のエッチでキッカさんから貰える精の質が、落ちている気がして。出ている精液の量ではなく、なんと言いますか、濃さと言いますか。男の人も精神的な面で影響が出てくると言いますし、もしや私に至らぬところがあって、それで実は満足していないんじゃなかとか、そういうことを考えてしまって。あの、正直に、お話してくださればと思いまして」
「ジェンナさん……」
私の言葉を受けて、キッカさんは何やら複雑な表情をしていました。どう言おうか迷っているような、そんな顔です。
「うーん……そうですね。じゃあ、えっと」
そんな彼を真っ直ぐに見つめる私に根負けしたようで、やがてキッカさんは頭を掻きながらぽつりぽつりと話始めました。
「薄々気付いていると思うんですけど。僕、毎日目まぐるしく変化することが好きじゃないんです。毎日同じことを繰り返す方が安心するといいますか。だからこうして会うのだって、いつも決まった周期になってますよね」
「ええ」
「気まぐれで登録した結婚相談所から話がきて、ジェンナさんと会ってから、どんどん自分の生活の中に新しいことが入ってきて。始めは物凄く戸惑ったというか、正直に言えば嫌でした」
「もちろんジェンナさんのことは好きです」そう言う彼はけれど、私と目を合わせられずにいます。
「ジェンナさんとのエッチも、その……」
「いいのですよ、正直に言ってくださって」
二人のエッチについて問題があるということは、魔物娘にとって相当ショックなことです。キッカさんもそれがわかっているからこそ、言い淀んでいるのでしょう。ですから私は包み込むような、優しい口調で語りかけます。
「……はい。実はその、毎回違うやり方でするのはあまり好きじゃなくてですね。できるなら、いつも同じやり方でしたいと思ってるんです。こんなこと、マンネリになるからダメだってわかってるし、ジェンナさんはいろいろなエッチがしたい人なんだって知ってるんですけど」
「そうだったのですね」
申し訳なさそうにしょげるキッカさんを目に、ショックでなかったと言えば嘘になります。けれどそれ以上に、本音を話してくれたことが嬉しくもありました。
彼の腕を取って、私の胸にキッカさんの顔を埋めます。そして耳元に唇を寄せると、何度もキスを落としながら囁きます。
「まずはありがとうございます。そんなに考えてくれていたのですね」
「あ……ジェンナさん」
「私もごめんなさい。キッカさんは私の中で、もう無くてはならない程大切な人なのですわ。ですから舞い上がってしまって、つい私のしたいようにばかりしていました」
両手でキッカさんの背中を優しく擦って、包み込むよう優しく囁く度に、彼の体が震えるのがわかりました。下腹部に感じるペニスが、少しずつ立派にそそり勃ってくるのを感じます。
「これからはキッカさんのことをきちんと考えて、もっと愛し合えたらと思います。キッカさんはどうでしょうか」
「僕は……僕も、自分のことばかりじゃなくてジェンナさんのことも考えていけたらと思います」
蔓を使って器用に服を脱がせると、私の愛液と蜜が混ざった粘液で濡らした蔓を彼のペニスに絡ませて、優しくしごきあげました。すると半勃ちだったペニスは一気に膨らみ、すぐ準備万端になります。
「キッカさん、今日はこのまま私に甘えてしまいましょう。その後で、今後のことについてゆっくりと話しあいましょうね」
「ぅぁ……はぃ」
ダラリと力が抜けたキッカさんを受け止めた私は全身を使って彼の体重を感じました。
くちゅくちゅ……ちゅっちゅ……耳を愛撫する音と、ペニスをゆっくり扱く音だけが部屋に響きます。お互いの体は火照り、キッカさんの荒い息が私の胸にかかることで、私の興奮も高まっていきます。
「はぁ……はぁ……ジェンナさん……もう…」
「いいですわ。いらしてください」
上目遣いでねだるキッカさんのかわいいことといったら、筆舌に尽くしがたいです。そんな顔をされては、許すしかありません。
ずぷっ……と、すっかり濡れているお互いの性器が一つになる卑猥な音を響かせて、キッカさんのペニスが私のおマンコに入ってきます。それは感触を確かめるようにゆっくりとした動きで、少しでも気持ち良い感触を逃したくないという二人の気持ちが一つになっているようでした。
緩急をつけたり、違う場所を愛撫したりといった変化をつけない、一定リズムを刻む抽送が繰り返されます。世間一般では変化をつけることが当たり前だと言われている中、私達のエッチは飽きられるものだと見られるでしょう。けれど1番大切なのはお互いを愛する気持ちです。じっくり時間をかけてお互いに高まりあっていくこの興奮は、何にも代えがたいものでしょう。
「ぅん……く……キッ……カ……さぁん」
初めてした時のような勢いに任せたものでもなく、楽しむ為に変化をつけていた日々でもなく、ただ純粋に愛し合うだけの行為がこんなにも気持ち良いなんて。思わずキッカさんの名前を呼びながら、声が漏れてしまいます。
対するキッカさんは、気持ちよすぎて言葉にならないのでしょう。私の体を余すところなく味わおうと、言葉を発することなく一心不乱に腰を振っています。私の喘ぐ声、膣の感触、背中を撫でる腕から、脚に巻かれている蔓まで、その全てを堪能しているはずです。
「ジェンナさん……僕」
「出るのですね。いいですわ。私の1番奥、中へどうぞ」
ぶるるとキッカさんの体が震えると、そのままビクビクと動くペニスから精液が私の膣内へ注がれました。その熱さと勢いがあまりにも気持ちよすぎて眼の前が真っ白になりかけましたが、何とか踏みとどまってキッカさんをキュッと優しく抱きしめます。
得られた精の質は、これまでとは比べ物にならない、とても上質なものでした。量も濃さも多くて、抜かれていないというのに膣から精液が溢れています。
「すごい、こんなに出るなんて」
「ふぅ……はぁぁぁ……今までで、1番ですわね」
蕩けた顔をして、私はキッカさんと見つめ合うと、ゆっくり顔を近付けました。そしてどちらからともなく、同じタイミングで唇を突き出すと、啄むように優しいキスをします。
これから話し合わなければいけないことはたくさんありそうです。けれど二人なら、絶対に乗り越えられる気がしますわ。
「さあキッカさん、今日も予定通り出かけますわよ」
キッカさんに車椅子を押される私は、元気よく家を出ました。キッカさんと出会ってから何度目かの夏になるでしょうか。森の中とはいえ今日も日差しが強いです。
私とキッカさんは、程なくして結婚しましたわ。一定のペースで会っているうちに、お互いにずっと一緒にいたい気持ちが強まっていたので当然の帰結です。
変化が欲しい私と、いつも通りの生活で安心して暮らしていきたいキッカさんが一緒に過ごしていくにあたって、入念に二人で話し会いました。
キッカさんは1月単位で予定を考えていることがわかったので、私はカレンダーを用意して予定を書いておくことにしました。その内容はできるだけ詳細に、夜の営みについても書き込みます。例えば今日は正常位、明日はキッカさんが2回私の膣に射精する日となっております。
予定と違うことも多少ありますが、こうしたことでキッカさんも日々安心して暮らすことができていますので、これは正解だったと言えるでしょう。
キッカさんの中でも、私との予定で出かける時も「特定の場所に行く予定外の日」という認識から「ジェンナと一緒に出かける日」というように変化したようで、自分なりに納得して消化するようになったと言っていました。
お仕事については、キッカさんは勤めていた工場を辞め、私のお手伝いをしてくださっています。これはキッカさんが自分から申し出てくれたことで、私と一緒にいながら同じ生活リズムで過ごせるからとのことでした。
結婚式には両親の他、いつもお世話になっているハニービーの人たちが参列してくださり、とても嬉しかったのを記憶しています。
「今日は私とキッカさんが初めて結ばれた日ですからね。久し振りにあのホテルへ行きたいと思っていますわ」
「あそこですか。わかりました」
サプライズとか、ちょっとしたイタズラとか、そういった変化の無い生活です。しかし私たちの時間は、1つ1つ確実に思い出を重ねていくのですわ。
19/02/25 17:42更新 / NEEDLE