第一話
「今日の仕事はこれで終了。お疲れ様です。」
「お疲れさまでした、棟梁。」
俺の合図と共に、作業していた男たちは作業を終える。
木を伐り出すための斧を倉庫に片づけ、全員分あることを確認してから倉庫から出る。
俺の仕事場は、分り易く言えば森だ。
クルツ自治領南部開発局。
俺たちの住むクルツ自治領を南に向かって広げていくために木を伐り出して切り株を引っこ抜き、人家を作ることのできるようなスペースを確保するのが今の仕事になっている。
棟梁と呼ばれてるのは、俺が局員(と言ってもだいたい樵みたいなもんだが)たちのまとめ役の仕事をしてるからだ。
局員の大半は人間で、二十代から三十代の働き盛りで体力のある人が多い。
そこにまとめ役としてまだ十代の俺が現場に行き彼らの気分を害さないかと不安になったんだが、結構普通に受け入れてくれた。
というか、言っては悪いが気がいいけど良くも悪くもバカな人ばっかりで、誰かがまとめないと同じようなことで空回りを繰り返すんだ。
始めて行ったとき、伐り倒した木に数人が下敷きにされてた時はさすがにひいた。
だから父さんも俺をここに送ってきたのかもしれないな。
局員の多くは森の近くに出した木材で作った仮設の寄宿舎で暮らしてるんだけど、俺は森の近所にある知り合いの家に宿を借りてる。
「ただいま帰りました。」
「おうランス君、お帰り。」
アレミネルさんと、ワーキャットのルーティさん夫妻。
この夫妻は娘が二人いるから「魔物の母は三人以上の子を持たないよう気をつける」の努力義務規定に従い性交渉こそあるが避妊措置は取っている。
「シェンリとクリムは?」
夫妻の娘たちが、シェンリとクリム。
灰毛の姉シェンリと、黄毛の妹クリムの仲良し姉妹。
俺とは幼いころから良く会話する仲で、彼女らの縁があってアレミネルさん宅にお邪魔させてもらっている。
「ネリスちゃんの恋人を見に行くとかで家を出たよ。」
「あのネリスに恋人が?」
魔物の領主の娘、サキュバスのネリス。
愛する男性以外には死にかけない限り体を許さないことで有名。サキュバスには珍しく内気で奥手、その上魔物の領主という簡単には手が出せない立場にあるため、憧れる人はいても一人を除き彼女に近づく男性はいなかった。
唯一の一人が、俺の双子の兄ロナルド。
とにかくキザで妄想狂、父さんや母さんみたいなまじめである程度常識も持ち合わせてる親からどうしてあんな変態が生まれたのか不思議でならない。
見張る意味も合わせて父さんは自分の助手として置いてるけど、仕事もできない。
「外界から連れてきたみたいだね。結構いい男みたいだよ。」
外界というのはクルツ自治領の外のこと、このクルツでは外をさす言葉として日常的に使われる。
「よく知ってますね。」
「ライアが報せに来てくれたんだ。」
「あぁ……」
荷運びのライア。
とにかく迅速に荷物を届けてくれるミノタウロスで、かなり重いものも普通に運搬できるから頼りにされてるけど、前に街中で暴走して少年をぶっ飛ばしたとかで厳重注意をされてた。
荷運びの仕事がらか情報通で、色んな情報を持ってたりする。
とはいえ、走ってるとき以外は喰うか寝るか誰かと交わるかの三択。
自分に興味があること以外で積極的に動こうとすることはない。
あまりないとか少ないじゃなくて「ない」
「夕食は要らないそうだし、用意は終わってるから食べてしまおう。」
「はい。」
この家で夕食の用意をするのはアレミネルさんの仕事だ。
夕食の用意だけではなく家事全般がアレミネルさんの仕事で、ルーティさんは近くの果樹園で普段は夫と一緒に働いている。
夕食が終わり、風呂にも入り俺は自分に用意された部屋のベッドで寝る。
悪夢を見た。
灰毛と黄毛の俺を丸のみにできそうなほど大きな猫が、俺を追いかけて来る。
必死で逃げる俺だったが、いかんせん体の大きさの差はそのまま速さの差につながるわけだ、あっさりつかまり、俺は灰毛の前足に押さえつけられる。
必死で抵抗した俺に向かって
「逃げても無駄よ。」
「そうにゃ〜、おとなしく食われるにゃ〜」
猫たちが俺に語りかけて来る。
聞き覚えのあるその声に俺が恐る恐る振り返ると、
そこには俺よりはるかに大きなシェンリとクリムの顔があった。
俺はこいつらから逃げられない。
どんなに必死に逃げたとしても。
どんなに俺が抵抗したとしても。
逃げられない。
にげられない。
ニゲラレナイ
俺はこいつらから一生自由になれない
一生自由になれない
イッショウジユウニナレナイ……
そうして俺は檻に閉じ込められた。
満足したような笑顔で、二人は俺のことを見つめて来る。
ああ、終わった……
目を覚ますと、俺は檻の中にはいなかった。
ただし、俺一人でベッドに寝転がっていたわけではない。
猫姉妹が一緒だ。
なぜか俺のベッドにもぐりこんで、下着姿で。
ここ重要だから二回言っとく「下着姿で」
とりあえず二人の様子を確認する。
まず灰毛の姉のシェンリ。
下着は空色、あしらわれたレースが出るところの出た体をより強調している。
尻尾の先端だけは白いのもこいつの特徴。
次に黄毛の妹クリム
下着は黒、姉同様レース地だが面積はこっちの方が明らかに小さい、体つきに色気がないから下着で色気を出そうって算段か。
生唾ゴクリ。
ってんなわけねぇだろコンチクショー。
「起きろ、で、説明しろ。」
二人の頭の上に生えた耳をつまんで引っ張る。悪夢を見せた仕返しも兼ねて、力いっぱい。
「「ぎにゃあああああああ!!」」
俺は自慢じゃないがいつも木を伐ったり切り株掘り起こしたりしてるからそれなりに力はある。
猫姉妹は痛みに耐えかねて飛び起きると、すぐに俺に気づく。
たぶん俺の額には左右どちらかもしくは両方に#マークが張り付いている。
「おはよう、シェンリ・クリム。とりあえず正座。」
「おはよう」「にゃ……」
言われたとおりに正座して二人は俺の前に座る。
「なぜ下着姿で俺のベッドに入り込んでた?」
別に今までも俺のベッドに入りこむまでならよくやられてた。
ここに赴任されてこの家に住み込む前も、わざわざ領主の自宅に侵入してまで俺の部屋に寝に来たことも一回二回ではない。
だが、服は着ていた。
普段着なり寝巻なり、何かしらの服は着ていた。
それが今日は下着姿。
「ネリスに恋人ができた……」
ふくれっ面でシェンリが答える。
「それはアレミネルさんから聞いた。お前らがその恋人を見るために出かけてったことも。」
「悔しいにゃ、今までずっと同じステップだったのに、一気に差をつけられたにゃ。」
今度はクリムが答える。
三人は幼馴染というか幼いころからよく遊んだ仲というかそんな感じで、とても仲が良かった。
「それで、それが俺のベッドに入り込むこととどうつながる?」
「「うちらの恋人になってほしい。」」
二人は声をそろえて言う。
俺は頭を抱える。
冗談じゃないぞ、と。
「断る。」
そんな交際は絶対に嫌だ。
念のため言うが俺が別にこの二人が嫌いなわけじゃない。
発情期には彼女らの相手をまとめて努めて、二人共の処女をいただいているくらいだしこの二人が嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。
異性として意識して普通にこの二人に魅力を感じるくらいに好きだ。
堂々と二股をする気になれないとかそういう話もない、クルツでは重婚も近親婚も一応許されてはいるし、同性愛も認められている(男性同士の場合本人が希望するなら片方をルミネさんがアルプに変えることも法律上許可されている、実行されたことはないが)
そんな理由ではなくてただ俺は
「幼馴染に差をつけられるのが嫌だからとりあえず」
でこの二人に選ばれたくないだけなんだ。
きちんと俺のことを愛する意図をもって選んでくれれば別だけど、そうでなかったら俺はこの二人の恋人になんかなりたくない。
脅されても殴られても、逃げられないとしてもその一線だけは死守してやる。
「話は終わり、服着て下行くぞ、アレミネルさんが」
「僕がどうしたのかな?」
ガチャリ
ドアを開いてアレミネルさんが入ってきた。
「おやおや……」
唖然とする俺と、下着姿の娘たちを見て目を細める。
「朝ご飯だよと言いに来たんだけど、野暮だったかい?」
その勘繰りが野暮です。
「お父さん、ランスがうちらの愛を拒む。」
「へぇ? 僕の娘は不服かい?」
「動機が不服です。詳しくはそいつらに聞いてください。」
立ち上がってアレミネルさんの隣を通過する。
朝から仕事、管理職が横綱出勤は色々良くない。
事故もなく全員無事で昼休み。
一度家に戻って昼食をと思ったら、猫姉妹がバスケットを持って俺を待っていた。中にあるのは各種の野菜が入ったサンドイッチ。
「待ってた!」「待ってたにゃ!」
ちなみに、語尾に「にゃ」とつくのがクリムの方だ。
「待ってろって言った覚えはない。」
朝のやりとりのこともあって少し機嫌が悪かったので、冷たくあしらう。
「怒ってる……」「キレてるにゃ……」
二人の言葉は無視。
とりあえずすたすたと家に向かって歩くが
「お父さんはお仕事、ランスの弁当はこの中。」
シェンリがバスケットを指し示す。
「渡すついでに謝るよう言われたにゃ、朝のことはうちらが悪いってにゃ。」
俺は何にも悪いことしてないからな、絶対。
「……許してくれなくてもいいから、食べてほしい。置いとくから。」
シェンリはそう言ってバスケットを作業員用の椅子の上に置くと、名残惜しそうなクリムを引き連れて帰って行った。
さみしそうな二人の後姿を眺めながら、何となく俺は居心地の悪さを感じていた。
「何なんだよ……ったく…」
少しやけ気味にサンドイッチに喰いついた。
味が薄くて、ひどくおいしくなく感じた。
休憩時間終わり、これからもう人働き。
「そっちに向かって伐らないようにしてくれ、倒れたら人が巻き込まれる。」
「うぃ〜す」
そっちに向けて切ったらおそらく人が数人下敷きになる方向に切る作業員をあわてて止める。
木を伐るのも伐った木や切り株を運ぶのも道具を利用して人力で行う。
切る道具は手斧、運ぶ道具は人力車。切り株を掘り起こす時にはシャベルなどを利用し、掘り起こした穴を均すのにもシャベルを利用する。
細かな指示を飛ばしながらも、一方で俺は二人のことを心配していた。
あの二人はまだ定職があるわけでもなく、町の料理屋で二人で一緒にアルバイトしている。
あんな様子で他の皆にまで心配かけなきゃいいんだが……
「棟梁。」
「ん?」
声をかけてきたのは作業員の中でも俺に次いで若いダニエルだった。
「たまにはあれ見せてくれよ、魔法の斧」
「……わかった。」
魔法じゃなくて正確には魔術。
どう違うのかは俺も知らないけど体系がどうの根本がどうので違いができるらしい。父さんの言葉だ。魔術で強化を施された斧を使うんじゃなくて、斧を媒介に魔術によって不可視の刃を形成し、それで切る技術。
使えば大体の木は一回で切り倒せるが、俺は使うのを避けている。
魔術が万能であると信じさせるのは良くないし、同時に俺がやたら疲れるからというのも大きな理由としてある。
自分用の手斧を構えて、魔術を行使。
斧の周囲に刃を作るイメージで刀身を構築する。
息を整えるように刀身を微調整。
構築が完了したら振りかぶり、切り払う。
ヒュカン
軽い音と共に斧が木を素通りする。
というか、素通りしたとしか思えないような速さで切り裂く。
ミシミシミキミシミキ
大木が音を立てて倒れていく。
「うにゃぁああああ〜〜〜」
「うひゃぁ!」
なんか……変な声が聞こえたぞ?
「お疲れさまでした、棟梁。」
俺の合図と共に、作業していた男たちは作業を終える。
木を伐り出すための斧を倉庫に片づけ、全員分あることを確認してから倉庫から出る。
俺の仕事場は、分り易く言えば森だ。
クルツ自治領南部開発局。
俺たちの住むクルツ自治領を南に向かって広げていくために木を伐り出して切り株を引っこ抜き、人家を作ることのできるようなスペースを確保するのが今の仕事になっている。
棟梁と呼ばれてるのは、俺が局員(と言ってもだいたい樵みたいなもんだが)たちのまとめ役の仕事をしてるからだ。
局員の大半は人間で、二十代から三十代の働き盛りで体力のある人が多い。
そこにまとめ役としてまだ十代の俺が現場に行き彼らの気分を害さないかと不安になったんだが、結構普通に受け入れてくれた。
というか、言っては悪いが気がいいけど良くも悪くもバカな人ばっかりで、誰かがまとめないと同じようなことで空回りを繰り返すんだ。
始めて行ったとき、伐り倒した木に数人が下敷きにされてた時はさすがにひいた。
だから父さんも俺をここに送ってきたのかもしれないな。
局員の多くは森の近くに出した木材で作った仮設の寄宿舎で暮らしてるんだけど、俺は森の近所にある知り合いの家に宿を借りてる。
「ただいま帰りました。」
「おうランス君、お帰り。」
アレミネルさんと、ワーキャットのルーティさん夫妻。
この夫妻は娘が二人いるから「魔物の母は三人以上の子を持たないよう気をつける」の努力義務規定に従い性交渉こそあるが避妊措置は取っている。
「シェンリとクリムは?」
夫妻の娘たちが、シェンリとクリム。
灰毛の姉シェンリと、黄毛の妹クリムの仲良し姉妹。
俺とは幼いころから良く会話する仲で、彼女らの縁があってアレミネルさん宅にお邪魔させてもらっている。
「ネリスちゃんの恋人を見に行くとかで家を出たよ。」
「あのネリスに恋人が?」
魔物の領主の娘、サキュバスのネリス。
愛する男性以外には死にかけない限り体を許さないことで有名。サキュバスには珍しく内気で奥手、その上魔物の領主という簡単には手が出せない立場にあるため、憧れる人はいても一人を除き彼女に近づく男性はいなかった。
唯一の一人が、俺の双子の兄ロナルド。
とにかくキザで妄想狂、父さんや母さんみたいなまじめである程度常識も持ち合わせてる親からどうしてあんな変態が生まれたのか不思議でならない。
見張る意味も合わせて父さんは自分の助手として置いてるけど、仕事もできない。
「外界から連れてきたみたいだね。結構いい男みたいだよ。」
外界というのはクルツ自治領の外のこと、このクルツでは外をさす言葉として日常的に使われる。
「よく知ってますね。」
「ライアが報せに来てくれたんだ。」
「あぁ……」
荷運びのライア。
とにかく迅速に荷物を届けてくれるミノタウロスで、かなり重いものも普通に運搬できるから頼りにされてるけど、前に街中で暴走して少年をぶっ飛ばしたとかで厳重注意をされてた。
荷運びの仕事がらか情報通で、色んな情報を持ってたりする。
とはいえ、走ってるとき以外は喰うか寝るか誰かと交わるかの三択。
自分に興味があること以外で積極的に動こうとすることはない。
あまりないとか少ないじゃなくて「ない」
「夕食は要らないそうだし、用意は終わってるから食べてしまおう。」
「はい。」
この家で夕食の用意をするのはアレミネルさんの仕事だ。
夕食の用意だけではなく家事全般がアレミネルさんの仕事で、ルーティさんは近くの果樹園で普段は夫と一緒に働いている。
夕食が終わり、風呂にも入り俺は自分に用意された部屋のベッドで寝る。
悪夢を見た。
灰毛と黄毛の俺を丸のみにできそうなほど大きな猫が、俺を追いかけて来る。
必死で逃げる俺だったが、いかんせん体の大きさの差はそのまま速さの差につながるわけだ、あっさりつかまり、俺は灰毛の前足に押さえつけられる。
必死で抵抗した俺に向かって
「逃げても無駄よ。」
「そうにゃ〜、おとなしく食われるにゃ〜」
猫たちが俺に語りかけて来る。
聞き覚えのあるその声に俺が恐る恐る振り返ると、
そこには俺よりはるかに大きなシェンリとクリムの顔があった。
俺はこいつらから逃げられない。
どんなに必死に逃げたとしても。
どんなに俺が抵抗したとしても。
逃げられない。
にげられない。
ニゲラレナイ
俺はこいつらから一生自由になれない
一生自由になれない
イッショウジユウニナレナイ……
そうして俺は檻に閉じ込められた。
満足したような笑顔で、二人は俺のことを見つめて来る。
ああ、終わった……
目を覚ますと、俺は檻の中にはいなかった。
ただし、俺一人でベッドに寝転がっていたわけではない。
猫姉妹が一緒だ。
なぜか俺のベッドにもぐりこんで、下着姿で。
ここ重要だから二回言っとく「下着姿で」
とりあえず二人の様子を確認する。
まず灰毛の姉のシェンリ。
下着は空色、あしらわれたレースが出るところの出た体をより強調している。
尻尾の先端だけは白いのもこいつの特徴。
次に黄毛の妹クリム
下着は黒、姉同様レース地だが面積はこっちの方が明らかに小さい、体つきに色気がないから下着で色気を出そうって算段か。
生唾ゴクリ。
ってんなわけねぇだろコンチクショー。
「起きろ、で、説明しろ。」
二人の頭の上に生えた耳をつまんで引っ張る。悪夢を見せた仕返しも兼ねて、力いっぱい。
「「ぎにゃあああああああ!!」」
俺は自慢じゃないがいつも木を伐ったり切り株掘り起こしたりしてるからそれなりに力はある。
猫姉妹は痛みに耐えかねて飛び起きると、すぐに俺に気づく。
たぶん俺の額には左右どちらかもしくは両方に#マークが張り付いている。
「おはよう、シェンリ・クリム。とりあえず正座。」
「おはよう」「にゃ……」
言われたとおりに正座して二人は俺の前に座る。
「なぜ下着姿で俺のベッドに入り込んでた?」
別に今までも俺のベッドに入りこむまでならよくやられてた。
ここに赴任されてこの家に住み込む前も、わざわざ領主の自宅に侵入してまで俺の部屋に寝に来たことも一回二回ではない。
だが、服は着ていた。
普段着なり寝巻なり、何かしらの服は着ていた。
それが今日は下着姿。
「ネリスに恋人ができた……」
ふくれっ面でシェンリが答える。
「それはアレミネルさんから聞いた。お前らがその恋人を見るために出かけてったことも。」
「悔しいにゃ、今までずっと同じステップだったのに、一気に差をつけられたにゃ。」
今度はクリムが答える。
三人は幼馴染というか幼いころからよく遊んだ仲というかそんな感じで、とても仲が良かった。
「それで、それが俺のベッドに入り込むこととどうつながる?」
「「うちらの恋人になってほしい。」」
二人は声をそろえて言う。
俺は頭を抱える。
冗談じゃないぞ、と。
「断る。」
そんな交際は絶対に嫌だ。
念のため言うが俺が別にこの二人が嫌いなわけじゃない。
発情期には彼女らの相手をまとめて努めて、二人共の処女をいただいているくらいだしこの二人が嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。
異性として意識して普通にこの二人に魅力を感じるくらいに好きだ。
堂々と二股をする気になれないとかそういう話もない、クルツでは重婚も近親婚も一応許されてはいるし、同性愛も認められている(男性同士の場合本人が希望するなら片方をルミネさんがアルプに変えることも法律上許可されている、実行されたことはないが)
そんな理由ではなくてただ俺は
「幼馴染に差をつけられるのが嫌だからとりあえず」
でこの二人に選ばれたくないだけなんだ。
きちんと俺のことを愛する意図をもって選んでくれれば別だけど、そうでなかったら俺はこの二人の恋人になんかなりたくない。
脅されても殴られても、逃げられないとしてもその一線だけは死守してやる。
「話は終わり、服着て下行くぞ、アレミネルさんが」
「僕がどうしたのかな?」
ガチャリ
ドアを開いてアレミネルさんが入ってきた。
「おやおや……」
唖然とする俺と、下着姿の娘たちを見て目を細める。
「朝ご飯だよと言いに来たんだけど、野暮だったかい?」
その勘繰りが野暮です。
「お父さん、ランスがうちらの愛を拒む。」
「へぇ? 僕の娘は不服かい?」
「動機が不服です。詳しくはそいつらに聞いてください。」
立ち上がってアレミネルさんの隣を通過する。
朝から仕事、管理職が横綱出勤は色々良くない。
事故もなく全員無事で昼休み。
一度家に戻って昼食をと思ったら、猫姉妹がバスケットを持って俺を待っていた。中にあるのは各種の野菜が入ったサンドイッチ。
「待ってた!」「待ってたにゃ!」
ちなみに、語尾に「にゃ」とつくのがクリムの方だ。
「待ってろって言った覚えはない。」
朝のやりとりのこともあって少し機嫌が悪かったので、冷たくあしらう。
「怒ってる……」「キレてるにゃ……」
二人の言葉は無視。
とりあえずすたすたと家に向かって歩くが
「お父さんはお仕事、ランスの弁当はこの中。」
シェンリがバスケットを指し示す。
「渡すついでに謝るよう言われたにゃ、朝のことはうちらが悪いってにゃ。」
俺は何にも悪いことしてないからな、絶対。
「……許してくれなくてもいいから、食べてほしい。置いとくから。」
シェンリはそう言ってバスケットを作業員用の椅子の上に置くと、名残惜しそうなクリムを引き連れて帰って行った。
さみしそうな二人の後姿を眺めながら、何となく俺は居心地の悪さを感じていた。
「何なんだよ……ったく…」
少しやけ気味にサンドイッチに喰いついた。
味が薄くて、ひどくおいしくなく感じた。
休憩時間終わり、これからもう人働き。
「そっちに向かって伐らないようにしてくれ、倒れたら人が巻き込まれる。」
「うぃ〜す」
そっちに向けて切ったらおそらく人が数人下敷きになる方向に切る作業員をあわてて止める。
木を伐るのも伐った木や切り株を運ぶのも道具を利用して人力で行う。
切る道具は手斧、運ぶ道具は人力車。切り株を掘り起こす時にはシャベルなどを利用し、掘り起こした穴を均すのにもシャベルを利用する。
細かな指示を飛ばしながらも、一方で俺は二人のことを心配していた。
あの二人はまだ定職があるわけでもなく、町の料理屋で二人で一緒にアルバイトしている。
あんな様子で他の皆にまで心配かけなきゃいいんだが……
「棟梁。」
「ん?」
声をかけてきたのは作業員の中でも俺に次いで若いダニエルだった。
「たまにはあれ見せてくれよ、魔法の斧」
「……わかった。」
魔法じゃなくて正確には魔術。
どう違うのかは俺も知らないけど体系がどうの根本がどうので違いができるらしい。父さんの言葉だ。魔術で強化を施された斧を使うんじゃなくて、斧を媒介に魔術によって不可視の刃を形成し、それで切る技術。
使えば大体の木は一回で切り倒せるが、俺は使うのを避けている。
魔術が万能であると信じさせるのは良くないし、同時に俺がやたら疲れるからというのも大きな理由としてある。
自分用の手斧を構えて、魔術を行使。
斧の周囲に刃を作るイメージで刀身を構築する。
息を整えるように刀身を微調整。
構築が完了したら振りかぶり、切り払う。
ヒュカン
軽い音と共に斧が木を素通りする。
というか、素通りしたとしか思えないような速さで切り裂く。
ミシミシミキミシミキ
大木が音を立てて倒れていく。
「うにゃぁああああ〜〜〜」
「うひゃぁ!」
なんか……変な声が聞こえたぞ?
11/03/23 15:38更新 / なるつき
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