幕間 かつて誰かが見た夢
父親の墓参りに来た理由を挙げるのなら、なんとなくとしか言いようがない。
共同墓地にある墓の中で、やたら大きく作られた古い石造りの墓、この下に初代人間の領主であり俺の父親、クロード・ラギオンとその妻シェルシェ、そして若くしてこの世を去った、俺の妻アメリアが眠っている。
「父さん、あんたが夢見てた世界は、そう遠くないのかもしれない。」
墓の前に座り込んだ俺は、そうやって墓石に声をかける。
別段ここに眠っているとなんか思ってみたこともない、どうせ父さんのことだから母さんとあの世でよろしくしっぽりしてやがることだろう。
「一度は俺たちは夢を見ることは諦めた、魔物との共存を広めていくことに限界を感じてここに引きこもった、けど外界は確かに変わってたんだ。」
説明するように、ゆっくり口を開く。
「あんたがかつて見た夢とそっくりそのまま同じ夢を、この国のお姫様が見てる。世界を変えたくて動いてるやつらがいる。そんな姿を見てみたら、俺まで夢を見てる気分になってきた。」
俺は、ほとんど確信していた、この国が変わることを。
そんなに近い未来ではないと思う、植えつけられた意識をそっくりそのまま変えてしまうことはなかなか難しいことだからだ。
けれど、それでも変えていける。
「昔言ってたよな、『夢はともに見るものじゃなくて、感染させていく病原菌みたいなもんだ、たくさんの人に夢って名前の病魔を伝染させたら、そしたら病気が世の中の当り前になる。』なんてことを。」
あの時は意味がよくわからなかったけれど、今になってみるとよくわかる。
「たくさんの連中があんたの夢に伝染されてる。」
そう言って、俺は用意しておいた酒瓶を墓石の前に備える。
この国は変わる、俺のような若くない人間の手ではなく、ソラたちや、それに俺の息子たちやその恋人たち。俺が人間の領主として行動してきた過程で救った命や、それにここで新たに生まれた若く新しい連中の手によって少しずつだが変えられていくはずだ。
「あんたの選択は間違ってなかった、それだけは言いたかった……んだと、思う。」
いまいち自分がここに来た理由がわかってなかったから、とりあえずそれだけ言って立ち上がる。
領主である以上俺がこのクルツを離れるわけにはいかない、俺とマリアとツィリアがいれば攻め落とされる可能性なんかほぼないと考えていいとはいえ、それでもできることは限られてくる。
「してやれることを、してやらないといけないよな。」
そう言って領主間に戻った俺は、ロンとそれにひょこひょこついてきたイリヤを伴って執務室に向かった、ちょっとしたサプライズをしてやるために。
クルツには休暇時の特別配給制度というものが設けられている。
やむを得ない事情によって、働くことのできなくなった住民に対して領主館で備蓄されていた穀物などの食料を住民たちの生活の補てんに充てるというもので、今まで一度も利用されてこなかった経緯から、住民全員が一カ月ほど働かずに暮らしていけるだけの量が備蓄されて、ルミネの魔法を利用した半冷凍倉庫に保管されている。
これだけ備蓄するのに二十年かかったことを考えるとここで使い切ってしまうのはもったい気がしないでもないが、出し惜しみしていてもしょうがないだろう。
ロンに手伝わせて、一枚の掲示用紙を書き上げる。
「よし、完成だ。」
その日、クルツ自治領の中心にある広場の、端に置かれた住民連絡用の掲示板の「領主館からのお知らせ」のスペース中央にこんな用紙が張り付けられていた。
「建国記念日から一か月間、クルツ住民の臨時休暇とする、王国を変革する動きに加わりたいものは、事前に申請の上で参加すること。」
共同墓地にある墓の中で、やたら大きく作られた古い石造りの墓、この下に初代人間の領主であり俺の父親、クロード・ラギオンとその妻シェルシェ、そして若くしてこの世を去った、俺の妻アメリアが眠っている。
「父さん、あんたが夢見てた世界は、そう遠くないのかもしれない。」
墓の前に座り込んだ俺は、そうやって墓石に声をかける。
別段ここに眠っているとなんか思ってみたこともない、どうせ父さんのことだから母さんとあの世でよろしくしっぽりしてやがることだろう。
「一度は俺たちは夢を見ることは諦めた、魔物との共存を広めていくことに限界を感じてここに引きこもった、けど外界は確かに変わってたんだ。」
説明するように、ゆっくり口を開く。
「あんたがかつて見た夢とそっくりそのまま同じ夢を、この国のお姫様が見てる。世界を変えたくて動いてるやつらがいる。そんな姿を見てみたら、俺まで夢を見てる気分になってきた。」
俺は、ほとんど確信していた、この国が変わることを。
そんなに近い未来ではないと思う、植えつけられた意識をそっくりそのまま変えてしまうことはなかなか難しいことだからだ。
けれど、それでも変えていける。
「昔言ってたよな、『夢はともに見るものじゃなくて、感染させていく病原菌みたいなもんだ、たくさんの人に夢って名前の病魔を伝染させたら、そしたら病気が世の中の当り前になる。』なんてことを。」
あの時は意味がよくわからなかったけれど、今になってみるとよくわかる。
「たくさんの連中があんたの夢に伝染されてる。」
そう言って、俺は用意しておいた酒瓶を墓石の前に備える。
この国は変わる、俺のような若くない人間の手ではなく、ソラたちや、それに俺の息子たちやその恋人たち。俺が人間の領主として行動してきた過程で救った命や、それにここで新たに生まれた若く新しい連中の手によって少しずつだが変えられていくはずだ。
「あんたの選択は間違ってなかった、それだけは言いたかった……んだと、思う。」
いまいち自分がここに来た理由がわかってなかったから、とりあえずそれだけ言って立ち上がる。
領主である以上俺がこのクルツを離れるわけにはいかない、俺とマリアとツィリアがいれば攻め落とされる可能性なんかほぼないと考えていいとはいえ、それでもできることは限られてくる。
「してやれることを、してやらないといけないよな。」
そう言って領主間に戻った俺は、ロンとそれにひょこひょこついてきたイリヤを伴って執務室に向かった、ちょっとしたサプライズをしてやるために。
クルツには休暇時の特別配給制度というものが設けられている。
やむを得ない事情によって、働くことのできなくなった住民に対して領主館で備蓄されていた穀物などの食料を住民たちの生活の補てんに充てるというもので、今まで一度も利用されてこなかった経緯から、住民全員が一カ月ほど働かずに暮らしていけるだけの量が備蓄されて、ルミネの魔法を利用した半冷凍倉庫に保管されている。
これだけ備蓄するのに二十年かかったことを考えるとここで使い切ってしまうのはもったい気がしないでもないが、出し惜しみしていてもしょうがないだろう。
ロンに手伝わせて、一枚の掲示用紙を書き上げる。
「よし、完成だ。」
その日、クルツ自治領の中心にある広場の、端に置かれた住民連絡用の掲示板の「領主館からのお知らせ」のスペース中央にこんな用紙が張り付けられていた。
「建国記念日から一か月間、クルツ住民の臨時休暇とする、王国を変革する動きに加わりたいものは、事前に申請の上で参加すること。」
12/08/13 21:46更新 / なるつき
戻る
次へ