タニアルと出会ってから半月が過ぎた。まだまだ過ごしやすい気温は夏の到来がまだ先だと告げていた。 僕といえば相変わらずだ、タニアルと談笑し、ヴァリーの冗談に付き合って、ガルザと情報交換を繰り返す毎日……平和で、平凡で、浮き沈みのない生活。 僕は特に不満を抱いていなかった。抱いていないのだけど…… 「なんか最近つまんねー……」 ヴァリーは満足できないようだ……コイツは何か提案するだろうな……。
「まぁな……タニアルとケルトの熱愛報道(誤解)以来、特に目立った事件はなかったしな……」 ガルザも退屈なヴァリーに同意しているようだ。 僕は正直どうでもいいのだが。
「退屈なら、教会にでも遊びに行くか? デックも暇してるだろうし」
テルヴァンの街にはそこそこ大きな教会がある。そこの神父のデックは僕、ヴァリー、ガルザとも仲がいい。あそこの教会には人間だけでなく魔物もやってくる。この街ならではといったところか。
「いいな。 それ、デックにも久しく会ってないし」 「ふむ……少し酒も持っていくか」
ガルザは部屋の奥にある酒蔵に足を踏み入れた。っておい! それは僕の酒だろうが!
「ほら! そこにある安酒でいいから持っていくぞ!」 適当に酒瓶を手に取り、店の看板を『CLOSED』に変えてから僕らは教会へ向けて歩き出した。
ギィ……バタン!
大きな扉を押しあけるとまず目に飛び込んだのは綺麗に磨かれた大きなステンドグラス。他にも並べられた長椅子、パイプオルガンなど、いかにも教会ですといった物が鎮座していた。 「ようこそ教会へ……っと、あなたたちでしたか」 経典を小脇に抱えたまま、僕らを出迎えたのがデック、コイツの顔を見るのも随分久しぶりな気がする。 「久しぶりだな、デック。 元気してたか?」 「おかげ様で健康そのものですよ。ケルトたちもお変わりなくてよかったです」 綺麗な笑顔でほほ笑むデック、流石神父だな、浄化されそうな笑顔だ。 「もう夕方ですよ? ヴァリーもガルザもどうしたんですか?」 「手土産を持ってきたからさ、一緒に飲もうと思ってな」 手に持った酒瓶を掲げるガルザ。言っておくが僕の家の酒である。 「それはいいですね。 確か頂き物の中に肴になりそうなものがあったはずですが……マリー! リアー! いませんか〜?」
奥の部屋に向かってデックが叫ぶと、2人の見た目が瓜二つな女性がやってきた。 「お呼びですか?」 「何でしょうか?」 片方のロングの茶髪の女性は双子シスターのお姉さんであるマリーさん。今はハタキを持って現れている。 もう片方はショートの茶髪で妹のリアさん。こちらはホウキを持っての登場だ。
「すみませんが、来客が来てしまったので少し奥に戻りますね。 それから、以前頂いたチーズはどこでしたっけ?」 「チーズは調理場の棚の上です」 「あとの事は私たち、ほかにもシスターはいますのでお任せください」 「よろしくお願いします。 では、行きましょうか?」
デックに促され、僕らは双子シスターに軽く会釈をしてから奥の部屋へと入って行った。
「ほら、安酒だけど安いのは値段だけで味は保証するから飲んでみろ」 一応、本来の持ち主なので酒について一言なにか言っておこうという事で、さっさと他3人に勧める。 「おお! これは美味しいですね!」 デックの瞳が輝いている。それほどなのか…… 「これは……最高級じゃないのか?」 ガルザの身体が震えている……お? 少し泣いてる? 感動してるのか? 「おれ……生きてて良かったって久々に思ったよ……」 ヴァリーに関しては何故か天を仰いでいる……教会だからって神信仰しすぎじゃないか? 「なぁ……そんなにその酒うm……」
「「「このチーズ!!!」」」 「チーズかよ!!!」 僕の最初のセリフ完全にいらないじゃないかよ!!!
…………ちなみにチーズは飛び上るほど美味かった。
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