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夜が明けてまだ間もない時間から、僕、ケルトの一日は始まる。
「ふわぁああ……うぅん……」
起きたはいいもののまだ目が完全に覚めてはいない、家の裏口から外に出て、井戸で顔を洗う事にしよう。
「…………ぷはぁ！」
水を被るように顔を洗って目を無理やり覚ます。少し前までは水に触れるのも躊躇われる季節だったというのに……今では適度な水温になっている。 春はいいものだ。
自己紹介が遅れたな、僕の名前はケルト・アベラール。 ここ、『テルヴァン』の街で小さな鍛冶屋『ハルコン』を営んでいる。
作っているものは武器から農具まで様々、もともとかなりオープンなこの街に店を構えているため、人間だけでなく近隣の魔物も店にやってくるほどだ。
この街の人間は魔物を嫌わない、僕だってそうだ。 時々、魔物と街の外に出た男が何人か帰ってこないが……まぁ幸せに暮らしてるだろうから問題ない。
自己紹介はこんなもんでいいだろう……まだ目が覚めてないからな。 炉に火をくべたら、開店の準備をしようかな。
ドンドンドン！！
「開いてるぞ、 ヴァリー」
ガチャ……カランカラン
「まぁ、 知っててやってるんだけどな」
「毎朝よくやるな……」
飄々としたこいつはヴァリー、配達で生計を立てている男だ。ただ、身だしなみにはあまり気を遣っておらず、ボサボサの髪の毛を配達屋の帽子で無理やり押さえこんでいる。
「ほい、今日の分の注文票。 出来たら是非ともウチを使って配達してくれ」
さらっと自分の商売の宣伝をするあたり、流石と言うべきか……
「そうだな……農具は重いから、 頼もうかな」
「まいどどうも〜。 じゃあ、 配達残ってるからおれはもう行くぜ？」
「はいはい頑張れよ〜」
次の宅配先(と言っても隣だが)へ向かってダッシュを開始したヴァリーを横目に、僕は開店の準備を進めた。
店内の明かりを灯し、店先に「OPEN」の札を出したら、あとは客が来るのを待つだけだ。
「じゃあ、 客が来るまで注文の品を作るかな……」
小型のハンマーを片手に炉と向き合ったら、そこから先は僕と金属の『会話』の始まりだ。
ガチャ……カランカラン
「いらっしゃい、 ゆっくり見て行ってくれ」
扉につけてある鈴の音が聞こえてきたら、必ず発するこの言葉。客がどんな人か見るのはその後だ。
「ケルト、 情報を持ってきたぞ」
「ガルザか……何かあったのか？」
僕よりも少し背が高いこいつはガルザ、街の警備を担っており、パトロールついでに集めた情報を僕に教えてくれる。とても助かる人物だ。ちなみにこいつが腰に差している長剣は僕の自信作だ。
「まずはいい情報から、 鉱山近くの山賊が去ったそうだ」
「ほう……そいつは助かるな」
鉱山でとれる金属は鍛冶屋に必要不可欠だ、少し前まで山賊がたむろしており、なかなか面倒だったのだが、いなくなったのなら好都合だ。
「次に悪い情報から、 町長がまたお前に見合い話だ」
「そっちは丁重に断っておく……」
この街の町長、魔物を嫌わなかった人間第一号なんだけど……少し世話焼きな面がある。僕は伴侶など必要ないのに……まったく。
「情報は以上だな……行くのか？ 鉱山に」
「そうだね。 手持ちの鉄が心許ないから、 午後にでも店を閉めて行ってくるよ」
「山賊は去ったとはいえ、 まだ安心はできない。 武器を忘れるな」
「ああ、 忠告ありがとう」
手を振りながら店を出るガルザを見送ってから、僕は出掛ける支度を始めた。
「ふむ……なかなか大量だな」
ガルザの言った通り、鉱山までの道に山賊は現れなかった。一応護身用の剣を持って行ったが、余計な心配だった。
「さて……もう夕方か……早いところ帰るとす…………ん？」
もう少しで街、と言ったところで僕は歩を止めた、何か声のようなものが聞こえたのだ。
「……うぅ〜……斬れない……これしかないのに……」
何やら困っているようだ……声は、近くの花園の方から聞こえてくるようだ。
「…………行ってみるか」
好奇心が勝ってしまった、方向を変え、少し早足で花園へ向かった。
「さてさて……この辺のはず……む、あれか？」
夕方なので薄暗いが、少し先にしゃがんだ女性の後ろ姿らしきものを視界にとらえた。緑と桃を基調とした服を着て、花弁をあしらった帽子を被っていた。
「失礼、何かお困りかな？」
「えっ？ あぁ……すみません……実は……………………？ どうかなさいました？」
「あ……いや…………」
失礼、さっきの女性の容姿について訂正をさせてもらう。花弁をあしらった帽子ではなく花弁そのものを頭に乗せていた……その……女性とは…………アルラウネだ。
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