「こんなにきれいに……ありがとうございます!」
作業終了後、自分で言うのもアレだが、見違えて綺麗になったハサミを受け取って顔を輝かせたタニアルはとても喜んでくれた。ピョンピョン跳ねるまで喜んでもらえると鍛冶屋冥利に尽きるな……。
「また刃こぼれするようであれば持ってきてくれ。 手入れは僕の方が上手いしね」 「あはは……またよろしくお願いしますね」
苦笑いをするタニアル。少し疲れたかな……よし、タニアルもいる事だしお茶でも淹れるか。
「アルラウネもお茶は飲むのか?」 「はい、水分はいつでも必要なので……あ、よければこれをどうぞ」
ハサミを籠に戻したタニアルは、籠の中から小さな紙袋を取りだした。どことなく爽やかな香りがする。
「ハーブを育てているのでハーブティを作って持ってきました。 疲れに効くので丁度いいと思いまして」 「ふむ……いい香りだな…………よし、これを淹れてこよう。 少し待っててくれるか?」
店にタニアルを残し、僕は1人奥の居住スペースへ向かった。
……数分後
「よし、こんなもんでいいだろう」
ティーポットに茶葉と湯を注ぎ、ひっくり返した砂時計が空になったと同時にトレイに2人分のティーカップと共に乗せて店へと戻ると、タニアルは来客を待たせるために用意した椅子にじっと座っていた。
「待たせたな。 すぐに用意する」 「いえ、大して待ってませんよ」
謙遜するタニアルを横目にティーカップにお茶を注ぐと、一瞬にしてハーブのいい香りが店中に広がった。
「本当にいい香りだな……いただきます」 「いただきます」
カップに口をつけると全身に暖かさが広がった。嗅覚、味覚と共に癒されていくのが分かる。
「美味いな……疲れに効きそうだ」 「気に入ってもらえて嬉しいです」
お世辞ではなく、心の底からそう思った。あまり表情豊かではない僕も一口飲んだだけで顔がほころんでしまうほどの美味さだった。
ガチャ……カランカラン
「む? 来客か……いらっしゃい」 「おう。 遊びに来たぜケル……ト」
やってきたのはヴァリーだった。ぺしゃんこになった配達袋を持っている辺り、仕事帰りであろう。何だか呆気にとられているようだが……どうした?
「お、お前……その娘は?」
震える指でタニアルを示すヴァリー。動揺しているが大丈夫だろうか?
「ああ、彼女はタニアル。 アルラウネの知り合いだ」 「はじめまして」
タニアルも手に持っていたティーポットを置いて軽く会釈をした。しかし、ヴァリーの動揺は収まることなく……
「け……け……」 「どうした? 様子がおかし……」 「ケルトが家にオンナ連れ込んでるだとぉおおお!!!?」 「え、ちょ、おま!?」
なんかあらぬ誤解をされてなおかつ人聞きの悪い言われ方をされてる気がする!?
「あのケルトさん? 追いかけた方がよいのでは?」 「それもそうだな。 少しここで待っていてくれ!」
とりあえず今もなお叫びながら街を走り回っているであろうヴァリーを捕えるべく、僕も店を出て全力疾走を開始した。
「むぅ……配達慣れしてるせいかメチャクチャ速い……」
これは……追いつけるのか?
「もしかして…………恋人みたいに見えた? 見えちゃった? えへへ……」
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