花弁を伝うのは朝露か涙か %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

第十二話 お前もか……

ケルトです。二度寝から覚めたら、そこは修羅場だった(雪国風)。
かたや、双子エンジェルシスターの妹のリアさん。
かたや、俊足コカトリスのリーニ。どちらも罵声を浴びせ合いながら睨み合っている。両者の間に火花が走っているようでもあった。

「あなた、ヒト化いますけどコカトリスですね? だらしなくフェロモン放出して、ケルトさんに何をするつもりだったんでしょうかね!?」
「フェロモンなんてとっくに客商売するときに制御できるようになったよ! そもそもなんでアンタにそんなこと言われなくちゃいけないのさ!?」

まさに修羅場の最上級。修羅ベスト(イミフ)。売り言葉に買い言葉で二人の言い争いはエスカレートする一方だった。

「あ、あのさ二人とも?」
「あっ! 起きた。 ケルトからも言ってよ! この人しつこいの!」
「ケルトさん! 大丈夫でしたか? この人のふしだらな淫気に当てられたりしませんでした?」
「だーかーらー!! あたしはそんなことをしにきたんじゃなくてただ薬を届けに来たんだってば!」「ただ届けに来た? なら添い寝は必要ないでしょう? 速やかに帰られたらいかがです?」
「ケルトが風邪引いた原因はあたしにあるんだから見届ける義務があるの!」「それでも添い寝は必要ないでしょう!?」


「ブレイクブレイク! ひとまずそこまで! このままじゃ埒あかないから!」
まずは荒れてる二人をなだめる。かなりの間言い争ったようで肩で息をしていた。

「さて……リアさん」
「はい……」
「まず、リーニは本当に薬を届けてくれただけなんですよ。 添い寝も暖かくする配慮ですし、実際にコカトリス特有のフェロモンも制御してくれてるみたいでなんともないですし」

ってか、あのフェロモンって本能じゃなかったか? それを制御するって中々にハイスペックだな。

「それからリーニ」
「うん……?」
「こちら、教会のシスターのリアさん。 僕の友人で、悪い人じゃないから」 コカトリスは元来臆病な種族、そのせいかどうかはわからないけど警戒心を抱いてしまったのだろう。

「ところで、リアさんはどういった用件で?」
いま思えば、また鍵を掛け忘れてた……またしても僕の失態だな。
「私は……その……昨夜の事を改めてお詫びに……」 昨夜? お詫び? むしろ荷物を持ってくれてありがたいくらいなのに……
「いえ、そうではなくて……タオルの件です」
タオル? ……ああ、あの力みすぎた件か。

「別に気にしてませんよ。 むしろ昨夜は感謝してるくらいです」
「ですけど……」
「あーほらほら、僕も気にしてないのでリアさんも気にしないでください! ねっ?」
「そうですか……? ありがとうございます」
リアさんが納得してくれたし、リーニも静かになったし、とりあえずは大丈夫かな?
「リアさん、お茶飲んで行きませんか? たくさん喋って喉渇きましたよね?」
「あ、いただきます」
「リーニはどうする?」

シ〜ン……

……あれ?

「リーニ? リーニー?」
……いない?

確認のため一階におりて玄関を見てみると、扉が開け放してあり、リーニが出ていった事を物語っていた。

「リーニ……」
改めてお礼がしたかったのだけれど……仕方ないか。リアさん待たせるのも悪いし、戻るか。
「また後日、診療所に行ってみるか」





失敗した

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した


邪魔が入ってしまった。入らなければ実行出来たのに……。


 あたしのコカトリスとしての本能、人間の男を魅了するフェロモンを制御できるといったけど、実は嘘だ。
制御は出来ないのでなく、完全に消したのだ。
あの能力は、街で仕事を……しかも客商売がしたいあたしにとっては厄介なものだった。
だから、消したのだ。いや、正しくは消してもらったというのが正しいか。

診療所の先生、あの人は優秀な女医で、元は軍医だったらしい。あたしは相談した、臆病な性格を治したい、だから客商売がしたい、だけども能力が邪魔をする。
先生は笑って「なんとかする」と言ってくれた。そして、あたしの能力を消してくれた、詳しくは解らないが、医療ではなくなにか術のようなものらしい。
あたしは喜んだ、そしてお礼に力になりたいと言った。あの人は、あたしに仕事をくれた、薬の配達。客商売。あたしがやりたかった仕事。

それから先は仕事に明け暮れた、コカトリス自慢の足の速さを活かして街を縦横無尽に走った。時々、隣町までも配達した。そんな生活を続ける内に段々と性格も明るくなって臆病な性格は消えつつあった。

あたしは……能力がなくなったことにこれ以上はないくらい感謝していた。
あたしにはあの能力は必要ない。人間の男はあたし自身の魅力で魅了する。だからあの能力はいらない。

 そしてある日耳にした、配達をしていると色々な噂を聞く。だけど、その噂は一層強くあたしの中に残った。

鍛冶屋を営むケルトという青年

街の人から聞いた感じは好青年、名工、優しいなど、どれも好感のもてるものばかりだった。

人間の男には、足の速い配達員や街の騎士団の一員、教会の神父などに会ったことがあったが、あたしの心が動くほどではなかった。

ある日、街で彼を見かけた、場所は意外な場所で診療所の診察室だった。 そう、昨日彼と初めて会ったのは本当だけど、顔を知らないわけじゃなかった。でも、怪しまれるのは嫌だから顔は知らないことにした。

あたしは彼に話し掛けるきっかけが欲しかった、きっかけ自体はいくつかあったけど……あたしが声を掛ける勇気を出せなかった。何故か彼に話し掛けようとする度に、昔のあたしに戻ったように臆病になってしまうのだ。

彼が商品を配達するのを見かけたら、迷わず尾行する。彼を知りたい、話し掛けられなくてもせめて彼に近づきたいから……

彼の行きつけの喫茶店を知った、流石に同じ建物には入れないから、外から見てるだけ。

彼が好物のジンジャーエールを幸せそうに飲むのを見届けてから仕事に戻る。仕事が終わったらまた彼をみる。

昨日もそうなるかと思った。だけど、昨日は少し違った。

ケルトの横に女がいた、更にあろうことかキスまでしていた……!

 いてもたってもいられなくなったあたしは駆け出した。彼を川に落としちゃったけど、結果として彼に近付けた。

ケルトがあたしを覚えてくれた。ケルトに添い寝して、ケルトにあたしの臭いが付いた、あたしにケルトの臭いが付いた。
すごくうれしい。ケルトにあたしが残るのが堪らなくうれしい。

だから本当にエンジェルの邪魔が入ったのが心残りだ、あれさえなければあたしはもっとケルトと一緒に居られたのに。

「ま、しょーがないよね」

いつかケルトをあたしの魅力で魅了する。ケルトの目があたしだけに向くように……

「でも今日は帰ろっ。 いいもの手に入ったしね♪」
右手に掴んだケルトの髪の毛を落とさないように強く握りしめ、あたしは家路を急いだ。

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