初めまして、新しい出会い(上)
翌日―――
自警団で一晩お世話になった私達は、デューナさんに聞くことにした
ナナイの、刀についてだ
昨日の訓練で、刀身の半分が砕けてしまい、新しい刀が必要になったからだ
「に、しても…」
デューナさんは言う
「ホント、いい刀だったのね…」
「ナナイの、本当のご両親の持ち物らしくて…」
詳しくは私もナナイも知らないが、ナナイが小さい頃から大事にしていたのは、私も知っている
「…ごめんなさいね。そんな大切な物を…。ナナイ君は?」
とても辛そうに言うデューナさん
「…今はまだ、寝て「気にしないでください。僕が、未熟なだけだったんです」
と、後ろから声がした
「ナナイ!寝てなきゃダメじゃない!」
まだ体が痛む筈なのに…
「僕は大丈夫だよ、ゲヘナ」
と、いつも通りに歩いてきている
「デューナさん、刀の事は気にしないでください…」
そう、気丈に言うナナイ
声が震えている
「…そう、ね。確かに私じゃ直せないし…そうだ!」
辛そうにしていたデューナさんが提案する
「あそこなら、きっとこの刀をどうにかできるわ!!」
そう言いながら、その場所を私達に教えてくれた
・・・
目の前に、デューナさんに教えてもらったお店がある
鍛冶屋レギンス
この町一番の、武具職人がいるらしい
「…身体は大丈夫、ナナイ?」
「…僕は、大丈夫」
そう言ってはいるが、時折動きが止まっている
誤魔化して気付かせないようにしている
けど、伊達に長年一緒だった訳ではない
「…我慢出来なくなったら、言ってよね?」
頷かせて、お店に入っていく
「…いらっしゃい」
と、中にいたのはサイクロプスだった
「あの…」
と、私が言おうとした時だった
「…これを、直してほしいんです」
ナナイは、鞘にしまった状態の刀をそのサイクプロスに差し出した
黙って、そのサイクロプスは鞘を抜いて、刀を見た
「これは…」
そのサイクロプスは、ナナイの刀をじっと見る
―――半ばで折れ、ヒビが入っているその刀を
「…そう、頑張ったんだね」
とても優しい目で、彼女は刀に語りかける
その姿は、まるで我が子に接する母親の様に、優しかった
「…とても、良い刀」
「ウィナ、お客さんか?」
奥から、男性の方が出てきた
「ヴァン…」
「って、こりゃあ…随分酷使してるなぁ…」
ヴァンと呼ばれた方は、ナナイの刀を見て言う
「ホント…ここまで酷使された刀は始めてみた…」
不意に、ナナイの顔が曇っている
「でも…すごくいい使われ方をしていたのね、この子…」
不意に、彼女―――恐らく、ウィナさんと言うのだろう―――が漏らす
「俺もここまで使い込まれて壊れた武器は始めてみたよ…」
よほど大事だったんだな、と刀をみて言う。
と、ヴァンさんをジト目で見るウィナさんが言った
「…貴方のも…この一歩手前だったわ」
それを見てヴァンさんは、タハハ、と苦笑している
―――この二人なら大丈夫そう
そう、私は感じた
・・・
「この刀を…打ち直せばいいのかな?」
不意に、ウィナさんが聞く
「これを打ち直せるのかよ、ウィナ?」
ヴァンさんが聞くのは最もだと思う
刀身半ばで折れ、残りの刀身部分もボロボロで、打ち直せるのだろうか?
「このままだと出来ないけど…同じ金属を使えば、同じ強度で同じ切れ味の刀が出来ると思う」
と、ウィナさんは説明してくれた
「…ヴァン、鋼と砂鉄の合金お願い」
「…妊娠してるのに、よくやるよ」
と、ため息混じりに言うヴァンさん
「あ、あの…」
と、今までなにも喋らなかったナナイが声を出す
「あの刀を…もっと、強くすることは出来ないでしょうか?」
「ナナイ?」
そう言うと、ナナイは床に座り…
「僕が未熟だから、あの刀が折れたのは解ってます。それなのにこんな事を言うのも失礼だと思います…。でも!お願いします!その刀を、強くして頂けないでしょうか!?お願いします!」
と、突然頭を下げ始めた
「お、おい!そこまでしなくても…」
ヴァンさんが驚き、慌てふためいている
それも、当然だと思う
でも、私には分かる気がした
「私からも、お願いします!」
立ちながら、私も頭を下げる
あの刀は―――ナナイの本当の家族との唯一の繋がり
普段は全く気にしない振りをしているが、私は知っている
あの刀の手入れの時、とても優しい顔になることも
あの刀を持って型を作るとき、ジパングの方を向く癖も
だから、私も、あの刀が折れた時、自分の事のように辛かった
「…大丈夫。元からそうするつもり」
と、ウィナさんが私達に声をかける
「ヴァン、ヒヒイロカネと玉鋼も持ってきて」
「ヒヒイロカネ?」
聞きなれない金属の名前に、ナナイは聞き返す
「ん?ジパングの人じゃなかったか…。オリハルコンの事だよ」
と、答えるのはヴァンさん
ん?
「「オリハルコン!?」」
私達は同時に驚く
「…この刀をこれ以上強くするには、ヒヒイロカネや玉鋼、後魔石とかしかないわ」
「んで、ウィナが見るには…え〜と…」
と、ナナイの方を見る
「ナナイ=クレッセント、です」
「よろしく、ナナイ君。んでナナイ君の使い方なら、オリハルコンが一番だって事なんだと思うぜ?」
だろ?とウィナさんに聞くヴァンさん
頷き、答えるウィナさん
「…それに、この子もまだ貴方と戦いたがってる」
「え?」
ナナイに向きながら、ウィナさんは言う
「そう、感じたから…」
と、刀を見ながら言うウィナさん
「さて、と!これから作り始めて…明日の朝くらいには完成してるから、それ位に取りに来てくれよ」
ヴァンさんが私達に伝える
「…大丈夫。この子は、責任を持って私が強い子に仕上げる」
と、二人は力強く頷く
そんな二人をみて、私とナナイの目が合う
恐らく、私達の考えてることは同じだろう
「…もう一つ、お願いできませんか」
・・・
もう一つのお願い、それは二人のお手伝いだ
ウィナさんは妊娠しているらしいが、それでも鍛冶をしてくれるのだ
それに、あそこまで刀を褒めてくれたのだのだから、なにか出来ないか、と私達が考えた
「あ〜…ならナナイ君はタタラ踏むの手伝ってくれないか?」
とヴァンさんについていくナナイ
「あの、私は…」
「…手伝えることがないから、その…」
ウィナさんが申し訳なさそうにいう
確かに、非力な私に出来ることは無いだろう…
と、棚に少し埃がついていた
一部取れていることから、掃除のやりかけだったのだろう
「なら、家事のお手伝いは出来ませんか?」
「…でも、貴女はお客様だし…」
「でも、妊娠してると色々大変ですよね?…もし良かったらなんですが…」
と、私はウィナさんに聞いてみる
「…なら、この部屋の掃除、お願いしてもいいかしら?」
「喜んで!」
と、私は早速掃除を開始した
・・・
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう〜ゲヘナちゃん」
「ありがとう」
時刻は3時くらい
午後のお茶の時間近くになったので、台所を借りて、私は持参したお茶を入れてヴァンさんとナナイに振舞う
ちなみに、もうウィナさんには振舞った後だ
「お、このお茶美味いな!」
「…ゲヘナのお茶は美味しいんですよ」
大げさにも思えるリアクションをとったヴァンさんに、ナナイは普段通り返す
「あ、そういえば…タタラ踏んでるとき辛そうだったけど大丈夫か?」
ナナイがまた無茶をしたのだろうか?
ヴァンさんが心配して聞いている
「大丈夫です」
「でもy「大丈夫ですよ」
ニコリ、とヴァンさんに返すナナイ
「…ナーナーイー?」
「…本当に大丈夫だよゲヘナ」
私が問い詰めようとしたら、少しよそよそしくなるナナイ
「まぁ、本人が大丈夫ってんなら大丈夫なんだよゲヘナちゃん!」
と、ナナイを庇うヴァンさん
「だろ?」
「…はい!」
なんか二人とも仲が良いみたいだ
私は少し嫉妬した気分と共に、嬉しい気持ちに浸っていた
・・・
「さて、そろそろ晩飯の準備しないと…レンカも帰ってくるしな」
お茶をしながら雑談をしていた時、ヴァンさんがふと言う
「あ、もしよろしければ私に作らせて貰えませんか?」
「え?ゲヘナちゃんが作ってくれるの!?」
と、ヴァンさんが凄くはしゃいでいる
ここまで喜んでくれるなら、腕を振るう甲斐もありそうだ
「何がいいですか?」
「ゲヘナちゃんが作ってくれるなら、なんでも…グハッ!?」
ヴァンさんが喋っている最中に、作業から戻ってきたウィナさんに突っ込みを受けていた
「うぃ、ウィナさん?…嫉妬デスカ?」
「うるさい…」
はしゃいでるヴァンさんにムッとしたウィナさんが突っ込みを入れていた
なんだか、微笑ましい光景な気がする
「で、どの位出来たんだウィナ?」
「…工程の半分は終わって、ゴハンの準備をしようかなって」
「おいおい、仕事の時は俺が準備するって言ってるだろ?」
でも、とウィナさんはヴァンさんに言おうとする
女として、その気持ちはわかる
好きな人には、やっぱり自分で作ってあげたいと思うものだ
「ウィナさん、ヴァンさんと話してたんですけど…私に作らせて頂けませんか?」
「…でも、掃除もしてもらったのに…」
「その代わり、実はお願いが…」
そう、ここで話をしていて、つい忘れていたことがあったのだ
「一晩、泊めていただけませんか…///」
「「え?」」
「…あぁ。そういえば宿をとってなかったね」
「教会にお願いしにいくのも忘れてたし…もし、大丈夫なら、なんですが…」
―――そう、私達は今日の寝床の事を忘れていたのだ
ライカさん達からは視察としてここに居ることになっているが、それは建前
本当は旅行でゆっくりする事になっている
ナナイには、旅行のフリをした査察になっていると言っているので、宿も自分で取らないといけない事に不審がられてはいない
「あちゃー…。俺は良いけど、ウィナはどう?」
「…そうね。なら、その代金にご飯お願いしていいかしら?」
と、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべてウィナさんが言う
「はい!ありがとうございます!!」
「…ありがとうございます」
と、泊めて頂けるのだから、なにか美味しいものを作りたい
そう思い、私は自分の一番得意な料理を思い浮かべる
「あの…クリームシチューは好きですか?」
私の得意料理、それはクリームシチューだ
孤児院に居た時、父さんや皆によく作っていた
みんな美味しい、美味しいと言って食べてくれていたのは、数少ない私の自慢なのだ
「オッケーオッケー!おれっちは大丈夫だぜ!」
「…私も大丈夫よ」
そうと決まれば、早速作らせて頂こう
「ただいまー!」
と、その時だった
玄関の方だろうか、小さい女の子の声が聞こえてきた
「…レンカ、お帰り」
「ただいま!ママ!!」
そこに居たのは、可愛らしい小さいサイクロプスだった
「あ、お客様?…初めまして!レンカです」
ぺこり、と音がしそうな勢いでお辞儀をしてくれるレンカちゃん
「初めまして、私はゲヘナって言います」
と、私もお辞儀を返す
「…ナナイ、です」
と、ナナイもぎこちないが、軽く会釈をする
「どうだい二人とも!ウィナに似て可愛いだろ!?」
と、とても誇らしげに言うヴァンさん
「レンカ、今日も怪しい男に声掛けられてないな!?クラスの男子どもにちょっかいかけられてないよな!?」
大丈夫だよ〜、とレンカちゃんは楽しそうに言っている
「…親バカ」
「ん?ウィナなんか言った?」
ウィナさんに聞き返すヴァンさん
うん、私から見ても親バカだと感じた
それと同時に、とても、暖かい家庭なんだな、とも感じたのは言うまでも無いんだと思う
・・・
「それでは、食事の前に、感謝の祈りを…」
「へ?」
それは、いつもの癖で祈りをしようとした時だった
不意に聞こえる、ヴァンさんの驚きの声
「…ゲヘナ。ここではしなくていいと思う」
「あ…」
そ、ここはレギンスさんの家
つまり、そういった事は余計なことなのだ
「ご、ごめんなさい!…つい、いつもの癖で…」
と、私が謝ったときだった
「お姉さん、シスターさんなの?」
と、首をかしげて聞いてくるレンカちゃん
「…うん。私は、元々シスターだよ」
「そうなんだ!」
と、なにか嬉しそうに言うレンカちゃん
「…大丈夫。私は気にしてないから」
「そうそう。誰が、何を信仰しようと関係ないよ。それにさ、それが人を支えることになるんだから、さ」
そう、ヴァンさんとウィナさんは言ってくれた
「…ありがとうございます」
私は、なんとかお礼を言うことが出来た
「…すみません。少し外の風に当たってきます」
「ナナイ?」
と、突然、ナナイが外に行ってしまった
…もしかして、教団にいたときの事を思い出して…
私も行こうとした、その時だった
「まぁ、一人にしてやろうぜ」
と、ヴァンさんが、私に静止をかける
「どうしても必要なら、きっと向こうから言うさ。…そんな気がする」
「でも…」
「…心配なのはわかるけど、待つことも大切よ」
ね、とウィナさんは語りかける
「…そうです、ね」
そうして、私達は食事を続けることにした
自警団で一晩お世話になった私達は、デューナさんに聞くことにした
ナナイの、刀についてだ
昨日の訓練で、刀身の半分が砕けてしまい、新しい刀が必要になったからだ
「に、しても…」
デューナさんは言う
「ホント、いい刀だったのね…」
「ナナイの、本当のご両親の持ち物らしくて…」
詳しくは私もナナイも知らないが、ナナイが小さい頃から大事にしていたのは、私も知っている
「…ごめんなさいね。そんな大切な物を…。ナナイ君は?」
とても辛そうに言うデューナさん
「…今はまだ、寝て「気にしないでください。僕が、未熟なだけだったんです」
と、後ろから声がした
「ナナイ!寝てなきゃダメじゃない!」
まだ体が痛む筈なのに…
「僕は大丈夫だよ、ゲヘナ」
と、いつも通りに歩いてきている
「デューナさん、刀の事は気にしないでください…」
そう、気丈に言うナナイ
声が震えている
「…そう、ね。確かに私じゃ直せないし…そうだ!」
辛そうにしていたデューナさんが提案する
「あそこなら、きっとこの刀をどうにかできるわ!!」
そう言いながら、その場所を私達に教えてくれた
・・・
目の前に、デューナさんに教えてもらったお店がある
鍛冶屋レギンス
この町一番の、武具職人がいるらしい
「…身体は大丈夫、ナナイ?」
「…僕は、大丈夫」
そう言ってはいるが、時折動きが止まっている
誤魔化して気付かせないようにしている
けど、伊達に長年一緒だった訳ではない
「…我慢出来なくなったら、言ってよね?」
頷かせて、お店に入っていく
「…いらっしゃい」
と、中にいたのはサイクロプスだった
「あの…」
と、私が言おうとした時だった
「…これを、直してほしいんです」
ナナイは、鞘にしまった状態の刀をそのサイクプロスに差し出した
黙って、そのサイクロプスは鞘を抜いて、刀を見た
「これは…」
そのサイクロプスは、ナナイの刀をじっと見る
―――半ばで折れ、ヒビが入っているその刀を
「…そう、頑張ったんだね」
とても優しい目で、彼女は刀に語りかける
その姿は、まるで我が子に接する母親の様に、優しかった
「…とても、良い刀」
「ウィナ、お客さんか?」
奥から、男性の方が出てきた
「ヴァン…」
「って、こりゃあ…随分酷使してるなぁ…」
ヴァンと呼ばれた方は、ナナイの刀を見て言う
「ホント…ここまで酷使された刀は始めてみた…」
不意に、ナナイの顔が曇っている
「でも…すごくいい使われ方をしていたのね、この子…」
不意に、彼女―――恐らく、ウィナさんと言うのだろう―――が漏らす
「俺もここまで使い込まれて壊れた武器は始めてみたよ…」
よほど大事だったんだな、と刀をみて言う。
と、ヴァンさんをジト目で見るウィナさんが言った
「…貴方のも…この一歩手前だったわ」
それを見てヴァンさんは、タハハ、と苦笑している
―――この二人なら大丈夫そう
そう、私は感じた
・・・
「この刀を…打ち直せばいいのかな?」
不意に、ウィナさんが聞く
「これを打ち直せるのかよ、ウィナ?」
ヴァンさんが聞くのは最もだと思う
刀身半ばで折れ、残りの刀身部分もボロボロで、打ち直せるのだろうか?
「このままだと出来ないけど…同じ金属を使えば、同じ強度で同じ切れ味の刀が出来ると思う」
と、ウィナさんは説明してくれた
「…ヴァン、鋼と砂鉄の合金お願い」
「…妊娠してるのに、よくやるよ」
と、ため息混じりに言うヴァンさん
「あ、あの…」
と、今までなにも喋らなかったナナイが声を出す
「あの刀を…もっと、強くすることは出来ないでしょうか?」
「ナナイ?」
そう言うと、ナナイは床に座り…
「僕が未熟だから、あの刀が折れたのは解ってます。それなのにこんな事を言うのも失礼だと思います…。でも!お願いします!その刀を、強くして頂けないでしょうか!?お願いします!」
と、突然頭を下げ始めた
「お、おい!そこまでしなくても…」
ヴァンさんが驚き、慌てふためいている
それも、当然だと思う
でも、私には分かる気がした
「私からも、お願いします!」
立ちながら、私も頭を下げる
あの刀は―――ナナイの本当の家族との唯一の繋がり
普段は全く気にしない振りをしているが、私は知っている
あの刀の手入れの時、とても優しい顔になることも
あの刀を持って型を作るとき、ジパングの方を向く癖も
だから、私も、あの刀が折れた時、自分の事のように辛かった
「…大丈夫。元からそうするつもり」
と、ウィナさんが私達に声をかける
「ヴァン、ヒヒイロカネと玉鋼も持ってきて」
「ヒヒイロカネ?」
聞きなれない金属の名前に、ナナイは聞き返す
「ん?ジパングの人じゃなかったか…。オリハルコンの事だよ」
と、答えるのはヴァンさん
ん?
「「オリハルコン!?」」
私達は同時に驚く
「…この刀をこれ以上強くするには、ヒヒイロカネや玉鋼、後魔石とかしかないわ」
「んで、ウィナが見るには…え〜と…」
と、ナナイの方を見る
「ナナイ=クレッセント、です」
「よろしく、ナナイ君。んでナナイ君の使い方なら、オリハルコンが一番だって事なんだと思うぜ?」
だろ?とウィナさんに聞くヴァンさん
頷き、答えるウィナさん
「…それに、この子もまだ貴方と戦いたがってる」
「え?」
ナナイに向きながら、ウィナさんは言う
「そう、感じたから…」
と、刀を見ながら言うウィナさん
「さて、と!これから作り始めて…明日の朝くらいには完成してるから、それ位に取りに来てくれよ」
ヴァンさんが私達に伝える
「…大丈夫。この子は、責任を持って私が強い子に仕上げる」
と、二人は力強く頷く
そんな二人をみて、私とナナイの目が合う
恐らく、私達の考えてることは同じだろう
「…もう一つ、お願いできませんか」
・・・
もう一つのお願い、それは二人のお手伝いだ
ウィナさんは妊娠しているらしいが、それでも鍛冶をしてくれるのだ
それに、あそこまで刀を褒めてくれたのだのだから、なにか出来ないか、と私達が考えた
「あ〜…ならナナイ君はタタラ踏むの手伝ってくれないか?」
とヴァンさんについていくナナイ
「あの、私は…」
「…手伝えることがないから、その…」
ウィナさんが申し訳なさそうにいう
確かに、非力な私に出来ることは無いだろう…
と、棚に少し埃がついていた
一部取れていることから、掃除のやりかけだったのだろう
「なら、家事のお手伝いは出来ませんか?」
「…でも、貴女はお客様だし…」
「でも、妊娠してると色々大変ですよね?…もし良かったらなんですが…」
と、私はウィナさんに聞いてみる
「…なら、この部屋の掃除、お願いしてもいいかしら?」
「喜んで!」
と、私は早速掃除を開始した
・・・
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう〜ゲヘナちゃん」
「ありがとう」
時刻は3時くらい
午後のお茶の時間近くになったので、台所を借りて、私は持参したお茶を入れてヴァンさんとナナイに振舞う
ちなみに、もうウィナさんには振舞った後だ
「お、このお茶美味いな!」
「…ゲヘナのお茶は美味しいんですよ」
大げさにも思えるリアクションをとったヴァンさんに、ナナイは普段通り返す
「あ、そういえば…タタラ踏んでるとき辛そうだったけど大丈夫か?」
ナナイがまた無茶をしたのだろうか?
ヴァンさんが心配して聞いている
「大丈夫です」
「でもy「大丈夫ですよ」
ニコリ、とヴァンさんに返すナナイ
「…ナーナーイー?」
「…本当に大丈夫だよゲヘナ」
私が問い詰めようとしたら、少しよそよそしくなるナナイ
「まぁ、本人が大丈夫ってんなら大丈夫なんだよゲヘナちゃん!」
と、ナナイを庇うヴァンさん
「だろ?」
「…はい!」
なんか二人とも仲が良いみたいだ
私は少し嫉妬した気分と共に、嬉しい気持ちに浸っていた
・・・
「さて、そろそろ晩飯の準備しないと…レンカも帰ってくるしな」
お茶をしながら雑談をしていた時、ヴァンさんがふと言う
「あ、もしよろしければ私に作らせて貰えませんか?」
「え?ゲヘナちゃんが作ってくれるの!?」
と、ヴァンさんが凄くはしゃいでいる
ここまで喜んでくれるなら、腕を振るう甲斐もありそうだ
「何がいいですか?」
「ゲヘナちゃんが作ってくれるなら、なんでも…グハッ!?」
ヴァンさんが喋っている最中に、作業から戻ってきたウィナさんに突っ込みを受けていた
「うぃ、ウィナさん?…嫉妬デスカ?」
「うるさい…」
はしゃいでるヴァンさんにムッとしたウィナさんが突っ込みを入れていた
なんだか、微笑ましい光景な気がする
「で、どの位出来たんだウィナ?」
「…工程の半分は終わって、ゴハンの準備をしようかなって」
「おいおい、仕事の時は俺が準備するって言ってるだろ?」
でも、とウィナさんはヴァンさんに言おうとする
女として、その気持ちはわかる
好きな人には、やっぱり自分で作ってあげたいと思うものだ
「ウィナさん、ヴァンさんと話してたんですけど…私に作らせて頂けませんか?」
「…でも、掃除もしてもらったのに…」
「その代わり、実はお願いが…」
そう、ここで話をしていて、つい忘れていたことがあったのだ
「一晩、泊めていただけませんか…///」
「「え?」」
「…あぁ。そういえば宿をとってなかったね」
「教会にお願いしにいくのも忘れてたし…もし、大丈夫なら、なんですが…」
―――そう、私達は今日の寝床の事を忘れていたのだ
ライカさん達からは視察としてここに居ることになっているが、それは建前
本当は旅行でゆっくりする事になっている
ナナイには、旅行のフリをした査察になっていると言っているので、宿も自分で取らないといけない事に不審がられてはいない
「あちゃー…。俺は良いけど、ウィナはどう?」
「…そうね。なら、その代金にご飯お願いしていいかしら?」
と、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべてウィナさんが言う
「はい!ありがとうございます!!」
「…ありがとうございます」
と、泊めて頂けるのだから、なにか美味しいものを作りたい
そう思い、私は自分の一番得意な料理を思い浮かべる
「あの…クリームシチューは好きですか?」
私の得意料理、それはクリームシチューだ
孤児院に居た時、父さんや皆によく作っていた
みんな美味しい、美味しいと言って食べてくれていたのは、数少ない私の自慢なのだ
「オッケーオッケー!おれっちは大丈夫だぜ!」
「…私も大丈夫よ」
そうと決まれば、早速作らせて頂こう
「ただいまー!」
と、その時だった
玄関の方だろうか、小さい女の子の声が聞こえてきた
「…レンカ、お帰り」
「ただいま!ママ!!」
そこに居たのは、可愛らしい小さいサイクロプスだった
「あ、お客様?…初めまして!レンカです」
ぺこり、と音がしそうな勢いでお辞儀をしてくれるレンカちゃん
「初めまして、私はゲヘナって言います」
と、私もお辞儀を返す
「…ナナイ、です」
と、ナナイもぎこちないが、軽く会釈をする
「どうだい二人とも!ウィナに似て可愛いだろ!?」
と、とても誇らしげに言うヴァンさん
「レンカ、今日も怪しい男に声掛けられてないな!?クラスの男子どもにちょっかいかけられてないよな!?」
大丈夫だよ〜、とレンカちゃんは楽しそうに言っている
「…親バカ」
「ん?ウィナなんか言った?」
ウィナさんに聞き返すヴァンさん
うん、私から見ても親バカだと感じた
それと同時に、とても、暖かい家庭なんだな、とも感じたのは言うまでも無いんだと思う
・・・
「それでは、食事の前に、感謝の祈りを…」
「へ?」
それは、いつもの癖で祈りをしようとした時だった
不意に聞こえる、ヴァンさんの驚きの声
「…ゲヘナ。ここではしなくていいと思う」
「あ…」
そ、ここはレギンスさんの家
つまり、そういった事は余計なことなのだ
「ご、ごめんなさい!…つい、いつもの癖で…」
と、私が謝ったときだった
「お姉さん、シスターさんなの?」
と、首をかしげて聞いてくるレンカちゃん
「…うん。私は、元々シスターだよ」
「そうなんだ!」
と、なにか嬉しそうに言うレンカちゃん
「…大丈夫。私は気にしてないから」
「そうそう。誰が、何を信仰しようと関係ないよ。それにさ、それが人を支えることになるんだから、さ」
そう、ヴァンさんとウィナさんは言ってくれた
「…ありがとうございます」
私は、なんとかお礼を言うことが出来た
「…すみません。少し外の風に当たってきます」
「ナナイ?」
と、突然、ナナイが外に行ってしまった
…もしかして、教団にいたときの事を思い出して…
私も行こうとした、その時だった
「まぁ、一人にしてやろうぜ」
と、ヴァンさんが、私に静止をかける
「どうしても必要なら、きっと向こうから言うさ。…そんな気がする」
「でも…」
「…心配なのはわかるけど、待つことも大切よ」
ね、とウィナさんは語りかける
「…そうです、ね」
そうして、私達は食事を続けることにした
11/07/30 01:06更新 / ネームレス
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