連載小説
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岩盤浴
 
〜油断してると勘違いする〜

鍛錬終了、今日も良く頑張った。これなら次の大会も良い成績を望めるだろう。しかし、毎回思う事が・・これは私だけの事では無いと思いたいのだが・・・。

・・・・スンスン・・

・・・、汗臭いな。手の肉球の隙間やら腋の下やら汗臭い。特に毛が密集してる箇所はなんとも言えない。武人の前に女として、これはどうしたもんだか。もう少し清潔感を出さないと、いざ試合の時に匂いが気になって集中出来ないなんて事もありうるかも知れないしな。ふむ、どうしたもんだか・・・・。いっその事・・脱毛・・・いやいや、流石にそれだけはダメだ。毛の無い人虎だなんて末代までの恥。

「どうすればいいのやら・・・」

ああダメだ・・、一度でも匂いが気になったら収まりがつかない。はっ!?そうだ、金玉の湯に行けばなんとかなるかもしれん。確か、あの銭湯には良い香りがするシャンプーが売ってるはず。と、誰かが言ってたな。藁にも縋る思いだ。すぐにでも行こう。

「銭湯なんて初めてだな・・・、少しだけワクワクしてくるぞ」

善は急げ、そうと決まれば早速用意だ。噂になるほどの銭湯だから期待出来るだろう。私をがっかりさせないでくれよ?ん・・?

「・・・・・うっ、肉球の隙間に汗が溜まって・・」

とりあえず急ごう。このままだと気になって気になって夜もおちおち寝れん。




「・・・ここが・・あの金玉の湯なのか。噂に違わぬ立派な銭湯だ。見た目が古い時代を思わせる姿も素晴らしいじゃないか」

うむ、見た目は満点だな・・・中はどうだろうか。

「いらっしゃーい、あら?初めての御客様ね?」

「ああ、噂を聞いてやってきたのだ」

「嬉しいわ〜♪それじゃあ、ゆっくり寛いでいってね♪」

ふむ、なかなか愛想の良い女将ではないか。だが、・・・その、なんだ。あの尻尾の数では暑苦しくないのだろうか?ひー、ふー、みー、よー・・・・九つ。い、いかん・・・また手汗が。早く入ろう。

「ごゆっくり〜」



ほぉ・・・、初めて銭湯に来たが中はこうなっているのか。これなら鍛錬後に暇が出来れば通ってみるのも良いな。ふむ・・何か忘れてる気がする。そうだ、肝心な事を忘れていた!ええと、この小窓を叩けば女将を呼べるのだな。

-コンコン-

「す、すまんが・・・シャンプーをくれないか」

「はぁ〜い、どうぞ〜」

「ありがとう」

どれどれ・・匂いは。

「・・・・ッ!?こ、これは・・なんという自然の香り。まるで大自然の中で日光浴をしてるかのような錯覚を覚える!」

もう我慢出来ん!早く風呂に入るぞ!服なんぞ適当に放り込んでおけ!さぁ、いざゆかん!



-カラララララララララ・・・・-


「ほぉ・・・これはなかなか・・・」

入ってすぐに大浴場があるとは・・、20人は浸かれそうだ。ふむ、奥には定番の電気風呂に水風呂か。む?まだ奥があるみたいだな。なっ・・五右衛門風呂だと!?ふ・・・ふふふふふ・・やるではないか。私好みの風呂が設置されているとは僥倖だ。他には何が・・・砂風呂に岩盤浴か。砂風呂は・・体毛が多い私にとっては鬼門だな。毛に絡み付いた砂を落とすだけで大変な作業になる。ならば後ほど岩盤浴とやらに入ってみるか。

「まずは汗を流さないとな・・」

んっ・・、まずは冷水で汗を流し、ゆっくりと温度を上げて。

「こんなもんだろうか・・・、スンスン・・・まだ少し匂うな」

やはり湯で洗い流すだけではダメか。では・・・・これならば!

「ふふんふ〜〜ん、あぁ・・いい香りだ。この匂いを嗅いでるだけで・・故郷の大陸を思い出す」

まずは・・手に染み込ませて互いの手を揉み解し・・

「ん〜〜〜・・いいぞぉ♪芳醇な自然の香りが・・クフゥ〜〜〜ン♥」

ハッ!?ち、違うぞ!別に気持ち良かったわけではない!そ、そう!この香りが気に入っただけだ!

「平常心・・・平常心・・・」

取り乱すなんて私らしくもない。だが、なんだ・・この安心感は。も、もう少しだけ染み込ませよう・・・。

「キュフゥ〜〜〜〜ン♪」

はぅわっ!?違うのだ!今のは私では無い!う、嘘じゃないぞ!処女賭けてもいいんだぞ!

・・・・、すまない。本当は今のは私なんだ・・。うぅ・・この匂いが悪いのだ!人虎たる私がなんとも情けない声を出してしまったものだ。猛省せねば!

「気を取り直して体を洗おう・・特に汗臭い腋の下辺りは念入りに・・」

んんむ・・・気持ちいいのだ。そして爪の隙間をご〜しごし、よし!綺麗になったな。心成しか毛並みも良くなったような気もする。さて次は、お楽しみの岩盤浴だ。


-カチャッ・・・-

小さな部屋だな?ここは一体何だ?

「・・む?このガウンのような物は何だ?・・・ん、何々?・・・・・なるほど、これを着る事によって新陳代謝を・・・、ふんふん、・・・・?後は意味がわからん。とりあえずこれを着て奥の部屋に入ればいいんだな」

むぅ・・・毛が・・絡まりそうだ。私のような種族に長袖は少々辛いものがある。体毛が・・・その、なんだ・・多いからな。


-カチャッ・・・-

「・・・・!?」


床に大理石ベッドだと!?まさかここに寝ろというのか!?むむむむむ・・・、なんという贅沢感。早く寝なくては。

「・・・」

やはり少し硬いな。このガウンを着ていなかったら毛が摩れて床擦れを起こしそうだ。だがリラックスできる。それに、この適度な湿気と温度は故郷の森を思い出す。あの鬱蒼とした森の中でただひたすらに身を潜め武芸者を待ち番となる雄を・・・・

「・・・・・・Zzz」








「ぉ〜ぃ・・・起きるにゃぁ〜・・」「起きませんわね?」「大丈夫じゃないの?人虎は鍛えてるし平気なんじゃない?」





「・・・かれこれ一時間だけど本当に大丈夫にゃのかー・・?」「流石に一時間は寝過ぎでしょう・・」「まぁ、人虎だから・・」「それはもういいにゃ!」



「ぅ・・うぅ〜〜〜ん・・ん・・」

なんだか頭の上が五月蝿い。気持ちよく寝れないではないか。

「なんだか魘されてるようだぞ?」

「・・・脱水症状にでもなったのかしら?」

「それはないでしょ。私達は病気とは縁が無いのですし」

「でも一応涼しい場所に運んでおきましょうか?いくら私達でも何時間も居ていい場所ではありませんし」

「それもそうですねー」

んんん・・・・、誰だ。私の睡眠の邪魔をするのは。ん、なんだ・・・なんだか急に空を飛んでるような感覚が?これが、無の境地というやつか・・とうとう私も悟りの道に到達したのか・・・・Zzz




「ここで寝かせておきましょ。それじゃあもう一度浸かりに行きましょうか」



んん、なんだ?突然肌寒くなってきたぞ。これはもしや試練の道なのか。そうか、私もまだまだ未熟という事か。悟りの道にはほど遠い・・・・Zzz



「・・・・ぃ、だ・・・・ぶか・・?」


「ぅぅぅぅ・・・・」


「・・・水・・ろう・・・・、あれ・・・と・・」


頼むから静かにしてくれないか。もう少しで何かを極めれそうなんだ。そう・・・今こそ!って、何だ!?何故突然に洪水が押し寄せてくるのだ!?




「・・・・んんんんんんんんんんんっ!?」



「良かった・・、目を覚ましたか」

「んぐっ!!・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・一体・・・ゴホッ・・私に何をした!?」

「何を・・って・・、そりゃもちろん口移しで水を・・」

なんだと!私の唇に気安く口移しをするとは・・許せ・・・・ぁ。

「・・・貴様、良い体をしているな」

良く見ればこの男・・なかなか良い筋肉を持ってるではないか。それもかなり上質な筋肉だ。一朝一夕で作られた体では無い。

「ライフセーバーやってるからなあ」

ライフ・・・セーバー?

「一体どんな職なんだ?」

「聞こえはいいが海水浴場で救助隊をしてるただのボランティアチームさ。もっとも今じゃ意味ないんだけどな」

まぁそうであろうな。今の今まで海難事故なぞ一度たりとも聞いた事が無い。だが・・・。

「意味はあったぞ」

「無い無い、暇な時に鍛える以外に意味は無いって」

むぅ・・・鈍い男だ。先程、口移しと言って私の唇を奪っておきながら気付かないとは・・この朴念仁め。

「私の唇を勝手に奪って人工呼吸しようとしたのであろう?お前のおかげで目覚めたのだぞ。忘れたとは言わせん」

「・・・・・ぁ」

何が、「・・・・・ぁ」だ。それに何故私はこんな所で寝ていたのだ。確か岩盤浴に入ってたはずだが?

「なぁ、私は何故ここに居るのだ?」

「ぇ?あんたが脱水症状かも知れないって言われたから水を飲ませたんだけど・・」

なっ!?私が脱水症状だと!?そんな事があってたまるか!第一、魔物娘がそんなに軟な体をしてるわけないだろう。そうか、これはあれだな。それを口実に私にその素晴らしい肉体を見せて口説こうと思っているのだな。なかなか初心なやつめ。

「わかってるわかってる、全て言わなくても良いぞ」

「いやだから俺は・・」

全くいつまでももどかしい男だ。本当は私の相手をしたくて体が疼いてるのだろう。ここは多少強引だが私の道場にお持ち帰り・・いや、連れて行こう。ふふふ・・・私が眠ってる間に唇を奪った代償は一生償ってもらおう。

「さぁ行こうか、私の道場へ♪」

「ぇ、ちょっと待って!?なんで腕掴んで・・・って、すっげー力!!」

「今日からたっぷり私の稽古相手になってもらう」

「・・そ、それはどういう意味で・・・?」

「好きに想像するといい♥」

くっくっく・・・、急に顔を赤くしおって本当に初心なやつだ。さぁ、たっぷり頑張ってもらおうか。

「・・・・あ」

「ん、どうした?怖気づいたのか?」

「いや、なんかさ・・手汗凄いけど大丈夫か?」







              『私が一番気にしてる事を言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!』


15/06/07 22:06更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
生きてます・・・生きてます・・生きてまs。

汗掻き人虎さんカワユス。岩盤浴に入って故郷思い出して寝ちゃう人虎さんカワユス。肉球の隙間に溜まった汗を気にする人虎さん萌え!!

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