ボイラー室
〜縁の下の力持ち〜
どいつもこいつもなんで俺に喧嘩吹っかけてくるんだ。俺は喧嘩してるほど暇人じゃない。って、思ってる傍からまた来やがったか。
「熊ああああああああ!今日こそはお前をぶっ飛ばして地区最強の座を貰うぞ!」
「・・・あー・・はいはい、もう好きにしてくれ・・」
「ぶっ飛べやぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」
おっと、あぶねえな。もう少しでどてっ腹にぶち込まれるとこだったな。
「避けてんじゃねえよ!」
「ほぃ」
ゴンッ!!と変な音を額から出した後に見事に地面に沈む馬鹿を放置して目的の場所に悠々と歩く。
「あー、こんな事になるんだったら空手なんてするんじゃなかったなぁ」
従姉妹にサラマンダーの姉ちゃんが居たせいで昔っから無茶苦茶鍛えられたせいか、自然と空手道場に通うようになってしまったが・・これが失敗だったなあ。俺は普通に空手をしたかっただけなのに、いつの間にやら俺を倒した奴がこの地区最強の男になれる、と誰かが広めたらしい。まぁ、だいたい誰がこんな噂流したかはわかってるけどな。
「これ・・絶対に従姉妹の姉ちゃんの仕業だな」
姉さんの口癖は確か・・・『一日中興奮するぐらいの闘いをしよう!』だったよなぁ。なんちゅう傍迷惑な事をしてくれたんだか。俺は静かに人生を送りたいんだから変な事はしないでくれと言いたい。
「・・・むさ苦しい熱血空手馬鹿なんて相手したくないってのに・・」
暑苦しいのは道場の中だけで十分だっつうの。やっぱ俺としてはだなぁ・・、こうムッチムチで色気ムンムンのお姉さんとだなぁ・・うへへへ。
「ママ、あのお兄ちゃん変な顔ー」
「大丈夫よ、いつもの事だから」
「・・・・・・・・・」
今の超傷付いたんですけど!傷付くんですけど!!俺の心にザックリと来ちゃいましたよ!いつもの事とか言わないでくれ、そこは黙ってスルーするのが礼儀でしょうよ!流石に今のは殴られるより効いたわ・・・。
「はよ行こ・・・」
「いらっしゃ〜い♪あら・・熊ちゃんじゃないの」
「そろそろ熊ちゃんは勘弁して欲しいんだけど・・」
番台の妖狐姉さんはいつ見てもムッチムチだな。眼福眼福。
「・・・熊ちゃん、また喧嘩してきたのね?」
「エッ!?シ・・シテマセンヨー?」
お、俺は悪くないぞ!?向こうから勝手に掛かってきただけなんだからな!せ、正当防衛だぞ!しかも何でしっかりばれてんだよ!?
「ク〜〜〜マ〜〜〜ちゃん♪こっちおいで〜♪」
「・・・・は・・・・はぃぃ・・・」
黙ったまま番台の姉さんの前に立つ。ぁ、やばい・・あの手は・・あの指の形は・・超デコピンが来r
-バシィィィッ!!!-
「んがあああああああああああああああああああああああっ!!」
「もういい大人なんだから、偶には話し合いで解決なさいよ?」
番台さんの超デコピンはいいのかよ!・・とか絶対に反抗出来ない。反抗しようもんなら、これ以上の何かが飛んできそうだし。
「さ、早く入ってきなさいな」
「・・・ふぁ・・・ふぁい・・」
くぁー・・・デコすっげーズキズキして痛い。まさか骨折とかしてないよな?してないと思いたい。
「おー、熊じゃねえか。やっぱさっきの叫び声は熊か」
「うぃーす、いやぁー・・聞く耳持ってくれなくてさあ」
「どうせまた喧嘩吹っ掛けれたんだろ。お前は自分から喧嘩しないしのー」
ここに良き理解者が居る、もう感動して涙が出そうだ。しっかし・・デコ痛いなあ。ま、ここの薬湯に浸かってればすぐに痛みが引いていくけどな。
-カララララララ・・・・・-
「ふぃー、・・まずは薬湯で痛みを和らげるか・・」
んじゃ、のんびりと。
「こりゃ!!先に掛け湯してこんかい!」
薬湯に浸かってたじっちゃんに桶でデコを叩かれてしまった。
「・・・ッツーーーッ!?」
「・・ん?何しとんじゃ?」
「な、・・なんでもねぇ・・」
寄りにも寄ってデコは勘弁してくれよ。掛け湯忘れてた俺も悪いけどさ。
「ふぅ・・、痛みが引いていく・・。一体何の薬入れてんだろな?」
ま、痛みが引いてくれりゃなんでもいいけど。良し、痛みも引いたし露天入ってくっかー。
「・・・(誰か露天風呂に来たわよ♪)」
「・・・(ぁ、熊ちゃんだわ。熊ちゃんって結構いい身体してるのね)」
「・・・なんか妙な視線感じるな?やっぱ電気風呂に入ってくっか」
「「・・・((あぁん!いっちゃだめぇぇーー!!))」」
なんかよくわからんが、あのまま露天風呂に居たらとんでもない目に遭いそうな気がした。そんな気がしただけなんだが。
「んー・・・、今日はなんか良くない事が起きそうな気がするし、早めに帰るとすっか」
-カララララララ・・・・・-
「・・お?熊っち早い上がりじゃねえか?」
「あ〜、なんか嫌な予感するんで早めに帰ろうと思ってなー」
はよ身体拭いて帰ろう。さっきから嫌な予感がしまくって怖くなってきた。
「じゃ、お先」
んじゃ、帰る前にサイダー飲んでいこう。
「サイダー一本貰っていくよー」
「はぁ〜い♪」
んぐ、・・・んぐ・・。うまぁー!!やっぱ風呂上りはサイダーっしょ!!ああ、うめぇ。このサイダーの冷たさが風呂上りを実感させてくれる。ここのは瓶だから余計に美味く感じるな。
-ガチャッ・・・パタン-
「あちゃぁ〜〜・・・油で真っ黒になっちった」
ん?なんでボイラー室の扉から子供が入ってきたんだ?って、油で真っ黒じゃねえか!着てる服もそこらじゅう煤と油で汚れちまってる。すっげー汚い!
「おいおい・・・、ボイラー室で遊んじゃいかんぞ?子供は外で遊ぶのが一番だぞ。しかも女の子なのにこんなに油まみれになっちまってパパとママが泣くぞ?」
「・・・・・・」
「ぁ・・・熊ちゃん、その子は」
「ほらほら、番台さんに頼んで洗ってもらいなさ・・・・・げぶぁぁっ!?」
「このトンマ!!アチシはこれでもボイラー技師なんだよ!!」
お、俺の体が空を飛んでる・・、スローモーションでゆっくりと・・。
-バリィッ!!-
あ・・・ぅぁぁ・・・、視界が急に真っ暗に・・。ぁ、飲み掛けのサイダーが落ち・・。
-ゴトン・・・-
「あ〜ぁ・・、熊ちゃん見事に頭から天井に刺さっちゃったわね・・」
「アチシを子供扱いすっからだ!」
「天井の修理代は自己負担で出してね♪」
「・・・えっ?」
「だ し て ね ♪」
「・・・ぁ・・あいさー」
ぅぅ・・・、俺は一体・・どうなっちまったんだ。確かサイダー飲みながら空を飛んで天井に・・・ハッ!?
「気が付いたのかい?わりぃねえ・・、つい手加減するの忘れちまって」
さ、さっきの子供?もしかして俺はこの子供にぶっ飛ばされたのか!?冗談だろ?
「ネーちゃんを怒らすなんて熊ちゃんも命知らずねー」
ね、姉ちゃん?
「アチシはドワーフのネールブ・ファル・シュートリィってんだ。長ったらしいから皆からネーちゃんって呼ばれてるんだー」
ド、ドワーフだったのか・・・。しかしすげーな、俺を一発で天井までぶっ飛ばすなんてな。体格差が倍ぐらいあるってのによ。
「おーい、聞こえてるかー?」
「あ・・ああ、聞こえてるよ。もう大丈夫だ」
どうやら長椅子に寝かされてたみたいだな。あー酷い目に遭った。天井突き破るなんてコントじゃあるまいし。でも、やっぱ魔物娘はすげーな。こんなに力強いってのに、絶対に余計な暴力を振るわないってのは本当に尊敬出来る。お、怒らせない限りは・・・。
「ん?アチシの顔になんか付いてるのかい?煤も油もきっちり拭いたと思うんだけどなー」
「いや、俺と違って尊敬出来る女性と思ってな・・」
「なっ!?ア、アチシが尊敬される女性だなんて無いっての!照れるじゃないか!」
-バシィッ!!-
「ヘブゥッ!!」
あああ・・、景色が真横に走っていく・・・。また俺の体が空を飛んで・・。
「ああっ!?手加減すんの忘れてたーー!」
「ネーちゃん、頑張って修理してね♪」
「・・・アイサー・・・」
今なら解る・・・、俺はネーの姉さんに会う為に今まで空手してきたんだ。まだまだ人としても実力にしても上には上が居るって事を身を持って実感する為に俺は・・・。そぅ・・・横っ飛びに空中を飛びながら・・・尊敬するネーさんを見つめ・・。
『一生御供させてください!ネールブ姉さん!』
15/02/08 17:43更新 / ぷいぷい
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