連載小説
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取り戻した心と新しい世界
今日もサバトは通常運転。魔女達は忙しなく動き、サバト主であるバフォメットは自室である書斎で書類整理。そんな中、廊下からパタパタと誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。

  バタン!!

「バフォ様〜、お仕事終わったよ〜」

「・・・・・・ミホや、何度も言うがノックぐらいはするもんじゃ」

「はぁ〜〜ぃ・・・」

ミホと呼ばれた魔女は少しばかり項垂れたが気を取り直しバフォメットに近況を報告する。

「先月のサバトでの出資報告書作成、新しい信者の名簿作成、次回のサバト会場の予約、今月の魔女達の活動報告書の作成終わりました〜」

「・・・・・・ミホ、お主の仕事ぶりは凄まじいのぉ〜」

「だ、か、ら・・ミナと遊びに行ってもい〜い?」

「もちろんじゃ、お主ほどの魔女がうちのサバトに居るのは嬉しい限りじゃのぉ〜、・・・他の魔女達も見習ってくれんかの・・・」

「それじゃバフォ様、いってくるねー」

「おお、気をつけて行くのじゃぞ」

ミホは急いで書斎を飛び出し、ミナと呼ばれた魔女の元へと駆け出す。パタパタと音が遠ざかるのと反対に今度は控え目にドアがノックされる。

「うむ、入れ」

「リーズ様〜、デザートの御用意が出来ましたよ〜。こちらでお召し上がりになりますか〜」

入ってきたのはホルスタウロス。サバトには似合わない種族だが、ここで魔女達やリーズと呼ばれたバフォメットの健康管理を担っている。

「そうじゃな、ここで食べるとしよう」

そう言われたホルスタウロスは一度廊下へと出て再度書斎に入る。手に巨大なチョコパフェを持って・・・。

「おおお、今日は好物のチョコパフェなのか。はよう近くに・・ジュルリ・・」

ホルスタウロスはゆっくりとした歩みで書斎の机に近づきリーズの前に静かに置く。リーズの顔が隠れるほどの大きさだった。

「むふふふ・・、旨そうじゃな。それはそうと、今日はどうしたのじゃ?本来なら厨房に居る時間じゃろう?」

「いえ〜、リーズ様に感謝のお言葉を〜」

ゆっくり会話するホルスタウロスに首を傾げ何の事かわからない、とアピールする。

「リーズ様のおかげで〜あの子達が元気になったから嬉しくて〜」

「お主はそのような事をまだ考えておったのか。やはり姿は変わろうとも母なのじゃな」

「はぃ〜、私はいつまでもあの子達の母ですし〜、サバトの子達もうちの子同然と思ってます〜」

リーズはホルスタウロスの言葉に耳を傾けながらパフェを食していく。ホルスタウロスはチラリと書斎の窓から外を見ると二人の魔女が手を取り合って外へ駆け出していくのが見えた。

「あやつらはもう自由なのじゃ、気にする必要はあるまい」

「元気になって・・本当に良かった・・」

ホルスタウロスの頬に一筋の涙が流れた。その涙は、これからの未来を祝福するかのように輝く。
これから紹介されるお話はミホとミナの過去、そしてこれからの未来。














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深夜1時。街灯も無く、民家もまばらな裏道を歩く女性が居た。女性の名は柳川 美穂(やながわ みほ)。片手にはハンドバックをしっかり握りしめ人気の無い裏道を突き進んでいく。歩く事15分ほど、美穂は肩を落とし立ち止まる。

「・・・・今日も現れなかった。・・いつか、・・・いつか絶対に殺してやる・・」

そう言うとハンドバックの中に隠していた包丁を取り出し深く考えこんだ。

「あれから2年・・。どうして・・私達がこんな目に・・」

それだけを言うと美穂は回れ右をして自宅へと戻る。自宅へ戻った美穂は静かに二階に上がり一番奥の部屋へと移動する。美穂の部屋は二階に上がってすぐの部屋だったがそこを通過し、奥の部屋のドアをゆっくりと開けた。部屋には美穂に良く似た女性が寝ていた。妹の美奈だった。美奈は規則正しい寝息で静かに寝ている。美穂は美奈の頭に軽く手を置き呟く。

「ごめんね・・、今日も見つけられなかったよ。でも、・・待っててね。いつか絶対に・・・」

美穂は音を立てないよう静かにドアを閉め自室に戻った。ベットへ身を投げ深い眠りに就きたかった美穂だが、思い出したかのように急いでハンドバックの中の包丁を取り出した。包丁を見つめ、これから実行するであろう計画を頭の中に練っていく。それは、・・・一人の男を殺す事。美穂の頭の中にはそれしかなかった。こんな危険な思想を持ち始めたキッカケは美奈が帰宅途中に強姦され、体のあちらこちらをナイフか何かで刺された挙句に先ほど歩いていた薄暗い裏道に放置されていたのが原因だった。それ以来、美穂は妹が襲われた時間になるとハンドバックに包丁を隠し事件のあった裏道を歩き、いつの日か犯人を刺し殺してやろう、と。妹の美奈はというと、刺し傷などの外傷はほとんど消えたが強姦をされたショックと外傷による二重のショックにより昏睡状態になってしまった。美奈の意識が回復しない以上、犯人の特定が出来ず警察もなかなか動かない。元より警察を当てにしていなかった美穂が取った行動は包丁を隠し深夜に徘徊する、という危険極まりない事になった。美穂と美奈は両親と共に暮らしているが、父は仕事が忙しく月に数回しか帰宅しない、母は美奈の看護を熱心にしていたが去年、母も看護疲れで寝たきりになってしまった。

「ゆるさない・・ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない・・・・殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる・・」

美穂はそれだけを言うと包丁を机の引き出しに隠し、ベットへと身を沈めた。

翌朝、私は母と美奈のオムツを交換し、出社する。昼になると一度帰宅し母の食事の世話、妹のオムツと健康状態のチェックを済ませた後、再度出社する。この時ほど会社が近所で助かったと感謝した。会社のほうも事情を察して僅かばかりの遅れなら遅刻扱いにはしない、と約束してくれている。そして昼の三時を過ぎた頃に妙な噂話が耳に入った。

「ねぇねぇ、最近さ〜、深夜になると裏路地を誰かがウロウロしてるらしいよ?」

「知ってる〜、詳しくは知らないけど決まった時間に出てくるって聞いた〜」

・・・どうやら美穂の事だ。きっと誰かが不審がって通報したのだろう。まだ誰かが判別出来てない今ならやり過ごす事が出来ると判断した美穂はしばらく外出は控えようと決めた。今日は家で過ごそう。そして定時、何食わぬ顔で帰宅し、スーパーで買い物を済ませ帰宅する。日課のオムツの交換、皆の食事の用意、そして洗濯。一通り済ませると何かを思い出したかのように外出する。

「今日は父さんが帰ってくる日だったわ。食材がちょっと足りないかも・・・」

父が帰宅するにはまだ早い時間だったがもう一度スーパーに向かおうと足を運ぶが、途中に奇妙なパチンコ店を見かけた。

「え・・?こんな店あったのかしら?」

さきほど通った時には何も無かったはずの空き地にパチンコ店が建っていた。

「道・・間違えてないわね?」

ちょうどその時、向かいから帰宅途中のサラリーマンが歩いてくる。そしてパチンコ店を一瞥すると何も無かったように過ぎ去っていく。

「・・・・・やだ、私まだ二十代なのにボケちゃってるなんて・・」

あのサラリーマンは店を見ていた。そして興味無さそうに去って行った。違和感を感じる事も無く自然に通り過ぎて行った。そう思った時、少しだけ恥ずかしかった。でも、美穂はパチンコに興味を持っていない。知らなくてもいいと考えたが店に張ってあったポスターを見た瞬間、窓ガラスに張り付いていた。

「やだ!何これ!すっごく可愛い〜♪」

ポスターには小さな魔女っ子達が踊っているイラストが描かれていた。魔女達の中央には山羊みたいなコスプレした女の子が居る。ファンタジーのような、メルヘンチックなイラストに目を奪われた美穂は鼻息荒く眺めている。美穂は極度の可愛い物好きだった。幼い頃は妹の美奈と一緒に可愛い物を集めるのが趣味だった。それは今でも同じ。食い入るように眺めていると店のドアが開いた。

「あの、お客様。当店の前で怪しい事は御遠慮願いたいのですが・・」

店から出てきた店員であろう女性が苦笑いしながら言う。

「・・・・・・・・・・」

美穂は唖然としていた。出てきた女性の美しさに目を離せなかった。流れるようなストレートの銀髪、モデル顔負けの顔立ち、均整の取れたプロポーション、胸なんて何を食べたらそこまで育つの?と言いたくなるようなサイズ。同じ女性として負けたと感じた美穂は肩を落とした。がっくりする美穂に店員が話しかける。

「御客様?そちらのポスターを眺めていましたが、もしかして譲って欲しいとか言いませんよね?」

「今すぐ譲ってください!!」

言い切った。妹の部屋に飾ってあげようと思った美穂は店員に頭を下げる。

「どうしても今すぐ欲しいのです。お願いします!」

必死に頭を下げるも店員はお断りしますの一点張り。そのまま店に戻ろうとする店員を追いかけ同じように店に入る。

「・・・御客様。どうして店の中に・・?」

「どうしても欲しいからです」

店員は黙ったまま考え込む。そして、何を思ったのか玉が山盛り入っている箱を美穂に押し付けた。

「あのポスターはマジカル☆キャンディという台のポスターです。この玉を御使い御存分にお楽しみください」

そう説明すると足早にカウンターに去っていった。美穂は何故玉を押し付けられたのかわからなかったが、店員の言う通りにマジカル☆キャンディの台を探し始めた。台を探している美穂を他所に店員はカウンターの中で必死にコインを掻き回している。

「・・・あの子が居ない、・・・どうして・・(………まさか、あの女性は!!)」

店員がマジカル☆キャンディの台に座る女性を見た時、嫌な想像が頭の中をよぎった。

「まさかとは思うけど・・あの子の仕業なのかしら?」




マジカル☆キャンディに座った美穂は早速打ち始める。一回動く度にキャーキャー叫ぶ。画面の中では、どこかの御屋敷だろうか、魔女達がちょこちょこ走り回ったり、お掃除したり、中にはこっそりさぼって昼寝してたりと演出に飽きが来ない。まるで本物を見てるような感覚すら覚える。だがそんな楽しい一時も箱の中身が半分を切った頃、美穂は少しだけ悲しい顔になった。

「小さい頃は美奈とこんな感じに遊んでたなぁ・・」

そんな思いを持ちながら打っているとリーチが掛かった。

「ぇ?・・これどうしたらいいの?」

訳がわからないまま美穂は画面を見つめる。少しづつ少しづつ動きが遅くなりハズレになった。

「同じ絵柄が揃えばいいのね」

一人納得していると画面の中央にポスターで見た山羊の格好をした小さな女の子が現れた。

[此処で真打ちが登場なのじゃ〜〜]

[ほ〜れ、ほれほれほれ〜〜]

小さな山羊の女の子が鎌を振り上げ次々と魔女達を飛ばしていく。

[まだまだ行くぞぃ〜〜・・・・・これで〜〜〜〜〜]

[当りじゃーーーーーー!!]

宣言した通りにいつのまにか絵柄が揃っていた。魔女っ子じゃなく山羊の格好をした女の子だった。

「は、初めて当っちゃった・・・」

[当ててくれた御褒美なのじゃ、受け取るのじゃ♪]

 カラーーーーーン!

下の小さな皿に一枚の金貨が出た。つまんで見るとさっきの山羊の子の顔が彫られている。美穂は動けなくなった。なんでパチンコして金貨が出てきたの!?と。一人混乱している所に店員が近づいてきた。

「おめでとうございます、・・申し訳ありませんが、その金貨の確認をさせてもらえないでしょうか」

そう言うと美穂の手から金貨をつまみ確認作業を行う。店員は彫られている山羊の子の顔を確認すると美穂の手に戻した。

「おめでとうございます。この金貨は貴女様だけの幸運の金貨。それと、ポスターの代わりにこれをプレゼントしますね」

店員が差し出したのは、魔女のシンボルマークでもある鍔広の三角帽子。それも二着。

「ぁ、あの・・二着も貰うなんて・・」

「いいのよ。なんとなく二着必要な気がしたからなの。黙って受け取りなさいな」

「あ…ありがとぅ・・・ごじゃいますぅ・・」

「あらあら♪そんな事で泣かないの。可愛い顔が台無しよ?」

「はぃ〜・・・」

「では、本日の御来店、ありがとうございました。それと、妹さんを大事にね♪」

「・・・・えっ!なんで妹の事を・・!」

そう言いかけたが、店員が指を鳴らしたと同時に景色が歪む。気が付けば空き地の真ん中に立っていた。

「あれ?私・・何してたのかしら?・・えと、あ、そうだ。妹の御土産に帽子を買ったんだったわ。それに食材を買わなきゃ」

美穂はそのままスーパーへと行き、足りない食材を買うとそのまま帰宅した。何故自分が帽子を持ってるのかを疑問にも思わず・・・。

美穂の家の遥か上空には、あの店員が背中から蝙蝠のような翼を生やし浮いていた。

「うふふふ・・。何故貴女がこんな事をするのかわからないけど御手並み拝見させてもらうわよ♪」





父が帰ってきた。けど、いつものような憔悴した顔じゃない。普段なら母の事、美奈の事でやつれてるはずなのにスッキリしている。何かあったのかしら?

「なぁ、美穂。父さんな、仕事辞めてきたよ。」

「え・・?嘘でしょ・・。なんで辞めちゃったの!」

「早期退職金で田舎に引っ越そう。田舎の自然な所で静かに暮らそう、なぁ、美穂」

そんな・・・・そんな事ってありえない。私はまだ・・復讐していない。犯人を見つけていない・・。いくら田舎に引っ越したからと言って妹が回復するわけじゃない。私には・・まだ・・。見つけて復讐するまでは・・。

[お主・・・、そんなに殺気立ってはいかんぞ?]

「何!?今の誰!?」

「美穂、今のは何だ!?」

[此処じゃ此処・・、お主のポケットの中じゃ]

「・・・ぽ・・ポケットがしゃべってるーー!」

[何を言っとる。ほれ、ワシを出さぬか]

「ポケットの中って・・、あれ?何か入ってる?」

ポケットの中から出てきたのは一枚の金貨。こんなのいつのまに持ってたのかしら?不思議に思ったが持ってた事には変わり無い。美穂は金貨を恐る恐るテーブルの上に置いた。

[ふむ、そこのお主。何故そんなに殺気立っておるのじゃ?]

「わ、私の事・・?」

「みみみみみ・・美穂・・。金貨が喋ってるぞ・・」

[そうじゃ。そこまで殺気立ってる人間は滅多に見なくなって久しいがのぉ〜・・、それとそこのお主、そんなに怖がる必要は無いから安心せい]

「お父さん、害は無さそうだから大丈夫だと思うよ?」

「ほ、本当か・・、いきなり爆発とかしないよな・・?」

[疑り深い人間じゃのぉ〜、爆発なんぞせんわ。それはそうと、・・ふむ。美穂とやら、お主の額にワシを付けるのじゃ]

「えっと・・こう?」ペタッ

[ふむふむ・・・お主の殺気の原因はこれか]

「!!」

「美穂、お前まさか・・まだあの時の事を・・」

隠していた事がばれた。包丁の事まではばれないだろうけど、あの事件の後の行動が見透かされそうな気がした。

[お主、・・復讐したいのか?それとも妹を助けたいのか?・・だが、お主にはどっちも無理であろうな]

「どうして!!」

[簡単な事じゃ。お主が見つけて殺したとして何になる?次はお主が追われる身になるだけじゃぞい?お主の妹がそのような事を望むはずが無かろう]

「だったら・・・どうすれば・・いいのよ・・。警察は捜査中だ、の一点張りで取り合ってくれない、母は看病疲れで寝たきり、・・・妹は目覚めない。こんな事をしてる間にも犯人は嘲笑っているかもしれないのよ!悔しくて悔しくて・・・、どうして被害者の私達ばかり不幸になるのよ!教えてよ!」

嗚咽を漏らしながら今まで溜め込んでいた鬱憤をぶちまけた。父は隣で黙って立ったまま泣いている。父も同じ思いだった。金貨一枚の正論に悔しさをぶつけても意味が無いのはわかってた。

[わかったのじゃ・・。ワシが助けてやろう]

「・・え・・?」

[ただし、じゃ。ワシがお主達の願いを叶えるかわりにワシの言う事に従ってもらうぞぃ]

「・・・いいわ、望みを叶えてくれるなら・・。貴女が悪魔でも何でも構わない。さぁ教えて!どうすればいいの!」

[なぁに、金貨の裏に彫ってあるワシの名を叫ぶだけで良い]

「それだけでいいのね・・?」

金貨を裏返してみる・・・。確かに何か文字が彫ってあった。見た事も無い文字なのに・・読める!これで・・この名を叫ぶだけで・・願いが叶う。父は不安そうにこちらを見つめてくるが私の決心は変わらない。

「お父さん、・・私に何かあったら、その時は美奈をお願い・・」

「み、美穂・・辞めるんだ!」

「願いを叶えて!リーズ=アイフォルト!」

大声で叫ぶと金貨から凄い勢いで煙が噴出して部屋中が真っ暗になった。何も見えずあたふたしていると煙が急速に一箇所に集まり始める。

[ゲフンゲフン・・・なんでこんなに煙が出るのじゃ〜〜]

煙の中から小さな女の子が飛び出してくる。頭には山羊の角。ふっくらふわふわな肉球の手、怪しい水着のような服。手には大きな鎌。どうやって握ってるのかわからない。

「ほ、本当に出てきちゃった・・」

「美穂・・父さんは夢でも見ているのか・・?」

[うむ、この姿では初めてだのぉ〜。ワシの名はリーズ。リーズ=アイフォルトじゃ]

「・・・・・・」
「・・・・・・」

[ぅん?なんじゃお主ら?何故何も言わんのじゃ?]

「「小さい・・・」」

[バ、バカにするでないわい!ワシは魔物の覇王!叡智なるバフォメットなのじゃ!!小さいなんぞ・・・]

「呼んでおいて何だけど・・すっごく不安になっちゃった」
「美穂・・父さんもだよ・・」

[ええぃ!ならば我が秘術を見せてくれようぞ!]

リーズが指を一本立たせ指先に集中する。すると指先から少しづつ氷の柱が滲み出し最終的には1mほどの氷柱が現れる。

[これで信用したかのぉ〜]

「本当に悪魔なんだ・・・。わかったわ、信用する。だからお願い・・妹を助けて!そして・・犯人を殺して!」

[ん〜・・妹は助けてやろう。だが犯人は別じゃな]

「なんでも叶えるんじゃないの!あれは嘘だったの!?」

[嘘は言わないぞぃ、ただのぉ〜・・ワシらは直接人を殺せないのじゃ、だから・・]

「だから・・何?」

[いっその事、殺してくれ、と言うほどの罰を一生与えてやろう。これでいいかの?]

そういうとリーズは二階にスタスタと上がっていく。妹の治療を先にするつもりらしい。リーズは黙って奥の部屋へと入っていく。私の記憶を見たから何もかもわかるのだろう。私と父はリーズの後を追って美奈の部屋へ入る。リーズは美奈の頭に手を置くと何かを呟きだした。

[ふむ、これなら元通りに治せるわぃ。それと犯人じゃが、今しがたわかったぞぃ]

「誰!教えて!」

[お主が殺しに行かないと約束するなら教えてやるぞぃ。それにの〜、こやつにはワシが直接、いや今すぐ罰を与えんと気が済まんわぃ]

「・・・わかったわ。私は行かない・・。だから教えて・・」

そう答えるとリーズは左手を美奈の頭に、右手にはいつのまに出したのか水晶玉が握られていた。[さぁ、見せるぞい]そういうと水晶の中に人の顔がくっきりと映る。

「こ・・・この人は!美奈が勤めてた会社の上司だった人だわ!」
「この男が・・美奈を・・」

今は美穂じゃなく、父が殺しに行きそうな雰囲気になってしまった。そんな殺気立った私達を手で制したリーズはトコトコと窓のほうに・・・

窓のほうに・・・

[すまん・・届かんのじゃ、開けてくれんかのぉ〜・・]

本当に大丈夫か不安になった二人だが窓を開けた途端、リーズから近くに居るだけで殺されそうなほどの殺気が迸った。

[さぁ、この愚か者に鉄槌を食らわせようぞ・・。ゆけぃ!]

リーズの指先から黒い塊が勢い良く飛び出す。塊を見送ったリーズはカウントダウンを始めた。

[3・・2・・1・・・・トドメじゃああああああ!!!]

手をギュッ!と強く握った瞬間、どこからか爆発音が聞こえてきた。私と父が窓から身を乗り出すと隣街の一角から火の手が上がっているのが見えた。リーズが犯人を家ごと爆破したのがなんとなくわかった。

「貴女・・殺さないって言わなかった?」

[殺してないぞぃ?ただのぉ、あの爆発に乗じてあの下衆のチンポとキンタマを握り潰してやっただけじゃわい。今頃は爆発の大火傷とチンポとキンタマを失った痛みで地獄を見ておる頃じゃろ]

それを聞いた父が隣で青い顔をしながら股間を押さえている。

[さて、これでお主達の願いは叶えたも当然じゃ。次はこちらの番じゃの]

「待って!妹の事が抜けてるわ!さっき治せるって言ったわよね!」

[それを叶える為に、ワシの言う事に従ってもらうぞぃ]

リーズが言うには、美奈の治療にはリーズの世界で調合した薬があれば一晩で治るらしい、との事。そしてリーズの願いは私達一家を魔界に連れていく事だった。父は誰も知り合いの居ない田舎に引っ越そうと考えていたばかりなので賛成だったが私は反対だった。母が寝たきりなのに行けるわけがない、と。だが当然、リーズはその答えも持っていた。同じく魔界に行けば不自由の無い体を手に入れられる、と。母も美奈も治せるなら、と渋々納得したが魔界に行くのは一週間先と告げられた。理由は・・・リーズがこの世界の甘味ツアーに出掛けたから。そして一週間後、リーズが居間で何か理解出来ない言葉を呟くと一瞬だけ家が揺れた。

[着いたぞぃ、我がサバトの向かいに空き地があって良かったわぃ]

意味がわからなかった父が窓を開け外を見た途端・・父の股間から生温かい黄色い水が・・・。

「お、お父さん!なんで漏らしてるのよ、汚いじゃない!」

「・・・・・・」

「お父さん・・・?」

父は失禁しながら気絶していた。窓を開けた目の前に髪が蛇、下半身も蛇の女の子が居たからだ。空想の魔物が目の前に居たら誰でもこうなるだろう。そんな父をリーズは放置し、向かいのサバトと呼ばれた建物から魔女達を呼ぶと母と美奈を丁寧に運び出した。母は魔女達に連れられ、美奈はリーズが直接治療してくれるらしい。そして私は、本物の魔女っ子を見て一人興奮状態だった。

[では、約束通りにお主の妹を治してやろう。・・・ただし、じゃ!ワシとの約束を守ってもらうぞぃ]

「私は何をしたらいいの・・?命でも差し出せばいいの?」

[命なんぞ要らんわぃ!これを飲むだけでよいのじゃ]

「・・わかったわ。ここまでしてくれたんだもの。貴女を信じるわ」

リーズから渡された瓶の中にはピンク色の液体が満タンに入っていた。見た感じ250mlほどありそうだった。これを飲まないといけないのは頭では理解していても体が拒絶反応を起こしそうな状態だったがリーズが[ピーチ味なのじゃ]と教えてくれたのですんなり飲めた。

「飲んだわよ、これでいいの?」

[ぅむ、では 眠る のじゃ]

その言葉を聞いた私は膝が折れ床に突っ伏してしまう。私の意識が無くなる寸前に父がリーズに引き摺られていくのが見えた。そして私は深く眠る・・。















ペシペシペシ・・・

ペシペシペシ・・・

誰かが私の頬を叩いている。昨日は変な事だらけで疲れたんだから起こさないで。そう言いたかったがしつこく頬を叩かれ渋々起きる。

「おっはよ〜ぅ、ミホおね〜ちゃん」

「ん、おはよう・・美奈・・・。もう少しだけ・・」

眠い目をこすりながら美奈に返事を・・

「み、みみみ・・・・美奈あああああああああああああああ!!」

「ひゃぅん!おねーちゃん大きな声出さないでよ〜」

目の前に美奈が居た。だけど小さい。まるで小学生のような姿で美穂の前に座っていた。そんな美奈を見た美穂は変な興奮に包まれていた。

「ちっちゃい美奈も可愛い・・♪」

[お主は朝っぱらから騒がしいの〜・・]

リーズも居た。リーズは「どうじゃ!治療したぞ!」というように薄い胸を張り威張る。美奈が元気になったのは嬉しかった。リーズに感謝したい。・・でも。

「なんでこんなにちっちゃくなってんのーーーーーーーー!」

[ミナの体を治すにはこうするしか無かったのじゃ。もちろんお主もな]

えっ?今なんとおっしゃいましたか?お主も、ですか?聞き間違えましたか?自分の顔をペチペチ叩き・・手を胸に・・。ペタリとした感触、昨日まであった物が綺麗に無くなったような清清しさ。チラリと近くにある鏡を見るとそこには小さくなった自分が居た。

「あ、あは・・あはははは・・・、私まで小さくなってる・・。胸もちっちゃく・・」

[あんなもん無駄な脂肪の塊じゃろうて、それはそうとお主達は魔女になっとるからこれから歳を取る事は無いのじゃ、永遠のロリとして未来永劫に輝かしい生活を送る事になるのじゃ!]

私が小さくなったって事はお母さんも小さく・・・。そう思った時、居間のドアからこちらを伺う女性が見えた。

[ほれ、お主も入ってこんかい。久方ぶりの対面なのじゃろう?]

入ってきた女性は一見すると牛のような姿だった。牛の尻尾に牛を連想させるような大きなおっぱい。そして牛のような角。どこをどう見ても牛だった。

「ミナ・・ミホ、本当に昔のように小さくなって・・」

「もしかして・・お母さん?」

[そうじゃ、お主達の母じゃ。何故か二十歳ぐらいまでしか若返らずホルスタウロスになってしまったわい]

「「お母さん!!」」
「ミホ、ミナ。おかえりなさい!!」

親子三人抱き合いながら涙を流す。それを見ていたリーズが軽く咳払いをした後にあの時の約束を再度確認してきた。

[さて、美穂よ。願いを叶えたら何でもすると言ったが・・あれに二言は無いな?]

「もちろん約束は守るわ。今なら命だって差し出すわ」

[命なぞ要らんと言ったじゃろう・・。まぁよい。美穂よ、お主には我がサバトで働いてもらうぞ。これは絶対命令じゃ]

「そんな事でいいのなら喜んで受けr「ミホねーちゃんが行くなら私も行くー」・・・喜んで受けるわ・・」

「私も治療してもらったお礼をしたいのでミホと一緒に働きます」

この日、サバトにホルスタウロスと魔女二人という奇妙な組み合わせの三人がサバトの会員となった。母は得意の料理を活かし厨房に、私とミナは向こうでの経験を活かし会計や業務の確認などの仕事に就いた。そして、父は・・・窓を開けた瞬間、外に居たメデューサが驚き石化してしまったので現在は治療中であった。これからは親子四人、幸せな人生を送るであろう。
















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前日の深夜

柳川家が消えた瞬間、上空ではパーラーDE☆A☆Iの店員が苦虫を潰したような顔をしていた。

「家ごと飛ばしてくれちゃって・・・、こっちの世界で処理する身にもなって欲しいわ。記憶操作するのに大量の魔力を使っちゃうのに・・。でもこれで四人もあちらに送り込めたし・・・あの子にしては上出来かな♪」

そして店員は闇夜へと消えていく・・・。




13/05/10 23:33更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
少しばかり暗い話で申し訳ありません。不運な子を幸せにしたくて書いてみました。ご感想のほど、お待ちしております

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