侵蝕する影
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ…はぁ…! リ、リリィッ…! 大丈夫かっ!」
「…ぁ…はぁ……リディアちゃん…ぁ…ぁ…ぁし、痛い…」
わしとリリィは、お互いを確認しながら妙な空間を彷徨っておる…
見知った場所じゃが、知らない場所…。
本来、その先にあるはずの場所はなく
別の地形や建物へ繋がっていたのじゃ…
じゃが、逃げ回っておる原因は、すぐ後ろに居たのじゃ…
それは一言で言えば、肉塊
無数の丸太のような触手を張り巡らし、大きさは20m強…。
普段のわしなら、この程度の怪物など一捻りじゃが…
この異様な異空間の中では、魔術はおろか身体能力を失ってしまっておる…。
人の子ほどに弱体化した今のわしらは、美味しそうな餌じゃろう…
*グプププ…ゴポ…*
すぐ後ろから"奴"の這う音が聞こえてくる…。
森の中を走り、塔を駆け上り、どこかの店内を走りぬけ
時には、投げられそうな物や武器になりそうな物を使い
交戦を試みたり、地形を利用したりして隠れたりしたのじゃが…
斬られたり損傷した部位は一瞬にして元通りになりおる…
どれだけ息を潜めて隠れていても"奴"は必ずわしらを見つけ出すのじゃ…
「は……ぁぁ……っ!」
「り、リリィ! 掴まるのじゃっ!………はぁ…はぁ…」
わしらはかれこれ、まる一日、逃げ回っておる…。
幸いな事に、この空間の中にある食べ物や飲み物は
普通に飲食できるようじゃ。しかし、食べ物から得られる養分では限界がある…。
リリィは、その場に崩れ落ちるように転び、わしはリリィをおんぶして
逃げ回る…。じゃがリリィは限界に達していて、わしも、もう限界じゃ…
このままでは"奴"に、わしもリリィも捕まってしまう…
「………。リリィ…わしが"奴"を引き付ける…その間に、リリィだけでも逃げるのじゃ…」
「……ぇ…? そ、そんな…リディアちゃん…」
「…よく聞くのじゃ…このままなら、わしもリリィも"奴"に捕まってしまうのじゃぞ…?」
「やっ! リディアちゃんと一緒ならリリィは…」
わしが、言い切る前にリリィは涙を浮かべて否定しおる…。
そんな所がわしは大好きじゃ…
「最後まで聞くのじゃ! わしらは必ず脱出するのじゃぞ!
また、ルーに会いたいじゃろ…? ここに来れたという事は、
必ず出口はある…。じゃが"奴"が常に後ろにいるのなら見つけ出すのは不可能じゃ…」
疲労に震える右手で、リリィを撫でながら、わしは僅かな希望にかける…
「リリィがここの出口を見つけたら、助けを呼ぶのじゃ…。それまで必ず、わしは逃げ延びる…」
「そ、それなら…足の速い、リディアちゃんの方が…」
「そうしたら、真っ先にリリィが捕まってしまうじゃろ? わしなら、囮になっても簡単に捕まらないのじゃ!」
*ゴポ………ジュル…ジュルルル…*
背後から"奴"が近づく音が聞こえてくる…。粘液と空気の触れ合う淫らな音を大きくしたような感じじゃ…
わしは反射的に、リリィをその場に降ろす…
「急ぐのじゃっ! 必ず、ルーに会うために、逃げるのじゃぞ!」
「ぅ…ぐす……」
*ベチャ…ベチャ…ヌチャ…*
後ろから迫る音がだんだん近づいてきて…。泣き出すリリィの背中を強く押す…
「早く、行くのじゃっ!」
「ひっ…ぅ…ぅ…」
ふらふらとした足取りで、走り行く、リリィの背を見つめて………。
後ろをを振り向けば、わしを大きく覆えるほどの巨大な影が見下ろしておる…。
*ゴポ…ゴポポポ…グプ…*
餌を前に、喜ぶ犬のように"奴"は触手を振り回しておる…。
今のわしに出来ることは………。友の幸せのためにここで時間稼ぎをするだけじゃ…。
「はぁ…はぁ…! リ、リリィッ…! 大丈夫かっ!」
「…ぁ…はぁ……リディアちゃん…ぁ…ぁ…ぁし、痛い…」
わしとリリィは、お互いを確認しながら妙な空間を彷徨っておる…
見知った場所じゃが、知らない場所…。
本来、その先にあるはずの場所はなく
別の地形や建物へ繋がっていたのじゃ…
じゃが、逃げ回っておる原因は、すぐ後ろに居たのじゃ…
それは一言で言えば、肉塊
無数の丸太のような触手を張り巡らし、大きさは20m強…。
普段のわしなら、この程度の怪物など一捻りじゃが…
この異様な異空間の中では、魔術はおろか身体能力を失ってしまっておる…。
人の子ほどに弱体化した今のわしらは、美味しそうな餌じゃろう…
*グプププ…ゴポ…*
すぐ後ろから"奴"の這う音が聞こえてくる…。
森の中を走り、塔を駆け上り、どこかの店内を走りぬけ
時には、投げられそうな物や武器になりそうな物を使い
交戦を試みたり、地形を利用したりして隠れたりしたのじゃが…
斬られたり損傷した部位は一瞬にして元通りになりおる…
どれだけ息を潜めて隠れていても"奴"は必ずわしらを見つけ出すのじゃ…
「は……ぁぁ……っ!」
「り、リリィ! 掴まるのじゃっ!………はぁ…はぁ…」
わしらはかれこれ、まる一日、逃げ回っておる…。
幸いな事に、この空間の中にある食べ物や飲み物は
普通に飲食できるようじゃ。しかし、食べ物から得られる養分では限界がある…。
リリィは、その場に崩れ落ちるように転び、わしはリリィをおんぶして
逃げ回る…。じゃがリリィは限界に達していて、わしも、もう限界じゃ…
このままでは"奴"に、わしもリリィも捕まってしまう…
「………。リリィ…わしが"奴"を引き付ける…その間に、リリィだけでも逃げるのじゃ…」
「……ぇ…? そ、そんな…リディアちゃん…」
「…よく聞くのじゃ…このままなら、わしもリリィも"奴"に捕まってしまうのじゃぞ…?」
「やっ! リディアちゃんと一緒ならリリィは…」
わしが、言い切る前にリリィは涙を浮かべて否定しおる…。
そんな所がわしは大好きじゃ…
「最後まで聞くのじゃ! わしらは必ず脱出するのじゃぞ!
また、ルーに会いたいじゃろ…? ここに来れたという事は、
必ず出口はある…。じゃが"奴"が常に後ろにいるのなら見つけ出すのは不可能じゃ…」
疲労に震える右手で、リリィを撫でながら、わしは僅かな希望にかける…
「リリィがここの出口を見つけたら、助けを呼ぶのじゃ…。それまで必ず、わしは逃げ延びる…」
「そ、それなら…足の速い、リディアちゃんの方が…」
「そうしたら、真っ先にリリィが捕まってしまうじゃろ? わしなら、囮になっても簡単に捕まらないのじゃ!」
*ゴポ………ジュル…ジュルルル…*
背後から"奴"が近づく音が聞こえてくる…。粘液と空気の触れ合う淫らな音を大きくしたような感じじゃ…
わしは反射的に、リリィをその場に降ろす…
「急ぐのじゃっ! 必ず、ルーに会うために、逃げるのじゃぞ!」
「ぅ…ぐす……」
*ベチャ…ベチャ…ヌチャ…*
後ろから迫る音がだんだん近づいてきて…。泣き出すリリィの背中を強く押す…
「早く、行くのじゃっ!」
「ひっ…ぅ…ぅ…」
ふらふらとした足取りで、走り行く、リリィの背を見つめて………。
後ろをを振り向けば、わしを大きく覆えるほどの巨大な影が見下ろしておる…。
*ゴポ…ゴポポポ…グプ…*
餌を前に、喜ぶ犬のように"奴"は触手を振り回しておる…。
今のわしに出来ることは………。友の幸せのためにここで時間稼ぎをするだけじゃ…。
11/07/17 10:39更新 / 旧式マサキ
戻る
次へ