連載小説
[TOP][目次]
7美姫の会談
レスカティエ教国 首都レスカティエに位置する城は普段の甘ったるい雰囲気とは打って変わり、緊迫感が滲み出ていた。
それはいつもは誰か一人が意中の男に付き添っているはずの姫君達が、玉座の間に一同に揃っている事からも窺える。

玉座に座するのは麗しく、美しく、しかし妖しく。
この世の美を追求し続けた果てにできたかのような存在、白い翼を持つ魔界第四王女デルエラである。

そこから一段下がった段に控えているのが元王女であり現在はクイーンローパーのフランツィスカ。
さらに一段下には玉座を軸に対称に露出の高いいかにもといった服を着ている水色の髪を持つサキュバスのウィルマリナ、こちらも黒を基調とした、しかしほとんどが触手で際どいところを隠している魔女のミミルが位置している。
残りの緑色の長い髪を持つ堕落神の信徒、ダークプリーストのサーシャや元はハーフエルフであり、今はその二つに分けた金髪を振り乱すワーウルフのプリメーラ等などは皆次の段に信徒、部下ともども控えている。
玉座から見て左側にサーシャ率いるダークプリーストの集団とエキドナのメルセ及び戦士系の部下が並び、右側にはプリメーラと稲荷の今宵がそれぞれ己の部下を率いている。集団と言っても、ここは王が座する玉座の間。精鋭部隊が揃っていることは言うまでもない。
ただし、この形体をとったことはほとんどなく、あるとしても新生・魔界レスカティエができた折に開かれた会の一回でしかない。
その時は真ん中に国を治めるための主要人物達が詰めていたが、今は腕に包帯を巻いたインキュバスが一人とアマゾネスが一人、計二人が立っている。


「それで、その後どうなったのかしら?」
「分かりません。他の奴らが生きているかどうかも……ミルも…」
デルエラの問いに対し、インキュバス、ウイムは力無く答えた。
「…エマといったな」
唐突にメルセがアマゾネス、エマに声をかけた。
「ハッ」
「肉親がいる前でこんなことをいうのは間違っているが、…お前の行動は間違ってはいなかったぞ」
「……」
「…ああ…間違っていないとも…」
そうしてメルセはしばらく逡巡するように目を伏せた。
「…私達もお兄ちゃんがそうなったら…、…きっと同じ事をするよ…」
ここでは最年少であるミミルによりさらに各々に空想が浸透する。
もし私の大切な人がそうなったら…

パン!

沈痛な静寂を拍手で破ったのはデルエラだった。
「はいはい。この話はおしまい。まずは次の対策に…
バタン!
話が変わろうとした矢先にドアが開いた。
「何者だ!いまは御前かい…」
ウィルマリナが流石に元勇者らしくいち早く剣の柄に手をかけ叫んだ。
しかしその叫びは途中で掻き消え、反対にその顔には驚きが、身体から発される空気は多少甘いものに変わっていた。
周りを見ると他の6人も同様だった。
どうやらそれぞれが大切に思っている者が入ってきたらしい。

そうやって一人の男であり、インキュバスである魔物が入ってきた。
その手には小柄な他の手が握られており、その手の先を見るとミミックがいた。男は震えているミミックの背中に手をまわすと、そのまま共に玉座の前まで歩いていった。
「ミル!」
一部始終に何事かといぶかしがっていたウイムが驚いて声をあげる。
同様に横のエマも声こそあげないものの、目を見開いていた。
「お兄ちゃん!」
そこでミミックは男の手を離し、兄の下へと向かった。
「ミル!良かった!…良かった…」
「おにいちゃああぁぁん!」
ヒシと抱きしめあう。
そんな状況を目の端に置きながら先程の男は玉座の前に着き、デルエラに向かって左手の指を3つだけ伸ばし、それを胸に当ててお辞儀をする魔族流の最上級の敬礼をした。
「…感動のご対面で良かったけど、何をしに来たのかしら、…カザン?」
「ハイ、まずは無事生き延びた迷子を家族の下へ連れていこうと思い先に生き延びた魔族達に聞いたところ、ここに兄がいるもようなので無礼とは承知しつつ連れて参りました。ご所望であれば、どんな罰でも受けましょう」
「へえ、どんな罰でもねえ…」
そしてデルエラはチラリと妖しくカザンを見る。
「それじゃあ、今夜私が足腰を立てなくしてあげましょうか、もちろん、腕も頭も五体全部を…」
「そ…それは…」
カザンがしどろもどろになった時、
「デルエラ様!いかにデルエラ様といえどもそれだけは!」
「デルエラ様〜!お兄ちゃんを取らないで〜!」
「デルエラ様!それだけは!堕落神になんと祈ればいいか…」
「そ…それだけはだめよ!」
「駄目だ!そんなことは…カザンは私の…」
「駄目です!ただでさえ最近カザンとご無沙汰していますのに…」
「それだけは堪忍してください!旦那様を取るのだけは!」
7人が7人とも反駁した。普段は従順な彼女達にとっても最優先事項は愛しき人らしい。
「まったくあなた達は…、カザンの事になると目の色が変わるんだから…。…で、カザン。あなたはどうなの?」
どうやらこの女王まだあきらめない気らしい。
「そ…その、ご命令と…あらば…」
瞬間、部屋の中を強烈な魔力と殺気が荒れ狂った。

パン!

またもや止めたのはデルエラだった。
「ハイハイ。分かったわ。ちょっとからかって見ただけじゃない」
その言葉だけで辺りが静まっていく。
対象にされていたカザンもどこかホッとした風だ。
「それで、会議を続けるわね。あ、ウイム達はそこにいといてね、事態の説明を他の人達に伝えなきゃだめでしょ。…それじゃあ、まずはこれからどうするか決めましょうか」
いの一番に出たのはウィルマリナからだった。
「遺憾ですが、此度の戦から戦争に発展する気風が高まるかと思います。大きな理由は一つ、死者が出たことです」
「そうねえ、いままでは小競り合いがあって、私達はそれを『解放』してあげてどちらも無傷だったものねえ」
「それと、初めて本格的な兵器を使ってきたことも無視できない事態かと」
「…魔道砲ね…。ま、うちのと比べれば威力はちっちゃいけどね」
「ハ。しかし、やはり兵器は兵器。その威力は無視できません」
「そうねえ。で、あなたはどうしようと思ってるの?」
そこでウィルマリナは一旦言葉を止め、少し考え込んだ後、
「…私達も、おそらく初めて『解放』ではなく、相手を殺すという事になるかもしれません」
その言葉の重みはしばらく王の間を凍らせた。
『殺す』
現在の魔族の意志は愛に包まれた平和な世界を創ることだ。
そのためには血で血を洗うようなことになってはいけない。
だからこそ先代までの魔族は皆女になり、日々愛を求めているのだ。
それを、…殺す…。
実際、この殺すという意志が魔族にあればウィルマリナやミミルなどは魔族にならなかっただろう。
愛することができ、愛を糧に生きていけるからこそ『堕ちた』のだ。
「…そうねえ、そうなるかもしれないわねえ。…もちろん、最悪の場合だけど」
「…まずは手始めにあたし達が行って来ましょうか?」
手を挙げたのはメルセだった。
「まずは、様子見で一小隊を連れて行ければ…」
「あかん、あかんで」
今宵が反論した。
「そんなんやってまた同じ事になったらどないすんねん。考えてみい、村やゆうても魔族の集団がやられたんやで。半端なことじゃああかん。…ここは…一気に畳むのが常道であり正解や」
「けど、んなことしたら…」
「そうね。それでいきましょ」
重い口調でデルエラが言う。
「先手を取られた。被害が出た。けど敵の数は分からないしどれぐらい強いのかも分からない。小隊を送るとしても後ろに控えが必要でしょうね。どう思う?」
横のウィルマリナに振る。
「…妥当な考えだと思われます」
「そう…。それじゃあ!各自、明日の朝にまで自分のの軍を整えておいて!そのまま出撃するわ!主に2軍を基準にして、将軍職より3段階下から4段階までは城の防備!各地方に伝令もまわして!」
「「「「「「「ハッ!」」」」」」」
王の間は戦前に相応しい空気で震えた。
「あ」
と、突然デルエラが思い出したように呟いた。
「いかがなされました?」
「そうだ、ねえミルちゃん」
「?ハイ?」
初めて見る女王様に、おびただしい気に当てられたミルはすっかり萎縮してしまっていた。
「まあそう固くならないで。ねえ、一つ聞いていい?」
「?…いいですよ」
「あなた、どうやって人間達から逃げ出せたの?」
「へ?…え、えと、実は…」

そうしてミルはつい数時間前にあった出来事を話し始めた。
          ・
          ・
          ・
「あっはっはっはっはっはっは!!」
先程の気運はどこへやら、いまや王の間は笑いの渦に包まれている。
いつもはおしとやかなサーシャやフランツィスカさえも大きくではないが口をあけて笑っている。
しかし一番笑っているのは…
「なにそれ!しかも最後のグレイトオオ!ってちゃんと出たのかしらねえ!あっはっはっはっはっは!!」
デルエラ様このお方である。
「いや〜久しぶりに笑ったわ!ありがとうねミルちゃん♪」
「い…いえ」
恥ずかしそうに縮こまるミルだが自分も楽しかったらしい。ほんのり頬が赤みがかっている。
「…ふう。…それじゃあ皆、明日までにお願いね。解散!」
こうして会議は終わり、ゾロゾロと部下達が出て行った。

「あの、デルエラ様」
皆が変えるなか、カザンがデルエラを引き止める。
「あら、なあに?」
「先程はありがとうございました。本来なら懲罰ものを…」
「ああ、いいのよホントに律儀ね。ま、だからあの子達が惚れるのかも」
「…///」
「あらあ、照れちゃって、ウフフ。いいのよ私は。それに、もう罰は与えちゃたし」
「えっ…、では!恐れながら私がデルエラ様と!」
「違う違う。そういう罰じゃなくてね。ほら、う・し・ろ」
そうしてカザンが後ろを振り向いて見ると、
「…えっ…」
7人の美女達が扇形に広がっていた。…もちろん、カザンを主点において。
「あなた、駄目でしょ?いくらデルエラ様がお美しくても私達の前であんなこと言うなんて」
「お兄ちゃんは、ミミル達のものなんだからね!」
ウィルマリナとミミルが妖しい気配を漂わせる。
「そうですよ。私達は堕落神によって結ばれているんです。それをあんなに簡単に…うう」
サーシャが泣く。…本当に泣いているのだろうか?
「いや、あれは…それに俺はハイなんて一言も…」
「迷ってる時点でだめなのよ」
「すぐにシャキッと決める!それが男ってもんだろ!」
いつもよりプリメーラとメルセの目が釣りあがっている。
「いや、でも!デルエラ様…だし…」
なおもよがるカザン。
「…いけませんね。どうやら私達の旦那様はどうやら私達に飽きてしまわれたようです。これはいけません。また私達を思い出させてあげなくては…」
それが火に油を注ぐ結果となった。
フランツィスカの一声により皆がカザンに近づいていく。
「ちょ、忘れない、忘れないって!っていうか!フランツィスカは昨日の夜から今日の朝まで俺と…」
「問答…無用やっ!」
今宵が飛び掛ったことから長い死闘が繰り広げられるのだった。

「ウフフ…。お大事に」
そう言ってデルエラは颯爽と出て行った。



「♪…♪」
「…楽しそうですね」
「あら、分かる?」
「丸分かりです」
書庫の一室でデルエラとウィルマリナが話していた。
デルエラは本を読んでいる。対してウィルマリナは己の職務を全うすべくただ護衛の身と化していた。…なぜかその肌はツヤツヤとしていたが。
題名は『意中の彼を落とす方法』
「…デルエラ様はこのような本は要らないのでは?」
「あら?そうでもないわよ〜。世の中には意外と美人でも動かない男がいるんですって。お父さんが言ってたから間違いなし!」
「それは…そうなのですか…」
「うん。でもその分強いらしいわよ〜。ある者は力で、ある者は魔力で、いろんな特技で魔族より上の人間っているらしいわ。流石に全部に精通しているものはいないようだけど」
「そうですか…相手は先程ミルの言っていた者ですか?」
「あら、鋭いじゃない」
「今まで興味を示した男なんていないではありませんか?遊び以外」
「ふ〜む、まあ、そうね」
「…そんな間抜けな男の何がいいんですか?まだ会ってもいないのに」
「あら、おもしろいじゃない」
「ですが、そんな人間であればデルエラ様ならすぐに…あいたっ」
デルエラがデコピンをした。
「馬鹿ね。あなた、カザンを落としたときあなたの体だけで落とせたと思ってるの?愛が芽生えなければ体は堕ちても心は落ちないわ。だから『落ちる』んじゃない」
「…それは…申し訳ありません。私の至らない発想でした」
「ふふん。まあいいわ。あ〜それにしてもどんな男かしらねえ?」
「さあ、そればかりは…」
「謎なところも良いわね♪」
まだ一つの話しか聞いていない時点で謎も何もないのでは、と密かに思うウィルマリナだった。
11/10/27 20:58更新 / KANZUS
戻る 次へ

■作者メッセージ
なんだか打ってたら大幅に長くなりました。いや、自分がそう思ってるだけか。
それはともかく、ついにワールドガイドに載っていたキャラを出しました。
2回目でついにも何もないか…。
彼女達の性格、動きはどうでしょうか?
至らない点があれば改善していきたいと思っています。
また、ガイドの『あなた』の個人名を勝手ながらつけさせてもらいました。
もちろんこんなもの正伝に何の影響も意味もなさないと思うので気にしないでいただけたら幸いです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33