マーメイド編 ようこそ、温泉宿『海の香り』へ!!
ここは、温泉宿『海の香り』である。外見は和風造りであるが、よくよく見ると建物自体大きかったり、水路なんかも設けられている。
此処の宿は、どんなまもっ娘でも歓迎することで有名である。また、この宿の海鮮料理は絶品で毎月の宿ランキングでは、常に1位を取っている程である。
「いらっしゃいませ。私、此処の女将をしております…って、貴方じゃないですか。おかえりなさい。
…それで、向こうの方はどうでした?…え、大丈夫そうだって?良かった〜。だって、今年も私達の宿が1位を取らないといけないのですから。」
今、女将は水路の縁に腰を上げて旦那と話している。『上げて』というのは、女将の下半身は何と魚なのである。
彼女はまもっ娘である。名前は海神 紗亜(みかみ さあ)で、種族はマーメイドである。
「あの娘達も、今日という日の為に精一杯頑張ってきましたから。今年の夏も勝って7連覇を目指しましょうね、あ・な・た♥」
『海の香り』には従業員が30名程いるが、その中の5名は食堂で歌っている。彼女達は、セイレーンの娘が1人とハーピーの娘が4人で構成されており、この宿では1番人気の催しであり、地元ではちょっとしたアイドルグループなのである。彼女達は宿で歌うだけでなく、毎年恒例の『夏祭りダヨ!!元気に歌合戦』に参加しており只今6連覇中なのである。
「…ところで貴方、もし良かったら夏祭りに一緒に行きませんか?あ、いえ、宿の方もありますし、忙しいと言うのであれば諦めますので…。え、大丈夫ですか?フフ、分かってますよ。他の従業員も、祭りの間だけ休みを取らせますから。そういえば、前に貴方に買って貰った浴衣何処に仕舞ったんでしたっけ…?」
紗亜は、宿の女将をしている間耐水性の着物を着ている。これは、とある何でも屋で買った物で、その時に浴衣も買ったのだ。店主曰く、『これからは、海にいるまもっ娘でもちゃんと服を着る時代が来る…筈だ!!だから、アンタ達もコレを買って流行の波に乗りな!!』との事。着物の他にも、色々な服があったが、紗亜には宿で着る服以外いらかったので、着物だけにしたかったのだがよくよく考えてみれば祭りの時もそんな格好で行くのか?という事になり、結局浴衣も買ってしまったのだ。
その日の夕方、紗亜は宿のフロントで待っていた。旦那の方はその後すぐにやって来た。
「あ、やっと来ましたね。それじゃあ、早速行きましょうか。…って、どうして私の方ばかり見るのですか?
え、私の浴衣姿を見るのが初めてだから、見とれていた。ですか?フフ…そういえば、この姿を見るのは初めてなんですよね。どうですか、私の浴衣姿。似合っていますか?」
紗亜が着ている浴衣は、青地に紫陽花が入っていて、紗亜の水の流れの様な蒼い髪と馴染んでとても綺麗だった。
「…何で、何も言わないんですか?
あ、分かっちゃいました♥貴方、私があまりにも綺麗で言葉が出ないのですね?…分かりますよ、だって貴方の顔に書いてありますから。フフ…。」
町は屋台と人々やまもっ娘達で混雑していたが、紗亜はそんな人混みを避けることなく進んでいた。それもその筈、紗亜は海のまもっ娘なのだ。道路を通らずに町中張り巡らされた水路を泳いでいる。
「わぁ…、色々な屋台がありますよ!!まずは、何から食べましょうか…。あ、貴方!!たこ焼きがありますよ!!早速買って一緒に食べましょう!!
……ありがとう御座います。さ、貴方。早く食べちゃいましょう!!」
旦那がたこ焼きを食べている間、紗亜はずっとこちらを何か言いたげそうな顔をして見ていた。何事かと思い旦那が振り返ると、
「貴方、はい、あ〜ん。」
と、こちらにたこ焼きを向けてきた。それを旦那は少々躊躇いながらも口へと運んだ。
「どうですか?美味しいですか?」
旦那はその質問に美味しいと答え、その後今度は旦那が紗亜の口へとたこ焼きを運んだ。
これが世に言う『食べさせあいっこ』である。この2人本当に仲の良い夫婦である。
「フフ…、本当にたこ焼きって美味しいですね!!えっと、次は何を食べようかしら…。」
その後、歌合戦の為のステージに移動した2人だったが、どういう訳か紗亜とはぐれてしまった。
歌合戦が始まって中盤が過ぎてから…
「さぁ、いよいよやって来ました!!今大会で見事7連覇を勝ち取るのか!?では、どうぞ!!ご存じ皆のアイドル、『海の香りシスターズ』です!!」
というアナウンスと共に、宿の合唱娘達が出てきた。
が、やっぱり紗亜が居ない。それは、曲が終わってからも戻ってこず、歌合戦が残すところあと1人になったところで、
「さあ、最後の1人となりました!!今のところの最高点はぶっちぎりで『海の香りシスターズ』の100点中94点!!この得点を見事抜かす事は出来るのでしょうか!?さぁ、参りましょう『海の香りシスターズ』を考えました!!エントリーナンバー62番『海神 紗亜』さんです!!」
登場してきたのは何と、紗亜だった。実は彼女、今日の歌合戦にエントリーしていたのだ。
「はい!!エントリーナンバー62番海神 紗亜です!!今日は愛する人の為に歌います!!」
そう言って紗亜が歌い出したのは、旦那も聞いたことがある曲だった。
「〜♪〜〜〜♪」
それは紗亜がまだ結婚していない頃、他のマーメイド達と同じようにまだ見ぬ『王子様』を想っていた頃の話である。
何時ものようにお気に入りの岩で歌を歌っていると1人の男性が近づいてきた。
マーメイドの歌には、男性を引き寄せるという効果があるが、この男性は違った。足取りはふらついていない。更に自分の歌声には魅了されているが、魔力が掛かった痕跡が見つからない。
紗亜は不思議で仕方がなかったが、心の奥ではこう感じていた『ああ、この人が私の王子様だ』と。
それが、紗亜と旦那の出会ったきっかけである。
今紗亜が歌っているのは、その時歌っていた歌である。観客は皆、それも老若男女問わずうっとりしており、誰もが紗亜の曲に酔いしれていた。
紗亜が歌を歌い終えた後、観客席からどっと歓声が上がった。あまりの大きさに紗亜は少したじろいだが、何とか転ばずに済んだ。
「いやぁ〜、さすがはマーメイド!!何と良い歌だったんでしょう!!思わず私でさえも、聞き惚れてしまいました!!さぁ、それでは審査員の方々、得点をどうぞ!!」
緊張の一瞬、遂に得点が発表された。
「さぁ、得点が出ました!!勝ったのは『海の香りシスターズ』か!!それとも『海神 紗亜』さんなのか!!さぁ、どうぞ!!
…………92、92点です!!惜しい、あともうちょっとの所で負けてしまいました!!
…よって今年の勝者は『海の香りシスターズ』です!!7連覇おめでとう御座います!!今の感想を…。」
「あともう少しだったのに、残念です。」
戻ってきた紗亜はとても悔しそうだった。それを旦那が慰めていると後ろの方から、
ヒュ〜……ドン!ドン!……ドン!ドドン!
と、花火の音が聞こえてきた。
それを聞いた紗亜は元気が出てきたようで、
「あ、貴方、花火ですよ!!花火が始まりましたよ!!」
それは、夏の祭りの出来事であった。
…
………
…………………
………………………………………
此処の宿は、どんなまもっ娘でも歓迎することで有名である。また、この宿の海鮮料理は絶品で毎月の宿ランキングでは、常に1位を取っている程である。
「いらっしゃいませ。私、此処の女将をしております…って、貴方じゃないですか。おかえりなさい。
…それで、向こうの方はどうでした?…え、大丈夫そうだって?良かった〜。だって、今年も私達の宿が1位を取らないといけないのですから。」
今、女将は水路の縁に腰を上げて旦那と話している。『上げて』というのは、女将の下半身は何と魚なのである。
彼女はまもっ娘である。名前は海神 紗亜(みかみ さあ)で、種族はマーメイドである。
「あの娘達も、今日という日の為に精一杯頑張ってきましたから。今年の夏も勝って7連覇を目指しましょうね、あ・な・た♥」
『海の香り』には従業員が30名程いるが、その中の5名は食堂で歌っている。彼女達は、セイレーンの娘が1人とハーピーの娘が4人で構成されており、この宿では1番人気の催しであり、地元ではちょっとしたアイドルグループなのである。彼女達は宿で歌うだけでなく、毎年恒例の『夏祭りダヨ!!元気に歌合戦』に参加しており只今6連覇中なのである。
「…ところで貴方、もし良かったら夏祭りに一緒に行きませんか?あ、いえ、宿の方もありますし、忙しいと言うのであれば諦めますので…。え、大丈夫ですか?フフ、分かってますよ。他の従業員も、祭りの間だけ休みを取らせますから。そういえば、前に貴方に買って貰った浴衣何処に仕舞ったんでしたっけ…?」
紗亜は、宿の女将をしている間耐水性の着物を着ている。これは、とある何でも屋で買った物で、その時に浴衣も買ったのだ。店主曰く、『これからは、海にいるまもっ娘でもちゃんと服を着る時代が来る…筈だ!!だから、アンタ達もコレを買って流行の波に乗りな!!』との事。着物の他にも、色々な服があったが、紗亜には宿で着る服以外いらかったので、着物だけにしたかったのだがよくよく考えてみれば祭りの時もそんな格好で行くのか?という事になり、結局浴衣も買ってしまったのだ。
その日の夕方、紗亜は宿のフロントで待っていた。旦那の方はその後すぐにやって来た。
「あ、やっと来ましたね。それじゃあ、早速行きましょうか。…って、どうして私の方ばかり見るのですか?
え、私の浴衣姿を見るのが初めてだから、見とれていた。ですか?フフ…そういえば、この姿を見るのは初めてなんですよね。どうですか、私の浴衣姿。似合っていますか?」
紗亜が着ている浴衣は、青地に紫陽花が入っていて、紗亜の水の流れの様な蒼い髪と馴染んでとても綺麗だった。
「…何で、何も言わないんですか?
あ、分かっちゃいました♥貴方、私があまりにも綺麗で言葉が出ないのですね?…分かりますよ、だって貴方の顔に書いてありますから。フフ…。」
町は屋台と人々やまもっ娘達で混雑していたが、紗亜はそんな人混みを避けることなく進んでいた。それもその筈、紗亜は海のまもっ娘なのだ。道路を通らずに町中張り巡らされた水路を泳いでいる。
「わぁ…、色々な屋台がありますよ!!まずは、何から食べましょうか…。あ、貴方!!たこ焼きがありますよ!!早速買って一緒に食べましょう!!
……ありがとう御座います。さ、貴方。早く食べちゃいましょう!!」
旦那がたこ焼きを食べている間、紗亜はずっとこちらを何か言いたげそうな顔をして見ていた。何事かと思い旦那が振り返ると、
「貴方、はい、あ〜ん。」
と、こちらにたこ焼きを向けてきた。それを旦那は少々躊躇いながらも口へと運んだ。
「どうですか?美味しいですか?」
旦那はその質問に美味しいと答え、その後今度は旦那が紗亜の口へとたこ焼きを運んだ。
これが世に言う『食べさせあいっこ』である。この2人本当に仲の良い夫婦である。
「フフ…、本当にたこ焼きって美味しいですね!!えっと、次は何を食べようかしら…。」
その後、歌合戦の為のステージに移動した2人だったが、どういう訳か紗亜とはぐれてしまった。
歌合戦が始まって中盤が過ぎてから…
「さぁ、いよいよやって来ました!!今大会で見事7連覇を勝ち取るのか!?では、どうぞ!!ご存じ皆のアイドル、『海の香りシスターズ』です!!」
というアナウンスと共に、宿の合唱娘達が出てきた。
が、やっぱり紗亜が居ない。それは、曲が終わってからも戻ってこず、歌合戦が残すところあと1人になったところで、
「さあ、最後の1人となりました!!今のところの最高点はぶっちぎりで『海の香りシスターズ』の100点中94点!!この得点を見事抜かす事は出来るのでしょうか!?さぁ、参りましょう『海の香りシスターズ』を考えました!!エントリーナンバー62番『海神 紗亜』さんです!!」
登場してきたのは何と、紗亜だった。実は彼女、今日の歌合戦にエントリーしていたのだ。
「はい!!エントリーナンバー62番海神 紗亜です!!今日は愛する人の為に歌います!!」
そう言って紗亜が歌い出したのは、旦那も聞いたことがある曲だった。
「〜♪〜〜〜♪」
それは紗亜がまだ結婚していない頃、他のマーメイド達と同じようにまだ見ぬ『王子様』を想っていた頃の話である。
何時ものようにお気に入りの岩で歌を歌っていると1人の男性が近づいてきた。
マーメイドの歌には、男性を引き寄せるという効果があるが、この男性は違った。足取りはふらついていない。更に自分の歌声には魅了されているが、魔力が掛かった痕跡が見つからない。
紗亜は不思議で仕方がなかったが、心の奥ではこう感じていた『ああ、この人が私の王子様だ』と。
それが、紗亜と旦那の出会ったきっかけである。
今紗亜が歌っているのは、その時歌っていた歌である。観客は皆、それも老若男女問わずうっとりしており、誰もが紗亜の曲に酔いしれていた。
紗亜が歌を歌い終えた後、観客席からどっと歓声が上がった。あまりの大きさに紗亜は少したじろいだが、何とか転ばずに済んだ。
「いやぁ〜、さすがはマーメイド!!何と良い歌だったんでしょう!!思わず私でさえも、聞き惚れてしまいました!!さぁ、それでは審査員の方々、得点をどうぞ!!」
緊張の一瞬、遂に得点が発表された。
「さぁ、得点が出ました!!勝ったのは『海の香りシスターズ』か!!それとも『海神 紗亜』さんなのか!!さぁ、どうぞ!!
…………92、92点です!!惜しい、あともうちょっとの所で負けてしまいました!!
…よって今年の勝者は『海の香りシスターズ』です!!7連覇おめでとう御座います!!今の感想を…。」
「あともう少しだったのに、残念です。」
戻ってきた紗亜はとても悔しそうだった。それを旦那が慰めていると後ろの方から、
ヒュ〜……ドン!ドン!……ドン!ドドン!
と、花火の音が聞こえてきた。
それを聞いた紗亜は元気が出てきたようで、
「あ、貴方、花火ですよ!!花火が始まりましたよ!!」
それは、夏の祭りの出来事であった。
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12/07/24 21:15更新 / @kiya
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