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「ひぃっ!ひぃぃっ、ひぃぃ……っ」 恐怖に駆られて逃げ出した男達は、そのままジョイレイン宅の森の中を走っていた。兎に角今は、あのキチガイのような男から離れていたかった。命が無くなるという危機感をそのまま表したような、懸命な走り。惜しむらくは、走る場所が懸命ではなかった事だが。 「……ハァッ……ハァッ……こ、ここまで来れば……もう……逃げられた……よな……ハァッ……多分……」 しかも余りに懸命すぎて、初めは一緒に逃げていた筈の四人が、いつバラバラになっていたのか、その事にも気付く事は無かった。ただ彼らは、狂ったピエロから逃げ出せた安堵だけを抱いて、この森の中まで逃げていたのだった。 「……クソっ、何が神の教えだ!あんなあり得ん奴が居るなんてこっちは聞いてねぇぞ!教会の奴、完全に俺らを捨て駒にする気だったな!」 逃げ出した四人、彼らは教会のお膝元で罪を犯した者達であった。今回の討伐で多大なる成果を挙げた際には、罪の精算と巨万の富を約束され、参加させられたという。事前情報や武器を十分渡す辺り、強硬派も相当本気らしかったようだ。惜しむらくは、その情報が殆ど偽であった点だが。 しかし、彼も今となってはそのような事はどうでも良かった。あの得体の知れない一撃で、先程まで共に進んでいた奴が一瞬で肉塊にされたのを目にしてしまうと、もう恐怖しか湧かなかった。 次の瞬間には、自分がそうなっていたかもしれない……! 思い出すだけで、男の体は震え、足腰から力は抜け、立てなくなり、地面にへたり込んでしまう。 「ひっ、ひぃぃ……」 あの一瞬で、あの一撃で、彼の精と魂は見事に叩き折られてしまった。次第に、寒冷地にいるかのように体が盛大に震え出す。止まらない。震えが……止まらない。 あまりにも理不尽な力。 あまりにも理不尽な状況。 これは自らの罪の重さと釣り合わない罰ではないか……! 勇気を根刮ぎ奪われた彼は、進むことも出来ず逃げることも出来ず、ただ恐怖が収まるのを待って地面にうずくまっているだけであった……。 がさり 「!ひぃいっ!」 突如、周辺の草が音を立てた。まさか奴が――!本能に従い、彼は一気に飛び退いた。だが、次の瞬間には体は言うことを聞かなくなる。仰向けから起きあがったような姿勢のまま、男は未だガサガサと音を立てて動く草の方を、恐怖に満ちた目で眺めていた。 ……群がるように生える草。その隙間から見えるもの――それを彼が目にしたとき、幾分か彼の表情から恐れが消えたように思えた。 彼が見たのは、若草色の髪が日に照り輝き見事なキューティクルを描く、花の形をした髪飾りが印象的な、少女の過渡期をとうに超えて、大人の色香を漂わせている女性だった。皺一つ見えない肌は、葉を透かす光によって緑色に染め上げられ、古代ギリシアの彫刻家が挙って石膏で描きそうな、整った顔立ちをしている。水晶のように深く透んだ瞳は、どこか物憂げな視線をあらぬ方へ向けており、瞼の辺りに泣き黒子が一つ、やや儚げな雰囲気を醸し出すように付いている。 黄金比を保つ肢体の中でも特に目立つのは、その豊満な胸部と臀部。特にその胸部は瑞々しさを表すように珠のような汗が浮き出、黄金色の光を放ちながら滴り落ちていく……。 ……知らず、彼の体は彼の意志の支配を離れ、彼女の方にふらり、ふらりと近付いていった。恐らく、恐怖に対する安堵と、彼女に対する誘惑の心が混ざり、こうして体を彼女の近くに進めていったのだろう。 音を立てず、彼の退路を塞ぐように蔦が囲んでいることも、 いつの間にか辺りを満たす蜜の香りが、彼の心に染み渡っていることも、 彼女の皮膚が全身緑であり、知らぬ間に彼の方に体を向けていることも、全て彼は意識できなかった。今はただこの身を満たす恐怖を紛らし、癒す存在である彼女の側に――! ……蜜の香りによって思考の方向性が変化している事に気付く事無く、彼を迎えるように両腕を広げるアルラウネの女性の、その豊満で瑞々しく柔らかな胸に飛び込む彼。彼女が彼の背中で腕を交差させ、その周りを蔦が隠すように包み込んだとき、彼の命運は決まってしまっていた。 もう彼は、辺りに響いた少女の金切り声に気付く事もない。 もう彼は、木の間を縫って飛ぶ白い粉に心躍る事もない。 もう彼は、永劫の時を木と一体となり過ごす事もない。 この森の中で、柔和で妖艶なアルラウネの寵愛を受けて過ごすのみだ……。 「……ざんねん、きみのぼうけんは、ここでおわってしまった……にゃっははははははは♪ ヘッタな人生よりハッピーマッピーディグダグプレイできるからイイんじゃない?くすすっ♪けららっ♪四人共々お幸せにぃ♪♪」 ――逃亡者ルート END―― ENEMY:14(-4)
10/03/02 18:49 up
と言うことで、恐怖に駆られた四人は、アルラウネ・マンドラゴラ・ケサランパサラン・ドリアードの植物娘四人に捕まってしまったのだった……。 このまま彼らは、教会時代には感じられなかった快楽と愛をその身に受けながら、長くの時を過ごしていくのだろう。 ざんねん、かれらのぼうけんは、ここでおわってしまった! 物語はまだまだ続きます。 初ヶ瀬マキナ
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