後編(2)
「さてっ」
その場でくるりと回転し、呆気にとられて尻餅をついた姿勢のままで固まっていた青年の方を向いて彼女は微笑んだ。そこに先程まで纏っていた相対した相手を圧倒するような雰囲気は無く…
「彼らは…何処へ行ったのですか?」
青年がそう尋ねた直後、ふと彼は腹の上に重みを感じる。気付くと彼女は再び自分に跨がり、その上半身を優しく横たえようとしていた。そしてあっという間に邪魔が入る前の状況が再現されてしまう。
「貴方がこれから行くところですよ♪」
(…ああ、あの世か。)
「さっきの言葉…いまさら無かった事にはしないですよね…?ね!?」
「あ…はい。」
追手は居なくなってしまったが、元はと言えば自分が言い出した事である。彼は大人しく彼女の餌となる覚悟を決めた。
「良かったぁ♪あ、そういえば私としたことがまだお名前を伺っておりませんでしたわ!申し遅れました、私はシエラと申します。貴方の事は何とお呼びすれば?」
(この魔物は食べた人間のの名を覚えておいてくれるのだろうか?)もしそうならばそれはとても嬉しいことだと彼は思い…
「ハンスと…いいます。」自身の名を告げた。
「ハンスさん…、それでは早速…」
そう言って彼女は上体を移動させ顔をハンスのそれに近付ける。こころなしかその頬は上気し、表情はずっとお預けを食らっていてようやくお許しが出たところの獣のそれを…実際その通りの状況なのだが…感じさせた。
「…できればあまり苦しまない様にしてもらえると嬉しいです。」
彼女の気迫に気圧されたのか青年の口からそんな言葉が漏れる。
「ご、ごめんなさい!手加減出来そうに無いです!!(ハァハァ)」(ぇー…)「でもそのうちきっと気持ち良くなりますから…」(…そういえば草食動物は捕食される際に恍惚を感じると聞いたことがあるが人間もそうなのだろうか?)
…などとやけに冷静な頭で考えているうちに
「いただきます。」
上からそんな言葉降ってくると同時にその口を彼女の唇が塞いだ。
「ん゛ーーーーーッ!!!?」
彼は突然の事に目を白黒させてジタバタともがくが、いつの間にか身体を密着させて彼にしがみついていたシエラの腕がそれを許さない。そうこうするうちに彼の口内に侵入してきた彼女の長い舌が彼のそれを絡めとり、巻き付き、そのまま上顎を内側から擽り始めると、次第に彼の体から力が抜けていく。
青年が抵抗しなくなった事に気を良くした彼女は、さらに執拗に彼の口内を蹂躙すると彼を抱き締める腕に力を込め、彼の胸に押し付けた自身の豊満なそれを擦り付ける様に動かすことでじんわりとした快楽を楽しんでいた。
自身の口内で縦横無尽に動き回る舌と、同時に流し込まれる魔物の甘い唾液によって、青年の思考は強制的に蕩かされてゆく…。
「…んぷはぁ!!」
時折息継ぎをしながらたっぷり15分ほどかけて青年の口内を味わったシエラはようやく彼の口を解放する。その顔は淫靡に染まり、唾液を通して多少精を補給したのだろうか…どこか恍惚とした雰囲気を漂わせていた。
…片や15分に渡って蹂躙され続けた青年はと言うと…
「…あ…ぅ……」
まるで暴行を受けた後の少女の如き様相を呈していた…。唇の端から伝うどちらのものとも知れない液体が何とも憐憫を誘う。
「はふぅ…、おいしいです…。ではそろそろメインディッシュをば…♪」
うっとりとした表情でそう言ってペロリと唇から垂れた唾液の残滓を舐めとると彼女は青年のズボンに手を伸ばした。そのまま流れるような手つきでベルトを外しズボンを下ろす。露にされた下着はその下にあるモノによって突き上げられており、先程の行為で彼も感じていたのか或いは軽く漏らしてしまったのか、その盛り上がりの頂点は既に濡れて変色していた。そして最後の障壁を取り去ろうと彼女の手が下着の紐に触れたところでそれまで放心していた青年が意識を覚醒させる。
「ちょ、ちょっと待って下さい!?」
青年は慌てた。彼女は自分を食べると言ったのだ。死ぬ覚悟をしておいて何だかひとりの男性として『そこ』から噛じられるのは勘弁して頂きたかった。
同時に疑問も生まれていた。先程の口づけ…確かに自分は一方的に貪られた訳だが、その中にも自分に対する気遣いというか、もっと言えば愛情のようなものを感じたのだ。勿論自分の単なる思い込みかもしれない。しかし、これがこれから殺す相手に向ける感情だろうか…魔物の、餌に対する認識の一般論など知る由もない。しかし尋ねずにはいられなかった。
「あの、貴女は…魔物は人間の肉を食べるんですよね?」
「え?私は肉なんて食べませんよ。私たちの主食は人間の精なので…、
…あ。」きょとんとした表情で彼女は答える、青年が一瞬思い浮かべた恐ろしいイメージですっかり縮こまってしまった股の間を下着越しに優しく撫でながら…。しかしそこである可能性に思い至った。
「もしかして…勘違いしてます?」
「え…これは、あの…、」
青年の混乱した様子を見て彼女は肯定と受け取った。
「うーん…、これは…どうしましょう?私は喜ぶべきでしょうか、それとも怒るべきですかね…?」再び上体を倒し青年の体にしなだれ掛かるようにしながら彼女は尋ねる。同時に青年の股間をまさぐる手の動きが段々とねちっこいものに変わってゆく。
「文字通りその命を捧げてもいいと思う程に想って戴けたのはとても嬉しいのですが…、それは同時に私が人肉を喰らうような化物だとも思われていたという訳でー…」
彼女の表情は微笑んだまま、しかしその目は笑っていない。
「まあ貴方を責めるのは筋違いでこの怒りは嘘を広めて回るあちらの教団に向けるべきだと分かってはいるのですけど…」
その豊かな胸をより強く押し付けながら自分を納得させるかのように言葉を紡ぐ。その手は再び硬度を増し始めた青年のものを撫で回しつつ指先でその根元から袋にかけてを執拗に擽っていた。
…やがて半ば強引に気持ちの整理を着けると先ずは青年の誤解を解くことにした。「…とりあえず安心してください。魔物は人間を殺して喰らったりしませんよ?むしろ貴殿方を愛しているんですから…
…と言っても刷り込まれた偏見や価値観はすぐには払拭出来ないですよね。大丈夫です。分かっています。例え今は信じられなくても…」
「これから私が長い時間をかけてその身体に教え込んで差し上げますから♪私たちの、そして貴方がこれから信ずるべき神の愛を…」
その光景を思い浮かべて彼女の目が嗜虐的な笑みを浮かべる。
が…おそらく後半は青年の耳にはほぼ聞こえていなかっただろう。なぜなら半ば無意識で動かし続けていた彼女の右手が青年が達しそうになるたびにちゃっかりその動きを緩めて無駄射ちを封じていたから…、つまり彼女の語り中ずっと寸止めの状態が続けられていたのである。
「…そういう訳でそろそろごはんを下さい!」どういう訳なのか…。
しかし彼女もまた限界であった。
思えば2度に渡ってお預けを食らい、さらに先程の戦闘では(無駄に)魔力を使ってしまった。そしてその後のキスで少し『味見』をしてしまったことにより彼女の空腹感は余計に歯止めが利かないものとなっていたのである。その勢いでこれまでの口上を台無しにするような台詞が飛び出た気もするが幸い青年の耳には聞こえていないようだ。
そして返事は聞いていないとばかりに青年の下着をずり下ろすと自身の腰の位置をずらしながら互いの股の位置を合わせてゆく。その様子は漆黒の法衣の前に隠されて青年には見えない、しかし
「あ…」
ふと彼は自身の性器がぬるりとした温かいものに触れるのを感じた。陰茎を左右から挟み込むようにして存在しているそれはハンスのものを咀嚼しようとするかのようにやわやわと蠢いている。
彼はやや怯えを含んだ目で自身の上に乗る魔物の顔を見上げるとちょうど自分の顔を見下ろしている彼女と目が合った。そしてその目が淫らに歪むのを見た。直後、
にゅるん…
呑み込まれた。
「あはあぁぁ♪」
「ひぃっ、い…」
双方から同時に声が上がる。嬌声は女の、悲鳴は男のものであった。
「あぁっ♪神よ…感謝いたします、ん♪」
ハンスのものを呑み込んだ状態のままシエラは彼の上で祈りの形をとる。天を仰ぐ彼女の顔は悦楽に蕩けていたが、その姿は淫靡であると同時にどこか神聖さをも感じさせた。
そして祈りを終えると再び下に敷いた青年の方を見下ろす。
「さぁ、神様が見て下さっています。愛を交わしましょう。」
11/12/12 22:56更新 / ラッペル
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