35.マーブル・フィリア
コンコン。
ノックの音がしています。
私はそれに気怠げに答えます。
「ヴィヴィアンさまのお友達という方がいらっしゃっています」
「帰ってもらってください」
私は女中に即答します。
ここまでこられることは驚きですが、私が会うわけがありません。
私はにべもなく即答します。
「しかし……」
言葉を濁す女中。そこに粗野な声が割り込みます。
「構わん。押し通させてもらう」
駕(が)シャァァん。
扉が無作法に開け放たれます。カーラです。彼女は元貴族であるというのに、この有様は何なのでしょうか?
「躾がなっていませんね。ヘレンに教えてもらわなかったのですか?」
私の皮肉に対して、カーラはいけしゃあしゃあと答えます。
「私が教えてもらったのはショタの神髄のみだなぁ!」
ふはははー、といつもの調子。
私の気持ちを知ってか知らずか、ズカズカと私の部屋に踏み込んで来ます。そして、ベッドに突っ伏していた私の胸ぐらを掴んで引き起こします。
黒髪の幼女(カーラ)が白髪の幼女(私)を引きずり起こす。子供の喧嘩の様相。しかし、中身も内容も子供じみてはいません。
「お前はブレイブを一人占め出来なくて、逃げ出したそうだな」
カーラが不敵に嫌らしく。ニヤァっと笑います。私はそれに沈黙で返すしかありません。
「リリムさまと言っても、中身は女の子だったわけか。ブレイブハーレムを作ろうと意気込んでいたのは誰だったのかな?」
カーラは無遠慮に私のおでこにおでこをくっつけます。至近距離で睨みあう私たち。私は精一杯の気力を持ってカーラを睨みつけます。
「あなたなんかに私の気持ちなど分かりません」
「ああ、分からないさ。お前が教えてくれないからなぁ!」
カーラのおでこが私のおでこをグリグリと押し込んで来ます。
「だから教えろ。お前の気持ちを教えてみろ」
私は歯噛みします。
「リリム、ヴィヴィアンよ。お前は誇り高き淫魔の姫なのだろう。淫らに皆が乱れることを望んでいる。お前自身が、一人の男を求めることを否定はしない。だが、自らが合わせた男女を引き離して、独り占めしようなどとはいただけんなぁ!」
「私だって、そんなことをするつもりはありませんでした。でも、心が、どうしようもなくブレイブを独り占めしようとしてしまうのです。それは、仕方がないではないですか」
「くっくっく。そうだ、仕方がない。仕方がないがーー。己を磨かずに、ただ攫って行こうなどという性根が、私には認められんのだ」
「そんなことはありません。私はただ……」
「いいや、違わない」
カーラが私を否定します。
「お前は自分に自信がない。だから、真正面から戦おうとせずに絡め手を取る。百歩譲ってそれはいいとしよう。だが、私はそれで済むと思っていたお前の性根が許せない。ヴィヴィアン、お前、私たちを舐めていないか?」
「そんな……こと……」
カーラが至近距離で私の目をまっすぐに見てきます。彼女のまっすぐな瞳に、私の瞳は揺れてしまいます。
「答えられないか……。だが、私はお前が私たちを舐めていると思う。お前が裏で手を回して目覚めさせた魔物娘。それが私たちだ」
カーラは知っていました。白衣から聞いたのでしょうか? ただの脳筋だったと思っていたカーラの認識を私は改めます。
改めて……、気がつきます。ああ、確かに彼女のことを舐めていたのかもしれません。私が自らの目的のために、手を回して生み出した魔物娘。リリムでもある私には勝てるはずもない、と。目を泳がせる私にはカーラは告げます。
「ともすれば、私たちはお前に勝てないのかもしれない。性技にせよ、実力にせよ……。だがな」
ーーーブレイブを思う気持ちは決して負けはしない。
カーラは私にその言葉を叩きつけました。
「お前もそう思っていたのではないのか? 私はお前もそうだと思っていた。しかし、今、お前はその気持ちにすら自信がないように見える。だから、逃げ出した。お前は私たちだけではなく、お前自身をも舐めている。私が思っていたお前は、そんな程度じゃない」
カーラの言葉に、私は意気込んで返します。
「当たり前です。ブレイブを思う気持ちは、絶対にあなた達にだって負けません」
そこでようやくカーラは私のおでこからおでこを離してくれます。
「そうだ。その意気だ。ならば、なぜ、こんな所に逃げ出した?」
「そ、れは……」
私は口ごもります。
それは正直、私にも分からないのです。
分からない。抱いたことのない感情。ただ、ブレイブが好きで、彼が気持ちよくなっていられれば、私の気持ちなんて、二の次。
だからこそ、私はブレイブを計画の要に位置付けた。ブレイブを要としたAIK計画。
ーーでも、私は今になって、私の気持ちを無視できなくなってしまったのです。
私はブレイブを私だけのものにしたくなってしまったのです。この計画はブレイブにハーレムを作ってもらうことを前提としていたのに……。
それが、この世界を救うことに繋がるとしても。それが、私の幸せに繋がるとしても。
私は、その過程を受け止められなくなってきていました。
これは、ルチアを倒した時からでしょう。一つの胸のつかえが取れたおかげで。私が今まで目を向けていなかった感情が鎌首をもたげてしまったのです。
「ふん。言えないのならば、それもそれでいい。だがーーー」
カーラがニヤリと笑います。
「お前が出てくるまで、私はここにいるぞ」
私はその言葉にハッとします。カーラとて、ブレイブを独り占めしたいと思っている。私はそう認識していました。
だからこそお互いに、牽制しあっていたのでは?
「何だ、その顔は?」
私はどんな顔をしていたのでしょうか?
カーラは「ははーん」と言って頷きます。
「お前は、私もお前のようにブレイブを独り占めしたいと思っている。そう思っているのだろう。ーーー残念だな。それはただの事実だッ!」
カーラは立ち上がり仰け反って、私を下に見ながら言い放ちます。
「確かに、私もブレイブくんを独り占めしたい。ブレイブくんの幼い体で、私の幼い体を持て余す所なく愛してもらいたい。だが、それは抜け駆けなどをしてしまっては、私のプライドが許さん。私は、正々堂々、真正面から。ブレイブくんを私だけに夢中にさせたいのだ。ま、お前達もそれでは寂しいだろうから。正妻である私のオコボレを恵んでやらんでも無いぞ」
ふははははーと幼女が豪快に笑います。その目は爛々と輝いて、見た目は子猫なのに、中身はドラゴンでも入っていそうです。
しかし、そんなことを言われて黙っているのは、リリムとして、私(ヴィヴィアン)としても癪に触ります。私はカーラの言葉に噛み付きます。
「何をふざけたことを言っているのですか! ブレイブの正妻は私です。私がずっと彼を見守ってきたのですッ! それを恵んでやったのは私の方です!」
「ほう、ようやく本音が出たな。そうだ。お前は、ブレイブを私たちに恵んでやっていた、と思っていた」
カーラがクツクツと笑います。私は、今、自分の口を出た言葉が信じられませんでした。
「しかし、今はそんな私たちとブレイブを取り合っている。滑稽だ。滑稽だなぁ! ふははははー!」
私は思わずカーラに飛びかかります。飛びかかって、私のベッドに押し倒します。私の力なんて簡単に振りほどけるハズなのに。カーラは私に組み敷かれたまま、嫌らしい笑みを浮かべています。こうなったらーーー。
「だから、私はお前に戻ってきてほしいのだ。ようやく、リリムさまが私たちを認めてくれた。こうして、ケダモノのように幼女を組み敷かなくてはいけないほどに。私はそれが嬉しい。私の片思いだけではつまらない。お前に私を見てもらって、それで越えなくては。そうでなくては、ライバルとは言えんだろう?」
カーラが私の下で不敵に笑います。私はカーラの上にのしかかったまま、体を硬直させてしまいます。
「いい顔をしているじゃあ無いか。何だ? 私がそう思っていることを知らなかったという顔だな。ダック・ミーミルなんて、ご大層な名前をもらっていたハズなのに、人の気持ちは分からないと見える」
そうです。そんなもの分かりません。分かったところで、計画に利用するだけ。そんな虚しいだけのもの。初めっから分からないでいる方が、マシです。それに、今までの私にはそんな余裕はありませんでした。
そんな虚しいもの、もう虚しいままで押し込めることにしましょう。
「黙りなさい」
私は精一杯の冷たい声を出して、カーラの唇を唇で塞ぎます。カーラは一瞬だけ驚いた顔をしたものの、私の口づけを受け入れています。
私は魔力を力一杯カーラに流し込み、魅了します。リリムの本気の魅了。これには、男はもちろん、女だって抗うことは出来ません。
その証拠に、カーラの目がドンドンと蕩けていきます。
私の下で、黒髪の幼女がビクンと跳ねました。それでも、私は魔力を流し込み続けます。カーラの肢体がビクンビクンと、まな板の上の魚のように、跳ねます。
膝で彼女の太ももを割り開いて、股をこすってやります。
ふふ。もうグショグショです。泣いているみたいです。このままイキ狂えばいい。
私はカーラの口内を徹底的に犯します。
魔物娘が性的な快楽で、壊れることはありません。それでも、私に屈服させることくらいは出来るハズです。
私はカーラを快楽で陵辱します。ライバルだなんておこがましい。私は一人でいい。
私の計画に支障を来すのであれば、ブレイブだって愛する道具として割り切りましょう。
ーーー痛い。私の胸の何処かが軋みをあげた気がします。気のせいです。
ルチアに仲間を殺され尽くした時に、私の心は死んだのです。だから、表面的な馬鹿をやって心から楽しんで、上っ面で笑いましょう。
いくら皆帰ってきたとはいえ、あの時の悲しみが私の心から消えることはありません。
私はカーラの口内が私の唾液で蹂躙され尽くすまでに、ヤってやると、唇を離します。
これだけやれば、さすがのカーラといえども、もう私の虜でしょう。私はほくそ笑んで、彼女の顔を見ます。そこにあったのはーーー。
上気した赤い頬に。顔を淫らに蕩けさせ、涎を垂らすカーラ。その目は嗜虐に燃えて。口端を吊り上げて笑いました。
「え? あ、ぁあ……」
堕とすことが出来なかった。私はその事実に愕然とします。
「驚、……ン、ふぅ。驚いていりゅ、ようだ、な。ふ、ハァん♡ はははははー、ァあぁぁぁッ♡」
効いていないわけではありません。ピクピクと可愛らしく震えながら、カーラが続けます。
「お前の魅了は効いた。フゥ、…蕩けて流れてしまいそうなほど、な。ンぅ。……だがな。そんな顔でされては効くものも効かんぞ」
カーラはそう言って、私の頬に手を伸ばします。時折、震える指先で、私の頬に触れます。そして、何かをソッと拭って、それを見せつけます。
濡れている。私は自分の頬に、目元に触れて。目を大きく開いて。そうして、次から次から涙が溢れました。
「そ、んな……」
荒い息のまま、カーラが優しく笑います。こんな顔も出来たのですね。今、そんな顔をされてしまったら、もう、この涙を止めることなどできはしないではないですか。
「いいぞ、泣いて。全部吐き出してしまえ。私はここにいるから。私は、ここから居なくならないから」
ズルいです。そんなことを言われてしまえば、私はもう抑えることが出来ません。カーラに抱きついて、声を出して泣いてしまいます。
さっき一人で泣いていた時よりも激しく。見られているというのに、こっちの方が思いっきり泣いてしまいます。
私はこの気持ちを止めることが、出来ません。
カーラは私の頭を引き寄せて、撫でてくれています。イケメン(女)です。こんなことをされては惚れてしまうではないですか……。私にはブレイブがいるというのに。
カーラも失いたくない。
………。
そうか、そうだったのですね。
私が逃げ出してしまったのは、ブレイブを独り占めしたいという気持ちに駆られただけではなくーー。
彼女たちと戦いたくないと思ってしまった。彼女たちを失いたくないと思ってしまったことも理由なのですね。
私はカーラを強く抱きしめます。そして……。
ひとしきり泣いた私はカーラから体を起こして話しかけます。
「カーラ、話したいことがあるのですが、いいでしょうか」
カーラは静かに頷いてくれました。
私は話します。ルチアにされたこと。私が味わってきた思い。私はそれをありったけ吐き出します。
勢い余って本当に吐いてしまいそうになるくらい。話しているうちに再び泣き出して、嗚咽交じりに。顔もグシャグシャにして。
そして、私はカーラに話しました。私の計画をもーーー。
◆
ようやく私は落ち着きを取り戻しました。冷静になると、顔から火が出そうになるくらい恥ずかしくなります。それでも、カーラは真っ直ぐなまま。私への態度を変えることはありませんでした。それどころか、
「ほう。それでブレイブにハーレムを作らせようとしたのか。面白い。その計画、私も乗ってやろうではないか、ふははははー!」
そんな嬉しいことまで言ってくれます。
私の計画を聞いても、カーラはいつもの調子でした。私はホッとすると同時に、カーラに尋ねます。
「いいのですか? そうしてしまうと、ブレイブを独り占めする機会は減っていきますよ」
「何を臆することがある。言っただろう。私はそいつらと正面から競って、ブレイブをこの私の虜にさせてやる、と」
「そうですね。あなたはそういうヒトです。それが、よくわかりました。私の魅了にも耐えきった。カーラなら、やりかねません。ですが、私も負けません」
私の言葉に、カーラはニィ〜、と歯をむき出して笑います。私もカーラに微笑み返します。こんな友達ができるとは思ってもいませんでした。しかも、私が女中としてお世話をしたこともあるカーラとだなんて。
長くいきているとこんなこともあるのですね。ブレイブとも出会えたましたし……。
「………しかし」
と、カーラが難しい顔をしました。珍しい。まるで苦虫を噛み潰したような顔をしています。
苦虫、あれをメイちゃんに噛み潰させられた時は、死ぬかと思いました。苦虫を作り上げてしまう、サバトの技術は恐ろしいです。
「どうかしたのですか?」
「いや、実はだな」
今度はカーラが、昨日あったことを話してくれました。
カーラと、ブレイブ、そして、ホルスタウロスのガーテンとの間で行われた情事のことを。
……………。
なんと羨ましい。しかし、ブレイブ、なんて恐ろしい子!
カーラを完全に手玉に取れるほどに性的レベルアップを果たしてしまうとは……。
魔物の救世主になる男としては頼もしい限りですが、そんなことを聞いては彼の伴侶として大人しくしているわけにはいきません。
それに、カーラがこんな珍しい顔をしているとは、なかなか由々しき事態です。
だから、私はカーラに提案します。
「カーラ。私と特訓しませんか?」
「何のだ?」
「だから、ナニの」
「私にそっちの気(け)はないぞ」
「私にだってありません」
ーーー多分。
「おい、今の沈黙は何だ。うーん、そうだな。さきほどのキスといい……。リリムと性技の特訓をできると言うのであれば、願ってもない話だ、な」
カーラは少しだけ迷う様子を見せましたが、直ぐに真っ直ぐで力強い笑顔を見せてくれます。
「だが、一つ言っておく」
カーラが私に顔を近づけてきます。幼い容貌であるとはいえ、大人だった頃の凛々しさが思い起こされます。
睫毛の数まで数えられそうなほどの距離。カーラは獰猛に笑って、麗しい唇を私の耳元に近づけます。そして、吐息を吹きかけつつ。低めの艶やかな声音で。
「私に惚れるなよ」
………………ええ、手遅れです。
狙ったな。この悪女、幼女、ショタコン。
そう言えば、もともと男性の勇者だけではなく、女性の勇者にもカーラは人気がありましたっけ。
私は、決意します。
堕としてやる。私を落とした責任を取らせてやる。堕として、私とカーラの二人でブレイブを堕としてやる。
そうして、私は服を脱ぎ、生まれたままの姿で、カーラとくんずほぐれつの特訓(レズセックス)に励んだのでした。
ノックの音がしています。
私はそれに気怠げに答えます。
「ヴィヴィアンさまのお友達という方がいらっしゃっています」
「帰ってもらってください」
私は女中に即答します。
ここまでこられることは驚きですが、私が会うわけがありません。
私はにべもなく即答します。
「しかし……」
言葉を濁す女中。そこに粗野な声が割り込みます。
「構わん。押し通させてもらう」
駕(が)シャァァん。
扉が無作法に開け放たれます。カーラです。彼女は元貴族であるというのに、この有様は何なのでしょうか?
「躾がなっていませんね。ヘレンに教えてもらわなかったのですか?」
私の皮肉に対して、カーラはいけしゃあしゃあと答えます。
「私が教えてもらったのはショタの神髄のみだなぁ!」
ふはははー、といつもの調子。
私の気持ちを知ってか知らずか、ズカズカと私の部屋に踏み込んで来ます。そして、ベッドに突っ伏していた私の胸ぐらを掴んで引き起こします。
黒髪の幼女(カーラ)が白髪の幼女(私)を引きずり起こす。子供の喧嘩の様相。しかし、中身も内容も子供じみてはいません。
「お前はブレイブを一人占め出来なくて、逃げ出したそうだな」
カーラが不敵に嫌らしく。ニヤァっと笑います。私はそれに沈黙で返すしかありません。
「リリムさまと言っても、中身は女の子だったわけか。ブレイブハーレムを作ろうと意気込んでいたのは誰だったのかな?」
カーラは無遠慮に私のおでこにおでこをくっつけます。至近距離で睨みあう私たち。私は精一杯の気力を持ってカーラを睨みつけます。
「あなたなんかに私の気持ちなど分かりません」
「ああ、分からないさ。お前が教えてくれないからなぁ!」
カーラのおでこが私のおでこをグリグリと押し込んで来ます。
「だから教えろ。お前の気持ちを教えてみろ」
私は歯噛みします。
「リリム、ヴィヴィアンよ。お前は誇り高き淫魔の姫なのだろう。淫らに皆が乱れることを望んでいる。お前自身が、一人の男を求めることを否定はしない。だが、自らが合わせた男女を引き離して、独り占めしようなどとはいただけんなぁ!」
「私だって、そんなことをするつもりはありませんでした。でも、心が、どうしようもなくブレイブを独り占めしようとしてしまうのです。それは、仕方がないではないですか」
「くっくっく。そうだ、仕方がない。仕方がないがーー。己を磨かずに、ただ攫って行こうなどという性根が、私には認められんのだ」
「そんなことはありません。私はただ……」
「いいや、違わない」
カーラが私を否定します。
「お前は自分に自信がない。だから、真正面から戦おうとせずに絡め手を取る。百歩譲ってそれはいいとしよう。だが、私はそれで済むと思っていたお前の性根が許せない。ヴィヴィアン、お前、私たちを舐めていないか?」
「そんな……こと……」
カーラが至近距離で私の目をまっすぐに見てきます。彼女のまっすぐな瞳に、私の瞳は揺れてしまいます。
「答えられないか……。だが、私はお前が私たちを舐めていると思う。お前が裏で手を回して目覚めさせた魔物娘。それが私たちだ」
カーラは知っていました。白衣から聞いたのでしょうか? ただの脳筋だったと思っていたカーラの認識を私は改めます。
改めて……、気がつきます。ああ、確かに彼女のことを舐めていたのかもしれません。私が自らの目的のために、手を回して生み出した魔物娘。リリムでもある私には勝てるはずもない、と。目を泳がせる私にはカーラは告げます。
「ともすれば、私たちはお前に勝てないのかもしれない。性技にせよ、実力にせよ……。だがな」
ーーーブレイブを思う気持ちは決して負けはしない。
カーラは私にその言葉を叩きつけました。
「お前もそう思っていたのではないのか? 私はお前もそうだと思っていた。しかし、今、お前はその気持ちにすら自信がないように見える。だから、逃げ出した。お前は私たちだけではなく、お前自身をも舐めている。私が思っていたお前は、そんな程度じゃない」
カーラの言葉に、私は意気込んで返します。
「当たり前です。ブレイブを思う気持ちは、絶対にあなた達にだって負けません」
そこでようやくカーラは私のおでこからおでこを離してくれます。
「そうだ。その意気だ。ならば、なぜ、こんな所に逃げ出した?」
「そ、れは……」
私は口ごもります。
それは正直、私にも分からないのです。
分からない。抱いたことのない感情。ただ、ブレイブが好きで、彼が気持ちよくなっていられれば、私の気持ちなんて、二の次。
だからこそ、私はブレイブを計画の要に位置付けた。ブレイブを要としたAIK計画。
ーーでも、私は今になって、私の気持ちを無視できなくなってしまったのです。
私はブレイブを私だけのものにしたくなってしまったのです。この計画はブレイブにハーレムを作ってもらうことを前提としていたのに……。
それが、この世界を救うことに繋がるとしても。それが、私の幸せに繋がるとしても。
私は、その過程を受け止められなくなってきていました。
これは、ルチアを倒した時からでしょう。一つの胸のつかえが取れたおかげで。私が今まで目を向けていなかった感情が鎌首をもたげてしまったのです。
「ふん。言えないのならば、それもそれでいい。だがーーー」
カーラがニヤリと笑います。
「お前が出てくるまで、私はここにいるぞ」
私はその言葉にハッとします。カーラとて、ブレイブを独り占めしたいと思っている。私はそう認識していました。
だからこそお互いに、牽制しあっていたのでは?
「何だ、その顔は?」
私はどんな顔をしていたのでしょうか?
カーラは「ははーん」と言って頷きます。
「お前は、私もお前のようにブレイブを独り占めしたいと思っている。そう思っているのだろう。ーーー残念だな。それはただの事実だッ!」
カーラは立ち上がり仰け反って、私を下に見ながら言い放ちます。
「確かに、私もブレイブくんを独り占めしたい。ブレイブくんの幼い体で、私の幼い体を持て余す所なく愛してもらいたい。だが、それは抜け駆けなどをしてしまっては、私のプライドが許さん。私は、正々堂々、真正面から。ブレイブくんを私だけに夢中にさせたいのだ。ま、お前達もそれでは寂しいだろうから。正妻である私のオコボレを恵んでやらんでも無いぞ」
ふははははーと幼女が豪快に笑います。その目は爛々と輝いて、見た目は子猫なのに、中身はドラゴンでも入っていそうです。
しかし、そんなことを言われて黙っているのは、リリムとして、私(ヴィヴィアン)としても癪に触ります。私はカーラの言葉に噛み付きます。
「何をふざけたことを言っているのですか! ブレイブの正妻は私です。私がずっと彼を見守ってきたのですッ! それを恵んでやったのは私の方です!」
「ほう、ようやく本音が出たな。そうだ。お前は、ブレイブを私たちに恵んでやっていた、と思っていた」
カーラがクツクツと笑います。私は、今、自分の口を出た言葉が信じられませんでした。
「しかし、今はそんな私たちとブレイブを取り合っている。滑稽だ。滑稽だなぁ! ふははははー!」
私は思わずカーラに飛びかかります。飛びかかって、私のベッドに押し倒します。私の力なんて簡単に振りほどけるハズなのに。カーラは私に組み敷かれたまま、嫌らしい笑みを浮かべています。こうなったらーーー。
「だから、私はお前に戻ってきてほしいのだ。ようやく、リリムさまが私たちを認めてくれた。こうして、ケダモノのように幼女を組み敷かなくてはいけないほどに。私はそれが嬉しい。私の片思いだけではつまらない。お前に私を見てもらって、それで越えなくては。そうでなくては、ライバルとは言えんだろう?」
カーラが私の下で不敵に笑います。私はカーラの上にのしかかったまま、体を硬直させてしまいます。
「いい顔をしているじゃあ無いか。何だ? 私がそう思っていることを知らなかったという顔だな。ダック・ミーミルなんて、ご大層な名前をもらっていたハズなのに、人の気持ちは分からないと見える」
そうです。そんなもの分かりません。分かったところで、計画に利用するだけ。そんな虚しいだけのもの。初めっから分からないでいる方が、マシです。それに、今までの私にはそんな余裕はありませんでした。
そんな虚しいもの、もう虚しいままで押し込めることにしましょう。
「黙りなさい」
私は精一杯の冷たい声を出して、カーラの唇を唇で塞ぎます。カーラは一瞬だけ驚いた顔をしたものの、私の口づけを受け入れています。
私は魔力を力一杯カーラに流し込み、魅了します。リリムの本気の魅了。これには、男はもちろん、女だって抗うことは出来ません。
その証拠に、カーラの目がドンドンと蕩けていきます。
私の下で、黒髪の幼女がビクンと跳ねました。それでも、私は魔力を流し込み続けます。カーラの肢体がビクンビクンと、まな板の上の魚のように、跳ねます。
膝で彼女の太ももを割り開いて、股をこすってやります。
ふふ。もうグショグショです。泣いているみたいです。このままイキ狂えばいい。
私はカーラの口内を徹底的に犯します。
魔物娘が性的な快楽で、壊れることはありません。それでも、私に屈服させることくらいは出来るハズです。
私はカーラを快楽で陵辱します。ライバルだなんておこがましい。私は一人でいい。
私の計画に支障を来すのであれば、ブレイブだって愛する道具として割り切りましょう。
ーーー痛い。私の胸の何処かが軋みをあげた気がします。気のせいです。
ルチアに仲間を殺され尽くした時に、私の心は死んだのです。だから、表面的な馬鹿をやって心から楽しんで、上っ面で笑いましょう。
いくら皆帰ってきたとはいえ、あの時の悲しみが私の心から消えることはありません。
私はカーラの口内が私の唾液で蹂躙され尽くすまでに、ヤってやると、唇を離します。
これだけやれば、さすがのカーラといえども、もう私の虜でしょう。私はほくそ笑んで、彼女の顔を見ます。そこにあったのはーーー。
上気した赤い頬に。顔を淫らに蕩けさせ、涎を垂らすカーラ。その目は嗜虐に燃えて。口端を吊り上げて笑いました。
「え? あ、ぁあ……」
堕とすことが出来なかった。私はその事実に愕然とします。
「驚、……ン、ふぅ。驚いていりゅ、ようだ、な。ふ、ハァん♡ はははははー、ァあぁぁぁッ♡」
効いていないわけではありません。ピクピクと可愛らしく震えながら、カーラが続けます。
「お前の魅了は効いた。フゥ、…蕩けて流れてしまいそうなほど、な。ンぅ。……だがな。そんな顔でされては効くものも効かんぞ」
カーラはそう言って、私の頬に手を伸ばします。時折、震える指先で、私の頬に触れます。そして、何かをソッと拭って、それを見せつけます。
濡れている。私は自分の頬に、目元に触れて。目を大きく開いて。そうして、次から次から涙が溢れました。
「そ、んな……」
荒い息のまま、カーラが優しく笑います。こんな顔も出来たのですね。今、そんな顔をされてしまったら、もう、この涙を止めることなどできはしないではないですか。
「いいぞ、泣いて。全部吐き出してしまえ。私はここにいるから。私は、ここから居なくならないから」
ズルいです。そんなことを言われてしまえば、私はもう抑えることが出来ません。カーラに抱きついて、声を出して泣いてしまいます。
さっき一人で泣いていた時よりも激しく。見られているというのに、こっちの方が思いっきり泣いてしまいます。
私はこの気持ちを止めることが、出来ません。
カーラは私の頭を引き寄せて、撫でてくれています。イケメン(女)です。こんなことをされては惚れてしまうではないですか……。私にはブレイブがいるというのに。
カーラも失いたくない。
………。
そうか、そうだったのですね。
私が逃げ出してしまったのは、ブレイブを独り占めしたいという気持ちに駆られただけではなくーー。
彼女たちと戦いたくないと思ってしまった。彼女たちを失いたくないと思ってしまったことも理由なのですね。
私はカーラを強く抱きしめます。そして……。
ひとしきり泣いた私はカーラから体を起こして話しかけます。
「カーラ、話したいことがあるのですが、いいでしょうか」
カーラは静かに頷いてくれました。
私は話します。ルチアにされたこと。私が味わってきた思い。私はそれをありったけ吐き出します。
勢い余って本当に吐いてしまいそうになるくらい。話しているうちに再び泣き出して、嗚咽交じりに。顔もグシャグシャにして。
そして、私はカーラに話しました。私の計画をもーーー。
◆
ようやく私は落ち着きを取り戻しました。冷静になると、顔から火が出そうになるくらい恥ずかしくなります。それでも、カーラは真っ直ぐなまま。私への態度を変えることはありませんでした。それどころか、
「ほう。それでブレイブにハーレムを作らせようとしたのか。面白い。その計画、私も乗ってやろうではないか、ふははははー!」
そんな嬉しいことまで言ってくれます。
私の計画を聞いても、カーラはいつもの調子でした。私はホッとすると同時に、カーラに尋ねます。
「いいのですか? そうしてしまうと、ブレイブを独り占めする機会は減っていきますよ」
「何を臆することがある。言っただろう。私はそいつらと正面から競って、ブレイブをこの私の虜にさせてやる、と」
「そうですね。あなたはそういうヒトです。それが、よくわかりました。私の魅了にも耐えきった。カーラなら、やりかねません。ですが、私も負けません」
私の言葉に、カーラはニィ〜、と歯をむき出して笑います。私もカーラに微笑み返します。こんな友達ができるとは思ってもいませんでした。しかも、私が女中としてお世話をしたこともあるカーラとだなんて。
長くいきているとこんなこともあるのですね。ブレイブとも出会えたましたし……。
「………しかし」
と、カーラが難しい顔をしました。珍しい。まるで苦虫を噛み潰したような顔をしています。
苦虫、あれをメイちゃんに噛み潰させられた時は、死ぬかと思いました。苦虫を作り上げてしまう、サバトの技術は恐ろしいです。
「どうかしたのですか?」
「いや、実はだな」
今度はカーラが、昨日あったことを話してくれました。
カーラと、ブレイブ、そして、ホルスタウロスのガーテンとの間で行われた情事のことを。
……………。
なんと羨ましい。しかし、ブレイブ、なんて恐ろしい子!
カーラを完全に手玉に取れるほどに性的レベルアップを果たしてしまうとは……。
魔物の救世主になる男としては頼もしい限りですが、そんなことを聞いては彼の伴侶として大人しくしているわけにはいきません。
それに、カーラがこんな珍しい顔をしているとは、なかなか由々しき事態です。
だから、私はカーラに提案します。
「カーラ。私と特訓しませんか?」
「何のだ?」
「だから、ナニの」
「私にそっちの気(け)はないぞ」
「私にだってありません」
ーーー多分。
「おい、今の沈黙は何だ。うーん、そうだな。さきほどのキスといい……。リリムと性技の特訓をできると言うのであれば、願ってもない話だ、な」
カーラは少しだけ迷う様子を見せましたが、直ぐに真っ直ぐで力強い笑顔を見せてくれます。
「だが、一つ言っておく」
カーラが私に顔を近づけてきます。幼い容貌であるとはいえ、大人だった頃の凛々しさが思い起こされます。
睫毛の数まで数えられそうなほどの距離。カーラは獰猛に笑って、麗しい唇を私の耳元に近づけます。そして、吐息を吹きかけつつ。低めの艶やかな声音で。
「私に惚れるなよ」
………………ええ、手遅れです。
狙ったな。この悪女、幼女、ショタコン。
そう言えば、もともと男性の勇者だけではなく、女性の勇者にもカーラは人気がありましたっけ。
私は、決意します。
堕としてやる。私を落とした責任を取らせてやる。堕として、私とカーラの二人でブレイブを堕としてやる。
そうして、私は服を脱ぎ、生まれたままの姿で、カーラとくんずほぐれつの特訓(レズセックス)に励んだのでした。
17/01/02 19:37更新 / ルピナス
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