33.キョニューの特選隊
キョニュー特選隊のお仕事は、別の読み切りでやってるよ。
そっちで書いているから、割愛するよ♡
手抜きなワケじゃないんだから、ネッ!
◆
「なぁデイ……、トリンバルよ。どうして明らかにサクラらしき奴がいるんだ?」
「それは、言ってはいけないお約束ごとです。マーラさん」
キョニュー特選隊に入ることになったカーラ改めマーラは、ダークスライムのデイジー改めトリンバルに話しかけていた。
キョニュー特選隊に新しくカースドソードのカーラが入隊すると報告すると、エレンは即「じゃ、マーラで」と答えたのだった。
彼女は、カーラがカースドソードとして現れたという報告に驚く様子も見せなかった。それに、ケルンと駄馬……、名前なんだったっけ? ああ、ビクトリア、がエレンの屋敷で働くことも、即「オッケー」であった。
カーラはまだエレンとは直接会ってはいない。
街の治安維持部隊への入隊も、屋敷の使用人の選出もそんないい加減なものでいいのか……。
そんな言葉をメイ改めキョニューはグッと飲み込んで、街のパトロールに出かけて行ったのだった。
街には相変わらず子供たちしかいない。そのどれもが楽しそうな顔をして、それぞれの時間を過ごしている。時折、メイに気付いたものたちが朗らかに挨拶してくれる。
リリラウネの蜜をふんだんに使用したクレープ。それを食べているハニービーにカーラは目をやる。美味しそうだ。後で、ブレイブくんと食べにこよう、その様子を想像して頬をニヤけさせる。
そして、そんな街の様子を見たカーラは、領主を変える必要はないのでは? とも思う。
メイも街の人々と話す時は、楽しそうな様子だ。自分の故郷エルタニンは、反魔物国家であり、勇者を多数抱えて防備は万全であった。
それはカーラが自分の手で叩き潰したのではあるが……。
しかし、エルタニンの人々が幸せな様子であったと言われると疑問だ。当然貧富の差はあったし、いつも外敵に晒される戦闘状態であったことも間違いがない。
それがーー、ここでは皆が楽しそうだ。何よりも活気がある。
男も女も、不安など感じてもいない様子。
貧しいものが男であれば、職業斡旋所と称した結婚紹介所で就職(ケッコン)させられる。女であってもそれは同じだ。交わっていれば、生きてはいける。
それに、サバトの収入のお陰で最低限の住居は保障されている。メイの敷いた魔術のお陰で痛むこともない。その魔力は住人たちの交わりで漏れる魔力を源として、枯れることがない。
住人たちは銘々の生活を保障されていた。
それを全て整えたのはメイなのだという。
メイは、住人たちが自分ではなく魔女こそを慕っていると言っていた。しかし、カーラが街を歩く限りではそんなことはなさそうだった。
「キョニューちゃん、俺だー!! 今日、告白するから気合いを注入してくれー!」
「あい、わかった。ならば、歯を喰いしバレェいッ!」
「ぐはぁっ! ありがとうございます!!」
「今日は何にもないけど、俺もお願いしますッ」
「俺も」「私も」「ミーも」「拙も」
「よぉし、お主らァ。順にそこに直れィ!」
『ひゃっふぅぅ!』
これはパトロールと言うよりは、キョニューと愉快な仲間たちの興行に他ならなかった……。
カーラはカルチュアァァショックを受けていた。
「ふぅ、またつまらぬものを殴ってしまった」
キョニューがお手手をさすりながら、特選隊の元に戻ってくる。
「今日もお疲れ様、キョニューちゃん」
ホルスタウロスのガーテンが声をかける。
「何がお疲れ様なのじゃ。ただ殴っておるだけで疲れるワケがなかろう」
キョニューの顔がツヤツヤとしている。彼女は犬歯を見せて二カッと笑う。
幼女のはずなのに、思わず姐さんと呼びたくなってしまいたくなるような剛毅さだ。
カーラがキョニュー特選隊に入ろうと思ったのは、何もガーテンの性技を盗むためだけではない。キョニューに感じた不可解な強さの片鱗でも盗めないものかと思ったからでもある。
ガーテンの性技は盗めない……。なんせ、手にかけられた相手が即行で果ててしまうからだ。
カーラの視線に気がついたキョニューが口を開く。
「どうしたのじゃ? まさかお主も殴ってもらいたいなどと言うわけではなかろうな」
「そんなワケがないだろう」
「そうか」
カーラの言葉にキョニューが少し残念そうにする。そして、チラリと他のメンバーに目を向ける。
「僕も遠慮する」
「ワたしも」
「私も、ってェェ! 何で、答える前に殴るんですか……」
「すまん、つい」
キョニューは謝るが、ダークスライムのトリンバルの頬は上気している。誤ってはいない。
ダンピールのニークン、クー・シーのパウカーはそんな体は子供、中身はイケナイお姉さんたちを見ていた。
彼女たちは中身も見た目通りに幼い。キョニュー特選隊に入っているのは、こういのが好きなだけ。
キョニューちゃんがお守りをしてくれているのだ!
カーラの耳には、チラホラと街の声が聞こえてくる。
ーーキョニューちゃん、今日もイキイキしてるわね。
ーー領主だった頃は屋敷に篭りっぱなしだっただろ。あんな娘だったんだ。
ーーキョニューちゃん好きーー。
「………………」
カーラも、総合的にキョニューは今の方が良いのではないかと思ってしまう。
何せ、彼女自身が楽しそうだ。
……ふむ。キョニュー特選隊の一員として、彼女たちに着いて行く間に、カーラはそう確信したのであった。
「そろそろ昼じゃな」
「じゃあ、僕は一度家に帰って、ご飯を食べてくるよ」
「ワたしも失礼します」
「私も、ご飯を作ってきます」
キョニューの言葉で、年少組と子持ちが一度解散して行く。
これ、治安維持部隊だよな……。そんなツッコミはもはやするまい。カーラはキョニューとガーテンと共にカフェに着いて行く。
「よし。ここはワシが奢ろう。最近ドラゴニアに行ったという店主が、ドランスパンを提供してくれるのじゃ」
キョニューがメニューを広げながら、カーラに勧めてきてくれる。
「……いいのか。じゃあ、私はそれを頂こう」
「私もー。もちろん、奢ってくれるわよね?」
「構わんぞ」
「わーい」
ガーテンの言葉にキョニューがにべもなく頷く。そこにシビれる、憧れるゥ。そんな幻聴が聞こえる気がする。
「今日のランチを3つじゃ」
「かしこまりました〜」
キョニューの注文を受けて、ワイバーンの幼女が元気の良い声を返す。
キョニューがうむうむ、と頷いている。
「マーラよ、この街はどうじゃ?」
マーラと言われて、一瞬誰のことかと思ったが、カーラはキョニューに目を向ける。
「良い街だと思う」
それはカーラの素直な感想。このままで良いと思えるほどにーーー。
カーラの言葉を聞いて、この街の創設者であるキョニューが破顔する。
その途端に、周りから椅子がガタガタという音が聞こえたが、気のせいではない。
キョニューの心底嬉しそうな顔は、思わず頬を緩めずにはいられないものだった。
その様子を片目で見つつ、カーラはキョニューに問いかける。
「お前も、イキイキとしているようだ。思ったのだが、お前も慕われているようだし、別にワザワザ領主に戻ることもないのではないか?」
それもカーラの素直な感想。それに、キョニューは目を剥いて反論する。
「何を行っておるんじゃお主は! ワシは領主に戻って、あの魔女めの暴挙を止めねばならん。そのためにお主らも協力してくれると言ったではないか」
キョニューの言葉に、周りの客がザワザワとしだす。
そんな重要な案件を、こんな公共の場で本人が暴露した。さすがにカーラとて、気が気ではない。しかし……。
「まだそんな言ってるんだ。キョニューちゃん」
「そんなこと誰でも知っているよねぇ」
「キョニュー特選隊って、そういう役職だよね」
「キョニューちゃん、領主に戻ったらヤダー。一緒に遊んでもらえなくなるー」
周りから聞こえてきた声に、カーラは拍子抜けする。
やはり、そうなのではないか……。
「キョニューよ。お前は周りの声を聞いているのか? 皆、おが領主であることを望んではいない」
「なっ、………お主は何を言い出すのじゃ。ワシが領主をやらずに誰がやるというのじゃ」
「魔女ロリーダさまが治めているでしょ」
こともなげに言ったガーテンに、キョニューがウッと言葉を詰まらせる。
そんなキョニューにトテトテとアリスの少女が近づいてきた。
彼女はキョニューのマントをキュッと掴むと、うるうるした瞳でキョニューを見る。
「キョニューのお姉ちゃんが領主に戻ったら嫌。だって、またお外に出てきてくれなくなるんでしょ……?」
「し、かし、お主たちを守るためには……」
「ヤダッ。守ってもらわなくてもいいから、お姉ちゃんと遊びたいっ!」
少女の叫びにキョニューは目を泳がせる。マントの裾を掴んだまま今にも泣き出しそうな、様子の少女を見て、キョニューは1つため息をつく。
「わかったのじゃ。ワシはお主と遊ぼう。じゃが、領主にはなる。領主に戻っても、ちゃんと外に出てくると約束しよう。それなら……、いいじゃろう?」
キョニューの言葉にアリスが嬉しそうに頷く。
「なんじゃ、何を見ておるんじゃ。見世物じゃないぞ!」
キョニューの声で、他の客たちは食事を再開する。しかし、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「外に出てきてくれるというのはいいけど、あのガチのガチムチ警備隊はやっぱりいただけないよなぁ……」
「そうだな。アレはいただけないなぁ」
「いえ、私は好きだったわよ」
「お前ラァっ! 筋肉こそ正義じゃろうがぁぁぁぁぁ! 最後の奴は名を名乗れい、友達になろうではないかぁ!」
キョニューの声が店内に響いたのであったーーー。
◆
そんな感じで興行を終えたキョニュー特選隊は解散して、カーラはキョニューの屋敷に戻る。
カーラは、キョニューとガーテンと共に歩いているのは。
その道すがら、カーラは一つの聞いて見たかった疑問をキョニュー改め、メイにぶつけた。
「どうしてお前がルチアと戦わなかったのだ? お前はヴィヴィアンと昔からの知り合いだというし、アレは放って置いていいものではなかっただろう」
キョニューの強さであれば、ルチアを止めることが出来たのではないかとカーラは思うのだ。
「ああ、あやつか」
メイはカーラの言葉に遠い昔を見るような目をした。
「確かにワシが戦えば被害が大きくなる前に倒せたかもしれん。じゃがな。ワシには神々がどうなろうと知ったことではないし、遠くで苦しむものたちをワザワザ救いに行くようなお人好しでもない。言ったじゃろう、ワシはこの街を守れればそれで良いのじゃ」
キョニューはカーラの目を見つつ続ける。
「何も思わん訳ではないが、ワシは先代魔王の頃から生きておる……。じゃから、救えるものと救えんものがいることは十分にわかっておる」
メイは自分の手のひらに目を落とした。その様子を見て、カーラは聞いた。
「お前は人を殺したことがあるのか?」
「ああ、殺したとも。それが魔物としての存在意義じゃったからな。食いもしたさ……。今代の魔王になってからは悔いにしかなっておらぬがな……」
メイの様子にカーラは何も返すことができない。
「ルチアのことはその時から知っておった。奴のしでかしたことはーー今でこそ許されはせぬが、当時のヤツはただの哀れな小娘じゃった。ルチアはワシのことも知っておるよ。………じゃからこそ、ワシはヤツと戦えはせなんだ。ワシが行けば、ヤツはーーそれこそ本気で戦ったじゃろう。慢心も、遊びも、激昂すらもせず、全身と全霊をかけて戦闘に注ぎ込む。そうなったのならば……凄まじい被害が出たに違いない。まぁ、結局、それ以上の命が失われたわけじゃが。魔物娘になっちまったワシにそんなことは出来なんだのじゃ」
そう言って、すまん、とメイはカーラに向かって頭を下げた。
「いや、私はそんなことを言いたかった訳ではない……。こちらこそすまない。嫌なことを思い出させてしまって……」
「じゃあ、何が言いたかったの?」
そんな二人に向かってガーテンが助け舟を出してくれる。
「………。ヴィヴィアンを助けてくれていたということだが、魔道具を作る以上のことはしなかったのだな、と思っただけだ」
「そういうことかーー」
メイは合点がいく。カーラはメイに、どうしてヴィヴィアンだけに背負わせたのだ、と問うている。
その答えは変わらない。
「さっきも言った通りじゃ。ワシはお人好しではないしーーー」
自分が戦わなくてはならない相手は別にいた。
メイのその言葉は、ブレイブの声によって口を出ることはなかった。
「あっ、カーラちゃん」
「おお、ブレイブくんではないか! まさか私を迎えに来てくれたたとでもいうのか? そうなのか!? そうに違いない。それ以外あろうはずもない」
「違うわよね。私を迎えにきてくれたのよ」
カーラの言葉にガーテンが被せてくる。
「ぐぬぬぬぬぬ。違う。私・を迎えにきてくれたのだッ!」
カーラはいきり立つ。しかし、ブレイブの言葉で冷静になる。
「ヴィヴィアンがいなくなっちゃったんだ。自分のお城に行っちゃったみたいで……」
それは、白衣がブレイブに教えてくれた。ブレイブは、白衣にどうやって知ったのかは恐ろしくて聞くことが出来なかった。
ヴィヴィアンがブレイブを置いていなくなる。それは、今までになかったはずだ。
カーラは何があったのかブレイブから話を聞く。
話を聞き終わったカーラは、
「ふん、何という弱々しいことだ。ライバルだと思っていた私を馬鹿にしているのか? いいだろう。私が連れ戻してこよう」
そう言って、幼女に似つかわしくない獰猛な笑みを浮かべたのだった。
そっちで書いているから、割愛するよ♡
手抜きなワケじゃないんだから、ネッ!
◆
「なぁデイ……、トリンバルよ。どうして明らかにサクラらしき奴がいるんだ?」
「それは、言ってはいけないお約束ごとです。マーラさん」
キョニュー特選隊に入ることになったカーラ改めマーラは、ダークスライムのデイジー改めトリンバルに話しかけていた。
キョニュー特選隊に新しくカースドソードのカーラが入隊すると報告すると、エレンは即「じゃ、マーラで」と答えたのだった。
彼女は、カーラがカースドソードとして現れたという報告に驚く様子も見せなかった。それに、ケルンと駄馬……、名前なんだったっけ? ああ、ビクトリア、がエレンの屋敷で働くことも、即「オッケー」であった。
カーラはまだエレンとは直接会ってはいない。
街の治安維持部隊への入隊も、屋敷の使用人の選出もそんないい加減なものでいいのか……。
そんな言葉をメイ改めキョニューはグッと飲み込んで、街のパトロールに出かけて行ったのだった。
街には相変わらず子供たちしかいない。そのどれもが楽しそうな顔をして、それぞれの時間を過ごしている。時折、メイに気付いたものたちが朗らかに挨拶してくれる。
リリラウネの蜜をふんだんに使用したクレープ。それを食べているハニービーにカーラは目をやる。美味しそうだ。後で、ブレイブくんと食べにこよう、その様子を想像して頬をニヤけさせる。
そして、そんな街の様子を見たカーラは、領主を変える必要はないのでは? とも思う。
メイも街の人々と話す時は、楽しそうな様子だ。自分の故郷エルタニンは、反魔物国家であり、勇者を多数抱えて防備は万全であった。
それはカーラが自分の手で叩き潰したのではあるが……。
しかし、エルタニンの人々が幸せな様子であったと言われると疑問だ。当然貧富の差はあったし、いつも外敵に晒される戦闘状態であったことも間違いがない。
それがーー、ここでは皆が楽しそうだ。何よりも活気がある。
男も女も、不安など感じてもいない様子。
貧しいものが男であれば、職業斡旋所と称した結婚紹介所で就職(ケッコン)させられる。女であってもそれは同じだ。交わっていれば、生きてはいける。
それに、サバトの収入のお陰で最低限の住居は保障されている。メイの敷いた魔術のお陰で痛むこともない。その魔力は住人たちの交わりで漏れる魔力を源として、枯れることがない。
住人たちは銘々の生活を保障されていた。
それを全て整えたのはメイなのだという。
メイは、住人たちが自分ではなく魔女こそを慕っていると言っていた。しかし、カーラが街を歩く限りではそんなことはなさそうだった。
「キョニューちゃん、俺だー!! 今日、告白するから気合いを注入してくれー!」
「あい、わかった。ならば、歯を喰いしバレェいッ!」
「ぐはぁっ! ありがとうございます!!」
「今日は何にもないけど、俺もお願いしますッ」
「俺も」「私も」「ミーも」「拙も」
「よぉし、お主らァ。順にそこに直れィ!」
『ひゃっふぅぅ!』
これはパトロールと言うよりは、キョニューと愉快な仲間たちの興行に他ならなかった……。
カーラはカルチュアァァショックを受けていた。
「ふぅ、またつまらぬものを殴ってしまった」
キョニューがお手手をさすりながら、特選隊の元に戻ってくる。
「今日もお疲れ様、キョニューちゃん」
ホルスタウロスのガーテンが声をかける。
「何がお疲れ様なのじゃ。ただ殴っておるだけで疲れるワケがなかろう」
キョニューの顔がツヤツヤとしている。彼女は犬歯を見せて二カッと笑う。
幼女のはずなのに、思わず姐さんと呼びたくなってしまいたくなるような剛毅さだ。
カーラがキョニュー特選隊に入ろうと思ったのは、何もガーテンの性技を盗むためだけではない。キョニューに感じた不可解な強さの片鱗でも盗めないものかと思ったからでもある。
ガーテンの性技は盗めない……。なんせ、手にかけられた相手が即行で果ててしまうからだ。
カーラの視線に気がついたキョニューが口を開く。
「どうしたのじゃ? まさかお主も殴ってもらいたいなどと言うわけではなかろうな」
「そんなワケがないだろう」
「そうか」
カーラの言葉にキョニューが少し残念そうにする。そして、チラリと他のメンバーに目を向ける。
「僕も遠慮する」
「ワたしも」
「私も、ってェェ! 何で、答える前に殴るんですか……」
「すまん、つい」
キョニューは謝るが、ダークスライムのトリンバルの頬は上気している。誤ってはいない。
ダンピールのニークン、クー・シーのパウカーはそんな体は子供、中身はイケナイお姉さんたちを見ていた。
彼女たちは中身も見た目通りに幼い。キョニュー特選隊に入っているのは、こういのが好きなだけ。
キョニューちゃんがお守りをしてくれているのだ!
カーラの耳には、チラホラと街の声が聞こえてくる。
ーーキョニューちゃん、今日もイキイキしてるわね。
ーー領主だった頃は屋敷に篭りっぱなしだっただろ。あんな娘だったんだ。
ーーキョニューちゃん好きーー。
「………………」
カーラも、総合的にキョニューは今の方が良いのではないかと思ってしまう。
何せ、彼女自身が楽しそうだ。
……ふむ。キョニュー特選隊の一員として、彼女たちに着いて行く間に、カーラはそう確信したのであった。
「そろそろ昼じゃな」
「じゃあ、僕は一度家に帰って、ご飯を食べてくるよ」
「ワたしも失礼します」
「私も、ご飯を作ってきます」
キョニューの言葉で、年少組と子持ちが一度解散して行く。
これ、治安維持部隊だよな……。そんなツッコミはもはやするまい。カーラはキョニューとガーテンと共にカフェに着いて行く。
「よし。ここはワシが奢ろう。最近ドラゴニアに行ったという店主が、ドランスパンを提供してくれるのじゃ」
キョニューがメニューを広げながら、カーラに勧めてきてくれる。
「……いいのか。じゃあ、私はそれを頂こう」
「私もー。もちろん、奢ってくれるわよね?」
「構わんぞ」
「わーい」
ガーテンの言葉にキョニューがにべもなく頷く。そこにシビれる、憧れるゥ。そんな幻聴が聞こえる気がする。
「今日のランチを3つじゃ」
「かしこまりました〜」
キョニューの注文を受けて、ワイバーンの幼女が元気の良い声を返す。
キョニューがうむうむ、と頷いている。
「マーラよ、この街はどうじゃ?」
マーラと言われて、一瞬誰のことかと思ったが、カーラはキョニューに目を向ける。
「良い街だと思う」
それはカーラの素直な感想。このままで良いと思えるほどにーーー。
カーラの言葉を聞いて、この街の創設者であるキョニューが破顔する。
その途端に、周りから椅子がガタガタという音が聞こえたが、気のせいではない。
キョニューの心底嬉しそうな顔は、思わず頬を緩めずにはいられないものだった。
その様子を片目で見つつ、カーラはキョニューに問いかける。
「お前も、イキイキとしているようだ。思ったのだが、お前も慕われているようだし、別にワザワザ領主に戻ることもないのではないか?」
それもカーラの素直な感想。それに、キョニューは目を剥いて反論する。
「何を行っておるんじゃお主は! ワシは領主に戻って、あの魔女めの暴挙を止めねばならん。そのためにお主らも協力してくれると言ったではないか」
キョニューの言葉に、周りの客がザワザワとしだす。
そんな重要な案件を、こんな公共の場で本人が暴露した。さすがにカーラとて、気が気ではない。しかし……。
「まだそんな言ってるんだ。キョニューちゃん」
「そんなこと誰でも知っているよねぇ」
「キョニュー特選隊って、そういう役職だよね」
「キョニューちゃん、領主に戻ったらヤダー。一緒に遊んでもらえなくなるー」
周りから聞こえてきた声に、カーラは拍子抜けする。
やはり、そうなのではないか……。
「キョニューよ。お前は周りの声を聞いているのか? 皆、おが領主であることを望んではいない」
「なっ、………お主は何を言い出すのじゃ。ワシが領主をやらずに誰がやるというのじゃ」
「魔女ロリーダさまが治めているでしょ」
こともなげに言ったガーテンに、キョニューがウッと言葉を詰まらせる。
そんなキョニューにトテトテとアリスの少女が近づいてきた。
彼女はキョニューのマントをキュッと掴むと、うるうるした瞳でキョニューを見る。
「キョニューのお姉ちゃんが領主に戻ったら嫌。だって、またお外に出てきてくれなくなるんでしょ……?」
「し、かし、お主たちを守るためには……」
「ヤダッ。守ってもらわなくてもいいから、お姉ちゃんと遊びたいっ!」
少女の叫びにキョニューは目を泳がせる。マントの裾を掴んだまま今にも泣き出しそうな、様子の少女を見て、キョニューは1つため息をつく。
「わかったのじゃ。ワシはお主と遊ぼう。じゃが、領主にはなる。領主に戻っても、ちゃんと外に出てくると約束しよう。それなら……、いいじゃろう?」
キョニューの言葉にアリスが嬉しそうに頷く。
「なんじゃ、何を見ておるんじゃ。見世物じゃないぞ!」
キョニューの声で、他の客たちは食事を再開する。しかし、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「外に出てきてくれるというのはいいけど、あのガチのガチムチ警備隊はやっぱりいただけないよなぁ……」
「そうだな。アレはいただけないなぁ」
「いえ、私は好きだったわよ」
「お前ラァっ! 筋肉こそ正義じゃろうがぁぁぁぁぁ! 最後の奴は名を名乗れい、友達になろうではないかぁ!」
キョニューの声が店内に響いたのであったーーー。
◆
そんな感じで興行を終えたキョニュー特選隊は解散して、カーラはキョニューの屋敷に戻る。
カーラは、キョニューとガーテンと共に歩いているのは。
その道すがら、カーラは一つの聞いて見たかった疑問をキョニュー改め、メイにぶつけた。
「どうしてお前がルチアと戦わなかったのだ? お前はヴィヴィアンと昔からの知り合いだというし、アレは放って置いていいものではなかっただろう」
キョニューの強さであれば、ルチアを止めることが出来たのではないかとカーラは思うのだ。
「ああ、あやつか」
メイはカーラの言葉に遠い昔を見るような目をした。
「確かにワシが戦えば被害が大きくなる前に倒せたかもしれん。じゃがな。ワシには神々がどうなろうと知ったことではないし、遠くで苦しむものたちをワザワザ救いに行くようなお人好しでもない。言ったじゃろう、ワシはこの街を守れればそれで良いのじゃ」
キョニューはカーラの目を見つつ続ける。
「何も思わん訳ではないが、ワシは先代魔王の頃から生きておる……。じゃから、救えるものと救えんものがいることは十分にわかっておる」
メイは自分の手のひらに目を落とした。その様子を見て、カーラは聞いた。
「お前は人を殺したことがあるのか?」
「ああ、殺したとも。それが魔物としての存在意義じゃったからな。食いもしたさ……。今代の魔王になってからは悔いにしかなっておらぬがな……」
メイの様子にカーラは何も返すことができない。
「ルチアのことはその時から知っておった。奴のしでかしたことはーー今でこそ許されはせぬが、当時のヤツはただの哀れな小娘じゃった。ルチアはワシのことも知っておるよ。………じゃからこそ、ワシはヤツと戦えはせなんだ。ワシが行けば、ヤツはーーそれこそ本気で戦ったじゃろう。慢心も、遊びも、激昂すらもせず、全身と全霊をかけて戦闘に注ぎ込む。そうなったのならば……凄まじい被害が出たに違いない。まぁ、結局、それ以上の命が失われたわけじゃが。魔物娘になっちまったワシにそんなことは出来なんだのじゃ」
そう言って、すまん、とメイはカーラに向かって頭を下げた。
「いや、私はそんなことを言いたかった訳ではない……。こちらこそすまない。嫌なことを思い出させてしまって……」
「じゃあ、何が言いたかったの?」
そんな二人に向かってガーテンが助け舟を出してくれる。
「………。ヴィヴィアンを助けてくれていたということだが、魔道具を作る以上のことはしなかったのだな、と思っただけだ」
「そういうことかーー」
メイは合点がいく。カーラはメイに、どうしてヴィヴィアンだけに背負わせたのだ、と問うている。
その答えは変わらない。
「さっきも言った通りじゃ。ワシはお人好しではないしーーー」
自分が戦わなくてはならない相手は別にいた。
メイのその言葉は、ブレイブの声によって口を出ることはなかった。
「あっ、カーラちゃん」
「おお、ブレイブくんではないか! まさか私を迎えに来てくれたたとでもいうのか? そうなのか!? そうに違いない。それ以外あろうはずもない」
「違うわよね。私を迎えにきてくれたのよ」
カーラの言葉にガーテンが被せてくる。
「ぐぬぬぬぬぬ。違う。私・を迎えにきてくれたのだッ!」
カーラはいきり立つ。しかし、ブレイブの言葉で冷静になる。
「ヴィヴィアンがいなくなっちゃったんだ。自分のお城に行っちゃったみたいで……」
それは、白衣がブレイブに教えてくれた。ブレイブは、白衣にどうやって知ったのかは恐ろしくて聞くことが出来なかった。
ヴィヴィアンがブレイブを置いていなくなる。それは、今までになかったはずだ。
カーラは何があったのかブレイブから話を聞く。
話を聞き終わったカーラは、
「ふん、何という弱々しいことだ。ライバルだと思っていた私を馬鹿にしているのか? いいだろう。私が連れ戻してこよう」
そう言って、幼女に似つかわしくない獰猛な笑みを浮かべたのだった。
16/12/19 18:02更新 / ルピナス
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