四、
「ちょっと、厠に行ってくる」
「ええよぉ、でも、どぉして二人で行くん?」
「仲がいいからに決まってるでしょ」
「そうねぇ、仲がいいとイくわなぁ」
お稲が気づいていないはずないと云うのに、私は兵衛を連れだして、いっしょに厠へ向かう。初めは抵抗していた彼だけれども、今となってはもう、私に云われるがままに来るようになった。
私は兄である兵衛の精を搾る。
「お妙……。駄目だ、こんなこと、俺は自分で出来るから」
「そんなこと云うくせに、兄ちゃんのここ、もうはち切れそうになってる」
私は兵衛の裾をまくって、すでに怒張して、醜悪な血管を浮き立たせている彼の摩羅に手を添える。そうして凶悪なそれを竹筒に納める。上下にしごけば、彼は歯を食いしばって耐える。
より多くの快楽を得られるように、より多くの精を放出出来るように。
そんな彼に、私は鬱(う)っそりとした顔を浮かべるのだ。
彼に切ない顔をさせているのは私。
彼の精を搾っているのは私。
彼の欲望を受け止められるのは私。
本当は指や口、股の穴で受け止めたかったけれど、私を治すための交換条件を満たすには、この竹筒でやらなくてはならない、らしい。それに、こんな行為をしつつも、いまだに兄と妹の関係であり続ける私たちは、この先に進めはしなかった。
なんて、甘く切なく、歪んだ関係――。
こうしているうちに、兵衛が我慢出来なくなって、妹である私を押し倒してくれればいいのに。そう願うけれども、そんな情欲に燃えた瞳で私を見て来るくせに、彼は、その一線を越えはしなかった。
でも、それはお互いさま。
彼の摩羅をしごきながら、私は自分の股に指を伸ばして、自らを慰めている。私がしていることに、彼が気づいていないはずがない。彼のモノを竹筒でしごき上げる音だけじゃなくて、私の股からも、淫らな水音が聞こえている。
私は彼の耳に届くように、より大きくいやらしくその音を奏でてやる。
彼は呻き声を我慢したけれども、竹筒の中で果てたことがわかった。そうしてワザと、まだ精を吐き出している彼の摩羅から、竹筒を取り外す。そうすれば、彼の白濁は私にかかってくれる。
彼はそれをさせないように、果てるときを私にバレないようにしようとする。でも、それは無駄だった。私がいつからあなたを見ていると思っているの? 物心がついた時からそうだった。それに、これをやるようになって、私は何度もあなたの精を搾った。もう、手が、あなたが果てるときの感触を覚えていた。
そうしてあなたの精を浴びて、私は恍惚(うっとり)として見せつけてやる。
「もう……兄ちゃんの暴れん棒……。レロ……チュパ……」
指でそれを拭いとって、竹筒ではなく自分の口に運ぶ。もう、この味はクセになってしまっていた。これは竹筒になんてやらない。これは、私に彼がくれたものだった。
彼の吐き出す精の量は日に日に増えていた。普通の成人男子の量なんてものを私が知るわけないけれども、何度も出せるものではないとは聞いていた。だと云うのに彼は、素敵な量を出す。それなら竹筒じゃなくって、私がもらってもいいと思うのだ。
「お妙……」
「もう、人にかけといてまた大きくして……、兄ちゃんは仕方がない」
再び彼の摩羅に竹筒をかぶせると、上下にしごく。早く、また私にかけて欲しい。そう思いながら、私は恍惚(うっとり)と彼の摩羅をしごく。もちろん、自分を慰めることも忘れずに。私がしてあげているのだから、彼にも私のものを慰めて欲しいとは思うけれど、私は云いだせず、彼も襲い掛かって来たりはしなかった。
歪でも、いつ理性の紐が切れるかわからない危うい綱渡りだったけれども、血はつながっていなくとも、似ている兄妹である私たちは、こうしてこのやり取りを続けていた。
でも、だんだんと――。
だんだんと下腹部の疼きが、日ごとに強くなっていくことを私は自覚していた。もしかすると、抑えが利かなくなるのは私の方かもしれない。
だんだんと家事をする時間が増えていってはいるけれども、やっぱり床にもついている私は、お稲がいるというにも関わらず、蒲団の中でも自分を慰めていた。もちろん兵衛のことを思って。手持無沙汰になったらそんなことをする。私はそんなに淫らな女ではなかったと思うのだけれども、それはやっぱりだんだんと、抑えが利かなくなってきていた。
お稲はそんな私に気がついているに違いない。だと云うのに何も云わず、ただあの艶めかしい瞳で、妖しく私を見ているのだ。
だんだんと、だんだんと私は淫らにおかしくなっている気がする。
だんだんと、だんだんと。
それは、檻を破ろうともがいている、ケダモノの吠え声のようにも聞こえていた――。
◆
お妙はだんだんと綺麗になって来ていた。元から――少なくとも俺は――可愛らしい娘だと思ってはいたが、それが最近は輪をかけて美しくなってきていた。
お稲が持って来てくれる食事で十分に栄養が取れているということだろう。彼女は確実に快方に向かってきていた。そして、動けるようになったその身体で、俺の精を搾るのだ。
初めは抵抗を感じていた俺だったが、今ではもう、彼女の手でシてもらわないと、満足がいかなくなっていた。いや、それ以上の快楽と満足を求めたくなってきていた。
いつしかお妙は、俺を搾っている間、自分を慰めるようになっていた。俺のモノをしごきながら身体をくねらせる妹の様子に、着物に浮き出るくらいには肉がついて来た彼女の尻に、どうしようもない肉欲を感じてきていた。
いつ歯止めが利かなくなるかもしれなくて、俺は戦々恐々としていた。
俺は彼女が好きだ。
しかし彼女はどうだろう。
俺が求めたら、応えてくれるのだろうか。
もし応えてくれたとしても、それは、年頃の娘が、精を搾るなんてことをしているせいで起こる、身体の疼きに耐えかねただけなのではないか。そんな風にも思ってしまう。そうして妹に搾られながら、俺は今日も圧し掛かりたくなる衝動を堪えていた。
「はぁ、じれったいわぁ。もうええ頃合いなのに、じれったいわぁ」
そう唸ったのはお稲だった。
今お妙は一人で厠に立っていた。俺はお稲の艶めかしい視線に独りで曝されていた。
「どうしてお妙はんを抱かへんの?」
直接的な物言いだった。やはり彼女は知っていた。彼女が知らないはずがなかった。
「精は竹筒に入れないと駄目と、あなたは云っていたじゃないですか」
「はぁ、確かにそうやけどねぇ。別にお妙はんを抱いては駄目とは云っとらんよ。むしろそうしてくれた方が――」
「そうしてくれた方が?」
「んふ、内緒(ひみつ)や。乙女の秘密を暴こうとするなんて、無粋なお兄はんやわぁ。これ以上聞くんやったら、お妙はんに、お兄はんがウチのことを丸裸にしようとする云うて泣きついたる」
「止めてくださいお願いします」
「んふふ、どないしよかなぁ。お兄はんがお妙はんを抱かへん理由を教えてくれたら黙っといたろかなぁ。ああ、でも、妹だからは駄目や。あんたらの血がつながっていないことをウチは知っとる。今の関係を壊したない云うのもあかん。あんたらはどう見ても互いに好きおうとる。もちろん兄妹としてではなく、男女の関係として、や。ああ、両親からお妙を頼む云われた云うのもあかん。別に夫として面倒見てはいかん云われてはおらへんやろ? さぁ、その他の理由があったら答えてぇな」
俺が答えようとしていた反論をすべて潰された。
「あら、もしかして、答えようとしていたこと、ウチが全部云うてしもたんかなぁ、ごめんねぇ」
と、悪びれる様子もなくコロコロと笑う。
今の彼女は、もちろん人に化けた姿だが、その頭には狐の耳、お尻には狐の尻尾がいくつも生えている気がした。狐だから女狐なのか、女狐だから狐なのか、どっちかわからなかった。
「…………俺を夫にしたいんじゃなかったんですか?」
「ああ、そう云うことも云うとったねぇ」
「それはもういいと云うことですか」
「いいやぁ。それもいっしょに、や」
ニィ、と女狐は笑う。
「別に嫁が二人おってもええやないのぉ。ウチは構わへんよ」
「いえ、それは流石に……。俺はあなたと約束しましたし……。約束したのはあなたが先です。それに、お妙を元気にしてくれて、あなたの方は約束を果たした。だから、もちろん俺も約束を守ります」
「んふ、律儀やねぇ。だからお妙はんを抱かへんの?」
俺は、それには頷いておくことにした。そうしてこの場を納めてもらおうと思ったのだが 、
「じゃあ、一つ、お妙はんを女としては好きなん」
「好きです。でも、もうどうにもなりません」
「やから、ウチは構へん云うとるやろ。むしろ、その方が好ましい」
彼女は蠱惑的に嗤う。その婀娜っぽい長し目に、眩(くら)りと来そうになるが、俺は頑なだった。
「俺が構うんです」
「頑固やねぇ。それが可愛えとこでもあるんやけどなぁ。やったらもう、この朴念仁のお兄はんは、押し倒して契ってまうくらいしか、オとせんと云うことやねぇ。でも、もしもお妙はんが心を決めたら、ウチ、可愛いあの子の味方についてまうかもしれへんよ」
「止めてください」
俺はピシャリと言い切って、彼女との話を打ち切ることにした。
狐というものはそう云うものなのだろうか。
二人の嫁を持つ。俺にはそんな甲斐性はないし、お妙もそんなものは喜ばないだろう。それも理由の一つであることは確かだった。
今、あんな行為をして歪んだ関係になっている俺とお妙だが、俺に嫁が出来れば、流石に引き下がるとは思う。
しかし、いつまでこんな状況が続くのだろう。
年頃の娘であるお妙にあんなことをいつまでもさせておくのはよくないし、俺もいつまで彼女に手を出さずにいられるかは、自信がない。
お稲が俺に娶らせたいという彼女の“娘”は、竹筒に十分な精を注ぎ込んだ時に現れると云うのだが――。
しかし、それが終わりを告げるのは、すぐのことだった。
「ええよぉ、でも、どぉして二人で行くん?」
「仲がいいからに決まってるでしょ」
「そうねぇ、仲がいいとイくわなぁ」
お稲が気づいていないはずないと云うのに、私は兵衛を連れだして、いっしょに厠へ向かう。初めは抵抗していた彼だけれども、今となってはもう、私に云われるがままに来るようになった。
私は兄である兵衛の精を搾る。
「お妙……。駄目だ、こんなこと、俺は自分で出来るから」
「そんなこと云うくせに、兄ちゃんのここ、もうはち切れそうになってる」
私は兵衛の裾をまくって、すでに怒張して、醜悪な血管を浮き立たせている彼の摩羅に手を添える。そうして凶悪なそれを竹筒に納める。上下にしごけば、彼は歯を食いしばって耐える。
より多くの快楽を得られるように、より多くの精を放出出来るように。
そんな彼に、私は鬱(う)っそりとした顔を浮かべるのだ。
彼に切ない顔をさせているのは私。
彼の精を搾っているのは私。
彼の欲望を受け止められるのは私。
本当は指や口、股の穴で受け止めたかったけれど、私を治すための交換条件を満たすには、この竹筒でやらなくてはならない、らしい。それに、こんな行為をしつつも、いまだに兄と妹の関係であり続ける私たちは、この先に進めはしなかった。
なんて、甘く切なく、歪んだ関係――。
こうしているうちに、兵衛が我慢出来なくなって、妹である私を押し倒してくれればいいのに。そう願うけれども、そんな情欲に燃えた瞳で私を見て来るくせに、彼は、その一線を越えはしなかった。
でも、それはお互いさま。
彼の摩羅をしごきながら、私は自分の股に指を伸ばして、自らを慰めている。私がしていることに、彼が気づいていないはずがない。彼のモノを竹筒でしごき上げる音だけじゃなくて、私の股からも、淫らな水音が聞こえている。
私は彼の耳に届くように、より大きくいやらしくその音を奏でてやる。
彼は呻き声を我慢したけれども、竹筒の中で果てたことがわかった。そうしてワザと、まだ精を吐き出している彼の摩羅から、竹筒を取り外す。そうすれば、彼の白濁は私にかかってくれる。
彼はそれをさせないように、果てるときを私にバレないようにしようとする。でも、それは無駄だった。私がいつからあなたを見ていると思っているの? 物心がついた時からそうだった。それに、これをやるようになって、私は何度もあなたの精を搾った。もう、手が、あなたが果てるときの感触を覚えていた。
そうしてあなたの精を浴びて、私は恍惚(うっとり)として見せつけてやる。
「もう……兄ちゃんの暴れん棒……。レロ……チュパ……」
指でそれを拭いとって、竹筒ではなく自分の口に運ぶ。もう、この味はクセになってしまっていた。これは竹筒になんてやらない。これは、私に彼がくれたものだった。
彼の吐き出す精の量は日に日に増えていた。普通の成人男子の量なんてものを私が知るわけないけれども、何度も出せるものではないとは聞いていた。だと云うのに彼は、素敵な量を出す。それなら竹筒じゃなくって、私がもらってもいいと思うのだ。
「お妙……」
「もう、人にかけといてまた大きくして……、兄ちゃんは仕方がない」
再び彼の摩羅に竹筒をかぶせると、上下にしごく。早く、また私にかけて欲しい。そう思いながら、私は恍惚(うっとり)と彼の摩羅をしごく。もちろん、自分を慰めることも忘れずに。私がしてあげているのだから、彼にも私のものを慰めて欲しいとは思うけれど、私は云いだせず、彼も襲い掛かって来たりはしなかった。
歪でも、いつ理性の紐が切れるかわからない危うい綱渡りだったけれども、血はつながっていなくとも、似ている兄妹である私たちは、こうしてこのやり取りを続けていた。
でも、だんだんと――。
だんだんと下腹部の疼きが、日ごとに強くなっていくことを私は自覚していた。もしかすると、抑えが利かなくなるのは私の方かもしれない。
だんだんと家事をする時間が増えていってはいるけれども、やっぱり床にもついている私は、お稲がいるというにも関わらず、蒲団の中でも自分を慰めていた。もちろん兵衛のことを思って。手持無沙汰になったらそんなことをする。私はそんなに淫らな女ではなかったと思うのだけれども、それはやっぱりだんだんと、抑えが利かなくなってきていた。
お稲はそんな私に気がついているに違いない。だと云うのに何も云わず、ただあの艶めかしい瞳で、妖しく私を見ているのだ。
だんだんと、だんだんと私は淫らにおかしくなっている気がする。
だんだんと、だんだんと。
それは、檻を破ろうともがいている、ケダモノの吠え声のようにも聞こえていた――。
◆
お妙はだんだんと綺麗になって来ていた。元から――少なくとも俺は――可愛らしい娘だと思ってはいたが、それが最近は輪をかけて美しくなってきていた。
お稲が持って来てくれる食事で十分に栄養が取れているということだろう。彼女は確実に快方に向かってきていた。そして、動けるようになったその身体で、俺の精を搾るのだ。
初めは抵抗を感じていた俺だったが、今ではもう、彼女の手でシてもらわないと、満足がいかなくなっていた。いや、それ以上の快楽と満足を求めたくなってきていた。
いつしかお妙は、俺を搾っている間、自分を慰めるようになっていた。俺のモノをしごきながら身体をくねらせる妹の様子に、着物に浮き出るくらいには肉がついて来た彼女の尻に、どうしようもない肉欲を感じてきていた。
いつ歯止めが利かなくなるかもしれなくて、俺は戦々恐々としていた。
俺は彼女が好きだ。
しかし彼女はどうだろう。
俺が求めたら、応えてくれるのだろうか。
もし応えてくれたとしても、それは、年頃の娘が、精を搾るなんてことをしているせいで起こる、身体の疼きに耐えかねただけなのではないか。そんな風にも思ってしまう。そうして妹に搾られながら、俺は今日も圧し掛かりたくなる衝動を堪えていた。
「はぁ、じれったいわぁ。もうええ頃合いなのに、じれったいわぁ」
そう唸ったのはお稲だった。
今お妙は一人で厠に立っていた。俺はお稲の艶めかしい視線に独りで曝されていた。
「どうしてお妙はんを抱かへんの?」
直接的な物言いだった。やはり彼女は知っていた。彼女が知らないはずがなかった。
「精は竹筒に入れないと駄目と、あなたは云っていたじゃないですか」
「はぁ、確かにそうやけどねぇ。別にお妙はんを抱いては駄目とは云っとらんよ。むしろそうしてくれた方が――」
「そうしてくれた方が?」
「んふ、内緒(ひみつ)や。乙女の秘密を暴こうとするなんて、無粋なお兄はんやわぁ。これ以上聞くんやったら、お妙はんに、お兄はんがウチのことを丸裸にしようとする云うて泣きついたる」
「止めてくださいお願いします」
「んふふ、どないしよかなぁ。お兄はんがお妙はんを抱かへん理由を教えてくれたら黙っといたろかなぁ。ああ、でも、妹だからは駄目や。あんたらの血がつながっていないことをウチは知っとる。今の関係を壊したない云うのもあかん。あんたらはどう見ても互いに好きおうとる。もちろん兄妹としてではなく、男女の関係として、や。ああ、両親からお妙を頼む云われた云うのもあかん。別に夫として面倒見てはいかん云われてはおらへんやろ? さぁ、その他の理由があったら答えてぇな」
俺が答えようとしていた反論をすべて潰された。
「あら、もしかして、答えようとしていたこと、ウチが全部云うてしもたんかなぁ、ごめんねぇ」
と、悪びれる様子もなくコロコロと笑う。
今の彼女は、もちろん人に化けた姿だが、その頭には狐の耳、お尻には狐の尻尾がいくつも生えている気がした。狐だから女狐なのか、女狐だから狐なのか、どっちかわからなかった。
「…………俺を夫にしたいんじゃなかったんですか?」
「ああ、そう云うことも云うとったねぇ」
「それはもういいと云うことですか」
「いいやぁ。それもいっしょに、や」
ニィ、と女狐は笑う。
「別に嫁が二人おってもええやないのぉ。ウチは構わへんよ」
「いえ、それは流石に……。俺はあなたと約束しましたし……。約束したのはあなたが先です。それに、お妙を元気にしてくれて、あなたの方は約束を果たした。だから、もちろん俺も約束を守ります」
「んふ、律儀やねぇ。だからお妙はんを抱かへんの?」
俺は、それには頷いておくことにした。そうしてこの場を納めてもらおうと思ったのだが 、
「じゃあ、一つ、お妙はんを女としては好きなん」
「好きです。でも、もうどうにもなりません」
「やから、ウチは構へん云うとるやろ。むしろ、その方が好ましい」
彼女は蠱惑的に嗤う。その婀娜っぽい長し目に、眩(くら)りと来そうになるが、俺は頑なだった。
「俺が構うんです」
「頑固やねぇ。それが可愛えとこでもあるんやけどなぁ。やったらもう、この朴念仁のお兄はんは、押し倒して契ってまうくらいしか、オとせんと云うことやねぇ。でも、もしもお妙はんが心を決めたら、ウチ、可愛いあの子の味方についてまうかもしれへんよ」
「止めてください」
俺はピシャリと言い切って、彼女との話を打ち切ることにした。
狐というものはそう云うものなのだろうか。
二人の嫁を持つ。俺にはそんな甲斐性はないし、お妙もそんなものは喜ばないだろう。それも理由の一つであることは確かだった。
今、あんな行為をして歪んだ関係になっている俺とお妙だが、俺に嫁が出来れば、流石に引き下がるとは思う。
しかし、いつまでこんな状況が続くのだろう。
年頃の娘であるお妙にあんなことをいつまでもさせておくのはよくないし、俺もいつまで彼女に手を出さずにいられるかは、自信がない。
お稲が俺に娶らせたいという彼女の“娘”は、竹筒に十分な精を注ぎ込んだ時に現れると云うのだが――。
しかし、それが終わりを告げるのは、すぐのことだった。
18/03/10 10:29更新 / ルピナス
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