墓場フィールド
草木も眠るウシミツアワー。
こんな時間に彼らはそこにいて、彼女たちもそこにいた。
「皆のもの、シルフゴーグルの準備は十分か?」
「おぉーっ!」と声を控えた返答が返る。
ここは郊外の墓場。街中にあるものとは違って街灯もなく、昔ながらのおどろおどろしい、いかにもといった墓場である。倒れている墓石はあるし、何者かに食い散らかされたお供え物、枯れた樒、朽ちた卒塔婆は触っただけで呪われそう。むしろヒトダマが飛んでいないことの方が不思議なくらいである。
彼らは手に手にスマホを持っている。そして課金で手に入れたゴーグルをはめている。不審者の集団でしかないが、彼らは大真面目だ。
心霊写真を取りに来た? 肝試し?
違う違う。彼らはここに嫁をハントしに来たのである。
彼らはオカルト研究会のメンバー。
アプリまもむすGO。
この世界には人間に化けて暮らしている魔物娘たちがいる。
このアプリ彼女たちの正体を暴き、ゲットして嫁にするというコンセプトで配信されている。
実際のところ、オカルト研究会の彼らは初め魔物娘に興味はなかった。だが、部員の一人がアンデッド属の魔物娘の存在を知り、もしかすると、オカルトの正体は魔物娘だったのかもしれない、という論を唱え、彼らはそれを確かめるべくここに集ったのである。
その最後の後押しとなったのは、アンデッド属の魔物娘を映し出す機能を拡張する課金アイテムが実装されたことであったがーー部室で宙に現れたゴーグルに彼らは歓声をあげたーーそんなものに課金せずとも魔物娘を写すことができるのを彼らは知らない。アイテム屋の狸さんは今日も真っ黒である。
という名目だが、魔物娘のことを調べるうちに、もちろん彼らの目的は嫁探しへとシフトしている。
「よし、サーチをするぞ」
それぞれがアプリを起動させ、サーチ機能を展開させる。
静かな歓声があがる。そこには彼らの目論見通り、魔物娘たちのシルエットが浮かび上がっていた。そこにはいくもの『get me』の文字が、それに彼らは息を飲む。被っている。ということは……。
「お目当ての子は早い者勝ち、という事だな」
誰かのつぶやきに生唾を飲み込む音がした。
「それは構わないが、独り占めだけはダメだぞ。ユウジョウ」
会長の言葉に、口々に「ユウジョウ」「ユウジョウ」と返ってくる。それは彼らの友情を確かめるための合言葉。もしもそれをやぶってヌケガケしようものなら、ムラハチにされてしまう。
ムラハチとは口も聞いてくれないというような、社会的なリンチのことである。だが、彼らにそんなことをする度胸はきっとない。
彼らはそうして墓場に足を踏み入れていくのであった。
この後にどんな恐怖が待ち構えているとも知らずに……。
◆
「桜の下には死体が埋まっている」
とはよく言ったものだが、スケルトンが花見をしているのはいかがなものか。骨村はボンヤリと桜を見上げるスケルトンを見つけた。
「さて、どうやって捕まえるか……」
思案する彼だったが、彼女の切なげな横顔に見惚れているうちに、
「私に何かよう?」
声をかけられた。その声は乾いた骨のようで、どうにも悲しそうだった。だから彼は、彼女に対する恐怖を微塵も感じず、何か、力になってやりたいと感じた。だから、先に彼女をイかせるべきだったのに、声を返してしまった。
「どうしてそんな顔をしているんだ」
「この桜、私たち姉妹を養分として咲いたの」
「…………」彼女の言葉に彼は何も返せなかった。
「私はね、むかし昔、この桜の樹の下で死んだの。でも、妹は……」
時代がかった彼女の服装は、江戸とかそういった時代のものだろうか……。
「えっと、妹さんもスケルトンに?」
彼女は首を振る。「いいえ、まだ。だから、協力してくれないかしら」
彼女がニコリと笑ったと思うと、「へ?」彼は間抜けな顔で墓場で押し倒されていた。彼女には淫靡な笑みが浮かんでいる。
「は……え?」
状況の掴めない彼は目を白黒とさせる。
「私と交わってインキュバスになってください。そのありあまる精力で彼女の骨に精液を振りかけ続ければきっと、また私たち姉妹は会うことができる」
「ど、どういうこと……?」
「つべこべ言わずに私とまぐわえばいいの。そうすれば、すぐに何もかもどうでも良くなるから……」
サラリと闇に染み込む衣擦れの音。ヒンヤリと闇に浮かび上がる彼女の真っ白な肢体。むき出しの骨の艶かしさ。彼は彼女を押し退けようとするが、骨だけの体のはずなのに、彼女はビクともしなかった。やがて彼のズボンはむしり取られ……冷たい彼女の外側と違って、
「う、うわぁあああああああ!」
彼女のナカは蕩けるほどに熱かった。
◆
「さーてと……さっそくいたよ」
天野という少年は墓場の上に腰掛ける半透明の女性を見つけた。
「でも、別に捕まえるためのボールもないし、どうやってゲットすればいいんだ? ま、当たって砕けるか」
彼は早速正攻法で口説きにいく。彼は手を差し出し、
「お嬢さん、僕に取り憑いて見ませんか?」
彼女は少し驚いた風だったが、ほっそりとした色白の顔で「ええ、喜んで」と答えた。その顔はまるで不幸の中に咲いた一輪の花のようで、彼は一瞬呆けた。しかし、重なった手の冷たさに、彼女は人間ではない事を気づかされて背筋がぞくりとした。それでも、
「早速ゴーストgetだぜ」
彼は得意げに笑った。
◆
「対象を発見。これより捕獲に移ります」
スマホに向かって語りかける彼は、檻川。彼はスマホに彼女を写す。陰鬱な美貌を振りまきふわふわと漂う彼女のドレスのスカートは、檻のようになっている。
「ウィル・オー・ウィスプ。ここに埋葬される外人さんもいたということか……。でも、どうやって捕まえればいんだろう……」
彼は思案しつつ、ふわふわとただよう彼女を見ていると、
「しかし、すごい胸だな」
思わず画面の彼女の胸に指を触れてしまった。
「ふゃあ!?」 彼女から可愛らしい声が出た。
「なん……だ、と……? まさか……」
彼は再び画面の彼女の胸をつついてみる。
「ふゃ? やぁ……。何が……」
キョロキョロと辺りを見回す彼女に、彼はイヤラシイ笑みを浮かべる。
「ふふふ、これであの子をイかせて俺のものにすればいいということか……。俺のテクで昇天させてやるぜ!」
彼は調子にのって彼女の胸をタップし弾く。バルンバルンと踊る胸は見事である。
「ひゃ、ぅん……。いったい何が……」
青白かった彼女の頬には赤みがさし、オロオロする様子に彼は夢中になる。そのうちタップする場所が徐々に下にシフトしていく。スカートの上からでも股間をさすれば彼女の反応が明らかに変わった。ビクリと身を竦ませ、不安と期待のこもった瞳に頬が微かにつり上がっている。
「ひゃん……ダメェ……。そこは……」
モジモジする様子を堪能しつつ、彼がひたすらいじっていると……。
「ぁッ、…………あッ、ぁ、っ、あ、クル、来ちゃう、イ、イクぅううううう〜〜〜〜!!」
ひときわ高く響いた声に彼は達成感と感動を覚える。と、
ガシャン。「へ?」
目の前には鉄格子。彼は逮捕された。のであればまだ救いがあったかもしれない。彼は別のウィル・オー・ウィスプの檻に囚われていた。
「うふふ。ゲットー。あの子に囮になってもらった甲斐があったわね」
「あー。お姉さまずるいですー」
「いいじゃない。あなたは先にイかせてもらったんだから。今度はわ・た・し」
「ダメですよ。まだ直接してもらっていはいないのですから……」
檻川は檻の中から二人のウィル・オー・ウィスプの情欲に濁った視線を受けて背筋を震わせる。
彼はウィル・オー・ウィスプにgetされた。
「ふふ、夜間飛行はお好み?」
「え、おい……?」
ぐんぐん上昇していく高度の中、彼は彼女たちの温かみを感じて……昇天させられた。
◆
画面の中の魔物娘のシルエットのいくつかが、彼の攻略対象から外されていく。
「くっ……何名かカップルが成立したようだな……だが何故だ……何故見つけられないのだ……場所は間違っていないはずなのに……」
会長は嫁を見つけられず墓場をさまよっていた。
その時、ピロン♪ と。
「何々……、課金アイテム【反魂香】。あなたの攻略対象のアンデッド魔物娘を引き寄せます」
アイテム屋さんの狸さんは彼に慈愛のこもった眼差しを送っている。きっと相手を見つけられない彼に同情したのだろう。だが、実際彼女の腹は真っ黒だ。そんなことも知らずに会長は嬉々としてその課金アイテムを購入する。
「使うに決まってるじゃないか! ポチッとな」
彼が使用ボタンを押せば、ゴゴゴゴゴ、とあたりが振動した。
◆
「おっすー、工藤、嫁はgetできたか?」
天野は途中でであった工藤に声をかけた。
彼はニヤリとして、隣にいるゴーストを指差す。
「やったじゃん」
「ああ、好みにピッタリの子なんだ」あったばっかりだというのにデレデレしている彼は、「というわけで俺は一抜けるよ。嫁はこの子だけで十分だよ。お前も頑張れよー」
墓場に似つかわしくない笑顔を向けて去っていく彼を見送った時、猛スピードでかけてくる会長が見えた。彼は手を振り上げる。その必死の形相に訝しがりながら、
「会長なんで走っ、……て!?」
「助けてくれー!」
会長の後ろには機敏に走ってくるグールが数体……。他にもスケルトンでできた自転車に乗るゾンビも……幸いにも彼女はバランスをとるのに必死であまり速度は出ていない。しかし、墓場は運動会の場所であってもレース会場ではない。
天野はこちらに向かってくる会長に背を向けてクラウチングスタートの姿勢をとった。キッと前を見据え、彼も走り出す。
「会長、ご武運を!」
「助けろよぉおおおお!」
ズベッと後ろで盛大にこける音が聞こえた。
亡者の群れに彼は飲み込まれたらしい……天野は合掌を捧げた。
◆
「んーと。もうここにいる魔物娘で俺にgetできる子はもういないみたいだな……」
天野は少しばかり残念そうな声を出した。
しかし、と。彼は傍に目をやる。彼女は微笑みを返してくれる。
「君がいれば十分だよな。あんな事にはなりたくない」
彼の視線の先には会長。会長ってば、新旧かねそなえて言えば、夜は墓場でズッコンバッコン大騒ぎだ。
他のメンバーも次々と合流してくる。
骨村は姉妹のスケルトンをgetしている。彼女たちは彼の散歩後をついてきている。時代がかった服装からそういう静やかな女性たちなのだろう。だから決して彼の頬が骨の名にふさわしく骨がうくほどに痩せ細っているのは彼女たちに搾られたからではないと信じたい。
檻川はこれまた姉妹の爆乳ウィル・オー・ウィスプに吊り下げられて、まるで逆キャトルミューティレーションのように天から降りてくる。グッタリしているが、彼の魂は昇天していないのだと信じよう。
工藤はすでに帰った。
集まったメンバーは、天野を見て、「気を落とすな」と言ってきた。
「は? どういう事だ」
怪訝そうな顔をした彼に、仲間たちが返した言葉は彼を驚愕させるものだった。
「いや、だってお前、魔物娘getしてないじゃん」
「え……? 何言ってるんだよ。getしてるって、だってここに」
天野は彼らに傍の女性を指し示す。彼は彼女の手を取って、握りしめる。ヒンヤリとしているが実体は……。
「あれ?」
彼は彼女の手を引いてみた。だが、スカッと。音が聞こえるくらいに彼の手だけが抜けた。
「…………………」
全員に沈黙が満ちた。彼らをgetしたスケルトンとウィル・オー・ウィスプたちも青ざめている。オイ、お前らそっち側じゃないのかよ、と天野の頬がひくつく。どうやら彼女たちにも彼の隣の”彼女”は見えてはいないらしい。
「よし、目的は果たしたから解散しようか」
「檻川ぁああああ!」
「これからは家で夜の運動会だから。墓場で運動会なんて今の時代はするもんじゃないね」
「骨村ぁああああ!」
天野の悲痛な声が夜中の墓場にまるで野犬の遠吠えのように響いた。天野以外に見えない彼女は、申し訳なさそうに首を傾げていた。
その時、
「え、」「え」「なんだこれ……」
大地が鳴動した。
うろたえる男たちは、突如として宙に跳ねあげられた。
「どういう事だぁあああ!?」
捲き上る土砂から守ろうとしたウィル・オー・ウィスプの檻の中からは檻川が叫ぶ。
「うぅわぁあああああ!」
まるでニンジャのような身のこなしのスケルトンたちに骨村は担ぎ上げられていた。
ズッコンバッコン中だった会長は爆心地の中心だったようで、ぐちゃぐちゃになったゾンビやグールたちの肉片がクッションになっていた。
「やっとここまで戻したっていうのにーー!」
彼にはまた頑張ってもらうこととして、天野は、土砂を吹き上げた元凶に捕まっていた。
それは、巨大なドラゴンゾンビ。腐りかけのドラゴンだった。
「なんでこんな奴が埋まってるんだーー!」
ーー我を目覚めさせたものは誰だ。
そんなもの会長の【反魂香】に決まっている。
だが、精に飢えた彼女は相性がよければもはや天野でよいと腐った頭で思った。
ドラゴンゾンビは彼を巨大な手のひらに包み込んだまま、ヒトガタになる。ムチムチで若干だらしないと言えるような、体型の彼女は真実トロリと笑みを浮かべて天野を押さえ込んで服を引き裂いていく。
「いやぁああああ!」
本物の幽霊であった彼女は彼に触れることも出来ずにうろたえている。と、彼のスマホが転がっていった。彼女はそれを追いかけ、画面に現れた狸さんと目が合い、提示されたアイテムを見、画面のボタンをプッシュしたのだった。
ーーほほう。これが我の中に入るのか。
「いやぁ、もうお婿に行けない……」
天野はすでに彼女に食べられる寸前だった。
淫液のヨダレを股から垂らすドラゴンゾンビが天野に向かって腰を下ろしてくる。
その時、ドラゴンゾンビはものすごい力で弾き飛ばされた。
ーー何が起こった!?
動揺を抑えきれないドラゴンゾンビはあたりを見回して驚愕に目を見開く。そこにいたのは弓をつがえるキューピッドだった。彼女はもう一本の矢を取り出して、 目一杯弦を引いて構える。彼女の豊満な胸がむにゅりと形を変える。
ーーふん、我と争おうというのか。いいだろう。だが覚悟はしておけ。我こそはかつてこの地を統べていた……。
ドラゴンゾンビが言い終わらないうちに彼女はその矢を放った。
ーーちょっ、最後まで言わせろ!
ドラゴンゾンビは身構えたが、その矢は彼女ではなく、会長に突き刺さった。それは愛し合う二人を引き合わせる愛の矢。
そうだ。引き起こした問題は元凶に処理してもらわなくてはならない。
ドラゴンゾンビは挿入するギリギリだった。天野から退くと、無言でその翼を広げ、会長の元へと飛び立っていった。
「アイェエエエ!? ドラゴン!? ドラゴン何で!?」
会長の断末魔の悲鳴じみた絶叫を聴きながら、天野は彼に合唱を捧げた。
ようやく助かった天野はキューピッドに視線を返す。
「君は……さっきの幽霊だよね」
「ええ。あなたを助けようとして……だって、あなたは一人ぼっちでいた私の手を取ってくれたもの。だから……。あなたは私のもの……」
そう言った彼女の視線はむき出しの彼の股間に向けられている。
「…………まさか」
「そう、そのまさか。だって私も魔物娘だもの」
彼女のクールな顔の瞳にはまぎれもない情欲の色が燃えていた。その瞳の奥にはハートマークまで。そこに秘められた思いはドラゴンゾンビよりも上かもしれない。
助けを求めるように天野が檻川と骨村を探せば、彼らもまた天野に向かって同じような目を向けていた。
彼らはお互いに頷き、サムズアップで語る。
「ユウジョウ」「ユウジョウ」「ユウジョウ」
ああ、ショッギョムッジョ。
オカルト研究会の彼らは夜の墓場でズッコンバッコン大騒ぎな宴を行うのであった。
ちなみに、幽霊の彼女が狸さんと目配せをして押したのは、
課金アイテム【天使転生】
まだ魔物娘でない幽霊に使うことで、強制的に召し上げられ天使系の魔物娘に転生できる。
値段:時価
墓場の嬌声に混じって狸さんの哄笑が高らかに響き渡っているのであった。
こんな時間に彼らはそこにいて、彼女たちもそこにいた。
「皆のもの、シルフゴーグルの準備は十分か?」
「おぉーっ!」と声を控えた返答が返る。
ここは郊外の墓場。街中にあるものとは違って街灯もなく、昔ながらのおどろおどろしい、いかにもといった墓場である。倒れている墓石はあるし、何者かに食い散らかされたお供え物、枯れた樒、朽ちた卒塔婆は触っただけで呪われそう。むしろヒトダマが飛んでいないことの方が不思議なくらいである。
彼らは手に手にスマホを持っている。そして課金で手に入れたゴーグルをはめている。不審者の集団でしかないが、彼らは大真面目だ。
心霊写真を取りに来た? 肝試し?
違う違う。彼らはここに嫁をハントしに来たのである。
彼らはオカルト研究会のメンバー。
アプリまもむすGO。
この世界には人間に化けて暮らしている魔物娘たちがいる。
このアプリ彼女たちの正体を暴き、ゲットして嫁にするというコンセプトで配信されている。
実際のところ、オカルト研究会の彼らは初め魔物娘に興味はなかった。だが、部員の一人がアンデッド属の魔物娘の存在を知り、もしかすると、オカルトの正体は魔物娘だったのかもしれない、という論を唱え、彼らはそれを確かめるべくここに集ったのである。
その最後の後押しとなったのは、アンデッド属の魔物娘を映し出す機能を拡張する課金アイテムが実装されたことであったがーー部室で宙に現れたゴーグルに彼らは歓声をあげたーーそんなものに課金せずとも魔物娘を写すことができるのを彼らは知らない。アイテム屋の狸さんは今日も真っ黒である。
という名目だが、魔物娘のことを調べるうちに、もちろん彼らの目的は嫁探しへとシフトしている。
「よし、サーチをするぞ」
それぞれがアプリを起動させ、サーチ機能を展開させる。
静かな歓声があがる。そこには彼らの目論見通り、魔物娘たちのシルエットが浮かび上がっていた。そこにはいくもの『get me』の文字が、それに彼らは息を飲む。被っている。ということは……。
「お目当ての子は早い者勝ち、という事だな」
誰かのつぶやきに生唾を飲み込む音がした。
「それは構わないが、独り占めだけはダメだぞ。ユウジョウ」
会長の言葉に、口々に「ユウジョウ」「ユウジョウ」と返ってくる。それは彼らの友情を確かめるための合言葉。もしもそれをやぶってヌケガケしようものなら、ムラハチにされてしまう。
ムラハチとは口も聞いてくれないというような、社会的なリンチのことである。だが、彼らにそんなことをする度胸はきっとない。
彼らはそうして墓場に足を踏み入れていくのであった。
この後にどんな恐怖が待ち構えているとも知らずに……。
◆
「桜の下には死体が埋まっている」
とはよく言ったものだが、スケルトンが花見をしているのはいかがなものか。骨村はボンヤリと桜を見上げるスケルトンを見つけた。
「さて、どうやって捕まえるか……」
思案する彼だったが、彼女の切なげな横顔に見惚れているうちに、
「私に何かよう?」
声をかけられた。その声は乾いた骨のようで、どうにも悲しそうだった。だから彼は、彼女に対する恐怖を微塵も感じず、何か、力になってやりたいと感じた。だから、先に彼女をイかせるべきだったのに、声を返してしまった。
「どうしてそんな顔をしているんだ」
「この桜、私たち姉妹を養分として咲いたの」
「…………」彼女の言葉に彼は何も返せなかった。
「私はね、むかし昔、この桜の樹の下で死んだの。でも、妹は……」
時代がかった彼女の服装は、江戸とかそういった時代のものだろうか……。
「えっと、妹さんもスケルトンに?」
彼女は首を振る。「いいえ、まだ。だから、協力してくれないかしら」
彼女がニコリと笑ったと思うと、「へ?」彼は間抜けな顔で墓場で押し倒されていた。彼女には淫靡な笑みが浮かんでいる。
「は……え?」
状況の掴めない彼は目を白黒とさせる。
「私と交わってインキュバスになってください。そのありあまる精力で彼女の骨に精液を振りかけ続ければきっと、また私たち姉妹は会うことができる」
「ど、どういうこと……?」
「つべこべ言わずに私とまぐわえばいいの。そうすれば、すぐに何もかもどうでも良くなるから……」
サラリと闇に染み込む衣擦れの音。ヒンヤリと闇に浮かび上がる彼女の真っ白な肢体。むき出しの骨の艶かしさ。彼は彼女を押し退けようとするが、骨だけの体のはずなのに、彼女はビクともしなかった。やがて彼のズボンはむしり取られ……冷たい彼女の外側と違って、
「う、うわぁあああああああ!」
彼女のナカは蕩けるほどに熱かった。
◆
「さーてと……さっそくいたよ」
天野という少年は墓場の上に腰掛ける半透明の女性を見つけた。
「でも、別に捕まえるためのボールもないし、どうやってゲットすればいいんだ? ま、当たって砕けるか」
彼は早速正攻法で口説きにいく。彼は手を差し出し、
「お嬢さん、僕に取り憑いて見ませんか?」
彼女は少し驚いた風だったが、ほっそりとした色白の顔で「ええ、喜んで」と答えた。その顔はまるで不幸の中に咲いた一輪の花のようで、彼は一瞬呆けた。しかし、重なった手の冷たさに、彼女は人間ではない事を気づかされて背筋がぞくりとした。それでも、
「早速ゴーストgetだぜ」
彼は得意げに笑った。
◆
「対象を発見。これより捕獲に移ります」
スマホに向かって語りかける彼は、檻川。彼はスマホに彼女を写す。陰鬱な美貌を振りまきふわふわと漂う彼女のドレスのスカートは、檻のようになっている。
「ウィル・オー・ウィスプ。ここに埋葬される外人さんもいたということか……。でも、どうやって捕まえればいんだろう……」
彼は思案しつつ、ふわふわとただよう彼女を見ていると、
「しかし、すごい胸だな」
思わず画面の彼女の胸に指を触れてしまった。
「ふゃあ!?」 彼女から可愛らしい声が出た。
「なん……だ、と……? まさか……」
彼は再び画面の彼女の胸をつついてみる。
「ふゃ? やぁ……。何が……」
キョロキョロと辺りを見回す彼女に、彼はイヤラシイ笑みを浮かべる。
「ふふふ、これであの子をイかせて俺のものにすればいいということか……。俺のテクで昇天させてやるぜ!」
彼は調子にのって彼女の胸をタップし弾く。バルンバルンと踊る胸は見事である。
「ひゃ、ぅん……。いったい何が……」
青白かった彼女の頬には赤みがさし、オロオロする様子に彼は夢中になる。そのうちタップする場所が徐々に下にシフトしていく。スカートの上からでも股間をさすれば彼女の反応が明らかに変わった。ビクリと身を竦ませ、不安と期待のこもった瞳に頬が微かにつり上がっている。
「ひゃん……ダメェ……。そこは……」
モジモジする様子を堪能しつつ、彼がひたすらいじっていると……。
「ぁッ、…………あッ、ぁ、っ、あ、クル、来ちゃう、イ、イクぅううううう〜〜〜〜!!」
ひときわ高く響いた声に彼は達成感と感動を覚える。と、
ガシャン。「へ?」
目の前には鉄格子。彼は逮捕された。のであればまだ救いがあったかもしれない。彼は別のウィル・オー・ウィスプの檻に囚われていた。
「うふふ。ゲットー。あの子に囮になってもらった甲斐があったわね」
「あー。お姉さまずるいですー」
「いいじゃない。あなたは先にイかせてもらったんだから。今度はわ・た・し」
「ダメですよ。まだ直接してもらっていはいないのですから……」
檻川は檻の中から二人のウィル・オー・ウィスプの情欲に濁った視線を受けて背筋を震わせる。
彼はウィル・オー・ウィスプにgetされた。
「ふふ、夜間飛行はお好み?」
「え、おい……?」
ぐんぐん上昇していく高度の中、彼は彼女たちの温かみを感じて……昇天させられた。
◆
画面の中の魔物娘のシルエットのいくつかが、彼の攻略対象から外されていく。
「くっ……何名かカップルが成立したようだな……だが何故だ……何故見つけられないのだ……場所は間違っていないはずなのに……」
会長は嫁を見つけられず墓場をさまよっていた。
その時、ピロン♪ と。
「何々……、課金アイテム【反魂香】。あなたの攻略対象のアンデッド魔物娘を引き寄せます」
アイテム屋さんの狸さんは彼に慈愛のこもった眼差しを送っている。きっと相手を見つけられない彼に同情したのだろう。だが、実際彼女の腹は真っ黒だ。そんなことも知らずに会長は嬉々としてその課金アイテムを購入する。
「使うに決まってるじゃないか! ポチッとな」
彼が使用ボタンを押せば、ゴゴゴゴゴ、とあたりが振動した。
◆
「おっすー、工藤、嫁はgetできたか?」
天野は途中でであった工藤に声をかけた。
彼はニヤリとして、隣にいるゴーストを指差す。
「やったじゃん」
「ああ、好みにピッタリの子なんだ」あったばっかりだというのにデレデレしている彼は、「というわけで俺は一抜けるよ。嫁はこの子だけで十分だよ。お前も頑張れよー」
墓場に似つかわしくない笑顔を向けて去っていく彼を見送った時、猛スピードでかけてくる会長が見えた。彼は手を振り上げる。その必死の形相に訝しがりながら、
「会長なんで走っ、……て!?」
「助けてくれー!」
会長の後ろには機敏に走ってくるグールが数体……。他にもスケルトンでできた自転車に乗るゾンビも……幸いにも彼女はバランスをとるのに必死であまり速度は出ていない。しかし、墓場は運動会の場所であってもレース会場ではない。
天野はこちらに向かってくる会長に背を向けてクラウチングスタートの姿勢をとった。キッと前を見据え、彼も走り出す。
「会長、ご武運を!」
「助けろよぉおおおお!」
ズベッと後ろで盛大にこける音が聞こえた。
亡者の群れに彼は飲み込まれたらしい……天野は合掌を捧げた。
◆
「んーと。もうここにいる魔物娘で俺にgetできる子はもういないみたいだな……」
天野は少しばかり残念そうな声を出した。
しかし、と。彼は傍に目をやる。彼女は微笑みを返してくれる。
「君がいれば十分だよな。あんな事にはなりたくない」
彼の視線の先には会長。会長ってば、新旧かねそなえて言えば、夜は墓場でズッコンバッコン大騒ぎだ。
他のメンバーも次々と合流してくる。
骨村は姉妹のスケルトンをgetしている。彼女たちは彼の散歩後をついてきている。時代がかった服装からそういう静やかな女性たちなのだろう。だから決して彼の頬が骨の名にふさわしく骨がうくほどに痩せ細っているのは彼女たちに搾られたからではないと信じたい。
檻川はこれまた姉妹の爆乳ウィル・オー・ウィスプに吊り下げられて、まるで逆キャトルミューティレーションのように天から降りてくる。グッタリしているが、彼の魂は昇天していないのだと信じよう。
工藤はすでに帰った。
集まったメンバーは、天野を見て、「気を落とすな」と言ってきた。
「は? どういう事だ」
怪訝そうな顔をした彼に、仲間たちが返した言葉は彼を驚愕させるものだった。
「いや、だってお前、魔物娘getしてないじゃん」
「え……? 何言ってるんだよ。getしてるって、だってここに」
天野は彼らに傍の女性を指し示す。彼は彼女の手を取って、握りしめる。ヒンヤリとしているが実体は……。
「あれ?」
彼は彼女の手を引いてみた。だが、スカッと。音が聞こえるくらいに彼の手だけが抜けた。
「…………………」
全員に沈黙が満ちた。彼らをgetしたスケルトンとウィル・オー・ウィスプたちも青ざめている。オイ、お前らそっち側じゃないのかよ、と天野の頬がひくつく。どうやら彼女たちにも彼の隣の”彼女”は見えてはいないらしい。
「よし、目的は果たしたから解散しようか」
「檻川ぁああああ!」
「これからは家で夜の運動会だから。墓場で運動会なんて今の時代はするもんじゃないね」
「骨村ぁああああ!」
天野の悲痛な声が夜中の墓場にまるで野犬の遠吠えのように響いた。天野以外に見えない彼女は、申し訳なさそうに首を傾げていた。
その時、
「え、」「え」「なんだこれ……」
大地が鳴動した。
うろたえる男たちは、突如として宙に跳ねあげられた。
「どういう事だぁあああ!?」
捲き上る土砂から守ろうとしたウィル・オー・ウィスプの檻の中からは檻川が叫ぶ。
「うぅわぁあああああ!」
まるでニンジャのような身のこなしのスケルトンたちに骨村は担ぎ上げられていた。
ズッコンバッコン中だった会長は爆心地の中心だったようで、ぐちゃぐちゃになったゾンビやグールたちの肉片がクッションになっていた。
「やっとここまで戻したっていうのにーー!」
彼にはまた頑張ってもらうこととして、天野は、土砂を吹き上げた元凶に捕まっていた。
それは、巨大なドラゴンゾンビ。腐りかけのドラゴンだった。
「なんでこんな奴が埋まってるんだーー!」
ーー我を目覚めさせたものは誰だ。
そんなもの会長の【反魂香】に決まっている。
だが、精に飢えた彼女は相性がよければもはや天野でよいと腐った頭で思った。
ドラゴンゾンビは彼を巨大な手のひらに包み込んだまま、ヒトガタになる。ムチムチで若干だらしないと言えるような、体型の彼女は真実トロリと笑みを浮かべて天野を押さえ込んで服を引き裂いていく。
「いやぁああああ!」
本物の幽霊であった彼女は彼に触れることも出来ずにうろたえている。と、彼のスマホが転がっていった。彼女はそれを追いかけ、画面に現れた狸さんと目が合い、提示されたアイテムを見、画面のボタンをプッシュしたのだった。
ーーほほう。これが我の中に入るのか。
「いやぁ、もうお婿に行けない……」
天野はすでに彼女に食べられる寸前だった。
淫液のヨダレを股から垂らすドラゴンゾンビが天野に向かって腰を下ろしてくる。
その時、ドラゴンゾンビはものすごい力で弾き飛ばされた。
ーー何が起こった!?
動揺を抑えきれないドラゴンゾンビはあたりを見回して驚愕に目を見開く。そこにいたのは弓をつがえるキューピッドだった。彼女はもう一本の矢を取り出して、 目一杯弦を引いて構える。彼女の豊満な胸がむにゅりと形を変える。
ーーふん、我と争おうというのか。いいだろう。だが覚悟はしておけ。我こそはかつてこの地を統べていた……。
ドラゴンゾンビが言い終わらないうちに彼女はその矢を放った。
ーーちょっ、最後まで言わせろ!
ドラゴンゾンビは身構えたが、その矢は彼女ではなく、会長に突き刺さった。それは愛し合う二人を引き合わせる愛の矢。
そうだ。引き起こした問題は元凶に処理してもらわなくてはならない。
ドラゴンゾンビは挿入するギリギリだった。天野から退くと、無言でその翼を広げ、会長の元へと飛び立っていった。
「アイェエエエ!? ドラゴン!? ドラゴン何で!?」
会長の断末魔の悲鳴じみた絶叫を聴きながら、天野は彼に合唱を捧げた。
ようやく助かった天野はキューピッドに視線を返す。
「君は……さっきの幽霊だよね」
「ええ。あなたを助けようとして……だって、あなたは一人ぼっちでいた私の手を取ってくれたもの。だから……。あなたは私のもの……」
そう言った彼女の視線はむき出しの彼の股間に向けられている。
「…………まさか」
「そう、そのまさか。だって私も魔物娘だもの」
彼女のクールな顔の瞳にはまぎれもない情欲の色が燃えていた。その瞳の奥にはハートマークまで。そこに秘められた思いはドラゴンゾンビよりも上かもしれない。
助けを求めるように天野が檻川と骨村を探せば、彼らもまた天野に向かって同じような目を向けていた。
彼らはお互いに頷き、サムズアップで語る。
「ユウジョウ」「ユウジョウ」「ユウジョウ」
ああ、ショッギョムッジョ。
オカルト研究会の彼らは夜の墓場でズッコンバッコン大騒ぎな宴を行うのであった。
ちなみに、幽霊の彼女が狸さんと目配せをして押したのは、
課金アイテム【天使転生】
まだ魔物娘でない幽霊に使うことで、強制的に召し上げられ天使系の魔物娘に転生できる。
値段:時価
墓場の嬌声に混じって狸さんの哄笑が高らかに響き渡っているのであった。
17/08/28 10:31更新 / ルピナス
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