ディグダグ、ディグダグ(内容を察してからお進みください)
「あーあ、クソつまんねー」
俺は一人、外でタバコをふかしていた。
「何なんだよあいつら……。それに亮一のやつも、あんな奴連れてきたらこうなることは分かっていただろ……。チッ」
スマホをいじる。
彼女と別れて少し経つ俺は、正直飢えていた。精一杯場を盛り上げようと意気込んで、今日の合コンに臨んだのだが、
「ごめん、敦史。きょう浩二のやつが来れなくなったみたいでさ。数合わせの友達呼んでいい
? お前の会ったことのない奴なんだけど……」
亮一からのラインに快く了承の返答をした俺を、今の俺は全力で殴ってやりたい。というか、一番殴らなくちゃいけないのは亮一(あいつ)だ。あんなやつ連れて来たらこうなる事は分かり切っていた。
亮一が代わりに連れて来たやつというのは、可愛い系の男子だった。合コンにきた相手方の女子たちは一目で奴をロックオンしたらしく、俺と亮一はほったらかされた。奴もまた困ったようにはにかむもんだから、肉食系女子たち(ライオンども)の前に連れてきたシマウマは自分で焼かれに行ったわけだ。
この飲み屋は喫煙オーケーだったが、そいつが「僕、タバコが苦手なんだ」といったら吸いたければ別の場所で吸えと女子どもになじられて、ここで一人寂しく吸っている。
「チッ、今日の合コンはハズレだな……二次会なんていかず、とっとと帰るか……」
すでに諦めていた俺だったが、
ピローン♪
スマホから通知音が聞こえた。
「なんだ? これ。まもむすGO? この世界には魔物娘という存在が人間に化けて過ごしています……。彼女たちの正体を明かして手篭めにしてしまえ? ストレートだな。よく知恵の実ストアさんが通してくれたな。ふぅん、そういう設定か……暇つぶしにはなるかもな」
無料でもできるという事で、俺は早速インストールして、起動させてみた。
「サーチ、と。ん、近くに俺の攻略できる魔物娘がいる……。もしかしてあの女子どもの中にいたりして。でもなぁ……あいつら攻略対象だったところで、落としたいとも思えないな……」
ゲームの画面にはこの居酒屋にシルエットで『get me』という文字が浮かんでいる。
少し、運命的なものを感じずにはいられないが、所詮はお遊びだ。催した俺は、店内に戻り、トイレに行くことにした。スマホをいじりつつ歩く。居酒屋の喧騒をよそに、あいつらの席を素通りしてトイレへ。ニコチンを補給したとはいえ、楽しそうな声は俺の神経を逆なでしてくる。
と、男子トイレのドアを開けようとして、
「わぁっ……」
と可愛らしい声が、だが男だ。いたいけなシマウマ、友喜がいた。俺のイラつきの元凶である奴に、俺は鬱陶しそうな顔をして、
「いいよ。早く出ろよ」
「は、はい……。優しいですね」
男に言われたって嬉しくない。
「気持ち悪いこと言ってんなよ。あいつらみんなお前目当てなんだからさ」
俺はシッシッと手を振る。しかし奴は少し申し訳ない顔をした。
「ごめんなさい。僕、ホントは来るつもりじゃなかったんですけど、亮一くんが数合わせだから、って言うから。こんな事になるなんて思わなくて、僕、女の人って、苦手なんですよね」
はにかむような彼に、やはりこれは肉食系女子たちの格好の餌だな、と俺は思った。
「それに、敦史さんに不愉快な思いをさせてしまって……。別に敦史さんが嫌いなわけではなくて、タバコが苦手で……。でも、敦史さんが好きだって言うなら、克服します」
まるで小動物のような様子の友喜に、俺は苦笑してしまう。こいつはいい奴なのだ。問題なのはあの無節操な女子たちで……。毒気を抜かれたようにも思う。
「大丈夫だ。別に怒ってなんかない。お前はそのまま純粋でいてくれ」
俺は奴の頭をポンポンと叩く。身長の高い俺に比べて、低めの身長である友喜の頭は撫でるのにちょうどいい場所にある。するとどうしてだか、奴は呆けたような顔をしていた。
「どうした? お前主役だろ? 俺の顔になんかついてるか?」
「…………ハッ、い、いえいえ、なんでもありません」
「おかしな奴だな」
俺は苦笑して、友喜のケツを叩く。
「先に行ってろ、俺も後から戻るからさ。もっとビシッとしてればいんだよ。じゃないとあいつら調子に乗るだけだ」
「ひゃ、ひゃい……っ! お、お尻……」
そんな可愛らしい声をあげて彼は飲み会の席に戻って行く。そこでふと、俺は何とは無しに先ほどのアプリで彼を見てみる。それはほんの気まぐれ、魔がさしたとか、言うならば、何か運命の糸に腕を釣り上げられたかのような……。
「おいおい、マジかよ……」
俺はスマホを凝視してしまう。画面に映る彼の後ろ姿は、人間じゃなかった。
俺はトイレに駆け込んでスマホをいじる。そこにはシルエットがとれて、あいつの顔をした魔物娘が写っている。
魔物娘って、本当にいたんだ……しかもあいつが俺の攻略対象だなんて……。いや、確かに可愛いけど、頭を撫でた感触なんて、ホントにしっくりきたけど?
あいつ男だろ? と、そこで俺は気がついてスマホで調べる。魔物娘……やっぱり。
「男のふりをしている……って事か」
あんな可愛い子が男の子のわけありません、と言う奴だな。いや、それは普通の事か。しかし……と俺は思い出す。あいつ、男子トイレに入ってたよな……あいつがここで……。俺はブンブンと頭を振る。俺にそっちの趣味はない。
奴はそうまでして女であることを隠そうとしていると言う事か……。
ふぅん……。
俺は飲み会の席に戻り、頼んでおいたビールを一気に開ける。
「うっ、わぁ……」
戻ってきたなり一気した俺を女子どもは引いた目で見ている。そして、俺は奴らに言ってやる。
「おい、友喜嫌がってるだろ? 止めてやれよ」
「えー何言ってんのー。自分がモテないからって、それはシラケるー」
「どうてーい。キャー」
「童貞じゃないわ。ばーか」
「え、童貞じゃ……ないんですか」
どうしてそこで友喜が残念そうな表情を浮かべているのだ。
「あー、友喜くんその反応、もしかしてー」肉食獣Aがニマニマしている。
「私がもらってあげようかー」肉食獣B。
「お願いします!」
「お前じゃねーよ」
亮一は肉食獣に吠えられた。
俺はライオンどもからシマウマを奪い取るべく、縮こまっている友喜の横に、俺はライオンの群れをかき分けて座ってやる。
「えー、何やってんのよー。……ゲ、もしかしてあんたそっち系?」
「それなら私は見てまーす。ホモの嫌いな女子なんていませーん」
肉食獣たちが悪ノリしている。
「勝手に言ってろ。俺は女が好きだよ。でも、お前らよりは友喜の方がいいな」
「敦史さん……」
う……。友喜の視線にムズムズする。俺は彼が彼女だと知っている。だが、他の奴らは知らない。特に、ここで女子にする対応をしてしまうと亮一から妙な目で見られることになってしまう。
俺が亮一に目を向けると、奴はなぜかサムズアップしていやがった。そういやコイツ、男の娘好き、とか言う奴だったな……いろんな世界があるものだ。
とか思っていると、次の料理が届いた。エリンギの丸焼きだった。
「あ、それ僕のです」
友喜が受け取る。そして彼は、それを丸ごと口に咥え、
「熱っ……」吐き出した。
大ぶりのエリンギがブルンと彼の口から飛び出し、バターがかかるさまに、亮一は前かがみになっていた。俺はなんとか平静を装って友喜の顔をおしぼりで拭いてやった。
「んっ……」とか色っぽい声を出しやがって、俺も反応しそうになってしまう。
さて、エリンギの丸焼きなんてものをメニューにおいた店長を呼べ、優良店レビューをもうやめてというまで書いてやる。もしも松茸があるのなら、それも注文してやる。
「うーわー。友喜くんエッロー。モーホーが興奮しちゃうじゃん」
姦しい女たちの声をよそに一次会は終わった。
友喜はキノコが好きらしく、他にもいくつものキノコを頼んでいた。
二次会もそんなノリで、俺は友喜の隣に陣取って、酒が回るごとに俺へのボディタッチが多くなって行った。ライオンどもは自分たちが食べるよりも俺に食わせようと思っているようで……。
お終いには友喜はもうフラフラとなり、奴は俺に送っていって欲しいと言い、肉食獣たちはなぜか気に入った様子の亮一を三人で囲んで連行する事になった。まあ、亮一はまんざらでも無さそうだし……。骨なら拾ってやるから心置き無く食われてこいと最敬礼で送り出してやった。
「お持ち帰りすんじゃねーよー、ギャハギャハ」
「キャー食べられちゃう〜」
「今から食べられるのはうちらだけどー」
奴らは最後まで姦しかった。
俺は友喜を支えながら夜風の中を歩く。身長差のせいで俺にしがみついてきているコイツの体は華奢で、夜風で儚く散ってしまうようにも思えた。正体が魔物娘だという彼ーー彼女。男に化けるんだったらもっとしっかり化ければいいのに、と思う。
「うゔ……吐きます」
「待て! ここにビニールあるから!」
「ありがとうございます……。こんな姿を見せてしまって……恥ずかしい」
コイツは体が参っても頭はしっかりしているようだ。口元に吐瀉物をつけながら顔を赤らめている。
「ホラ、こいつで口拭けよ……」
俺が差し出したティッシュを奴は縋り付くように受け取った。
「優しいんですね……」
「当然のことだろ?」
下心がないかといえば嘘にはなるが、男どもの後始末はいつも俺の仕事だ。それがコイツなら、むしろ役得と言える。自販機で水を買ってやったりして、ようやく友喜は落ち着いたみたいで、ベンチに座っていた。
「こ……こんなところを敦史さんに……」
「そんな日もあるさ」
「……ぅう」
本当に女の子のように、コイツは体を縮こめている。今までコイツが本当に女だと気がつかれずにきたことの方が不思議に思う。と、
「敦史さん、気づいてますよね」
友喜の言葉に俺はビクリと身を竦ませた。
「何、を……?」
俺は平静を装って答えるが、彼ーー彼女ははにかみながら笑う。
「知ってますよ。敦史さんの視線、僕の胸やお尻を見てましたよね。僕も、視線には敏感なんです。それに、本当は見えていないはずの場所も……」
それは、一般的な女子と同じく、という事なのか、魔物娘として、という事なのだろうか。
俺が戸惑っていると、
「どうして分かったんですか……?」
と彼女は尋ねる。
「それは……」
俺はあのアプリの事を話した。それに彼女は口を尖らせた。
「そうだったんですか。それは、ちょっと残念です。ちゃんと運命的な感じで気づいてもらいたかったです……」
コトンと拗ねたように首をすくめる彼ーー彼女は可愛らしかった。酔いのせいか目も心なしかトロンとして、頬が色っぽく赤い。それでも、そこにはそれだけではないものが混じっているとは思った。俺のアピールは功を奏したようだ。
「それで……どうします? 僕は好色な魔物娘。二人だけの三次会、行きませんか?」
それは情欲に染まった顔。視線の先にはきらびやかなお城のネオンサイン。俺は、純粋だと思っていた彼女のそんな表情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
◆
シャワーを浴びて俺はベッドの上。
今は友喜がシャワーを浴びている。タバコが苦手だという彼女のために、入念に洗ったが、まだ臭わないかが心配になる。と、
「お待たせしました」
シャワーで上気した肌の女がいた。ミルクのようになめらかな肌。この姿に俺はやはり彼女は女なのだと確信する。それに、以前の彼女とは比べ物にならないほどに色っぽい。情欲に濡れた瞳で、蠱惑的に笑えば、今日の合コンの彼女たちなんて可愛らしく思えるほどの肉食獣だと思った。
彼女たちが獅子だとするのなら、友喜は巨人。彼女たちなどプチッと潰せてしまう。
そして友喜はガウンをはだける。そこには小さくとも形の良い胸が……、普段はさらしで潰しているらしい。それを俺の手で外せなかったことは残念にも思うが、友喜がガウンを落とすと目を見開いた。
彼女の、いやーー彼の股間にはあってはならないものがあった。
「え……お前、女なんじゃ……」
「あれ? 敦史さん、僕の事を魔物娘ってわかってるからテッキリ種族も分かっているかと思っていました。僕は……アルプですよ」
「アルプ……」
「そうです。僕はもともと男だったけれど、あのアプリに出会って自分の本当の気持ちを知って……魔物娘になりました。でも、まだ僕には完全な女の子になる事に抵抗があって……。まだ前の穴もない、こんな中途半端な状態なんです。敦史さんに出会って、心を決めて、僕は女の子にしてもらおうと思ったのですが……やっぱり、いやですか?」
成りかけだという友喜は、とても寂しそうな顔をした。
その顔は放っては置けないもので……。
俺は友喜を抱きしめた。
「敦史、……さん」
「別に男だろうが女だろうが関係ない。俺は、友喜を抱きたい。正直言えば女の方がいいが、そんな顔をされて放っておけるわけがない。ほら、俺だってこんな風になってる」
俺は友喜に股間を押し付ける。固くなった俺。
「わぁ……。じゃあ、良いんですね」
友喜が嬉しそうな顔をする。
すると、彼自身が膨張を始めた。それは、俺のものよりも大きくて、まさしくジャイアントだった。それに俺は顔を引きつらせてしまう。
「やめますか?」
「いや、やめない。ここでやめたら男がすたる。だから」
俺は顔面の筋肉が浮き出るほどに、気合を込めて、
「私は一向に構わんッ!」
と言い放った。友喜はキョトンとした顔を浮かべたがすぐに婉然と微笑む。
「よかった。その気持ち、わかります。今はまだ、僕も半分男ですから」
そうして二人でベッドに飛び込んだ。「あっーーーー」
〇〇は『穴を掘る』を覚えた。 〇〇がどちらかは、ご想像にお任せで。
ーーウホッ、いい〇〇〇getだぜ!
俺は一人、外でタバコをふかしていた。
「何なんだよあいつら……。それに亮一のやつも、あんな奴連れてきたらこうなることは分かっていただろ……。チッ」
スマホをいじる。
彼女と別れて少し経つ俺は、正直飢えていた。精一杯場を盛り上げようと意気込んで、今日の合コンに臨んだのだが、
「ごめん、敦史。きょう浩二のやつが来れなくなったみたいでさ。数合わせの友達呼んでいい
? お前の会ったことのない奴なんだけど……」
亮一からのラインに快く了承の返答をした俺を、今の俺は全力で殴ってやりたい。というか、一番殴らなくちゃいけないのは亮一(あいつ)だ。あんなやつ連れて来たらこうなる事は分かり切っていた。
亮一が代わりに連れて来たやつというのは、可愛い系の男子だった。合コンにきた相手方の女子たちは一目で奴をロックオンしたらしく、俺と亮一はほったらかされた。奴もまた困ったようにはにかむもんだから、肉食系女子たち(ライオンども)の前に連れてきたシマウマは自分で焼かれに行ったわけだ。
この飲み屋は喫煙オーケーだったが、そいつが「僕、タバコが苦手なんだ」といったら吸いたければ別の場所で吸えと女子どもになじられて、ここで一人寂しく吸っている。
「チッ、今日の合コンはハズレだな……二次会なんていかず、とっとと帰るか……」
すでに諦めていた俺だったが、
ピローン♪
スマホから通知音が聞こえた。
「なんだ? これ。まもむすGO? この世界には魔物娘という存在が人間に化けて過ごしています……。彼女たちの正体を明かして手篭めにしてしまえ? ストレートだな。よく知恵の実ストアさんが通してくれたな。ふぅん、そういう設定か……暇つぶしにはなるかもな」
無料でもできるという事で、俺は早速インストールして、起動させてみた。
「サーチ、と。ん、近くに俺の攻略できる魔物娘がいる……。もしかしてあの女子どもの中にいたりして。でもなぁ……あいつら攻略対象だったところで、落としたいとも思えないな……」
ゲームの画面にはこの居酒屋にシルエットで『get me』という文字が浮かんでいる。
少し、運命的なものを感じずにはいられないが、所詮はお遊びだ。催した俺は、店内に戻り、トイレに行くことにした。スマホをいじりつつ歩く。居酒屋の喧騒をよそに、あいつらの席を素通りしてトイレへ。ニコチンを補給したとはいえ、楽しそうな声は俺の神経を逆なでしてくる。
と、男子トイレのドアを開けようとして、
「わぁっ……」
と可愛らしい声が、だが男だ。いたいけなシマウマ、友喜がいた。俺のイラつきの元凶である奴に、俺は鬱陶しそうな顔をして、
「いいよ。早く出ろよ」
「は、はい……。優しいですね」
男に言われたって嬉しくない。
「気持ち悪いこと言ってんなよ。あいつらみんなお前目当てなんだからさ」
俺はシッシッと手を振る。しかし奴は少し申し訳ない顔をした。
「ごめんなさい。僕、ホントは来るつもりじゃなかったんですけど、亮一くんが数合わせだから、って言うから。こんな事になるなんて思わなくて、僕、女の人って、苦手なんですよね」
はにかむような彼に、やはりこれは肉食系女子たちの格好の餌だな、と俺は思った。
「それに、敦史さんに不愉快な思いをさせてしまって……。別に敦史さんが嫌いなわけではなくて、タバコが苦手で……。でも、敦史さんが好きだって言うなら、克服します」
まるで小動物のような様子の友喜に、俺は苦笑してしまう。こいつはいい奴なのだ。問題なのはあの無節操な女子たちで……。毒気を抜かれたようにも思う。
「大丈夫だ。別に怒ってなんかない。お前はそのまま純粋でいてくれ」
俺は奴の頭をポンポンと叩く。身長の高い俺に比べて、低めの身長である友喜の頭は撫でるのにちょうどいい場所にある。するとどうしてだか、奴は呆けたような顔をしていた。
「どうした? お前主役だろ? 俺の顔になんかついてるか?」
「…………ハッ、い、いえいえ、なんでもありません」
「おかしな奴だな」
俺は苦笑して、友喜のケツを叩く。
「先に行ってろ、俺も後から戻るからさ。もっとビシッとしてればいんだよ。じゃないとあいつら調子に乗るだけだ」
「ひゃ、ひゃい……っ! お、お尻……」
そんな可愛らしい声をあげて彼は飲み会の席に戻って行く。そこでふと、俺は何とは無しに先ほどのアプリで彼を見てみる。それはほんの気まぐれ、魔がさしたとか、言うならば、何か運命の糸に腕を釣り上げられたかのような……。
「おいおい、マジかよ……」
俺はスマホを凝視してしまう。画面に映る彼の後ろ姿は、人間じゃなかった。
俺はトイレに駆け込んでスマホをいじる。そこにはシルエットがとれて、あいつの顔をした魔物娘が写っている。
魔物娘って、本当にいたんだ……しかもあいつが俺の攻略対象だなんて……。いや、確かに可愛いけど、頭を撫でた感触なんて、ホントにしっくりきたけど?
あいつ男だろ? と、そこで俺は気がついてスマホで調べる。魔物娘……やっぱり。
「男のふりをしている……って事か」
あんな可愛い子が男の子のわけありません、と言う奴だな。いや、それは普通の事か。しかし……と俺は思い出す。あいつ、男子トイレに入ってたよな……あいつがここで……。俺はブンブンと頭を振る。俺にそっちの趣味はない。
奴はそうまでして女であることを隠そうとしていると言う事か……。
ふぅん……。
俺は飲み会の席に戻り、頼んでおいたビールを一気に開ける。
「うっ、わぁ……」
戻ってきたなり一気した俺を女子どもは引いた目で見ている。そして、俺は奴らに言ってやる。
「おい、友喜嫌がってるだろ? 止めてやれよ」
「えー何言ってんのー。自分がモテないからって、それはシラケるー」
「どうてーい。キャー」
「童貞じゃないわ。ばーか」
「え、童貞じゃ……ないんですか」
どうしてそこで友喜が残念そうな表情を浮かべているのだ。
「あー、友喜くんその反応、もしかしてー」肉食獣Aがニマニマしている。
「私がもらってあげようかー」肉食獣B。
「お願いします!」
「お前じゃねーよ」
亮一は肉食獣に吠えられた。
俺はライオンどもからシマウマを奪い取るべく、縮こまっている友喜の横に、俺はライオンの群れをかき分けて座ってやる。
「えー、何やってんのよー。……ゲ、もしかしてあんたそっち系?」
「それなら私は見てまーす。ホモの嫌いな女子なんていませーん」
肉食獣たちが悪ノリしている。
「勝手に言ってろ。俺は女が好きだよ。でも、お前らよりは友喜の方がいいな」
「敦史さん……」
う……。友喜の視線にムズムズする。俺は彼が彼女だと知っている。だが、他の奴らは知らない。特に、ここで女子にする対応をしてしまうと亮一から妙な目で見られることになってしまう。
俺が亮一に目を向けると、奴はなぜかサムズアップしていやがった。そういやコイツ、男の娘好き、とか言う奴だったな……いろんな世界があるものだ。
とか思っていると、次の料理が届いた。エリンギの丸焼きだった。
「あ、それ僕のです」
友喜が受け取る。そして彼は、それを丸ごと口に咥え、
「熱っ……」吐き出した。
大ぶりのエリンギがブルンと彼の口から飛び出し、バターがかかるさまに、亮一は前かがみになっていた。俺はなんとか平静を装って友喜の顔をおしぼりで拭いてやった。
「んっ……」とか色っぽい声を出しやがって、俺も反応しそうになってしまう。
さて、エリンギの丸焼きなんてものをメニューにおいた店長を呼べ、優良店レビューをもうやめてというまで書いてやる。もしも松茸があるのなら、それも注文してやる。
「うーわー。友喜くんエッロー。モーホーが興奮しちゃうじゃん」
姦しい女たちの声をよそに一次会は終わった。
友喜はキノコが好きらしく、他にもいくつものキノコを頼んでいた。
二次会もそんなノリで、俺は友喜の隣に陣取って、酒が回るごとに俺へのボディタッチが多くなって行った。ライオンどもは自分たちが食べるよりも俺に食わせようと思っているようで……。
お終いには友喜はもうフラフラとなり、奴は俺に送っていって欲しいと言い、肉食獣たちはなぜか気に入った様子の亮一を三人で囲んで連行する事になった。まあ、亮一はまんざらでも無さそうだし……。骨なら拾ってやるから心置き無く食われてこいと最敬礼で送り出してやった。
「お持ち帰りすんじゃねーよー、ギャハギャハ」
「キャー食べられちゃう〜」
「今から食べられるのはうちらだけどー」
奴らは最後まで姦しかった。
俺は友喜を支えながら夜風の中を歩く。身長差のせいで俺にしがみついてきているコイツの体は華奢で、夜風で儚く散ってしまうようにも思えた。正体が魔物娘だという彼ーー彼女。男に化けるんだったらもっとしっかり化ければいいのに、と思う。
「うゔ……吐きます」
「待て! ここにビニールあるから!」
「ありがとうございます……。こんな姿を見せてしまって……恥ずかしい」
コイツは体が参っても頭はしっかりしているようだ。口元に吐瀉物をつけながら顔を赤らめている。
「ホラ、こいつで口拭けよ……」
俺が差し出したティッシュを奴は縋り付くように受け取った。
「優しいんですね……」
「当然のことだろ?」
下心がないかといえば嘘にはなるが、男どもの後始末はいつも俺の仕事だ。それがコイツなら、むしろ役得と言える。自販機で水を買ってやったりして、ようやく友喜は落ち着いたみたいで、ベンチに座っていた。
「こ……こんなところを敦史さんに……」
「そんな日もあるさ」
「……ぅう」
本当に女の子のように、コイツは体を縮こめている。今までコイツが本当に女だと気がつかれずにきたことの方が不思議に思う。と、
「敦史さん、気づいてますよね」
友喜の言葉に俺はビクリと身を竦ませた。
「何、を……?」
俺は平静を装って答えるが、彼ーー彼女ははにかみながら笑う。
「知ってますよ。敦史さんの視線、僕の胸やお尻を見てましたよね。僕も、視線には敏感なんです。それに、本当は見えていないはずの場所も……」
それは、一般的な女子と同じく、という事なのか、魔物娘として、という事なのだろうか。
俺が戸惑っていると、
「どうして分かったんですか……?」
と彼女は尋ねる。
「それは……」
俺はあのアプリの事を話した。それに彼女は口を尖らせた。
「そうだったんですか。それは、ちょっと残念です。ちゃんと運命的な感じで気づいてもらいたかったです……」
コトンと拗ねたように首をすくめる彼ーー彼女は可愛らしかった。酔いのせいか目も心なしかトロンとして、頬が色っぽく赤い。それでも、そこにはそれだけではないものが混じっているとは思った。俺のアピールは功を奏したようだ。
「それで……どうします? 僕は好色な魔物娘。二人だけの三次会、行きませんか?」
それは情欲に染まった顔。視線の先にはきらびやかなお城のネオンサイン。俺は、純粋だと思っていた彼女のそんな表情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
◆
シャワーを浴びて俺はベッドの上。
今は友喜がシャワーを浴びている。タバコが苦手だという彼女のために、入念に洗ったが、まだ臭わないかが心配になる。と、
「お待たせしました」
シャワーで上気した肌の女がいた。ミルクのようになめらかな肌。この姿に俺はやはり彼女は女なのだと確信する。それに、以前の彼女とは比べ物にならないほどに色っぽい。情欲に濡れた瞳で、蠱惑的に笑えば、今日の合コンの彼女たちなんて可愛らしく思えるほどの肉食獣だと思った。
彼女たちが獅子だとするのなら、友喜は巨人。彼女たちなどプチッと潰せてしまう。
そして友喜はガウンをはだける。そこには小さくとも形の良い胸が……、普段はさらしで潰しているらしい。それを俺の手で外せなかったことは残念にも思うが、友喜がガウンを落とすと目を見開いた。
彼女の、いやーー彼の股間にはあってはならないものがあった。
「え……お前、女なんじゃ……」
「あれ? 敦史さん、僕の事を魔物娘ってわかってるからテッキリ種族も分かっているかと思っていました。僕は……アルプですよ」
「アルプ……」
「そうです。僕はもともと男だったけれど、あのアプリに出会って自分の本当の気持ちを知って……魔物娘になりました。でも、まだ僕には完全な女の子になる事に抵抗があって……。まだ前の穴もない、こんな中途半端な状態なんです。敦史さんに出会って、心を決めて、僕は女の子にしてもらおうと思ったのですが……やっぱり、いやですか?」
成りかけだという友喜は、とても寂しそうな顔をした。
その顔は放っては置けないもので……。
俺は友喜を抱きしめた。
「敦史、……さん」
「別に男だろうが女だろうが関係ない。俺は、友喜を抱きたい。正直言えば女の方がいいが、そんな顔をされて放っておけるわけがない。ほら、俺だってこんな風になってる」
俺は友喜に股間を押し付ける。固くなった俺。
「わぁ……。じゃあ、良いんですね」
友喜が嬉しそうな顔をする。
すると、彼自身が膨張を始めた。それは、俺のものよりも大きくて、まさしくジャイアントだった。それに俺は顔を引きつらせてしまう。
「やめますか?」
「いや、やめない。ここでやめたら男がすたる。だから」
俺は顔面の筋肉が浮き出るほどに、気合を込めて、
「私は一向に構わんッ!」
と言い放った。友喜はキョトンとした顔を浮かべたがすぐに婉然と微笑む。
「よかった。その気持ち、わかります。今はまだ、僕も半分男ですから」
そうして二人でベッドに飛び込んだ。「あっーーーー」
〇〇は『穴を掘る』を覚えた。 〇〇がどちらかは、ご想像にお任せで。
ーーウホッ、いい〇〇〇getだぜ!
17/08/27 23:05更新 / ルピナス
戻る
次へ