連載小説
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カスタマーセンター
オフィスには仕切られたいくつもの机があった。その一つ一つには本身をさらけ出した魔物娘たちが、マイク付きイヤホンをつけて、電話対応に追われていた。
最近配信が始まったまもむすGO。ここはそのカスタマーセンター。お客様から寄せられた要望、質問、システムの不具合の報告、クレームも含め、彼女たちは対応に追われていた。
今日は彼女たちの仕事場を覗いて見ることにする。

ケース1
「うん、うん。そーなのー。私今週末空いてるんだー。えー嘘ー、あなたもなのー。じゃあデートしようよデート。え? 魔物娘にしか興味ない? 大丈夫だって、一緒に探しに行ってあげるからさー。うん、うん。すっぽかさないってー。じゃあ、よろしくねー」
ふぅ、と息をついて一人のサキュバスが電話を切る。
そして部長の番号をコールする。
「はい。現場応対いただきましたー。そういう事で、今週末私いませーん」
さーて、どんな服を着て行こうかしら?
彼女は見事にクレームに対応したようだった。

ケース2
「はぁ? 攻略対象がゲイザーみたいだから、チェンジ出来ないか、って? ふざけんじゃねぇぞ? ゲイザーちゃんは可愛いんだぞ? 何、じゃあゲイザーちゃんの可愛さを教えろ? よーしわかった。俺が直々に向かってやるよ。そこで、首を洗って待ってろ!」
ガチャリ、とゲイザーは乱暴に電話を切る。
そして管理者の番号をコールする。
「…………どうしよぉ〜。勢いで言っちまったけど、ゲイザーの可愛さってどう教えればいいかわかんねぇよ、部長〜、助けて〜。暗示をかけようと男の人の目を見れば恥ずかしくなって見続けられないし、俺が可愛いカッコしたって似合わねーだろ? え……、いいからそのまま当たって砕けて来いって? そんな〜」
彼女は先に目玉のついた触手を震わせて、大きな目に涙を浮かべていた。

ケース3
「はぁ……はい、はい。お金がないから課金の支払いを待ってほしい、ですか。そうですねー。あなたが絨毯の下に隠している脱税のお金から使えばいいではないですか。隠すくらいなら私たちにお納めください。あなた、他に帳簿をいじったりもしているでしょう? それなら払うくらい簡単な事ですよ。何で知っているか、って? それはもう、私は何でも知ってる白澤お姉さんですから……あら? 切れてしまいました」
彼女は怪訝そうな顔をしてから、唇の端を持ち上げ、番号をプッシュする。
「ああ、はい。よかった。ちゃんと取ってくれましたね。……あ、また切って……」
再び番号をプッシュ。
「もしもし。……どうして携帯の電話番号だけでなく別荘の番号まで知っているか、って? 言いましたよね? 私は何でも知ってる白澤お姉さんだ、って。知っていますよ。あなたの別荘の住所も、実家の住所も。確か、お兄さん、先日結婚されたんですよね。いいですよね、新婚さん。憧れます。ふふ。ええ、私は何でも知っていますから。それに……私はあなたの講座の番号も暗証番号も知っていますが、そんなことしたくないですもの。……あ、ちゃんと支払ってくれるんですね。ありがとうございます。素敵な課金ライフをお送りください」
彼女は丁寧に電話を切った。

ケース4
「もしもし。何? 今日の私のスリーサイズがいくつか、だと? ふざけるな! 私のスリーサイズがいくつか知りたければ、お前のピー(自主規制)の平時と膨張時の長さと太さを教えるのが礼儀だろう。うん? ほう、ほうほう。それは……。本当かどうか確かめに行ってやる! 住所と電話番号を教えろッ!」
彼女は部長の番号をプッシュする。
「現場応対が入った! この案件は急を要する! だから私の早退許可と明日からの有給を申請したい。うん? それは業務にはいります? ははは、……感謝する」
そうしていそいそと、ドラゴンは現地応対に向かった。

ケース5
「え、オレ……? あー、もしかしてお兄ちゃんかの!? うん、うん。ワシは元気じゃよ。え? 会社の金を使い込んでしまった? 大変なのじゃ……。え、今日中に百万円必要……。じゃが、ワシのお小遣いでは……。ええい、ままよ。ちょっと待っておるのじゃ」
バフォメットはある番号をプッシュした。
「はい、こちらたぬたぬファイナンスです。融資のご相談ですね? え、間違えた? そうですか、分かりました。ですが私どもは相談料をいただいておりまして、今日中に百万円の振込をお願いいたします。ふざけるな? お金がないのであれば御融資いたしますが。あら……切れてしまいました」
フサフサした尻尾の彼女はどこかに電話をかける。
「あー、うん、そや。逆探かけて住所は分かっとる。遠慮はいらん、カチこんだれや。ケツ毛の一本まで逃すんやないで」
とある詐欺グループが人知れず壊滅した。

ケース6
「ニャ、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ。ニャ!? ニャーン……。にゃ、ニャッ!(なんだって、ウチが出て行った後に保護センターにウチを里子にしたいという連絡があったって? こうしちゃいられない。ケットシーなんてやってる場合じゃない。まだ猫のふりをしてご主人に引き取られに行かないと)」
成り立てのケットシーが血相を変えて走って行った。

ケース7
「ブヒブヒブヒ、ブヒ? ブー、ブヒー、ブヒー。ハァハァ……ご主人様……」
オークがオフィスで何らかのプレイに興じて注意されていた。

ケース8
新人がクレーマー対応に追われていた。
「はい、いくら動いても攻略可能な魔物娘を見つけれられない? それはそこにいないだけでありまして……ひぇえええ! ち、違います。バカになんてしていません……。課金もしたのにクリア出来ないゲームは詐欺じゃないのか……金返せ。い、いえ……それは出来ないと注意書きにも。う、訴える……!? そ、それはお許しください……」
涙目になっている彼女を見かねた上司が、自分に回すように指示した。
相手は電話手が変わっていることに気づきもせずに、自分の要望をまくしたて続ける。そして彼女は低い声で口を開く。
「……うるさいわ。ピーチクパーチク、まだスズメの方が上手い事喋りおるで? ぁあん? 客に向かってその言い草は何だ? じゃかましいわボケェ! このアプリは自分の努力によって嫁はんを見つけるアプリや。部屋にこもってマスかいとるだけで相手を見つけられる、思うんやない。うちらは嫁はんを見つけるお手伝いをしとるだけや。見つけるのはあんた自身や。せいぜい頑張りや。
ぁあん? 課金? それにつぎ込んだんもあんたやろ? うちらは注意書きにちゃあんと書いとる。出るとこ出るんやったら、こっちも望むところや。あんたの気がすむまで付き合ったる。やけど、どないなっても知らへんでェ? ……おとといきやがれ、スカポンタン!」
狸さんは叩きつけるように電話を切った。
後日、
「ひぇッ、先日の……え? 前回の方と話がしたい?」
「ぁん? なんや、ウチと話がしたかった? おう、ええで? ウチを言いくるめられるようなネタ、持っとるんかい。……ない? なら何がしたくてあんた電話してきたんや。……ウチに罵られたかった? ふぅーんあんたマゾ豚かい。悪いが、ウチにそんな趣味はない。もう旦那もおるんや。他当たってや。何、受話器でハァハァ言っとるんや! 人妻萌え? 気色悪い。あんたホンマ救えんなぁ……。こんな事せずに、アプリ起動させて自分の嫁はん探しぃ。課金も待っとるで?
……はぁ? 罵りながらも、頑張れとかちゃんと話してくれて、待っていてくれる、なぁーにを勘違いしとるんや。ウチはあんたの事なんて何とも思っとらん。
じゃかましいわぁ! 何がツンデレいただきましたや。ウチに好意はないで。……だがそれがイイ? 二度とかけてくるなスカポンタン!」

プルルルル、プルルルル。
「はい、こちらまもむすGOカスタマーセンターです。はい、ええ? ……少々お待ちください」彼女は上司にコールする。「あの……お話ししたいという方が……。いいえ、前回とは別の方です。口調はその筋の方だがこちらを気遣ってくれる人妻ツンデレ上司さんに罵られながら生スカポンタンを聞きたい、と」
「……切っちめぇな」
狸さんは胡乱な目をしたが、
「……いや、ウチへの電話は課金対応にすれば儲けられるか……」
そう言って電話対応をするのだった。


今日もまもむすGOカスタマーセンターに電話の音は鳴り止まない。電話対応と現地応対に追われる多忙な彼女たち。だが、夫を手にした魔物娘はその席をあける。次の魔物娘に出会いの場を提供するために。
旦那探しにも最適、まもむすGOカスタマーセンター、新規職員募集中!!

ぽんぽこ出版 広告記事 文責 烏天狗
17/08/21 10:18更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
この記事の後、しばらくダークエルフやアマゾネスの就職が相次ぎ、別部署が開設されたという。

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