特殊機能:天の声(下)
私、ヴァルキリーのリーナ・ウェザーは一体、どうしてしまったと言うのでしょう。
あのクラスメイトと握手を交わした手が、いまだに熱を持っています。顔も熱い気がします。私は病気にでもなってしまったのでしょうか?
部屋の中で、私は跪いて主に祈りを捧げます。
「主よ。私をお導き下さい」
いつもならば私の心は主への祈りで満たされるはずが、今日はあの方の顔がどうしてもチラつきます。
私がここ最近、主のお声に従って下着の色を教え続け、今日に至っては、ノ……ノーパンを見せようとした彼。
あ、あああ……。今思い出しても赤面してしまいます。しかし、主の加護によって本当には見られなくて助かりました。もし見られていたら……。そう考えた時、キュン、と。私は今までに感じた事のない感覚を下腹部に抱きました。これは、何なのでしょうか……。
ですが、本当に彼には申し訳ない事をしました。主も酷いです。私に与える試練に人を巻き込むなど。……ハッ、いいえ。決して主に憤っているわけではありません。そんな事……ありえません。
その彼が、私に告白してきました。
私の試練に巻き込まれても怒らなかったような人柄の彼ですから、きっと、私がノ、ノーパンを見せようとしたから、チョロそう、とか思ったから、告白してきた……、そんな人ではないとは思います。あの時の瞳は何か、崇高な使命に目覚めた、まるで話に聞く勇者のような……。ヴァルキリーである私が導くような……そんな。キュン。……私をまたあの感覚が襲いました。
本当に、何なのでしょう……。ですが、お母さまにだけは聞いてはいけない。そんな確信にも似た感覚も抱きます。
……私は彼の告白を断りました。
普段なら私はキッパリとはねのけるのですが、彼を見ていると、それをするのが躊躇われて……。キュン。……ですが、もしもその告白を受ければ彼と付き合うわけになるわけでして、そうすればいずれエッチィことに行き着くわけでして。キュン。そんな事は私に出来るわけはなくて、キュン。
きっと手を繋いで。キュン。デートをして。キュン。キスをして。キュン。その先は……キュン、キュンキュンキュン。
だ、だから何なのですかこの感覚は……。
私はあまりのもどかしさに、主への祈りを放り出してベッドに飛び込みます。シーツに顔を押し付けても、下腹部の切ないしめつけは止まりません。私はそれを止めるために、私の秘部へと手を伸ばします……。
ビクンッ、と。私に今まで感じ事のない電流が走りました。
「な、何だったのですか……今のは」
私は恐る恐る、再び手を伸ばします。ぬるり、としました。
「こ、この液体は……」
私は私の中から出てきた液を手で弄びます。粘ついて、何かいやらし……。
ハッとして私は急いでそれをティッシュで拭き取ります。ですが、私の指にはその感触が、全身には先ほど走った電流が、残っていました。私の下腹部の疼きはとどまる事を知らず、私は何かしら名状のしがたい後ろめたさを覚えながら、再び指を伸ばして……。
この日、私は生まれて始めて、ーー自分を慰めたのでした。
「はっ、……はっ」
だんだんとカーテンから差し込む光が白くなっていって、鳥の声がまばらに聞こえ始めました。
「もう……朝、」
私は一晩中、自分を慰め続けていてしまいました。私は絶頂の余韻で甘く痺れる体に鞭打って、立ち上がります。鏡を見ると、
「そんな……」
そこには私とは思えない、頬を上気させた女の顔が。それはお母さまの顔に似ていました。驚いた私は思わず跪いて主への祈りを捧げます。
ーー 天にいます主よ。
ーー今日も淫らの魔の手から我が身を守る、加護をお与えください。
私は主の加護が体に満ちるのを感じました。それに私はホッとして、さらに祈りを続けます。しかし、祈りを捧げているはずの私の頭に浮かんでくるのは……。
いけません。私は頭を振って、シャワーを浴びる事にしました。
浴室の前で、
「どうしたの? 珍しいわね」お母さまに話しかけられました。ダークヴァルキリーとなって、性に奔放になったお母さま。先ほどの私の顔に似ていた……。
「汗をかいてしまったので、シャワーを浴びようと思ったのです」
「ふぅーん」
と、お母さまは形の良い鼻をヒクつかせ、
「そういう事にしておいてあげるわ」
何やらニンマリと笑って立ち去りました。
…………その反応がむしろ怖いです。
私がシャワーを浴びて、リビングに行くと、
「な、ななな、何を……」
「何って、別にご飯を食べているだけじゃない」
お母さまはシレッと、お父さまの膝の上に乗って口移しでご飯を食べさせていました。
「流石にこれは刺激が強すぎるんじゃないのか?」
お父さまは少し躊躇いがちでしたが、お母さまは何食わぬ顔。お母さまは食べさせている側ですからそれは仕方がないかもしれませんが。
「え、エッチィ事はいけません……」
私は頬を染めて目を逸らしただけでした。
私がその光景に抱いた思いは……恥ずかしいではなく、うらやま……いいえ! そんな事思ってはおりません……一体私はどうしてしまったというのでしょう。
朝食が終わって部屋に戻り、私は跪いて、今日の試練を主に問いかけます。
昨日は下着をはかないという試練でした。だから今日はもっと……。私は期待している事に気がつかないで、待ちます。
しかし、
「しゅ、主よ……どうして、何も語りかけてはくれないのですか……」
今日はどうした事か、主のお言葉がありません。
そこで私はまさか、と思います。
「まさか、私が昨日の試練を乗り越えていないから、主は……。彼に私のノーパンを見せなければ、もう私に語りかけてはくれないという事なのでしょうか……」
私は決意しました。スカートの中に手を入れ、パンツを脱ぎ捨てます。
「彼に、見てもらいます」
決意を口にすると、また、私の下腹部が、キュンとしました。
◆
「見て、ください」
これはどういう事だ。
僕はリーナさんに体育用具室のマットの上に押し倒されて、乗しかかられている。薄暗がりの中で彼女の白い肌が蛍光灯に反射している。金髪は自ら仄かに光っているようで、まるで闇に潜む肉食獣の瞳が輝いているよう。
僕は生唾を飲み込む。
正攻法で彼女に好きになってもらう。そう決めた僕は、今朝は天の声を使用しなかった。
学校の下駄箱で出会った彼女に「おはよう」と言って、彼女は「おはようございます」と返してくれた。その時の彼女の少し驚いた顔と、少しだけ赤みを帯びた頬が気になったけれど、彼女のシャンプーの匂いから、きっと朝シャンのせいだ、と思う事にした。
そのまま微妙な距離で廊下を歩く、と思っていたのに、彼女は僕の隣に並んで、周りの生徒からの視線に僕はいささか怖気づきもした。
そうやって友達から距離を縮めて行く。
そう思っていたのに。
「昼休み、体育館に来て下さい」
教室に入る時、僕は彼女にそう告げられたのだった。
そして今に至る。
「ど、どういう事……」
僕はあまりの状況に『混乱』している。彼女の重みが腹の上に乗っている。だけど、それだけじゃない。何だか、濡れきてもいるような……。
僕は再び唾を飲み込む。
「ダメ……なのです」
「何が……」
「私は主の試練を乗り越えてはおりませんでした。だから主は、私がこの試練をやり遂げるまで、私に声をかけてくれないのだと思います。だから、私のノーパンを見てください」
彼女は上から懇願するように言った。
言葉を返すことの出来ない僕をよそに、抵抗されない事を了承と取ったのか、彼女は立ち上がり、そのはいていないというスカートで、僕の頭の方に……。
僕は流れのままにゴクリと唾を飲み込むが、昨日の光景を思い出して、そして僕の決意を守るために目を固くつぶった。
『フラッシュ』『効果がないようだ』
「わ、私……見られて、」
頭上から降ってくる彼女の言葉に、僕の股間は強制的に『固くなる』を使わされてしまったが、大丈夫バレていないはずだ。
しかしそのうちに、
「あれ、その膨らみは……」
と、僕の股間の方から声が聞こえた。
……待ってくれ。顔に触れているスカートの布らしき感触と、その顔の位置。目をつぶっている僕には分からないが、彼女は大変な格好をしている気がする。というか、何か、垂れて来ているような……。
僕は誘惑に抗いきれずに薄目を……。
『フラッシュ』『効果はバツグンだ』
「ぎゃあああああああああああ!」
「きゃあ!」
僕は悲鳴をあげて彼女を跳ね飛ばして転がった。
考えてみてほしい。昨日はスカートを捲り上げた状態で視界が真っ白になった。今回は至近距離で、しかも彼女のスカートによって光量は収束されていた。
それはまさに『ソーラービーム』。
あまりの威力に僕は、意識を手放す事になってしまった。
◆
わ、私はなんて事をしてしまったのでしょうか……。
ノーパンを見せて、彼を気絶させてしまうだなんて。……いいえ、今の感じは昨日と同じ。また主の加護が働いて、彼に私のノーパンを見せる事ができなかったようです。
「主ェ……」
ハッ、今、私は何を口走ってしまったのでしょうか。私は口元を押さえます。私の主への信仰心が揺らいでいる……。
いいえ! そんな事はありません。私は敬虔なる主の信徒。そんな事ありません。私は懺悔の気持ちから急いで主への祈りを捧げようとします。ですが、それは叶いませんでした。
「あ……まだ膨らんでる……」
私の目を惹くものがあったからです。それは、彼の股間で窮屈そうに自己主張していて……。
私はゴクリと唾を飲み込んでしまいした。
い、イケマセン! エッチィことはいけないのです。ですが、だからこそ惹かれ……。
ーーやっちゃいなよぉ、ユー。
「は、っはい!?」
誰かの声が聞こえました。私はこの場に他の誰かがいないかと辺りを見回しますが、誰もいません。その声は、私の頭の中に聞こえてくるようでした……。
「まさか、主……。ですが、前と声が違うような……」
ーー疑うの?
「いっ、いいえ! そんな事ありません!」
私は急いで跪き、主に対してこうべを垂れます。ちょうど彼の股間に向かっているのに他意はありません。
ーー君に新たな試練を与えよう。
「はい……」私が神妙にその言葉を待つと、
ーーゴニョゴニョ。
「えっ! そ……それは……」
私は主の言葉に、彼の股間を凝視してしまいます。
ーー出来ないって言うの?
「そ、そんな事は……」
私は口ごもりながら、心はすでに決めていました。
そうして私は、彼のベルトに手をかけたのでした。
◆
僕が目を覚ますとそこは学校の保健室だった。
見回せば、
「よ、よかった……目を覚ましてくれて……ナニをしても目を覚まさなかったから……。もうこのまま起きないのではないかと……」
彼女のホッとした顔が目に入った。
それは僕も遠慮したい。女の子のスカートの中を見て聖なる光で殺されてしまったなんてーーこの場合は性なる光?ーー死んでも死にきれない。
「体におかしなところはありませんか?」
「大丈夫。ちょっとだけまだチカチカしてるけど、問題はないよ」
「ごめんなさい。暴走してしまって……ごちそうさまでした(ボソッ)」
?
最後に小声で何か聞き捨てならない事を言った気がしたけれども、僕にはちゃんと聞こえなかった。
「僕を運んでくれたんだね。ありがとう」
「はい……でも、元はと言えば私が悪いのですし……」
「違う! 君は悪くない!」
思わず声を荒げた僕に、彼女はビクリと肩を竦ませた。そして、少しだけ寂しそうに笑った。それはまるで、何か罪悪感を押し殺すような笑い方で……。
「優しいんですね……」
ポツリとそれは、雫のように。何だか涙のようにも思えた。
「ど、どうしたの……」
「いいえ、何でもありません……」
彼女は彼女らしからぬ様子で、気落ちしているようだった。そんな彼女を放っておけるわけがない。僕は急いでベッドから立ち上がる。
「きゃあ!」「え?」
手で顔を覆った彼女とスースーする下半身を見れば、僕の息子が顔を見せていた。
「ご、ごめん!」
僕は急いでベッドに戻る。え? 如何して僕のズボンは脱げているのだろう……。それに、リーナさん、指の隙間から見てたよね。
と、僕はベッドの中にあった自分のズボンを見つけてはく。どうやら寝ている間に脱げたようだ。ベルトをしていたから簡単に脱げるはずがないのだけど……彼女に息子を見られて動転していた僕が、実はパンツをはいていない事に気がつくのは家に帰ってからである。
少し下半身がスッキリして事が気になりはしたけれども、彼女が心配だった僕は彼女を家まで送ってあげる事にした。夕暮れ時の帰り道、彼女の家は僕の家の反対方向だった。こんな状況を誰かに見られたら、噂になる事は間違いない。柄にもない事をしていることもあって、僕の心の許容量は破裂寸前だったというのに、その途中で、彼女はとんでもない事を言い出した。
「私のノーパンを見ていただけるよう、訓練に付き合ってはいただけないでしょうか?」
「ふ、ふぇええええ!?」
素っ頓狂な声を上げる僕に、
「か、勘違いしないでください。私はあなたに見せたいわけではなく、主に授かった試練を乗り越えなければいけないためです!」
「え……?」
そうだった。そういう設定だった。彼女の言い分に、僕の心には抑えきれない罪悪感が募り、それは、溢れ出した。
「ごめん……それは、天の声じゃなくて、僕の声なんだ……」
耐え切れなくなった僕は、彼女に僕の仕出かした事を告白した。
まもむすGOというアプリの事。彼女がヴァルキリーだと知っているという事。天の声という機能の事。それを使って彼女にエッチな試練を与えていた事。それでも心を改めて昨日から使っていないという事。
初めは驚いていたけれども、
「許しましょう」
彼女は僕の告解に、そう返してくれた。
「ごめんなさい。僕は酷いやつだ」
彼女は首を振った。「いいえ。その罪を認めて告白したあなたはすでに、悪人ではありません」
その言葉に、僕は救われた。そして彼女は僕にまだ友達でいてくれる事を許してくれた。
でも、その後の言葉に、僕は驚く事になる。
「ですから、私があなたにノーパンを見せられるようになるための訓練に、改めて付き合ってくれませんか?」
「え……だから、それは僕の悪戯だったって……」
「いいえ。確かに初めはそうだったのかもしれません。ですが、私には今も主の声が聞こえているのです。ですから、こちらは本物に違いありません」
その言葉に僕は、彼女の瞳をまじまじと見た。彼女が嘘を言っているようには見えない。それに、ヴァルキリーにはもともと天の声が聞こえる、と僕はアプリの説明で読んだ。
夕日を浴びてきらめく彼女の金髪は赤く染まって、彼女の色白の頬も赤く染まっている。それは夕日のせいだけじゃなくて、彼女の瞳には、夕日の色とは違う、何やら怪しい光があった。
「お願い、……できませんか?」
彼女のあだっぽい、といえる仕草に、僕は頷くしかなかった。
彼女を家まで送り届けて、「上がっていきませんか?」と聞かれたけれども、さすがにそれは辞退した。僕にそんな度胸はまだない。残念そうな色を浮かべているように見えたのは、きっと僕の思い上がりだろう。
帰ろうとして、ふと、僕は気になってアプリを起動させて見た。チラッと窓から彼女が見えたので、さりげなく画面に写してみる。
「なん……だ、これ……数値が変わってる……」
そこにあったのは、もうゼロに近いDP(ディフェンス値)とKP。そんな、昨日まで彼女のKPはマイナス53万だったはずなのに、一体ナニがあったんだ……。
そんな数値だというのに、普段と変わらない様子の彼女に、僕は喜びよりも、うそ寒い思いを抱く。まるで、開けてはいけない扉を開けてしまったのではないだろうか、と。
◆
部屋に入って私は、へたり込みました。
彼とともに歩んだ帰り道。平静を装いつつも、私の心はただれ続けていました。
「酷いのは私の方です……私は、なんという事を……。しかし、主が……それを望まれたのです……」
主よ、知っているとは思いますが、
私は彼のパンツを盗みました。それは私のカバンの中に入っています。
さらに私は彼の股間のものを口に含み、彼のモノを飲みました……。
彼の感触と味が口に残っていて、私はウットリとします。また、下腹部に切ないしめつけが……ですが、今はもう、私はこれが欲しくて堪らなくなっています。
私は一体どうしてしまったというのでしょうか。
それに、彼のあの告白。
彼は私がヴァルキリーだと知っていた。そして、私にはエッチィ悪戯を仕掛けていました。
以前の私であれば、憤り、彼をなじっていたでしょう。
ですが、先ほどの告白で私が感じたのは、私をヴァルキリーだと知り、好きにできる道具を持っていたのに使わず、まっすぐに私に好きなってもらおうとした彼の心に対する嬉しさ。まさに彼は話に聞く勇者のようになろうとしていたという感動。
そして、私が彼に弄ばれていたという事実へのーー恍惚感。
あの時の私は、彼にバレてしまうのではと思うほどに股間を濡らし、切ないしめつけに耐えていたのです。
本当に、私はどうしてしまったというのでしょう。
あろう事か、私は彼のパンツを使って私を慰め出します。
彼に私のノーパンを見せるのだという訓練の協力までお願いして……。もしもそれが叶った時、主は私にどんな試練をお与えになるのでしょうか。私はそれが待ち遠しくて……いいえ、エッチィことは……いけませんよ? これは淫らの魔の手からこの身を守るための試練なのです。
試練なのだから、仕方がありませんよね?
ーーそう、仕方がない。それで、君はどんな試練を望むの?
私は、私が望む事はーー。
「彼とエッチィことがしたいです」
「じゃあ、それを試練にしよう」
その声の主は、だらしなく目も口も歪ませた私の口。ですが、それに私は気がつきません。
「まずは私のものを見てもらえるように……。ですが、どうしたら……」
「そんなの君が分かっているでしょう? 見えなければいいんだよ」
「見えなければ、そう。見えなければ……ふ、うふふふふ」
きっと、私の何かが吹っ切れたのは、そこだったのだと思います。それはまるでガラス玉が砕けるように。
◆
「訓練って、どんな事をするの?」
僕は再び昼休み、体育用具室に呼び出された。
彼女の様子を気にしていたのだけれど、僕の懸念は杞憂に過ぎなかったようだ。
彼女は僕を押し倒すこともせず、真面目に立っている。また向こうから無理矢理見せられたら、今度こそ僕の目は潰れてまう。そんな恐れすらあった。
でも、彼女はすすす、と音も立てずに僕に近寄ってきて……そっちの方が怖いような……。僕に体を密着させた。
「え……ぇえええええ!?」
あまりのことに僕は『混乱』させられた。
僕とあまり背の変わらない彼女の、柔らかさに包まれる。彼女の手は僕の背中に回されて、甘いシャンプーの香りも、彼女の体温も、吐息、ふくよかな胸。彼女の腕に力がこもり、そうした女の子という感触が、より僕に押し付けられる。
僕の股間が反応しないわけがなくて、それはおそらく今もはいていないだろう彼女のスカートに押し付けられて、グイグイと。女の子というか、女性の感触まで僕に押し付けられる。僕は慌てて腰を引こうとするのだけど、彼女はむしろ腰を強く押し付けてきて……。
「リーナさん、マズイよ……」
「何もマズくはありません。これは訓練です。訓練なので問題はないのです」
「いや……これは訓練というより……」
むしろ本番な気がする。
僕の耳元に聞こえる彼女の吐息はくすぐったく、それに、湿っぽい気がした。彼女の鼓動が直接伝わってくるようで、ということは僕の鼓動も彼女には伝わっているはずで……。
「興奮、してくれているのですね」
耳元で奏でられたそれは、僕の背筋をゾクゾクと震わせてきた。僕の股間は否応なしに硬さを増して、彼女はさらにスリスリと。僕に腰を押し付ける。
「主は私に言われました。見せて訓練が出来ないのならば、見せずに訓練すればいいのだと。だから、まず触れて……。交わって、そこまですればきっと、あなたに見せることが出来ると思います」
交わって……!? 今、なんとおっしゃいました!?
いつの間にか僕は壁に押し付けられていて、ヴァルキリーで運動部の彼女を僕が振りほどく事などできるわけもなく、彼女は片手で僕の股間に手を伸ばし……まるで手慣れた動作で僕の息子を取り出した。まるでやった事のあるような……。
彼女はそんな人じゃなかったとは思うのだけど、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「ちょ、ちょっと……」
「嫌……ですか?」
…………それはずるいと思う。リーナさんのような金髪青目の女の子から、上気した頬、そんな上目遣いで見られて仕舞えば、嫌と言えるわけがない。というか、そもそも嫌ではないし、というか好きですし……。
「嫌がってないからやっちゃいなよ」
声が聞こえた。誰の声かは決まっている。リーナさんだ。
「はい。主よ。お心のままに」
リーナさんは、自分で自分と話していた。
まさか、と僕は思う。
「リーナさん、それは違う。それは天の声じゃない」
僕の言葉に、彼女の手がピタリと止まった。
「いいえ? 主の声ですよ。まさかあなたは私には主が声をかけるわけがない、と思っているのですか? ヒドイ……」
「ち、違……」
「ヒドイよ。それならもう一思いにヤっちゃうしかないね」
「そうですね」
リーナさんの手が僕の息子に添えられて、もう片方の手は自分のスカートの中に入っている。ヤっちゃうっていうのは、もちろんそういう事だろう。
それはマズイ。そんな、自分の声を主の声と勘違いしているような状態で、僕も彼女としたくない。というか、そもそもまだ僕の心の準備がですねぇ!
「いやいや、だからソレ、リーナさんが自分で言っている声ですよ! だって、僕にだって『一思いにヤっちゃうしかないね』ってリーナさんが言うのが聞こえたし」
「え……」
リーナさんは驚いた顔をして、それでもその手の動きは止めなくて、
「やっぱり」と言って、淫らに笑った。
「これは私の声だったのですね。あなたとエッチィ事をしろという、エッチィ事をしたいという。主の声ではない」
「う、うん……」僕は頷く。
「だから、私はあなたとしたいのです。私の意思で。だから、大人しく、訓練させてください?」
金色だった彼女の髪が青白く染まっていく。輝くように白かった肌も、闇に馴染む青白い肌へ。僕の前で、清廉そのものだった彼女が、淫靡な笑みを浮かべて、別のものになっていく。
カツン、と。僕のスマホが落ちてアプリが起動する。薄暗がりに、電子的な光が輝く。
彼女のステータスにはダークヴァルキリー、DP(ディフェンス値)0、K(カルマ)値53万。自撮りモードで映った映像はーーちょうど、彼女が僕を飲み込むところだった。
ーーダークヴァルキリーにgetされたぜ!
◆
私はダークヴァルキリーになってしまいました。
お母さまと一緒の淫らな存在。
朝、私がリビングに降りると、もはや私に咎められる事のなくなったお母さまがお父さまの膝の上に乗っています。それでも二人は服を着ています。
「おはようございます」
「おは……っ、ようっ」「おはよう〜、ン、ッふ」
お母さまのスカートの下からはくぐもった水音。お食事中です。羨ましいとは思いますが、私は昼食でいただけるからいいのです。
「リーナ、彼とは順調?」お母さまが尋ねます。
「当たり前です」
「それはよかった」
「今度、連れて来なさい」とはお父さま。「彼には、ダークヴァルキリーの夫となる心構えを伝えておかなくてはいけない」
それは娘の彼氏に会わせろという父親の顔ではなく、これから戦場をともにする戦友に会おうとする戦士の顔でした。私が頷くと彼は深く頷き、果てたようでした。
朝食を取り終えた私は部屋に戻ります。ダークヴァルキリーとして肌の色が変わってしまった私は、外に出る前には以前の姿に化けます。今の姿はより魔物らしいですし、委員長がグレた、と思われてしまっては心外です。私の学校には、魔物娘の事をしらない人間も通っているのですから。
みんな、魔物娘になればいいのに、と今の私は思います。
エッチィ事は、いいことです。
私は跪いて、私の主(あるじ)に祈りを捧げます。
ーー家にいます主(あるじ)よ。
ーー今日も淫らなあなたの手から我が身を辱める、プレイをお与えください。
そうです。あのアプリの天の声機能は、付き合い始めた私たちのプレイのかっこうの材料として使用されていました。私は彼の天の声によって、今日も辱められるはずです。しかし、私がリードしないと、彼はあまり過激な事をしてくれません。それが、残念です。きっと、今日だって、
ーーリーナさん、今日こそはちゃんとパンツはいて登校してください!
「嫌です。あなた以外に対する防壁はまだ健在ですから、何も問題はありません。それよりも、私、今日はお散歩プレイをしたいのですが、首輪と鎖も買いました」
その言葉に、彼はどうやら絶句したようでした。ですが、私を攻略した責任は、ちゃんととってもらわないといけません。何せ、アプリはアフターフォローも万全なのですから。
あのクラスメイトと握手を交わした手が、いまだに熱を持っています。顔も熱い気がします。私は病気にでもなってしまったのでしょうか?
部屋の中で、私は跪いて主に祈りを捧げます。
「主よ。私をお導き下さい」
いつもならば私の心は主への祈りで満たされるはずが、今日はあの方の顔がどうしてもチラつきます。
私がここ最近、主のお声に従って下着の色を教え続け、今日に至っては、ノ……ノーパンを見せようとした彼。
あ、あああ……。今思い出しても赤面してしまいます。しかし、主の加護によって本当には見られなくて助かりました。もし見られていたら……。そう考えた時、キュン、と。私は今までに感じた事のない感覚を下腹部に抱きました。これは、何なのでしょうか……。
ですが、本当に彼には申し訳ない事をしました。主も酷いです。私に与える試練に人を巻き込むなど。……ハッ、いいえ。決して主に憤っているわけではありません。そんな事……ありえません。
その彼が、私に告白してきました。
私の試練に巻き込まれても怒らなかったような人柄の彼ですから、きっと、私がノ、ノーパンを見せようとしたから、チョロそう、とか思ったから、告白してきた……、そんな人ではないとは思います。あの時の瞳は何か、崇高な使命に目覚めた、まるで話に聞く勇者のような……。ヴァルキリーである私が導くような……そんな。キュン。……私をまたあの感覚が襲いました。
本当に、何なのでしょう……。ですが、お母さまにだけは聞いてはいけない。そんな確信にも似た感覚も抱きます。
……私は彼の告白を断りました。
普段なら私はキッパリとはねのけるのですが、彼を見ていると、それをするのが躊躇われて……。キュン。……ですが、もしもその告白を受ければ彼と付き合うわけになるわけでして、そうすればいずれエッチィことに行き着くわけでして。キュン。そんな事は私に出来るわけはなくて、キュン。
きっと手を繋いで。キュン。デートをして。キュン。キスをして。キュン。その先は……キュン、キュンキュンキュン。
だ、だから何なのですかこの感覚は……。
私はあまりのもどかしさに、主への祈りを放り出してベッドに飛び込みます。シーツに顔を押し付けても、下腹部の切ないしめつけは止まりません。私はそれを止めるために、私の秘部へと手を伸ばします……。
ビクンッ、と。私に今まで感じ事のない電流が走りました。
「な、何だったのですか……今のは」
私は恐る恐る、再び手を伸ばします。ぬるり、としました。
「こ、この液体は……」
私は私の中から出てきた液を手で弄びます。粘ついて、何かいやらし……。
ハッとして私は急いでそれをティッシュで拭き取ります。ですが、私の指にはその感触が、全身には先ほど走った電流が、残っていました。私の下腹部の疼きはとどまる事を知らず、私は何かしら名状のしがたい後ろめたさを覚えながら、再び指を伸ばして……。
この日、私は生まれて始めて、ーー自分を慰めたのでした。
「はっ、……はっ」
だんだんとカーテンから差し込む光が白くなっていって、鳥の声がまばらに聞こえ始めました。
「もう……朝、」
私は一晩中、自分を慰め続けていてしまいました。私は絶頂の余韻で甘く痺れる体に鞭打って、立ち上がります。鏡を見ると、
「そんな……」
そこには私とは思えない、頬を上気させた女の顔が。それはお母さまの顔に似ていました。驚いた私は思わず跪いて主への祈りを捧げます。
ーー 天にいます主よ。
ーー今日も淫らの魔の手から我が身を守る、加護をお与えください。
私は主の加護が体に満ちるのを感じました。それに私はホッとして、さらに祈りを続けます。しかし、祈りを捧げているはずの私の頭に浮かんでくるのは……。
いけません。私は頭を振って、シャワーを浴びる事にしました。
浴室の前で、
「どうしたの? 珍しいわね」お母さまに話しかけられました。ダークヴァルキリーとなって、性に奔放になったお母さま。先ほどの私の顔に似ていた……。
「汗をかいてしまったので、シャワーを浴びようと思ったのです」
「ふぅーん」
と、お母さまは形の良い鼻をヒクつかせ、
「そういう事にしておいてあげるわ」
何やらニンマリと笑って立ち去りました。
…………その反応がむしろ怖いです。
私がシャワーを浴びて、リビングに行くと、
「な、ななな、何を……」
「何って、別にご飯を食べているだけじゃない」
お母さまはシレッと、お父さまの膝の上に乗って口移しでご飯を食べさせていました。
「流石にこれは刺激が強すぎるんじゃないのか?」
お父さまは少し躊躇いがちでしたが、お母さまは何食わぬ顔。お母さまは食べさせている側ですからそれは仕方がないかもしれませんが。
「え、エッチィ事はいけません……」
私は頬を染めて目を逸らしただけでした。
私がその光景に抱いた思いは……恥ずかしいではなく、うらやま……いいえ! そんな事思ってはおりません……一体私はどうしてしまったというのでしょう。
朝食が終わって部屋に戻り、私は跪いて、今日の試練を主に問いかけます。
昨日は下着をはかないという試練でした。だから今日はもっと……。私は期待している事に気がつかないで、待ちます。
しかし、
「しゅ、主よ……どうして、何も語りかけてはくれないのですか……」
今日はどうした事か、主のお言葉がありません。
そこで私はまさか、と思います。
「まさか、私が昨日の試練を乗り越えていないから、主は……。彼に私のノーパンを見せなければ、もう私に語りかけてはくれないという事なのでしょうか……」
私は決意しました。スカートの中に手を入れ、パンツを脱ぎ捨てます。
「彼に、見てもらいます」
決意を口にすると、また、私の下腹部が、キュンとしました。
◆
「見て、ください」
これはどういう事だ。
僕はリーナさんに体育用具室のマットの上に押し倒されて、乗しかかられている。薄暗がりの中で彼女の白い肌が蛍光灯に反射している。金髪は自ら仄かに光っているようで、まるで闇に潜む肉食獣の瞳が輝いているよう。
僕は生唾を飲み込む。
正攻法で彼女に好きになってもらう。そう決めた僕は、今朝は天の声を使用しなかった。
学校の下駄箱で出会った彼女に「おはよう」と言って、彼女は「おはようございます」と返してくれた。その時の彼女の少し驚いた顔と、少しだけ赤みを帯びた頬が気になったけれど、彼女のシャンプーの匂いから、きっと朝シャンのせいだ、と思う事にした。
そのまま微妙な距離で廊下を歩く、と思っていたのに、彼女は僕の隣に並んで、周りの生徒からの視線に僕はいささか怖気づきもした。
そうやって友達から距離を縮めて行く。
そう思っていたのに。
「昼休み、体育館に来て下さい」
教室に入る時、僕は彼女にそう告げられたのだった。
そして今に至る。
「ど、どういう事……」
僕はあまりの状況に『混乱』している。彼女の重みが腹の上に乗っている。だけど、それだけじゃない。何だか、濡れきてもいるような……。
僕は再び唾を飲み込む。
「ダメ……なのです」
「何が……」
「私は主の試練を乗り越えてはおりませんでした。だから主は、私がこの試練をやり遂げるまで、私に声をかけてくれないのだと思います。だから、私のノーパンを見てください」
彼女は上から懇願するように言った。
言葉を返すことの出来ない僕をよそに、抵抗されない事を了承と取ったのか、彼女は立ち上がり、そのはいていないというスカートで、僕の頭の方に……。
僕は流れのままにゴクリと唾を飲み込むが、昨日の光景を思い出して、そして僕の決意を守るために目を固くつぶった。
『フラッシュ』『効果がないようだ』
「わ、私……見られて、」
頭上から降ってくる彼女の言葉に、僕の股間は強制的に『固くなる』を使わされてしまったが、大丈夫バレていないはずだ。
しかしそのうちに、
「あれ、その膨らみは……」
と、僕の股間の方から声が聞こえた。
……待ってくれ。顔に触れているスカートの布らしき感触と、その顔の位置。目をつぶっている僕には分からないが、彼女は大変な格好をしている気がする。というか、何か、垂れて来ているような……。
僕は誘惑に抗いきれずに薄目を……。
『フラッシュ』『効果はバツグンだ』
「ぎゃあああああああああああ!」
「きゃあ!」
僕は悲鳴をあげて彼女を跳ね飛ばして転がった。
考えてみてほしい。昨日はスカートを捲り上げた状態で視界が真っ白になった。今回は至近距離で、しかも彼女のスカートによって光量は収束されていた。
それはまさに『ソーラービーム』。
あまりの威力に僕は、意識を手放す事になってしまった。
◆
わ、私はなんて事をしてしまったのでしょうか……。
ノーパンを見せて、彼を気絶させてしまうだなんて。……いいえ、今の感じは昨日と同じ。また主の加護が働いて、彼に私のノーパンを見せる事ができなかったようです。
「主ェ……」
ハッ、今、私は何を口走ってしまったのでしょうか。私は口元を押さえます。私の主への信仰心が揺らいでいる……。
いいえ! そんな事はありません。私は敬虔なる主の信徒。そんな事ありません。私は懺悔の気持ちから急いで主への祈りを捧げようとします。ですが、それは叶いませんでした。
「あ……まだ膨らんでる……」
私の目を惹くものがあったからです。それは、彼の股間で窮屈そうに自己主張していて……。
私はゴクリと唾を飲み込んでしまいした。
い、イケマセン! エッチィことはいけないのです。ですが、だからこそ惹かれ……。
ーーやっちゃいなよぉ、ユー。
「は、っはい!?」
誰かの声が聞こえました。私はこの場に他の誰かがいないかと辺りを見回しますが、誰もいません。その声は、私の頭の中に聞こえてくるようでした……。
「まさか、主……。ですが、前と声が違うような……」
ーー疑うの?
「いっ、いいえ! そんな事ありません!」
私は急いで跪き、主に対してこうべを垂れます。ちょうど彼の股間に向かっているのに他意はありません。
ーー君に新たな試練を与えよう。
「はい……」私が神妙にその言葉を待つと、
ーーゴニョゴニョ。
「えっ! そ……それは……」
私は主の言葉に、彼の股間を凝視してしまいます。
ーー出来ないって言うの?
「そ、そんな事は……」
私は口ごもりながら、心はすでに決めていました。
そうして私は、彼のベルトに手をかけたのでした。
◆
僕が目を覚ますとそこは学校の保健室だった。
見回せば、
「よ、よかった……目を覚ましてくれて……ナニをしても目を覚まさなかったから……。もうこのまま起きないのではないかと……」
彼女のホッとした顔が目に入った。
それは僕も遠慮したい。女の子のスカートの中を見て聖なる光で殺されてしまったなんてーーこの場合は性なる光?ーー死んでも死にきれない。
「体におかしなところはありませんか?」
「大丈夫。ちょっとだけまだチカチカしてるけど、問題はないよ」
「ごめんなさい。暴走してしまって……ごちそうさまでした(ボソッ)」
?
最後に小声で何か聞き捨てならない事を言った気がしたけれども、僕にはちゃんと聞こえなかった。
「僕を運んでくれたんだね。ありがとう」
「はい……でも、元はと言えば私が悪いのですし……」
「違う! 君は悪くない!」
思わず声を荒げた僕に、彼女はビクリと肩を竦ませた。そして、少しだけ寂しそうに笑った。それはまるで、何か罪悪感を押し殺すような笑い方で……。
「優しいんですね……」
ポツリとそれは、雫のように。何だか涙のようにも思えた。
「ど、どうしたの……」
「いいえ、何でもありません……」
彼女は彼女らしからぬ様子で、気落ちしているようだった。そんな彼女を放っておけるわけがない。僕は急いでベッドから立ち上がる。
「きゃあ!」「え?」
手で顔を覆った彼女とスースーする下半身を見れば、僕の息子が顔を見せていた。
「ご、ごめん!」
僕は急いでベッドに戻る。え? 如何して僕のズボンは脱げているのだろう……。それに、リーナさん、指の隙間から見てたよね。
と、僕はベッドの中にあった自分のズボンを見つけてはく。どうやら寝ている間に脱げたようだ。ベルトをしていたから簡単に脱げるはずがないのだけど……彼女に息子を見られて動転していた僕が、実はパンツをはいていない事に気がつくのは家に帰ってからである。
少し下半身がスッキリして事が気になりはしたけれども、彼女が心配だった僕は彼女を家まで送ってあげる事にした。夕暮れ時の帰り道、彼女の家は僕の家の反対方向だった。こんな状況を誰かに見られたら、噂になる事は間違いない。柄にもない事をしていることもあって、僕の心の許容量は破裂寸前だったというのに、その途中で、彼女はとんでもない事を言い出した。
「私のノーパンを見ていただけるよう、訓練に付き合ってはいただけないでしょうか?」
「ふ、ふぇええええ!?」
素っ頓狂な声を上げる僕に、
「か、勘違いしないでください。私はあなたに見せたいわけではなく、主に授かった試練を乗り越えなければいけないためです!」
「え……?」
そうだった。そういう設定だった。彼女の言い分に、僕の心には抑えきれない罪悪感が募り、それは、溢れ出した。
「ごめん……それは、天の声じゃなくて、僕の声なんだ……」
耐え切れなくなった僕は、彼女に僕の仕出かした事を告白した。
まもむすGOというアプリの事。彼女がヴァルキリーだと知っているという事。天の声という機能の事。それを使って彼女にエッチな試練を与えていた事。それでも心を改めて昨日から使っていないという事。
初めは驚いていたけれども、
「許しましょう」
彼女は僕の告解に、そう返してくれた。
「ごめんなさい。僕は酷いやつだ」
彼女は首を振った。「いいえ。その罪を認めて告白したあなたはすでに、悪人ではありません」
その言葉に、僕は救われた。そして彼女は僕にまだ友達でいてくれる事を許してくれた。
でも、その後の言葉に、僕は驚く事になる。
「ですから、私があなたにノーパンを見せられるようになるための訓練に、改めて付き合ってくれませんか?」
「え……だから、それは僕の悪戯だったって……」
「いいえ。確かに初めはそうだったのかもしれません。ですが、私には今も主の声が聞こえているのです。ですから、こちらは本物に違いありません」
その言葉に僕は、彼女の瞳をまじまじと見た。彼女が嘘を言っているようには見えない。それに、ヴァルキリーにはもともと天の声が聞こえる、と僕はアプリの説明で読んだ。
夕日を浴びてきらめく彼女の金髪は赤く染まって、彼女の色白の頬も赤く染まっている。それは夕日のせいだけじゃなくて、彼女の瞳には、夕日の色とは違う、何やら怪しい光があった。
「お願い、……できませんか?」
彼女のあだっぽい、といえる仕草に、僕は頷くしかなかった。
彼女を家まで送り届けて、「上がっていきませんか?」と聞かれたけれども、さすがにそれは辞退した。僕にそんな度胸はまだない。残念そうな色を浮かべているように見えたのは、きっと僕の思い上がりだろう。
帰ろうとして、ふと、僕は気になってアプリを起動させて見た。チラッと窓から彼女が見えたので、さりげなく画面に写してみる。
「なん……だ、これ……数値が変わってる……」
そこにあったのは、もうゼロに近いDP(ディフェンス値)とKP。そんな、昨日まで彼女のKPはマイナス53万だったはずなのに、一体ナニがあったんだ……。
そんな数値だというのに、普段と変わらない様子の彼女に、僕は喜びよりも、うそ寒い思いを抱く。まるで、開けてはいけない扉を開けてしまったのではないだろうか、と。
◆
部屋に入って私は、へたり込みました。
彼とともに歩んだ帰り道。平静を装いつつも、私の心はただれ続けていました。
「酷いのは私の方です……私は、なんという事を……。しかし、主が……それを望まれたのです……」
主よ、知っているとは思いますが、
私は彼のパンツを盗みました。それは私のカバンの中に入っています。
さらに私は彼の股間のものを口に含み、彼のモノを飲みました……。
彼の感触と味が口に残っていて、私はウットリとします。また、下腹部に切ないしめつけが……ですが、今はもう、私はこれが欲しくて堪らなくなっています。
私は一体どうしてしまったというのでしょうか。
それに、彼のあの告白。
彼は私がヴァルキリーだと知っていた。そして、私にはエッチィ悪戯を仕掛けていました。
以前の私であれば、憤り、彼をなじっていたでしょう。
ですが、先ほどの告白で私が感じたのは、私をヴァルキリーだと知り、好きにできる道具を持っていたのに使わず、まっすぐに私に好きなってもらおうとした彼の心に対する嬉しさ。まさに彼は話に聞く勇者のようになろうとしていたという感動。
そして、私が彼に弄ばれていたという事実へのーー恍惚感。
あの時の私は、彼にバレてしまうのではと思うほどに股間を濡らし、切ないしめつけに耐えていたのです。
本当に、私はどうしてしまったというのでしょう。
あろう事か、私は彼のパンツを使って私を慰め出します。
彼に私のノーパンを見せるのだという訓練の協力までお願いして……。もしもそれが叶った時、主は私にどんな試練をお与えになるのでしょうか。私はそれが待ち遠しくて……いいえ、エッチィことは……いけませんよ? これは淫らの魔の手からこの身を守るための試練なのです。
試練なのだから、仕方がありませんよね?
ーーそう、仕方がない。それで、君はどんな試練を望むの?
私は、私が望む事はーー。
「彼とエッチィことがしたいです」
「じゃあ、それを試練にしよう」
その声の主は、だらしなく目も口も歪ませた私の口。ですが、それに私は気がつきません。
「まずは私のものを見てもらえるように……。ですが、どうしたら……」
「そんなの君が分かっているでしょう? 見えなければいいんだよ」
「見えなければ、そう。見えなければ……ふ、うふふふふ」
きっと、私の何かが吹っ切れたのは、そこだったのだと思います。それはまるでガラス玉が砕けるように。
◆
「訓練って、どんな事をするの?」
僕は再び昼休み、体育用具室に呼び出された。
彼女の様子を気にしていたのだけれど、僕の懸念は杞憂に過ぎなかったようだ。
彼女は僕を押し倒すこともせず、真面目に立っている。また向こうから無理矢理見せられたら、今度こそ僕の目は潰れてまう。そんな恐れすらあった。
でも、彼女はすすす、と音も立てずに僕に近寄ってきて……そっちの方が怖いような……。僕に体を密着させた。
「え……ぇえええええ!?」
あまりのことに僕は『混乱』させられた。
僕とあまり背の変わらない彼女の、柔らかさに包まれる。彼女の手は僕の背中に回されて、甘いシャンプーの香りも、彼女の体温も、吐息、ふくよかな胸。彼女の腕に力がこもり、そうした女の子という感触が、より僕に押し付けられる。
僕の股間が反応しないわけがなくて、それはおそらく今もはいていないだろう彼女のスカートに押し付けられて、グイグイと。女の子というか、女性の感触まで僕に押し付けられる。僕は慌てて腰を引こうとするのだけど、彼女はむしろ腰を強く押し付けてきて……。
「リーナさん、マズイよ……」
「何もマズくはありません。これは訓練です。訓練なので問題はないのです」
「いや……これは訓練というより……」
むしろ本番な気がする。
僕の耳元に聞こえる彼女の吐息はくすぐったく、それに、湿っぽい気がした。彼女の鼓動が直接伝わってくるようで、ということは僕の鼓動も彼女には伝わっているはずで……。
「興奮、してくれているのですね」
耳元で奏でられたそれは、僕の背筋をゾクゾクと震わせてきた。僕の股間は否応なしに硬さを増して、彼女はさらにスリスリと。僕に腰を押し付ける。
「主は私に言われました。見せて訓練が出来ないのならば、見せずに訓練すればいいのだと。だから、まず触れて……。交わって、そこまですればきっと、あなたに見せることが出来ると思います」
交わって……!? 今、なんとおっしゃいました!?
いつの間にか僕は壁に押し付けられていて、ヴァルキリーで運動部の彼女を僕が振りほどく事などできるわけもなく、彼女は片手で僕の股間に手を伸ばし……まるで手慣れた動作で僕の息子を取り出した。まるでやった事のあるような……。
彼女はそんな人じゃなかったとは思うのだけど、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「ちょ、ちょっと……」
「嫌……ですか?」
…………それはずるいと思う。リーナさんのような金髪青目の女の子から、上気した頬、そんな上目遣いで見られて仕舞えば、嫌と言えるわけがない。というか、そもそも嫌ではないし、というか好きですし……。
「嫌がってないからやっちゃいなよ」
声が聞こえた。誰の声かは決まっている。リーナさんだ。
「はい。主よ。お心のままに」
リーナさんは、自分で自分と話していた。
まさか、と僕は思う。
「リーナさん、それは違う。それは天の声じゃない」
僕の言葉に、彼女の手がピタリと止まった。
「いいえ? 主の声ですよ。まさかあなたは私には主が声をかけるわけがない、と思っているのですか? ヒドイ……」
「ち、違……」
「ヒドイよ。それならもう一思いにヤっちゃうしかないね」
「そうですね」
リーナさんの手が僕の息子に添えられて、もう片方の手は自分のスカートの中に入っている。ヤっちゃうっていうのは、もちろんそういう事だろう。
それはマズイ。そんな、自分の声を主の声と勘違いしているような状態で、僕も彼女としたくない。というか、そもそもまだ僕の心の準備がですねぇ!
「いやいや、だからソレ、リーナさんが自分で言っている声ですよ! だって、僕にだって『一思いにヤっちゃうしかないね』ってリーナさんが言うのが聞こえたし」
「え……」
リーナさんは驚いた顔をして、それでもその手の動きは止めなくて、
「やっぱり」と言って、淫らに笑った。
「これは私の声だったのですね。あなたとエッチィ事をしろという、エッチィ事をしたいという。主の声ではない」
「う、うん……」僕は頷く。
「だから、私はあなたとしたいのです。私の意思で。だから、大人しく、訓練させてください?」
金色だった彼女の髪が青白く染まっていく。輝くように白かった肌も、闇に馴染む青白い肌へ。僕の前で、清廉そのものだった彼女が、淫靡な笑みを浮かべて、別のものになっていく。
カツン、と。僕のスマホが落ちてアプリが起動する。薄暗がりに、電子的な光が輝く。
彼女のステータスにはダークヴァルキリー、DP(ディフェンス値)0、K(カルマ)値53万。自撮りモードで映った映像はーーちょうど、彼女が僕を飲み込むところだった。
ーーダークヴァルキリーにgetされたぜ!
◆
私はダークヴァルキリーになってしまいました。
お母さまと一緒の淫らな存在。
朝、私がリビングに降りると、もはや私に咎められる事のなくなったお母さまがお父さまの膝の上に乗っています。それでも二人は服を着ています。
「おはようございます」
「おは……っ、ようっ」「おはよう〜、ン、ッふ」
お母さまのスカートの下からはくぐもった水音。お食事中です。羨ましいとは思いますが、私は昼食でいただけるからいいのです。
「リーナ、彼とは順調?」お母さまが尋ねます。
「当たり前です」
「それはよかった」
「今度、連れて来なさい」とはお父さま。「彼には、ダークヴァルキリーの夫となる心構えを伝えておかなくてはいけない」
それは娘の彼氏に会わせろという父親の顔ではなく、これから戦場をともにする戦友に会おうとする戦士の顔でした。私が頷くと彼は深く頷き、果てたようでした。
朝食を取り終えた私は部屋に戻ります。ダークヴァルキリーとして肌の色が変わってしまった私は、外に出る前には以前の姿に化けます。今の姿はより魔物らしいですし、委員長がグレた、と思われてしまっては心外です。私の学校には、魔物娘の事をしらない人間も通っているのですから。
みんな、魔物娘になればいいのに、と今の私は思います。
エッチィ事は、いいことです。
私は跪いて、私の主(あるじ)に祈りを捧げます。
ーー家にいます主(あるじ)よ。
ーー今日も淫らなあなたの手から我が身を辱める、プレイをお与えください。
そうです。あのアプリの天の声機能は、付き合い始めた私たちのプレイのかっこうの材料として使用されていました。私は彼の天の声によって、今日も辱められるはずです。しかし、私がリードしないと、彼はあまり過激な事をしてくれません。それが、残念です。きっと、今日だって、
ーーリーナさん、今日こそはちゃんとパンツはいて登校してください!
「嫌です。あなた以外に対する防壁はまだ健在ですから、何も問題はありません。それよりも、私、今日はお散歩プレイをしたいのですが、首輪と鎖も買いました」
その言葉に、彼はどうやら絶句したようでした。ですが、私を攻略した責任は、ちゃんととってもらわないといけません。何せ、アプリはアフターフォローも万全なのですから。
17/08/27 23:04更新 / ルピナス
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