強者どもが夢の……
「うぅう……。なんだよ、こし餡の方はよくて粒あんは恐いって……。
ああ、それにしても。諸君は何とか云ってたものだ。僕はボンヤリ思い出す。彼女は実に何かカカ云ってゐたっけ……」
あまりの衝撃に俺はどこかの詩人のような昏睡状態から醒めた。
ハッと、目に飛び込んで来たのは見知った天井。
ここは俺の部屋だ。
俺は何か名状のし難い夢のようなものを見ていた気がする。
俺は確か昨日ーー
1.白峰会長主催の妖怪会議でオドロとヤっていた。
2.つらみとの間に三人目の子供が生まれた。
>1
そうだ。そうだった。
その後、倒れた会長の介抱を皆に任せて家に帰って来たはずだ。
今何か奇妙な間があった気がするが、気にしてはいけない気がする。
俺は着替えて大学に向かう。
随分久しぶりな気がする。新鮮な気持ちで通学できるのは良いことだ。
と、路地がある。まるでずっと前の出来事のように思えるが、いつかオドロが這い出して来たベッド下の隙間じみた路地だ。まるで何処か別の世界に通じているような、路地から陽炎のような闇が染み出して来ているような気がする……。
1.ちょっと覗いて見る。
2.やめておこう。
>1
何か袖を引かれるような、引き止める感覚を覚えたが、俺は気にせず路地裏を覗き込むことにした。
そこにはーー
「……もしかして、さなえちゃん? 君は死んだはずじゃ……」
なぜだかこの台詞は以前にも言ったことがあるような気がするが、そこにいたのは、幼い時に生き別れたはずの幼馴染、大塚さなえちゃんがいた。彼女は亡くなったその時の見た目でーーだが、その姿はまごうことなき青白い死者の肌をして、彼女は真実死んでいた。
「ハッ、ゆう……ちゃん。今回は、私を選んでくれたんですね……」
彼女は悲しそうで困ったような、それでいて嬉しそうな顔をして、俺に抱きついて来た。
その体温は冷たくて、俺の体温を奪っていくような気がした。
それでも求められた俺は、彼女を抱き返さなければいけないのだと思った。
「あぁ……あぁ」と呻くような声とともに、彼女はその幼い肢体を俺に押し付けてくる。
剣道が得意だった彼女は、落武者という魔物娘になったらしい。
「許されないことだとは分かっております。しかし、しかし私は……あなたをお慕い申し上げております。ここであなたが私を選んでくださったことは、僥倖であり、そして取り戻せない不幸です。ですが、ですが……許されるならば今一度のお情けをーー」
そう言って彼女はその幼い瞳を潤ませて、上目遣いに俺を見てくる。ツンと唇を突き出して、求めてくる。
俺は彼女の切実な懇願を断れることなく、彼女の唇に唇を重ねた。
路地裏はヒンヤリとしている。
まるでここが、彼女が今まで眠っていた墓場だったかのように。
青白い肌の彼女が俺の体にしがみついてくる。薄くとも、仄かに自己主張する胸が俺の胸に押し付けられている。浅い息を吐いて、彼女はトロンとした女の瞳で俺を見ている。
今、俺たちは裸で立ったまま抱き合っていた。
路地裏はまるで閉ざされた別世界のようだ。
朝の人通りはあるはずなのに、ここには何も音は届かない。ひっそりとしている。
ここ以外の世界が、可能性が、閉ざされたような気さえしてくる。
「お願いします」
そう言って壁を背にして彼女は小さな秘裂を押しひらく。まるで、ようやく咲くことを許された、墓場のシロツメクサのようだった。
「大丈夫?」
そう言って俺はかがみ、その華を間近で見る。そうして摘み取るように指で触れる。
「ああ、そんなご無体な……」
声には艶が混じる。
彼女の中は冷たくて、それでもしとどに濡れた女陰は火傷をするほどアツイのだと思った。
俺ははちきれそうになっている股間の怒張を彼女の入り口にあてがう。そうして亀頭を沈める。彼女のナカはキツくて、これ以上入れるのは憚られた。
しかし彼女は
「そのまま、一気に……あなたを私に刻みつけてくださいませ」
そう言って片足を上げて俺の腰に巻きつけてくる。
はっはっ、という濡れた吐息が俺を急かしてくる。
彼女の懇願に、一気に貫けば
「ヒギィいいッ!」
女の啼き声が上がる。
「だ、大丈夫か?」
俺は慌てて抜こうとするが、回された彼女の足がそれを許してはくれない。
「だいっ……じょうぶ。だから、気に……せず。動いて。私を、壊して……ッ」
切実な彼女の声音は、俺に考えることを許してはくれなかった。
俺は彼女の深いところまでイチモツで刺し貫き、抽挿を繰り返す。
まるで途切れ途切れの木琴のような音色で、彼女は喘ぐ。
コロコロと、転がるような……。
その体を俺は官能で揺さぶる。
だが、彼女ももちろんされるがままではない。その小さな膣で俺をきゅうきゅうと締め付けて、射精を促してくる。
俺は彼女の喉に舌を這わせる。
青白い冷たさは、彼女の時が終わっていることを俺に教えてくれる。
どうして彼女はこんなにも、申し訳なさそうな顔をしているのだろう。
自分が受け取ることを悦びながら、素直に喜べない表情。そうであるくせに、体だけは俺を貪欲に求めて。
「ぐっ、」
「ぁああッ」
俺は彼女の子宮口にこれでもかと鈴口を押し付けて、子種を吐き出す。
彼女の消え去った体温を俺の体温で肩代わりするように。
亡くした彼女の命を新しく宿すように。
吐き出し切った俺は、彼女から俺を引き抜く。
彼女の小さな女性器から、グロテスクな男根が現れる。
彼女はそれを見て満足そうに微笑むと
「今度は私を選ばないでくださいね」
そう言ってーー消えた。
「え?」
俺はまだいきり立ったままのチンポをさらけ出したまま、間抜けな表情で立ち尽くしていた。
どういうことだか分からない。
俺は何か、致命的な間違いを犯した気になって……。
そこで意識は溶暗(フェードアウト)した。
ーーThe end of lost childhood
◆
聞いたことのある声が聞こえる。
オドロの声だ。
ーー旦那がそうであるのは悦ばしいンだけどネェ。
恨みがましさを感じさせる声音。
何が、何が起こっている?
ーーま、イイサ。満足するまで抱くといい。満足するまで貪るといい。あたしはいつまでも諦めないからサ。
何だ。どういうことだ!
オイ! 答えろオドロ!
俺の声にならない声は闇に溶け、その先に見えたのは真っ白なーー
◆
俺は目を覚ました。
ここは……。
1.実家の俺の部屋だ。
2.今の俺の部屋だ。
>1
「起きましたか? ゆうくん」
「……母さん」
俺の前には毛娼妓だという育ての親がいた。
彼女は長い長い髪を垂らし、心配そうな顔で俺を覗き込んできていた。
「突然倒れたのでビックリしましたよ」
そう言って彼女は俺の額に額をくっつけて来る。
「うーん、まだ熱がありますね」
美しい彼女の顔が間近にある。婀娜っぽい彼女の泣き黒子が目に入る。彼女の垂れ下がった髪からは、彼女の甘い香りがする。
「ちょ、ちょっと近いって」
俺は慌てて彼女から離れるが、クラリ、として仰向けに倒れてしまう。
その時に彼女の長い髪を引っ張ってしまったようで、彼女が俺にのしかかっていくる。
そして俺の手は彼女の胸にあたり、彼女の手は俺の股間に。
「ご、ごめんッ」
そう言って俺は手を離すが、彼女は俺の股間に手を置いたまままだ。
「えっと……母、さん?」
彼女は艶やかな唇で微笑む。
「ふふふ。まだまだ子供のくせに、ここだけは立派で……。私に反応するなんて、これは将来が楽しみですね」
彼女は俺の股間を撫で摩る。
「や、やめっ」
そう言うが、俺の力では彼女を引きはがせない。
妖怪の彼女はこんなに力持ちだったのか……。いや、俺がーー小さくなっている?
俺の手は縮んでしまったかのように小さい。まるで紅葉のような手だ。
「えっと、俺は何歳?」
俺がそう尋ねると、彼女は怪訝そうな顔をする。そうして股間から手を離す。
「大丈夫ですか? あなたは10歳でしょう」
「10歳!?」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。
年齢が二分の一ほどになっている……? 俺は先ほどまで大学生だったはずだ。大学生で……オドロに出会って……。
「母さんは、妖怪だよな?」
俺が尋ねると、彼女はハッと口を抑える。
「ど、どこでそれを……あなた、それを知ってしまったの?」
俺は頷く。「でも、大丈夫だ。俺は母さんに育ててもらって良かったと思ってる」
そう伝えれば、彼女は涙ぐみ、「ああ、ああ」と、言葉にならない声を出す。そうして
「でも、酷いです。あなたは勝手に大人になってしまったようで……」
彼女は何かに気がついたようで。形のよい鼻をヒクつかせる。
「ああ、そう言うことですか……。それは嬉しくも、悲しくもありますね」
そう、彼女は奇妙な表情で笑っていた。
彼女は立ち上がると、台所へ向かう。
「それならそれで愉しみましょう……」
そんな言葉が聞こえたような気がした。
どうして俺はこんなところにいる? そしてどうして小さくなっている? これは、あれが原因なのだろうか……。あの、さなえちゃんとシたから、俺は彼女と別れた時分に近いこの時代に飛ばされたのだろうか。これは、夢、なのだろうか。
俺は、俺はーー。
俺は脳裏で黒い靄と白い体がせめぎあっている光景が浮かんだ。
彼女たちは一体、何をしているのだろう。
俺は立ち上がり、台所に向かう。懐かしい、いい匂いが漂って来る。
そうして台所を見れば、俺は愕然としたーー。
彼女は裸エプロンだった。
その姿で、 料理をしていた。
それは男の夢の一つだとは思うが、彼女の前面はエプロンで覆われ、背中は長い長い髪で覆われている。髪が揺れると、彼女のシミひとつない背中が、丸みを帯びた臀部が、チラチラと木漏れ日のように現れる。それは白と黒がせめぎ合う様子にも似ていた。
「何、してるんだ……?」
「何って、料理に決まってるじゃないですか」
彼女は何事もないようにそう言うと、俺を気にしないようにして料理を続ける。
だが、俺を気にしていないわけがない。
髪の間からチラつく彼女の耳は、赤い。
彼女の泣き黒子は艶やかで……。
その、羞恥と期待を込めた彼女の視線に俺はーー
1.彼女を後ろから抱きしめた。
2.きっとコレは彼女の炊事の姿で他意はない。
>2
>ンな、わけないだろぉッ!
>1
「ぁ……ゆう、くん」
彼女は俺になされるまま抱きしめられる。髪に覆われた体のしなやかさを感じる。彼女の髪からは柑橘の匂いがした。
しかし、10歳の俺の体は彼女の豊満な肉体を包み切ることが出来ず、俺はもどかしい思いを抱く。
俺の胸のあたりで、彼女の尻肉がやわやわと形を変える。俺は腰に回した手を放して、その肉を揉みしだくことにする。髪が指に絡みついてくる。シットリと濡れた彼女の肉と髪の滑らかさを感じる。
高い位置から女の濡れた声が落ちてくる。
「ダメ……今、料理してる、からぁ……」
そんな事を言っても、むしろ彼女の方からその厭らしい肉を俺の手に押し付けてくる。
放そうとしても髪が絡みついて、俺の手を尻から放さないようにしてくる。
その髪は俺の体に伸びて、服の隙間に入り込んでくる。
「ちょっと、母さッ」
「ごめんなさい。でも、そんな風にされたら私だって我慢できなくて」
彼女は料理の手を止める事なく、一緒に俺を料理してくるようだった。
ヒトの髪というものはとても強靭な素材である。
それが髪の妖怪でもある毛娼妓であれば、俺を弄ぶ道具としてこれ以上ないものだ。
「う、ぅあッ……」
彼女の髪は俺のズボンの中に入り込み、俺のペニスを弄ると、俺の弱いところを。
「やっぱり、ここが弱いのですね。ふふ。あなたを育てていればわかります」
そんな艶を含んだ女の声が、俺の肉をしごいてくる。
それはサラサラとして柔らかく、適度な締め付けで、髪でできたオナホールが俺のズボンの中で蠢いている。
「ああ、可愛いです」
見れば、料理を終えた彼女の瞳が俺を見ていた。
ざわざわと肉棒を這う感触に喘ぐ俺を、彼女は間近でその潤んだ瞳で見つめてくる。その頬は桜色に上気して、育ての親である彼女に見られているという背徳感に、俺の情欲は否応なく高まっていく。
彼女は俺の唇を奪う。
彼女の舌が侵入してくる。
「ッ……ぅ」
上と下の愛撫で俺の逸物はビクビクと震え、彼女の髪に盛大に白濁を吐き出した。
「ぁ……ああ」
俺は彼女に押し倒されて、パンツと一緒にズボンを降ろされる。
「ふふ。美味しいです」
彼女はまるでリンスのように俺の性液をその艶やかな髪に塗りたくり、それを口に含んで恍惚(ウットリ)としている。息子(オレ)を見る情欲に淀んだ瞳は、母のものではなく、一匹の牝(ケダモノ)のモノだ。
俺は彼女の顔に、背筋がゾクゾクとした。
それは背徳感を飲み込む肉欲の渦だった。
エプロンをズラしたところには、濡れそぼったソレがあった。
幼いはずの俺のチンポは、まごうことなく大人のソレで、彼女は髪を自在に動かして自分の肉穴にあてがう。
「大丈夫。私があなたを大人の男にさせてあげます。そして、私を女に……」
「え……? 母さ」
「んヒィ……ッ!」
と言おうとした俺の口からは雄の吠え声が上がった。彼女はヨダレを垂らし、牝の顔でよがっている。白いエプロンに彼女の純潔の証が付いている。
彼女は幼い俺に跨って、自らを貫いた結合の官能に身を震わせている。
俺自身を締め付ける、ギチギチという腟ヒダの感触。ゾリゾリと肉棒を擦り上げる、髪のような彼女の胎内。彼女は荒い息を吐いて、背中を丸めて快楽の奔流に押し流されまいとーー
その顔に、
「アヒィッ♡」
俺は彼女の中に腰を突き立てた。
彼女はまぶたをヒクヒクさせて、全身を駆け巡る快感に焦がされる。
パンッ、「ア”ッ!」と彼女の尻肉を俺の太ももが打った。
「ダメ、ゆうくん、私、おか……」パンッ「ヒグゥッ」
「どうしたの母さん。のしかかって来たのはあなたの方でしょ」
パンッ。「ア”ぁ”ッ……」
女はやはり俺の上でビクビクと体を震わせる。
「もしかして、イったの? 挿れてチョット腰を動かしただけで」
「そ、んなことありませッ……んぅッ!」
俺が彼女のナカをかき混ぜると、彼女はぽってりとした唇を戦慄かせる。
「どうしたの? 辛いなら、止める……?」
「意地悪……しないでください」
絶頂で焦点の定まらない瞳で
「私はそんな子に育てた覚えはありません」
と、嬉しそうに言った。
「じゃあ、どんな風に育ったか分からせてやるよ」
俺は下から彼女を容赦なく突き上げる。「あ”ッ、ひッ、ン、ギッ」何度も何度も。ゴリゴリと。ゴツゴツと。
彼女の豊かな乳房はエプロンの脇からこぼれ、可愛らしいピンク色の乳首が羞じらうように顔を見せる。弾けるように揺れる胸部に目を奪われているだけではいられない。
俺に嬲られるままでなく、彼女の腰は自ら蠢き始め、腟はキュウキュウと俺の肉を締め付け、その髪は俺の手足に絡みついて来ている。そのうち肛門にも。
「チョッ、そこは……」
「あッ、……。ハッ……。ちゃんと綺麗にしているか、私(母)が確かめてあげます」
「ぐァ……」
肛門に侵入してくる異物感。それはコリコリと俺の内部を探って、それを探り当てる。
前立腺。ゴリッ……!
あまりの快感に俺の視界は真っ白になって、彼女の中に滾った欲望を叩きつける。
彼女はあられもない叫びをあげて、その膣奥で俺の子種を余すことなく受け止めていく。
「あ……あ。息子の子種を頂いてしまいました」
彼女は蕩けた表情で俺を見て、唇を奪って来た。絡みつく舌が肉肉しい。
気がつけば、俺は彼女の乳房にむしゃぶり付いていた。
彼女の乳で育ったわけではないらしいが、とても懐かしく、暖かかくて柔らかくて、彼女の淫靡な汗の塩気がした。
「ゆうくん、私にもっと注いでください。注いで注いで。このお腹が妊娠してしまうくらいに。そして本当のお乳を出させてください。がーんばれ、がーんばれ。お母さんが見ていますよ」
そう言って俺たちは二匹のケダモノになって肌を重ね合い続けた。
自分のものかも分からない意識の中で、俺は……。
真っ暗な視界の中、まるで産道を通るような圧迫感を感じていた。
母さんの声が聞こえる。
「私を選んでくれてありがとうございます。だから、次は選ばないでください……」
そんな、慈しむような悲しげな声がーー。
◆
ーー目を開けば、そこは座敷牢だった。
「……え?」
俺はやけにリアルな彼女たちの肉の感触に戸惑う。俺は何て夢を見ていたんだ。
こんな夢を見ていたという事だけでも、彼女にバレたら何をされるか分かったものではない。
俺は焦燥感と、昏(くら)い欲望が一緒くたになった感情に苛まれる。
「あなた……」
底冷えのする声が聞こえた。
その声の主を探せば、愛しい妻がいる。
俺の妻、白蛇のつらみ。
彼女の様子を見れば、今から何を弁明しても無駄だろう。
何故なら、彼女は溢れ出た青白い嫉妬の炎でその身を包み、その炎で自らの服を焼き尽くしていた。赤の他人が見れば震え上がるに違いない姿だ。しかし、俺は彼女の夫であり、そんな妻の嫉妬を可愛らしいものだと思う。
やれやれ。俺は嫉妬深い我が妻のその情念を受け止めようと、両手を広げる。
三人目の子供を産んだというのに、彼女の嫉妬深さは変わらない。むしろ悪化しているくらいである。
いつから?
彼女とこの座敷牢で出会った時から。
俺の世界はここだけだ。
俺はふと考える。俺は元は人間だったはずだ。母がいて、幼馴染みだっていた事だろう。
だが、俺には座敷牢に入る前の記憶がない。あるのは、ここで彼女を求め、彼女に求められた記憶だけ。だが、それで十分だ。
嫉妬深くも彼女は可愛い。俺は彼女が好きだ。彼女を愛している。
それならそれでいいじゃないか。
もう、さっきまでどんな夢を見ていたかも覚えてはいない。
ギィ、と座敷牢の鍵が開く。
にょろりと彼女が入ってくる
薄暗い室内を青白い彼女の炎が照らしている。炎に照りつけられた彼女の肌は艶かしい。
その炎は俺と彼女の情欲を遮るものを全て焼き尽くす。黒い、影であっても……。炎に揺れる彼女の昏い瞳はどこまでも底の見えない井戸のようだ。
俺はきっと、その井戸に落ち込んでしまったに違いない。
俺はいつまで落ちていくのだろう。
俺はどこまで落ちていくのだろう。
しかし、それでもいい。
彼女がそこにいるのなら。
彼女とならどこまでだって落ちてやろう。
そうして俺は、彼女の炎に身を投げ出す。
俺の視界は青白い炎に包まれて、焼けてーー堕ちた。
ああ、それにしても。諸君は何とか云ってたものだ。僕はボンヤリ思い出す。彼女は実に何かカカ云ってゐたっけ……」
あまりの衝撃に俺はどこかの詩人のような昏睡状態から醒めた。
ハッと、目に飛び込んで来たのは見知った天井。
ここは俺の部屋だ。
俺は何か名状のし難い夢のようなものを見ていた気がする。
俺は確か昨日ーー
1.白峰会長主催の妖怪会議でオドロとヤっていた。
2.つらみとの間に三人目の子供が生まれた。
>1
そうだ。そうだった。
その後、倒れた会長の介抱を皆に任せて家に帰って来たはずだ。
今何か奇妙な間があった気がするが、気にしてはいけない気がする。
俺は着替えて大学に向かう。
随分久しぶりな気がする。新鮮な気持ちで通学できるのは良いことだ。
と、路地がある。まるでずっと前の出来事のように思えるが、いつかオドロが這い出して来たベッド下の隙間じみた路地だ。まるで何処か別の世界に通じているような、路地から陽炎のような闇が染み出して来ているような気がする……。
1.ちょっと覗いて見る。
2.やめておこう。
>1
何か袖を引かれるような、引き止める感覚を覚えたが、俺は気にせず路地裏を覗き込むことにした。
そこにはーー
「……もしかして、さなえちゃん? 君は死んだはずじゃ……」
なぜだかこの台詞は以前にも言ったことがあるような気がするが、そこにいたのは、幼い時に生き別れたはずの幼馴染、大塚さなえちゃんがいた。彼女は亡くなったその時の見た目でーーだが、その姿はまごうことなき青白い死者の肌をして、彼女は真実死んでいた。
「ハッ、ゆう……ちゃん。今回は、私を選んでくれたんですね……」
彼女は悲しそうで困ったような、それでいて嬉しそうな顔をして、俺に抱きついて来た。
その体温は冷たくて、俺の体温を奪っていくような気がした。
それでも求められた俺は、彼女を抱き返さなければいけないのだと思った。
「あぁ……あぁ」と呻くような声とともに、彼女はその幼い肢体を俺に押し付けてくる。
剣道が得意だった彼女は、落武者という魔物娘になったらしい。
「許されないことだとは分かっております。しかし、しかし私は……あなたをお慕い申し上げております。ここであなたが私を選んでくださったことは、僥倖であり、そして取り戻せない不幸です。ですが、ですが……許されるならば今一度のお情けをーー」
そう言って彼女はその幼い瞳を潤ませて、上目遣いに俺を見てくる。ツンと唇を突き出して、求めてくる。
俺は彼女の切実な懇願を断れることなく、彼女の唇に唇を重ねた。
路地裏はヒンヤリとしている。
まるでここが、彼女が今まで眠っていた墓場だったかのように。
青白い肌の彼女が俺の体にしがみついてくる。薄くとも、仄かに自己主張する胸が俺の胸に押し付けられている。浅い息を吐いて、彼女はトロンとした女の瞳で俺を見ている。
今、俺たちは裸で立ったまま抱き合っていた。
路地裏はまるで閉ざされた別世界のようだ。
朝の人通りはあるはずなのに、ここには何も音は届かない。ひっそりとしている。
ここ以外の世界が、可能性が、閉ざされたような気さえしてくる。
「お願いします」
そう言って壁を背にして彼女は小さな秘裂を押しひらく。まるで、ようやく咲くことを許された、墓場のシロツメクサのようだった。
「大丈夫?」
そう言って俺はかがみ、その華を間近で見る。そうして摘み取るように指で触れる。
「ああ、そんなご無体な……」
声には艶が混じる。
彼女の中は冷たくて、それでもしとどに濡れた女陰は火傷をするほどアツイのだと思った。
俺ははちきれそうになっている股間の怒張を彼女の入り口にあてがう。そうして亀頭を沈める。彼女のナカはキツくて、これ以上入れるのは憚られた。
しかし彼女は
「そのまま、一気に……あなたを私に刻みつけてくださいませ」
そう言って片足を上げて俺の腰に巻きつけてくる。
はっはっ、という濡れた吐息が俺を急かしてくる。
彼女の懇願に、一気に貫けば
「ヒギィいいッ!」
女の啼き声が上がる。
「だ、大丈夫か?」
俺は慌てて抜こうとするが、回された彼女の足がそれを許してはくれない。
「だいっ……じょうぶ。だから、気に……せず。動いて。私を、壊して……ッ」
切実な彼女の声音は、俺に考えることを許してはくれなかった。
俺は彼女の深いところまでイチモツで刺し貫き、抽挿を繰り返す。
まるで途切れ途切れの木琴のような音色で、彼女は喘ぐ。
コロコロと、転がるような……。
その体を俺は官能で揺さぶる。
だが、彼女ももちろんされるがままではない。その小さな膣で俺をきゅうきゅうと締め付けて、射精を促してくる。
俺は彼女の喉に舌を這わせる。
青白い冷たさは、彼女の時が終わっていることを俺に教えてくれる。
どうして彼女はこんなにも、申し訳なさそうな顔をしているのだろう。
自分が受け取ることを悦びながら、素直に喜べない表情。そうであるくせに、体だけは俺を貪欲に求めて。
「ぐっ、」
「ぁああッ」
俺は彼女の子宮口にこれでもかと鈴口を押し付けて、子種を吐き出す。
彼女の消え去った体温を俺の体温で肩代わりするように。
亡くした彼女の命を新しく宿すように。
吐き出し切った俺は、彼女から俺を引き抜く。
彼女の小さな女性器から、グロテスクな男根が現れる。
彼女はそれを見て満足そうに微笑むと
「今度は私を選ばないでくださいね」
そう言ってーー消えた。
「え?」
俺はまだいきり立ったままのチンポをさらけ出したまま、間抜けな表情で立ち尽くしていた。
どういうことだか分からない。
俺は何か、致命的な間違いを犯した気になって……。
そこで意識は溶暗(フェードアウト)した。
ーーThe end of lost childhood
◆
聞いたことのある声が聞こえる。
オドロの声だ。
ーー旦那がそうであるのは悦ばしいンだけどネェ。
恨みがましさを感じさせる声音。
何が、何が起こっている?
ーーま、イイサ。満足するまで抱くといい。満足するまで貪るといい。あたしはいつまでも諦めないからサ。
何だ。どういうことだ!
オイ! 答えろオドロ!
俺の声にならない声は闇に溶け、その先に見えたのは真っ白なーー
◆
俺は目を覚ました。
ここは……。
1.実家の俺の部屋だ。
2.今の俺の部屋だ。
>1
「起きましたか? ゆうくん」
「……母さん」
俺の前には毛娼妓だという育ての親がいた。
彼女は長い長い髪を垂らし、心配そうな顔で俺を覗き込んできていた。
「突然倒れたのでビックリしましたよ」
そう言って彼女は俺の額に額をくっつけて来る。
「うーん、まだ熱がありますね」
美しい彼女の顔が間近にある。婀娜っぽい彼女の泣き黒子が目に入る。彼女の垂れ下がった髪からは、彼女の甘い香りがする。
「ちょ、ちょっと近いって」
俺は慌てて彼女から離れるが、クラリ、として仰向けに倒れてしまう。
その時に彼女の長い髪を引っ張ってしまったようで、彼女が俺にのしかかっていくる。
そして俺の手は彼女の胸にあたり、彼女の手は俺の股間に。
「ご、ごめんッ」
そう言って俺は手を離すが、彼女は俺の股間に手を置いたまままだ。
「えっと……母、さん?」
彼女は艶やかな唇で微笑む。
「ふふふ。まだまだ子供のくせに、ここだけは立派で……。私に反応するなんて、これは将来が楽しみですね」
彼女は俺の股間を撫で摩る。
「や、やめっ」
そう言うが、俺の力では彼女を引きはがせない。
妖怪の彼女はこんなに力持ちだったのか……。いや、俺がーー小さくなっている?
俺の手は縮んでしまったかのように小さい。まるで紅葉のような手だ。
「えっと、俺は何歳?」
俺がそう尋ねると、彼女は怪訝そうな顔をする。そうして股間から手を離す。
「大丈夫ですか? あなたは10歳でしょう」
「10歳!?」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。
年齢が二分の一ほどになっている……? 俺は先ほどまで大学生だったはずだ。大学生で……オドロに出会って……。
「母さんは、妖怪だよな?」
俺が尋ねると、彼女はハッと口を抑える。
「ど、どこでそれを……あなた、それを知ってしまったの?」
俺は頷く。「でも、大丈夫だ。俺は母さんに育ててもらって良かったと思ってる」
そう伝えれば、彼女は涙ぐみ、「ああ、ああ」と、言葉にならない声を出す。そうして
「でも、酷いです。あなたは勝手に大人になってしまったようで……」
彼女は何かに気がついたようで。形のよい鼻をヒクつかせる。
「ああ、そう言うことですか……。それは嬉しくも、悲しくもありますね」
そう、彼女は奇妙な表情で笑っていた。
彼女は立ち上がると、台所へ向かう。
「それならそれで愉しみましょう……」
そんな言葉が聞こえたような気がした。
どうして俺はこんなところにいる? そしてどうして小さくなっている? これは、あれが原因なのだろうか……。あの、さなえちゃんとシたから、俺は彼女と別れた時分に近いこの時代に飛ばされたのだろうか。これは、夢、なのだろうか。
俺は、俺はーー。
俺は脳裏で黒い靄と白い体がせめぎあっている光景が浮かんだ。
彼女たちは一体、何をしているのだろう。
俺は立ち上がり、台所に向かう。懐かしい、いい匂いが漂って来る。
そうして台所を見れば、俺は愕然としたーー。
彼女は裸エプロンだった。
その姿で、 料理をしていた。
それは男の夢の一つだとは思うが、彼女の前面はエプロンで覆われ、背中は長い長い髪で覆われている。髪が揺れると、彼女のシミひとつない背中が、丸みを帯びた臀部が、チラチラと木漏れ日のように現れる。それは白と黒がせめぎ合う様子にも似ていた。
「何、してるんだ……?」
「何って、料理に決まってるじゃないですか」
彼女は何事もないようにそう言うと、俺を気にしないようにして料理を続ける。
だが、俺を気にしていないわけがない。
髪の間からチラつく彼女の耳は、赤い。
彼女の泣き黒子は艶やかで……。
その、羞恥と期待を込めた彼女の視線に俺はーー
1.彼女を後ろから抱きしめた。
2.きっとコレは彼女の炊事の姿で他意はない。
>2
>ンな、わけないだろぉッ!
>1
「ぁ……ゆう、くん」
彼女は俺になされるまま抱きしめられる。髪に覆われた体のしなやかさを感じる。彼女の髪からは柑橘の匂いがした。
しかし、10歳の俺の体は彼女の豊満な肉体を包み切ることが出来ず、俺はもどかしい思いを抱く。
俺の胸のあたりで、彼女の尻肉がやわやわと形を変える。俺は腰に回した手を放して、その肉を揉みしだくことにする。髪が指に絡みついてくる。シットリと濡れた彼女の肉と髪の滑らかさを感じる。
高い位置から女の濡れた声が落ちてくる。
「ダメ……今、料理してる、からぁ……」
そんな事を言っても、むしろ彼女の方からその厭らしい肉を俺の手に押し付けてくる。
放そうとしても髪が絡みついて、俺の手を尻から放さないようにしてくる。
その髪は俺の体に伸びて、服の隙間に入り込んでくる。
「ちょっと、母さッ」
「ごめんなさい。でも、そんな風にされたら私だって我慢できなくて」
彼女は料理の手を止める事なく、一緒に俺を料理してくるようだった。
ヒトの髪というものはとても強靭な素材である。
それが髪の妖怪でもある毛娼妓であれば、俺を弄ぶ道具としてこれ以上ないものだ。
「う、ぅあッ……」
彼女の髪は俺のズボンの中に入り込み、俺のペニスを弄ると、俺の弱いところを。
「やっぱり、ここが弱いのですね。ふふ。あなたを育てていればわかります」
そんな艶を含んだ女の声が、俺の肉をしごいてくる。
それはサラサラとして柔らかく、適度な締め付けで、髪でできたオナホールが俺のズボンの中で蠢いている。
「ああ、可愛いです」
見れば、料理を終えた彼女の瞳が俺を見ていた。
ざわざわと肉棒を這う感触に喘ぐ俺を、彼女は間近でその潤んだ瞳で見つめてくる。その頬は桜色に上気して、育ての親である彼女に見られているという背徳感に、俺の情欲は否応なく高まっていく。
彼女は俺の唇を奪う。
彼女の舌が侵入してくる。
「ッ……ぅ」
上と下の愛撫で俺の逸物はビクビクと震え、彼女の髪に盛大に白濁を吐き出した。
「ぁ……ああ」
俺は彼女に押し倒されて、パンツと一緒にズボンを降ろされる。
「ふふ。美味しいです」
彼女はまるでリンスのように俺の性液をその艶やかな髪に塗りたくり、それを口に含んで恍惚(ウットリ)としている。息子(オレ)を見る情欲に淀んだ瞳は、母のものではなく、一匹の牝(ケダモノ)のモノだ。
俺は彼女の顔に、背筋がゾクゾクとした。
それは背徳感を飲み込む肉欲の渦だった。
エプロンをズラしたところには、濡れそぼったソレがあった。
幼いはずの俺のチンポは、まごうことなく大人のソレで、彼女は髪を自在に動かして自分の肉穴にあてがう。
「大丈夫。私があなたを大人の男にさせてあげます。そして、私を女に……」
「え……? 母さ」
「んヒィ……ッ!」
と言おうとした俺の口からは雄の吠え声が上がった。彼女はヨダレを垂らし、牝の顔でよがっている。白いエプロンに彼女の純潔の証が付いている。
彼女は幼い俺に跨って、自らを貫いた結合の官能に身を震わせている。
俺自身を締め付ける、ギチギチという腟ヒダの感触。ゾリゾリと肉棒を擦り上げる、髪のような彼女の胎内。彼女は荒い息を吐いて、背中を丸めて快楽の奔流に押し流されまいとーー
その顔に、
「アヒィッ♡」
俺は彼女の中に腰を突き立てた。
彼女はまぶたをヒクヒクさせて、全身を駆け巡る快感に焦がされる。
パンッ、「ア”ッ!」と彼女の尻肉を俺の太ももが打った。
「ダメ、ゆうくん、私、おか……」パンッ「ヒグゥッ」
「どうしたの母さん。のしかかって来たのはあなたの方でしょ」
パンッ。「ア”ぁ”ッ……」
女はやはり俺の上でビクビクと体を震わせる。
「もしかして、イったの? 挿れてチョット腰を動かしただけで」
「そ、んなことありませッ……んぅッ!」
俺が彼女のナカをかき混ぜると、彼女はぽってりとした唇を戦慄かせる。
「どうしたの? 辛いなら、止める……?」
「意地悪……しないでください」
絶頂で焦点の定まらない瞳で
「私はそんな子に育てた覚えはありません」
と、嬉しそうに言った。
「じゃあ、どんな風に育ったか分からせてやるよ」
俺は下から彼女を容赦なく突き上げる。「あ”ッ、ひッ、ン、ギッ」何度も何度も。ゴリゴリと。ゴツゴツと。
彼女の豊かな乳房はエプロンの脇からこぼれ、可愛らしいピンク色の乳首が羞じらうように顔を見せる。弾けるように揺れる胸部に目を奪われているだけではいられない。
俺に嬲られるままでなく、彼女の腰は自ら蠢き始め、腟はキュウキュウと俺の肉を締め付け、その髪は俺の手足に絡みついて来ている。そのうち肛門にも。
「チョッ、そこは……」
「あッ、……。ハッ……。ちゃんと綺麗にしているか、私(母)が確かめてあげます」
「ぐァ……」
肛門に侵入してくる異物感。それはコリコリと俺の内部を探って、それを探り当てる。
前立腺。ゴリッ……!
あまりの快感に俺の視界は真っ白になって、彼女の中に滾った欲望を叩きつける。
彼女はあられもない叫びをあげて、その膣奥で俺の子種を余すことなく受け止めていく。
「あ……あ。息子の子種を頂いてしまいました」
彼女は蕩けた表情で俺を見て、唇を奪って来た。絡みつく舌が肉肉しい。
気がつけば、俺は彼女の乳房にむしゃぶり付いていた。
彼女の乳で育ったわけではないらしいが、とても懐かしく、暖かかくて柔らかくて、彼女の淫靡な汗の塩気がした。
「ゆうくん、私にもっと注いでください。注いで注いで。このお腹が妊娠してしまうくらいに。そして本当のお乳を出させてください。がーんばれ、がーんばれ。お母さんが見ていますよ」
そう言って俺たちは二匹のケダモノになって肌を重ね合い続けた。
自分のものかも分からない意識の中で、俺は……。
真っ暗な視界の中、まるで産道を通るような圧迫感を感じていた。
母さんの声が聞こえる。
「私を選んでくれてありがとうございます。だから、次は選ばないでください……」
そんな、慈しむような悲しげな声がーー。
◆
ーー目を開けば、そこは座敷牢だった。
「……え?」
俺はやけにリアルな彼女たちの肉の感触に戸惑う。俺は何て夢を見ていたんだ。
こんな夢を見ていたという事だけでも、彼女にバレたら何をされるか分かったものではない。
俺は焦燥感と、昏(くら)い欲望が一緒くたになった感情に苛まれる。
「あなた……」
底冷えのする声が聞こえた。
その声の主を探せば、愛しい妻がいる。
俺の妻、白蛇のつらみ。
彼女の様子を見れば、今から何を弁明しても無駄だろう。
何故なら、彼女は溢れ出た青白い嫉妬の炎でその身を包み、その炎で自らの服を焼き尽くしていた。赤の他人が見れば震え上がるに違いない姿だ。しかし、俺は彼女の夫であり、そんな妻の嫉妬を可愛らしいものだと思う。
やれやれ。俺は嫉妬深い我が妻のその情念を受け止めようと、両手を広げる。
三人目の子供を産んだというのに、彼女の嫉妬深さは変わらない。むしろ悪化しているくらいである。
いつから?
彼女とこの座敷牢で出会った時から。
俺の世界はここだけだ。
俺はふと考える。俺は元は人間だったはずだ。母がいて、幼馴染みだっていた事だろう。
だが、俺には座敷牢に入る前の記憶がない。あるのは、ここで彼女を求め、彼女に求められた記憶だけ。だが、それで十分だ。
嫉妬深くも彼女は可愛い。俺は彼女が好きだ。彼女を愛している。
それならそれでいいじゃないか。
もう、さっきまでどんな夢を見ていたかも覚えてはいない。
ギィ、と座敷牢の鍵が開く。
にょろりと彼女が入ってくる
薄暗い室内を青白い彼女の炎が照らしている。炎に照りつけられた彼女の肌は艶かしい。
その炎は俺と彼女の情欲を遮るものを全て焼き尽くす。黒い、影であっても……。炎に揺れる彼女の昏い瞳はどこまでも底の見えない井戸のようだ。
俺はきっと、その井戸に落ち込んでしまったに違いない。
俺はいつまで落ちていくのだろう。
俺はどこまで落ちていくのだろう。
しかし、それでもいい。
彼女がそこにいるのなら。
彼女とならどこまでだって落ちてやろう。
そうして俺は、彼女の炎に身を投げ出す。
俺の視界は青白い炎に包まれて、焼けてーー堕ちた。
17/08/06 08:50更新 / ルピナス
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