涼風秋水
「今夜は随分と月が高い」
誰に言うともなく呟いた私の体に、そっと風が吹きかかる。
本格的な秋に近づく季節の変わり目の風は冷たく、しかしどこか包み込むような柔らかさがあった。
それに揺られた草木がさわさわと音を立てる。
突然の微風に驚きでもしたのだろうか、庭の虫の音が小さくなった。
軽く目をやると、適度に刈り揃えられた草花、木々の間からひそやかに顔を見せる溜め池、周囲に馴染むように置かれた庭石。
どれも見慣れている風景だ。
しかし、このしめやかな夜色の中で煌々と輝く月に照らされる庭を眺めていると、普段とはまた一味違った詩情が感じられる。
季節だけでなく時間とともに刻々と姿を変えていくこの庭が、私は好きだった。
――まったく、いつ見ても飽きないものだな。
再び始まった秋虫たちの鳴き声に耳を傾けながら満足げにため息を漏らすと、再び空へと視線を戻す。
雲一つなく澄んだ漆黒の中に、ただ一つ淡い光を放つ孤月は、自然と目を奪われる美しさを湛えていた。
熟して膨らんだ木の実のような形を見ると、十五夜まではあとほんの数日といったところだろう。
ふと唐突に、庭先に植えてあるイチジクの木を思い出す。
あれが実るにはもう少しかかるだろうか。
紅く熟したものを口に入れた時のあの柔らかな甘さを思い出すとつい咽喉が音を立てた。
そのとき、またふわりと涼風が吹く。
草花を赤や黄の彩り鮮やかに染める気質を孕んだ風だ。
優しく腕を撫ぜる感触は冷たくも、心地良い。
だが、心地良さでいえば我が妻には到底及ばないな、という思いがふいと心の内に浮かんできた。
「旦那様。湯の用意ができましたよ」
偶然か、はたまた私の気持ちを気取ってか。
澄んだ女性の声に振り返ったその視線の先には我が伴侶が、初めからそこにいたかのように静かに佇んでいた。
遅い夕餉を終えた後、彼女には風呂の支度を任せていたのだ。
普段からそれぐらい私がやろうと言いつつも、『旦那様のため』の一点張りで頑として許してくれない。
夕餉の準備片付けに加えて湯張りまで家事の全て頼ってしまうのは申し訳ないが、
しかしその献身的なところに惹かれたのもまた、事実だった。
それにしても。
宵闇の中からほのかな月明りに照らし出された妻は、一目見ただけで息を呑むほどに美しい。
しっとりと水気を含んだ薄藍色の着物が張り付く柔肌は血の気を感じさせず、まるで陶器のように白く透き通っている。
触れれば壊れてしまいそうな儚さ、しかしそれでも優しく受け止めてくれそうな柔らかさを兼ね備えていた。
その白さを強調するように、艶やかな黒を湛える長い髪。
芸術品のように端正な顔立ちの中にも、少し垂れた目尻が愛らしさを醸し出していた。
――何度見ても美しいと思えるのはこちらも同じ、だな。
そんなことを考えると、ひとりでに小さな笑いが込み上げてくる。
もちろん彼女は庭と同じどころか劣るべくもないが、意外な共通点を見つけられたようでつい洒落じみた可笑しさを感じてしまったのだ。
「あぁ、分かった。今行くよ」
それを悟られないうちに返事をして立ち上がろうとした私の隣に、
妻が木張りの縁側を軋ませる音も立てずそっと歩み寄ってくる。
彼女の周りに漂う甘い香がふわり、と鼻まで届いた。
「何をしていらっしゃったのですか? ここにいては、旦那様のお身体が冷えてしまいましょう」
寄り添うようにして見上げるその表情には、夫の身を憂慮する色が浮かんでいた。
ただ夜風に当たっていただけなのだから、それほど心配する必要などないというのに。
内心半ば呆れるものの、本当は妻の優しさが、嬉しかった。
出会ったころからそうだ。
彼女はいつも私のことを想ってくれている。
「何、大丈夫だ。ただ月を眺めていただけだよ」
「月……ですか?」
安心させるように言ってやると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
無理もないだろう。
普段の私は大抵自室に籠もって書物なんかを読み漁っているし、それに月だったら窓からでも見ることができる。
だが今日は何故か庭で落ち着いて眺めたくなって、こっそり抜け出してきたのだ。
そして彼女もまた、惹かれるようにしてゆっくりとした所作で空を仰ぐ。
次の瞬間、ぱぁっとその顔が華やぐのを私は見逃さなかった。
「わぁ……」
言葉も出ない、といった風だろうか。
まるで子供のように目を輝かせ、食い入るように空を見つめる妻の横顔は、それ自体が輝きを帯びているようで言いようもなく美しい。
いつの間にか虚空に浮かんでいた月には薄く細い雲がかかっていたが、それがかえって風情を感じさせた。
「旦那様のお気持ちも分かります。だって今宵は本当に……」
そう言いかけた時、ふと左手に妻の繊細な指が絡まる感触。
「月が綺麗ですもの」
血が通わず代わりに水を纏ったその御手は、ひんやりとした夜気も相まって非常に冷たい。
しかし、それは私の芯を冷やす冷たさではなかった。
確かに氷に触れているようではあるものの、柔らかで細身の指とテノヒラがもたらすのは心地良さ。
そうでなくとも、こうして触れ合っているだけでどこか体の奥底にじんわりとした熱を生み出しさえするのだ。
「あぁ……とても、綺麗だ」
うっとりと頬を緩める妻の隣で、私は彼女と出会った時のことを思い出していた。
そう。降りしきる雨の中で彼女――水奈と出会い、契りを結び、二人並んで帰路に着いた時の夜空もちょうど今のようであった。
いや……一つ違う点を挙げるとしたらそれは月か。
その時の月は宝石のように散りばめられた星々に囲まれ、まるで金剛石のように丸く銀色に輝いていた。
だが、今は違う。
それに水奈だって、同じ月下美人といえども今の方が優艶な美しさを兼ね備えている。
月光の照り返しを受けて妖しく光る彼女は、どこかこの世のものとは思えないほど魅力的で、人とはかけ離れた存在であることを感じさせた。
そう、水奈は人ではない。
着物が常に水気を帯びているのもこれほどまでに手が冷え切っているのも、彼女が濡れおなごという妖怪だからだ。
しかし、伴侶が人を外れた存在であろうと、私は水奈を愛している。
人と妖怪との間であろうと、こうして愛を育んでいるのだ。いったい何の問題があろうというのか。
「旦那様……♥」
水奈が私の目をじっと見据える。
濃い藍色のその瞳は見つめているだけでも吸い込まれてしまいそうなほどに、深い。
「せっかくの湯が冷めてしまいます。ですから早く、入りましょう……♥」
その瞳を潤ませながら手を引く妻を、断れなどしない。
こうして今宵も私は人外である水奈に誘われ、そして堕ちていくのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
我が家に備え付けられた湯船はそれほど大きいわけではない。
元から一人で浸かるために作られたものであるし、何より作る際の費用を抑えたかったというのもあるのだろう。
現にこうして私が湯の中に身を沈めるだけでも、浴槽のほとんどを身体が占めてしまっているのだから。
しかし脚を伸ばしてくつろげないにしても、温水に浸りながら安心して脱力できるのは大変心地よい。
私好みの少し熱めの湯は、溜まった一日の疲れを溶かし、癒してくれる。
建てられてから幾年も経つというのに未だに香る木の匂いもまた、気持ちを静めるのに一役買ってくれていた。
溜まった疲労感を吐き出すように、ふうっと一つため息をつく。
――まあこうしていられるのも今の内、なんだけどな。
頭の方はこうして落ち着いているとはいえ、実のところ胸の方は耳に聞こえるほど強く早鐘を打っている。
別に入って早々湯あたりしたわけでも、まして緊張や戦慄しているわけでもない。
そう、これは期待。
水奈と湯を共にすることを待ち侘びている表れなのだ。
もちろん長年連れ添っている間柄、彼女と湯や床を同じくしたことなど数えきれないほどある。
妖怪ゆえか、人よりも好色な妻は何度も私を求め、その度に体を重ねてきた。
それでも妻と触れ合える時間は今でもこの上ない幸福を感じ、まるで初心の夫婦のように胸を高鳴らせてしまうのだ。
「お待たせしました、旦那様」
その時、静かに木戸を開けて水奈が浴場へと入ってくる。
彼女の方へ目を向けた時、思わずゴクリと生唾が喉を通るのを感じた。
身に纏うのは湯巻一枚。
身体を覆うには少し頼りないその布は、彼女がぬれおなごであるがゆえに湿ってぴったりと張り付き、細身ながらも実りの良い体の線を逆に強調してしまっている。
腕や脚それにお腹周りなどは引き締まり、しかし男好みのする部位はむっちりとしている体形。
胸や尻などは湯巻からこぼれるばかりに肉付いており、胸元で落ちないよう抑えているのがいじらしい。
普段の夜伽で互いの裸など見慣れているのだが、こうして布一枚で隠されている、と感じただけでひどく興奮をそそるものとなっていた。
『お湯加減はいかがですか』と聞きながら湯桶で身体を流す姿も、その所作ひとつひとつが洗練されていて引き込まれそうになる。
「あの旦那様……そんなに見つめられると……」
「あ、ああ……すまない」
自分でも気付かぬ内に思わず凝視してしまっていたのだろう。
自らの体に注がれる視線にもじもじとして顔を羞恥で赤らめる水奈は、絶筆に尽くしがたいほどに愛おしい。
そんな初々しい妻をずっと眺めていたいという思いもあったが、しかしいつまでも立たせたままにしておくのも申し訳ない。
私は身体を捩じらせなんとか彼女が入れるほどの空間をあけ、ここに入れと身振りで知らせると嬉しそうに顔が綻んだ。
「それでは失礼いたしますね、旦那様」
小さく頭を下げ、水奈はそっと浴槽へと足をつける。
とぷん、という水音がやけに大きく聞こえた。
途端に、浸かっている湯が粘り気のあるものになったのを肌で感じる。
彼女の体の一部である粘体が、湯を吸ったのだ。
ぬれおなごである水奈は、体のほとんどが水飴のように粘度の高い液体でできている。
彼女はその色や質感を様々に変化させることができるが、大元は水であることに変わりない。
自然、液体部分はなみなみと溜まった温水と混じり、
向かい合うような形で座るころにはすっかり湯船の中は水奈で満たされてしまっていた。
「はぁ……温かい、ですね……」
風呂の熱に浮かされたように、水奈は表情を蕩けさせてひとつ息を吐く。
普段から彼女は少し垂れ目がちな優しい面持ちをしているが、こうして安心しきった時に見せる顔もまた、たまらなく好きだった。
手を伸ばせば――いや、伸ばさなくても触れる距離。
それどころか、愛おしい妻に包まれている状態。
こんなに近くに伴侶を感じられて、胸が高鳴らない夫などいるだろうか。
少なくとも私は、こうして表情を眺めているだけでもどこか胸の奥が熱くなるのを感じていた。
そんな私に気付いたのか、水奈はこちらを見てくすりと笑みをこぼす。
「旦那様ったらそんなお顔をされて……可愛らしいです」
妙齢の女性らしい見かけに反した少女のような笑みを浮かべられると、体の火照りにまた別の熱さが加わってしまう。
それはきっと、可愛いと言われたことに対する照れくささもあっただろう。
しかしそれだけではなくて――――
「分かっていますよ旦那様……待ちきれないのですね……♥」
そう囁くように言うと、水奈はゆっくりと体をこちらへ倒し、しな垂れかかってくる。
女性特有の……いや、彼女特有の柔らかさが、触れた肌越しに伝わる。
――欲情。
湯に浸かっているというのに奥底で燃え出した小さな火が少しずつ、しかし着実に大きくなって私の体に熱を灯しているのだ。
自分でも直に感じられるほどになった炎に、私の体はじりじりと焦がされるような感覚を覚えるのだった。
「水奈……!」
「はい、旦那様……♥」
視線が、交差する。
口で多くを語らずとも、その潤んだ瞳が、紅潮した頬が、荒くなっていく息遣いが、全てを伝えてくれていた。
しばらくの間、言葉を交わすように互いに見つめあうと、惹かれるように顔が近づいていき――――触れる。
「ん……」
軟らかい、ぷるぷるとした感触の唇が、私の唇に触れる。
初めは自分の形を教えるように、互いの形を確かめあうように、ぎゅっと押し付ける。
眼前にまで迫った彼女からは、脳髄を蕩かすような甘い香。
離したくないとばかりに首に回ってきた腕に応え、私も水奈の体を抱きしめた。
二人の距離は零。
今や私の思考も感覚も全て、一瞬で水奈に奪われてしまっていた。
「んんっ……んむぅ♥」
湯のせいか熱くさえ感じる唇の感触、それに鼻腔を満たす濃厚な香をいつまでも味わっていたくて、
貪るように接吻を続ける。
時折口の端から漏れる嬌声が、内に籠もる熱をさらに燃え上がらせていく。
「はむぅ……ちゅ、くちゅ……れろぉ……♥」
触れているだけの接吻に我慢できなくなったのか、にゅるりと口の隙間から舌が入り込んでくる。
すぐさま私の舌先まで到達した彼女のそれは、愛しい番いを見つけた獣のごとくその身を摺り寄せてきた。
くちゅりくちゅりと水音を立てながら前後に、自分の唾液を塗り込むような動き。
吐息と同じかそれ以上の甘さを持つ水奈の甘い蜜は、味蕾ひとつひとつにねっとりと絡まり
私に彼女の味をしっかりと覚えさせてくれた。
しかしそれにも飽き足らず、舌を唾液まみれにしたのを確認すると、今度は口内に自らの証をまぶしていく。
舌の根、味蕾、歯茎、唇……
粘液でできた水奈の舌は口腔を縦横に動き回り、私の唾液を舐め取りながらも濃厚な蜜を塗りこんでいくのだ。
そんな極上の甘露を味わされて堪らず、私も水奈の口へと舌を滑りこませた。
「んぅっ……! ん、んぁ……ちぅう……♪」
初めこそ少し驚いたような声を漏らしたが、次には歓迎とばかりに嬉しげに吸い付いてくる。
ちゅうちゅうと舌先を吸われる感覚はどこか背徳的で、快楽にも似た電流を脳へと伝える。
そうでなくともねっとりとした汁で潤う蜜壺となった水奈の口は、ただそこに浸っているだけでも
じんじんと舌先が痺れるような感覚を覚え、あっという間に私の思考を蕩かしてしまうのだ。
もちろん、これほどまでに官能的な口づけをされて"体"が反応しないわけがなかった。
「んはぁ……ふふ、だんなさまのお顔すっかりとろけちゃって……とってもいいですよぉ♪
それに、コチラも……♥」
長い接吻の後、やっと口を解放した水奈は私の顔を見て淫靡に微笑む。
蕩けた表情をしているのは水奈も同じだ。
それを言おうとしたが、上手く呂律が回らないどころかどうにも舌に力が入らず、自然と口から舌を出した間の抜けた顔になってしまう。
そんなだらしのない夫に気を良くしたのだろう。
水奈は身体を寄りかからせたまま、繊細なその指で既に固くいきり立っていた私のモノをつつとなぞり上げる。
口だけの交歓に不満足げに自己主張していた肉棒はまるで喜ぶように身を震わせる。
「大丈夫ですよだんなさま……今、静めて差し上げますから……♥」
そう言い終えるが早いか、包み込むようにソレを掴むとゆっくり前後に動かし始める。
しゅっしゅっと規則的に、しかし時折緩急つけた動きを見せる手淫に思わず身が震える。
水奈の手は私のものと比べて細身でありながらも柔らかく、自分で擦るよりもずっと気持ちが良い。
それに加え、何度も体を重ねるうちに妻は私を悦ばせる方法を心得ていたのだから猶更だ。
私の弱点とも呼べる部分を彼女は適確に刺激し、着々と高みへと登らせていく。
「だんなさまぁ……キモチいいですかぁ……♥」
「あぁ……い、いいよ水奈……」
「よかったぁ……♪ それなら、もぉっとキモチよく、してさしあげますからねぇ♥」
興奮してきているのかその声に甘い色が濃くなりだした水奈がそう言うと同時に、手の形がぐにゃり、と変わる。
今まで人の手としてしっかりとした実体を持っていたものが、溶けて粘体となったのだ。
自然とその手に包まれていたモノも、すっぽりと覆われてしまった。
急な変化に驚いたのもつかの間、液体部分はまるで陰茎を揉みしだくようにぐにゅぐにゅと蠕動を始める。
亀頭を吸われながら、カリにその身を擦りつけられる。
かと思うと、舌のような感触が裏筋を舐めあげる。
私の体を包む粘体も徐々に動き始め、余すことなく肌に吸い付いてくる。
まさに人では味わえぬ魔性の快楽。
人外の身である水奈は、その体を使って愛する夫の私を悦ばせようとしているのだ。
そう思うと、内なる炎はより強くより熱く燃え上がって――
――今まさに弾けそうになっていた。
「水奈……そろそろ……!」
「ふふ、もうすぐ出そうなんですねだんなさま♪ でも……」
限界が近いことを告げた直後、私に与えられていた刺激が、快楽がぴたりと止む。
生殺しのまま放置された剛直が不満足げに身を震わせるも、動きを止めた粘体の中では得るところはない。
何事かと思って水奈を見ると、彼女は紅潮した顔に妖艶な笑みを浮かべた。
「出すのでしたら……コチラに……♥」
息を荒げながら人の脚を形作った水奈は、その脚の間にあるもの――秘所を見せつけるように大きく開き、指でその入口を開けて見せる。
そこは色素の薄い肌とは違い、頬以上にうっすらと赤み付いていて、くぱぁと開かれているのを見ているだけでも欲情をそそった。
いや、そもそもこれ以上ないほどにまで高められていたのだ。
こんな風に誘惑されて我慢なんて、できるはずもなかった。
『放ちたい』『貪りたい』その欲望のままに。私は正面から水奈の腰に腕を回し、そのまま股ぐらへ一気に剛直をねじ込んだ。
「ふあぁぁぁあああ♥ すごい、だんなさまの、あついですぅ♥」
外の粘体とは違い、オトコを悦ばせようとたくさんの襞や粒粒が待ち構えていて、その上まるで処女のようにきつく締め上げてくる。
それでも、膣全体が喜ぶようにきゅうきゅうとモノに吸い付くのだから堪らない。
さらなる快楽を得ようと、自然と腰を動かしてしまう。
弾けかかっていた炎は油を注がれたようにさらに大きく燃え広がっていくのだ。
「あぁっ♪んぅうっ♪ だんなさまっ♥ だんなさまぁっ♥♥」
彼女も感じてくれているのだろう。
モノが粘液膣を擦るたびに、最奥のくにくにとした感触を突き上げるたびに、可愛らしい嬌声を上げる。
その淫れる姿を、淫らな表情を、私の腕の中で晒け出してくれているのだ。
そんな水奈が愛おしくて、ばしゃばしゃと湯があふれ出るのも構わずに腰を振るい立てる。
いつまでもこうして愛していたい……そんな願いも虚しく、既に高められていたこともあり、あっという間に限界は近づいてしまう。
きつきつの水奈の膣内でも、押し広げるように怒張が膨らみ始める。
「水奈……こんどこそ出すぞっ……!」
「はい、だんなさまぁ♥ わたしのナカに、たっぷり出してくださいぃ♥」
限界が近いことを気づいていたのか、嬉々として声を上げるとその長い脚を私の腰に絡め、ぎゅっと一際強く吸い付く。
それを止めとばかりに水奈の中で――――弾けた。
ドクドクと溢れ出てくる迸りを、彼女の最奥に注ぎ込んでいく。
熱い白濁を放つごとに彼女はびくびくと体を震わせ、貪欲に精を吸収していく。
最後の一滴まで射精し終えると、二人してふぅと息を吐いた。
「はぁ……だんなさまのせーえき……とってもおいしいです……♥」
「水奈も、とってもキモチ良かったよ」
「ふふ、ありがとうございますだんなさま♪」
そんな風に声をかけながら、ナカからずるりと音を立ててモノを引き抜く。
……が、未だにいきり立った肉棒は萎える気配を見せていない。
見ると、水奈の方も未だ目に欲情の色を覗かせていた。
「あの、だんなさま……よろしければ、もう一度……」
「……あぁ、分かってるよ」
「……はい♥」
――秋の夜は、長い。
こうして湯に浸かりながらも互いに貪りあいさらに熱くなった私たちは、床に就いた後も睦みあっていたことは、言うまでもない。
誰に言うともなく呟いた私の体に、そっと風が吹きかかる。
本格的な秋に近づく季節の変わり目の風は冷たく、しかしどこか包み込むような柔らかさがあった。
それに揺られた草木がさわさわと音を立てる。
突然の微風に驚きでもしたのだろうか、庭の虫の音が小さくなった。
軽く目をやると、適度に刈り揃えられた草花、木々の間からひそやかに顔を見せる溜め池、周囲に馴染むように置かれた庭石。
どれも見慣れている風景だ。
しかし、このしめやかな夜色の中で煌々と輝く月に照らされる庭を眺めていると、普段とはまた一味違った詩情が感じられる。
季節だけでなく時間とともに刻々と姿を変えていくこの庭が、私は好きだった。
――まったく、いつ見ても飽きないものだな。
再び始まった秋虫たちの鳴き声に耳を傾けながら満足げにため息を漏らすと、再び空へと視線を戻す。
雲一つなく澄んだ漆黒の中に、ただ一つ淡い光を放つ孤月は、自然と目を奪われる美しさを湛えていた。
熟して膨らんだ木の実のような形を見ると、十五夜まではあとほんの数日といったところだろう。
ふと唐突に、庭先に植えてあるイチジクの木を思い出す。
あれが実るにはもう少しかかるだろうか。
紅く熟したものを口に入れた時のあの柔らかな甘さを思い出すとつい咽喉が音を立てた。
そのとき、またふわりと涼風が吹く。
草花を赤や黄の彩り鮮やかに染める気質を孕んだ風だ。
優しく腕を撫ぜる感触は冷たくも、心地良い。
だが、心地良さでいえば我が妻には到底及ばないな、という思いがふいと心の内に浮かんできた。
「旦那様。湯の用意ができましたよ」
偶然か、はたまた私の気持ちを気取ってか。
澄んだ女性の声に振り返ったその視線の先には我が伴侶が、初めからそこにいたかのように静かに佇んでいた。
遅い夕餉を終えた後、彼女には風呂の支度を任せていたのだ。
普段からそれぐらい私がやろうと言いつつも、『旦那様のため』の一点張りで頑として許してくれない。
夕餉の準備片付けに加えて湯張りまで家事の全て頼ってしまうのは申し訳ないが、
しかしその献身的なところに惹かれたのもまた、事実だった。
それにしても。
宵闇の中からほのかな月明りに照らし出された妻は、一目見ただけで息を呑むほどに美しい。
しっとりと水気を含んだ薄藍色の着物が張り付く柔肌は血の気を感じさせず、まるで陶器のように白く透き通っている。
触れれば壊れてしまいそうな儚さ、しかしそれでも優しく受け止めてくれそうな柔らかさを兼ね備えていた。
その白さを強調するように、艶やかな黒を湛える長い髪。
芸術品のように端正な顔立ちの中にも、少し垂れた目尻が愛らしさを醸し出していた。
――何度見ても美しいと思えるのはこちらも同じ、だな。
そんなことを考えると、ひとりでに小さな笑いが込み上げてくる。
もちろん彼女は庭と同じどころか劣るべくもないが、意外な共通点を見つけられたようでつい洒落じみた可笑しさを感じてしまったのだ。
「あぁ、分かった。今行くよ」
それを悟られないうちに返事をして立ち上がろうとした私の隣に、
妻が木張りの縁側を軋ませる音も立てずそっと歩み寄ってくる。
彼女の周りに漂う甘い香がふわり、と鼻まで届いた。
「何をしていらっしゃったのですか? ここにいては、旦那様のお身体が冷えてしまいましょう」
寄り添うようにして見上げるその表情には、夫の身を憂慮する色が浮かんでいた。
ただ夜風に当たっていただけなのだから、それほど心配する必要などないというのに。
内心半ば呆れるものの、本当は妻の優しさが、嬉しかった。
出会ったころからそうだ。
彼女はいつも私のことを想ってくれている。
「何、大丈夫だ。ただ月を眺めていただけだよ」
「月……ですか?」
安心させるように言ってやると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
無理もないだろう。
普段の私は大抵自室に籠もって書物なんかを読み漁っているし、それに月だったら窓からでも見ることができる。
だが今日は何故か庭で落ち着いて眺めたくなって、こっそり抜け出してきたのだ。
そして彼女もまた、惹かれるようにしてゆっくりとした所作で空を仰ぐ。
次の瞬間、ぱぁっとその顔が華やぐのを私は見逃さなかった。
「わぁ……」
言葉も出ない、といった風だろうか。
まるで子供のように目を輝かせ、食い入るように空を見つめる妻の横顔は、それ自体が輝きを帯びているようで言いようもなく美しい。
いつの間にか虚空に浮かんでいた月には薄く細い雲がかかっていたが、それがかえって風情を感じさせた。
「旦那様のお気持ちも分かります。だって今宵は本当に……」
そう言いかけた時、ふと左手に妻の繊細な指が絡まる感触。
「月が綺麗ですもの」
血が通わず代わりに水を纏ったその御手は、ひんやりとした夜気も相まって非常に冷たい。
しかし、それは私の芯を冷やす冷たさではなかった。
確かに氷に触れているようではあるものの、柔らかで細身の指とテノヒラがもたらすのは心地良さ。
そうでなくとも、こうして触れ合っているだけでどこか体の奥底にじんわりとした熱を生み出しさえするのだ。
「あぁ……とても、綺麗だ」
うっとりと頬を緩める妻の隣で、私は彼女と出会った時のことを思い出していた。
そう。降りしきる雨の中で彼女――水奈と出会い、契りを結び、二人並んで帰路に着いた時の夜空もちょうど今のようであった。
いや……一つ違う点を挙げるとしたらそれは月か。
その時の月は宝石のように散りばめられた星々に囲まれ、まるで金剛石のように丸く銀色に輝いていた。
だが、今は違う。
それに水奈だって、同じ月下美人といえども今の方が優艶な美しさを兼ね備えている。
月光の照り返しを受けて妖しく光る彼女は、どこかこの世のものとは思えないほど魅力的で、人とはかけ離れた存在であることを感じさせた。
そう、水奈は人ではない。
着物が常に水気を帯びているのもこれほどまでに手が冷え切っているのも、彼女が濡れおなごという妖怪だからだ。
しかし、伴侶が人を外れた存在であろうと、私は水奈を愛している。
人と妖怪との間であろうと、こうして愛を育んでいるのだ。いったい何の問題があろうというのか。
「旦那様……♥」
水奈が私の目をじっと見据える。
濃い藍色のその瞳は見つめているだけでも吸い込まれてしまいそうなほどに、深い。
「せっかくの湯が冷めてしまいます。ですから早く、入りましょう……♥」
その瞳を潤ませながら手を引く妻を、断れなどしない。
こうして今宵も私は人外である水奈に誘われ、そして堕ちていくのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
我が家に備え付けられた湯船はそれほど大きいわけではない。
元から一人で浸かるために作られたものであるし、何より作る際の費用を抑えたかったというのもあるのだろう。
現にこうして私が湯の中に身を沈めるだけでも、浴槽のほとんどを身体が占めてしまっているのだから。
しかし脚を伸ばしてくつろげないにしても、温水に浸りながら安心して脱力できるのは大変心地よい。
私好みの少し熱めの湯は、溜まった一日の疲れを溶かし、癒してくれる。
建てられてから幾年も経つというのに未だに香る木の匂いもまた、気持ちを静めるのに一役買ってくれていた。
溜まった疲労感を吐き出すように、ふうっと一つため息をつく。
――まあこうしていられるのも今の内、なんだけどな。
頭の方はこうして落ち着いているとはいえ、実のところ胸の方は耳に聞こえるほど強く早鐘を打っている。
別に入って早々湯あたりしたわけでも、まして緊張や戦慄しているわけでもない。
そう、これは期待。
水奈と湯を共にすることを待ち侘びている表れなのだ。
もちろん長年連れ添っている間柄、彼女と湯や床を同じくしたことなど数えきれないほどある。
妖怪ゆえか、人よりも好色な妻は何度も私を求め、その度に体を重ねてきた。
それでも妻と触れ合える時間は今でもこの上ない幸福を感じ、まるで初心の夫婦のように胸を高鳴らせてしまうのだ。
「お待たせしました、旦那様」
その時、静かに木戸を開けて水奈が浴場へと入ってくる。
彼女の方へ目を向けた時、思わずゴクリと生唾が喉を通るのを感じた。
身に纏うのは湯巻一枚。
身体を覆うには少し頼りないその布は、彼女がぬれおなごであるがゆえに湿ってぴったりと張り付き、細身ながらも実りの良い体の線を逆に強調してしまっている。
腕や脚それにお腹周りなどは引き締まり、しかし男好みのする部位はむっちりとしている体形。
胸や尻などは湯巻からこぼれるばかりに肉付いており、胸元で落ちないよう抑えているのがいじらしい。
普段の夜伽で互いの裸など見慣れているのだが、こうして布一枚で隠されている、と感じただけでひどく興奮をそそるものとなっていた。
『お湯加減はいかがですか』と聞きながら湯桶で身体を流す姿も、その所作ひとつひとつが洗練されていて引き込まれそうになる。
「あの旦那様……そんなに見つめられると……」
「あ、ああ……すまない」
自分でも気付かぬ内に思わず凝視してしまっていたのだろう。
自らの体に注がれる視線にもじもじとして顔を羞恥で赤らめる水奈は、絶筆に尽くしがたいほどに愛おしい。
そんな初々しい妻をずっと眺めていたいという思いもあったが、しかしいつまでも立たせたままにしておくのも申し訳ない。
私は身体を捩じらせなんとか彼女が入れるほどの空間をあけ、ここに入れと身振りで知らせると嬉しそうに顔が綻んだ。
「それでは失礼いたしますね、旦那様」
小さく頭を下げ、水奈はそっと浴槽へと足をつける。
とぷん、という水音がやけに大きく聞こえた。
途端に、浸かっている湯が粘り気のあるものになったのを肌で感じる。
彼女の体の一部である粘体が、湯を吸ったのだ。
ぬれおなごである水奈は、体のほとんどが水飴のように粘度の高い液体でできている。
彼女はその色や質感を様々に変化させることができるが、大元は水であることに変わりない。
自然、液体部分はなみなみと溜まった温水と混じり、
向かい合うような形で座るころにはすっかり湯船の中は水奈で満たされてしまっていた。
「はぁ……温かい、ですね……」
風呂の熱に浮かされたように、水奈は表情を蕩けさせてひとつ息を吐く。
普段から彼女は少し垂れ目がちな優しい面持ちをしているが、こうして安心しきった時に見せる顔もまた、たまらなく好きだった。
手を伸ばせば――いや、伸ばさなくても触れる距離。
それどころか、愛おしい妻に包まれている状態。
こんなに近くに伴侶を感じられて、胸が高鳴らない夫などいるだろうか。
少なくとも私は、こうして表情を眺めているだけでもどこか胸の奥が熱くなるのを感じていた。
そんな私に気付いたのか、水奈はこちらを見てくすりと笑みをこぼす。
「旦那様ったらそんなお顔をされて……可愛らしいです」
妙齢の女性らしい見かけに反した少女のような笑みを浮かべられると、体の火照りにまた別の熱さが加わってしまう。
それはきっと、可愛いと言われたことに対する照れくささもあっただろう。
しかしそれだけではなくて――――
「分かっていますよ旦那様……待ちきれないのですね……♥」
そう囁くように言うと、水奈はゆっくりと体をこちらへ倒し、しな垂れかかってくる。
女性特有の……いや、彼女特有の柔らかさが、触れた肌越しに伝わる。
――欲情。
湯に浸かっているというのに奥底で燃え出した小さな火が少しずつ、しかし着実に大きくなって私の体に熱を灯しているのだ。
自分でも直に感じられるほどになった炎に、私の体はじりじりと焦がされるような感覚を覚えるのだった。
「水奈……!」
「はい、旦那様……♥」
視線が、交差する。
口で多くを語らずとも、その潤んだ瞳が、紅潮した頬が、荒くなっていく息遣いが、全てを伝えてくれていた。
しばらくの間、言葉を交わすように互いに見つめあうと、惹かれるように顔が近づいていき――――触れる。
「ん……」
軟らかい、ぷるぷるとした感触の唇が、私の唇に触れる。
初めは自分の形を教えるように、互いの形を確かめあうように、ぎゅっと押し付ける。
眼前にまで迫った彼女からは、脳髄を蕩かすような甘い香。
離したくないとばかりに首に回ってきた腕に応え、私も水奈の体を抱きしめた。
二人の距離は零。
今や私の思考も感覚も全て、一瞬で水奈に奪われてしまっていた。
「んんっ……んむぅ♥」
湯のせいか熱くさえ感じる唇の感触、それに鼻腔を満たす濃厚な香をいつまでも味わっていたくて、
貪るように接吻を続ける。
時折口の端から漏れる嬌声が、内に籠もる熱をさらに燃え上がらせていく。
「はむぅ……ちゅ、くちゅ……れろぉ……♥」
触れているだけの接吻に我慢できなくなったのか、にゅるりと口の隙間から舌が入り込んでくる。
すぐさま私の舌先まで到達した彼女のそれは、愛しい番いを見つけた獣のごとくその身を摺り寄せてきた。
くちゅりくちゅりと水音を立てながら前後に、自分の唾液を塗り込むような動き。
吐息と同じかそれ以上の甘さを持つ水奈の甘い蜜は、味蕾ひとつひとつにねっとりと絡まり
私に彼女の味をしっかりと覚えさせてくれた。
しかしそれにも飽き足らず、舌を唾液まみれにしたのを確認すると、今度は口内に自らの証をまぶしていく。
舌の根、味蕾、歯茎、唇……
粘液でできた水奈の舌は口腔を縦横に動き回り、私の唾液を舐め取りながらも濃厚な蜜を塗りこんでいくのだ。
そんな極上の甘露を味わされて堪らず、私も水奈の口へと舌を滑りこませた。
「んぅっ……! ん、んぁ……ちぅう……♪」
初めこそ少し驚いたような声を漏らしたが、次には歓迎とばかりに嬉しげに吸い付いてくる。
ちゅうちゅうと舌先を吸われる感覚はどこか背徳的で、快楽にも似た電流を脳へと伝える。
そうでなくともねっとりとした汁で潤う蜜壺となった水奈の口は、ただそこに浸っているだけでも
じんじんと舌先が痺れるような感覚を覚え、あっという間に私の思考を蕩かしてしまうのだ。
もちろん、これほどまでに官能的な口づけをされて"体"が反応しないわけがなかった。
「んはぁ……ふふ、だんなさまのお顔すっかりとろけちゃって……とってもいいですよぉ♪
それに、コチラも……♥」
長い接吻の後、やっと口を解放した水奈は私の顔を見て淫靡に微笑む。
蕩けた表情をしているのは水奈も同じだ。
それを言おうとしたが、上手く呂律が回らないどころかどうにも舌に力が入らず、自然と口から舌を出した間の抜けた顔になってしまう。
そんなだらしのない夫に気を良くしたのだろう。
水奈は身体を寄りかからせたまま、繊細なその指で既に固くいきり立っていた私のモノをつつとなぞり上げる。
口だけの交歓に不満足げに自己主張していた肉棒はまるで喜ぶように身を震わせる。
「大丈夫ですよだんなさま……今、静めて差し上げますから……♥」
そう言い終えるが早いか、包み込むようにソレを掴むとゆっくり前後に動かし始める。
しゅっしゅっと規則的に、しかし時折緩急つけた動きを見せる手淫に思わず身が震える。
水奈の手は私のものと比べて細身でありながらも柔らかく、自分で擦るよりもずっと気持ちが良い。
それに加え、何度も体を重ねるうちに妻は私を悦ばせる方法を心得ていたのだから猶更だ。
私の弱点とも呼べる部分を彼女は適確に刺激し、着々と高みへと登らせていく。
「だんなさまぁ……キモチいいですかぁ……♥」
「あぁ……い、いいよ水奈……」
「よかったぁ……♪ それなら、もぉっとキモチよく、してさしあげますからねぇ♥」
興奮してきているのかその声に甘い色が濃くなりだした水奈がそう言うと同時に、手の形がぐにゃり、と変わる。
今まで人の手としてしっかりとした実体を持っていたものが、溶けて粘体となったのだ。
自然とその手に包まれていたモノも、すっぽりと覆われてしまった。
急な変化に驚いたのもつかの間、液体部分はまるで陰茎を揉みしだくようにぐにゅぐにゅと蠕動を始める。
亀頭を吸われながら、カリにその身を擦りつけられる。
かと思うと、舌のような感触が裏筋を舐めあげる。
私の体を包む粘体も徐々に動き始め、余すことなく肌に吸い付いてくる。
まさに人では味わえぬ魔性の快楽。
人外の身である水奈は、その体を使って愛する夫の私を悦ばせようとしているのだ。
そう思うと、内なる炎はより強くより熱く燃え上がって――
――今まさに弾けそうになっていた。
「水奈……そろそろ……!」
「ふふ、もうすぐ出そうなんですねだんなさま♪ でも……」
限界が近いことを告げた直後、私に与えられていた刺激が、快楽がぴたりと止む。
生殺しのまま放置された剛直が不満足げに身を震わせるも、動きを止めた粘体の中では得るところはない。
何事かと思って水奈を見ると、彼女は紅潮した顔に妖艶な笑みを浮かべた。
「出すのでしたら……コチラに……♥」
息を荒げながら人の脚を形作った水奈は、その脚の間にあるもの――秘所を見せつけるように大きく開き、指でその入口を開けて見せる。
そこは色素の薄い肌とは違い、頬以上にうっすらと赤み付いていて、くぱぁと開かれているのを見ているだけでも欲情をそそった。
いや、そもそもこれ以上ないほどにまで高められていたのだ。
こんな風に誘惑されて我慢なんて、できるはずもなかった。
『放ちたい』『貪りたい』その欲望のままに。私は正面から水奈の腰に腕を回し、そのまま股ぐらへ一気に剛直をねじ込んだ。
「ふあぁぁぁあああ♥ すごい、だんなさまの、あついですぅ♥」
外の粘体とは違い、オトコを悦ばせようとたくさんの襞や粒粒が待ち構えていて、その上まるで処女のようにきつく締め上げてくる。
それでも、膣全体が喜ぶようにきゅうきゅうとモノに吸い付くのだから堪らない。
さらなる快楽を得ようと、自然と腰を動かしてしまう。
弾けかかっていた炎は油を注がれたようにさらに大きく燃え広がっていくのだ。
「あぁっ♪んぅうっ♪ だんなさまっ♥ だんなさまぁっ♥♥」
彼女も感じてくれているのだろう。
モノが粘液膣を擦るたびに、最奥のくにくにとした感触を突き上げるたびに、可愛らしい嬌声を上げる。
その淫れる姿を、淫らな表情を、私の腕の中で晒け出してくれているのだ。
そんな水奈が愛おしくて、ばしゃばしゃと湯があふれ出るのも構わずに腰を振るい立てる。
いつまでもこうして愛していたい……そんな願いも虚しく、既に高められていたこともあり、あっという間に限界は近づいてしまう。
きつきつの水奈の膣内でも、押し広げるように怒張が膨らみ始める。
「水奈……こんどこそ出すぞっ……!」
「はい、だんなさまぁ♥ わたしのナカに、たっぷり出してくださいぃ♥」
限界が近いことを気づいていたのか、嬉々として声を上げるとその長い脚を私の腰に絡め、ぎゅっと一際強く吸い付く。
それを止めとばかりに水奈の中で――――弾けた。
ドクドクと溢れ出てくる迸りを、彼女の最奥に注ぎ込んでいく。
熱い白濁を放つごとに彼女はびくびくと体を震わせ、貪欲に精を吸収していく。
最後の一滴まで射精し終えると、二人してふぅと息を吐いた。
「はぁ……だんなさまのせーえき……とってもおいしいです……♥」
「水奈も、とってもキモチ良かったよ」
「ふふ、ありがとうございますだんなさま♪」
そんな風に声をかけながら、ナカからずるりと音を立ててモノを引き抜く。
……が、未だにいきり立った肉棒は萎える気配を見せていない。
見ると、水奈の方も未だ目に欲情の色を覗かせていた。
「あの、だんなさま……よろしければ、もう一度……」
「……あぁ、分かってるよ」
「……はい♥」
――秋の夜は、長い。
こうして湯に浸かりながらも互いに貪りあいさらに熱くなった私たちは、床に就いた後も睦みあっていたことは、言うまでもない。
12/11/12 23:48更新 / リテラル