この世界はいつだって理不尽で、現実というわがままを押しつけてくる。
　だから、もし神様とかいう奴に会えたら、一つだけ聞きたいことがある。

「ねぇ神様。何故貴方は――」




「アリサちゃん、アリサちゃん」

　向かいのベッドに腰掛けた相手の言葉に、ふと考え込んでいたアリサは現実に引き戻された。
　ふかふかのベッドに派手すぎない観葉植物。全体的に落ち着いた内装で整えられた室内は、小さな町の宿屋とは思えないほどの品格だった。
　そんな部屋に向かいの女性と居るアリサの服装は純白のワンピース。さらに真っ白な髪を淡い青のリボンで結んでいて、落ち着いた部屋と不思議な一体感を醸し出している。が、髪をかきわけるようにして生えた角や背中の翼、先ほどからうねうねと動いている尻尾などが猛烈な違和感を発してもいた。

「な、なんですか？」

　現実に引き戻されたアリサは、イリアに向かってはたはたと手を振った。その仕草だけで彼女が慌てているのが分かる。
　そんなアリサの様子に、イリアは肩をすくめた。

「アリサちゃん、さっきからずっと上の空だったわよ………。なにか、気になることでもあるの？」

　村を抜け出して３ヶ月。当時は小さかった角や翼も今や立派なサキュバスのそれになった。
　その判断に後悔が無いと言えば嘘になる。が、当時はそれしか方法が無かったのも確かなのだ。そのことについてアリサはずいぶん早い段階で仕方がないと割り切っていた。
　しかし、悩みが無いわけではない。

「アルのことね………？」

　アリサが黙っていると、こちらの心の内を察したようにイリアが言った。それに反応してアリサがこくりと頷く。
　アル。アリサの幼馴染の少年にして、彼女に最も近い人間。それを彼女は故郷に置き去りにした。彼から贈られた万華鏡と共に。

「アリサちゃん。今からでも遅くはないのよ？」

　イリアが言う。だか、アリサが聞く耳を持たないことは彼女だって分かっている。それでも言葉を重ねる。

「あなたは無限の時間を手に入れたわ。でも、彼はそうじゃない。それは解るわよね？」

　少しきつい物言いになったか、とイリアは思ったが、これくらいがちょうどいいのだと思い直す。
　アリサはイリアの言葉にか、はたまた別の理由からか、すでに涙目だ。それでも健気に頷く。
　イリアは心を鬼にして言葉を続ける。

「アルが居なくなっちゃってもいいの？」

　この言葉の効果は、抜群だった。先ほどからずっと抱きしめていたふかふかの枕に、さらなる力が加わる。

「そんなのは………いや……です………」

　アリサはうつむく。さらりと髪が流れて、彼女の表情を覆い隠した。だが、イリアには見なくても彼女の表情が手に取るようにわかった。
　イリアはベッドに腰掛けたまま、長い脚を組みかえながら続ける。

「アルはきっとあなたを探しに来るわ。多分、１人でね。
　その時、誰が魔物からアルを守るの？」

　ぎり………。とアリサのベッドのシーツが握りしめられて軋む。だが、アリサは答えない。

「普通の魔物ならまだ撃退できるかもしれない。でも、例えばサキュバスなら？バフォメットなら？そして、ドラゴンなら？
　普通の人間が、ましてや１人で勝てる相手じゃないわ」
　
　アルは故郷の村で自警団をやっていた。夜の見回りもやっていたそうなので、当然、魔物や野生の獣との交戦経験もあるだろう。
　しかし、世の中には生半可な力ではどうにもならない相手もいる。
　イリアにはバフォメットとドラゴンの友人がいる。だから言えるが、彼女らの力はイリアと互角か、下手をすればそれ以上だ。もちろん彼女も人間などに負ける気はしない。
　そして、世の中には力だけではどうにもならないものもある。現実は、お話の中のそれのように優しくはないのだ。それをアリサに伝えることは、イリアにとって想像以上の苦行だった。

「それにね、アリサちゃん………。もし、もしもの話よ。彼の通った森に、マタンゴが居たらどうするの？
　――あれは力じゃどうにもならないわよ」

　マタンゴ。その微細な胞子は、人間を内側から作りかえる。どんなに優れた戦士であろうと人間である以上、何の対策もせずに彼女らと闘えばその先にあるのは永劫の時を彼女らと交わり続ける未来だけだ。
　今のところ、どんな魔術を駆使してもマタンゴ化した人間を元に戻すことはできない。出来るのは、森ごと焼き払うことくらいだ。

「………方法なんて無かったじゃないですかぁ……。あのまま村にいれば、私、絶対にアルを……。彼だって、今の私を見てもあの笑顔を向けてくれるとは限らないんです………」

　うつむいたまま涙だけを流すアリサは、じっと堪えるように静かに泣き続ける。
　それを静かに見守ることしかできないイリアは、やっぱりこういう恋愛沙汰は苦手だと思った。こういう純愛とも呼べる事柄には、ドラゴンやその他の真面目な魔物が似合う。
　――本気でナターシアにでも相談しようかしら。
　理想の相手を追い求めたまま、人里に近づきすらしない友人の名前を思い浮かべたイリアは、頭を振ってその考えを追いだす。こと恋愛に関してはあちらも同じレベルだろう。
　
「ちょっと、考える時間をください………」

　そう言って、ベッドにもぐりこんだアリサの声は、まだ涙声だった。
　



「……行ってくるね、アリサちゃん」
　翌朝。サキュバスとしての恰好の上から服を着込んだイリアは、アリサを起こさないように静かに部屋を出て行った。さすがに床はしっかりした作りになっており、全体重を預けても音一つならない。
　アリサへの書き置きと、今日一日を過ごすための資金は机の上に置いてある。昨日のお詫びも込みで少し多めだ。もっとも、アリサはあまり外出が好きではないので無用の長物だったかもしれないが。
　かちりと必要最小限の音で施錠を行ったイリアは、少しだけ寒さを感じる朝の町へと出て行った。




　イリアが出て行ってから一時間ほどして目を覚ましたアリサは、最初にイリアが居ないことに気がついた。そして、あたりを見まわし机の上のメモと金色のコインを発見する。
　
「そっか………、イリアさん仕事でここに来たんだ」
　
　メモを読んだアリサはそうつぶやいた。現在のアリサの服装は昨日と変わらない純白のワンピースで、リボンは解いて枕元に置いてある。そのため、伸びた白髪がちょっとした動きでも大げさに揺れる。昨日と違うのは、角や翼が無くなって、外見は人間と変わらないというところだった。
　アリサはイリアがどんな仕事をしているのか知らない。そもそも仕事をしていることが驚きだ。
　とりあえず、メモには今日と明日は自由にしていていいと書いてあった。しかし、突然そんなことをいわれても困ってしまう。

「………散歩、とか？」
　
　とりあえずベッドからか降りたアリサは、コインをつまみ上げしばし思案する。アリサには貨幣の価値が分からないのだ。
　５年間寝たきりだった弊害は、まだまだ尾を引きそうだった。




　ドアを施錠して、宿屋の廊下に出たアリサはふと覚えのある光景を発見した。
　屋根裏部屋に続く梯子のような急な階段。その上に一つだけあるドア。ノブこそ逆側にないものの、それはアリサが５年を過ごした部屋にうり二つだった。外から見た回数は少ないものの、その光景は頭に焼き付いている。
　好奇心をくすぐられたアリサは、その階段を上がって行った。一段一段、踏み外さないように慎重に。
　昇りきったさき、人一人がやっと立てるくらいのスペースの先には客室のものとは明らかに質の違う扉がついていた。アリサはためらいがちにこんこんとノックする。
　
「誰か、いらっしゃいますか………？」

　たとえだれか居たとしてもその音量では気がつかないだろう。そう言い切れるほどの音量だった。
　
「入りますよ………？」

　またしても小さな声で呟き、病的に白い手をノブに伸ばす。小さな手のひらで金属のひやりとした感触を感じながらそれを捻り、押す。
　鍵はかかっていなかった。
　中にはベッドと小さな机があった。机の上にはなにも置かれていなかったが、ベッドの上に寝ていた人物。それは――

「私………？」

　真っ白な少女だった。




「あなたは、雪死病なのですか？」

　アリサは目の前の少女に問いかけた。雪のように真っ白な少女に。その問いに、気さくに笑った少女は答える。
　今アリサが腰をおろしている場所は、故郷でよくアルが座っていたベッドの縁だ。ここからベッドに横たわる白い少女を見下ろすと、今にも死にそうに見えた。

「ああ。逝きし病、だね」

　少女はアリサの名前も、ここに来た目的も尋ねなかった。ただ話し相手が出来たことがうれしい。そんな対応だった。
　自分とはタイプの違う、活発そうな少女がこうしてベッドに寝たきりになっている様を見て、アリサはひどく違和感を覚えた。
　アリサは真っ白な少女に問いかける。

「発症してどれくらいですか？」

　雪死病は発症例が少なすぎて確かなことは言えないが、大抵発症して１年で自力で歩けなくなる。そして、２年目を生きて迎えられる患者の方が稀だ。５年間生き続けたアリサを支えたのは、アルの存在だと言っていいだろう。
　見たところ、目の前の少女はすでに歩けない。

「そんなこと聞いてどうするのさ？発症して１年以内とかなら治してくれるのかい？」

　にぃ、と口角をつりあげながら彼女は言う。彼女も雪死病が治ることのない病だということは知っているのだろう。

「だいたいアンタも同じだろ？その髪、その目。誰だって見ればわかるさ。アンタはどうなんだい？発症して何年になるのさ」

　ここで正直に答えたものか、アリサは悩む。そもそも、なにか目的があってここに来たわけではないのだ。ここで嘘をついたとしても、なにも困ることはない。
　しかし、アリサは嘘をつかなかった。真っ白な少女の、真っ赤な瞳を見つめて答える。

「５年になります」

　アリサのこの言葉に、相手は目を見開いて驚く。が、すぐにそれは笑いに変わった。短い銀髪を揺らして笑う。

「嘘はいけないよ、アンタ。この病気はね、治らない病気なんだよ。知ってるだろ？」

　それは、諸刃の剣となって自らを切り裂く言葉だった。騙されたと思って少し怒っているのだろうか。
　じっとこちらを睨みつけてくる紅い瞳を前に、アリサもそれから目を逸らさずに再び口を開く。

「治す方法がある、と言ったらどうしますか？」

　そんな言葉に、真っ白な少女は落胆を見せる。

「そう言って近づいてきた奴は、あたしを治せたと思うかい？」

　アリサは黙って首を横に振った。自分にもそういった経験があったからだ。自分の時はアルが追い払ってくれたが、目の前の少女の時は違ったのだろう。
　だが、アリサはここで引き下がらない。

「少し、見ていてください」

　そう言って、ベッドから腰を浮かす。そのまま部屋の中央まで歩いていき、くるりと振り向いた。
　変化は唐突。アリサの真っ白な体に、黒い靄のようなものが集まる。それは次第に形を成していき、最後には色までついて角と翼、尻尾になった。
　角はアリサの白髪をかき分けて天を向き、翼は背が大きく開いたワンピースから飛び出し風をはらむ。尻尾はワンピースの下からアリサの太ももに絡みつくように動く。
　まぎれもない本物。見間違えようもない化物。
　しかし、真っ白な少女は取り乱したりしなかった。むしろ目を細めて笑う。

「へぇ。それが５年の秘密ってわけ」

　実際にはそうでもないのだが、余計な手間を増やすのも嫌なので素直に頷く。
　そして、訊いた。

「あなたは、助かりたいですか？」




　真っ白な少女が、真っ白な少女に問いかける。

「あなたは、助かりたいですか？」

　答えは素っ気なかった。

「いいや」

　今度驚くのはアリサの番だった。耳を疑うような発言をした相手を見つめる。
　相手は、決して笑っていなかった。急に、部屋のランプの明かりが暗くなった気がした。

「今、なんて………？あなたは、このまま死ぬつもりなのですか？」

　聞き間違いであってほしい。だが、どこをどう聞き間違えたというのだろう？
　そう思うアリサに対して、真っ白な少女はどこまでも冷静に答える。

「そうさ。あたしはこのまま死ぬつもり。もう誰にも迷惑をかけたくないのさ」

　――こんな小さな命まで、摘むつもりはありません。
　いつかの自分が言ったセリフを思い出す。決意の方向こそ違うものの、それは同種の響きを持っていた。
　拒絶。する方にとってみれば簡単で、される方にとっては突き崩すことのできない鉄壁の要塞。その考え方は独善で、偽善で、しかしそれ故にどこまでも正しい。
　ベッドに横たわる少女は、首だけを動かして窓の外をにらんだ。そうしても、外には暗い雲しか見えないけれど。

「……あなたが死ねば、悲しむ人がいます」

　――それでも俺は、君に死んでほしくないんだ。
　今やっと、少しだけあの時のアルの気持ちが理解できた気がした。確かに、命は重い。
　
「悲しみは、代償を伴わないさ。それにきっと、皆理解してくれるよ」

　――きっと、アルだって解ってくれます。
　あの時の自分は、なんて身勝手だったのだろう。もし、逆の立場だったら。アルが居なくなることに耐えられただろうか。
　アリサはきつく拳を握りしめる。そうしないと目頭を熱くした涙がこぼれそうだったから。

「………あなたにも、大切な人がいるのではないのですか？」

　涙をこらえて問いかける。拳は握ったままで。
　相手は窓の外を向いたまま答えた。

「いないよ…………アイツは死んだんだから」

　本当に、なんでもない事のようにその言葉は紡がれた。一陣の風すら吹かない室内で、その言葉は確かな重みを持っていた。
　その答えにかたまるアリサに、真っ白な手が突き出される。その手の持ち主は窓の外を向いたまま、こちらに手を差し出していた。

「手。にぎってみな」

　その言葉に背中を押されるように、アリサはその手を取った。かがむ動作に合わせて、長い白髪が踊る。
　差し出された手は、とても冷たかった。まるでその冷たさは――

「冷たいだろ？」

　彼女の問いかけに、アリサは頷く。いつの間にか、彼女はこちらに向き直っていた。
　その顔にあるのは、苦笑じみた笑い。

「もうあたしは、暖かいとか冷たいとか、そういうのはわからない。全部、どっかに置き忘れてきた」

　それを聞いて、ばしりとアリサの脳裏によみがえるものがあった。あの日、アルが持ってきてくれたココア。あれは冷めていたのではなく、ただ、
　――私が、感じ取れていなかった？
　そうだとしたら、彼女の症状はかなり重度だと言っていいだろう。それに、凍てついるのは彼女の体だけではない。
　彼女の手の冷たさは、そのまま心の中身を示しているようだった。

「だから、もう怖くなんてないよ。そのうち、あたしの命もそうやって冷たくなっていくだけのことなんだから」

　そんな達観したセリフはしかし、アリサの今までを全否定するものだった。そして、彼女自身すらも欺くものだった。
　だから、アリサは叫ぶ。


「嘘を吐くなッッ！！！」

　
　今まで静かに喋るだけだった少女の突然の大声に、相手も驚き身を引く。
　それに構わず、アリサはベッドに乗り込み真っ白な肩を掴んで相手の目を見つめながら怒鳴った。

「嘘を吐くな！死ぬのが怖くないなんて嘘だ！そんなのは私が許さない！！」

　大声で怒鳴る。相手は深紅の目を見開いている。だから、アリサもその真紅の瞳でにらんだ。
　アリサの言葉は終わらない。髪が乱れ、服にしわが寄ってもそれに気がつかずまくしたてる。

「暖かいのが分からないなら私が教えてやる！　心が冷めきってるなら私が温めてやる！！　だから、頼むから、そう簡単に死ぬなんて………言わないで」

　死ぬ。それで救われるのは自分だけだということを、アリサは悟っていた。同時に、自分の選択もまた、同じだということも。だからこそ、間違えたアリサだからこそ言える言葉。
　そして、言葉を切った時には、すでにアリサは行動を開始している。
　
「え………あっ、ちょっと！」

　相手の服をたくしあげる。白いショーツも同時にふくらはぎあたりまでずり下げた。
　現れたのは真っ白な肌と、うすい血色の秘部。

「今から、教えてあげます」
　
　そう言ったアリサは、ぺろり、と自分の唇をなめた。その姿は純白のワンピースと相まって、非常に清楚なイメージを纏う。
　そんなアリサに対し、秘部を晒したままの少女は抵抗を試みる。が、魔眼を使うまでもなく病に蝕まれた身ではそれはかなわない。

「くぅ、やめろ……！」

　抵抗もできないままそういう少女に対して、アリサは天使のような笑みでこたえる。

「大丈夫ですよ。全部、私に任せてください」

　じわり。真っ白な少女の秘部に、蜜が滲んだ。




　珠のように蜜が滲みてくるのを見て取ったアリサは、相手の体を押さえつけたままそれを舌先で舐めとった。銀色の糸が二人の少女を繋ぐ。
　
「ひぁぁん！！」

　当然、そこからはしびれにも似た快楽が走る。真っ白な少女は身をよじるようにして快楽に耐えた。
　そんな状態でも、アリサの纏う清楚な雰囲気にはかけらほどの綻びもない。淫靡な空気を、たちまち姉妹がじゃれ合っているかのようなものに変えてしまう。
　
「気持ちいいですか？」

　そう問いかけたアリサに対し、少女は首を縦にかくかくと振った。それと同時に、再び蜜があふれてくる。
　それを確認したアリサは、自らの尻尾を掴んだ。白いワンピースのすそがめくれあがる。

「じゃあ、いきますね」

　ずぶり。
　アリサは自らの尻尾を、少女の秘部に一気に突き立てた。




「ひぁぁぁああああぁああ！！！あっ、ああぁッ！！」

　絶え間なく少女の喘ぎ声が響く室内。白い少女たちが遊んでいた。

「あはは、どうです？あったかいですか？」

　アリサは息こそ乱れているものの、しっかりした口調で言った。対する少女は

「あ、あぃ。あったかぃ、あったかぃよぉ」

　呂律が回っていない。しかし、すでに焦点の定まっていない目や、だらしなく開かれた口からこぼれるよだれを見るに正常な状態ではないことは一目了然だ。
　そして、その返答に満足したのかアリサは満面の笑みを浮かべる。同時に、彼女の太ももの内側に一筋の水が滴った。

「そうですか………。なら、眠りましょう。私が眠らせてあげます」

　そう言ったアリサは再び自らの尻尾を掴んだ。そして、今まで少女の浅い部分にあった先端を、花びらの唇の奥まで進める。ぬちゃり、と淫靡な音が響くと共に、少女が身をのけぞらせ、がくがく揺れた。

「あああああああああああッッ！！ら、らめッ！！そこ、おかしくなッちゃぅぅぅッッ！！！」

　少女をそんな状態にしても、まだアリサは尻尾を動かすのをやめない。花びらの敏感な所をくすぐり、下の唇の奥をまさぐる。噴水のような潮に抗い、少女を犯し続ける。
　そして、ついに。

「いや、らめ！！らめぇッッ！！ゆるぃて！！もうゆるぃてッ！！！もう――」

　そこで唐突に言葉を切り、がくりと動かなくなる。とは言っても、未だ体は細かく痙攣しているし、花びらからは蜜を吐き続けているが。
　あまりの快感に気絶したのだと、彼女自身は気がつかなかっただろう。
　
「はぁッ、はぁッ、はぁッ………」

　気を失った少女の傍らで、アリサもまた息を乱しながら四つん這いになる。見れば、ワンピースのちょうど秘部のあたりが水に濡れたように湿っていた。そして、太ももには隠しようもなく淫液が小さな川を作っている。
　上気した頬は真っ白な肌の中にあって異彩を放つように赤く、吐き出す息も熱い。アリサは自分の意志とは関係なく、本能の赴くままに手が秘部へと向かうのを感じた。

「んっ、あ、はぁ………」

　じわりと熱いものに手が触れるのを感じたあと、抗うことを許さない眠気のような快楽に襲われ、アリサは意識を手放した。




　ゆっくりと目を開けたアリサの視界には、一面の真っ赤な花が咲いていた。
　ベッドのシーツは言うに及ばず、壁や床、果てには天井にまで真っ赤な花が咲き乱れている。
　その中心には、今はもう真っ白ではなくなった少女が１人、ぴくりとも動かずに横たわっていた。その手に握られているのは装飾の少ない銀製のナイフ。

　真っ白な少女は、その身を真っ赤に変え、こと切れていた。

「なん………で」

　その光景の意味を理解したアリサは、そうつぶやくのが精いっぱいだった。
　そして、彼女のベッド脇のテーブルの上に眠る前は無かった封筒が置いてあることに気がつく。宛名は、

「Dear my friend. ………“親愛なる友へ”」

　アリサは、それだけで湧きあがる涙を必死でこらえながら封筒の口を破った。
　中からは、手紙が一枚だけ出てきた。

「親愛なる友へ。
　今日は私のためにありがとう。でも、ちょっと恥ずかしい所も見られちゃったね。
　多分君は今泣いてると思う。それを君に謝ることができないのが少し心残りだよ。
　私は君のおかげで忘れていた暖かさを取り戻すことができたよ。それと同時に、冷たさも。
　だから分かった。私の言ってたことは間違いだって。

　死ぬのは、怖いよ。

　私は死にたくない。でもそれと同時に、誰かを殺すのもそれ以上に怖いよ。
　もちろん、誰かの人生を狂わせたりするのも怖い。
　君に助けてもらったら、いつか私は取り返しのつかないことをする。
　だから私は死ぬことにしたよ。
　大丈夫、平気だよ。君のくれた優しさがあるから。熱があるから。
　君にはつらい役目を押し付けちゃったかもしれない。そのことは心から謝るよ。
　………あれ、おかしいな。最後は笑って逝くって決めてたのに。ペンの震えが止まらない。
　ごめんね。君の想いを無駄にして。でも、確かに私は君の想いを受け取った。
　君は大切な人を裏切らないようにね。私みたいにならないでね。
　じゃあ、私はもう逝くよ。

　バイバイ　　　　　　　　　シリカ＝リィゼル」

　読み終えたころには、すでに手紙は涙でくしゃくしゃになっていた。泣くだけでは飽き足らず、床にうずくまって嗚咽を漏らす。

「あぁぁぁあぁぁぁ…………！！！」

　近くには、瞳を閉じて安らかに永遠の眠りについたシリカの姿。喉から流れ出た大量の赤色がなければ、眠っていたとしても何の不思議もないほど安らかな顔だった。




「ただいまー、ってアリサちゃん。どうしたの？」
　
　夜、自らの部屋に帰ってきたイリアが見つけたのは、血まみれのワンピースで床に座り込むアリサの姿だった。
　その表情がまた異質で、疲れ切った顔からは大粒の涙があふれ続けている。

「イリア、さん………」

　視線をこちらに向けられ、イリアはまさか、と思った。

「まさか、昨日私が言ったこと、そんなに気にしてたの！？」

　そう言ったイリアに対し、アリサは

「イリアさん………。慰めてください………」

　それだけ言うと、力なく立ち上がり、イリアのベッドに倒れ込む。ぼふっ、っと音がし、それっきり動かない。
　ドアの前に立ち尽くすイリアは、慌ててベッドに駆け寄りアリサに聞いた。

「え、どういうこと？なにかあったの？」

　それに対するアリサの答えは簡潔だった。いきなり血濡れのワンピースを脱ぎすて、その白い体を晒したのだ。そして、指で秘所を弄ぶ。

「慰めてください………」

　秘所にたまった蜜で糸を引く指を舐め、アリサはイリアに同じ文句を投げかける。

「後で、全部話してもらうわよ、アリサちゃん」

　そう言って、先客のいる自らのベッドに入り込むイリアはどこまでも優しい顔をしていた。




「ねぇ神様。何故貴方は人間に“愛”を与えたの？」

■作者メッセージ
どうも湖です。更新が遅れてすみません。

今回は超絶バッドエンドとなっております。筆が進まず大変でした。
一応、１章の「if」的な要素が盛り込んであります。その場合、キャラの立ち位置とかは大幅に変わってきますが……

今回も後に行けばいくほど描写が雑になっていきます。それに意味不明な展開も多いです。いつか、治せたらいいなぁ………

最後になりましたが、読んでくださった方、感想をくださった方、投票までしてくださった方、本当にありがとうございます。これからも精進していきますので、応援よろしくおねがいします。