連載小説
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サバト殲滅戦 (前編)
【注意】
魔物娘が酷い目に合うのでそういうのが嫌いな方は回れ右推奨です。
魔物娘に死者がでます。














































少女は1つの資料を読み出した。
それまで読んでいた本や資料は全て片付けており、今彼女の手元に残る本は今こうして読んでいる本だけである。
おそらくこれが、少女が手に取る最後の資料となるだろう。

内容は『国境都市ノメイン急襲戦』というサバトに対する殲滅戦とその後の顛末。
さらには聖皇暦326年12月に勃発(再開とも言う)した第2次レムリア内戦についてである。
反魔物派と新魔物派の大規模な戦闘では有るが、双方とも同じ国内に存在する勢力なので、内戦と呼ばれている。
無論、人によっては呼び方が変わることもあるが、大よそはこの呼び方で定着していた。
そして、少女は本を読み解き始めた。

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―風を切る音。

――視界が体から開放された。

―――私の後ろの壁。

――――私の身体。

―――――私に剣を振るった女騎士。

――――――全てが目まぐるしくグルグルと回りながら。

―――――――私は床に落ちていった。

―――――――――――――――――


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聖皇暦325年初頭。
その日、親魔物派と反魔物派との国境に近い都市、ノメインにある小さなサバトでは不定期ながら恒例となったミサが行われていた。
とはいってもその内容はサバトの構成員(魔女とその兄)による乱交である。

小さな洋館の地下室で、男女合わせて40人ほどが、体位を変えたり、興味本位で相手を変えたりして、性交を楽しんでいた。
幼い肢体の魔女たちは快楽に喜び、悦びながら、男達の精液を膣内や咥内、果ては腸内で受け止め、飲み込んでいった。

顔や唇はおろか、その慎ましい胸、白い腹部、柔らかい太もも、細い腕、小柄な臀部、それら全てを白く濁った精液でドロドロにしながらも、彼女たちの表情は悦楽に満ちていた。

それは彼女たちにしてみれば、食事に等しく、また『お兄ちゃん』との情愛を確かめ、自らを焦がす愛欲の炎を鎮める行為であった。
だが問題点もある。
それはミサの日に限り、このサバトは警備要員が著しく減ってしまう。
それでも、魔物である以上、精(と性)の補充は必須だし、自分の伴侶と愛し合う時間も欲しいと言うのがこのサバトにおける多数派なのであった。

よって洋館の警備はこのサバトの頭であるバフォメット、ストールの側近のみで行なっている。
だが、前日に行われた配置転換の結果、力のある魔女数名が別の地方都市に回され、この日洋館の警備に立ったのは2人の高位の魔女だけだった。

現在ストール自身は自室に篭り、書類の整理をしている。
しかし、地下室から立ち昇る強い魔力と男女が醸し出す濃厚な情欲の香りが、彼女自身の理性を突き崩しに掛かっていた。
辛抱たまらないから自分も混ざってこよう…などと側近の事も無視した事を考えた次の瞬間、側近2人の念が突然途絶えた。

今までは状況報告を5分おきにさせ、更に常に2人を感じられるように、念による通信を繋いだままの状態にしていた。
だが、それが突然、蝋燭の火を吹き消したかのように、ふっと途絶えたのである。

(!?)

ストールは一瞬困惑した。
当然、2人からの念話接続が一方的に切断されたのだから、2人に何かがあったのはすぐに理解できた。
だが、ここは国境線の内側であり、反魔物派からの攻撃を受ける理由が彼女にはすぐに思いつかなかった。

(…今はミサの最中……誰かを呼ぶわけにも行かないし…まあ、わしともう一人で十分かな…)

「ダージュ!、おるか?」
「はい、ここにおります、ストール様…いかが致しましたか?」

ストールは深刻な事態に陥っているという判断はせず、3人目の側近であるダージュに声をかけた。
彼女は現在この洋館に残る3人目の高位の魔女である。
扉の向こうで待機していたらしいダージュはストールの部屋にゆっくりと入ってきながら、そう返事をした。

普段の警備は2人が外に立ち、1人が洋館の中に待機、という体制をとっている。
この時間は本来彼女が外に立っていたのだが、彼女は今日の警備に限って、外に立つのを変更してもらっていたのだった。

「うむ、フィリとマイからの念が途絶えておる、問題は無いと思うが…一応わしと調べに行ってもらうぞ」
「っ……分かりました。」

表情を曇らせるダージュはそのサラサラとした金髪と青い目を不安げに揺らす。
だが、それでもこのサバトの実力確かな魔女である。

自らの得物である頭骨を用いた杖を胸の前で抱きしめ、先んじて部屋から出て行くストールを追い、部屋を飛び出した。

紅い絨毯を引いた廊下を歩き、キシキシと音を立てる階段を降りた。
階段を下りてすぐに広がる小狭な広間、そしてその先に外に通じる両開きの木製扉がある。

だが、この空間を支配するのは静寂。

何も聞こえない。

何も感じない。

それだけならば、何の異常も無かっただろう。

ただ、玄関の扉が開かれており、玄関近くに敷かれている紅い絨毯の上に、それ以上に真っ赤な水溜りを広げる、魔女の頭部が2つ置かれている事を除けば… 

「!!」
「ひっ…」

ストールの背筋に怖気が駆け登った。
脳内が一気に覚醒、臨戦態勢まで引き上げられる。

ダージュも反応はほぼ同様である。
ただ、若干ストールより怯えが多かったが…


(くそっ……)

ストールは内心毒づくが既に手遅れ、判断ミスが致命的な代償を要求してきた。

「ス…ス…ストール様……こここ…これは…」
「…敵襲じゃ……ダージュは早くミサに参加してる連中をにがs…!?」

会話の途中で玄関の向こうに人の気配を感じ、ストールは迷わずそこに炎術を打ち込んだ。
5つの火球が玄関のすぐ向こうで爆炎を上げる。

常人ならばあっという間に灰になる程の業火であったが、間も無く炎を切り裂いて人の形をした何かが1つ、この洋館に入ってきた。
ダージュは既に地下室へ向かって走っている。
場所は今ストールがいる場所から建物の最奥にある礼拝堂の地下。
そこまで彼女がたどり着いて、仲間を脱出させるまで、ストールは目の前の敵を全力で足止めしようと考えていた。

「貴様、何者じゃ!!」
「……」

薄汚い布を頭から被り、その表情はおろか、どんな服装をしているのかすら分からない。
だが、背丈はそれほど大きくなく、敵が屈強な教会騎士であることを想定していたストールにとってはその様相が異様な姿に映った。

「……を」
「?」

その誰かはボソボソと小さな声で喋りだす。
だが、ストールにはそれが聞き取れない。

「…」
「答えんか、この痴れ者が!!!」

業を煮やしたストールが今度は雷術を放った。
空中を横に伝わる紫電が耳障りな音を立てて、目の前の敵に襲い掛かる。
それは常人ならあっという間に感電死に追い込まれる破壊力であった。

「……『盾』」

まるでガラスのコップをスプーンで優しく叩いたような、耳に残る声が聞こえた。

次の瞬間、雷撃と敵との間に防御結界が発生した。
それは視認できるほどの強い魔力で、前方に盾の様な形を作り出していた。

雷撃は全て、その防御結界の外側で帯電し、放電した後、力を失い消えた。

「ば…ばかな!」

自分の目にしたものを打ち消そうと、再度風術で風の刃を作り、打ち出す。
だが、それもまた、彼女の目の前に展開された防御結界に阻まれ、相手を切り裂く事は出来ない。

ストールは目の前で行使された魔術に驚いていた。

なぜなら今の魔術は一切の魔力練成無しにいきなり効果だけが現れたからだ。
通常の魔術であれば、魔術の発動に必要な分の魔力を使う魔術に合わせて加工し、消費する。
高位な魔術になればなるほど、精密な魔力制御を行った魔力が大量に必要になって時間が掛かるものなのだ。

魔物や魔術師も確かに高速で高位魔術を行使するが、それは体の一部に魔術ごとの魔法陣を予め刻印し、常に魔力の一部を練成させる事で発動速度を上げたり、長い年月を費やして鍛錬を積み、高速化しているものだ。
だが、今の防御魔術は違う。

「…私は…」
「!」

響く声が再び聞こえてきた。
だがそれは、魔術の行使ではない。

「私は『スペルリーダ』」
「…スペル…リーダ?」

ストールの知りうる知識の中で、今の単語と合致するものはただ1つだった。
近年になって現れた謎の魔術師、出身や年齢、使用する魔術、所属等、おおよそ必要な事は全くと言っていいほど不明であり、人間や魔物に戦闘を仕掛けていると言うことだけが分かっている。
無論、スペルリーダと言う呼び名も本名ではないだろう、だがそれとて推測の域を出るものではないし、まして本名が分かっている、などということも無い。

「そんな貴様がわしらに何の用じゃ!」
「…仕事」

言葉短くスペルリーダは告げ、自らの懐から本を一冊取り出した。

表紙・裏表紙共に紅く装飾されたその本が何なのか、ストールには分からなかったが、彼女が魔術師であることから、それが魔道書なのだろうと考えていた。
戦闘の合図、そう感じたストールは自らの大鎌を召喚し、即座に攻撃に入れるように構えた。

「『浮』」
「?」

スペルリーダが口ずさむのはただの単語である。
単語の意味するところはストールにでも理解できるものであるが、この場でそんなことをする意味が理解できなかった。

「!!」

スペルリーダが単語を呟くと、間も無く手に持った魔道書が勢いよく開いた。
まるで風に吹かれるようにめくれる本から、何かが飛び出してきた。

「これは……札(カード)?」

枚数は分からないが数十枚に及び、それらがまるで自力で浮遊しているかのようにスペルリーダの周囲を浮かんでいる。

それはトランプではないしタロットでもない、ジパングにある玩具の類でもない。
しいて言うならばタロットに近く、一枚一枚に異なる絵が書いてあるようだった。
その異様な光景にストールは一瞬心を奪われた。

「いきます」
「!」

気迫のこもった声に、ストールが我に返ると、既にスペルリーダの周りには札が囲むように浮かび、スペルリーダ自身も着ていた外套を脱ぎ捨てている。

ボロボロの布の下にあったのは、まだ20にもなっていないであろう少女のあどけない顔であった。

頭に載っている帽子から、足先の靴・靴下まで、淡い栗色の髪の毛を除いて全身真っ黒な出で立ちは、幼さを残す彼女には不釣合いで、不気味な様相を呈している。

左手には魔道書、右手には『先端が輪の周りを剣先のような突起で装飾された』異形の杖。

彼女は杖を横に倒して構えているが、それを魔術の媒体として用いる様子は無い。

「『撃』」
「!?」

スペルリーダは単語を口にするだけ。
それだけで魔術が行使される。

スペルリーダの周りを浮かぶ札の1枚から、光弾が数発放たれた。

ストールは魔王交代後にバフォメットとなったいわば新入りの魔物であるが、それでも歴戦の戦士でもある。
魔術の発動は予期できなかったが、襲い来る光弾を全て弾き、躱した。

目標を打ち抜けなかった光弾は壁や床を穿った。

(…いくらなんでも、早過ぎる)

魔術の発動の速度にまったく追いつけない。
先んじて妨害する事も考えたが、彼女が『単語』を口にするのとほぼ同時に魔術が行使されるのだから、妨害が追いつくはずも無い。

ストールにはあれがどんな魔術なのかも見抜くことができずにいた。

「……『雷』」
「っ!」

どう立ち回るべきか、思案しているところに第2撃。
1枚の札が吐き出したのは雷撃であった。

ストールは床を蹴り、飛び上がる。
すると、一度は地面に突き刺さった稲妻が今度は空中のストールめがけて進路を変更し、猛烈な勢いで迫ってきた。

「ぬぁぁぁぁめぇぇぇぇるぅぅぅぅぅぬぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

事もあろうにストールは手にしていた大鎌で雷撃を殴りつけた。
紫電を撒き散らしながら、耳障りな音を立てて、雷撃は霧散する。

そして、一瞬の間。
ストールが上昇から転落に転じるために中空で停止するその一瞬。

ストールは自身の持つ魔力を目一杯使い、氷術を放った。

雷撃を相殺した時点で詠唱と魔力練成を始めていたその魔術は、人間よりも遥かに大きな氷柱を何本も生み出し、常人ならば視認できないほどの速度で敵目掛けて突っ込んでいく。
だが…

「……『消』」
「さっきから何なんだ!、お前の魔術は!!」

幾多の氷柱はスペルリーダの身体を貫く前に、1枚の札から伸びた何本もの半透明の腕に飲み込まれ、全て消滅した。
一瞬で自分の渾身の魔術がかき消される。
その様子を見て、ストールは激昂した。

既に身体は床に降りて来ている。
今は再び2人が向かい合ってにらみ合っている状態だった。

「…答える必要は無い」
「ならば、力尽くでも!!」

ストールが次に放ったのは炎術。
6つの大火球がスペルリーダに迫った。

「…『盾』、『水』」

(同時発動もできる…だと)

スペルリーダが魔術を行使している間、その『盾』はずっと機能していた。
だが、自らの魔術を透過させるために、効果を非活性化させていたようだった。
改めて効果を活性化させ、水を纏った魔力の盾が火球を全て受け止めた。
というよりも、盾にぶつかる前にその手前の水の壁で打ち消されているようだった。

(?…あの盾は魔術攻撃を全て防げるはずじゃないのか…なぜ二段構えの防御が必要になる?)

相手の術の解析に力を振り分けつつ、ストールの戦いは続いている。

〜続〜
11/06/14 00:22更新 / 月影
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■作者メッセージ
久々に書いたので、リハビリ作(前半)。
反魔物派(教会派)の逆襲(?)、無論、既に総力で負けているので、悪あがき。
そんな状況です。

スペルリーダは元ネタがあります。
バレバレとは思いますが…;
あの能力で本気出して殺しに来たらどうなるのか、などと妄想をしていたので、ここでちょこっと書いてみようと思った次第。

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