連載小説
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偶然見逃されたとある記述 U
ダークスライムのリシアに会ってから既に2ヶ月。
3人は更に親魔物領奥深くに潜入し、西端の町ヴォルマルクに辿り着いていた。
そこは魔都エリスライから西へ300kmの位置にある漁港の町。

烏天狗に出会った山奥から更に西がどうなっているのか、3人には知る由も無いものであった。

この町は他国(他の大陸の親魔物派)との交易を中心に栄える町である。
ここはジパング行きの直行便が出ていることでも有名だった。
というのも、ジパングはこの大陸から更に西に位置しており、この町はジパングに比較的近い港町だからだ。

今3人は観光船に乗り込み、遊覧を楽しんでいる。
いや、調査のついでに船に揺られているというべきか。

いずれにしても、3人の調査はまだ終わらない。

「…わざわざ海に出たということは…」
「そそそ、今回の調査は海に住む魔物について…だ」
「という事は…海原の魔女…シー・ビショップのディーニャか…」

3人は温かい昼下がりに、いつもの黒尽くめの服を着込んで観光客や独身の男達が乗り込む船に乗り込んでいた。
その中には男女のカップルも僅かに乗り込んでいたのだが、それでも3人の容姿は明らかに周りの雰囲気から乖離している事に当人達は全く気が付いていない。

そして、“眼”が口にしたディーニャについては、魔王軍発行の資料以外にも情報が存在する。
彼女はシービショップとして非常に優秀な固体であり、『魔女』に匹敵する魔術センスを有している。
彼女が行う『海上封鎖』はかなり強固に敷かれており、反魔物派の密輸船や無許可の商船がことごとく拿捕されている事からも、その精度が伺える。
彼女がこの大陸周辺の海洋部隊の隊長に就いてからは、ことシーレーンについては完全に魔物に掌握されているといってもいいだろう。

そんな彼女に付いた二つ名が『海原の魔女』。
そのような実績と経歴から、彼女についての情報は少なからず反魔物派にもたらされていたのだった。

「で…ディーニャについての調査を行うのはいいとしても、なんでこんな場所にわざわざ?」
「それはな…町で仕入れた情報だが、ここ最近では観光や海の魔物との交流活性化の目的で定期的に彼女が観光船をもてなしているらしいんだ」

“耳”は“足”からここまでに至る簡単な経緯を聞いた。
なんでも、海の魔物達は陸の者達と異なり、人間の男に会う機会がそこまで多くは無いらしい。
漁村の近海に住む者達はともかくとして、海のど真ん中(位置的にも深さ的にも)に住む者達にとっては、近くを通りかかる漁船や商船くらいしかなく、とても寂しい思いをしているらしい。
そんな仲間達のことを考え、出会いの機会として、観光船を仲間達ともてなし、その中から自分達の伴侶を探そう…という事らしい。

「…人間も魔物も出会いを求めて彷徨い出るわけか」
「まあ、そんなところだな」

“眼”の小言を聞きつつ、“足”は甲板の縁に手を掛け、海を眺めた。
漁村が小さく見え、海の風と波の音が心地よいリズムを刻む。
残念ながら彼は音楽という物に積極的に触れてこなかったので、そのリズムの何が心地よいのかは理解できなかった。

やがて、船が動きを止める。
進行を止めた船は繰り返される波に揺られた。

そして、そんな自然が生み出す音に人工的な無機質な音が混ざり、周囲に響き渡った。

「!!」

爆裂音・破裂音、例えるならば、ジパングで“花火”と呼ばれた物に近い。
花火は火薬を用いて音と光を放つ娯楽の一種。
その音や光が生み出す一瞬の美を楽しむ物だ。

だが、今この場で使われたそれは花火とは些か異なる。

その意味は直ぐに分かる事となる。

“足”が空中で響く音に驚き、帆の方を振り向くが、間も無くそれは消えて無くなり、再び静かな海が戻ってくる。
彼が視線を海に戻したその時、海面が不自然に波打ってるのを見つけた。

「!!、2人とも…あれ…」
「?……!!」

“足”の言葉に“耳”と“眼”も甲板の縁に立ち、海を見る。
海面が不自然に揺らめき、その中から1人の少女が顔を見せた時、3人は心臓が高鳴った。
だが、それはいわゆる恋などという綺麗な物では無く、目標に近づけたという高揚感のためだった。

その少女は水色の透けた体躯を持つシー・スライム。
彼女は3人や他の人間の姿を確認するとニコリと笑い、再び波間に消えた。

それはただの前兆行動。
間も無く先ほどの10倍を超える数の波紋が船の周りに広がり、海面に海の魔物といわれる者達が一斉に顔を出した。

シー・スライム、スキュラ、マーメイド、ネレイス 、メロウ、シー・ビショップ。
さすがにカリュブディスは居なかったが大よそ海に居るといわれる魔物達はこの場に現れた事になる。

30人ほどが海面に浮かんできて、新たに現れる者がいなくなったところで、その場で唯一のシー・ビショップが可愛らしい声を上げた。

「皆様!、この度はようこそおいで下さいました!!」

声からして男心をくすぐるような甘い声、だが、その声は大きく船の甲板に居る者全員に届いた。
そして、丁寧な言葉遣いが彼女の人となりを端的に表している。

「今日は私達の唄と私達自身をどうぞお楽しみくださいませ♪」
「〜♪〜♪〜♪」

シー・ビショップの言葉を合図に、マーメイドやメロウが唄を歌いだす。
その声は理性を甘く突き崩すような脳髄に届く歌声。

「♪」

ネレイスやスキュラは唄こそ歌わないが、その華麗な泳ぎや水中ダンスを披露する。
シー・スライムはただニコニコ笑いながら船に向かって手を振り、ただ1人のシー・ビショップはどこからか取り出したハープを静かに演奏し出す。

彼女達のパフォーマンスの全てが船の男達を甘く誘惑する。

「相変わらずあのマーメイドの唄は上手いなぁ…」
「ばっかやろう、メロウの情熱的な唄の方が良いだろう…」
「ネレイスの泳ぎ…惚れ惚れする…」
「おぃぃぃ!、スキュラのダンスに喧嘩売っとんのかぁ!!、あんなに蠱惑的なのに…」

「お前ら…自分の気に入った娘に声をかければいいじゃねぇかよ…」

3人の近くで、そんな会話がされている。
そう、この観光船は町と魔物公認の出会い系の船。

船体を這うように海まで降りている梯子は男達が彼女達に近付き、触れ合い、求め合うための物。
無論、互いの合意でもって初めて男女が色々し始めるのが絶対のルールであった。

船に乗る者達は甲板の上から彼女達の唄を聴くのも、梯子で海まで降りて彼女達と触れ合うのも、ただ海を眺めているのも自由である。
海に居る者達は海の中で唄を歌ったり声をかけたりするのも、海に降りて来た男達と触れ合うのも、ただ男を見つめるのも自由である。

だが、大概の男は彼女達の下へ行くし、大概の魔物達は男達と触れ合おうとする。

そんな中3人は、先程まで喋っていたシー・ビショップに視線が釘付けになっていた。

「…あいつ…だよな…」
「ああ…間違いない」
「綺麗だし、優しそうな人だね…」

3人は彼女の潜在的な力を何となく感じ取っていた。
海原の魔女とまで言われる魔術や魔力の片鱗は全く見えないところを見るに、普段はその力を一切表に出さないようだった。

「“耳”…忘れるなよ…あいつの部隊は商業船や密輸船を何隻も沈めているんだからな?」
「…うん…」

“耳”の意外な言葉に、“眼”は1つの事実を突きつける。
それは彼女が今どんなに優しげでも、彼女は反魔物派の船を何隻も沈め、その中に居る男を全員連れ去り、運良く逃げ戻ったもの以外は誰一人として反魔物派に帰ってきていないという事実。
その言葉に“耳”は気を引き締めた。

そして、甲板の縁から海上に居る魔物とシー・ビショップのディーニャの様子を見続ける。
それはディーニャの性格や部下(と思われる魔物達)についての情報収集のため、出来ることならば個体の戦闘能力も知りたいところではあるが、この他と隔絶された場所で事を構えるのは絶対的に不利である。

よって、3人は単純な戦闘能力については調べるのを諦め、現状で調べられそうなことのみを調べる事にした。

と、そんな時にディーニャの様子が少し変わった。
彼女は船を見ながら、何かを探しているようだった。

「…(じ〜っ)」

ディーニャの周りでは互いに相手のことを気に入った男女が海面で抱き合い、海中で繋がりながらお楽しみになっている。
それでも船に残る人間達が驚いたりしないのはそれが日常的な出来事なのだろう。

そんな船上居残り組をディーニャがじ〜っと見つめ出したのに気がついた“眼”は慌てて縁から2人を引き離し、船倉に向かって引っ張り始めた。

「…どうしたの?」
「……あいつやっぱりやばいぞ…」

“眼”の様子が尋常ではないことに気がついた“耳”は何があったのかを彼に問うた。
すると彼はこう答えた。

「…俺達に気付いたわけじゃないけど、何か異物が入り込んでるのに気がついたみたいだ」
「!、馬鹿な、俺達は魔力のかけらも漏らしてないし、騒ぎも起こしてないぞ?」

そこに“足”が声を上げる。
その間に3人は食料や水の入った船倉の前に辿り着く。

「だが、俺達の面は割れてるからこの頭巾は外せないし…かといって付けっぱなしなのも不味いかもしれん」
「なんで?」
「…“耳”は気付いてなかったのか?、周りの乗客の視線……不審者を見る目だったぞ」
「?」

本気で理解できていない“耳”に呆れる“眼”、そこに頭巾の件で何となく察した“足”は口を開いた。

「という事は俺達はそろそろ、逃げるか隠れた方がいいわけだな」
「そうなる…ね」

そして、3人は示し合わせると、扉を開けて船倉に消えた。
まもなく空の樽に入り込んだ彼らは船酔いに耐えながら、港まで無事に帰ることが出来た。

ちなみに、3人が甲板から消えた後、男女の乱交(厳密には他のカップルに手出ししないので少し異なるが…)は盛り上がり、どこからか現れたセイレーンが甲板に残った乗客を誘惑するという展開になったが、3人は既に隠れた後だったので実害は無かった。

忘れずに記述しなければならない事として、漁港に戻るまの間に船の乗客で魔物に連れ去られた男は居ない。
これも1つの規則。
観光船の乗客をいくら気に入ったからといって連れ去ってはいけない…というものだ。
あくまでも、海と魔物と人間が仲良くやっていくための1つのイベントなのである。

ただし、前にも述べたがこのイベントは同時に独身魔物と独身男の出会いのきっかけを作る場でもあるので、漁港に戻った後の行動は原則自由である。
そのため、ヴォルマルクに戻った後に消息を絶つ男は少なからず居るようではあるが…

4刻程の時間があって、観光船は港に辿り着き、3人の異物は無事に解放された。

だが、酷い船酔いのため、転移した時と変わらず腹の中身をぶちまける羽目になったようだが…

それから、すぐに宿に戻ると3人はディーニャに付いての報告書をまとめ始めた。

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ヴォルマルク、観光船調査から1ヶ月。
ヴォルマルクから西南へ50km、そこは廃墟街と中央に廃城が佇んでいた。
乾燥した気候のこの地で、3人はいつもの黒尽くめの格好をしている。

「…暑い…」
「暑いね…」

黒装束の下は汗まみれ。
許されるなら今すぐ裸になりたいところではあるが、流石に魔物の勢力圏内でそれは危険行為であった。

「…2人とも…もう少し我慢しろ…ここには魔王軍幹部が2人も居るらしいから、これを済ませれば後がかなり楽になるぞ」
「「おー」」

“足”の言葉に力なく返事をする2人。
今彼らが居るのは廃墟街中で最も城に近く、その中で最も高い建物の屋上であった。
その場での打ち合わせは以下の様である。

「で…その2人とやらは誰なんだ?」
「…相変わらず“足”は現地に着くまで教えてくれないよね〜」
「まあ、親魔物領で誰がどこで聞いてるか分からない状態だからな…あまりベラベラ喋るわけにもいかんさ」
「というか、その類の情報はどこから仕入れてきてるの?」
「それは内緒です!(キリッ」

“耳”の小言を“足”はばっさりと切る。
無論、親魔物領内で迂闊な事が喋れないのは2人も分かっている。
ただ単に暑いから愚痴を零したいだけだったのかもしれない。

「ふむ…まあ仕方ないか」
「それはともかく、ここに居る魔物はデュラハンのスレイとヴァンパイアのラピリス…どちらもアンデッド系の魔物を従える魔王軍幹部だ」
「「!!」」

ラピリスとスレイ、この2人についてはこの前のディーニャよりも知名度が高い。
なぜなら、彼女達2人とこの大陸の魔王軍最高幹部であるバフォメットのフェリンを合わせた3人は、先代魔王の時代から魔王軍の中でも突出した戦闘能力で勇名を馳せていたからだ。
そして、今回の任務はそんな彼女達の訓練の様子を偵察する事であった。

「…なるほど…で…俺らは近付かずにここから偵察というわけだな」
「当然だ…近付いたら確実に殺られる…2人の過去の評判を聞く限り…だが、単身で1個中隊規模を全滅させるレベルらしいぞ…そんな場面は無かったらしいがな…」
「ふむ…」
「…それは…なんというか…」

“眼”は自分の役割を確認するとあっさりと、視線を廃城に向け、それ以上口を開かなかった。
“耳”にしても、2人の経歴や噂に少し圧倒されてしまった。
だが、仕事は仕事。
3人はその場で屋上の無骨な石造りの床にうつ伏せに横たわり、廃城の様子を伺う。

とは言っても、“眼”が廃城の様子をその目で捉え、“耳”は近くに敵が居ないかの探知をし、“足”がいざという時の逃走手段、といういつものやり方ではあるが…

やがて、“眼”の千里眼が廃城の正門前にある広場での出来事を捉える。
それは2人の人型が得物を手に打ち合っている様子であった。

「げっ…」
「?、どうしたの…?」

“眼”が思わず零した呻き声に“耳”が心配そうに声をかけた。
すると、彼は何か恐ろしい物を見た様な顔で答えた

「……デュラハンとヴァンパイアが武器を持って戦闘訓練してる…」
「?、それは想定済みだったんじゃないのか?」

“眼”の言葉に“足”が疑問を投げかけるが、どうも“眼”の歯切れが悪い。

だが、彼が思わず困惑する理由…それは2人の武器と戦いの激しさにあった。

今、“眼”が改めて視線を廃城に戻す。
真っ先に網膜に映った光景…その異常な状態に彼の目は奪われた。

それは2m程もある無骨な大剣を真上から切り下ろすデュラハンとそれを繊細な作りの筈の刀で受け止めるヴァンパイアの姿であった。
彼は思わず心の中で舌打ちをする。

(…冗談だろ……あの大剣…50kg以上か?……あんなの両手使ったって持ち上がりすらしねぇっつうの!……それを刀で受け止める?、出来るわけねぇだろうボケ、刀同士で打ち合っても下手すりゃ欠けたり折れたりするっつうの)

悪意の篭る冗談のような光景を“眼”は確かに見た。
それは、少なくとも彼らの常識レベルからはかけ離れており、原因など分かるはずもない。
一先ずのところ、3人の目的の一端は果たせたのだからそれはそれで収穫としておいた。

「…どうしたの?」
「…あぁ…」

“耳”の問い“眼”は答えない、否、答えられない。
余りにも異常な光景が彼の反応を鈍くしていた。
それでも何とか正気に戻り、彼は口を開いた。

「…あの2人はヤバイ…いいか、気が付かれたら即効で撤収だ…逃げる好機を失ったら俺らは……死ぬ」
「……分かってる、で2人の戦闘スタイルとか、部下の様子とか…分かったか?」

“足”は“眼”の言葉に、いかに今回の調査対象が危険かを改めて実感する。
そして、本来の目的である情報収集について、“眼”に問う。

「ああ……スレイは刃渡り2m位の大剣使い…重さは…材質が分からないけど50kg位ありそうな代物だ」
「……デュラハンって女でしょ?、持ち上げられるの?」
「いやいや、男でも無理だろそれ……でラピリスの方は?」
「うぃ、えっとな彼女のほうに付いてはいわゆる日本刀を使ってた……が、その大剣を真っ向から受け止める辺り、ただの刀じゃないな」

冗談のような光景を“眼”はそのまま語った。
今まで会ってきた魔王軍幹部達にしてもそうだが、一般的に見られる個体と比べて、能力が飛び抜けすぎている。
それこそが、魔王軍幹部たる由縁なのかもしれないが…

いずれにしても、その異様な光景をそのまま伝えた“眼”は改めて2人の様子を伺い始めた。

今度はスレイが両手で大剣を構え、ラピリスが納刀したまま、刀の柄に触れるか触れないかの所で手を開いている。
ラピリスのそれは、いつでも刀を抜き、相手に切りつけることが出来る構え。

(!、居合い術?)

ジパング出身だけあって、その構えが何なのかすぐに看破した。
そして、スレイが大剣を振り上げ、切りかかる刹那。
白銀の刀身に反射する光だけが、彼の目に届いた。

一瞬の斬撃がスレイの大剣を弾き返したのは確かだが、剣筋が全く見えなかった。

だが、実は問題だったのはそこではない。
その時、彼は気がついたのだ…今は……『昼間』であった。

(……ヴァンパイアって夜の一族だろ…昼は力が落ちるんじゃないのか?)
(もしこれが力の落ちた状態だとしたら……)

ヴァンパイア・ラピリスの能力に驚かされつつも、“眼”は眼前の戦いから目が離せない。

廃城の前では弾きあげられた大剣が再び振り下ろされているところだ。
スレイは第2撃がラピリスに回避されるや否や、地面にめり込みつつある大剣を力任せに逆袈裟の形に持って行く。
無論、峰での斬撃だが、重量が重量だけに何の気休めにもならない即死の斬撃である。

第3撃、ラピリスは思わぬ角度の斬撃に納刀の暇も与えられずに防御に回る。
スレイが今やっているのは居合いに対しての1つの対抗策、抜刀した刀を納刀させずに攻め切るというものだった。

だが、ラピリスは居合い術だけでなく剣術にも秀でていたようだ。
居合いの構えに戻れないと悟るや否や、第3撃を防いだところで彼女が攻勢に転じた。

…と、これからの展開をどこか期待し、興奮しながら見ていた“眼”の肩を揺さぶる者が居る。

「おーい、戻ってこーい」
「大丈夫?」

“耳”と“足”が2人掛りで彼の肩を揺さぶってもすぐには気がつかないほど、“眼”は2人の戦いに夢中になっていた。
それこそ、任務もすっかり忘れて、である。

「あ……ああ、すまん」
「で…夢中になっているところ悪いんだけど…」
「ああ、あの2人はやっぱり凄い…戦闘スタイルについては戻り次第詳細を報告する」
「うん…」

“耳”の問いにそう答えると、今度は“足”が声をかけてきた。

「で、2人の個別戦闘能力が分かったのはいいんだが、2人の部下についてな…」
「ああ……不思議な事に部下達が演習している様子が無いんだよなぁ…そもそも何人居るかも不明だけどさ…」
「それなんだが…」

“足”は黙って下を指差す。
下とは、当然階下の事だ。
“眼”がおもむろに下を見ると……

そこには…

いた。

それはもう、200人位のゾンビだのスケルトンだのデュラハンだのが所狭しと、3人が居る建物の入り口に施されたバリケードを打ち破ろうとしている。
彼女達の中には刀剣や盾を持つものまで居る。

封鎖が破られるのは時間の問題だし、下手をすればスレイとラピリスがやってくる可能性すらあった。

「あ……やばい」

と、突然の危機的状況に頭が白紙になっていた“眼”現実に戻ってきたのは、目下でバリケードの木板や鉄板が弾け跳んだ時だ。
次の瞬間に、“眼”の口から飛び出した言葉はただ1つ。

「跳べ!!“足”!!」

“足”と“耳”に関しては数分前から徐々に集まってきているのに気付いていたし、最悪の状況になれば、“眼”が見る事をやめていなくても無理矢理転移術で逃げていただろう。
それが、今になったところでやる事は変わらない。

“足”は転移術を開放、あっという間に3人は光の本流に飲み込まれる。

ただ、その光はいつもと違い薄暗い灰色であったが……

〜 続 〜
10/10/12 23:30更新 / 月影
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■作者メッセージ
というわけで、連続物と相成りました。
が、次で終わりです()。

紹介する魔物は後3人です。
そして、本編も構想が固まってきました…が、もうしばらくお待ち下さい。

(*´Д`)龍の登場を心待ちにしております。幻の4人目(笑)

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