影をとるか影をとるか、それが問題だ %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

影一つ

 「恋の叶う樹」 樹に好きな人の名前と自分の名前を彫り込めばその恋は成就するという学校の伝説。
 こんな他愛の無い噂、本来なら女子の間で勝手に盛り上がるための迷信に過ぎない。男子なら鼻で笑い飛ばすような内容だ。
だが、その時の彼は違った。
「・・・。」
 夕方の神社。学校の裏手に位置するこの神社は、いつもなら麓の鳥居と社を結ぶ千段階段を運動部が駆け上がっている様子が見られる。
 だが今は、部活動も終わり、太陽はあと少しで完全にその姿を隠そうとしている。
「ルール1:樹に自分の名前と相手の名前を彫り、日が沈む瞬間に相手の名前と愛していますと叫ぶこと」
「伊藤カレン、愛しています。」
言い切った瞬間、完全に太陽が地平線に隠れ、あたりはフッと暗くなった。
「・・・。」
 言っちまった。その男子は、段々とその事実に胸が熱くなってきて、踵を返して階段を下りていった。
 男子が階段を駆け下り、その姿が遠くなっていくとそれまで伸びていた樹の影がにゅっと起き上がった。
 起き上がった影は、するすると先ほどまで男子がいた場所に移動し、樹にできた真新しい傷に指を這わせてクスリと微笑んだ。




「くぉぉぉぉぉぉ・・・。」
 一人の男子が頭を抱えて机に突っ伏していた。彼の名前は、山田狂祐。随分と不吉な名前だが何世代か前から名前に狂の字を入れることが一族の決まりになっているからだ。
 ここは港町に位置する高校の教室であり、休み時間なので皆が好き勝手におしゃべりをしていた。当然、魔物共学であるので人外比率も高い。
 そんな中、彼が何をうなっているかと言えば、三日前に「恋の叶う樹」に名前を彫り込んだことに関係がある。
「ルール2:ルール1を終えた三日後に相手に告白する」
 そう、彼は、何としても、今日中に伊藤カレンに告白しなければならなかったのだ。
「おい、マジでやるのか?」
 そう狂祐に話しかけたのは、彼の親友であり家も近くにある幼馴染。彼は今回の計画を聞かされていたが、一抹の不安を抱えていた。
「もう樹に名前彫ってきちまったしよぉ〜。覚悟決めるしかないだろ。」
「だけど、あいつは・・・。」
「その話は何度も聞いたよ。でも皆には優しくしてるだろ?」
「そうかも知れんが・・・。」
 狂祐は、壊滅的に女子にモテなかった。その理由は、余りにも喧嘩っ早いその性格のせいだ。彼は普段は大人しく、親しい人間や魔物とは普通に会話をするが、何かのきっかけで烈火のごとく怒り狂う癖があった。彼は、完全にビビられており、また、女子に対しても容赦なく悪口を飛ばすため相当嫌われていた。
 しかし、親友が心配していたことはそれとはまた別にあった。
「手紙、受け取ったとこまで確認したし、名前も書いてるから誰だかもわかるだろ。」
「ちょっと待て!?お前、名前書いた手紙を下駄箱に入れたのか??」
「そうだけど?普通に考えて名前書かないと誰だかわかんねぇだろ?」
「いや、そうだけどさ・・・。」
 一抹の不安がだんだん大きくなる。親友は、ふられることは仕方ないと考えていた。相手の気持ちもあるし、そのことは本人も了承済みだ。
 親友はすでに彼女持ちなので(温泉旅行に行ったときにサラマンダーの子に襲われ、追い払ったらそのまま着いてきてしまい、学校にも転入してしまった)
女子の噂話や互いの評判についての話を男子よりかは知っている。それによれば伊藤カレンは、いつも振り撒いている笑顔とは別の顔があるらしい。
親友は、その悪い噂を心配していた。
 その時、ガラッと教室のドアが開き、噂の人物が教室に入ってきた。
「やっべ、緊張してきた。」
「おいおい、今日の放課後だろうが。もつのか?それまで。」
「お前の時は何て告ったんだよ?」
「告ったもなにもいきなり木刀で襲い掛かられたところを素手で叩き伏せただけだら参考にならんぞ?」
「・・・確かにな。つーか、お前よく生きてたな。」
そんな話をしながら緊張を和らげている時に騒ぎは起こった。




「みんな〜、お知らせがありま〜す!」
 いきなりの呼びかけに狂祐も親友も壇上を見やった。そこには白い紙のようなものを持った伊藤カレンが立っていた。
「なんだなんだ?お前の将来の彼女、なんかやり始めたぞ。」
「・・・。」
「おい、どうしたよ?黙りこくって。」
 黙っている狂祐に違和感を感じ、壇上の伊藤カレンをもう一度見やった。伊藤は何故か何か勝ち誇った顔をしており、手に持った紙を頭の上で振って見せびらかしている。
 紙は小さいもので、ちょうど手紙のようにも見えた。
手紙?
 はっととなり親友が端に固まっている女子の集団を見ると皆一様にくすくすと笑っており、何かを耳打ちしていた。
「おい、もしかしてあの紙って・・・?」
「・・・。」
 なおも黙りこくっている狂祐の反応から、やはりあれは狂祐が出した手紙のようだ。
(いったい何をしようってんだ?)
 そう親友が考えていると、伊藤カレンは手紙を開き、読み上げ始めた。
「えーと、いきなりこんな手紙を入れられて迷惑してるだろうと思う。
だけど、どうしても伝えたいことがあるんだ。君が楽しげに話をする姿に惚れた。付き合いたいと思っている。
返事を聞く前にきっちりと自分で伝えたいと思ってるから校舎裏に来てほしい。 山田狂祐」
 紛れもない狂祐の手紙だった。教室中の視線が狂祐に集まるなか、彼は視線を落とし、わなわなと震えていた。
「放課後は用事があるからいまここで聞くわ。何か言いたいことがあるんでしょ?」
 カッとなった親友を抑えて狂祐は立ち上がった。
「ああ、伝えたいことがある。俺は君が好きだ。お付き合いしてください。」
 そう言って狂祐は頭を下げた。
 しんと静かになった教室で狂祐は自分の心臓が早鐘のようになっているの耐えた。
「返事は、お・こ・と・わ・り♪」
「そう・・・か・・・」
 結果は解かっていた。教室で手紙を読み始めた時点で解かっていた。だが、次の言葉までは読めなかった。

「あんたみたいな乱暴なやつに告白されて私が受けると思ったの?馬鹿じゃない?折角、恋の叶う樹にまでお祈りしたのにねぇ〜♪」

 狂祐は自分が身体から抜け出てどこか自分から一歩引いたところにいるように感じた。次々に浴びせられる辛らつな言葉が耳に入るがその意味まで理解できなかった。
 我に返ったのは、隣で親友が飛び出しそうになったからだった。狂祐はそれを再び押しとどめた。
「なんでだよ!?あいつ言いすぎだろ!!」
「あんたは関係ないんだから引っ込んでなさいよ〜。」 「そうよそうよ!」 「ひっこめー。」
 それまで野次馬を決め込んでいた女子が一斉に非難を浴びせはじめた。
「うっせぇ!!ブスども!!てめぇらも関係ないだろ引っ込んでろ!!」
「やめろ。結果は解かった。もういい。」
「お前!らしくねえぞ、こんなので引き下がんなよ!」
 伊藤は、勝ち誇った顔で壇上から見下しており、周りの女子は暴言を吐いた親友と狂祐に対し非難の声を浴びせかけた。男子はと言うと、自分達にも飛び火するのが嫌なのか
 聞こえないかのようにそれぞれで固まっていた。
「おらぁ〜、何騒いでんだぁ?」
 先生が教室に入ってき、その場はいつもの授業風景に落ち着いた。




 狂祐は、学校が終わると教室から抜け出し、親友の静止も聞かずに神社までとぼとぼ歩いた。ゆっくりと千段階段を上り、三日前決心と共に刻み込んだ自分の名前の前に座り込んだ。
 伊藤カレンには別の顔がある。親友はそう言っていた。男子、女子問わずに笑顔を振り撒き、親しげに話をしているが、内心ではプライドが強く、人間の女子の間でトップに祭り上げられている。
 また、魔物は男に媚びているとも思っているので魔物を嫌っており、魔物達からの評判は悪い。告白してくる男子を完膚なきまでに叩きのめして女子達の憂さ晴らしもしているとも聞かされた。
 告白の後、他の女子がざまあみろとか言っているところを聞くと、どうやら噂は本当らしく、普段の素行のせいでふられた様だと解かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ〜。」
 狂祐はショックで何も考えられなかった。断られることは予想できていた。普段の素行の悪さも理解していたので断られても仕方ないと。一番ショックだったことは優しく、明るいイメージが強かったあの子があそこまで辛らつになれるとは思っても見なかったことだ。
 ぼーっと座っていると目の前をバスケ部だとかバレー部だとかが走っていく。女子部が走っていく時、あからさまに狂祐を指差し、ひそひそと話をしているところから今日の事はもう学校中の噂になっているのだろう。
「明日からどうしよ・・・。」
 正直合わす顔がない。もともとプライドやら面子やらがある人間ではなかったが、彼も男としての尊厳くらいはある。あるいは、それが彼女らの目的だったのかもしれない。
 日が落ち始め、三日前、愛を叫んだ時と同じ時刻になり始めた。その時、狂祐は、ふと思い至った。
「でも、あの時叫んだ気持ちは消えないんだよなぁ。」
 そう、それでも狂祐は好きだと思っていた。罵られショックを受けていたが、それでも楽しげに女子達と話をしていた彼女を見ていると少しだけ心が和んだ。
 これだけは事実だ。たとえそれが自分を馬鹿にするような内容だったとしても粗暴な自分には仕方のないことだ。
「なんだ、悩むことなんてなかったな。」
 そう考えると踏ん切りがついたような気がした。狂祐は立ち上がり、家に帰ろうかとした時、階段を誰かが登ってくる音を聞いた。
「こんな時間に誰だ?」
 日は完全に落ちてしまい、かろうじて残り火の光があるだけ。そんな時、こんなところに来る相手は人間だろうと魔物だろうとかなり怪しい。その基準で言えば自分もかなり怪しいのだが。
 そうこうしているうちに足音はかなり近くなり、ついに最上段に人影が立った。
 顔は見えないが人影は、喋らず、ただ黙ってこちらを伺っているように見えた。視線は感じるが一向に動こうとしない相手に痺れを切らし、狂祐は問いかけた。
「誰ですか?ここは夜中だと足元が見えなくなって危ないですよ。」
 そう話かけると人影は、くすくすと笑い始めた。
「誰ですかとはご挨拶ね。あなたが呼んだんじゃない。」
 聞いたことのある声だったがそんなはずない。彼女がここに来るはずがない。
「僕が呼んだ?人違いじゃないですか?僕は誰も呼んでませんよ。」

「いいえ、あなたが呼んだのよ。

 いきなりこんな手紙を入れられて迷惑してるだろうと思う。
 だけど、どうしても伝えたいことがあるんだ。君が楽しげに話をする姿に惚れた。付き合いたいと思っている。
 返事を聞く前にきっちりと自分で伝えたいと思ってるから校舎裏に来てほしい。 山田狂祐。
 
 校舎裏じゃないけど場所なんて関係ないわよね♪」

「!?」
 その言葉、紛れもない自分が出した手紙の内容。何故知っているのか?しかもこの声は・・・。
 訳が解からず混乱していると、人影がコツコツと近づいて来た。
だんだん近づいてくると顔がはっきりと見えるようになった。やはりあの子だ。
「それで?何を聞かせてくれるのかしら?」
 はっきりと見えた顔は伊藤カレンその人だった。
「そんなの、学校で聞いただろ。あれだけ人のこと馬鹿にしといてまだ物足りないのか?」
「あれは女の子達に無理やりやらされたのよ。本心じゃないわ。」
「あれだけ嬉々としてやっておいて今更そんな言葉信じれるかよ!!俺は帰る。馬鹿にしたけりゃいつまでもやってろ。」
 余りの腹立たしさに乱暴に言い放ち、横をすり抜けて帰ろうとした時、腕を掴まれた。
「せっかちな人ね。じゃあ、これならどう?」
 振りほどこうと狂祐が振り向いた時、正面に彼女の顔が迫っていた。自分がキスされているのだと把握するのに数秒掛かった。しかも、それだけではなく、彼女は、戸惑う狂祐の口に自分の舌をねじ込んできたのだ。
「!?」
「はむ、んむちゅう。ぴちゃくちゃ、あはっ・・・はぁ、むちゅ。あっ。むうん〜♪」
 一頻り口、歯、舌を舐めまわした後、自らの唾液を狂祐に流し込んでから口を離した。離れた時、互いの唇には糸が架かっていた。
「ん、ふぅ。これでも信じれない?普通、嫌いな人とここまでする?」
 解からない。本心なのか、それともまた自分を陥れるための罠なのか。しかし、ここまでされて黙っていられるほど人間ができてもいなかった。
よって、狂祐は本能の赴くままにしようと思い至った。
「ほ、本当なのか?」
「ねぇ、聞かせてよ。私に伝えたいこと。」
 ここまできたら嘘でももう一度試す価値がある。そう決心して告白の言葉を口にした。
「あなたが好きです。お付き合いしてください。」
「よろこんで///」
 そう答えると彼女は、再びキスをしてきた。狂祐は押し倒されるまま、樹にもたれかかり、濃厚なキスを味わった。
 正直な話、狂祐自身は彼女がこんなにも積極的だとは思っていなかった。しかし、彼女にするならこれぐらい積極的なほうがいいなぁ、と思っていたのでこの時の違和感に気づくことはなかった。


             彼女がこれほどまでに好色なはずはないのに。

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ドッペルゲンガーかわいいよ、はぁはぁ。
そう言えば昔、ポケ○ンをしていた頃はゲン○ー、ゴー○ト、ゴー○をよく使っていました。でもあれって進化させないほうが強いんですよね・・・

何はともあれ一番乗りを果たせました。まだまだ書きたいことがあるのでまた、短編のつまりが長編になってしまいましたが、気にしないことにしました。
頑張って書いていくのでよろしくお願いします。

11/04/17 07:09 特車2課

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