私の首輪、あなたの鎖 %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

一寸の虫にも・・・

 月は既に上天に達し、街は静まり返っている。寝静まっているからではない。動物的な感覚が静かにしておいたほうがいい、と警告しているのだ。均一に張り詰めた緊張により静止した街をアレンは疾駆する。
 沸騰した血液が巡る頭でいろいろな案を考えるが、どれも霞のように消えて結局は何も考えていない状態に戻る。そう、考えられるわけが無い。相手は強固な城と屈強な警備兵、栄養の足りない貧乏人に何が出来よう。
 アレンの案はたった一つ、その為には絶対にタイミングを逃すわけには行かなかった。
 そして、そのタイミングは唐突な頚椎への衝撃と共に訪れた。
「ぐぇ!!」
 領主城へと続く大通りに飛び出そうとした瞬間、強力な力で後ろに引き倒された。倒れるままに首を後ろに向けるとあのリーダーと呼ばれていた筋骨隆々の大男が睨みすえていた。
 ケインの睨みも怖かったが、この男の睨みも逆の性質を持った怖さがある。
「またお前か、小僧!!どれだけ邪魔すりゃ気が済むんだ!!」
 リーダーは、ぼろい人形を扱うかのごとくアレンを壁に押さえ込み、口を閉じさせた。
 すると、大通りから馬車の走る音が響いてきた。音は段々と大きくなり、アレンが飛び出そうとした路地を横切ると城へと一直線に駆け込んでいった。

<ガラララララララララ、、、ガアアァァァーーーーン!!!!

 少し離れたところで鉄が擦れ合う音と大きな衝撃音が響いた。おそらくは城の大門が閉じたのだろう。その音を聞いて、リーダーはようやくアレンを放した。
「まったく。おい、ケイン!こんな餓鬼を連れてくるなんて聞いてねぇぞ!」
 はっ!っとしてアレンはリーダーが振り向いたほうへ視線を凝らす。
 暗がりから浮き上がるようにしてケインは姿を現した。見た目は普通の服なのに、何故かケインはその上に漆黒のマントを羽織っているように見える。それほどまでに今のケインは、闇と同化していた。
「ふー、アレン。私は、はっきり言った筈だよ。君を連れて行くことは、、、」
「フェブが攫われたんです。」
「・・・・・・」
「確かに僕が間違っていました。僕が無茶なことをせずにフェブのそばに居てやれば、こんなことにはならなかった。
今は、今はただ、フェブを助けたい。それだけなんです!お願いです、僕も連れて行ってください!!」
「・・・・・・」
 アレンは、断られても、殴られても、無理やり付いていこうと決心していた。一度断られているのだから当然だろう。しかし、返事は意外にもあっけないものだった。
「わかった。君は私と一緒に行動するんだ。」
「!?」
「はぁ〜?正気かよ?こんななまっちょろい奴、なんの役に立つってんだよ。」
「彼は、危険を省みず我々に彼女達の危機を知らせてくれた。それぐらいの実力はある。」
「はっ!好きにしやがれ。おい、小僧。死んでも文句垂れんじゃねぇぞ。」
「はい!」







 アレン達は、閉じられた大門が辛うじて見える位置に隠れ、じっと息を殺していた。何かを待っているのか誰一人として一行に動かない。
 張り詰めた殺気に耐え切れず、アレンは、気になっていたことをケインに質問することでやり過ごそうとした。
「ケインさん、聞いてもいいですか?」
「ん?何だい?」
 ケインも緊張の糸を引き切っているはずなのに、その口調はまるでランチの時の会話の様に軽く、朗らかだ。これが歴戦の余裕と言うものなのか。
「あの、どうして付いていくことを許してくれたんですか?最初はあんなに駄目だと。」
「君があの時の君とは違ったからさ。」
「えっ?」
「あの時の君は、まさに怒りの塊と言った風だった。戦うだけならそれでもいい。だだっ広い草原の真ん中や闘技場で一対一で殺し合うだけならね。
だけど、そう言った人間は、自分のためだけに戦っているから、いざと言う時、仲間を見捨てて自分の復讐や一時の感情に走ってしまう。
あるいは、ふとした瞬間に死への恐怖を思い出して逃げ出したりね。軍隊にとっていつ裏切るともしれない仲間ほど恐ろしいものは無い。」
「恐怖なら今でもありますよ。正直言うと今も足が震えてます。」
「でもここに居る。それが重要なのさ。何故なら、今の君には、逃げ出したくても逃げ出せない理由があるから。」
「・・・・・・・フェブ。」
「そう。怒りや憎しみは爆発的な力をくれるが、それは結局、自分の心の持ち様でしかないから、ふとしたことで消えてしまう。
だけど自分以外の存在は、心の持ち様では消せないからね。今の君なら信用できると思ったから連れて来たのさ。」
 
 自分以外の存在。
 フェブとの関係は、たった数日のものでしかない。しかも、最初は、精処理奴隷として買ってきた関係だ。どう見てもいい間柄とは言えない。
 しかし、そのたった数日の想い出は、アレンの十数年の人生よりも輝いていた。
 自分の手を見るめる。指の隙間から何かが零れ落ちていくイメージが浮かび、思わず両手でぎゅっと握りこむ。

「無駄話は、そこまでだ。もうすぐ時間だ。」
 リーダーの低い声にさらに緊張が高まる。しかし、不思議なことに足の震えは、少しだけ和らいでいた。




<ピーーーーーーーーーー、ピーーーーーーーーー、ピーーーーーーーー
 大門の方から笛の音が聞こえた。すると、今まで息を殺していた部隊が一斉に動き出した。素早く、それでいて音を出さない、スルスルと滑る様に動く。どうやら部隊はこの一つだけではないようで、城の周りから黒い塊が同じようにスルスルと大門に集結し始めた。
 ある程度人数が揃うとリーダーは、懐から小さな笛を取り出し、先に聞こえた音と同じ合図を送った。

<ガリッ、ガガガガガガガガ・・・

 合図が終わると大門が少しだけ開き、三人が通れる隙間を作った。黒い集団は、素早く隙間から中に入り、如何にも兵士らしいきびきびとした動きで辺りを警戒した。
 全員が中に入ると、フードを被った女(顔は見えないが声から察しておそらく女だろう)がリーダーに近づき、状況を説明し始めた。
「よかった!!フェアリー部隊が壊滅して、連絡の取りようが無かったので  す。」
「そんな話はどうでもいい。何処までバレてんだ?」
「フェアリーが街に潜伏していると言うところまでしか知られておりません。どうやら、城に行商に来た羽虫使いが偶然気付き、領主に報告したようす。」
「そうか、じゃあ、領主共は?」
「はい、フェアリーを殲滅したと安心しきっています。領主と側近は、城の上階にて既に就寝しています。警備兵の大半は地下牢に集まっており、外周の警備は既に片付けています。使用人たちも拘束済みです。
これで何が起きても騒ぎが漏れる事はありません。」
「上出来だ。よし、聞いた通りだ!!部隊の半分は俺と来い。残りの半分はケインに付いて地下牢へ救出に。行くぞ!!」
 部隊は、迅速に二手に別れ、それぞれの目標に走って行った。
 当然、アレンは、ケインから離されない様、地下牢へと走った。
 地下牢への階段は、松明が灯っていても薄暗く、空気も澱んでいるので下から立ち上ってくる臭気が酷い。何層にも牢が重なっている様で途中にも扉があった。
「(そう言えば聞いたことがある。領主は、囚人を甚振るのが大好きで、多く囚人を捕まえて置ける様、大きな地下牢を造ったって・・・。)」
 ケイン達はその扉一つ一つを調べ上げ、中に居る警備兵を屠って行った。
 四階分ほど下りたところで最下層に降り立った。最後の扉からはがやがやと騒がしい音が聞こえる。おそらくは、ここが当りだろう。
「アレン、君はここで少し待っているんだ。すぐに済ませてくる。」
 ケインはそう言うと、扉の両側に兵を移動させると、少しだけ扉を開けて、何か筒状のものを放り込んだ。
 次の瞬間、爆竹が弾けた様な音が地下中に鳴り響き、それにあわせてケイン達は、部屋に突入した。
 怒声と断末魔、悲鳴と金属音、生々しい音、それらがしばらく混ざり合っていたがすぐに止んだ。恐る恐るアレンが中を覗き込むと兵達が警備兵の死体を隅の方に積み上げている最中だった。
「うっ!っく!」
 牢屋独特の臭気と大量の血の臭いがむせ返り、胃から込み上げるものを感じる。そんなアレンにすぐにケインは駆け寄った。
「アレン、大丈夫かい?後は牢を開けるだけだから外で待っていたほうが。」
 正直、そうしたい。しかし、アレンは、その言葉を込み上げる嘔吐感と一緒に飲み込んだ。
「だ、大丈夫です。フェブを探さないと。」
 アレン達は、牢屋を全て空けて行き、フェアリーの虫篭の鍵を壊して行った。しかし、どれを見てもあの綺麗な青い羽は見当たらない。
「(そんな筈ない!?ここ以外に考えられない。何処なんだ、フェブ!!)」
 とうとう全ての虫籠を開けたがやはりフェブは居なかった。捕まっていたフェアリーに聞いても意識が遠退いていたので解からないと言うばかり。
「他の部屋に捕まっているのかもしれない。しかし、今は脱出路の確保が最優先だ。いいね?」
「解かっています。」
 ケインの言葉に適当に頷きながらアレンは、階段を上った。
 広場に着くと爽やかな夜風が頬を撫で、それまで纏わり付いていた臭気も血の臭い全て吹き飛ばしてくれた。街は未だ静かなもの。まさか今夜大量殺戮が行われようとは夢にも思っていないだろう。
「集結にはまだ時間がかかる。よし、さらに部隊を分ける。ドーズ、君がフェアリー達の護衛を指揮してくれ。リックは残りを率いて・・・・・・」
 ケインが部下達に次々と指示を出している。しかし、その中にフェブの捜索は含まれてはいない。アレンは焦る思いを必死に抑え込んでいた。
 その為、ケインに話しかけられていても気付かなかった。
「アレン、アレン!」
「わっ!は、はい!」
「しっかりしてくれよ。これから大仕事が待ってるんだから。さて、フェブの捜索を始めるか。」
「え?でも、部隊のほうは?」
「アレン、いくらフェブが心配だからって作戦中に私の話を聞かないのはいただけないな。」
「す、すみません。」
「部隊は大丈夫だよ。元々私は助っ人みたいなものだからね。彼らだけでも十分やれる。」
 



 アレンはもう一度、指輪に意識を集中する。指輪から飛び出した糸は、城の離れにある塔の一室に伸びていた。
 息を殺して塔に近づくが中からは人の気配がする。覗き込むと警備兵が一人椅子に座ってうとうとしていた。
「この塔はどうやら身分の低い人用の客間のようだね。流石にここまでは手が回らなかったみたいだね。」
「どうします?」
「そうだねぇ。まぁ、一人くらいなら何とかなるだろ。」
 ケインは、そう言うと、あっと言う間に扉を開け、腰から抜いた短剣を投げつけた。短剣は精確に鎧の隙間に突き刺さり、警備兵は首から血を噴出して倒れた。
 廊下を真っ直ぐ伸びる糸を辿りつつ、出会う警備兵を全て投げ短剣で打ち倒していく。ケインはいったい何者なのだろうか。
 何階か上った先の一室で糸の先は途切れていた。
「この先にフェブが・・・!」
「アレン、焦っちゃだめだ。私が扉を開けるから一斉に飛び込むんだ。」
「はい。」
 アレンも自分の片手剣を抜き放つ。人を斬ったことなど一度もないし、当然、戦闘の経験も無い。そんなアレンに出来ることは思い切り突き刺すこと。
 剣を腰ために握り、いつでも突撃できるようにする。
「いくよ。1・・・2の・・・3!!」
「!!」


 飛び込んできた映像にアレンは反応できなかった。と言うよりも、映像として頭に入ってきていたがそれを理解することを脳が拒否した。

 上半身裸の男が机の前に立っている。
 机には見慣れた綺麗な青い羽をがキラキラと蝋燭の灯りを反射している。
 男はズボンの前を開け放ち、大きくなったモノを突き出している。
 小さな身体には何も身に着けておらず、ぷりぷりとした身体が照らされている。
 
        隆々に勃起したモノを男は少女の顔に押し付け、
        それを少女は両手で掴み、先端を丹念に舌で・・・・・・



「うううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「お前、あの時の小僧!!ぐぅわぁ!!」
 アレンは、一直線に飛び出し、深々と羽虫使いの胸を貫いた。貫かれた羽虫使いは、そのまま床に倒れ、口から咳きと一緒に血を吐き出した。
 血を噴出し続ける羽虫使いを無視し、アレンは、フェブに駆け寄った。
「フェブ、フェブ!!大丈夫かい!?しっかりするんだ!!」
「・・・・・・」
「すぐに連れ出してあげるからね。もう心配要らない・・・フェブ?」
「・・・・・・」
 フェブは、虚ろな目で手前なのか遠くなのかわからない焦点を見つめ、ずっと舌先で舐める動作を繰り返している。あわてて止めさせても、適当にあった布を着せてやっても何も反応を返さない。
「フェブ、どうしたんだい?僕だよ、アレンだよ!お願いだ、返事をしてくれ。フェブ!!」
「・・・・・・」
「これは・・・。おそらく羽虫香炉のせいだろう。この男、ずっと部屋で焚き続けていたようだ。」
 見れば確かに部屋の真ん中に羽虫香炉が置かれている。中にはまだ火が残っており、白い煙と共に独特の甘い香りが立ち上っていた。
 ケインはすぐに水差しの水を香炉にかけ、窓を開け放した。
 風が甘い香りをかき消していく。
<カンカンカンカンカンカン
 夜風にまぎれて遠くから警戒鐘の様な音が聞こえる。
「まずいなぁ。アレン、時間が無い。フェブの治療は後回しだ。すぐに脱出する。」
 そう言うとケインは、足早に部屋を横切り扉の外を警戒し始めた。
 アレンもそれに倣おうとした時、強烈な痛みが左肩を駆け抜けた。まるで焼き鏝が身体の中に入ってくる様な熱さが毒の様に広がっていく。
「ぐっ!!あああ!!」
「ごぞおおおおおおおおおおおお!!!!」
 辛うじて振り返れる範囲から見えたのは血に濡れた片手剣の刃とこちらの異変に気付いたケインが慌てて短剣を投げる姿だった。
「ぎっ!?」<ドサッ!!
「アレン!!しっかりしろ!!」
 噴水のように肩から血を噴出しながら倒れるアレンには、駆け寄ってくるケインがとてもゆっくりに見えたが、アレンの意識は目の前の少女に囚われ続けていた。
 返り血を浴び、羽も顔も真っ赤に染め上げるフェブは、それでも、無表情のまま見つめ続けている。青い羽は返り血を浴びてもなお、その美しさを失うことは無く、赤と青の色ガラスが降りなす美術品の様にも見えた。
「やっぱり・・・きれいだなぁ・・・」
 今にも死にそうなのに何を言ってるだか、そんな風に心の何処か離れた場所で思いつつ、右手でフェブの頬に触れた。近づいた首輪と指輪が一瞬きらりと光る。
 しかし、その光を見る前に、アレンはゆっくりと崩れ始めた。










 暗い、何処だかわかんないところにあたしはいる。ゴトゴトと身体が揺れてるけど何で揺れてるのか解かんない。正確には、何も考えられない。考えるって何?
 揺れが止まった。身体を起こそうとするが自分が今、下を向いているのか上を向いているのか、立っているのか座っているのかすら解からない。何で起きないとダメなのかも解かんない。
 しばらくすると再び揺れ始めたが、さっきとは違う揺れ方をする。
 前にもこんな揺れを感じたことがあったと思うが思い出せない。すごく怖かった。その感覚だけが身体中に広がっていく。
 怖ければ逃げればいいのに、あたしの身体はぴくりとも動かない。でも、何故だろう?怖いと思うのにその中から少しだけ温かいものが流れ出てて、逃げようとする気が薄れる。
 また揺れが止まる。何かの衝撃で身体が浮き上がるが、それでも、何処か遠く、自分ではない誰かを見ているように感覚が鈍い。
 
 暗闇が取り払われ、あたし目掛けて手が伸びてくる。手だと言うことは解かる。でも、だから何をすればいいのかが解からない。
 
「フッ、ずいぶんと大人しくなったな。まぁ、そのほうがいろいろ仕込みやすいんだがな。」

 男が部屋の真ん中で何かしている。でも、どうすればいいのか解からない。
 1分か1時間か時間の感覚も無い。ただぼーっとしていると甘い香りが漂ってきた。身体がピクッと反応する。自分でもびっくりするくらい。
「これが欲しかったのだろう?たっぷり嗅がせてやろう。その後でお楽しみだ。クククッ。」
 今までのどんよりした頭が嘘みたいに晴れて行く。そして、身体から魂が抜け出たみたいに感覚がふわふわと浮き上がる。すごく気持ちいい。
 でも何か足りない。それは解かっているのに気持ちよさに包み込まれてすぐに掻き消える。そして、しばらくするとまた足りないことに気付く。
 その繰り返し。
 

 いつまでそうしていたのだろう。きもちよすぎてぜんぜんわかんない。なんにもないなんにも。
 おおきなひとがちかづいてくる。わらってるわらってるけどわらってない。

「そろそろかな?お前には一生、俺の息子の面倒を見てもらうからな。いろいろ仕込んでやる。」

 なにかいってる。いってる。でももうどうでもいいや。あたしがわかんない。あたしがどこかにとんでって、あたしがわかんない。

「まずは御奉仕から覚えなくちゃな。さぁ、舐めろ。手で持って丹念に舐めるんだ。」

 あまいかおりとはちがうにおいがする。「ソレ」があたしのくちにちかづいてくる。ちがう、あたしがちかづいてる。
 
 やっちゃいけないのに、ほしくてしかたないよ。どうしてもほしい。でも、「ソレ」じゃないのに、ちがうのに、でもほしい。

「ふぅ、いいぞ。あの小僧に仕込まれたか?それとも魔物の本能か?頭空っぽになってる割には上手いじゃないか。」

 いやなあじ。なのにとまんない、やめられない。たすけて・・・たすけて・・・たすけて・・・


                  だれに?





 だれかがはなしかけてる。でもだれだっけ?たいせつなことのようなきがする。けどおもいだせない。

 ごつごつしたてにつつまれる。あったかい。すごくあったかい。あったかい、やさしいて。

 めのまえがまっかになった。あったかいものがからだにかかる。

 あったかいてのひとがたおれる。そのひとのてがきらりとひかる。

 大事な、大事な光。ああ、そうだ。私の首輪。あの人との繋がり。

「・・・・・・アレン。」












「クソッ、これはまずいな。」
 ケインは、珍しく悪態をつきながらアレンに駆け寄った。しかし、ケインが介抱するよりももう一匹のほうが速かった。
「・・・・・・アレン。アレン!?いや、アレンしっかり!!なんで!?何でこんな!!」
 フェブは、自分に伸ばされた手を必死に掴み、アレンを支えようとしていたが、サイズの違いのせいでずるずると崩れ落ちてしまう。
 駆け寄ったケインは、すぐに傷の深さを確認する。
「最初は、派手に血を吹いたが剣を抜かなければこれ以上出ることはなさそうだ。アレン!!私の声が聞こえるか?アレン!!」
「ぐっ!!はぁはぁ、ケイン・・・さん・・・。」
「アレン、ごめんなさい!あたし、我慢できなくて、それで・・・」
「フェブ、はぁはぁ、よ・・・かった。うぐうう、正気に戻ったんだね。」
「アレン、これを噛むんだ。少しよくなる。」
 ケインはそう言って葉っぱの様な物を取り出し、アレンの口に詰め込んだ。言われるままにアレンがそれを噛み潰すと何とも言えない青臭い苦さが口いっぱいに広がった。
「ううう、まずい。」
「ははは、生きてる証拠だ。すぐに痛まなくなるから。」
 ケインは、軽々とアレンを担ぎ上げて、塔を下りた。先ほどの葉っぱの効果なのかすぐにアレンの意識は朦朧となり、辛うじて歩けるだけになった。
 広場へと戻ると最初の光景とは大きく様変わりをしていた。
 大門は、開ききり、門の外からは警戒鐘が鳴り響いていた。何よりも驚くことは、門の外から広場に至るまで多くの魔物に溢れていたことだ。
「これは・・・・」
 フェブが衝撃の余りぽかんとしているとリーダーが駆け寄ってきた。リーダーの服も返り血で真っ赤に染まっていた。
「遅いぞ!!なにサボってやがった!!」
「ハハ、こりゃ手厳しい。首尾は?」
「ハッ!小説家だとかなんとか言ってる様な奴に遅れはとらねぇよ。しっかり始末してきたぜ。」
 魔物の中から一人の兵士が歩み寄り、報告を始めた。
「こちらも万全です。街に集まっていた奴隷商及び反魔物貴族の抹殺を完了。各地の牢を打ち壊しています。」
「一般人への被害は?」
「パニックによる被害が増加していますが、概ね、街から脱出している模様です。街に残っている残存兵力もパニックに煽られ集結には未だ時間がかかります。」
「報告ーーーーー!!」
 大門の外より、また一人兵士が走りこんできた。
「魔王軍の侵攻開始を確認!!」
 それを聞いたリーダーとケインは、お互いに頷き合った。
「よーーーし、脱出開始だ!!フェアリー達に妖精の国の門を開けさせろ!!」
 リーダーがそう叫ぶとフェアリー達はそれぞれのグループに別れて円を作り、ぐるぐると回り始めた。フェアリー達の回転が速くなるに連れて円の中心に光の柱が形成された。
 兵士の一人がその光の柱に飛び込むと瞬く間に光に包まれた。そして、すぐに何事も無かったかのように光の中から飛び出した。
「ルート確保!!いつでもいけます!!」
 その言葉を聞いた魔物達はわっとなって光の柱に飛び込み始めた。不思議なことに何人飛び込んでも柱がいっぱいになることは無く、本当に何処かに消えているかのように魔物達を飲み込んで行った。
「フェブ、私は行かなければならないが、ひとりで大丈夫かい?」
「バカにしないでよ。アレンはあたしのご主人様なんだから。あたしが面倒見ないでどうするのよ。」
 フェブは、精一杯に身体を大きくさせ、ケインからアレンを預かった。とは言っても、今のフェブではせいぜい子供くらいの大きさになるのが精一杯、少年とは言え、男の身体を支えるには明らかに力不足だった。
「フェブ、やはり門をくぐるまでは私が運ぼうか?」
「いらない!!あたしが、あたしがやらなきゃダメなの!!」
「・・・わかった。気をつけてね。」
「・・・・・・ありがとう。」
 ケインは一度、ニッコリと笑うと門の外に駆けて行った。
 残ったフェブは、よろよろとアレンを支えながら門へと歩いた。
 重い。人一人の重さを大きくなったからと言ってピクシーが支えられるわけが無い。それでも、フェブは懸命に歩いた。
「フェブ・・・フェブ・・・。」
「なあに?あたしはここよ。」
 アレンはうわごとの様にフェブの名前を繰り返す。その度にフェブは、返事をした。
「フェブ、僕は、ただ君の笑顔が・・・見たかっただけなんだ。君の・・・君が、落ち込んでいるの・・・嫌・・・・・・だった。」
「バカ、バカアレン。あ、あたしはそんなこと・・・ぐすっ。」
「フェブ・・・泣いてるの?」
「泣いてない!!あたしはいつでも笑顔なんだから!!」
 フェブは、涙を見せないように顔を背けた。

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前回からかなり時間が空いてしまいましたが、続編完成です。
要請の国に逃げた魔物達はどうなるのか?次回の最終回で締めたいと思います。
しかし、なんだかんだで今回、一番の長編になってしまいました。
ここまで読んでくださった方には本当に感謝の至りです。

しかし、改めて自分の作品を読み返すと誤字脱字が酷い・・・。
こっそりと修整していかねばならないと思います。

11/06/21 21:49 特車2課

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