私の首輪、あなたの鎖 %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

蚊蜻蛉

「これで・・・よしっと。どうかな?動きにくい?」
「ううん、大丈夫。」
 翌朝、アレンはフェブの包帯を換えてやっていた。全身に軽い擦り傷があったが、泥汚れで酷く見えていただけで実際の傷は大したものではなかったのが幸いだ。
 フェブは軽く部屋の中を飛んで動きにくいかどうか確認した。
 欠けた羽が痛々しい。あんなに綺麗な羽だったのに。
「羽はごめんね。僕にもどうしようもなくて。」
「へっちゃらよ。魔力が溜まれば直せるもの。」
「そ、そうかい///」
「?なんであんたが赤く・・・あっ///」
 魔物にとって魔力を貯めると言うことは必然的にあっち方向になるわけで・・・
「い、今のなし!!あんたとあたしはあくまで建前上奴隷なんだからね!!絶対、ヤらないからね!!」
「わ、解ってるよ。てか、そんな直球で言わなくても、いてっ!」
 フェブは軽くアレンの頭の上を回って髪の毛を引き抜き、ベッドに着地した。
「ふん!」
「はぁ。」
 黙ってればかわいいのに。アレンはそう思わざるおえなかった。
「ねぇ、そう言えばこの服、やけに綺麗だけどなんで?昨日、泥だらけだったと思うけど。」
「ああ、それは僕が君をお風呂に入れるのにn・・・」


「 脱 が し た の !? 」


 フェブは、今度は包帯を切るのに置いてあった鋏を持ち上げて襲いかかってきた。
「うわ!危ない!落ち着いて!仕方なかったんだ!他に怪我してないか診ないといけなかったし、それに、汚れたままだと君も嫌だと思って!」
「バカバカバカバカバカーーーー!!変態変態!!」
「変なことは何もしてないから!ちょ、まじ危ないからっ!うわっ!!」
「うるさーーーい!!ふぇーーーん!!」
 段々狙いが正確になってきているのがなお怖い。このままでは本当に刺されかねない。
 アレンは何とか機嫌を取ろうと考え、ピンッと閃いたことを試してみた。
「ほんとにごめん!!お詫びに新しい服買いに行こう!ね!」
「!!!」
 フェブはアレンの喉元数センチのところで鋏を止めた。
「(マジヤバカッタ!!)ほ、ほら、そこまで汚れたり、解れてたら嫌だろ?今日、今から買いに行こう、ね?」
「ぐすっ、ほんとでしょうね?」
「うんうんうんうん!ほんともほんと今から行こう!」
「そっちじゃない。変なこと・・・しなかったでしょうね?」
「シマセンデシタ。カミサマニチカイマス。」
「・・・まあいいわ。(ぽいっ」
 フェブは鋏をベッドの上に落とし、枕の上で寛ぎ始めた。
「すぐに用意するから待ってて。」
 何とか機嫌を取ることに成功したアレンだったが、本当のところかなり危なかった。
 入浴させているときのフェブの身体は、その大きさに不釣り合いなほど柔らかく、スベスベしていた。
 アレンはその時、「よく洗わないと」と自分に言い聞かせ、入念に指を這わせていたのだ。ピクシーにしては大きい胸も、細い手足も、ぷりっとしたお尻も、入念に、入念に。
 もしその気配を少しでも見せていたら鋏は止まらなかっただろう。










 アレンはフェブを肩に乗せて街へとくり出した。反魔物領ではあるがこの街だけは堂々と魔物を連れ立って歩くことができる。
 フェブはひっきりなしに感嘆の声をあげている。
 綿菓子屋を見つけては買ってくれとねだり、射的屋を見つけては勝手にやろうとした。アレンはそれを止めるのにてんてこ舞い、何故なら彼には本当にお金が無かったからだ。
 こんなところで要らない出費を出すわけにはいかない。それにフェブは、たいそう不満がった。
「いいじゃない別にあれくらい。アレンのケチ!貧乏人!」
「僕は本当に貧乏人だから仕方ないの。フェブもあんなのより新しい服が欲しいだろ?」
「イーだ!」
 フェブはビュンビュンと一人で飛び立ってしまった。
「待って!そんなに飛ぶと危な・・・(ガイィン!!」
 制止する暇もなく、フェブは通りに立っていた鎧にぶつかった。
「(ヤベッ、警備兵だ。)」
 警備兵はここでは嫌われものだ。無駄に偉そうだし、しょっちゅう〇〇違反だと言っては罰金を取ろうとするからだ。貧乏人にとっては平謝りでやり過ごしたい相手だが・・・
「この唐変木!こんな真ん中で立ってんじゃないわよ!」
 僕らのフェブさんはそれでは赦してくれないそうです。
「ああ?何だとこの羽虫が。」
「誰が羽虫よ!こんなかわいい羽虫がいるわけないでしょ!目ん玉付いてんの?」
「てめぇ、魔物のくせにいい気に・・・ん?」
「?」
「お前、首輪が着いてないな。」
「そうだけど?何よ?」
「野良の魔物はこの街では見掛けた瞬間に斬り殺してもいいことになっている、フッ!(ブンッ!」
「キャッ!!」
 警備兵はいきなり剣を抜き放ちフェブに斬りかかった。幸いにも的が小さかったので初撃は外れたが、本気で殺す気できている。
 これは不味い、そう思ったアレンはフェブを手で覆うように隠し、その場で頭を下げた。
「申し訳ございません!!この魔物は私が飼っているものでして、首輪は今朝壊れてしまったのです。どうか、どうか、お許しください!!」
「お前の?今朝壊れようが、昨日だろうが、今着けていないことにはかわりない。そいつを寄越せ。小僧!」
「どうか、お許しください!」
 アレンは膝をつき頭を地面に擦り付けた。
「おいおい、違うだろ?許してもらうには誠意ってやつを見せないと駄目なんじゃないのか?なあ?」
「生憎、私は貧乏で今はこれだけしか持ち合わせがありません。どうか、これで・・・」
 アレンは土下座しながら全財産を広げ、警備兵に見せた。
「ふん、それだけか?野良の魔物を殺せば報奨金がでる。小僧、その額ではそれにも及ばんな。」
 警備兵は今にも振りかざさんばかりに剣をかかげ、アレンに近付いてきた。
「さあ、どけ。でなければ一緒に叩き斬るぞ。」
「どうか、どうか、お許しを・・・!!」
 その時、アレンと警備兵との間に人影が滑り込んだ。
「待った、待った、旦那。ちいとばかし気が短いですよ。」
 旅人風のつばの広い帽子を小粋にかぶった男はそう言って、アレンを庇うように立ちはだかった。
「何だ貴様!?魔物を庇えば重罪だぞ!」
「イヤだな、旦那。あっしはそんなことしていませんよ。ただ旦那に渡したいものがあっただけですよ。」
 男はそう言うと警備兵の巾着に何やら入れ始めた。
 チャラチャラとした小気味いい音を起てるようになった巾着を見て、警備兵は剣を鞘に戻した。
「うおっほん!いいか小僧。私も悪魔ではない。これからは気をつけるのだぞ。」
「はい!ありがとうございます!」
 警備兵は上機嫌で巾着の中身を確認しながら消えていった。

 この街では、魔物は魔物ですらないのだ。魔物は常に誰かの所有物であり、野良になったものは処分される。












「何方か存じませんが、危ないところを助けていただいてありがとうございます。」
「いいよ、いいよ。珍しいものが見えたからね。」
「珍しい?」
「ああ。そんなことより君のお姫様は大丈夫かい?なんだかずっと静かだが。」
「フェブ?」
 必至になって忘れていたが、アレンはそっと手を開いた。
 するとフェブは手のひらの上で小さく膝を抱えて泣いていた。
「フェブ、もう大丈夫だよ。誰も傷つけたりしないから。」
「・・・うん。」
 それからフェブは悄々と肩まで飛び上がりちょこんと大人しく座った。
「お姫様には甘いお菓子と温かい飲み物が必要のようだね。そこに料理屋があるから一緒にお昼でもどうだい?」
「いや、助けてもらった上にそこまで甘える訳には。」
「お金のことなら心配ない。旅人だが、こう見えてもギルドでも名の通ったほうでね。むしろ、一人旅には多すぎるくらいなんだ。」
「はぁ、そうですか。」
「そうそう、だから早く行くよ。」
 男はそう言うとアレンを引っ張って店のなかに入ってしまった。

 男は名をケインといい、ギルドで荒稼ぎした資金を基に旅をしている小説家兼詩人だと言った。
「この街は反魔物領なのに魔物が溢れていると有名でね。一度来てみたいと思っていたんだ。」
「見ての通りに殆どが奴隷ですけどね。」
 通りを見ても連れられた魔物は皆首輪をしている。
 今まで当たり前すぎて疑問にも思わなかった。しかし、その当たり前が今のアレンにとってはとても歪で異常なことのように思えた。
 フェブはと言うと、イチゴのショートケーキを頬張り、スプーンに注いだ紅茶に舌鼓を打っていた。
 さっきまでの泣き顔は何処かに吹っ飛んでおり、それを見るだけでアレンは幸せな気分になれた。
「その様だね。でも、君は何だか他の人とは扱い方が違うみたいだね。」
「それはその、何て言うか彼女とは建前上主従関係と言うか・・・。」
 アレンの言葉を聞いてフェブは驚いたように目を丸くして見つめたあと、直ぐに不機嫌そうなつり目になってケーキに視線を戻した。
「(な、何でそこで怒るかな?)」
「彼女の方は、そう思ってないみたいだね。」
(ブッ!ゲホゲホ、ななな何に言ってるのよ!)
「まあ、形だけにしろ、何にしろ、首輪とかそれらしく見せるものは必要だね。」
「そうですよね。ごめんね、フェブ。服より先に首輪を買いに行かなくちゃいけなくなった。首輪なんて着けたくないだろうけど・・・」
「いいわよ。」
「そうだよね。着けたくないよねやっぱr・・・え?」
「だからいいって言ったの。そっちの方が都合がいいんでしょ?だったら着けたげる。」
 フェブは通りの方を向いてアレンに顔を見せないようにしているが、羽の方がぱたぱたと忙しなく動いてしまいどんな顔をしているかはアレン以外には一目瞭然だった。
「そ、そのかわり!かわいいやつにするのよ!いいわね!」
「はい。。。」
「ははは!君たちは本当に面白いね。今回はいい小説が書けそうだよ。」






 その後、二人と一匹は魔物用小道具専門店に足を運んだ。
 何故ケインがついてきたかと言うと、アレン一人ではまた資金不足で泣きを見るに違いないからだそうだ。
 流石のアレンにも男の子のプライドがある。施しを受けるつもりはないと、きっぱり断ろうとしたが、
「ダメよ。あたしが着けてもいいって言ってるんだから安くてダサいのなんてイヤ!」
 とまぁ、フェブ御嬢様に一蹴されたのである。
 その後アレンはしょんぼりとしたまま付いてきたのだ。
 店に入ると色とりどりの首輪や鎖、フェアリー・ピクシー用の小さな服からメイド服、サハギンやカッパの鱗なんかも置いてあった。
 余りの美麗さと種類の多さにここが本当に奴隷用の物を売ってるのか疑問に思えてくる。
「わあぁぁ、かわいい・・・綺麗・・・はぁぁぁ。」
 フェブと言えばショーケースに列べられている首輪を見ながら溜め息まで漏らしている。
 それが次の瞬間には自分の首を絞めていると言うこと忘れているのだろうか?
 アレンは試しに手近にあった細目の鎖を手に取り、値札を見てみた。
「ブッ!?(高!!何これ高過ぎだろ!?)」
「アレン?どうしたの?」
「い、いやなんでもない。選んでて。」
 アレンにとってこれはかなりの大誤算だった。
「(や、ヤバいぞ。どうしよう。今更お金足りないなんて言えないし、ああ、フェブはあんなにキラキラした目で見てるし。)」
 アレンがフェブに見えないように頭を抱えていると、
(ポンポン
「ん?」
「ニコニコ。」
 満面の笑みのケインが立っていた。それ見ろと言った顔なのがさらにむかつく。
「御融資しましょうか?」
「いや別に大丈夫ですから。」
「本当ですか?つまらない意地を張るべきではないでしょう。ほら、見てみなさい。フェブの笑顔を。あれを曇らせてしまってもいいのですか?」
「ぐううううう。」
(ちょいちょい
 服を引っ張られたので振り返るとフェブが恥ずかしそうにモジモジしていた。
「あの、その、アレンに選んで欲しいんだけど・・・。そ、そしたらね!かわいくなくても、安くても我慢できると思うの・・・。」

 僕は、僕は何て甲斐無しなんだぁぁぁぁぁ!!

「少しだけ・・・お願い・・・・・します。」
「素直なことはいいことだよ。少年。」





 ケインと分かれたアレンたちは家へと歩いていた。
 フェブはアレンの肩の上でキラキラと夕日を反す首輪を手で弄りながらニコニコしていた。
 ケインに融資してもらい、アレンは小さな瑠璃がはめ込まれた金属製の首輪を買った。これは主人の指輪とセットになっており、念じるだけで奴隷を引き寄せる細工が施されている。
「それ、仮にも首輪なんだけどそんなに嬉しいの?」
「あら、綺麗だし、かわいいじゃない。こんなのアクセサリーよ。」
 そう言ってフェブは楽しそうに頭の上をくるくると飛び回った。
「やれやれ、まだ怪我も治ってないんだから。」
 そう言うと急にフェブは大人しくなり、アレンの肩に座りなおした。
「どうしたの?傷が痛む?」
「そうじゃない、そうじゃないけど、その、」
「?」
「今日はありがと。助けられるの2度目になっちゃった。」
「ああ、確かにあれは冷や冷やしたよ。できればもうあんな無茶しないでくれると嬉しいな。」
「ごめん。」
「本当にどうしたの?なんかやたらに素直だよ?」
 フェブはしばらく俯いていたが、何か決心をしたように顔を上げるとぽつぽつと洩らし始めた。
「あたしね、兵士に襲われた時、すごく怖かった。なんていうか、敵意とかそんなのを通りこしたような冷たい感じが。」
 その時のことを思い出したのかギュッと身体を抱いた。
「あたしを捕まえた羽虫使いも、ジロジロと籠の中を見てくる人間もみんな似たような目で見てきた。でもね、アレンだけは何だか違う感じがしたの。」
 いつの間にか飛び立っていたフェブはアレンの顔の正面で滞空し、真剣な表情で目を合わせた。
「だからね、アレンなら飼われてもいいと思ったの。逃げるためだとかそう言うのじゃなくて。だから、首輪も選んで欲しかったの。」
「そんなの駄目だよ。この街がどう言うところかよく解かっただろ?しかも僕みたいな貧乏人。」
 そうは言ったものの、じゃあ、逃げ切れるのかと言われれば不可能に近い。結局、アレンの元にいるのが一番安全なのだ。
「だからよ。だから、アレンがいいの。それに魔物にお金なんて関係ないでしょ。」
 フェブはそう言うとアレンの唇にキスをした。
「これからよろしくね。ご主人様♪」
「本当にいいのかい?」
「くどいわね!あたしがいいって言ったらいいの!」
「わかったよ。」
「さあ!そうと決まったら早く帰ろう!今晩はあたしが料理するんだから!」
「えええ!?それは無理なんじゃ、サイズ的に。」
「何よ。信用してないの?」
「イエ、ナンデモアリマセン。」
「よろしい!」
 なんだか主従があべこべのような気がするが、今までに無い気持ちをアレンは噛み締めていた。




「ふ〜ん、ふん、ふふ〜ん♪」
 ケインは鼻歌を歌いながら裏路地を歩いていた。そして、一軒の寂れた酒場を見つけると物怖じもせずに入っていった。
「ん?遅いぞケイン!何をしていた?」
 筋骨隆々の大男がケインに話しかけた。
「いや〜、面白いものを見つけちゃってね。思わず次の本の草案を書いてた。」
「こんな大事なときにまで出るのかその癖は?勘弁してくれよ。」
「ごめんごめん。でも世の中そんなに捨てたもんじゃないねぇ〜。そう思わせてくれるカップルだったよ。」
 地図やら剣やらが置かれた机に隙間を開け、ケインは腰掛けた。
 酒場には数十人の人影が見え、それぞれに剣やら斧やらの手入れに余念がない。そして、壁際に置かれた樽からは微かだが火薬の匂いが漂っていた。
「まだ日にちはあるだろ?せっかくのお祭りなんだから楽しまなくちゃね。」
「もういい!!」
 男は、怒ったようにケインに背を向け、他の人影に指示を出すために歩いていった。
「おお、こわこわ。」
 ケインは机の上の地図に視線を落とし、鼻歌を交えながら一人ごちた。
「さて、君たちはこの章でどんな役目になるのかな?村人Aか、それとも勇者か。」

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おいおい、エロ要素皆無なのにエロ有りタグつけるなんてどう言う了見だい?

はい、すみません。何とか頑張ったのですが入れられませんでした。その代わり、次回こそはエロエロのデロデロでネチョネチョな話にしますので平にご容赦を。

さぁ、盛り上がってきましたよ。まったくの普通貧乏少年のアレンの歯車が回り始めます。大きな流れに巻き込まれるだけの一般人の心境とは?

乞うご期待

11/06/21 21:37 特車2課

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