早朝を迎えた暗闇の中をユリは照らすものを使わずに歩いている。
手には血がこびり付いた一本の刀『白百合』が引きずられている。
フラフラと歩むユリの後ろには銃器を持った者や機能しなくなった機械兵が倒れているのだ。
ユリの服装がところどころ破れていて、倒れている者たちとの激しい戦いを繰り広げていたのだと物語っている。

「……ハァ……ハァ……」

ユリは盛ろうとする視界の中、体をふらつかせつつ肩で息をした。
服に付いた固まって黒くなった血飛沫の嫌な臭いと敵であった者たちの悲鳴が脳裏によぎった。
ユリは夜空を照らす早朝のぼんやりとした白い球が白くなったユリを照らす。
その姿は血で汚れており両手で持っている『白百合』は血が垂れるほどところどころ赤く光り、何処か悲しげだ。

「……お父……さ……ん……」

ユリは地に『白百合』を落としてその場で膝から崩れ落ちるように気を失った。
そして、そこを何かのエンジン音がして急に立ち止まった。
それは、この世界にはまずない軍人式ハンヴィーだ。
ハンヴィーのドアが開く音と共に何者かが近づいてきた。

「ユリしっかりしろッ!!」
「……しっかり」

ユリはぼやけてゆく視界で何かの耳と大きな鎌を見てから意識を手放した。
それに気づいたのだろう、軍服姿で水色の鎌が手についているマンティスの「セツ」はユリの胸元に耳を当ててから瞳を閉じて心臓が動いているか確認をし始めた。

「ど、どうセツ?」

心配そうにセツに尋ねるこちらもセツ同様に軍服姿で左目に眼帯をしたワーウルフの「ヴァン」は涙目になりながら言う。

「心配ない。ただ気を失ってるだけ」
「そ、そっかぁ〜……あぁ、良かったよ」

セツは微笑みながらヴァンに言うとヴァンはその場に大の字になって倒れた。
それからヴァンは、異臭がしたので森の中を見つめつつ赤外線式双眼鏡で見た。

「……人が沢山死んでる」
「黒蝶の連中と機械兵のようだね?全部死んでる」
「……ユリ」

セツは気を失ったユリを担ぎながらハンヴィーの後ろに乗った。
その後、ヴァンは地面に落ちている『白百合』を片手に森の中にあった『白百合』の鞘を拾ってから手を合わせてからその場を後にした。
そして、真剣な表情になってからこう呟いて…―――

「戦争を仕掛けようとしているのか……シューク」

――――――

あれから数時間が経った頃、ユリはのそのそと起き上がった。
周囲を確認すると、衣服が黒の軍服姿になっていて近くには『白百合』が置かれていることに気づいた。

「……ぶかぶか」

ユリは眠たそうに被せられていた毛布を剥いでから光が差し込んでいる先に手を伸ばしてから片手で目を隠しつつ開くと視界いっぱいに広がるのは大きくて吸い込まれそうなほどに美しい湖だった。

「……これは?」
「ようやく目が覚めたみたいだね?」
「この声は……ッ!?」

声のした方を向くとそこには巨大な魔界豚を片手で担いで微笑んでいるヴァンを見て目を見開いた。
ヴァンはユリを見てから優しく微笑んだ。

「久しぶりだね?」
「し、師匠ッ!!」

ユリは目くじらに一杯の涙を浮かべてヴァンの元まで走り抱き着いた。
抱き着かれたヴァンは「おっとッ」っと呟きユリの頭を青い狼のような手で優しく撫でる。

「辛かったろう?あんまり無理することは無いからたんと鳴いておきな?」
「うぅッ……うわああああああああんッ!!」

ヴァンは魔界豚を下してからユリを抱きしめた。
ユリはココロのダムが崩壊したかのように大声で泣き始めた。
それを木の上で微笑みながら見つめるセツと途中で合流し、軍服姿に着替えたカイが居た。

「非常に出にくい空気だ」
「……同感」

しかし、そういう二人は瞳から零れる涙を同時に吹きながらユリとヴァンの心温まるシーンを目に焼き付けた。
それから暫くして四名は魔界豚を使って料理を開始した。

「セツとカイは魔界豚を解体してくれないか?」
「珍しく師範が普通の言葉を話してる」
「……殺すぞ?」
「……ｳｨｯｽ」

そう言ってヴァンはユリのバイクとカイの小型バギーをメンテナンスし始めた。
その頃、ユリは……―――

「……ふぁぁ〜ッ、気持ちいぃ〜」

湖の近くにあったのだろう露天風呂で寛いでいた。
ユリは、白くなった髪をタオルで包み、華奢な体に湯をかけてゆく。

「確かにこの湯は傷には効果がありそうですね?」

ユリは目をとろんとさせながら露天風呂を書こう石に背をくっつけてから大きく背伸びをした。
その時に、ぷるんッという効果音がありそうな小ぶりだが形が綺麗な胸が姿を現した。
ユリはドッペルゲンガーの中では一番の胸の持ち主であると嫌々確信してしまっているのだ。

「……また、大きくなってきたのかな?」
「……どれどれ?」
「きゃッ、師範ッ!?」

後ろから伸びてきた手に驚いてから後ろを向くと微笑みながらユリの胸を鷲掴みしているセツが居た。
セツの指先がユリの乳首に当たるたんびに「あッ」だの「……ぅんッ」という甘い声が漏れてゆく。
それを聞いていたカイは前かがみになりながら魔界豚を一人で解体していたのだとヴァンは不思議そうに思っていた。

――――――

食事を終えた四名はたき火をしている為、それを囲うように座っている。
それも何処か真剣な顔立ちでだ。

「師匠と師範がいるってことは重要なことなんですね?」
「……左様だ」
「僕たちは知り合いの情報屋から知りえた情報を持ってきたんだ」
「どんなものなんだヴァンさん?」

ユリとカイは目を細め真剣な表情のヴァンを見つめる。
ヴァンは一息ついてから二人を見てから言った。

「シュークの本当の目的が判明した」
「それってどういうことなんだ?」

カイがヴァンに首を傾げながら尋ねるとセツが一言呟いた。

「……新魔領地の壊滅」
『……ッ!?』

セツの一言にユリとカイは目を思い切って見開いて口を開けた。
開いた口が塞がらないようでセツが説明を始めた。

「恐らくシュークは機械と人工勇者を混ぜ合わせたまがい物を使って潰そうと言う魂胆だろう。全く、死んだシュートの兄だと思えないものだ」
「ちょっとセツッ!?今は殺されたシュートの話をユリの前で……」

セツはしまったと言わんばかりにユリの方を向いた。
そこには、拳を握りしめたカイと下を向いて表情が見て取れないユリの姿があった。

「……叔父様」
「ユリが何も悪い訳じゃないだろ?」
「でも、私の能力の暴走のせいで叔父様は……叔父様は……」

地面に水滴を落としてゆくユリをカイが抱き寄せた。
カイの優しさを感じながらもユリはカイの腕の中ですすり泣いた。
しかし、そんな状況を見事なまでに壊そうとしていた者が居た。

「……目標発見。ただちに排除する」

ユリたちが居る場所からおおよそ100ｍはあるであろう森の茂みからスナイパーライフルを構えた黒い衣服を着た男が狙いをユリに絞ってから引き金に指をかけてから狙いを定める。
しかし、それは何か嫌な予感がしたカイが気づいたかのようにユリをかばった。

「……カイ?」
「ユリしゃがめッ!!」
「……お休み」

男が放った銃弾は何かの音を聞いたカイの首をはね、カイの首が宙に舞った後に血飛沫がまった。
それを見てユリは驚きが隠せないかのように血飛沫を全身に浴びた。

「……あそこか」

セツは銃弾が飛んできた方向を向いてから一瞬にして姿を消した。
森の茂みから狙撃した男は舌打ちをしてからもう一度スナイパーライフルを構えてからユリを狙う。
しかし、それは一瞬にして邪魔をされたのだ。
スナイパーライフルに取り付けられているスコープが貫かれてから男は目を押さえた。
どうやら到着したセツがハンドガンを使ったのだ。

「……私の弟子を殺した。死刑だ」
「ま、待ってくれ……殺そうとしたんじゃ「……死刑」……うぎゃああああああああああああッ!!」

男の体はセツのマチェットナイフ二本と手首の鎌により無残に肉片へと変貌を遂げた。

――――――

時刻は午前九時頃の湖付近にユリは立っていた。
その前には、土が盛り上がりそこに刀と大剣が刺さっており、そこに花が置かれてある。
これは昨晩に若くして命を落としたカイの墓だ。

「……ごめんね、こんな墓しか作れなかった」

ユリは微笑みながら青空を見上げてから呟く。

「私は、カイの分まで戦い続けるね?」

そう言ってからユリは背負っている白百合を鞘から抜いて刃先をカイの刀にくっつけた。

「貴方との思いは決して忘れないから……バイバイ」

ユリは、瞳を閉じてから刀を鞘に戻してヴァンとセツが居る元まで歩いてから微笑んだ。

「ユリ、もう良いんだね?」
「はい、構いません」
「……変わったな」

ユリは瞳を開けてから真っ赤な瞳を輝かせて微笑んだ。
それは、この先が過酷であろうとなかろうと大丈夫と言うことだとヴァンとセツは感じ取った。

「僕たちは多くの対シューク軍を集める旅にでるからね?」
「……ユリに一言」

ヴァンはハンヴィーのエンジンをかけてからセツが乗る。
セツはユリの眼の前に何かを差し出した。

「師範これは?」
「私が作った『抗精剤』だ。これを飲んでたら精が無くても一週間は持つ」
「はい、有難う御座います」

セツは微笑みながらヴァンが乗るハンヴィーに乗ってからユリは大きく手を振ってからバイクに跨る。
ヴァンたちが去った後、ユリは黒いカッターシャツに白のデニム、黒いコート姿になってからバイクを走らせた。
それが彼女の本当の戦いが始まるとも知らずに……―――

■作者メッセージ
はい、皆様お久しぶりです。
今回はｇｄｇｄな内容となってしまいましたが次回作はユリちゃんの戦いを元に作成しようと考えております……(大丈夫なのか?
では、また時間があり次第に投稿させていただこうと思っていますのでﾉｼ
ではではﾉｼ