Dエンジェルさんの昔話
〜Dエンジェルの部屋〜
「Dエンジェルさ〜ん、僕です
書類持ってきたんで入っていいですか?」
「ん、いいよー」
ガチャ
・・・・・・着替え中だった
「全然良くないじゃないですか!?」
「欲情した?」
「しません!! その前にびっくりしました!!」
チッと舌打ちするDエンジェルさん
この人なんか色々と油断できない
・・・・・あ、右の二の腕に薄い切り傷の、痕?
「・・・・その切り傷、どうしたんですか?」
「お、よくわかったわね? こんなに薄いのに」
んーちょっと照れくさいんだけどね、と前置きをしたあと
Dエンジェルさんは言った
「これね、デュラハンと初めて会ったときについたのよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜数十年前〜
ここは辺境近くの森の上
空を飛んで少し考え事をしていた
私は天の使いとしてここに舞い降りたエンジェルだ
既にいくつもの聖戦に参加し、多くの犠牲を払いながら勝利に導いた
しかし、聖戦に参加しているうちに私は疑問を持った、持ってしまった
魔物とは、本当に邪悪な存在なんだろうか?
私は思ったのだ
今まで教会から戦いを仕掛けたことはあっても魔物側から戦いを仕掛けたことが無いと
私は考えたのだ
もしや彼女らは自分達の住処を、拠り所を、家族を奪われ、それに怒りを感じ戦っているのではないかと
私は、見たのだ
彼女らと彼女らの笑顔が、我々によって、砕かれる、その、様を
ならば・・・・・・私達はなんだ?
魔物達と夫、その子供達の未来を奪い、降伏すら許さずに蹂躙する
それが本当に神聖な神の兵なのか?
邪悪を一掃するというのはわかる
しかし・・・・彼女らはただ普通に、ただ幸福に暮らしたいだけなのではないか?
それは、ある日の聖戦でのことだった
私はある軍を守護し、聖戦を勝利に導いた
そのときの私は自分の役割に疑問を持ったことは無かった
だが、敵の主力だったミノタウロスが私の術で崩れ落ち、命を終える際こう言った
「産めなくて・・・・ごめん、な 私の、赤、ちゃん・・・・・・」
本当に悲しそうに、そう、言った
私は彼女の平穏を奪った
産めたはずの赤ん坊を、産むことすら許さず殺した
いや、それだけではない
今まで私たちが戦ってきた魔物達、その家族の持っていた全ての平穏を奪ってきた
それは・・・・・正しいのだろうか?
本来あるべき世界を取り戻す・・・・・それが教会の、私たちの主張だ
ならば本来あるべき世界とは何か?
魔物が駆逐され、人間が支配者となる世界?
では・・・・魔物達は生きることを許されないというのか・・・・・?
人間が支配者になれば全てが収まると言うのか・・・?
本当に魔物とは、相容れないのだろうか・・・・・・・?
わからない・・・・・わからない・・・・・・
「ふんふ〜ん♪ ふふ〜ん♪」
・・・・・・・・鼻唄?
森の中から聞こえる・・・・・?
気になった私は近くに行ってみることにした
少しひらけた場所に小さな泉があり、そこにはデュラハンの少女がいた
首無しの馬を洗ってやっているようだ
「さて、もう少しで洗い終わるからな〜?」
ブルルッと馬が鳴いたあと(首無しの馬でも鳴くんだ・・・・)
デュラハンの少女に体を擦り付けてきた
「あははっ♪ お前は甘えん坊だな〜♪」
彼女らは仲良くじゃれあいながら楽しそうにしていた
(・・・・・微笑ましい光景だなあ)
まあ、首無しの馬がちょっと怖かったが
ここで彼女を殺すのは容易い
しかし、私は彼女を害する気になれなかった
(・・・・・・・・・・帰ろ)
この光景を壊したくなかった
彼女は魔物だけれど、どうか幸せになってほしいと、そう思った
「ほお、見ろよ ちっこいデュラハンだぜ」
・・・・・・っ!?
あれは・・・・・近くの町に駐留している傭兵達!?
「な、なんだお前らは!?」
馬を背にし、剣を構えて少女は叫ぶ
実戦経験が無いのだろう、その構えは未熟で、恐怖によってガクガクだった
「おいおい、剣構えられちゃったぜ」
「困ったなー、俺殺されたくねえよ」
「どうする? 殺るか? それともヤるか?」
「相変わらずガキの死体好きなのかよ・・・・」
「いいんじゃねえか? どうせ魔物だろ」
傭兵達は口々にそう言った
「いいさ、殺してから決めようぜ」
そして傭兵は慣れた手つきで剣を抜き放つ
戦いの練度は比較にならないようだ
「ひっ・・・・・」
デュラハンの少女は恐怖で動けないようだった
目からは涙が出ている
「お、泣いてるぜ」
「俺、こういうの興奮すんだよなあ」
「だからお前は趣味悪いって」
「とりあえず死んどけ、な?」
私は、我慢できなかった
「おやめなさい!!!!」
私は、彼女の前に庇うように立った
「ん?」
「っておい・・・あれ、エンジェルじゃ?」
「な、なんでエンジェルが魔物を?」
「何もしていない魔物に何故剣を向けるのです!!
意味もなく殺すなど、許されません!!」
傭兵達は私の言葉を聞くと、驚愕から嫌な笑みへと表情を変えた
「おいおい、エンジェル様よ、あんた何言ってんだ?」
「あんただって同じ事してただろうが?」
私はさっと血の気が引いたように青くなって首を振る
「ち、ちが・・・・・・」
「違わねえよ その手で散々魔物を殺してただろうが
いまさら何言ってるんだ? それに俺達は穢れた魔物を退治しようとしているんだぜ?」
心臓がバクバクとうるさい
足元に穴が開いているような不安定感が気持ち悪い
「わ、私は・・・・・・」
「あんたと俺達はいわば魔物を退治する"お仲間"だ 俺達と協力してそいつをやっつけようぜ?」
仲間・・・・彼らと私が・・・・仲間・・・・・?
そんな・・・・・ことは・・・・・
後ろを振り向くと、彼女が不安そうな顔をしていた
私は・・・・・私は・・・・・・
「さあ、信仰の名の下にそいつを殺そう "神様"もそれを望んでるんだろう?」
私は、その言葉を聞いて
いままで心のどこかで信仰に頼っていた自分に別れを告げた
「・・・・・だったら信仰なんて捨ててやる!!!
誰も救えない、救わない信仰に何の価値がある!!!
神様が・・・・いや、神がそれを望むというのなら!!!!
神を敵に回してでもこの子を殺させはしない!!!!!」
「い、いまさらだな!! それまでお前が殺した魔物はどうなる!?
穢れた魔物をたくさん殺してきたじゃねえか!?」
「穢れてなんて無い!!! 彼女達は生きるために気高く戦っていた!!!
確かに彼女達を殺した罪は消えない・・・・・でもだからこそ!!
今度こそ、"生かすために"この子を守る!!!
これは・・・私が殺めてしまった彼女達への贖罪だ!!!!」
身体から神の祝福が徐々に消えていくのがわかる
だが後悔は無い
私は・・・・・自分の意思で、選んだのだから
「・・・・だ、だったらテメエも一緒にぶっ殺してやらあ!!!」
傭兵達が次々に剣を抜き放ち、襲いかかる!!
「くっ・・・・・!!」
私はとっさに彼女を庇い、魔法を唱えた
「・・・・・シャイン!!」
カッ!!
「ぐおっ!? ・・・・このおおおおお!!!」
信仰に背き、弱体化した私の魔法では目くらまし程度にしかならず
傭兵がでたらめに振った剣に、私は腕を斬りつけられた
「うああっ!!」
っ・・・思ったより深い・・・・・!!
「お姉ちゃん!! 私の馬に、早く!!」
デュラハンの少女は素早く私の手を取ると
私と一緒に馬に乗って走り出した
「・・・・っのやろお・・・・俺達も馬を出せ、早くしろ追うぞ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・どうしよう・・・・・お姉ちゃんの血が止まらない・・・・・」
森が意外と大きかったのもあって、私たちはまだ森の中にいた
まあ、私が馬の上でどんどん衰弱していたから、というのが大きいのだけど
かなり深く斬られたらしく、正直辛い
「大丈夫大丈夫・・・・・このくらいじゃ死なないよ、エンジェルだもん」
「でも・・・・・」
デュラハンの少女が心配そうにしている
やせ我慢はバレバレみたいだ
「・・・・!」
馬の音がかなり遠くで聞こえた
まだエンジェルとしての力は残っているようだ
どうやら連中は馬を持っていたらしい
むこうは勘なんだろうが、こっちに向かってくる
このままではまずい
「君は馬を使って早く逃げなさい・・・・足止めを、しておくから」
「だ、ダメだよ! 一緒に逃げよう!?」
彼女は自分でもわかっているはずだ
私の身体は馬に耐えられない
一緒に行けば逃げられなくなる、と
私は不謹慎だけど、彼女の優しさに笑みをこぼした
ああ、やっぱり私の選択は間違いじゃなかった
魔物は・・・・決して、穢れた存在なんかじゃない
「・・・・・じゃあ、助けを呼んできて? 私は怪我をしてるから行けないけど
ここで、待ってるから」
私は彼女を騙す
彼女をここから遠ざけるために
彼女を・・・・生かすために
「う、うん、わかった・・・・すぐ戻ってくるから・・・・死んじゃダメだよ!?」
彼女はすぐに馬に乗り、駆けていった
恐らく間に合わないであろう助けを呼びに
「・・・・・・・・ごめんね」
彼らの馬のひづめの音は
すぐ近くまで迫っていた
「よお、遺言は・・・・無いよな?」
彼らは馬から降り、剣を構える
「まあ、このまま終わるってのも嫌だし・・・・せめて彼女が戻ってくるまでに
こいつらを追い払っておこうかしらね・・・・・・」
もう聖なる魔力もどんどん減って残り少ない
光の術はじきに使えなくなるだろう
「最後まで・・・・もってよね、私の身体ぁッッッ!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜三十分後〜
「はあ・・・はあ・・・・」
既に私は魔力を使いきり、限界だった
傭兵の数は二、三人に減っていた
「はあ・・・はあ・・・このやろお・・・・
魔力が殆ど無えのにしぶとく突っかかってきやがって・・・・」
当たり前だ
彼女が戻ってくる前にお前らを追い払わなきゃならないんだから
だが、それも限界だ
「あんたは頑張ったよ・・・・・だがここで終わりだ」
傭兵の一人が剣を大きく振りかぶる
やっぱり間に合わなかったか
「・・・・・ま、いいかな、こういう終わりも」
彼女はデュラハンだからあの世に来るのは二、三百年後かな?
その時は怒られそうだなあ・・・・・・
そして
傭兵の剣が
突然凍った
「「「「・・・・・・・・・・は?」」」」
その場にいる全員がハモった
そこに
「ほうほう、よう粘ったのう 間に合わなんだかと思ったぞ?」
魔女の大群を率いて
ジパングの衣装、十二単を羽織ったバフォメットがいた
ていうか何故に十二単?
「お主ら、やれ」
バフォメットの台詞とともに傭兵達が魔法で吹っ飛んだ
うわあ・・・・・・ムゴい
「で、お主がわらわの妹分のデュラハンを助けたエンジェルかえ?」
「え、あ、はい、そうです」
私がそう答えるとバフォメットはかんらかんらと笑った
「そうかそうか、いやなに、デュラハンが馬が潰れそうになるほど急いでわらわを呼びに来てのう
事情を簡単に聞いてこうして助けに来たのじゃよ」
空間転移は疲れるわい、とバフォメットは軽く自分の肩をたたく
「事情を簡単にって・・・私は敵対していたエンジェルですよ?」
そう言うとバフォメットは小さな手でゆっくり私の口を塞いだ
「デュラハンが、助けを乞うた 理由なんぞ、その二言で十分よ
難しいことは考えるでないわ小娘 千年早い」
「う・・・・」
「ん、どうした・・・・おおっ!?」
私は安心したのか、気が遠くなってきた
バフォメットに寄りかかる形で倒れる
「ふむ、緊張の糸が切れたか・・・・お主はわらわの妹分の恩人、ゆるりと休まれよ」
その言葉を最後に聞いて、私は意識を手放した
数日経って、私は目を覚ました
相変わらず光の術は殆ど使えないみたいだ
まあ、特に問題は無いんだけど
「おお、目を覚ましたか」
バフォメットがそこにいた
「バフォメット・・・・・さん」
「なんじゃ堅苦しい 姐さんと呼べ」
いや、それもどうかと思うけど
「それより・・・ほれ、デュラハンが来ておるぞ」
「あ・・・・・」
デュラハンの少女が目に涙を溜めて立っていた
「エンジェルお姉ちゃあああん・・・・・」
デュラハンは私の顔を見るなり抱きついてきた
「こらこら、私は無事だったんだし、泣かないの」
「でも・・・・腕に痕が・・・・・・」
言われて見ると確かに腕に痕が残っていた
薄く、だけど
「うむ・・・すまんの、大分深い傷だったので完治できんかったわい」
バフォメット・・・もとい姐さんが済まなそうな顔をする
私は微笑んだ
「いいんですよ、むしろ勲章のようなものです」
「お姉ちゃん・・・・・」
デュラハンの少女が私を見上げる
「私・・・・強くなる 強くなって今度こそ、お姉ちゃんを守るから」
その目は、強い決意で私を見つめた
「うん、私もサポートするから、頑張ってね?」
「うん!!」
こうして、私とこの少女は強い絆で結ばれた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、いうわけよ ちょっと恥ずかし・・・・って何で泣いてるの」
僕は号泣していた
「だって・・・・僕、Dエンジェルさんを
ただのエッチで変態な人だとばかり・・・・もう感動しちゃって・・・」
「いやあ〜///// ・・・・ってあれ? もしかして私、けなされてない?」
「まさか ・・・・・で、その後は?」
むう、とDエンジェルさんは膨れたあと、語りだした
「その後は一応姐さんの部隊に所属させてもらって、妹のバフォ様が自立するってんで
そっちに移籍した後にこっちに来たって感じかな?」
そうか、姐さんって人はバフォ様のお姉ちゃんだったのか
「そうそう、ここの近くに親魔物派の街があるでしょ?
あれって数十年近く前は反魔物派だったのよ?」
そういえば聞いたことがある
少しづつ魔物派に染められたって昔習った
「あれって私とデュラハンが長い時間掛けて親魔物派にしたのよ〜
議会説き伏せるのに十年、住民に浸透させるのに三十年以上かかったっけ」
「え、凄いじゃないですか!?」
「昔ね、私たちで世界の意識を変えよう、魔物を良く知ってもらおうって
二人で決めたの その第一号ね」
やばい、またちょっと目が潤んできた
この人たちホント凄いなあ
「・・・・そういえば語られなかったけど、Dエンジェルさんはどうやって堕天したんですか?」
「あ〜・・・・・昔ね、まだ姐さんの部隊にいたとき、部下の魔女の一人がショタコンでね・・・・・」
あ、なんとなくオチが読めた
「ショタの魅力を教えるって私たちを無理やりショタ中心のサバトに放り込んで・・・・・」
なんかDエンジェルさんが恥ずかしそうにうつむいた
「・・・・・ご愁傷様です」
「Dエンジェルさ〜ん、僕です
書類持ってきたんで入っていいですか?」
「ん、いいよー」
ガチャ
・・・・・・着替え中だった
「全然良くないじゃないですか!?」
「欲情した?」
「しません!! その前にびっくりしました!!」
チッと舌打ちするDエンジェルさん
この人なんか色々と油断できない
・・・・・あ、右の二の腕に薄い切り傷の、痕?
「・・・・その切り傷、どうしたんですか?」
「お、よくわかったわね? こんなに薄いのに」
んーちょっと照れくさいんだけどね、と前置きをしたあと
Dエンジェルさんは言った
「これね、デュラハンと初めて会ったときについたのよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜数十年前〜
ここは辺境近くの森の上
空を飛んで少し考え事をしていた
私は天の使いとしてここに舞い降りたエンジェルだ
既にいくつもの聖戦に参加し、多くの犠牲を払いながら勝利に導いた
しかし、聖戦に参加しているうちに私は疑問を持った、持ってしまった
魔物とは、本当に邪悪な存在なんだろうか?
私は思ったのだ
今まで教会から戦いを仕掛けたことはあっても魔物側から戦いを仕掛けたことが無いと
私は考えたのだ
もしや彼女らは自分達の住処を、拠り所を、家族を奪われ、それに怒りを感じ戦っているのではないかと
私は、見たのだ
彼女らと彼女らの笑顔が、我々によって、砕かれる、その、様を
ならば・・・・・・私達はなんだ?
魔物達と夫、その子供達の未来を奪い、降伏すら許さずに蹂躙する
それが本当に神聖な神の兵なのか?
邪悪を一掃するというのはわかる
しかし・・・・彼女らはただ普通に、ただ幸福に暮らしたいだけなのではないか?
それは、ある日の聖戦でのことだった
私はある軍を守護し、聖戦を勝利に導いた
そのときの私は自分の役割に疑問を持ったことは無かった
だが、敵の主力だったミノタウロスが私の術で崩れ落ち、命を終える際こう言った
「産めなくて・・・・ごめん、な 私の、赤、ちゃん・・・・・・」
本当に悲しそうに、そう、言った
私は彼女の平穏を奪った
産めたはずの赤ん坊を、産むことすら許さず殺した
いや、それだけではない
今まで私たちが戦ってきた魔物達、その家族の持っていた全ての平穏を奪ってきた
それは・・・・・正しいのだろうか?
本来あるべき世界を取り戻す・・・・・それが教会の、私たちの主張だ
ならば本来あるべき世界とは何か?
魔物が駆逐され、人間が支配者となる世界?
では・・・・魔物達は生きることを許されないというのか・・・・・?
人間が支配者になれば全てが収まると言うのか・・・?
本当に魔物とは、相容れないのだろうか・・・・・・・?
わからない・・・・・わからない・・・・・・
「ふんふ〜ん♪ ふふ〜ん♪」
・・・・・・・・鼻唄?
森の中から聞こえる・・・・・?
気になった私は近くに行ってみることにした
少しひらけた場所に小さな泉があり、そこにはデュラハンの少女がいた
首無しの馬を洗ってやっているようだ
「さて、もう少しで洗い終わるからな〜?」
ブルルッと馬が鳴いたあと(首無しの馬でも鳴くんだ・・・・)
デュラハンの少女に体を擦り付けてきた
「あははっ♪ お前は甘えん坊だな〜♪」
彼女らは仲良くじゃれあいながら楽しそうにしていた
(・・・・・微笑ましい光景だなあ)
まあ、首無しの馬がちょっと怖かったが
ここで彼女を殺すのは容易い
しかし、私は彼女を害する気になれなかった
(・・・・・・・・・・帰ろ)
この光景を壊したくなかった
彼女は魔物だけれど、どうか幸せになってほしいと、そう思った
「ほお、見ろよ ちっこいデュラハンだぜ」
・・・・・・っ!?
あれは・・・・・近くの町に駐留している傭兵達!?
「な、なんだお前らは!?」
馬を背にし、剣を構えて少女は叫ぶ
実戦経験が無いのだろう、その構えは未熟で、恐怖によってガクガクだった
「おいおい、剣構えられちゃったぜ」
「困ったなー、俺殺されたくねえよ」
「どうする? 殺るか? それともヤるか?」
「相変わらずガキの死体好きなのかよ・・・・」
「いいんじゃねえか? どうせ魔物だろ」
傭兵達は口々にそう言った
「いいさ、殺してから決めようぜ」
そして傭兵は慣れた手つきで剣を抜き放つ
戦いの練度は比較にならないようだ
「ひっ・・・・・」
デュラハンの少女は恐怖で動けないようだった
目からは涙が出ている
「お、泣いてるぜ」
「俺、こういうの興奮すんだよなあ」
「だからお前は趣味悪いって」
「とりあえず死んどけ、な?」
私は、我慢できなかった
「おやめなさい!!!!」
私は、彼女の前に庇うように立った
「ん?」
「っておい・・・あれ、エンジェルじゃ?」
「な、なんでエンジェルが魔物を?」
「何もしていない魔物に何故剣を向けるのです!!
意味もなく殺すなど、許されません!!」
傭兵達は私の言葉を聞くと、驚愕から嫌な笑みへと表情を変えた
「おいおい、エンジェル様よ、あんた何言ってんだ?」
「あんただって同じ事してただろうが?」
私はさっと血の気が引いたように青くなって首を振る
「ち、ちが・・・・・・」
「違わねえよ その手で散々魔物を殺してただろうが
いまさら何言ってるんだ? それに俺達は穢れた魔物を退治しようとしているんだぜ?」
心臓がバクバクとうるさい
足元に穴が開いているような不安定感が気持ち悪い
「わ、私は・・・・・・」
「あんたと俺達はいわば魔物を退治する"お仲間"だ 俺達と協力してそいつをやっつけようぜ?」
仲間・・・・彼らと私が・・・・仲間・・・・・?
そんな・・・・・ことは・・・・・
後ろを振り向くと、彼女が不安そうな顔をしていた
私は・・・・・私は・・・・・・
「さあ、信仰の名の下にそいつを殺そう "神様"もそれを望んでるんだろう?」
私は、その言葉を聞いて
いままで心のどこかで信仰に頼っていた自分に別れを告げた
「・・・・・だったら信仰なんて捨ててやる!!!
誰も救えない、救わない信仰に何の価値がある!!!
神様が・・・・いや、神がそれを望むというのなら!!!!
神を敵に回してでもこの子を殺させはしない!!!!!」
「い、いまさらだな!! それまでお前が殺した魔物はどうなる!?
穢れた魔物をたくさん殺してきたじゃねえか!?」
「穢れてなんて無い!!! 彼女達は生きるために気高く戦っていた!!!
確かに彼女達を殺した罪は消えない・・・・・でもだからこそ!!
今度こそ、"生かすために"この子を守る!!!
これは・・・私が殺めてしまった彼女達への贖罪だ!!!!」
身体から神の祝福が徐々に消えていくのがわかる
だが後悔は無い
私は・・・・・自分の意思で、選んだのだから
「・・・・だ、だったらテメエも一緒にぶっ殺してやらあ!!!」
傭兵達が次々に剣を抜き放ち、襲いかかる!!
「くっ・・・・・!!」
私はとっさに彼女を庇い、魔法を唱えた
「・・・・・シャイン!!」
カッ!!
「ぐおっ!? ・・・・このおおおおお!!!」
信仰に背き、弱体化した私の魔法では目くらまし程度にしかならず
傭兵がでたらめに振った剣に、私は腕を斬りつけられた
「うああっ!!」
っ・・・思ったより深い・・・・・!!
「お姉ちゃん!! 私の馬に、早く!!」
デュラハンの少女は素早く私の手を取ると
私と一緒に馬に乗って走り出した
「・・・・っのやろお・・・・俺達も馬を出せ、早くしろ追うぞ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・どうしよう・・・・・お姉ちゃんの血が止まらない・・・・・」
森が意外と大きかったのもあって、私たちはまだ森の中にいた
まあ、私が馬の上でどんどん衰弱していたから、というのが大きいのだけど
かなり深く斬られたらしく、正直辛い
「大丈夫大丈夫・・・・・このくらいじゃ死なないよ、エンジェルだもん」
「でも・・・・・」
デュラハンの少女が心配そうにしている
やせ我慢はバレバレみたいだ
「・・・・!」
馬の音がかなり遠くで聞こえた
まだエンジェルとしての力は残っているようだ
どうやら連中は馬を持っていたらしい
むこうは勘なんだろうが、こっちに向かってくる
このままではまずい
「君は馬を使って早く逃げなさい・・・・足止めを、しておくから」
「だ、ダメだよ! 一緒に逃げよう!?」
彼女は自分でもわかっているはずだ
私の身体は馬に耐えられない
一緒に行けば逃げられなくなる、と
私は不謹慎だけど、彼女の優しさに笑みをこぼした
ああ、やっぱり私の選択は間違いじゃなかった
魔物は・・・・決して、穢れた存在なんかじゃない
「・・・・・じゃあ、助けを呼んできて? 私は怪我をしてるから行けないけど
ここで、待ってるから」
私は彼女を騙す
彼女をここから遠ざけるために
彼女を・・・・生かすために
「う、うん、わかった・・・・すぐ戻ってくるから・・・・死んじゃダメだよ!?」
彼女はすぐに馬に乗り、駆けていった
恐らく間に合わないであろう助けを呼びに
「・・・・・・・・ごめんね」
彼らの馬のひづめの音は
すぐ近くまで迫っていた
「よお、遺言は・・・・無いよな?」
彼らは馬から降り、剣を構える
「まあ、このまま終わるってのも嫌だし・・・・せめて彼女が戻ってくるまでに
こいつらを追い払っておこうかしらね・・・・・・」
もう聖なる魔力もどんどん減って残り少ない
光の術はじきに使えなくなるだろう
「最後まで・・・・もってよね、私の身体ぁッッッ!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜三十分後〜
「はあ・・・はあ・・・・」
既に私は魔力を使いきり、限界だった
傭兵の数は二、三人に減っていた
「はあ・・・はあ・・・このやろお・・・・
魔力が殆ど無えのにしぶとく突っかかってきやがって・・・・」
当たり前だ
彼女が戻ってくる前にお前らを追い払わなきゃならないんだから
だが、それも限界だ
「あんたは頑張ったよ・・・・・だがここで終わりだ」
傭兵の一人が剣を大きく振りかぶる
やっぱり間に合わなかったか
「・・・・・ま、いいかな、こういう終わりも」
彼女はデュラハンだからあの世に来るのは二、三百年後かな?
その時は怒られそうだなあ・・・・・・
そして
傭兵の剣が
突然凍った
「「「「・・・・・・・・・・は?」」」」
その場にいる全員がハモった
そこに
「ほうほう、よう粘ったのう 間に合わなんだかと思ったぞ?」
魔女の大群を率いて
ジパングの衣装、十二単を羽織ったバフォメットがいた
ていうか何故に十二単?
「お主ら、やれ」
バフォメットの台詞とともに傭兵達が魔法で吹っ飛んだ
うわあ・・・・・・ムゴい
「で、お主がわらわの妹分のデュラハンを助けたエンジェルかえ?」
「え、あ、はい、そうです」
私がそう答えるとバフォメットはかんらかんらと笑った
「そうかそうか、いやなに、デュラハンが馬が潰れそうになるほど急いでわらわを呼びに来てのう
事情を簡単に聞いてこうして助けに来たのじゃよ」
空間転移は疲れるわい、とバフォメットは軽く自分の肩をたたく
「事情を簡単にって・・・私は敵対していたエンジェルですよ?」
そう言うとバフォメットは小さな手でゆっくり私の口を塞いだ
「デュラハンが、助けを乞うた 理由なんぞ、その二言で十分よ
難しいことは考えるでないわ小娘 千年早い」
「う・・・・」
「ん、どうした・・・・おおっ!?」
私は安心したのか、気が遠くなってきた
バフォメットに寄りかかる形で倒れる
「ふむ、緊張の糸が切れたか・・・・お主はわらわの妹分の恩人、ゆるりと休まれよ」
その言葉を最後に聞いて、私は意識を手放した
数日経って、私は目を覚ました
相変わらず光の術は殆ど使えないみたいだ
まあ、特に問題は無いんだけど
「おお、目を覚ましたか」
バフォメットがそこにいた
「バフォメット・・・・・さん」
「なんじゃ堅苦しい 姐さんと呼べ」
いや、それもどうかと思うけど
「それより・・・ほれ、デュラハンが来ておるぞ」
「あ・・・・・」
デュラハンの少女が目に涙を溜めて立っていた
「エンジェルお姉ちゃあああん・・・・・」
デュラハンは私の顔を見るなり抱きついてきた
「こらこら、私は無事だったんだし、泣かないの」
「でも・・・・腕に痕が・・・・・・」
言われて見ると確かに腕に痕が残っていた
薄く、だけど
「うむ・・・すまんの、大分深い傷だったので完治できんかったわい」
バフォメット・・・もとい姐さんが済まなそうな顔をする
私は微笑んだ
「いいんですよ、むしろ勲章のようなものです」
「お姉ちゃん・・・・・」
デュラハンの少女が私を見上げる
「私・・・・強くなる 強くなって今度こそ、お姉ちゃんを守るから」
その目は、強い決意で私を見つめた
「うん、私もサポートするから、頑張ってね?」
「うん!!」
こうして、私とこの少女は強い絆で結ばれた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、いうわけよ ちょっと恥ずかし・・・・って何で泣いてるの」
僕は号泣していた
「だって・・・・僕、Dエンジェルさんを
ただのエッチで変態な人だとばかり・・・・もう感動しちゃって・・・」
「いやあ〜///// ・・・・ってあれ? もしかして私、けなされてない?」
「まさか ・・・・・で、その後は?」
むう、とDエンジェルさんは膨れたあと、語りだした
「その後は一応姐さんの部隊に所属させてもらって、妹のバフォ様が自立するってんで
そっちに移籍した後にこっちに来たって感じかな?」
そうか、姐さんって人はバフォ様のお姉ちゃんだったのか
「そうそう、ここの近くに親魔物派の街があるでしょ?
あれって数十年近く前は反魔物派だったのよ?」
そういえば聞いたことがある
少しづつ魔物派に染められたって昔習った
「あれって私とデュラハンが長い時間掛けて親魔物派にしたのよ〜
議会説き伏せるのに十年、住民に浸透させるのに三十年以上かかったっけ」
「え、凄いじゃないですか!?」
「昔ね、私たちで世界の意識を変えよう、魔物を良く知ってもらおうって
二人で決めたの その第一号ね」
やばい、またちょっと目が潤んできた
この人たちホント凄いなあ
「・・・・そういえば語られなかったけど、Dエンジェルさんはどうやって堕天したんですか?」
「あ〜・・・・・昔ね、まだ姐さんの部隊にいたとき、部下の魔女の一人がショタコンでね・・・・・」
あ、なんとなくオチが読めた
「ショタの魅力を教えるって私たちを無理やりショタ中心のサバトに放り込んで・・・・・」
なんかDエンジェルさんが恥ずかしそうにうつむいた
「・・・・・ご愁傷様です」
13/07/29 20:06更新 / くびなし
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