うちの裏には川がある
たいした水量でゆっくりと流れる川
底まで見えるきれいな川だ
きらきらと光をきらめかせる波･･･
と…黒い影がすーっと川面を通っていった
それは一艘の舟
「一太。漁に出てくっからな？期待して待ってろよ？」
「うん！とぉちゃん！！」
「今日も大漁にするぞぉ」
「うん！頑張ってじぃちゃん！」
じぃちゃんが竹の棒で舟を操りながら笑顔を見せる
よく日に焼けた真っ黒のじぃちゃんととぉちゃん、白い歯を見せ笑いながら通り過ぎていった

うちは漁師
川の魚を獲って暮らしてる
獲った魚を街に卸して生活していた
少し遠くなるが足を伸ばせば海にも出られる
そんなところ
じぃちゃんととぉちゃんの腕にかかれば何でも獲れた
それは、海の衆にも一目置かれるほど…

オイラの名は、一太。とぉちゃんとじぃちゃんみたいな漁師になることを目指している
だから、二人が漁に出てしまうといつも一人で投げ網の練習をしていた
「とぉ！！」
バシャン！
「やぁ！」
バシャッ！！
幾ら練習しても子供の投げる網に引っかかる魚なんていない
きれいな円状に網を広げられればいいのだけれど、そのコツがなかなか掴めない
丸い網の真ん中に紐がある。それをきちんと手に持ち、円の縁に沿って錘が付けられているから、網についている根元をきちんと持って投げないとうまく広がってくれない
「クソー！！」
練習の成果として、漁の後網の繕いが終わった後いつもとぉちゃんかじぃちゃんが網の投げ方を教えてくれる
きれいに広がる二人の網･･･それに比べて…おいらのは…
何度やってもうまくいかない…

「今度こそ！！やぁ！」
バシャン！！
・・・
パシャン…
「え？まさか？！魚？」
何かが掛かったように網の中が動いている…
「…あーーー」
一瞬の喜びも束の間…中に見えたものを見てがっかりした

網の中からは、緑色の腕が伸びていた
助けを求めるようにバシャバシャともがくその腕
「い・・・いっちゃーん！一太ちゃーん解いてーーーー！！」
それはバシャバシャともがき続ける。あんまりもがくと網を傷めるからやめてもらいたいのだけど・・・
「とーいーてーーー！おーねーがーいー」
「・・・」
何も言わずに網を手繰る
「いっちゃん・・・ねぇ…お・ね・が・いっ！」
川瀬に上がったそれ…
「セナ！練習の邪魔すんなって言ったろう？！」
「だぁってぇ。魚獲れないいっちゃんのために一肌脱いでいるんじゃない♪」
「よけいなお世話だ！！」
“セナ”とは・・・瀬菜という名のまぁ･･･友達だ
見た目は、頭に皿があって、背に甲羅…手と足に水かきがあって全身緑色の…カッパというやつだ
小さな頃から、一緒に遊んできた
オイラも漁師になるべくこうして投網の練習をするようになってからあんまり遊ぶことも無くなったが、暇になるとこうしてやってくる
時々、じぃちゃんととぉちゃんの漁を手伝うこともあるらしい
網を仕掛けておいて、川の中からセナが一気に魚をそこへ追い込むのだ
だから、じぃちゃんもとぉちゃんもセナのことを娘のように可愛がっている…
オイラといえば…少し面白くなかったけど…

なんとか自力で網を解こうとしているようだが…ますますもって絡まってしまっている
「あん♪…ねぇ、いっちゃん？色っぽい？」
いろいろなところが網に締められてそんなことを聞いてくる
「知るか莫迦！」
「莫迦って言ったー！ねーぇー！解いてよー」
「解いたら、また！相撲しようって言ってくるんだろう？」
そう、セナが暇な時はいつも相撲をしようって遊びに来るのだ
近くの村のガキ大将も手に負えないセナの横綱っぷりにオイラがどうやって挑めというのだろうか･･･
「うん♪いっちゃんと相撲やってると楽しいんだモン♪」
「オイラはぜんぜん楽しくなんかないよう…」
「ねぇー。解いてー相撲しようよー」
「やだ！」
「ふふーん？いいの？ずっとこのままで…練習できないよ？じいちゃんとおっちゃんが帰ってきてわたしを見たら怒られるよ？」
ふふん…と勝ち誇ったように言うセナ…
確かに、オイラに与えられた網はこれしかなく練習が出来ない。二人がこのセナを見たら…雷どころの騒ぎでは済まないだろう…」
しぶしぶ、セナの網を外してあげた…

「いっちゃーん♪」
「うわわっ？！」
外した途端に抱きついてきたセナ
その拍子に尻餅をついてしまった
気が付けば、目の前にセナの顔がある
四つんばいになってオイラの顔を伺っていた
「いっちゃんとこうしてるとねぇ…なんか、心があったかくなるんだ〜♪」
胸にほっぺたをすりすりと押しつけてくる
「セナ…いいから離れろ〜！」
「いっちゃん、顔真っ赤！」
「いいから！」
顔が熱い･･･
最近のセナはこうして擦り寄ってくることが多くなった
「じゃっ！その代わり〜相撲やろっ♪」
言うが早いか立って構えを取るセナ…
「・・・」
「しょうがないって顔すんな〜！」
オイラは構えるとすぐに押し倒しされて尻餅をついた
抱きつくのが好きなセナは押し倒しをよくする…
「いーっちゃん♪」
「はぁ…」
「いっちゃんは寄り切りしかしようとしないんだもの！もうちょっと違う組み手でやろうよう」
それは・・・
投げみたいなものは絶対にさせてくれないし、力の強いセナには掛けられない
張り手とかなんてしようものなら、胸に手が当たってしまうじゃないか…
押し倒しとかなんてしようものなら…抱き合っちゃうかもしれないじゃないか…そんなの…
恥ずかしいよ…
「いっちゃん？真っ赤になってるぅ〜。一体何を考えてたのぉ〜♪」
「何でもいいだろうが！！」
「ん〜それじゃあね…いっちゃんが本気でわたしを負かしたら…ちょっかい出すのやめてあげてもいいんだよ？」
「ほんとか？！」
「うん♪」
冗談は言うけど、約束事はきちんと守る奴だ
負かしたら心置きなく練習が出来る！
だから、本気になってどうやったら打ち負かせるか考えた…

それから…
毎日、セナは網に引っかかって投網の邪魔をしに来るようになった
「んふっふぅ〜？早く勝たないとどんどん練習できないねぇ〜♪」
毎日、挑んでは押し倒される…
「いっちゃぁ〜ん♪いっちゃん弱いからいつもこうしていられるよ〜♪いつまでも弱いままでいてね♪」
胸の上で頬擦りするセナ…
冗談じゃない！早く勝って投網の練習をするんだ！
そんな毎日が続いた…






「くそ！また負けた！！」
オイラは家で悔し涙を流していた
セナのやつ・・・
なにがしたいんだ！
オイラが漁師になりたいと思っているのを知っているくせに！
前に、頑張れって言ってくれたじゃないか！

バリッ！

「なんで何回やっても勝てないんだ？！」

ガリッ？！

途端に口の中に苦々しさが広がる…
「にがっ？！」
どうやら勢い余ってきゅうりのヘタを噛み潰してしまったらしい…
最近のセナは、相撲で負けるときゅうりをくれる
あいつ…あいつなりに元気出せとでも言っているのか？


家の縁側できゅうりをばりばりと苦虫を噛み潰すようにたべているとじぃちゃんがやって来た
「一太。オメ、またせなちゃんに相撲で負かされたのけ？」
「・・・」
「まったく、そんなに尻さ砂つけて…」
「なんであいつに勝てないんだよう！」
「そりゃー、カッパと云えば相撲。相撲と云えばカッパじゃねぇかい」
「・・・」
「一太？オメ、せなちゃんのこと好きか？」
「え？」
「好きなら、負かし方教えてもいいぞ？」
「負かし方知っているの？」
「さぁなぁ…。でも、嫌いなら教えね。まぁ、好きでも嫌いでも、こうなったら結果は一緒か…」
「？」
「で？どう思っているんだ？」
じぃちゃんの言葉に…素直に答えることにした
「好きだよ…。セナのことオイラ好きだよ？でも！オイラがじぃちゃんやとぉちゃんみたいな漁師になりたいって知っているのに、あいつ…」

「そうかぁ…」
それを聞いたじぃちゃんはやさしく微笑んだ
ぽんぽんと頭を軽く叩くと言った

「なら、教えんぞ？一太？オメ、せなちゃんと背丈はどのくらいだ？」
「背丈？オイラのほうがもう大きくなっているよ？」
「そうかそうか…ならな、がっつりと組み合ってせなちゃんの頭が目の前に来たら…」
「来たら？」
「来たら、頭の皿をぺろっと舐めてやればいい」
「舐めるの？」
「ああ。そうすりゃ、勝てる！」
「うん！ありがとうじぃちゃん！！」
「おう！頑張れよ〜」
じぃちゃんの知恵と声援を胸にオイラは川へとむかった


「セナ〜！」
大声で呼ぶと、向こう岸の葦の間から顔を覗かせるセナが見えた
「いっちゃ〜ん♪会いに来てくれたの〜♪」
そう言うと、ザブンと飛沫を立てて川に飛び込むとまっすぐこちらに泳いできた

「いっちゃ〜ん！えへへ♪」
「抱ーきーつくなー！」
「わざわざ会いに来てくれたの〜？」
「今日の相撲は後もう少しだったんだ！だから、もう一度やりに来た！！」
「んふっふ〜♪ 確かに後もう少しだったもんね〜。わたしはいっちゃんに抱きつけたから良かったんだけどね♪」
「っ！？」
思い出して真っ赤になる…
「真っ赤よ〜？」
「ええい！勝負勝負！！」
「うん♪」

川辺に丸く円を描くと、その中に立つセナ
恥ずかしいことを頭の中から追い払いただ勝つ為、じぃちゃんの言っていたことをするために見据えた
「一太？いつもよりも真剣だね」
「…あたりきしゃりきのこんこんちきってね」
「意味分かってる？」
「知らない…」
「じゃ！気合も入れたところで！…はっけよぉーーーいっ！…のこったぁ！！」

セナには何をしても無駄だったら最初からがっつりと腰に手を回して組む
こうすれば、一つだけ勝てる見込みがある
掬い投げ…
身長差を利用して抱え上げてしまえば、いくら力持ちのセナとて巻き返しは容易ではないだろう
でも、悟らせないように寄り切りと見せかけて腰に手を回す

「やん♪ いっちゃんお尻持ったー」
「・・・」
今は耳を貸してはいられない
どうすれば掬い上げられる？腰から脇の下に腕を回す
「？・・・そっかー。なら…」
どうやらこちらの魂胆を見破ったらしい
どこでわかったんだ？
掬い上げられまいと腰を落として踏ん張るセナ
腰にまわしていた腕を、腰骨あたりに回すと逆に抱き上げようとしてきた
「掬い上げ？いい線だったけど…わたしがいっちゃんを抱え上げて、そのままわたしのお家に持って帰っちゃうよ〜♪」
「なにくそ！」
頬擦りしながらそう言うセナ
首の下に彼女の頭が揺れている
いまだ！！

ぺろん！！

「ひゃぁぁぁ！！」
そのままの姿勢で固まってしまった

ぺろんっ！ぺろぺろ

「いっちゃぁぁぁん…だめぇぇぇぇ…」
力が抜けたのか腰を抱えたままふにゃっとそのまま尻餅をついてしまったセナ
けど、腰にまわした手は外してくれない
「セナ。腕外して！」
腰に手を回されたままの変な体勢…腰が痛くなった…
「いっちゃんも座ればいいんだよぅ…」
「・・・」
しぶしぶ腰を下ろす
「いっちゃぁぁぁぁん！ひどいよぅ！お皿舐めるなんて！！」
「これでオイラの勝ちだ！セナ！いたずらやめてくれるな？」
「いっちゃんの勝ち？・・・あ・・・」
残念そうな顔をしたセナ
「ん？」
「・・・そうだったね。うん、やめたげる・・・でも・・・」
「でも？」
「わたしを打ち負かしてくれたんだね？せなうれしいよ♪」
彼女は、胸の中でにこっと笑った。きらきらとした笑顔だった
「うっ・・・」
それを見てどきどきしてしまった
「いっちゃん？」
名を呼ぶと共に押し倒されていた
「セナ？」

ちゅぅ♪

「え？」
「いっちゃん。せなね？いっちゃんのこと好きなの」
「好き？」
「うん♪ いっちゃんのお嫁さんになりたいの」
「え？！」
「だめ？いっちゃんはせなのこと好きじゃない？」
「・・・」
「ん？」
ん？と耳を傾けて横目でどう？という仕草をしている
「…すきだよ」
「うん？」
「ぅ…すきだよ」
「聞こえないよ？」
「ぁ…ん…」
「…」
思えば茹でダコのように頭が茹っていたと思う…
「・・・好きだよ！…せなのこと！好きだよ！！」
セナのことまともに見れなくて目を閉じた…
「いっちゃぁぁぁぁん！！！やっと好きって言ってくれた♪」
抱きついて口づけしたり、ぺろぺろなめたりしてくるセナ
「・・・」
「いーっちゃん。目を開けて？」
「・・・」
黄緑色のきれいな瞳がこっちを見ていた
「ちゅっ♪・・・えへへへ♪」
「セナ…ちゅ…ぺろぺろ…」
「えへっ♪ えへへへ♪ ねぇいっちゃん？」
蕩けそうな顔して笑っている。そうして、鎖骨あたりに顎を乗せてじっと見てくるセナ
「そんなに見つめるなよ」
「だってぇ…前は同じ背丈だったのに今はこんなにも大きいじゃない♪」
いつものように胸板ですりすりとはじめるセナ
「そうだ♪ いっちゃん？いつも勝負の後にきゅうりあげてたよね？」
「ん？そうだったな…なんできゅうり？」
「うん。これでも食って悔しさを糧にしなってね！」
「・・・そんなことだったのか。でも、苦かったよ･･･」
「それでね？わたしも負けたんだし、きゅうりちょうだい♪」
「？・・・オイラはきゅうりなんて持ってないよう」
「あるじゃない♪ 熟れた瓜みたいなのが♪」
熟れた瓜…まさか？！
「せ・・・せせせせせせ…セナ！ま…まままま…まさか…？！」
「うん♪ ちょーだい♪」
セナの片手が股間に伸びる
褌なんて付けてないからすぐに、彼女の手の感触が…

ひんやりとしていて、やわらかなその手
「ふふふ♪いっちゃん？大きくなってきたよ？」
「そっそそそそ…それは！」
おちんちんが…
彼女が触るたびに硬くなっているような気がする…
「あはぁ…こんなに大きくなったぁ。いーっちゃん？親指くらいだったのに、蝦蟇の穂くらいに大きくなったよ？」
「・・・」
はずかしい…。好きな女の子にまじまじと見られるなんて…
「ふふっくふふっ…やっといっちゃんのきゅうり…」
待ちかねたとでも言うように頬擦りしながら周りをぺろぺろと舐める
そのまま、あむっ！っと口に銜えるところころとむしゃぶりだした
「いっちゃんの…変な味がする…。へんな匂いもするよう…」
「うわぁ！イヤならやめっ！」
「でもぉ…おいしいよぅ…♪」
じゅるじゅると音を立てながらむしゃぶる
感じたことのないその感覚に背筋がゾクゾクとしてくる
「セナ！なんか変だよう？！」
「いっちゃぁぁぁん。おちんちんがね？びくっ！びくっ！てしてるのぉ！気持ちいいの？」
「わかんないっわかんないよう！！」
股間がどんどん熱くなってきて！よく分からない感覚に声を出して呻いていた
「なんか、お汁が出てきたよ？…ちゅるっ！…ああっなんか！なんかおいしいよぅ♪」
と…突然！
「ガッ！うごあぁぁぁ！！」
「え？！」
どうやら、カリのところを歯があたったようだった。そのあまりに痛さに痙攣してしまう
「え？…あっごめん…」
「イタ！痛いよう…」
もうイヤだった。こんなわけの分からないことされて、痛くされて…
「ごめん。いっちゃんお詫びにもっとなめなめしたげる！」
「え？！いや！もうやめてよう！！」

それから、なにがあったのかよく分からない…
舐められたり、上に乗られたりして…
よくわからないけど、頭の中に何かが来て真っ白になっちゃったんだ…
恥ずかしすぎて思い出すだけで頭が茹ダコになっちゃうんだ…





あれから…数年

オイラも一人前と認められて漁に出るようになった
相撲で勝った後、セナは家族となった
オイラの家族は、新しい家族を歓迎してくれた
嫁になったセナ。前と同じようにいつも仲良しだ。一緒に暮らし始め、漁にも一緒に行くようになった
投網はやっぱりまだ下手だけど、セナと一緒に追い込みでそれなりに魚を獲れるようになった
セナといえば…
「いっちゃぁーん♪ 漁も終わったしーぃ。相撲しよ♪」
「またか？」
「今度はー、わたしが上か、いっちゃんが上か賭けての勝負よ♪」
「セナ！こんな真昼間から何言い出すんだ！」
「え〜じゃあ…わたしが上ね♪ 」
「待て！それは！」
「ダメ〜！この前、相撲中にお皿なめなめしたじゃない！」
「気持ちよかったろ？」
「うん♪ じゃなくて！いっちゃんの顔見ながらするのが好きなの〜♪ だから、今日こそ負けないの〜♪」
こんな風にいつも元気だ
そんな笑顔に支えられてオイラも元気になってくる
「セナ！」
「な〜に〜？いっちゃん？」
「好きだぞ〜？」
「うん♪♪♪」

こんな楽しい日々がいつまでも続くのだろう
いつまでも･･･

■作者メッセージ
かっぱさんです

相撲をまったく知らないのにこんなの書いて大丈夫か？
スーヨーきゅうりを頂いたのでなんかカッパが書きたくなった
江戸時代のきゅうりは苦すぎて熟れてから食べてたらしいけど、かっぱさんは苦いの大丈夫なのかな？