連載小説
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8.希望と苦悩の狭間
携帯で不自由なく話せるようになった私達は連れ立っていろいろな所に出かけることにした

「なあミーリエル?君が見守ってきた街を案内してくれないか?」

彼女が命がけで見守ってきた街を見たいと思った

『いいわよ。ワタシも知り合いが街に帰ってきているか確認したかったからちょうどいいわ。すごくいい街なんだから!あなたも絶対に気に入るわよ?』
うれしそうなミーリエル。やっぱり好きなんだろうなあの街
そして、いい案を出してくれるであろう知り合い。その人がいることを期待した

例の動画にあった街らしい。この辺りには他に街はないということだったので、ミーリエルにはご足労だが、こちらの通勤に使う道を二人で歩く
彼女は、牧場を突っ切ったり、藪漕ぎしたりしてる
「ごめん。ミーリエル」
『いいのよ?こんなの取材に行く時はいつものことだし』
いつも持っている短剣をバッサバッサ振るっている。そんな彼女を見るとなにか申し訳ない気がしてくる
こちらはこんなにも歩きやすいのに・・・
『それにしても、そっちは本当にたくさん家とか建物が多いわよね。ほら、見て?あそこにある建物。えーとマ…マンショnだったっけ?あれなんて最初見たときは城とか城壁かと思ったわよ』
彼女のカメラの先には、何の変哲もないマンションが建っている
『同僚のハーピーちゃんに頼んで空から見たときなんて、本当に驚いたわ。あんな城みたいな大きくて高い建物がたくさんあるんですもの!しかも、街中同じような家が所狭しと並んでいるし。チェスの板みたいに整然とね』
今でもその時の感動を思い出しているのか、手をいっぱいに広げて興奮気味に身振り手振りを使いながら話している
私には、見慣れた光景だが違う世界の人には本当に興奮するのだろう
「でも、私からしたら何の変哲もない街にしか見えないんだけれどね。なんというかコンクリとアスファルトとどれもこれも同じような家々、マンションやビル群。こんなものを毎日見ていると緑がたくさんあるところに行きたくなるよ。今の家に引っ越して良かったと思っている。君もすぐに見つかるし、自然を見れるし、静かだから落ち着くし・・・」
最近は本当に緑が減った。積極的に緑と人の憩いとかきちんと考えている所であれば近代的な街でも、ほっと一息できる空間があっていいのだけれども、田舎はなあ・・・ベッドタウンになりつつある街を寂しく思う
『自然があるのが普通だけれど・・・確かに、ユージのいる街は木とか緑が少ないわよね・・・』
「ああ、私は宝くじとかロトとかやっているんだけど…あっこれギャンブルね?当たれば大金が手に入るやつ。それに当たったら、仕事やめてもっと田舎行って畑仕事とかやりたいって思っていたんだよなぁ。家とかミーリエルの家みたいの凝ったの作ってさ!のんびりと暮らせたらって・・・本当にそう思う・・・」
ミーリエルのつる草の這った本当に快適そうな家。本当に時が止まったような生活なんだろう。自然に囲まれてて、この世界みたいに時間に追われることもない。そんな生活にあこがれていたんだよ
『ユージ?ワタシはあなたの世界に行きたいわよ?本当に人がいっぱいいて、興味深い物がいっぱいあるんですもの!お店行けばおいしそうなものがいっぱい並んでいるし、馬よりも早い乗り物もいっぱいあるし、街は夜でも明るいし、ユージに説明してもらった人とかニュースとかを見れる箱とか便利な道具とかワタシもああいうものを触れてみたい!』
互いの生活に興味津々な私たち。もし、行き来できるようなことが出来たらどんなに楽しいことだろう
『ユージ。行き来できるようになればいいわよね』
「本当にな。君の知り合い頼みだよ!」

そんな楽しい話をしているうちにいつの間にか、街のにある石の壁に着いてしまった

街に入ると今日も大勢の人で賑わっている
こちら側では、住宅地と商店街などが集まっていて、あちらの街に合わせて行ける範囲はとても少ない
それにしても、人ではない人々は目に付く。話には聞いていたが魔物と呼ばれる人々はどの人も美人ぞろい。なんとも羨ましい限りだ
隣を歩くミーリエルも相当美人だけれど、やっぱり他にも興味がいってしまう
『ユージ?珍しいのはわかるけど他の女ばかり見られるのはちょっとイヤなものよ』
おっと、キョロキョロしていたのがバレてしまった。まったく、箱カメラだったらいちいちこちらを確認する必要があったから、彼女がどこを見ているか把握できていたが、水晶なんて便利な物を持たれてからは、何を見られているかわからないな・・・
「ごめん、ミーリエル。やっぱり人と違う魔物な人は気になるよ」
『みんな、美人だから目が行っていたのでしょう?』
・・・ばれている。ナゼだ?
『目がいやらしいんだもの。やっぱり、男の人のそういう目つきってわかるものよ?』
「・・・気を付けます」
ぐうの音も言えなくなってしまった

彼女の目的地は宿屋だという
向こう側の民家を素通りしながら歩いていくとそれらしき場所に出た
『じゃあちょっと行ってくるわね』
「ミーリエル。私はここに留まれないよ。だから、来る途中に公園があったからそこにいることにするよ」
来る途中にあった公園、あちらも大通りに面していたので場所的に待ち合わせに使える
『大通りのところね?分かったわ』

公園にはちょうどベンチがあった
そこで一休み
こうして、歩き回ってみると壁を素通りするのはやっぱり違和感が拭えない
幽霊もこんな違和感はあるのだろうか?
いまも、このベンチは通りと建物の境目で、もしあっちに行っていたなら壁に私はめり込んでいることになる
昔の3Dゲームも処理がきちんとできてなくて、壁にあたるとめり込んでいたのがよくあったけど・・・そんな感じだ

それにしても暇だ・・・
ミーリエルは知り合いに会えたのだろうか?なかなか来ない
暇つぶしに民家の中でも覗いてやろと、後に座りなおした



「あ゛・・・?!」

はじめに見えたのは裸の男の背中だった
なにか黄緑っぽい物に埋もれている
よく見ると太いチューブのようだ
見慣れない光沢を放っていて、目を凝らすと鱗のような物が見える
鱗のあるチューブが彼をぐるぐる巻きにしていた
このチューブどこかで見たことがある・・・
そう、ミーリエルの尻尾に少し似ている
でも、どちらかといえば蛇のような・・・
へび?
前に下半身が蛇の人を見たことがある。じゃあこの人も?
前に見た映画で大蛇が人を丸呑みにする時にぐるぐる巻きにしていたが確かにそんな感じだ
座っている位置を横にずらすと、彼らの様子がよく見えた
上半身裸の女、下半身は予想通り蛇だった。男もどうやら衣服を着ていないようだ
男は女の豊満な胸にむしゃぶりついていて口いっぱいにそれを味わっている
女はそんな刺激に喘いでいるかのように上を向いて大きく口を開けている
女は腰を男に叩きつけるように絶えず動いていて、腰が沈むたびに尻尾がミシミシと音をたてているのではないかと思うほどがっちりと彼らを締めつけている
二人とも、汗とか何かでびしょびしょになっていて、とても卑猥に見えた

「・・・っ」

気が付けば見ていた私も汗ばんでいた
本当に強烈だった。私の下半身も痛いほど勃起していて、どうするか?と思う
辺りにはトイレもなくて処理に困ってしまった

とりあえず、立って深呼吸
ちょっと歩いてみる・・・動きづらい。・・・おさまれ!静まれ!!

違うベンチに移動しておさまるのを待つ
カメラと携帯の電源を切る
静かな公園は心を落ち着かせてくれる
深呼吸をして気持ちを切り替えることにするが・・・
「・・・すごかったな。魔物と言うだけあって性欲とかすごいんだろうな・・・」
でも、やっぱり頭の中は悶々としていて、どうしても向こう側が気になる
もう一度後を振り返ってみた

「・・・・・・っ?!!」

さっきとは違う部屋
男は手足を縛られて床に寝ている・・・いや転がされているようにも見える
その上に女が跨っている
騎乗位という奴だ
男を蔑むような見下すような目をしていてそれがなんとも寒気?と興奮をかきたてる
女は特徴な姿をしていた
頭に角がありくるっと丸まっている。背中から蝙蝠とかの翼みたいのが生えていて、尻からは尻尾が生えている。その先はハートマークになっているのが可愛らしい。彼女の腰が揺れるたびにおおきなおっぱいがゆっさゆっさと揺れている
まるで、魅せられたように彼らの痴態から目が離せられない・・・

プルルルルッ!
 プルルルルッ!!

「のわっ?!!」

突如鳴り出した携帯電話
『・・・ユージ?あなたは何をしているのカナ?』
・・・それは・・・本当に恐ろしい声色だった
何かに耐え切れず腹の底から搾り出したような声だった
『ユージ?立ち上がって2歩下がってこっち見てくれるかな♪』
「・・・う゛」
・・・恐ろしかった。壁の内側がどうなっているか見えないにしても、彼女もこちらの位置を見ることが出来る以上、私がここで何をしているのかわかっているのだろう。どんな顔をして彼女の前に顔を出せばいいのだろうか
『今なら許して上げられるけど・・・?』
「うそだ!」
マズイ!反射的に言い返してしまった。ひっくり返った声音が凄い動揺をしていると伝えてしまっている
『うそ?ね、ユージ?今あなたは何をしているの?ワタシはあなたがそこで何を見ているのか知らないのよ?あなたはワタシが怒っているとでも思っているの?あなたは怒られるようなことしているの?』
「じゃあなんで、許して上げられるなんて?」
『それはね?』
「それは・・・?」
『それは・・・あなたが好きだからよ。だから、こっち来てユージ。好きな人の顔も見ないで話なんて出来ないでしょ?』
「ミーリエル・・・」
私は観念して二歩下がって回れ後をした

通りを確認すると今見ていた建物の看板が見えた
“娼館”と書かれているのがチラと見えた
背筋が寒くなったような気がする。そこを垂れていく汗を感じる・・・

『・・・』
彼女は、なんだかうつむいている
『・・・せい!!』
彼女の右手が後に回ったかと思ったら、一気に真横に振り抜いた
「?」
なんだ?
右手に何かが握られている
なにが握られているか最初は理解できなかった
「・・・?・・・うわっ!!!」
手には、短剣が握られていた
理解したとたん尻餅をついてしまった
もし、異世界でなかったら、私の首は宙に飛んでいただろう。あれだけ固くなっていた下半身も途端に縮こまった
冷や汗ものだ
ミーリエルの顔は笑っていた
満面の笑顔
『さあ、浮気なあなたはこれで成敗できました。さて、ユージ?あなたに紹介したい人がいます』


ミーリエルの後には小柄な女の子がいた
赤い三角帽子を被り、ローブを羽織った格好はさながら魔女のようだ
『お初にお目に掛かる。ボクの名はアースリー・メルズ。メルと呼んでくれ。これでも魔女をやっている。君に魔女というのはわかるかな?』
「はい。わかります」
『結構。ミーリエルから大体の話は聞いたよ?あの時の雷にうたれて君も同じように見えるようになったのだろう?そして、互いの存在に気が付いた。そして、君のその手に持つ機械がまた雷で互いの言葉を繋ぎ合わせたと?』
「そうです。ミーリエルやメルさんのしゃべっている口の動きは明らかに私のしゃべる動きとは違っています。だから、何らかの補正があるのでしょうが?そもそもなぜ、違う世界なのに繋がったのかそこがわかりません・・・」
何故繋がることができたのか。そこに行き来できるようになるヒントがあると思う
『君はあの時、ボクが雷撃魔法をしていたと聞いているかな?ボクは普段、珍しい話や不思議な話を集めているんだ。なぜかって?魔物になるとすごく寿命が長くなるんだ。ボクは元人間だから特に長く感じてしまうのだよ。そして、魔女は世界の真理みたいなものを解き明かすこともしている。だから、不思議な話、珍しい話そんな話の中に、我々が知らない新たなる真理が紛れ込んでいるんじゃぁないかと思ってね。君達のようなケースはボクが聞いた中で一番希少なものだよ。こちらにも、空間転移の魔法もあるし、どこかの世界から人間を召喚してくるといったケースもある。実際、反魔物国には、神の力を借りて勇者となるものを召喚していると聞く。違う世界に住んでいるものを召喚する・・・それは、まさに神の所業だよ。ボクの師・バフォメット様そして、ボクら魔族の王・魔王様でさえ狙って誰かを召還することは出来ていない。まぁ、魔王様の場合は、この世界にサキュバスの力を行き渡らせて、ボクら魔族の存在を絶対無二、替えることの出来ない不変な物へとしようとしているから、そんな事へ力を使うわけにはいかないのだけれど・・・。人や魔物、この世のあらゆる物を作った神だからこそ、異世界とのコンタクトも出来るのだろうさ。神がどういう基準で人を召喚しているかもわからないけどね』
「・・・単に魔法とか不思議な力があるというのでは出来ないということですね。では、私たちが行き来することは出来ないと?」
『まあまあ、結論を急かないでほしい。神の陣営は勇者召喚ということを実際にやっているのだから、何らかの方法は存在するのだろうさ。君達が繋がった時のことをよく考えてみよう。ボクの魔力によるエネルギー、君の世界で起こった雷というエネルギー・・・。君の世界では魔法はあるのかね?』
「魔法という概念はあります。自然の中にはそれが存在し、人知の超えた力があると、文明が発達する前から考えられてきました。でも、実際にはそんな力は引き出せずに、錬金術と称して科学が発展しました」
そう、科学が凄まじい勢いで発展しているけど、それ以外の力の存在は眉唾物として扱われている
『科学がなあ。ボクのいるこの世界では、魔法が台頭しているから科学なんて物自体あまり研究されていないのだよ。でもまあ、まっく無いかといえばそうでもないし・・・。現に、ミーリエルの持っているカメラは、とあるサバトとある技術集団が作り出したと聞いているし・・・。まあ、話を元に戻すと、君らが繋がったのは何らかの意思と偶然、力と力が加わり二つの世界が繋がったということなんだろうさ』
「質問があります。神は召喚できると仰いましたが、送り返すことも出来るのですか?」
『・・・うーむ。難しい質問だな。我々魔族と神は互いに争っているからな。神の力を持ってすれば可能なのだろうが・・・。しかし実際、送り返したという話は出てきてはおらん。送り返された者が元いた世界に無事に帰れたという話も聞かぬし…というか聞き様がないしな』
確かに、送った後のことなど知ったことかということなんだろう。神側からすれば目障りな魔物という存在を何とかしてくれさえすればいいのだから、その勇者が戻りたいと言ったからと言って元いたところへと返してくれるという保障はない。むしろ、その勇者に与えられた任務をクリアしたら別の任務へと転戦させる方が神側にとってはいいはずだ。・・・ということは、神なんて者は召喚しても送り返したなんてことはないのかもしれない
『とにかく、今のところはまだよくわからない。でも、召喚なり世界に紛れ込んでしまったという話もあるから、君がこちらに来ることはたぶん可能だ』
「・・・」
心底がっかりという顔をしていたのだろう魔女さんがフォローするように言ってくれた
『がっかりするな。糸口は見えたんだボクもバフォメット様やサバト、いろいろな所に話を聞いてみるよ。しばらくはこの街に滞在して、君達の事を解明していくよ!』
「ありがとうございます・・・」

結局、行き来するどころか、私が行くことさえままならないことが判明してしまった
落ち込む私にミーリエルは言った
『ユージ!メルだってああ言ってくれたんだもの。希望はあるわ!こうやって、姿も見えるし話だって出来る。焦らずに行きましょう?』
「ああ。まだ希望はあるよな・・・」
力なくそう言った私だが、励ましてくれたミーリエルも見た目は元気だが、尻尾が力なく垂れている

「さて、ミーリエル。さっきの続きだ!君の街を案内してくれ!」
気分転換するように明るく言った
『うん!いいわよ?こっちに来れないのを悔しがるようにしてあげるんだから!!』
そういうと、彼女は明るく話しながらいろいろな所を案内してくれた

そうして、日は過ぎていった

それ以来、私たちの間では、会いたいとか触れ合いたいとかそういう話は、禁句のようになってしまっていた
会う方法がない以上、寂しさを増やすだけ・・・
見た目仲良く、睦まじそうに見えても、二人どこかで寂しさが募っている

それを互いにひた隠しにしながらいつもの日常へと、私たちは戻っていった・・・

ある日のこと、いつのように仕事を終え彼女に連絡する

「ミーリエル?仕事終わったから今から帰る」
『今どこなの?』
「車、運転中なんだよ」
『そうなんだ。気をつけて帰ってね』
「了解」

最近は仕事が終わるとこうして携帯を繋げっぱなしでいる
会えないという状況は近くに見えても、心を不安にさせる・・・
だから、少しでも身近に感じていたい
でも、運転中は危ないから、ヘッドセットを使っている
画面を直接見ていることは出来ないけれどちょっとした話し相手になってくれるから、すこし安心感もでる

今日もそうして帰路に付いた
唐突に歌が聞こえた。鼻歌なのかすこし楽しげだった
耳慣れないフレーズ
それが心地よくて携帯を繋げっぱなしで運転をしていたが
いつしか彼女の鼻歌は消えていた

信号が赤の時に確認してみると、携帯の画面には机に向って何かやっている彼女
てっきり記事でも書いているものと思っていたが、フォトスタンドを指でなぞっている
そして、ポツリと言った

「ユージ・・・ワタシだって・・・会いたいよ・・・

ミーリエルの・・・本当に・・・本当にちいさな呟き・・・

それは、楔のように私の心に食い込んだ・・・
11/01/23 18:47更新 / 茶の頃
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