連載小説
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9.決断!そして・・・
パンドラの箱・・・
それは、見てはいけない、開けてはならない、禍をもたらすため触れてはいけない。そんな箱だという
このカメラは、まさにパンドラの箱だった
その伝説にはありとあらゆる災いが降りかかるとある
私が箱の中から出してしまったのは絶望、悲しみ、飢え、苦悩であった

伝説にある最後に箱の中に残ったもの・・・それは希望だったという
私たちに残された最後の希望・・・

それは・・・


「私がそちらに行く方法は今本当にないのでしょうか?」
『君がこっちに・・・残念だが・・・まだ確実に来れるというものではないのだ』
画面の向こうで黒水晶に向って話す魔女さんはとても申し訳けなさそうな顔をしている
「いくら会話し、言葉を合わせたとしても触れ合うことが出来ないのです・・・」
どんなに求めても、このカメラなしでは好きな人を見ることも叶わない・・・
『・・・』
「好きになった人を抱きしめることも、キスすることもできない。心にはどんどん寂しさが募るのです」
あの日ミーリエルの呟きを聞いて以来、心の中に閉じ込めた焦りと寂しさが心を苛む
寝る時はカメラも携帯も電源を落としているから、ミーリエルと離れ離れになってしまったかのような孤独感というか寂しさが心を蝕む。悪い方悪い方へと心が沈んでいくのだ

『来れたとして、そちらのことはどうする?君にだって生活をするために仕事も人付き合いも、いろいろな者に縁があるはずだ。おそらく君がこちらに来たら二度とその世界には帰れないぞ?』
と言うと、“君が飛ぶ術を見つけ出してからでも遅くはないと思うのだが・・・”と付け加えたメル
そう、奇跡か悪魔のいたずらか私たちは互いに興味を持ち、情を深めてしまった。私が向こう側に行ったら二度と帰れないだろう
家族に友人、いろいろとお世話になった人々・・・彼らのことを思うと、本当に心が痛む
でも…もう私の心は彼女一心だ。すべてを捨ててもこんな電話越しではなく、生の声を聞きそして私の言葉を聴いてもらいたい
ただいま、おかえり、ありがとう、好きだ、愛してる・・・何気ない言葉、それすらも電話越し
カメラなんてなくても、その世界を見たい、聞きたい、感じたい
日の光を感じ、風を、大地を
そして、大事な人を感じたい
手を合わせたい、抱きしめたい、キスしたい・・・
温もりを感じたい、君の匂いを感じたい、その全身を感じたい・・・
「覚悟の上です。その想いはもう飢餓感に近いほどの渇望です。この世界のすべてと引き換えにしても、私は後悔などない!」
魔女さんの目を見据えてきっぱり言い切った
『・・・わかった。それほどの覚悟があれば想いも通じるだろう。前に言ったように、君がこちらに来ることはおそらく出来る』
「本当ですか?」
『ああ。あの雷の時、君達はほぼ同時に雷に撃たれた。そして、同じようなモノを持っていた。カメラや通信水晶・携帯だ。カメラは互いの世界を見せ合った。水晶と携帯は繋がりあって互いを繋げた。なぜそんなことになったかといえば、やはり原因は雷だ。前にボクは不思議な話を集めているといっただろう?今まで知らない知識・事件を望む意思を常に持っていたボクは魔法を行った。なぜそんな思いだけで繋がったのかわからないがとにかく想いが…そして、偶然雷撃と雷という力が重なった。意思と偶然、力と力。あの一瞬にそれが一致してしまった。だから、最初の雷に撃たれた者同士、引き合うことも出来るだろう』
「やはり」
『だが!危険だぞ?君はもう一回雷に撃たれる必要があるんだ。前の時は数週間火傷で動けなかったと言っていたな?今度は火傷などではすまなくなるやもしれないぞ?』
そう、火傷で動けなかったことを思い出す。あの時何がなんだかわからなかった。でも、重要なことはそんなことじゃない。こちら側から向こうへと自然の摂理を捻じ曲げるようなことをするのだ雷を受けることぐらいなんだっていうのだ!確かに死ぬかもしれない。でも、私は彼女の声を温もりを欲している!少しでも、少しでもそれを感じることさえ出来れば本望だ!
「それでも…それでも!私は彼女に会いたい!このまま何もせずにはいられないんです!!」
『・・・わかった。君の願いこの魔女、アースリー・メルズ。確かに受け取った。出来うることは全部してみよう!・・・最後にもう一つだけ聞きたい。君はなぜそこまでしてこちらに来ることを望む?』
「・・・」
『ミーリエルに会いたいと思うのは至極当然なことだろう。けれど、すべてを捨ててまでそうしたいと思うには、生半可な覚悟ではできないだろう?元から好かれあったもの同士ならば分かる。けれど、君はミーリエルを好きになる前からこちらのことについて熱心に尋ね教えを請いていたと聞いたよ?いったい何故そこまで思いつめたのかそれを尋ねたい』
「・・・」
私が異世界に興味を持った本当の理由・・・それは・・・
「あれは前の雷のときです・・・。訳もわからず雷をうけて意識がなくなりかけたとき、何か分からないけれどもうダメだな・・・と思ったんです。自分の状態がどうなったのかも分からなかったけれど、とにかくダメだなこりゃ・・・って思ったんです。病院のベッドの上で意識を取り戻し、真っ白な世界が目に入ったとき正直に言えばそこはあの世なのでは?と思いました。看護師さんや医者の話を聞いてやっと命が助かったのだと・・・。それから、いろいろ考えました。入院中はとにかく考える時間があったんです。私はこう考えました。せっかく助かった命なんだし今までとは違うことのために使おうと・・・。今まで見向きもしなかった外国の言葉を学ぶのもよし、どこかでボランティア活動をしてみるのもよし、とにかく寿命が来るまでの間は拾った命…何でもしてやろうじゃないか!と。だから、そちらの世界が見えてミーリエルと会ったときに、ワクワクしましたよ。こちらでは御伽噺であるファンタジー世界。うまくすればそんな住民と話すことが出来る。他の誰もがやったことがないことを体験できると。絵や身振り手振りでの意思の疎通に限界を感じたのは早かったです。それでもう、死に物狂いと言えば大袈裟ですが・・・とにかく必死に勉強しました。その甲斐あって拙いながらも会話できたとき本当にうれしかった・・・。そして、彼女が私に想いを寄せていると分かったときは戸惑いました。そちらに行く方法なんてないのに・・・必ず悲恋になってしまうと・・・。ミーリエルが何とかしてくれる人がいるといったときに目の前が明るくなりました」
『だから、あの時酷くがっかりしていたのか・・・』
「はい。そしてまあ、さっきも言いましたが、拾った命です。死ぬかもしれない!でもだからこそ何でも出来るとはいいませんが、やってみたいと!」
話を聞いていたメルは“ふう”と軽く息をつくと言った
『拾った命か・・・。そんなふうに考えていたのか・・・。でも、ミーリエルはどうするんだ?君が死んでしまったら彼女はどうなる?』
「っ・・・。死にません」
『死なないと言い切れるのか?』
「その世界の高名なバフォメットという人を師に持つすごい魔女さんなんでしょ?なら、サポートは大丈夫なはずです」
『まったく身も蓋もない話だな。ぜんぜんボクの事を知らない君が、このボクを信じるというのだから・・・』
「信じますよ?」
『なぜ?』
「何故なら、あなたと魔法、偶然と奇跡のおかげで私はミーリエルと知り合え愛し合うことができるようになったのです。そして、今ここであなたと話しているという事実。信じるに値しませんか?無茶苦茶かもしれないけれど…」
メルは厳しい顔をしていたのに少し和らいだ顔をした
『まったくもって、君は言っていることは滅茶苦茶だなぁ。・・・ふぅ・・・そこまで言われたんだ君達を見届けようじゃないか!』
力強くそう答えてくれたメル
「でも、万が一・・・万が一のときは・・・」
そこから先は言葉が出なかった・・・
強く想いを込めてメルを見る
『・・・』
悲しそうなむなしそうな嫌そうな複雑な顔をするメル・・・
『わかった。君の覚悟しっかりと聞かせてもらったよ。後のことはまかせな』
「嫌なことを頼んですみません・・・」
『ほらほら!君は恋人に会いに行くのだろう?だったらそんな死にに行くような顔はやめな!これが成功するか失敗するかは“想い”の深さだ!何が何でも成功させる!君はそれだけを思っていればいいんだ!!』
「そうですよね!ミーリエルに会う!成功させる!成功させるぞ!!」
『その意気だ!』


絶対成功させる!!そのために私も今出来ることをしたい・・・
私は考えた。考えろ!どうしたら世界を繋げることが出来る?
想いと、偶然に繋がった品々、エネルギーとエネルギー・・・
最初の雷は雷雲すらなかった晴天で雷が落ちたんだ。雷が発生しやすいこの時期であれば、メルの雷撃のエネルギーと雷のエネルギーで何とかなるのでは?
偶然で繋がった品々・・・これを両方のエネルギーに咬ませて取り持たせる・・・仲立ちの役割をさせる・・・そうすれば・・・おそらく・・・
私はそんな理論をメルに提案してみた
「・・・私たちが持っているカメラや携帯を媒介に、雷が落ちそうな日に試してみるということは出来ませんか?現に携帯は夕立の時の雷で互いが通じるようになりました」
あの夕立の落雷で何かのエネルギーでもあったのか携帯と水晶は通じた。しかし、ミーリエルによると当初、水晶には雷撃は受けていないと思っていたらしい。なら彼女も雷撃を受けていたかもしれない
『媒介・・・か。確かに媒介になるものがあれば可能かもしれない。でも、失敗した場合はすべてを失うかも知れないのだぞ?』
「っ・・・。このまま、生殺しののように惹かれあっても互いに不幸なのではありませんか?私は好きになった人には幸せになってもらいたい。そう思えばこそ、危険は承知・・・すべてを賭けてでもやりたいのです!!」
『わかった。だが、うまく雷が来るか?君のところで雷が来なければ、いくら媒介を使ってもことを成すことは出来ないぞ?』
「大丈夫です。今の季節ならいつも夕立が来ます!その時に出来ると思います」

私とメルの話を聞いたミーリエルは猛反対した
『ユージ何を考えているの!前の雷で死に掛けたって言っていたじゃない!また同じように雷なんて受けたら今度こそ死んでしまうわよ!』
「でも、私がそちらに行ける可能性があるならば、どうしてもやりたいんだ!」
『あなたが死んでしまったらワタシはどうなるの?お願い危険なことはやめて!メルが召喚とかの方法を考え出してくれるまで待つというのもあるのよ?』
「ミーリエル。好きだ・・・愛している!私は本気で君の事を愛してしまったんだ。こんなカメラと携帯越しではなく、君に触れ感じたい。例えこの世の摂理を捻じ曲げてでも!」
『でっ・・・でも!』
出来ることならばワタシだってそうしたい!
でも危険すぎる・・・そんな表情をありありと浮かべている彼女


「・・・聞こえてしまったんだよ。車を運転していたときに」
『何を?』
「ちいさな・・・ちいさな呟きを・・・」
『・・・っ!』
「あの時、君は・・・」
『やめて!』
「“会いたいよ”って」
その言葉は、私の心に楔のように今も重く食い込み続けている
『確かに言ったわよ!でも、そんなことしたら本当に死んじゃう!媒介?そんなことしたらカメラも水晶も砕けて二度とあなたやその世界とを繋げることなんて出来なくなるのよ!?そんなの・・・そんなのイヤよ!』
「私は今の自分達が幸せだとは思わない!なあ、ミーリエル?愛している。命の危険はわかってる。でもどうしても君の傍に行きたいんだよ!わかってくれ・・・!」

『・・・・・・っ』
「・・・」
『っ・・・絶対っ・・・絶対っ!死なないって言って。生きてワタシの前に来てくれるって約束・・・約束して!!』
「約束だ。約束する!私は生きて君の待つ世界に行ってみせる!!」
無理に納得させたけれど、やはり反対なのだろう。彼女の不安を押し殺したような顔が私に心に“本当にそれでいいの?”と訴えてくる・・・


その日から夕立と、雷が起こりそうな天気になる日を探す
でも、なかなかそんな日はやってこない。夕立が起こりそうでも雷鳴だけで終わってしまう

巨大な積乱雲が発生している日を狙ってメルとミーリエルに電話をかける
今日も残暑がひどく車のボンネットの上で卵が焼けるのではないかというぐらい暑い
最近は地表の温度がずっと下がらず、連日連夜、熱帯夜が続いている
こんな日々に夕立などが起こりやすい

その日、ひときわ大きい積乱雲が出た。午後になると目論見どおり黒く暗くなっていく空

ゴロッ!
 ゴロゴローン!!

暗い雲の中を雷鳴と稲光が通り抜けていく

ピカッ!!

時おり、稲光と稲妻が雲の中を舐めるように走っていく

「・・・っ!?(あれにまたうたれるのか・・・!?)

恐怖で体が竦む
ブルブルと小刻みに体が震えているのがわかる
体の底から湧き上がってくる恐怖に吐きそうだ
そんな私が見えているのか携帯が鳴った

『無理しないで!今ならまだ引き返せる!だから・・・!』

コンデジを片手に持ち、もう片方に繋がった状態の携帯を持つ
覚悟を決め、キッと雷雲を見据えてメルに頼む

「っ!・・・メルっ!頼む!!」

カメラに映る魔女のメルことアースリー・メルズはうなずくと、真剣な表情で私がいる辺りの空間を見た
そして、覚悟を決めたかのように見据えると、聞きなれない旋律を唱え始めた

メルの体には見えない力が集まっているようで、周りの空間が陽炎のように揺れ始めた

こちらもそれに連動するかのように、激しい稲光や稲妻が空中に乱れ飛ぶ

周りに聞こえる音はすべて、雷の轟きと暴風の音だけ



『―――――っ!!――――――――――!!!』















      !!















光が弾けた
そう思った








ガリバリバリバリッ!!!

  ドドッカーーーーーーン!!!








光の後に音が聞こえた・・・









「ミーーーリエルーーーーーー!!!」






最愛の人を強く想う。そして…
雷に負けないようにありったけの声で彼女の名を呼んだ

視界は真っ白になり・・・暗転

聞こえていた音は少しずつ聞こえなくなり、静寂が支配した・・・











・・・・・・










“・・・”

“・・・!”

“・・・!!!”

“・・・っ!・・・bっ!!”

遠くで音が聞こえた
それは、小さく短い音だった
近いようで遠い
遠いようで近かった

私はどうなったのだろうか・・・

視界が真っ白だ

また、あの時のように病室の一角なのだろうか・・・

『y・・・i・・・!』

『ユ・・・ジ・・・い!』

『ユージ!・・・おね・・・い!!』

誰かが呼んでる・・・のか?

『ユージ!!お願い目を覚まして!!』

ああ、この声・・・いつも聞きたいと思っていた・・・

『ねぇメル!ユージこのまま死んじゃうの?だって・・・だって言ったんだよ?死なないって!生きてこっちに来てみせるって!!』

泣いているのか?
その声は震えていてか細い

『今、回復魔法をかけている!絶対に死なせるものか!!』

体のどこかで力が抜け出るような感覚が消えない・・・
でも、体が芯から温まるようなそんな力も感じる・・・

『ねぇ、ユージ。ワタシ、ミーリエル!わかるでしょう?好きって言ってくれたじゃない!生きて来てくれるって言ったじゃない!ユージ!!』


ゆっくりと目を開ける
体は少し起こされているらしい
背に太ももなのか温かい感触がある
首は、腕を回されているようで顔のすぐ近くにあの特徴的な手が見えた


自分の片方の肩からは生暖かいものが流れ落ちていくような感触がある・・・
まるで、献血をしたときにチューブを伝う血液のあの生温かさをした感じ・・・

「ユージ!」
心底、安心したような声が聞こえた

「・・・ミーリ・・・エル・・・っ・・・」

視線を上に向けると目を真っ赤にしたミーリエルが覗き込んでいた
私は、力の抜ける腕を振り絞って手を彼女の頬に触れた

柔らかい・・・
温かい・・・

いつも、いつも、こうして撫でていた
でも、感じるのはディスプレイの無機質な固さのみ・・・
冷たく凹凸も感じられない画面

ああ、やっとここまで来れた・・・
なんだかミーリエルの顔がよく見えない
だんだんと虚ろになっていく
自分の頬に冷たいのもが流れ落ちる感触・・・

泣いているのか?私は・・・

笑いたいけれど、どんな顔をしているのだろうか・・・

彼女の頬は私の血なのか?赤くなってしまっていた
名残惜しいが、これ以上彼女の顔を血で汚したくなかった
ゆっくり手を放すと、彼女の温かで柔らかい手が握ってくれた

「ミーリエル・・・やっと・・・・・・優治です」

ミーリエルも涙をぽたぽた流しながら、嬉し涙を流しながら言った

「ユージ。ミーリエルよ?よろしくね!」

ああ、やっと会えたんだ
そう思った途端に視界がぼやけて白くなる
堪えようと思っても勝手に力が抜けていく・・・

「・・・っく・・・ぅっ・・・ミーリエr・・・私の・・・はぁっ・・・愛しい恋人・・・s・」

最後まで言い切れてないのに力が抜けた
意識も遠くなる





ガクッ






「ユージ?ユージ??お願い返事して!!!」
「ミーリエル!大丈夫だ。死なせるものか!ボクがなんとしても助ける!」
「メル!!お願い!絶対絶対助けて!ユージ!ユーーージ!・・・」

そんな声が頭の中に流れてくる
でも、途切れ途切れになって・・・途絶えた・・・
11/01/23 18:21更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ
数十万Aとか十億Vとか食らったら普通死ぬよなぁ…
まして、異世界まで吹っ飛ばすためのエネルギーなんて…

ここ何日か用事で家空けてたからやっとUpできる
それにしても、ようやく図鑑が来た!イヤッホォォォゥ!
リザ娘さんの裸エプロン実にイイね!

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